- 1. はじめに:山口県におけるM&Aの特徴
- 2. 県内事業者のタクシー業再編:第一交通産業によるタクシー会社子会社化
- 3. 製造業・工場関連のM&A動向
- 4. 食品・外食産業関連のM&Aと山口県
- 5. バイオマス・再生可能エネルギー分野の動き
- 6. 金融機関・保険代理店に関するM&A
- 7. 廃プラスチック・リサイクル関連のM&A
- 8. 旅館・ホテル業の再編とMBOの事例
- 9. キッチン用品・工業ゴム部品製造のM&A
- 10. スーパーマーケット・ディスカウントストア業界の動向
- 11. 大手素材メーカーの動向
- 12. 食品スーパー事業における選択と集中
- 13. 製造・建材関連事業の譲渡・買収
- 14. 山口県に本社を置くスーパーマーケットのM&A動向
- 15. 鋼管事業の再編
- 16. その他サービス業のM&A
- 16-1. 健康コーポレーションによるスポーツアカデミーのゴルフ練習場取得(2013年4月22日)
- 16-2. フルサト・マルカホールディングスによるティーエス プレシジョンの子会社化(2023年7月19日)
- 16-3. ミナトHDによるリバースの子会社化(2023年3月23日)
- 16-4. ハマキョウレックスによる千代田運輸の子会社化(2017年2月22日)
- 16-5. ファミリーマートによるココストアリテール譲渡(2015年11月30日公表)
- 16-6. ビッグモーターによるハナテンのTOB(2015年12月16日公表)
- 16-7. マルハニチロHDによる大興製凾の譲渡(2008年2月25日)
- 16-8. マルカキカイによる北九金物工具の子会社化(2017年12月1日)
- 16-9. フランスベッドHDによるホームケアサービス山口の子会社化(2021年11月30日)
- 16-10. ココカラファインによる岩崎宏健堂の子会社化(2013年9月30日)
- 16-11. タイセイによる周陽商事の子会社化(2014年12月25日)
- 16-12. ソフィアHDの調剤薬局買収(エイエムファーマ等)の中止事例
- 17. すかいらーくHDによる「資さんうどん」買収と外食産業
- 18. ソフトウエア企業の買収
- 19. 風力発電関連の事例
- 20. ドラッグストア事業の拡大と県内未進出エリア
- 21. オートバックスセブンによるユニックスの子会社化(2012年3月29日)
- 22. 小売企業の再編動向
- 23. 住宅・不動産事業の動向
- 24. 医薬品卸売事業の事例
- 25. イオンの山口県企業買収事例
- 26. アルファクス・フード・システムのホテル事業譲渡(2022年11月29日公表)
- 27. REVOLUTIONの賃貸管理事業譲渡(2023年6月23日)
- 28. THE WHY HOW DO COMPANYの宇部整環リサイクルセンター子会社化(2023年8月29日)
- 29. アイザワ証券グループと西京銀行の業務提携・事業取得(2023年4月28日)
- 30. Jトラストと西京カードをめぐる複数の動き
- 31. カネコ種苗によるベルデ九州子会社化(2010年2月2日)
- 32. まとめ:山口県M&Aの全体像と今後の展望
1. はじめに:山口県におけるM&Aの特徴
山口県は中国地方最西端に位置し、本州と九州の結節点ともいえる地理的優位を持つ地域です。下関市をはじめとした県西部は九州との往来が比較的活発であり、物流・交通の要所としての機能を果たしてきました。一方、県東部には広島県とのつながりが深いエリアがあり、そうした立地面からも多様な産業が集積しています。
山口県の産業構造としては、化学工業やセメントなどの基幹素材産業、自動車関連部品などの製造業、造船・港湾事業を中心とした重工業、さらに瀬戸内海・日本海に面する漁業や農業、観光業なども存在します。各産業は比較的長い歴史を持ち、県内だけでなく全国的にも一定の評価を得てきました。
しかし、近年は国内市場の縮小や人手不足などの構造変化に対応する必要性が高まっています。そこで多くの企業がM&Aを通じて競争力の強化や経営資源の集中を図り、あるいは事業承継の観点から第三者に会社を譲り渡すケースが相次いでいます。本記事では、主に2008年以降に公表された山口県に関連するM&A事例を概観し、その特徴や狙いを整理してみたいと思います。
2. 県内事業者のタクシー業再編:第一交通産業によるタクシー会社子会社化
2-1. 柳井タクシーの子会社化(2011年12月1日)
第一交通産業<9035>は2011年12月1日、山口県柳井市に本社を置く柳井タクシーの全株式を取得し、子会社化しました。取得後は社名を柳井第一交通に変更しています。柳井タクシーは25台の車両を保有しており、この買収により第一交通産業が山口県内で保有するタクシー台数は276台、グループ全体では6934台となりました。
