- 1. はじめに:山梨県の経済とM&Aの重要性
- 2. 山梨県におけるM&Aの主な特徴と動向
- 3. 事例紹介(1):大盛工業による井口建設の子会社化(2018年)
- 4. 事例紹介(2):明光ネットワークジャパンによるMAXISホールディングスの子会社化(2014年)
- 5. 事例紹介(3):日立ハイテクノロジーズのボンディング装置事業売却(2014年~2015年)
- 6. 事例紹介(4):日本調剤による山梨県内の調剤薬局3社子会社化(2011年)
- 7. 事例紹介(5):第一交通産業による玉幡タクシー子会社化(2011年)
- 8. 事例紹介(6):武蔵精密工業によるJMエナジーの子会社化(2020年)
- 9. 事例紹介(7):第一交通産業による武田名鉄交通子会社化(2012年)
- 10. 事例紹介(8):中本パックスによるニッセーの食品容器成型事業取得(2023年)
- 11. 事例紹介(9):相鉄ホールディングスによる相鉄ゴルフの譲渡(2012年)
- 12. 事例紹介(10):日水製薬によるニッスイファルマ・コスメティックスの譲渡(2017年)
- 13. 事例紹介(11):藤田観光による「緑の村」分譲別荘地の水道供給事業売却(2010年)
- 14. 事例紹介(12):日本化学工業による日本ピュアテックの譲渡(2021年)
- 15. 事例紹介(13):前田製作所によるサンネットワーク中部の一部事業取得(2008年)
- 16. 事例紹介(14):平和によるゴルフ場事業の取得(2019年)
- 17. 事例紹介(15):ライフドリンクカンパニーによる富士山の天然水山中湖の事業取得(2024年)
- 18. 事例紹介(16):メドピアによる「みんコレ!」事業の取得(2021年)
- 19. 事例紹介(17):マツモトキヨシホールディングスによるイタヤマ・メディコ子会社化(2012年)
- 20. 事例紹介(18):メディアスホールディングスによるマコト医科精機子会社化(2023年)
- 21. 事例紹介(19):ミダックホールディングスによる岩原果樹園子会社化(2022年)
- 22. 事例紹介(20):マキヤによるEC事業会社ユージュアルなど2社の子会社化(2024年)
- 23. 事例紹介(21):バローホールディングスによる公正屋子会社化(2016年)
- 24. 事例紹介(22):シダーによる介護付き有料老人ホーム事業の譲渡(2023年)
- 25. 事例紹介(23):クオールホールディングスによるダイナの子会社化(2024年)
- 26. 事例紹介(24):ソルクシーズによるワイ・エス・アール子会社化(2009年)
- 27. 事例紹介(25):シミックホールディングスによる富士ジネンテックファーム事業譲受(2012年)
- 28. 事例紹介(26):シミックホールディングスのMBOと山梨県への関わり(2023年)
- 29. 事例紹介(27):タケエイによる富士リバース子会社化(2014年)
- 30. 事例紹介(28):うかいによる河口湖うかい株式の売却(2011年)
- 31. 事例紹介(29):こころネットによる喜月堂ホールディングス子会社化(2023年)
- 32. 事例紹介(30):キユーピーによる富士吉田キユーピー株式の譲渡(2021年)
- 33. 事例紹介(31):キユーピーによる富士山仙水の売却(2013年)
- 34. 事例紹介(32):アコーディア・ゴルフによるブリティッシュガーデンクラブ子会社化(2008年)
- 35. 事例紹介(33):アコーディア・ゴルフによる水府ゴルフクラブ運営会社の譲渡(2016年)
- 36. 事例紹介(34):アクシージアによるユイット・ラボラトリーズの子会社化(2022年)
- 37. 事例紹介(35):KDDIによる宅配水事業の「富士山の銘水」への譲渡(2020年)
- 38. 事例紹介(36):FUJIによるファスフォードテクノロジ子会社化(2018年)
- 39. 山梨県における今後のM&A展望
- 40. まとめ
1. はじめに:山梨県の経済とM&Aの重要性
山梨県は豊かな自然環境や観光資源、首都圏に比較的近いという地理的特性を持っています。一方で、県全体の人口は約80万人強(※2020年代前半時点)と比較的小規模であり、製造業やサービス業を中心に中小企業が多数存在しています。また、農業・果樹栽培や観光関連の産業が盛んな半面、人口減少や高齢化、後継者不足などの課題も抱えており、それらの解決手段の一つとしてM&Aが注目されるようになりました。
