目次
  1. 1. はじめに:映像・CM制作業界とM&Aの意義
  2. 2. 映像・CM制作業界の市場背景
    1. 映像コンテンツの需要拡大
    2. 制作現場の課題
    3. コロナ禍による影響
  3. 3. M&Aが盛んになる理由
  4. 4. 主要なM&Aの目的と効果
  5. 5. 近年の主なM&A事例一覧
    1. 5.1 東宝<9602>、映像制作会社のドラゴンフライエンタテインメントを子会社化
    2. 5.2 朝日放送グループホールディングス<9405>、ゲーム・アプリ開発のトイジアムを子会社化
    3. 5.3 朝日放送グループホールディングス<9405>、CG映像制作会社のCGCGスタジオを子会社化
    4. 5.4 葵プロモーション<9607>、学研ホールディングス<9470>から「週刊パーゴルフ」などゴルフ出版事業を取得
    5. 5.5 葵プロモーション<9607>、テレビCM制作会社のシースリーフィルムを子会社化
    6. 5.6 リーダー電子<6867>、放送・映像向け測定器メーカーの英Phabrixを子会社化
    7. 5.7 ラクスル<4384>、映像制作事業を手がけるAntooを子会社化
    8. 5.8 フュートレック<2468>、プロモーション事業をホワイトホールラボに譲渡
    9. 5.9 フュートレック<2468>、TV向け映像制作のメディアジャパンを子会社化
    10. 5.10 フォーサイド<2330>、子会社の映像制作事業をKeyHolder<4712>傘下のallfuzに譲渡
    11. 5.11 ヒビノ<2469>、映像制作サービスのCHホールディングスを子会社化
    12. 5.12 ヒビノ<2469>、映像音声機器レンタルのベスコを子会社化
    13. 5.13 ヒビノ<2469>、映像ソリューション事業のエヌジーシーを子会社化
    14. 5.14 ハーツユナイテッドグループ<3676>、プレミアムエージェンシーの3Dソリューション事業を譲渡
    15. 5.15 ハーツユナイテッドグループ<3676>、CG映像制作のプレミアムエージェンシーを子会社化
    16. 5.16 テレビ朝日<9409>、人材派遣会社のフレックスを子会社化
    17. 5.17 テー・オー・ダブリュー<4767>、テレビCMなど映像制作のモットを子会社化
    18. 5.18 ソーシャルワイヤー<3929>、シェアオフィス事業のシンガポール子会社をZero‐Ten Parkに譲渡
    19. 5.19 ゲートウェイ<7708>、サイト制作会社のThanks Lab. を子会社化
    20. 5.20 オウケイウェイヴ<3808>、音楽・映像制作や著作権管理のアップライツを子会社化
    21. 5.21 エイベックス<7860>、デジタルコンテンツ企画制作などの子会社THINKRを譲渡
    22. 5.22 ウィルグループ<6089>、映像制作のサムシングファンを子会社化
    23. 5.23 アミューズ<4301>、テレビ番組企画・制作の極東電視台を子会社化
    24. 5.24 KeyHolder<4712>、テレビ番組制作のフーリンラージを子会社化
    25. 5.25 KeyHolder<4712>、SEIRYUから映像制作経理事業を取得
    26. 5.26 KeyHolder<4712>、BIGFACEのテレビ制作事業を取得
    27. 5.27 Key Holder<4712>、TV業界への人材派遣を手がけるワイゼンラージを子会社化
    28. 5.28 Jストリーム<4308>、映像・音楽データ制作会社のエクスペリエンスを譲渡
    29. 5.29 Jストリーム<4308>、マーケティングプロモーション事業のクロスコを子会社化
    30. 5.30 IMAGICA GROUP<6879>、字幕・吹き替えの米国子会社SDIをスウェーデンIyunoに譲渡
    31. 5.31 IMAGICA GROUP、希望退職に105人募集
    32. 5.32 IGポート<3791>、子会社ジーベックの映像制作事業をサンライズに譲渡
    33. 5.33 AOI TYO Holdings<3975>、米カーライル・グループと組んでMBOで株式を非公開化
    34. 5.34 AOI TYO Holdings<3975>、マレーシアの映像制作会社リザーブ・タンクを買収
    35. 5.35 AOI Pro.<9607>とティー・ワイ・オー<4358>、2017年1月に経営統合
  6. 6. 事例から見るM&Aのパターン別分析
    1. 6.1 事業拡大・成長戦略
    2. 6.2 事業再編・選択と集中
    3. 6.3 技術力や制作力の補完
    4. 6.4 海外展開やグローバル化への対応
    5. 6.5 周辺事業・関連領域への横展開
  7. 7. M&A成功のポイントとリスク
    1. 7.1 ポストM&A統合(PMI)の重要性
    2. 7.2 企業文化の違いへの対応
    3. 7.3 経営体制の早期構築とシナジー発現
    4. 7.4 技術的側面・クリエイティブ側面での融合
    5. 7.5 人材面でのリテンション
  8. 8. 今後の映像・CM制作業界におけるM&Aの展望
  9. 9. まとめ