第一交通産業は全国的にタクシー事業を展開しており、山口県においても積極的な拡大策をとることで地域の交通インフラを担ってきました。実際、同県では高齢化が進展し、公共交通機関の維持が課題となる地域が多く、タクシー事業者の統合・再編は重要なテーマとなっています。今回のM&Aは、こうした背景に沿ってタクシー網の効率化とサービス水準の維持向上を図るものといえます。
2-2. 玖珂駅構内タクシーの子会社化(2020年2月12日)
同じく第一交通産業は2020年2月12日、玖珂駅構内タクシー(山口県岩国市)の全株式を取得し子会社化しました。玖珂駅構内タクシーは1963年設立で6台を保有。これにより、山口県内での第一交通グループのタクシー体制は6社277台となっています。
山口県は広くて公共交通が行き届きにくいエリアも存在するため、タクシー事業のローカル展開には一定の需要があります。これら買収は、地域住民の「足」の確保という観点でも意味があるとみられます。
2-3. ゴトウタクシーの子会社化(2010年12月1日)
さらに第一交通産業は2010年12月1日に、山口県下関市のゴトウタクシーの全株式を取得しました。車両台数26台を有する同社を子会社化することで、山口県内でのタクシー保有台数は259台、グループ全体では7114台となりました。
連続したタクシー会社の買収は、山口県内の過疎化や乗務員不足などに対処しつつ、運賃やサービスにおける一元化による経営効率化を狙う面が大きいです。地方タクシー会社の後継者不足も背景にあると推察されます。
3. 製造業・工場関連のM&A動向
3-1. 日本ガイシによる日鉄住金エレクトロデバイス子会社化(2014年9月3日公表)
日本ガイシ<5333>は2014年9月3日、新日鉄住金(現・日本製鉄)傘下でセラミックパッケージなどの電子工業用セラミックスを製造・販売する日鉄住金エレクトロデバイス(山口県美祢市)の全株式を取得し子会社化すると発表しました。同社は売上高245億円を計上しており、自動車の電子化や情報通信機器の多機能化などを背景に、今後も需要増が見込まれています。日本ガイシにとってはセラミックス事業の拡大が狙いであり、山口県の工場・拠点を活用しつつ研究開発や生産体制を強化する意味があったとみられます。
3-2. 藍澤證券による八幡証券子会社化(2013年5月24日)
藍澤證券<8708>は2013年5月24日、広島市に本社を置く八幡証券の全株式を取得し子会社化しました。八幡証券は広島県・山口県に10店舗を展開しており、営業収益9億9100万円、営業利益9500万円、純資産37億9000万円という規模です。藍澤證券は首都圏が主力ですが、従来未開拓だったエリアに進出することで顧客基盤を拡大したい狙いがありました。山口県への進出は、中四国地域のさらなる顧客獲得にもつながります。
3-3. 日本風力開発による平生風力開発の譲渡(2012年10月30日公表)
日本風力開発<2766>は2012年10月30日、風力発電事業を手がける子会社の銚子風力開発など3社を売却すると発表しました。そのうちの一社が平生風力開発(山口県平生町)です。平生風力開発は売上高1億7100万円、営業利益△2800万円、純資産6200万円であり、日本風力開発が99.8%の株式を保有していました。譲渡先は大阪ガス傘下のガスアンドパワー(大阪市)で、譲渡価額は約3億円。業績不振に伴う財務体質の悪化への対応として、風力発電所の一部を売却し有利子負債圧縮を図った事例です。山口県は風力発電に適した地域もある一方、採算確保の難しさが課題であり、M&Aによる再編は今後も続くと見られています。
3-4. 倉元製作所によるFILWEL譲渡・センサー事業の譲渡(2016年1月5日公表、2017年7月31日公表)
倉元製作所<5216>は2016年1月5日、完全子会社のFILWEL(山口県防府市)をアスパラントグループSPC3号に譲渡すると発表。譲渡価額は38億9000万円にのぼりました。FILWELは超精密研磨加工用パッドや人工皮革素材を製造していたが、倉元製作所は主力のガラス基板事業に経営資源を集中させるために決断したとされています。
また翌2017年7月31日には、センサー・圧電事業をJRCS(山口県下関市)に譲渡。対象事業売上高はセンサー事業4800万円、圧電事業800万円と規模は小さいものの、厳しい経営環境下において再び本業へ資源を集中する意思決定がなされました。山口県企業への譲渡が実現したことで、地元企業間のシナジーも期待されます。
4. 食品・外食産業関連のM&Aと山口県
4-1. 神戸物産によるターメルトフーズの子会社化(2008年3月14日)