M&Aには、買収や合併だけでなく、事業譲渡や会社分割、株式譲渡など多様なスキームがあります。山梨県では、首都圏へのアクセスの良さやブランド力(例:富士山麓の水や果樹栽培の技術力など)を活かした事業が多いため、外部の資本やノウハウを必要としている企業、あるいは逆に県外大手企業が生産施設や地域資源を求めて進出する事例が増えてきました。
次章では、山梨県におけるM&Aの特徴を簡単に整理したうえで、各事例を詳細に見ていきます。
2. 山梨県におけるM&Aの主な特徴と動向
- 後継者不足・事業承継の課題
山梨県内の中小企業は後継者不足に直面しており、特に建設業や農業、サービス業などで経営者の高齢化が顕在化しています。このような状況下で、企業を外部に売却し、従業員の雇用維持や取引先との関係を保つケースが増えています。 - 観光・サービス産業の再編
富士山や温泉地を抱える山梨県では、ゴルフ場や観光施設、別荘地などの再編が進んでいます。経営環境の悪化や利用者減少といった問題を抱える施設の売却・譲渡事例が複数みられます。 - 製造業の戦略的買収・売却
山梨県内には電子部品や半導体関連、食品製造といった製造拠点が存在し、大手企業や海外勢を含めた戦略的M&Aが散見されます。生産コストの見直しや、技術開発力の取り込みを目的とした事例も多いです。 - 医療・福祉・調剤薬局・タクシー事業
医療・福祉、調剤薬局、タクシー事業など、地域のインフラを支える業種でも県内再編やグループ拡大を目的としたM&Aが行われています。 - 農業や食関連企業の買収
果樹王国として知られる山梨県では、果樹園の買収や水・食品関連事業の譲渡が注目されています。地方創生や6次産業化の流れの中で、県外大手が山梨の農業資源に投資する動きも見られます。
以降では、これらの動きを反映した具体的な事例を時系列やジャンルごとにご紹介します。
3. 事例紹介(1):大盛工業による井口建設の子会社化(2018年)
概要
- 買い手:大盛工業
- 売り手:井口建設(山梨県上野原市)
- 事業内容:土木工事業
- 売上高:約9億4400万円
- 取得価額:2億5600万円
- 取得予定日:2018年9月25日
ポイント
- 井口建設は道路改良や河川工事、下水道工事を中心に、公共工事の元請け業務を山梨県や上野原市などから受注していた。
- 大盛工業も下水道工事などの土木分野を得意としており、本件買収によって事業基盤を拡充する狙いがあった。
- 建設業では、公共工事の入札や地域密着型の工事案件に強みを持つ地場企業を取り込むことは、安定した収益を確保するうえで有効といえる。
4. 事例紹介(2):明光ネットワークジャパンによるMAXISホールディングスの子会社化(2014年)
概要
- 買い手:明光ネットワークジャパン
- 売り手:MAXISホールディングス(東京都新宿区)
- 事業内容:個別指導塾「明光義塾」のフランチャイジー
- 売上高:約26億6000万円
- 取得価額:18億1000万円
- 取得予定日:2014年9月2日
ポイント
- MAXISホールディングスは東京都、埼玉県、山梨県、静岡県、石川県で61教室、子会社が愛知県で26教室を展開する、大規模フランチャイジーであった。
- 山梨県内を含む複数エリアでの教室運営により、明光ネットワークジャパンの直営教室との連携強化やノウハウ共有を促進する目的があった。
- 教育ビジネスにおけるフランチャイズ展開では、トップフランチャイジーの買収により拠点拡大と経営効率化を同時に実現しやすい。
5. 事例紹介(3):日立ハイテクノロジーズのボンディング装置事業売却(2014年~2015年)
概要
- 売り手:日立ハイテクノロジーズ、および子会社の日立ハイテクインスツルメンツ
- 対象事業:ボンディング装置(半導体後工程装置)事業
- 山梨県南アルプス市に新会社(ファスフォードテクノロジ)を設立し、TYホールディングスに譲渡
- 譲渡価額:非公表
ポイント
- ボンディング装置は半導体後工程で用いられる装置。日立ハイテクノロジーズは経営効率化の一環で本事業を切り離し、事業売却後はより中核的な事業領域にリソースを集中させたと考えられる。
- ファスフォードテクノロジは後にM&Aの対象となり(FUJIが株式を取得する動きも)、山梨県南アルプス市が半導体関連産業の拠点としても注目を集めた背景がある。
6. 事例紹介(4):日本調剤による山梨県内の調剤薬局3社子会社化(2011年)
概要
- 買い手:日本調剤