1. はじめに:映像・CM制作業界とM&Aの意義

映像・CM制作業界では、近年インターネットやSNSの普及、動画配信サービスの台頭などを背景に、映像コンテンツの需要が急拡大しています。一方、視聴方法や広告媒体の多様化、ユーザーのニーズの変化などにより、従来型のビジネスモデルだけでは成長が見込みにくくなっているとも言われます。こうした環境下で、自社の強みをさらに伸ばすため、あるいは不足している領域を補完するためにM&Aを実施する企業が増えています。

映像・CM制作会社がM&Aを検討する際には、一般的な「事業拡大」「シェア獲得」といった目的だけでなく、「コンテンツ力やクリエイティブ資産の強化」「海外市場へのアクセス拡大」「デジタル技術との融合」など、他業種の買収・統合とはやや異なる要素が強調されることが多いです。本記事では、そうしたM&Aの具体的な意味や狙いを、事例とともに解説してまいります。


2. 映像・CM制作業界の市場背景

映像コンテンツの需要拡大

スマートフォンやタブレットの普及、SNSや動画配信プラットフォーム(Netflix、Amazon Prime Video、YouTubeなど)の成長は、個人が映像を消費する時間を大きく増やしました。テレビCMもインターネット動画広告も、映像が持つインパクトや情報量は非常に高いため、マーケティング施策としての重要性は今後も続くと考えられています。

制作現場の課題

映像制作会社は、優秀なクリエイターや制作スタッフの確保が課題となることが少なくありません。また、撮影技術の高度化や3DCG、VFXの進化によって、多額の設備投資やソフトウェア導入が求められる場面も増えています。これらの環境変化に対応するための資金や専門人材を確保する手段として、他企業との提携やM&Aが選択されるケースが増加しています。

コロナ禍による影響

コロナ禍の影響で、撮影やライブイベントの中止・延期、広告費の一時的な削減など、映像・CM制作業界も一時的に厳しい局面を迎えました。しかしオンライン化の加速に伴い、デジタルコンテンツや動画広告の需要がさらに伸びる機会にもなっています。コロナ禍以降、新たな映像ビジネスやスタジオ需要が急速に拡大している点も、M&Aを後押しする要因と言えます。


3. M&Aが盛んになる理由

  1. 企業規模の拡大と競争力強化
    新技術の導入には大きな投資が必要となるため、資本力を持った企業と組むメリットが大きいです。
  2. 専門人材の確保
    特殊撮影や3DCGなど、特化したスキルを有する人材は限られています。M&Aを通じて即戦力を取り込むことは有効な手段です。
  3. 事業ポートフォリオの再構築
    広告費の使われ方が多様化する中で、CM制作会社がWeb動画、アニメ制作、ゲーム開発などを一括して取り扱える体制を整えるのは、クライアントへの総合提案力を高める上でも魅力的です。
  4. 海外展開の加速
    国内市場が成熟する一方で、海外では配信プラットフォームの成長や日本発コンテンツの人気により大きなビジネスチャンスが存在します。そのため、海外拠点を持つ企業の買収や提携が進んでいます。

4. 主要なM&Aの目的と効果

映像・CM制作業界でのM&Aは、多くの場合、以下のような目的・効果が期待されます。

  1. 制作リソース・技術力の補完
    例えばCM制作に強みを持つ会社が、映画・アニメ・3DCGなど別ジャンルの映像制作会社を子会社化することで、幅広いニーズに対応する総合力を得られます。
  2. コンテンツ企画・権利ビジネスの強化
    コンテンツIP(知的財産)を持つ会社を取り込み、制作・配信・マーチャンダイジングまで一貫したビジネスモデルを構築するケースがあります。映像制作だけでなく出版・グッズ展開などを手がける企業が買収対象となることもあります。
  3. 海外進出・ネットワークの拡張
    海外スタジオや海外で実績のある制作会社を買収することで、日本国内だけでなくグローバルへも迅速に進出しやすくなります。
  4. 経営資源の選択と集中
    事業再編の一環として、不採算部門や非中核事業を譲渡する企業も目立ちます。逆に買い手側からすると、必要な事業領域を切り出しで取得できるメリットがあります。