神戸物産<3038>は2008年3月14日、食品製造業のターメルトフーズ(山口県防府市)の全株式を取得し、子会社化すると発表しました。同社は売上高約4億9800万円ながらも赤字を計上していましたが、中国からの冷凍食品に対する不信感が高まる中、国内製造拠点の確保を狙う神戸物産と、神戸物産の仕入れルートを活用した拡販を目指すターメルトフーズの思惑が一致したかたちです。取得価額が0円とされたことからもわかるように、当時の食品安全問題の影響で海外調達のリスクが増大し、国内で安定供給をできる加工食品工場を求める動きが活発化していました。
4-2. 東洋紡による武生工場の柳井化学工業への譲渡(2012年10月15日)
東洋紡<3101>は2012年10月15日、ファインケミカル事業で武生工場(福井県)の資産を柳井化学工業(山口県柳井市)に会社分割(吸収分割)で譲渡すると決議しました。柳井化学工業は富士紡ホールディングスの完全子会社で、売上高63億700万円、営業利益4億1500万円、純資産9億100万円と健全な事業基盤を持ち、化学品中間体の受託製造を拡大する方針でした。東洋紡としては医薬・農薬中間体の生産拠点を見直す中で、武生工場の譲渡が合理的選択だったと考えられます。
4-3. 平山ホールディングスによる平和鉄工所の子会社化(2018年11月30日)
平山ホールディングス<7781>は2018年11月30日、山口県下関市の機械・機具製造会社である平和鉄工所の全株式を取得し子会社化しました。同社は鉄道会社向け産業機械部品や化工機械部品、船舶機械部品を製造しており、売上高2億7400万円を計上しています。平山HDは製造業の人材派遣や請負ビジネスを主力とするため、この買収により技術力と人材育成のノウハウを拡充し、さらなる受注獲得を目指す狙いがあります。山口県は造船所や化学プラントなど重厚長大産業を抱えており、部品製造に強みをもつ企業の存在が大きい地域です。
5. バイオマス・再生可能エネルギー分野の動き
5-1. 燦キャピタルマネージメントによる山陽小野田バイオマス燃料供給の子会社化(2022年6月21日)
燦キャピタルマネージメント<2134>は2022年6月21日、山口県山陽小野田市で竹材・木材チップ製造を行う山陽小野田バイオマス燃料供給の株式50.86%を取得し、子会社化すると発表しました。西松建設の子会社である山陽小野田グリーンエナジーへの木質バイオマス燃料供給を主目的としています。山口県は森林資源が豊富な部分もあり、竹材や木材を利用したバイオマス発電事業が注目されており、再生可能エネルギー分野でのM&Aも今後増加が見込まれます。
6. 金融機関・保険代理店に関するM&A
6-1. 山口フィナンシャルグループによる保険ひろばの子会社化(2016年9月26日)
山口フィナンシャルグループ<8418>は2016年9月26日、保険の乗り合い代理店を運営する保険ひろば(山口県周南市)の全株式を取得し子会社化すると決定しました。保険ひろばはショッピングセンター内への出店を軸に全国展開しており、売上高18億2000万円を計上。地銀グループである山口フィナンシャルグループが保険販売を強化することで、地域金融機関としてのサービス幅を拡充し、顧客のライフプランを総合的にサポートする狙いがあります。
6-2. ワイエムリースの子会社化(2014年12月5日)
同グループはリース事業の再編として、持ち分法適用関連会社だったワイエムリース(山口県下関市)の株式を追加取得し子会社化しました。従来29%の所有割合を55%(議決権ベース60%)まで引き上げ、金融サービスの強化を図っています。山口県内での産業支援や設備投資需要を取込むために、リース事業の存在は大きいといえます。
7. 廃プラスチック・リサイクル関連のM&A
7-1. 北日本紡績による金井産業の子会社化(2021年10月4日公表)
北日本紡績<3409>は2021年10月4日、プラスチック製造や産業廃棄物リサイクルを手がける金井産業(山口県周南市)の全株式を取得すると発表しました。売上高9300万円と小規模ながらも、プラスチックリサイクル事業への新規参入を図る北日本紡績にとって、金井産業の産廃収集運搬業許可や中間処理設備が大きなアドバンテージとなります。サステナビリティ重視の時代背景の中、リサイクル事業は今後も注目される領域です。
8. 旅館・ホテル業の再編とMBOの事例
8-1. 鴨川グランドホテルのMBO(2021年12月10日公表)
鴨川グランドホテル<9695>は2021年12月10日、国内投資ファンドの日本産業推進機構(NSSK)の傘下企業によるTOBを受け、MBO(経営陣買収)を実施し株式を非公開化すると発表しました。鴨川グランドホテルは千葉県に本社を置きながら、山口県下関市で「ホテル西長門リゾート」を運営しており、新型コロナウイルスの感染拡大で観光需要が急減した影響を受けていました。ファンドの支援を得て経営を立て直す狙いが強調されており、県内の観光施設存続にも直結する重要な動きとなりました。