- 売り手:メディカルセンターフジ、ハリーホック・ファーマシー、トップワンファーマシー
- 山梨県内で計11店舗を運営
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2011年2月28日
ポイント
- 日本調剤は全国的な調剤薬局チェーンを運営しており、本件により山梨県への初進出を果たし、全47都道府県での出店を達成。
- 調剤薬局は医療機関との近接が重要なビジネスモデルであり、新たなエリア開拓には地元薬局の買収が効果的となりやすい。
7. 事例紹介(5):第一交通産業による玉幡タクシー子会社化(2011年)
概要
- 買い手:第一交通産業
- 売り手:玉幡タクシー(山梨県甲斐市)
- 従業員28名、保有車両14台
- 取得価額:非公表
- 取得日:2011年4月1日
ポイント
- 第一交通産業はタクシー事業において全国展開を進める最大手。山梨県内のタクシー業界再編の一環として、玉幡タクシーを取り込むことで県内の保有台数を増やした。
- 地域のタクシー事業は高齢化や乗務員の確保が課題となりがちであり、大手資本によるグループ化は、経営の安定とサービスレベルの維持向上につながる。
8. 事例紹介(6):武蔵精密工業によるJMエナジーの子会社化(2020年)
概要
- 買い手:武蔵精密工業
- 売り手:JSRの子会社であるJMエナジー(山梨県北杜市)
- 事業内容:リチウムイオンキャパシターの開発・製造
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2020年4月1日
ポイント
- JMエナジーは車載向けリチウムイオンキャパシターを製造しており、自動車の電動化が進む中で成長が期待される分野。
- 武蔵精密工業は自動車部品メーカーとしてEV化対応や電動化への準備を進めており、JMエナジーの技術と生産施設を取り込むことで新規事業拡大を目指した。
9. 事例紹介(7):第一交通産業による武田名鉄交通子会社化(2012年)
概要
- 買い手:第一交通産業
- 売り手:武田名鉄交通(山梨県甲府市)
- 保有台数47台
- 取得価額:非公表
- 取得日:2012年8月2日
ポイント
- 第一交通産業は玉幡タクシーに続き、武田名鉄交通の買収により山梨県内での営業基盤をさらに拡大。
- 全国的なタクシー再編に乗り出す第一交通産業の方針が、山梨県にも大きく波及した好例といえる。
10. 事例紹介(8):中本パックスによるニッセーの食品容器成型事業取得(2023年)
概要
- 買い手:中本パックスの子会社・中本Fine Pack(茨城県稲敷市)
- 売り手:ニッセー(山梨県南アルプス市)
- 事業内容:食品容器の成型事業
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2023年4月3日
ポイント
- 中本Fine Packは既存設備の老朽化や人材確保の課題を抱えており、生産スペースとリソースを持つニッセーの事業を取得することで効率化を図った。
- 山梨県南アルプス市は食品製造事業者が集積しているエリアでもあり、流通の要衝としても注目される地域。
11. 事例紹介(9):相鉄ホールディングスによる相鉄ゴルフの譲渡(2012年)
概要
- 売り手:相鉄ホールディングス
- 譲渡先:市川ゴルフ興業(東京都練馬区)
- 対象会社:相鉄ゴルフ(山梨県笛吹市)、ゴルフ場「甲府国際カントリークラブ」経営
- 売上高:約3億1800万円
- 営業利益:△3300万円
- 譲渡価額:非公表
- 譲渡日:2012年12月21日
ポイント
- ゴルフ場利用者減少により採算が悪化していた相鉄ゴルフ。大手私鉄グループの相鉄HDは不動産・運輸以外の事業を選択と集中により再編。
- 山梨県内ではゴルフ場の売却や譲渡が複数みられ、業績不振施設の再建がテーマとなる。
12. 事例紹介(10):日水製薬によるニッスイファルマ・コスメティックスの譲渡(2017年)
概要
- 売り手:日水製薬
- 買い手:千趣会
- 対象会社:ニッスイファルマ・コスメティックス(NPC、山梨県北杜市)
- 事業内容:自然基礎化粧品などの製造・販売
- 譲渡価額:非公表
- 譲渡予定日:2017年6月30日
ポイント
- 日水製薬は医薬品開発が主力であり、NPCとの相乗効果が得られないと判断。千趣会は通信販売やECを駆使し、化粧品分野の拡大を図ろうとしていた。
- 山梨県北杜市の豊富な水資源や自然環境は化粧品製造においても魅力的であり、こうした地の利がM&Aの背景となっているケースがある。
