目次
酒類卸売業の市場環境
酒類卸売業の市場環境は、以下の要素で特徴づけられます。
– 原材料価格の高騰: 原材料価格の高騰は、酒類メーカーにとって大きな課題となり、コストアップが生じています。
– コロナ禍によるライフスタイルの変化: コロナ禍によるライフスタイルの変化により、「家飲み」の需要が定着しており、消費者の嗜好が多様化しています。
– インバウンド需要と季節需要: 突発的なインバウンド需要や季節需要(例えば、猛暑や夏イベントによるアルコール飲料の販売)が好調です。
– ビールの販売好調: ビールの販売は好調で、特にサッポロHDの「ヱビスビール」のブランド体験施設のオープンにより、ビールの販売数量が前年同期比10%増加しています。
– 海外市場での成長: 日本産酒類の輸出金額は2023年には約1,344億円に達し、コロナ前の2019年に比べ倍増していますが、2024年1月から6月の輸出金額は中国経済の低迷の影響を受けて減少傾向にあります。
– ビール減税の影響: 26年10月に控える3度目のビール減税を見据え、ビール新ブランドや低アルコール飲料の投入による顧客層の開拓、鉄道や船舶によるモーダルシフトなどに注力しています。
– 酒類卸売企業の動き: 酒類卸売企業は、ビールや日本酒、焼酎などの酒類の卸売を行い、地域によっては食品や調味料の卸売も行っています。
酒類卸売業のM&Aの背景と動向
日本酒・清酒酒造業界におけるM&Aの背景と動向は以下の通りです。
### 背景
後継者問題によるM&A:
日本酒・清酒酒造業界では後継者不在に悩む事業者が多く、M&Aが活用されるケースが増えています。親族や従業員への事業承継では、株式取得費用の準備や個人保証の引継ぎが障壁となることが多いですが、M&Aではその心配がなく、後継者教育も不要です。
経営難や後継者不在:
近年の日本酒・清酒酒造業界では、経営難や後継者不在などの問題が深く関係しています。M&Aはこれらの問題を解決するための手段として広く認識されています。
### 動向
M&A件数の増加:
近年、日本酒・清酒酒造業界におけるM&A件数が増加しています。これは、売り手だけでなく買い手にも多くのメリットがあるためです。たとえば、居酒屋が日本酒・酒蔵メーカーを買収することで、売り手と買い手双方に大きなメリットがあるとされています。
多様な規模と異業種の買い手:
大手企業や異業種企業によるM&A買収も増加中です。資金力のある大手企業などに買収されることで、経営基盤の安定化が図れます。大手企業のネットワークを活かすことで、販路拡大にもつなげられます。異業種の企業による買収事例も増えていて、こうしたM&Aでもメリットが期待できます。
### メリット
人材の獲得:
M&Aの大きなメリットは、売却側の人材をそのまま獲得できることです。日本酒・清酒酒造業界で経験を積んできた優秀な人材や多胎技術力を持つ人材を獲得できるのは買収側にとって非常に大きなメリットといえます。
酒類製造免許の獲得:
現在は新規で清酒製造免許を取得することができないため、買収側が清酒製造免許を持っていない場合、M&Aを行う大きなメリットとなります。清酒製造免許は現存する酒蔵のみが保有しているため、M&A時には「プレミア価値」が上乗せされるケースも多いです。
顧客・取引先の獲得:
長年事業を継続してきた日本酒・清酒酒造の事業者は、顧客や優良な取引先を持っていることが多いです。このような顧客や取引先を獲得できるのもM&Aの大きなメリットであり、買収側はM&A後の売上向上や規模拡大の実現にも期待できます。
### 流れ
①目標設定・戦略策定:
M&Aを検討した段階で、目標設定・戦略策定を行います。例えば、「業績を向上させたい」など曖昧な目標ではなく、明確に数値を用いて目標を設定します。また、M&Aを行う戦略を策定し、お互いに損がないようにM&Aを最後まで進めることが必須です。
②相談:
M&Aの各プロセスは専門的な知識と経験が不可欠です。まずは、M&Aの専門家に相談することから始めましょう。相談先として候補となるのは、M&A仲介会社、弁護士・公認会計士などの士業事務所、経営コンサルタント、FA(ファイナンシャルアドバイザー)などです。
### デューデリジェンス(DD)
財務面のDD:
酒小売業においては、商品の仕入れや在庫管理、販売促進活動に多大な影響を与えるため、財務面のDDが重要です。買収する企業の財務状況やリスク管理能力を徹底的に調査し、評価する必要があります。
### シナジー効果
クロスセリング・アップセリング:
M&Aにより、売り手企業と買い手企業が統合することで、それぞれが別に事業を行う場合よりも大きな効果が生まれることがあります。たとえば、売り手企業の売上が1億円、買い手企業の売上が1億円の場合、M&A後に買い手企業の売上が2億円を上回った場合、シナジー効果が生まれたと言えます。
### デメリット
従業員や杜氏の反発:
酒蔵業界では従業員や杜氏と経営者、会社と地域社会の結びつきが強いため、経営者や経営主体の会社が変わることで、従業員や杜氏や取引先、顧客から反発を受けるリスクがあります。反発を受けると、離職により働き手が減ったり、取引先や顧客との契約打ち切りで収益が減少したりする可能性があります。
酒類卸売業のM&A事例
酒類卸売業のM&A事例
1. 株式会社丸万と株式会社ACROVEのM&A
– 譲渡企業: 株式会社丸万
– 業種: 輸入食品・酒類卸売業
– 地域: 大阪府
– 売上: 5億円以上
– 社長の年齢: 48歳
– 譲渡理由: 経営不安の解消のため
– 譲受企業: 株式会社ACROVE
– 業種: EC販売支援・M&A事業
– 地域: 東京都千代田区
– 譲受目的: 関西における仕入、販売販路の拡大
2. 日本酒類販売と秋田県酒類卸のM&A
– 譲渡企業: 秋田県酒類卸
– 業種: 酒類、清涼飲料水、食料品の原材料売買、不動産賃貸
– 地域: 秋田県
– 譲渡理由: なし
– 譲受企業: 日本酒類販売
– 業種: 酒類、清涼飲料水、食料品の原材料売買、不動産賃貸
– 地域: なし
– 譲受目的: 相互機能の補完と関係強化を図り、地域と全国をつなぐ食文化の発展
3. タオイ酒造が「株式会社老田酒造」を子会社化
– 譲渡企業: 株式会社老田酒造
– 業種: 酒造
– 地域: なし
– 譲渡理由: 経営難
– 譲受企業: タオイ酒造
– 業種: 酒造
– 地域: なし
– 譲受目的: 負債を返済し会社精算を実現
4. ヨシムラ・フード・ホールディングスが「榮川酒造」を子会社化
– 譲渡企業: 榮川酒造
– 業種: 酒造
– 地域: 福島県
– 譲渡理由: 財政状況悪化で経営不振
– 譲受企業: ヨシムラ・フード・ホールディングス
– 業種: 中小規模の食品会社を傘下に持つ持株会社
– 地域: なし
– 譲受目的: 事業再生
5. オリエンタルコンサルタンツが「瀬戸酒造店」を子会社化
– 譲渡企業: 瀬戸酒造店
– 業種: 酒造
– 地域: 神奈川県
– 譲渡理由: 杜氏・従業員の確保が困難
– 譲受企業: オリエンタルコンサルタンツ
– 業種: 大手建設コンサルタント会社
– 地域: なし
– 譲受目的: 事業復活
6. ドリームリンクが「かづの銘酒株式会社」を完全子会社化
– 譲渡企業: かづの銘酒株式会社
– 業種: 酒造
– 地域: 秋田県
– 譲渡理由: 後継者不在
– 譲受企業: ドリームリンク
– 業種: 居酒屋などの全国展開を行う外食チェーン
– 地域: 秋田県
– 譲受目的: 経営を引き継ぐ
7. Clearが「有限会社川勇商店」を完全子会社化
– 譲渡企業: 有限会社川勇商店
– 業種: 酒販店
– 地域: 東京都
– 譲渡理由: なし
– 譲受企業: Clear
– 業種: 日本酒事業に特化したベンチャー企業
– 地域: 東京都
– 譲受目的: 小売業参入
これらの事例から、酒類卸売業のM&Aは主に経営不安や後継者問題を解決するために行われており、譲渡企業は経営不安や財政状況悪化を理由に譲渡し、譲受企業は事業拡大やシナジー効果の創出を目的としていることがわかります。
酒類卸売業の事業が高値で売却できる可能性
酒類卸売業の事業が高値で売却される可能性について、以下のポイントをまとめます。
1. 旧酒販免許の保有:
– 旧酒販免許を保有する企業は、特定の地域で酒類の販売が可能であり、これが大きな価値を持つ場合があります。例えば、熊本県の企業は1989年まで発行されていた希少価値の高い免許を取得でき、これが魅力の一つです。
2. 高認知度と業歴:
– 高認知度と長い業歴を持つ企業は、顧客の信頼が厚く、販売が容易です。例えば、九州の企業は300年以上の歴史があり、焼酎、清酒、リキュールの製造と販売が可能です。
3. 独占契約と生産先との関係:
– 独占契約を締結している企業は、他社よりも格安での生産が可能であり、これが大きな利点です。例えば、東京都のワイン卸売企業は、世界中のコンテストで数多くの受賞歴があり、生産先との独占契約を締結しています。
4. 地域密着と常連顧客:
– 地域密着と常連顧客を持つ企業は、地元での販売が容易であり、これが大きな価値を持つ場合があります。例えば、群馬県の酒類小売店は長年の常連顧客が多く、地元密着のお店となっています。