9. キッチン用品・工業ゴム部品製造のM&A
9-1. 三光産業によるベンリナーと五反田ゴム工業の子会社化
三光産業<7922>は2022年12月22日、野菜調理器メーカーのベンリナー(山口県岩国市)を子会社化したと発表しました。売上高4億900万円、営業利益5330万円、純資産5億7200万円と堅調で、世界30カ国に輸出しているグローバルな企業です。野菜スライサーで高いシェアを誇り、日本の製造技術を活かして海外売上が7割を占めています。
さらに三光産業は2023年8月10日に、工業用ゴム製品を製造する五反田ゴム工業(広島県北広島町)を子会社化しました。五反田ゴム工業が持つ自動車用防振ゴムやガスケット類の技術を、ベンリナーの製造工程や三光産業全体の事業拡大に活かす狙いがあるとされています。山口県岩国市に拠点を置くベンリナーと相互協力を期待している点も興味深いポイントです。
10. スーパーマーケット・ディスカウントストア業界の動向
山口県は中小スーパーの競争が激化しており、大手資本との経営統合や、周辺県をまたぐ広域展開を行う企業連合が増加しています。ここでは、リテールパートナーズや丸久などを中心とした動きを見てみましょう。
10-1. リテールパートナーズ周辺の事例
(1) マルミヤストアによる小野商店(セルフおの)の店舗取得(2021年2月24日公表)
リテールパートナーズ<8167>の子会社マルミヤストア(大分県佐伯市)は、大分県宇佐市の小野商店が運営する「セルフおの安心院店」「セルフおの院内店」を2021年3月25日に取得しました。山口県企業ではないものの、リテールパートナーズ自体は山口県の丸久を中核としています。大分県・福岡県・熊本県など九州にも店舗網を広げており、広域化による収益力強化を図っています。
(2) ハツトリー(フーデリー)5店舗の子会社化(2023年2月27日公表)
リテールパートナーズは、丸久を通じて宮崎市で高級食品スーパー「フーデリー」を展開するハツトリー(売上高77億4000万円)を子会社化する方針を決定しました。九州南部への出店拡大を狙い、物流面のシナジー効果を見込んでいます。山口県地盤の丸久・大分県地盤のマルミヤストア・福岡県地盤のマルキョウによる連合体は、地域スーパー再編の一つの成功例といえます。
(3) マルキョウとの経営統合(2017年3月1日)
リテールパートナーズとマルキョウ<9866>は2017年3月1日に経営統合を実施。リテールパートナーズを完全親会社、マルキョウを完全子会社とする株式交換により、九州・山口エリアで強い事業基盤を築いています。これは2015年に丸久(山口県)とマルミヤストア(大分県)が統合して発足したリテールパートナーズが、マルキョウ(福岡県)を取り込むことで売上高約2300億円、経常利益75億円規模のスーパーグループへと成長した事例です。
10-2. 原弘産のグループ企業再編
原弘産<8894>は不動産業を中心に手掛けていましたが、事業悪化に伴い子会社の売却を進めました。2008年10月10日には分譲マンション販売のエストラスト(山口県下関市)の全株式をMBOにより譲渡し、2009年7月21日には環境関連機器製造の住吉重工業(山口県下関市)を無償譲渡。財務体質の改善を優先した選択といえます。元々山口県下関市に基盤を持つ企業グループでしたが、経営再建のため周辺事業の売却が相次ぎました。
11. 大手素材メーカーの動向
11-1. 宇部興産と三菱マテリアルのセメント事業統合(2020年2月12日/2022年4月)
宇部興産<4208>(現・UBE)と三菱マテリアル<5711>は2022年4月にセメント事業を統合することで合意しました。両社が折半出資で新会社を設立し、売上高約6000億円規模となる予定です。国内セメント需要の縮小やエネルギーコスト上昇に対応するため、生産・物流両面での合理化を図る狙いがあります。山口県宇部市に長い歴史を持つ宇部興産が、セメント事業を切り離してグローバル化学メーカーとして再編を進める一環とも言えます。
同時に宇部興産は2022年4月1日に社名を「UBE」に変更。機械事業分社化やセメント事業分離が完了し、化学事業をコアとした企業として新たな出発を迎えています。
11-2. 出光興産による西部石油の子会社化(2022年6月14日)
出光興産<5019>は2022年6月14日、石油製品製造・販売の西部石油(東京都千代田区。山口県山陽小野田市に製油所)について、株式28.9%を追加取得し持株比率を66.9%に引き上げ、子会社化しました。2024年3月末で山口製油所の精製機能を停止する計画で、その後の跡地活用や新事業開拓を念頭に置いているとみられます。山口県にとって製油所の休止は雇用や関連産業への影響も大きく、今後の跡地利用や企業誘致が課題になるでしょう。