13. 事例紹介(11):藤田観光による「緑の村」分譲別荘地の水道供給事業売却(2010年)
概要
- 売り手:藤田観光
- 買い手:山梨県富士河口湖町
- 対象事業:水道供給事業(富士ヶ嶺高原緑の村分譲別荘地)
- 売上高:約200万円
- 営業利益:△200万円
- 譲渡価額:無償(ただし施設整備協力金2億3800万円を支払う)
- 譲渡予定日:2010年12月末
ポイント
- 別荘地開発事業から撤退し、事業の選択と集中を図る狙い。
- 河口湖町への譲渡により、水道事業の安定的な運営を目指す。地方自治体への事業譲渡という形は珍しいが、公共インフラの維持には有効な手段といえる。
14. 事例紹介(12):日本化学工業による日本ピュアテックの譲渡(2021年)
概要
- 売り手:日本化学工業
- 買い手:ミラプロ(山梨県北杜市)
- 対象会社:日本ピュアテック(名古屋市)
- 事業内容:ケミカルフィルター・空調設備機器の製造
- 売上高:約24億5000万円
- 営業利益:約9400万円
- 譲渡価額:35億円
- 譲渡予定日:2021年9月30日
ポイント
- ミラプロは半導体関連装置製造で成長を続ける企業。フィルター技術の取り込みや関連事業の拡大が狙い。
- 日本化学工業は化学品製造が主力であり、周辺事業の切り離しと経営資源の最適化を推進。山梨県の地場企業が拡大路線を進める好例でもある。
15. 事例紹介(13):前田製作所によるサンネットワーク中部の一部事業取得(2008年)
概要
- 買い手:前田製作所(子会社を新設して承継)
- 売り手:サンネットワーク中部(名古屋市)
- 対象事業:愛知県・三重県・長野県・山梨県の4エリアにおける介護用品レンタル・販売事業
- 売上高:約4億4500万円(対象事業)
- 取得価額:未定
- 取得予定日:2008年10月1日
ポイント
- 前田製作所は建設機械事業で築いた営業基盤を活かして介護事業に本格参入。
- 山梨県は高齢化が進む地域でもあり、介護用品レンタルビジネスには一定の需要があると考えられた。
16. 事例紹介(14):平和によるゴルフ場事業の取得(2019年)
概要
- 買い手:平和
- 売り手:レイクウッドコーポレーション(神奈川県大磯町)
- 対象ゴルフ場:レイクウッドゴルフクラブ富岡コース(群馬県富岡市)
- 売上高:約3億9900万円
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2019年10月1日
ポイント
- 平和はパチンコ・パチスロメーカーとしての事業に加え、ゴルフ場保有・運営大手のPGMを傘下に収めてゴルフ事業を拡大中。
- レイクウッドコーポレーションは神奈川や山梨にも複数のコースを保有しているため、今後の経営戦略として特定ゴルフ場を売却する決断がなされた。
17. 事例紹介(15):ライフドリンクカンパニーによる富士山の天然水山中湖の事業取得(2024年)
概要
- 買い手:ライフドリンクカンパニー(傘下企業を通じて取得)
- 売り手:富士山の天然水山中湖(山梨県山中湖村)ほか関連グループ
- 事業内容:ミネラルウォーター製造事業
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2025年1月6日
ポイント
- 山梨県の富士山麓で採水される水はブランド力が高く、飲料メーカーにとって生産拠点の獲得は大きな意義を持つ。
- ライフドリンクカンパニーはPB(プライベートブランド)飲料や格安飲料で実績を伸ばしており、水源取得を通じたさらなる生産能力強化が狙い。
18. 事例紹介(16):メドピアによる「みんコレ!」事業の取得(2021年)
概要
- 買い手:メドピア
- 売り手:みんコレ(山梨県南アルプス市)
- 対象事業:「みんコレ!」医学生学習支援サービス
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2021年8月31日
ポイント
- 「みんコレ!」は医師国家試験の自己採点など医学生向け支援サービスとして発展。ユーザー数約1万7000人。
- メドピアが運営する医師コミュニティ「MedPeer」と連携することで、医療従事者を取り巻くサービス拡張が期待できる。山梨発のIT関連サービスが全国展開企業の傘下に入る好例。
19. 事例紹介(17):マツモトキヨシホールディングスによるイタヤマ・メディコ子会社化(2012年)