5. 近年の主なM&A事例一覧

ここからは、具体的な事例を通じて、映像・CM制作業界におけるM&Aの現状を見ていきます。事例は多岐にわたりますが、以下の見出しを設け、年代や企業規模、目的などに注目しながら整理してご紹介いたします。


5.1 東宝<9602>、映像制作会社のドラゴンフライエンタテインメントを子会社化

  • 発表日:2024年5月28日
  • 概要:東宝は傘下のTOHOスタジオを通じ、ドラゴンフライエンタテインメント(映画・テレビの映像制作会社)の全株式を取得。
  • 狙い:グループの映像制作機能の強化。
  • ポイント:「屍人荘の殺人」「碁盤斬り」などで実績のある映画制作会社を取り込むことで、東宝スタジオを中心とした映像制作力のさらなる充実を図った。

5.2 朝日放送グループホールディングス<9405>、ゲーム・アプリ開発のトイジアムを子会社化

  • 発表日:2024年8月9日
  • 概要:朝日放送グループHDは傘下のABCアニメーションを通じ、トイジアムの全株式を取得。
  • 狙い:アニメ事業の強化とグローバル展開の加速。
  • ポイント:ゲーム開発会社を取り込むことで、キャラクターやアニメと関連したゲーム・アプリ領域へ踏み込み、IP展開の幅を広げる戦略とみられる。

5.3 朝日放送グループホールディングス<9405>、CG映像制作会社のCGCGスタジオを子会社化

  • 発表日:2023年10月26日
  • 概要:朝日放送グループHDは傘下企業を通じ、CGCGスタジオの全株式を取得。CG制作やモーションキャプチャー事業を強化。
  • 狙い:アニメ事業の制作機能を一段と拡充。
  • ポイント:CG技術の需要が高まる中、自社グループ内の制作ラインナップに高品質なCG映像を加えることで、アニメ以外の分野への応用も期待。

5.4 葵プロモーション<9607>、学研ホールディングス<9470>から「週刊パーゴルフ」などゴルフ出版事業を取得

  • 発表日:2011年1月28日
  • 概要:学研パブリッシングが手がけるゴルフ出版事業を葵プロモーションが取得し、パーゴルフ・プラスの株式81%を取得。
  • 狙い:映像制作のノウハウを生かしてデジタルコンテンツ市場へ参入し、ゴルフという巨大市場のコンテンツを獲得。
  • ポイント:CM制作会社が出版事業を取り込むケースは珍しいが、自社の映像制作や広告ノウハウとのシナジーを見込んでいる。

5.5 葵プロモーション<9607>、テレビCM制作会社のシースリーフィルムを子会社化

  • 発表日:2008年9月2日
  • 概要:シースリーフィルムの株式97.4%を取得し子会社化。
  • 狙い:テレビCM中心の広告企画制作体制を強化。
  • ポイント:広告媒体の多様化に対応するため、CM制作力の強化が急務となり、シースリーフィルムが培ってきた制作ノウハウやクライアント網を取り込んだ。

5.6 リーダー電子<6867>、放送・映像向け測定器メーカーの英Phabrixを子会社化

  • 発表日:2019年7月5日
  • 概要:リーダー電子は欧州子会社を通じ、英国Phabrix Limitedの全株式を取得。
  • 狙い:4K・8K放送やIP化に対応した測定器需要の取り込み。
  • ポイント:映像制作分野では、機器やソリューションの高度化が進む。日本国内外での映像放送設備投資のニーズに対応するため、欧州企業の高い技術を取り込んだ好例。

5.7 ラクスル<4384>、映像制作事業を手がけるAntooを子会社化

  • 発表日:2024年6月3日
  • 概要:ラクスル傘下のノバセルが映像制作会社Antooを買収。短納期動画制作に強みを持つ。
  • 狙い:マーケティングソリューションサービス拡充。
  • ポイント:ネット印刷や広告販売のプラットフォームで知られるラクスルが、動画制作会社の取り込みでCM・広告ビジネスを総合的に強化。