12. 食品スーパー事業における選択と集中
12-1. 丸和の持ち帰り寿司事業をらららへ譲渡(2010年12月20日公表)
丸和<9874>は2010年12月20日、子会社リテイル・アドバンテージが運営する「季咲楽(きさら)」の持ち帰り寿司29店舗を、佐賀市のらららに譲渡すると発表しました。11億4000万円の売上がある事業でしたが、譲渡価額は1700万円と小額。選択と集中を進めるため、持ち帰り寿司事業から撤退し食品スーパー運営に注力する姿勢がうかがえます。
12-2. やまやによる明治屋産業の酒販事業取得(2012年8月9日)
やまや<9994>は2012年8月9日、明治屋産業(福岡市)が福岡県や山口県で展開していた酒類販売店12店舗を取得すると発表。やまやはすでに九州・福岡市内に2店舗保有していましたが、この取得によってエリアシェアを拡大しました。一方、明治屋産業は食肉・デリカ事業に集中するため、酒販事業を譲渡した形です。山口県を含む九州北部は、酒類需要が比較的高い市場とされ、やまやにとって店舗網拡大が重要でした。
13. 製造・建材関連事業の譲渡・買収
13-1. 信越ポリマーの塩ビ管・継手事業を積水化学工業へ譲渡(2023年9月8日公表)
信越ポリマー<7970>は2023年9月8日、塩化ビニール管・継手事業を積水化学工業<4204>とそのグループ会社(徳山積水工業、ヴァンテック)の3社に譲渡すると決めました。徳山積水工業は山口県周南市に拠点を置き、事業継承後は同地域での生産強化が図られる見込みです。信越ポリマーにとっては樹脂成形など主力事業への経営資源集中が狙いであり、建材分野でのシェア拡大を進める積水化学工業グループにとっても、供給体制の拡充につながります。
14. 山口県に本社を置くスーパーマーケットのM&A動向
14-1. 丸久によるピクロスの子会社化(2008年3月17日)
丸久<8167>は2008年3月17日、山口県平生町(現・周南市)を地盤にスーパー8店舗を展開するピクロスを子会社化することを決議しました。丸久が保有する自己株式の第三者割当増資と引き換えに、ピクロス株式68.27%を取得。4億1500万円相当の自社株式を交付する方法です。山口県における地域スーパー再編が進む一例といえます。
14-2. 中央フードの子会社化(2014年7月4日)
丸久は2014年10月上旬をめどに、山口県岩国市を中心にスーパー10店舗を展開する中央フードの株式64.2%、ならびに中央商事の全株式を取得し、実質的に中央フードを100%子会社化すると発表しました。山口県西部での事業基盤強化が意図された動きで、県内におけるドミナント戦略をさらに強化する狙いがあります。
14-3. マルミヤストアとの経営統合(2015年7月1日)
丸久とマルミヤストア<7493>は2015年7月1日付で株式交換を行い、持ち株会社リテールパートナーズ(旧・西日本リテール・パートナーズ)を発足させました。双方のノウハウ共有や店舗運営効率化によって売上1200億円規模の流通グループが誕生し、その後のマルキョウ統合につながっていきます。
15. 鋼管事業の再編
15-1. 丸一鋼管によるコベルコ鋼管の子会社化(2019年11月27日公表)
丸一鋼管<5463>は2019年11月27日、神戸製鋼所傘下のコベルコ鋼管(山口県下関市)の全株式を取得すると発表しました。取得価額は約138億円。コベルコ鋼管はシームレスステンレス鋼管の専業メーカーで配管・熱交換機用などで高い技術力を誇ります。国内溶接鋼管トップの丸一鋼管が新分野のシームレス管に進出することで、製品ラインナップ拡充を目指したM&Aとなりました。
16. その他サービス業のM&A
16-1. 健康コーポレーションによるスポーツアカデミーのゴルフ練習場取得(2013年4月22日)
健康コーポレーション<2928>(現・RIZAPグループ)は2013年4月22日、スポーツアカデミー(東京都新宿区)が運営する山口県下関市のスポーツクラブとゴルフガーデン事業を取得。RIZAP事業とのシナジーを狙い、フィットネス関連の裾野拡大を進める動きの一環でした。
16-2. フルサト・マルカホールディングスによるティーエス プレシジョンの子会社化(2023年7月19日)
フルサト・マルカHD<7128>はナブテスコ<6268>傘下のフォーミングマシン製造会社ティーエス プレシジョン(山口県岩国市)を子会社化することを発表しました。EV関連分野への展開を進めるなかで、自動車モーター部品やバッテリー部品の量産を手掛けられる技術を取得できる点が大きなメリットとなります。
16-3. ミナトHDによるリバースの子会社化(2023年3月23日)