概要
- 買い手:マツモトキヨシホールディングス
- 売り手:イタヤマ・メディコ(山梨県甲府市)
- 事業内容:ドラッグストア10店舗
- 売上高:約16億9000万円
- 取得価額:非公表
- 取得日:2012年2月10日
ポイント
- もともと2003年に業務提携を結び、2007年にFC契約へと発展していた関係をより強化。
- ドラッグストア業界は寡占化が進む中で、地方の中堅チェーンを取り込む形で大型化が加速。甲信越地域のシェア拡大を狙った。
20. 事例紹介(18):メディアスホールディングスによるマコト医科精機子会社化(2023年)
概要
- 買い手:メディアスホールディングス
- 売り手:マコト医科精機(山梨県中央市)
- 売上高:約71億円
- 営業利益:約5200万円
- 純資産:約5億3600万円
- 取得価額:最終的には3億1600万円(取得株式65%、2024年3月1日予定)
- 取得予定:2024年2月→3月に変更
ポイント
- マコト医科精機は医療機器や画像診断装置、眼科・整形外科関連製品販売に強み。
- メディアスHDとの提携(2023年4月)を経て一体的な事業展開のため子会社化を決定。
- 山梨県でのシェア拡大や商品調達力の強化が期待される。
21. 事例紹介(19):ミダックホールディングスによる岩原果樹園子会社化(2022年)
概要
- 買い手:ミダックホールディングス
- 売り手:岩原果樹園(山梨県北杜市)
- 売上高:約8340万円
- 営業利益:約2750万円
- 純資産:約3070万円
- 取得価額:約1億3000万円
- 取得予定日:2022年11月30日
ポイント
- 岩原果樹園はサクランボや西洋ナシ、マスクメロンなど高原栽培に強み。
- 高齢化や労働力不足など、農業が抱える問題に大手企業の資本を導入して解決を図る事例。地方創生も視野に入ったM&Aとして注目。
22. 事例紹介(20):マキヤによるEC事業会社ユージュアルなど2社の子会社化(2024年)
概要
- 買い手:マキヤ
- 売り手:ユージュアル(東京都台東区)、PEAKS&TREES(東京都板橋区)
- 事業内容:EC(Amazon・楽天市場など)や自社商品の企画・販売
- 売上高:ユージュアル単体で約59億4000万円
- 営業利益:1億5500万円
- 純資産:1億800万円
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2024年2月26日
ポイント
- マキヤは山梨県を含む静岡・神奈川・埼玉で「エスポット」「ポテト」「mammy」など小売店舗を計103店展開。
- ECのノウハウを取り込み、店舗とECの連携によるシナジー創出を狙う。山梨県内の小売市場でもオンライン強化が課題となっている。
23. 事例紹介(21):バローホールディングスによる公正屋子会社化(2016年)
概要
- 買い手:バローホールディングス
- 売り手:公正屋(山梨県上野原市)
- 事業内容:食品スーパー5店舗
- 売上高:約72億7000万円
- 営業利益:約1億3200万円
- 純資産:約4億1400万円
- 取得価額:非公表
- 取得日:2016年8月25日
ポイント
- バローは中部・北陸を中心に店舗展開するスーパー大手。山梨県には2015年に進出したばかりで、公正屋の買収により地域密着度を高めた。
- 山梨東部地域の食品スーパーは地元の需要に大きく依存しているため、既存大手の買収により効率的にシェア拡大が可能となる。
24. 事例紹介(22):シダーによる介護付き有料老人ホーム事業の譲渡(2023年)
概要
- 売り手:シダー
- 対象事業:介護付き有料老人ホーム「ラ・ナシカやまなし」(山梨市)
- 定員:29人
- 売上高:約1億100万円
- 営業赤字:約2100万円
- 取得価額:非公表
- 譲渡予定日:2023年8月1日
ポイント
- 2012年開設以来、赤字が続き、シダーは業績改善の見込みが薄いと判断。
- 地域に必要な介護施設ではあるが、経営主体としての持続は難しく、譲渡先を募った結果、新たな企業が事業を引き継ぐことに。
25. 事例紹介(23):クオールホールディングスによるダイナの子会社化(2024年)
概要
- 買い手:クオールホールディングス
- 売り手:ダイナ(山梨県甲府市)
- 事業内容:調剤薬局18店舗
- 取得価額:非公表
- 取得日:2024年5月16日
ポイント
- クオールグループとしては山梨県初進出。