5.8 フュートレック<2468>、プロモーション事業をホワイトホールラボに譲渡

  • 発表日:2019年5月17日
  • 概要:フュートレックはプロモーション事業(企業PR施設の企画提案や多言語ガイドシステムなど)を譲渡。
  • 狙い:ソフト開発・ライセンス事業、映像制作・メディア事業に経営資源を集中。
  • ポイント:非中核部門を手放し、本業の映像制作やソフトウェア開発にフォーカスする「選択と集中」の好例。

5.9 フュートレック<2468>、TV向け映像制作のメディアジャパンを子会社化

  • 発表日:2017年6月19日
  • 概要:フュートレックはTV向け映像制作のメディアジャパンの全株式を取得。
  • 狙い:映像事業の強化・拡大とグループ内の相乗効果創出。
  • ポイント:インバウンド事業や翻訳事業とも連携可能で、フュートレックのIT技術とのシナジーも期待。

5.10 フォーサイド<2330>、子会社の映像制作事業をKeyHolder<4712>傘下のallfuzに譲渡

  • 発表日:2021年1月29日
  • 概要:フォーサイドメディアが手がける映像制作事業(アーティストのミュージックビデオやライブDVDなど)を譲渡。
  • 狙い:コロナ禍による制作案件の延期や中止が続き、事業再編を実施。
  • ポイント:外部環境の変化により厳しくなった事業を再編し、経営資源を他領域へシフトする例。

5.11 ヒビノ<2469>、映像制作サービスのCHホールディングスを子会社化

  • 発表日:2024年5月13日
  • 概要:CHホールディングスの株式70%を取得。テレビCMやWeb動画、ドラマ、映画など幅広く手がけるグループ。
  • 狙い:映像制作サービス事業への本格参入。新たな映像演出やコンテンツ創造に向けた共同研究を推進。
  • ポイント:音響・映像機器のリースやイベント事業に強いヒビノが、直接映像制作にも乗り出し、総合的なサービスを提供する体制を整える。

5.12 ヒビノ<2469>、映像音声機器レンタルのベスコを子会社化

  • 発表日:2012年12月25日
  • 概要:ヒビノメディアテクニカルを通じてベスコを完全子会社化。
  • 狙い:映像撮影用カメラや音響機器のレンタル業を取り込み、顧客満足度向上と販売網の拡大。
  • ポイント:機器レンタルと人材派遣を組み合わせることで、高付加価値サービスを提供できる体制を構築。

5.13 ヒビノ<2469>、映像ソリューション事業のエヌジーシーを子会社化

  • 発表日:2023年11月22日
  • 概要:放送局・映像制作向けの編集制作システムや大型映像表示システムに強いエヌジーシーの全株式を取得。
  • 狙い:音響・映像機器事業を拡大し、LEDディスプレーを中心とする表示ソリューションでのシェア獲得。
  • ポイント:スタジオ・アリーナ建設や万博などの需要を捉え、映像表示システムに強みを持つ企業を傘下に入れた事例。

5.14 ハーツユナイテッドグループ<3676>、プレミアムエージェンシーの3Dソリューション事業を譲渡

  • 発表日:2015年6月30日
  • 概要:VRやARソリューションを手がける3Dソリューション事業を投資会社ワイアールに譲渡。
  • 狙い:ゲーム開発・映像制作事業への経営資源の集中。
  • ポイント:ローカライズやデバッグサービスで知られる同グループが、よりコアな領域に注力するために周辺事業を整理した例。

5.15 ハーツユナイテッドグループ<3676>、CG映像制作のプレミアムエージェンシーを子会社化

  • 発表日:2014年3月28日
  • 概要:プレミアムエージェンシーの第三者割当増資を引き受けるなどして45.8%を保有、実質的に子会社化。
  • 狙い:ソーシャルゲームやコンシューマゲーム開発などでの3DCG技術と、自社のデバッグを組み合わせ、一貫体制を構築。
  • ポイント:ゲームと映像の両面で事業を拡大するためのM&A。

5.16 テレビ朝日<9409>、人材派遣会社のフレックスを子会社化

  • 発表日:2008年2月1日
  • 概要:テレビ朝日の持分法適用関連会社であるフレックスの株式を追加取得し、所有割合を69.58%へ。
  • 狙い:報道・情報番組分野での連携強化。
  • ポイント:人材派遣や映像技術提供、機器レンタルなどを行うフレックスを取り込み、報道局の人的リソースを強化する狙い。