ミナトホールディングス<6862>は、Webサイト制作や動画制作を手がけるリバース(山口市)の全株式を取得し子会社化すると決定。地方拠点展開と技術シナジーを求めるM&Aです。山口市拠点で地方公共団体などの案件を手掛ける企業をグループに取り込むことで、地元市場の開拓が期待できます。
16-4. ハマキョウレックスによる千代田運輸の子会社化(2017年2月22日)
ハマキョウレックス<9037>は協和発酵キリン<4151>の物流子会社である千代田運輸(山口県防府市)の全株式を取得。医薬品・食品・自動車産業向けに山口・福岡で物流センターを運営してきた千代田運輸のノウハウを吸収し、中国地方での物流体制を強化しています。
16-5. ファミリーマートによるココストアリテール譲渡(2015年11月30日公表)
ファミリーマート<8028>は、九州・山口県下関市を中心に「RICマート」を展開するココストアリテール(福岡県大野城市)をミツウロコグループHD<8131>に譲渡すると発表。ファミリーマートがココストアを取得した際、ボランタリーチェーン事業は切り離して売却を決めたものです。山口県では下関市を中心にチェーンを有していました。
16-6. ビッグモーターによるハナテンのTOB(2015年12月16日公表)
中古車販売のビッグモーター(山口県岩国市)は、傘下のハナテン<9870>に対してTOBを実施し完全子会社化しました。ハナテンは大阪府拠点の中古車買い取り会社として知られていますが、ビッグモーターが70.6%保有株式を100%に引き上げるためにTOBを行いました。中古車流通業界での経営基盤強化を象徴する動きでしたが、その後ビッグモーターは全国的に店舗網を拡大しています。
16-7. マルハニチロHDによる大興製凾の譲渡(2008年2月25日)
マルハニチロホールディングス<1334>は2008年2月25日、段ボール製造販売会社の大興製凾(山口県下関市)をレンゴー<3941>に譲渡しました。これも水産業中心の同社がコア事業に集中するため、周辺事業を手放すケースの一つです。
16-8. マルカキカイによる北九金物工具の子会社化(2017年12月1日)
マルカキカイ<7594>は2017年12月1日、工場向け機械工具を販売する北九金物工具(福岡県北九州市)の全株式を取得。福岡県と隣接する山口県を含む九州北部の自動車産業や工場需要の取り込みを狙っています。
16-9. フランスベッドHDによるホームケアサービス山口の子会社化(2021年11月30日)
フランスベッドホールディングス<7840>は2021年11月30日、山口県下関市に拠点を持つ福祉用具販売・レンタルのホームケアサービス山口を子会社化。介護分野の拡充が狙いであり、高齢化が進む山口県での需要を取り込みたい考えです。
16-10. ココカラファインによる岩崎宏健堂の子会社化(2013年9月30日)
ココカラファイン<3098>は2013年9月30日、岩崎宏健堂(山口県周南市)の株式を取得し子会社化しました。山口県や広島県にドラッグストアを展開する同社を傘下に収めることで、地域支援や店舗ネットワークを強化しています。
16-11. タイセイによる周陽商事の子会社化(2014年12月25日)
タイセイ<3359>は2015年1月5日に、製菓・製パン用食材卸の周陽商事(山口県下松市)を買収し、ネット販売と組み合わせたシナジーを狙いました。山口県内の配送網を活かして地域深耕をはかる事例です。
16-12. ソフィアHDの調剤薬局買収(エイエムファーマ等)の中止事例
ソフィアホールディングス<6942>は調剤薬局事業の拡大を進めていましたが、2019年1月19日に発表した山口県宇部市のエイエムファーマ(売上高2億2000万円)の全株式取得を、最終契約前に中止しました。重大な表明保証違反が確認されたためで、M&Aが必ずしも成立するわけではない例と言えます。
17. すかいらーくHDによる「資さんうどん」買収と外食産業
2024年9月6日、すかいらーくホールディングス<3197>は北九州発祥の「資さんうどん」を展開する資さん(本社・北九州市)の全株式を取得し子会社化すると発表しました。山口県にも進出しており、福岡県・九州各県、山口県、岡山県、兵庫県、大阪府で70店舗超を展開しています。すかいらーくが地方発の人気チェーンを買収することで、新たな成長ドライバーを獲得するとともに、関東など他エリアへの拡大にも意欲を示しています。
18. ソフトウエア企業の買収
18-1. コアコンセプト・テクノロジーによるピージーシステムの子会社化(2023年5月12日)
コアコンセプト・テクノロジー<4371>は2023年5月12日、山口県宇部市でソフトウエア受託開発を行うピージーシステムの全株式を3億1000万円で取得し子会社化すると発表しました。宇部市の企業を傘下に収めることで、地方における開発拠点拡大やエンジニア獲得を進めるとともに、デジタルトランスフォーメーション需要に対応する狙いがあります。