- ダイナはドライブスルー対応や健康チェックコーナーなどを積極導入してきた企業で、地域からの評価が高い。
- 調剤薬局の集約は全国的に進んでおり、山梨県における「クオール」ブランドの定着が期待される。
26. 事例紹介(24):ソルクシーズによるワイ・エス・アール子会社化(2009年)
概要
- 買い手:ソルクシーズ(子会社ノイマン)
- 売り手:ワイ・エス・アール(山梨県市川三郷町)
- 事業内容:自動車教習所向けソフトウエア(予約配車システム)開発
- 売上高:約5880万円
- 営業利益:約247万円
- 純資産:△938万円
- 取得価額:200円
- 取得予定日:2009年2月2日
ポイント
- 低価格ながらも教習所向けITシステムに特化した技術を評価し、ノイマンが全国の教習所に展開する教材ソフト「MUSASI」と連携する狙い。
- 山梨県は首都圏からのアクセスが比較的近い割に、地価や人件費などが都心ほど高くなく、IT事業拠点としても一定の魅力がある。
27. 事例紹介(25):シミックホールディングスによる富士ジネンテックファーム事業譲受(2012年)
概要
- 買い手:シミックホールディングス(子会社シミックバイオリサーチセンター)
- 売り手:富士ジネンテックファーム(山梨県北杜市)
- 事業内容:特定保健用食品や育毛剤などの安全性・機能性試験受託
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2012年6月1日
ポイント
- シミックバイオリサーチセンターは医薬品開発の非臨床試験受託を中心に展開。
- 健康食品や化粧品関連の受託も取り込むことで、ヘルスケア領域での受託ビジネス拡大を目指した。
- 北杜市は医薬品・化粧品分野の製造拠点が多く存在する点も特徴的。
28. 事例紹介(26):シミックホールディングスのMBOと山梨県への関わり(2023年)
概要
- シミックホールディングスがMBO(経営陣買収)を発表。
- 中村和男社長が設立した北杜マネージメント(山梨県北杜市)がTOBを実施。
- 最大337億1500万円を投じて株式を非公開化へ。
- シミックは1985年設立、日本初のCRO事業に乗り出した企業。
ポイント
- 山梨県北杜市に“北杜マネージメント”が設立され、そこが買収主体となる点が注目される。
- 山梨県との縁が深いシミックグループは、前述の富士ジネンテックファーム事業譲受や医薬品関連施設の誘致などでも地域に足がかりを持つ。
- 非公開化により、短期的な業績や株価の制約を受けず、海外事業や構造改革を進めやすくなると想定される。
29. 事例紹介(27):タケエイによる富士リバース子会社化(2014年)
概要
- 買い手:タケエイ
- 売り手:富士リバース(山梨県富士吉田市)
- 売上高:約10億4000万円
- 営業利益:約4950万円
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2014年10月15日
ポイント
- 富士リバースは剪定枝や廃木材の再生資源化を行う企業。
- タケエイは産業廃棄物のリサイクル事業を全国展開しており、生木系バイオマス発電など都市型バイオマス事業への参入も視野に入れる。
- 山梨県は森林資源も豊富であり、再生エネルギー事業が地域経済の活性化を後押しする可能性が高い。
30. 事例紹介(28):うかいによる河口湖うかい株式の売却(2011年)
概要
- 売り手:うかい
- 買い手:キャピタル・アドバイザリー(東京都港区)
- 対象会社:河口湖うかい(山梨県富士河口湖町)
- 事業内容:河口湖オルゴールの森の運営
- 売上高:約7億8600万円
- 営業利益:約2900万円
- 純資産:約1億7500万円
- 譲渡価額:2000万円
- 譲渡日:2011年3月29日
ポイント
- うかいは飲食事業や観光施設運営を行う企業だが、河口湖オルゴールの森は収益性が低下していた。
- 富士河口湖町の観光資源活性化に意欲的なキャピタル・アドバイザリーが買収を希望。
- 観光業の再編や投資ファンドの進出が山梨県でも活発化している事例といえる。
31. 事例紹介(29):こころネットによる喜月堂ホールディングス子会社化(2023年)
概要
- 買い手:こころネット
- 売り手:喜月堂ホールディングス(山梨県韮崎市)
- グループ4社合算売上高:約8億300万円
- 営業利益:約844万円
- 純資産:約13億4000万円