5.17 テー・オー・ダブリュー<4767>、テレビCMなど映像制作のモットを子会社化

  • 発表日:2023年7月18日
  • 概要:モットの全株式を取得し、18日付で子会社化。
  • 狙い:テレビCMやWeb動画など、映像制作領域の拡張。
  • ポイント:プロモーション事業が強みのテー・オー・ダブリューが、映像の発想力・制作力を組み合わせ、ワンストップで顧客企業に提案できる体制を構築。

5.18 ソーシャルワイヤー<3929>、シェアオフィス事業のシンガポール子会社をZero‐Ten Parkに譲渡

  • 発表日:2024年8月13日
  • 概要:CROSSCOOP SINGAPOREの全株式を、映像制作やイルミネーション演出などを行うZero‐Tenグループのシェアオフィス事業会社に譲渡。
  • 狙い:経営資源の選択と集中。シェアオフィス事業から海外も含めて撤退。
  • ポイント:譲渡先のZero‐Ten Parkは、プロジェクションマッピングなど映像・演出で実績があり、シェアオフィスの多店舗展開も進める企業。

5.19 ゲートウェイ<7708>、サイト制作会社のThanks Lab. を子会社化

  • 発表日:2010年10月15日
  • 概要:WEB企画・制作、映像制作を手がけるThanks Lab.の株式90%を取得。
  • 狙い:映画や音楽の企画・制作、販売プロモーション分野で保有するコンテンツをモバイルやWebへ展開。
  • ポイント:既存コンテンツの二次利用・多次利用を促進するためのデジタル戦略強化。

5.20 オウケイウェイヴ<3808>、音楽・映像制作や著作権管理のアップライツを子会社化

  • 発表日:2021年12月15日
  • 概要:オウケイウェイヴの投資ファンドを通じ、アップライツの第三者割当増資を引き受け52.6%を取得。
  • 狙い:DXの進展を踏まえ、クリエイターとユーザーをつなぐ新規事業を模索。
  • ポイント:Q&Aサイト「OKWAVE」との連携など、デジタルコミュニティを軸とした新たなビジネスモデルを期待。

5.21 エイベックス<7860>、デジタルコンテンツ企画制作などの子会社THINKRを譲渡

  • 発表日:2024年6月21日
  • 概要:エイベックス保有株式79%をTHINKRの自己株式取得で譲渡。
  • 狙い:事業ポートフォリオの見直し。
  • ポイント:クリエイターのマネジメントやXR制作に力を入れるTHINKRが第三者割当増資を実施し、エイベックスの持分を大きく買い戻す形。エイベックスは音楽・エンタメ事業の集中強化を図る。

5.22 ウィルグループ<6089>、映像制作のサムシングファンを子会社化

  • 発表日:2016年12月19日
  • 概要:サムシングファンの株式51%を取得。
  • 狙い:人材サービス以外に新たな事業の柱を確立。動画市場で事業拡大を目指す。
  • ポイント:人材ビジネスの知見と映像制作を結びつけ、企業向け動画制作やコンテンツマーケティングを強化する狙い。

5.23 アミューズ<4301>、テレビ番組企画・制作の極東電視台を子会社化

  • 発表日:2023年6月20日
  • 概要:極東電視台の株式66%を取得。
  • 狙い:所属アーティストの映像コンテンツとの相乗効果、新たな映像作品の国内外発信。
  • ポイント:アーティスト事務所がテレビ番組制作会社を取り込むことで、自社タレントの番組企画制作や映像配信にも注力しやすくなる。

5.24 KeyHolder<4712>、テレビ番組制作のフーリンラージを子会社化

  • 発表日:2019年2月13日
  • 概要:フーリンラージの全株式を取得し子会社化。映画・CM、MV制作にも強み。
  • 狙い:バラエティー番組やドキュメンタリー制作に加え、映画・CM領域への進出。
  • ポイント:「しくじり先生 俺みたいになるな!!」「有吉ジャポン」などヒット番組を手がける制作力を評価し、映像事業の総合力を上げる戦略。