19. 風力発電関連の事例
19-1. きんでんによるCEF白馬ウインドファーム、CEF白滝山ウインドファームの子会社化(2009年3月31日)
きんでん<1944>は2009年3月31日、風力発電事業会社CEF白馬ウインドファーム(和歌山県)およびCEF白滝山ウインドファーム(山口県下関市)の全株式を取得しました。風力発電所の建設工事を請け負った縁もあり、電力販売ビジネスを展開するために出資を行った形です。山口県は沿岸部に風力に適した地域が多く、再生可能エネルギー関連M&Aが一定数散見されます。
20. ドラッグストア事業の拡大と県内未進出エリア
20-1. ウエルシアHDによるふく薬品の子会社化(2022年7月22日)
ウエルシアホールディングス<3141>は2022年7月22日、沖縄県のふく薬品を子会社化することを発表。これにより沖縄県への初進出が実現し、未出店エリアは山口県・鹿児島県のみとなりました。山口県への将来的な進出はまだ発表されていませんが、全国展開を目指すドラッグストア業界の中で、山口県が最後の空白地帯の一つとして注目される可能性があります。
21. オートバックスセブンによるユニックスの子会社化(2012年3月29日)
オートバックスセブン<9832>は2012年3月29日、山口県防府市で「オートバックス」6店舗を運営するユニックスの全株式を取得すると決議しました。フランチャイズチェーンの強化、整備事業や車両販売への取り組みを加速する狙いとみられます。地方のフランチャイジーを買収する事例は、ブランド力維持やサービスの標準化の観点からも有効とされています。
22. 小売企業の再編動向
22-1. フジによるスーパーふじおか・ニチエーの子会社化
フジ<8278>は愛媛県を中心に四国4県や山口県・広島県に店舗を展開しています。2012年には広島県のスーパーふじおかの事業を取得、2020年1月には広島県のニチエー(福山市)の事業を子会社化すると発表しました。山口県にも出店基盤があり、今回の買収は広島県備後地区のシェア向上を狙うものであり、既存の山口県事業との物流連携も期待できます。
23. 住宅・不動産事業の動向
23-1. エストラストによる建和住宅子会社化(2023年1月16日公表)
エストラスト<3280>は2023年1月16日、山口県下関市の建和住宅の全株式を取得すると発表しました。建和住宅は戸建住宅建設を手掛けており、売上高14億円程度。マンションデベロッパーであるエストラストが戸建分野を強化することで、山口県や九州主要都市での住宅供給を拡大する狙いがあります。もともとエストラスト自身も山口県下関市発祥であり、原弘産からのMBOを経て独立企業として上場していました。
24. 医薬品卸売事業の事例
24-1. アルフレッサHDによる常盤薬品の完全子会社化(2012年7月17日)
アルフレッサホールディングス<2784>は2012年7月17日、山口県に本拠を置く医薬品卸売の常盤薬品<7644>を完全子会社化すると発表しました。中国地方や九州北部での医薬品流通を強化する狙いです。株式交換比率はアルフレッサHD1株に対し常盤薬品0.147株を割り当てる形でした。
25. イオンの山口県企業買収事例
25-1. レッドキャベツの子会社化(2014年9月8日)
イオン<8267>は2014年9月8日、山口県西部と九州北部でスーパーを展開するレッドキャベツ(山口県下関市)への出資を発表し、86.7%の株式を取得して子会社化しました。年商約300億円を超える中規模チェーンで、地域での知名度も高いため、イオングループとしては山口県・九州北部の店舗網強化に直結します。
26. アルファクス・フード・システムのホテル事業譲渡(2022年11月29日公表)
アルファクス・フード・システム<3814>はナチュラルグリーンパークホテル(山口県山陽小野田市)の宿泊・天然温泉事業を2023年7月31日付でリゾリートへ譲渡しました。過去にはホテル運営事業を取得した経緯がありましたが、最終的に本業のASP(アプリケーションサービスプロバイダー)事業に集中すべくリゾート施設を手放す決断となりました。赤字事業の整理と債務超過解消が急務だったとされます。
27. REVOLUTIONの賃貸管理事業譲渡(2023年6月23日)
REVOLUTION<8894>は2023年6月23日、保有する賃貸管理事業を不動産会社の緑都開発(山口県下関市)に譲渡すると発表しました。不動産売買に経営資源を集約するための整理であり、譲渡価額は非公表。県内地場企業間での事業売買の一例といえます。
28. THE WHY HOW DO COMPANYの宇部整環リサイクルセンター子会社化(2023年8月29日)