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2023年9月1日
ポイント
- 喜月堂HDはセレオ(葬祭会館3施設)、仕出し料理の四季、仏壇・仏具販売の喜月堂などを傘下に持つ葬祭事業グループ。
- こころネットは福島県を地盤とした葬儀チェーンで県外拡大を図っており、山梨県への進出により商圏拡大を見込む。
- 山梨県でも少子高齢化に伴い葬祭サービスの需要が変化しており、大手グループと地元企業の統合で地域社会に貢献する形が期待される。
32. 事例紹介(30):キユーピーによる富士吉田キユーピー株式の譲渡(2021年)
概要
- 売り手:キユーピー
- 買い手:はくばく(山梨県中央市)
- 対象会社:富士吉田キユーピー(山梨県富士吉田市)
- 売上高:約7億6500万円
- 保有株式51%を譲渡(残り49%は既にはくばく保有)
- 譲渡価額:非公表
- 譲渡予定日:2021年6月30日
ポイント
- 富士吉田キユーピーはかつてキユーピー100%子会社だったが2019年にはくばくへ49%譲渡。本件で完全にキユーピーグループから離脱。
- マヨネーズやベビーフードなどの製造は他のキユーピー工場に移管し、富士吉田キユーピーははくばくの下で別事業へ転換。
- 食品製造企業間の連携による地域資源の活用例といえる。
33. 事例紹介(31):キユーピーによる富士山仙水の売却(2013年)
概要
- 売り手:キユーピー
- 買い手:アサヒ飲料
- 対象会社:富士山仙水(山梨県富士吉田市)
- 事業内容:ミネラルウォーター製造・販売
- 売上高:約17億5000万円
- 譲渡価額:約10億円
- 譲渡予定日:2013年11月末
ポイント
- 富士山仙水は富士箱根国立公園内の水源を活用し、小型・大型ペットボトルを年間約450万箱生産。
- キユーピーがコア事業強化のために手放し、飲料大手アサヒグループが宅配水やミネラルウォーター事業拡大を狙う構図。
- 富士山麓の水ブランドが外部大手に渡り、県内の水資源ビジネスが再編される一例。
34. 事例紹介(32):アコーディア・ゴルフによるブリティッシュガーデンクラブ子会社化(2008年)
概要
- 買い手:アコーディア・ゴルフ
- 売り手:ブリティッシュガーデンクラブ(東京都渋谷区)
- 対象ゴルフ場:「ブリティッシュガーデンクラブ」(山梨県都留市)
- 営業収益:約4億6800万円
- 営業利益:約500万円
- 純資産:△1200万円
- 取得価額:非公表
- 取得日:2008年5月29日
ポイント
- 都留市は中央自動車道からのアクセスが良く、首都圏のプレーヤー誘致が期待できる立地。
- アコーディア・ゴルフは収益改善が見込めるゴルフ場を積極買収し、全国展開を推進していた。
35. 事例紹介(33):アコーディア・ゴルフによる水府ゴルフクラブ運営会社の譲渡(2016年)
概要
- 売り手:アコーディア・ゴルフ(子会社保有株式)
- 買い手:セフティ・グリーン(山梨県甲斐市)
- 対象会社:水府ゴルフクラブ(茨城県常陸太田市、18ホール)
- 売上高:約2億6700万円
- 営業利益:約2400万円
- 譲渡価額:非公表
- 譲渡日:2016年3月1日
ポイント
- 買い手であるセフティ・グリーンは環境コンサルタント事業を手がける山梨県の企業。ゴルフ場を取得し再建や活性化を図る狙いか。
- アコーディアはポートフォリオ戦略の一環として不要資産を売却。地方のゴルフ場運営の難しさが見える事例。
36. 事例紹介(34):アクシージアによるユイット・ラボラトリーズの子会社化(2022年)
概要
- 買い手:アクシージア
- 売り手:千趣会(ユイット・ラボラトリーズの親会社)
- 対象会社:ユイット・ラボラトリーズ(山梨県北杜市)
- 売上高:約7億1700万円
- 営業利益:約1100万円
- 純資産:約7億2700万円
- 取得価額:8億6000万円
- 取得予定日:2022年4月1日
ポイント
- アクシージアはエイジングケア化粧品などニッチ市場で急成長している企業。
- ユイット・ラボラトリーズのOEM製造ノウハウや八ヶ岳の天然水資源を活用したスキンケア開発力を取り込み、自社の研究・生産体制を強化。
37. 事例紹介(35):KDDIによる宅配水事業の「富士山の銘水」への譲渡(2020年)
概要
- 売り手:KDDI
- 買い手:富士山の銘水(山梨県富士吉田市)
- 対象事業:一般ユーザー向け宅配水事業(売上8億1100万円)、auユーザー向け宅配水事業(売上27億4500万円)