5.25 KeyHolder<4712>、SEIRYUから映像制作経理事業を取得

  • 発表日:2023年4月19日
  • 概要:国内では少数派の「映像制作予算管理に特化した経理業務」を行う事業を取得。
  • 狙い:外資系大手配信サービスなどで主流の経理体制を国内にも導入し、事業拡大。
  • ポイント:映像制作経理の専門ノウハウを取得することで、大規模予算を伴う映像作品や海外作品の受注に対応しやすくなる。

5.26 KeyHolder<4712>、BIGFACEのテレビ制作事業を取得

  • 発表日:2018年5月24日
  • 概要:会社分割により、ドキュメンタリーやスポーツ番組、バラエティー番組の制作実績を持つBIGFACEの事業を取得。
  • 狙い:ライブ・エンターテインメント事業との相乗効果。
  • ポイント:「マツコの知らない世界」「林修の今でしょ!講座」といった人気番組を手がける制作力の取り込み。

5.27 Key Holder<4712>、TV業界への人材派遣を手がけるワイゼンラージを子会社化

  • 発表日:2019年9月27日
  • 概要:ワイゼンラージ(約200人の制作スタッフを抱える)の全株式を取得。
  • 狙い:映像制作人材の確保と、制作体制の安定化。
  • ポイント:クリエイター育成や大量のスタッフ派遣により、映像制作プロジェクトの取り扱い規模拡大を狙う。

5.28 Jストリーム<4308>、映像・音楽データ制作会社のエクスペリエンスを譲渡

  • 発表日:2008年6月19日
  • 概要:子会社エクスペリエンスの全所有株式51.0%をベースメントファクトリープロダクションへ譲渡。
  • 狙い:グループのリソースを分散させず、エクスペリエンスの成長と効率化を図るため。
  • ポイント:映像制作分野で一定の成果はあったものの、グループ全体の方針として切り離しを選択した例。

5.29 Jストリーム<4308>、マーケティングプロモーション事業のクロスコを子会社化

  • 発表日:2009年3月31日
  • 概要:持分法適用関連会社だったクロスコの株式を追加取得し、74.94%へ。
  • 狙い:クロスコのマーケティングノウハウや映像制作能力と、自社の動画配信技術を結びつけ、大型案件対応力を強化。
  • ポイント:Webマーケティングと映像制作を組み合わせた総合ソリューションを提供する事例。

5.30 IMAGICA GROUP<6879>、字幕・吹き替えの米国子会社SDIをスウェーデンIyunoに譲渡

  • 発表日:2021年1月22日
  • 概要:ローカライズ大手SDI Media GroupをIyuno Media Groupに譲渡。
  • 狙い:映像制作サービス事業の構造改革。競争が激化するローカライズ事業からの撤退。
  • ポイント:動画配信プラットフォームの台頭で世界的に需要が伸びているローカライズ市場だが、競争も過熱。その中で事業再編を断行。

5.31 IMAGICA GROUP、希望退職に105人募集

  • 発表日:2021年3月2日
  • 概要:IMAGICA GROUP本体と中核子会社IMAGICA Lab.で希望退職を募り、105人が応募。
  • 狙い:新型コロナウイルス下での映像事業の収益悪化や構造改革推進。
  • ポイント:グループ再編や事業分割を進める前段階としてリストラを実施し、経営体質を抜本的に強化する動き。

5.32 IGポート<3791>、子会社ジーベックの映像制作事業をサンライズに譲渡

  • 発表日:2018年11月20日
  • 概要:テレビ向けアニメーション制作を主力とするジーベックの映像制作事業をサンライズへ。
  • 狙い:赤字が長期化していた映像制作事業から撤退し、安定収益化が難しい領域を手放す。
  • ポイント:版権事業でも補填できない赤字が続く制作部門を切り離し、自社グループ全体の収益構造を見直した例。

5.33 AOI TYO Holdings<3975>、米カーライル・グループと組んでMBOで株式を非公開化

  • 発表日:2021年5月14日
  • 概要:MBOにより株式を非公開化。買付主体はカーライルの傘下企業。
  • 狙い:コロナ禍でCM需要が大幅減少し、広告のデジタル化対応などを中期的視点で推進するため上場廃止を決断。
  • ポイント:テレビCM制作トップクラスのAOI TYOが、経営陣と投資ファンドの連携で成長戦略を加速するために非公開化を選択。