THE WHY HOW DO COMPANY<3823>は2023年8月29日、産業廃棄物処理業の宇部整環リサイクルセンター(山口県宇部市)を子会社化すると発表しました。熱エネルギーを電力に変換するサーマルリサイクル設備の導入計画もあり、環境ビジネス領域での付加価値向上を狙うようです。宇部市は工業地帯でもあり、廃棄物処理や再資源化への需要は今後も続くと考えられます。
29. アイザワ証券グループと西京銀行の業務提携・事業取得(2023年4月28日)
アイザワ証券グループ<8708>の子会社アイザワ証券は、西京銀行(山口県周南市)の登録金融機関業務にかかる顧客口座管理を受託し、一部事業を取得することで合意しました。西京銀行はコスト低減を図り、アイザワ証券は山口県での顧客基盤を広げられるという双方の利点があります。
30. Jトラストと西京カードをめぐる複数の動き
Jトラスト<8508>は2010年3月10日、西京銀行からクレジットカード事業の西京カード(山口県周南市)株式を追加取得し子会社化しました。しかし2014年1月27日には同社を再度西京銀行に譲渡し、Jトラストは譲渡額4億5600万円を受け取っています。クレジットカードやローンの保証業務提携は続ける形となり、銀行グループとノンバンクグループの間で事業最適配置が模索されました。2023年8月25日には、Jトラストが再び西京カードを子会社化すると発表しており、経営環境の変化に応じたアップダウンが見られます。
31. カネコ種苗によるベルデ九州子会社化(2010年2月2日)
カネコ種苗<1376>は2010年2月2日、農薬・農業資材の卸販売を行うベルデ九州(福岡市)の株式を51%取得。ベルデ九州は九州全県と山口県に営業拠点を持ち、種苗事業とのシナジーが期待されました。最終的に取得価額は5100万円となり、3月31日に手続完了という運びです。山口県農業への販路拡大と、カネコ種苗の全国網強化が狙われました。
32. まとめ:山口県M&Aの全体像と今後の展望
ここまでご紹介したように、山口県を取り巻くM&A事例は実に多岐にわたります。県内に本社や工場を構える企業を大手が買収するケースもあれば、逆に地場企業同士の譲渡や連携、あるいは外資系・投資ファンドが絡んだMBOなどもあり、その動機は以下のように整理できます。
- 事業再編・選択と集中
倉元製作所のFILWEL売却やアルファクス・フード・システムのホテル事業譲渡など、本業に注力するための周辺事業整理が代表的です。 - 後継者問題や財務改善
タクシー業の買収や、原弘産の子会社売却事例など、高齢化や業績不振に直面した際の事業承継手段としてのM&Aも顕著です。 - 地域インフラ維持と公共的サービス
第一交通産業のタクシー会社買収には地域交通確保の背景があり、西京カードの再々取得など金融サービス分野の再編も地域に密着した意義を持ちます。 - 広域展開と規模拡大による効率化
リテールパートナーズやイオンなどスーパー業界のM&Aは、店舗網拡充や物流効率化を狙うものであり、人口減少時代には欠かせない再編手段といえます。 - 先端技術・成長分野への投資
風力発電やバイオマスなどの再生可能エネルギー分野、EV・半導体関連技術の取得、プラスチックリサイクルなど、今後の需要拡大を狙ったM&Aも散見されます。
山口県の地理は本州と九州をつなぐ要衝としての役割を持つため、九州エリアと一体化した再編や、瀬戸内海側の広島・岡山といった隣県の企業との連携が活発です。また、石油・セメントなどエネルギーや素材産業で大きな設備が稼働している一方で、国内需要減による余剰生産能力への対応も今後の重要課題となります。製油所やセメント工場が縮小される流れの中で、新たな産業誘致や次世代エネルギー(バイオマス、風力、太陽光など)の取り組みが加速し、それに伴うM&Aの動きが続くでしょう。
同時に、サービス業・小売業などの域内競争が激化しており、大手が県内の中小企業を買収する形が増えるとともに、県内企業同士の合従連衡も起こりやすい状況です。高齢化・後継者不足の解消策としてのM&Aや、観光業の再生に向けたファンド活用(ホテルや旅館のMBO)が、今後さらに注目されると考えられます。
以上、山口県における多彩なM&A事例をご紹介しました。地域事情や企業特性に合わせたM&Aが数多く見られるのは、日本全国どこでも同じですが、地理的要因や産業構造の特徴によって、その動きはより色彩豊かです。県民生活や雇用にも直結する事例が多く、今後も山口県の企業再編の動向は注目されることでしょう。各企業の戦略や地域の声を踏まえて、持続可能な地域経済の発展につながるM&Aが期待されます。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。