- 譲渡価額:合計10億9900万円
- 譲渡予定日:一般向け…2020年11月1日、au向け…2021年2月1日
ポイント
- KDDIは2015年から富士山の銘水と共同で「フレシャス」などの宅配水事業を行っていたが、事業選択と集中により撤退を決定。
- 富士山の銘水は宅配水専業でブランド力があり、KDDIに代わって顧客基盤を継承。山梨県富士吉田市の水を全国に展開する体制をさらに強化。
38. 事例紹介(36):FUJIによるファスフォードテクノロジ子会社化(2018年)
概要
- 買い手:FUJI(工作機械・産業用ロボットメーカー)
- 売り手:ファスフォードテクノロジ(山梨県南アルプス市)
- 売上高:約92億8000万円
- 営業利益:約7億3300万円
- 純資産:約30億9000万円
- 取得価額:219億円
- 取得予定日:2018年8月31日
ポイント
- ファスフォードテクノロジは日立ハイテクグループから分割・譲渡されて設立された半導体後工程の装置メーカー。
- FUJIは電子部品実装ロボットで世界的シェアを持つ企業であり、半導体後工程への進出は事業領域拡大につながる。
- 山梨県南アルプス市の製造業集積や技術者確保の面での優位性が注目された。
39. 山梨県における今後のM&A展望
山梨県では、水資源や農産物、観光資源など独自の強みを持つ一方、人口減少や高齢化、アクセスや流通の課題を抱えています。そのため、以下のような領域でのM&Aが今後も増加・活性化する可能性が高いです。
- 食品・飲料事業の再編
- 富士山の水や果物を活用したジュース・ワインなどの飲料製造に注目が集まる。
- 小売・外食大手が地域ブランドを獲得するケースも増える可能性がある。
- 医療・介護・調剤薬局業界の集約
- 少子高齢化の進行とともに医療・介護体制の強化が必須。大手が地域の企業を買収するパターンや、事業承継問題を解決するためにM&Aが加速することが見込まれる。
- 製造業の拠点再編・技術投資
- 半導体関連や精密機器、医薬品・化粧品分野での生産拠点として、山梨県内の工場が大手メーカーの戦略拠点となる事例がさらに増える可能性がある。
- 観光業やゴルフ場などの施設再編
- インバウンドや国内観光の需要変動に伴い、運営に行き詰まった施設の買収や再生ファンドの参入が進む可能性がある。
- 農業・果樹園・6次産業化の推進
- 後継者不足の果樹園や、付加価値の高い農産物を抱える企業への出資・買収ニーズが高まると思われる。
40. まとめ
本記事では、山梨県内で実施された多岐にわたるM&A事例を通じて、同県における企業買収・事業譲渡の特徴と背景を俯瞰してきました。山梨県は首都圏に近く交通の利便性を有する一方、県内企業の規模は比較的小さく、後継者不足や収益体質の弱さからM&Aのニーズが高まりやすい土壌です。
一方で、豊富な自然資源とブランド力の高い水、フルーツなどの農産物、観光産業といった独自の強みを持つ企業も多いため、大手企業がそれらを取り込む形での買収が進む事例がみられます。さらに、半導体や精密機器、化粧品、医薬品分野などの製造業が集積するエリアもあり、戦略的な事業拡大を狙う企業の進出先となるケースも増えています。
人口減少・高齢化が顕著な地方経済を支えるうえで、山梨県におけるM&Aは今後ますます重要な役割を果たすと考えられます。
- 事業承継や企業の存続確保
- 経営の効率化と安定化
- 地域インフラ維持(タクシーや介護、医療など)
- 新技術や資本の導入による地域活性化
これらを実現するうえで、M&Aは効果的な選択肢の一つです。売り手企業にとっては従業員の雇用維持や事業の継続を確保する手段となり、買い手企業にとっては新市場や新技術の取り込み、事業ポートフォリオの強化につながります。
今後も山梨県内におけるM&Aは、後継者不在への対応や業界再編、観光需要の変化、農業の高度化、地域ブランドの活用など多方面にわたって活発化する可能性があります。地域経済の活力を維持・向上させるうえでも、県内企業や自治体、金融機関などが連携し、スムーズかつ効果的なM&Aを支援していくことが求められるでしょう。
以上、山梨県の多彩なM&A事例を俯瞰しながら、その背景や意義を整理いたしました。今後も県内外の動向を注視し、地域に根ざした企業の価値向上や、県全体の産業活性化に寄与するようなM&Aが増えていくことが期待されます。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。