5. M&Aのメリット:
– M&Aを行うことで、事業基盤を強化し、収益性や財務の安定性を高めることができます。特に、食品卸売業界では大手企業の子会社となることで、親会社が持つ資金力やブランド力、ノウハウなどを活用できるようになります。
これらのポイントを考慮すると、酒類卸売業の事業が高値で売却される可能性は高く、特に旧酒販免許の保有や高認知度、独占契約、地域密着などの要素が大きな価値を持つことが期待されます。
酒類卸売業の企業が会社を譲渡するメリット
酒類卸売業の企業が会社を譲渡するメリットは以下の通りです。
– 後継者問題の解決ができる:経営者の高齢化が進んでおり、後継者が見つからないことが多い中、M&Aを通じて第三者に事業を譲渡することで、後継者問題を解決できます。
– 従業員の雇用が継続される:M&Aにより、従業員の雇用が継続されることが多く、従業員の待遇が良くなる可能性があります。
– 事業基盤を安定させられる:複数の事業を行っている企業が食品卸売事業を売却することで、事業基盤を安定化し、アナジー効果をなくすことができます。
– 倒産・廃業を回避できる:経営者の引退で事業承継がうまくいかずに廃業せざるを得なくなった場合、M&Aにより事業を売却することで、倒産や廃業を回避できます。
– 仕入コストを削減できる:M&Aを通じて買収側の傘下に入ることで、大量仕入の実現によって仕入コストを削減することができます。
– 売却益を獲得できる:差別化を図り成功している企業や、新規参入したいと考えている買い手企業に売却すれば、売却益を得ることができます。
– 経営資源の確保が容易:M&Aにより、必要な経営資源をまとめて取得できるため、新規事業の立ち上げにかかる時間を大幅に短縮できます。
– スケールメリットを獲得できる:売り手と買い手で同じ原材料を仕入れている場合、原材料の大量仕入れにより、M&A前よりも仕入れコストを削減できるようになります。また、重複する部門の統合によるコスト削減も期待できます。
これらのメリットにより、酒類卸売業の企業が会社を譲渡することで、事業の安定化や成長を図ることができます。
酒類卸売業の事業と相性がよい事業
酒類卸売業の事業と相性がよい事業は以下の通りです:
1. 居酒屋業:
– 酒を販売する小売業として、居酒屋業が最も相性がよいと言えます。居酒屋は、多くの場合、酒の種類や味について豊富な知識を持っているため、お客様にとって相談しやすい場所となります。また、居酒屋ではおつまみや料理も提供することが多いため、酒と一緒に食事を楽しむこともできます。
2. デリバリーサービス:
– 近年は、ネット通販やデリバリーサービスなど、お酒を自宅に届けてくれるサービスが増えてきています。酒小売業であれば、自社でデリバリーサービスを行うことで、お客様に快適なサービスを提供することができます。
3. お酒に合う食品の製造・販売:
– お酒に合う食品の製造や販売を行う事業も、酒小売業と相性が良いと言えます。例えば、チーズやナッツ、煮物や揚げ物など、お酒に合う食品を専門に取り扱う食品メーカーや販売店があります。酒販店側でも、こうした商品を取り扱うことで、お客様により豊富なお酒の楽しみ方を提供することができます。
4. ビール特約店制度:
– ビール特約店制度は、特にビール業界で顕著でしたが、近年は流通の圧縮により2次卸や3次卸の数が大きく減少しています。特約店制度は、メーカーと直接特約を取り引きできない場合、特約店から仕入れを行うことで機能します。
5. 情報・ノウハウの提供:
– 和酒メーカーとパートナーシップを結び、情報・ノウハウを提供することで、酒類食品市場において競争力を高めることができます。日酒販は、和酒メーカーと小売業の最適なマッチングを追求し、商品を卸して終わるのではなく、消費者のニーズに合わせた多角的な提案を行っています。
酒類卸売業の企業がM&Aを依頼するならM&A Doがおすすめな理由
M&A Doは、酒類卸売業の企業様にとって最適なM&Aパートナーです。その理由は、譲渡企業様から手数料を一切いただかないという点にあります。これにより、コストを気にせずに安心してM&Aを進めることができます。また、豊富な成約実績を誇り、多くの企業様にご満足いただいております。さらに、酒類卸売業の業界にも深い知見を保有しているため、業界特有のニーズや課題に対しても的確なアドバイスを提供することが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。