5.34 AOI TYO Holdings<3975>、マレーシアの映像制作会社リザーブ・タンクを買収

  • 発表日:2018年3月20日
  • 概要:シンガポール子会社を通じ、マレーシアに拠点を置くリザーブ・タンクの全株式を取得。
  • 狙い:アジア市場での事業展開を強化。
  • ポイント:テレビCMや企業PR動画に強い会社を海外で買収し、日系企業の海外広告需要やローカル企業との連携を加速。

5.35 AOI Pro.<9607>とティー・ワイ・オー<4358>、2017年1月に経営統合

  • 発表日:2016年7月11日
  • 概要:テレビCM制作で大手2社が共同持株会社「AOI TYO Holdings」を設立し統合。
  • 狙い:インターネット・デジタルメディア対応や海外展開を強化。
  • ポイント:統合によるスケールメリットを得て、日本およびアジア市場で首位を目指す。上場廃止後、共同持株会社として再上場。

6. 事例から見るM&Aのパターン別分析

上記の事例を俯瞰すると、映像・CM制作業界のM&Aにはいくつかの典型的なパターンが存在することが分かります。ここでは、それぞれの目的や効果を整理します。

6.1 事業拡大・成長戦略

  • :朝日放送グループHDによるトイジアム買収、ラクスルによるAntoo子会社化など
  • 目的:新規領域への参入、制作ラインナップの拡充、顧客基盤の拡大
  • 効果:一括受注が可能になる、幅広いクリエイティブを提供できる

6.2 事業再編・選択と集中

  • :フュートレックのプロモーション事業譲渡、エイベックスによるTHINKR株式売却、IGポートによるジーベック事業譲渡
  • 目的:コア事業に経営資源を集中し、収益性を高める
  • 効果:不採算事業や、将来展望が望みにくい領域から撤退することで財務改善やリスク軽減を実現

6.3 技術力や制作力の補完

  • :朝日放送グループHDによるCGCGスタジオ買収、ヒビノによるCHホールディングス買収、KeyHolderによるフーリンラージ買収
  • 目的:高付加価値の映像制作(3DCG、VFX、モーションキャプチャー等)を内製化、技術人材の獲得
  • 効果:従来では外部に委託していた分野をグループ内で完結できるようになり、コスト削減・納期短縮・品質管理の強化が可能に

6.4 海外展開やグローバル化への対応

  • :リーダー電子と英Phabrix、AOI TYOのマレーシア企業買収
  • 目的:欧米やアジアに現地拠点を確保し、市場の成長を取り込む
  • 効果:海外での撮影、現地企業との共同開発、日系企業の現地広告需要などを取り込める

6.5 周辺事業・関連領域への横展開

  • :葵プロモーションによるゴルフ出版事業取得、ゲートウェイによるThanks Lab.買収
  • 目的:映像制作に付随するコンテンツやメディア領域を取り込む
  • 効果:広告・映像制作会社が出版やWebコンテンツに進出し、クロスメディアでの展開がしやすくなる

7. M&A成功のポイントとリスク

映像・CM制作会社のM&Aが成功するかどうかは、買収前の戦略立案だけでなく、買収後の統合作業(PMI: Post Merger Integration)がスムーズに進むかどうかに大きく左右されます。また、クリエイティブ・エンタメ業界特有のリスクや課題もあります。

7.1 ポストM&A統合(PMI)の重要性

  • 事業運営体制の整合性:映像制作におけるディレクターやプロデューサー、スタッフの配置や予算管理など、制作プロセスの管理が買収企業と被買収企業で大きく異なる場合、統合が進まないことがあります。
  • ブランドの統一と継承:CM制作会社や映画制作会社は「社名ブランド」で受注するケースも少なくありません。旧ブランドをどのように活かすか、新ブランドへ統合するかは戦略的な判断が必要です。

7.2 企業文化の違いへの対応

映像・CM制作における企業文化は、一般的な製造業やIT企業以上に柔軟かつ独特です。クリエイターを中心とした組織では、指示命令系統がフラットになりやすく、一定の自由度が成果に繋がる場合も多いです。過度な管理体制を導入すると、一気にモチベーション低下を引き起こすリスクがあります。

7.3 経営体制の早期構築とシナジー発現

M&Aを進める中では、経営スピードを落とさずに新体制を早急に立ち上げることが望まれます。特に人材面での流出を防ぐためにも、トップ層の人事や組織の方向性を明確に打ち出すことが重要です。

7.4 技術的側面・クリエイティブ側面での融合

映像・CM制作には、撮影・編集・CGなど専門的な工程が多数存在します。買収先の技術やノウハウを早期に吸収し、自社に活かせるかどうかが成果を左右します。逆に言えば、その技術が本当に買い手の戦略に合っているか否かの見極めも大切です。

7.5 人材面でのリテンション

映像制作会社の場合、会社の価値を左右するのは人材そのものです。ディレクターやプロデューサー、技術スタッフがM&Aにより大量に流出してしまえば、買収の意味が大きく損なわれます。買収側は、報酬や待遇だけでなく、クリエイターの価値観を尊重する働きかけが必要です。


8. 今後の映像・CM制作業界におけるM&Aの展望

映像・CM制作業界は依然として、高度化・多様化が続くとみられています。以下の点から、今後もM&Aの動きは活発化する可能性が高いと考えられます。

  1. 動画広告市場のさらなる拡大
    インターネット広告費の増加やSNSでの動画配信拡大により、映像制作の需要が継続的に見込まれています。
  2. 3DCG、VFX、XRなど先端技術の導入
    ハイクオリティな映像制作が要求される中で、新興企業や技術ベンチャーを取り込むM&Aが進む可能性があります。
  3. 海外配信プラットフォームとの取引拡大
    NetflixやAmazonなど海外勢の日本オリジナルコンテンツ制作が増加しており、これを受注する体制を拡充するため、海外企業との提携や買収が今後も進むと予想されます。
  4. 事業再編・統合による寡占化
    大手企業が小規模の制作会社を買収し、グループとして網羅的に事業を行う流れが強まる可能性が指摘されます。コンテンツIPを活用したメディアミックスなど、一括した統合力が勝敗を左右する局面が増えていくでしょう。
  5. 人材獲得競争の激化
    映像・CM制作の現場では人材育成に時間がかかるため、人材を一括して取り込めるM&Aは引き続き有効な手段となります。大手企業の下で安定しながらクリエイティブ活動を行いたいという制作者も少なくないため、買収による人材確保は今後も続くと予想されます。

9. まとめ

映像・CM制作業界では、メディアの多様化や技術進化、そしてコンテンツ需要の高まりを背景に、M&Aによる事業拡大や再編が加速しています。本記事で取り上げた事例のように、買収・統合・譲渡の目的は多岐にわたりますが、大きくは「事業拡大」「選択と集中」「技術力・制作力の補完」「海外展開」「周辺領域への横展開」などに分類できます。

特にコロナ禍以降は、デジタルコンテンツやオンラインサービスの需要増によって、映像制作に対する要望が質・量ともに高くなっている一方、制作スケジュールの制約や撮影現場のコスト増といった難しさも顕在化しています。こうした課題に対応するには、単独企業だけではなく、持ち株会社方式や外部資本の力を借りる形でのM&Aが選択肢となるのは自然な流れです。

一方で、映像制作ビジネスはクリエイターの感性と技術力が不可欠であり、買収後の組織統合がうまく進まなければ、せっかくのシナジーも半減しかねません。M&Aの成否は、「いかに被買収企業の強みを維持し、買い手のリソースと合わせることで新たな価値を生み出すか」という点にかかっていると言えます。

国内市場が成熟しつつある中でも、インターネット動画広告や海外配信プラットフォーム向けのオリジナルコンテンツが増えており、映像・CM制作企業にとっては新たなチャンスが広がっています。今後もM&Aは、こうした機会を掴むための重要な戦略ツールとなるでしょう。

映像・CM制作業界において、企業がさらなる成長とグローバル展開を目指すのであれば、M&Aによる技術やIPの獲得、人材の取り込み、資本力の強化を視野に入れるのは有力な手段です。数多くの事例が示すように、どのような形であれ、積極的に統合を推進しながら急速に変化する市場ニーズに応える企業こそが、今後の業界を牽引していくと考えられます。

以上、映像・CM制作業界における近年のM&A動向や事例を中心に、目的や効果、成功のポイントなどをご紹介いたしました。企業経営の視点で見ればM&Aは大きな決断ですが、エンターテインメント・映像分野では特に、買収先企業の持つクリエイティブな資産やスタッフが事業価値そのものであることが多く、適切なPMIと企業文化の融合が鍵を握ります。激動する映像・CM制作業界においては、引き続き多くのM&Aが注目されることになるでしょう。今後も各社の動向を追いながら、業界全体の発展に期待していきたいと思います。