目次
  1. 【はじめに】
  2. 【山形県におけるM&Aの背景と動向】
  3. 【1.2008年~2010年代前半の主なM&A事例】
    1. 1-1.カウボーイ<9971>、食品スーパーの本間物産を譲渡(2008年2月28日)
    2. 1-2.きらやかHD<8378>、きらやかリースを新生銀行<8303>グループに譲渡(2008年5月23日)
    3. 1-3.昭和電工<4004>、富士通<6702>傘下の山形富士通が手がけるHDD記憶媒体事業を取得(2009年2月17日)
    4. 1-4.荘内銀行<8347>、北都銀行と経営統合(2009年5月15日)
    5. 1-5.オーシャンシステム<3096>、弁当給食事業のフーディーを子会社化(2010年9月8日)
  4. 【2.2010年代後半の主なM&A事例】
    1. 2-1.グローベルス<3528>、山形県のハウスビルダー・ササキハウスを子会社化(2012年11月29日)
    2. 2-2.CKサンエツ<5757>、日立ケーブルプレシジョンの日立工場めっき線事業を取得(2013年6月20日)
    3. 2-3.ソニー<6758>、ルネサス エレクトロニクス<6723>傘下の鶴岡工場を取得(2014年1月29日)
    4. 2-4.価値開発<3010>、プレミアリゾートオペレーションズを子会社化(2014年10月27日)
    5. 2-5.オートバックスセブン<9832>、連結子会社を通じ「オートバックス米沢店」を取得(2016年1月29日)
    6. 2-6.マルカキカイ<7594>、洗浄用機械メーカーの管製作所を子会社化(2016年3月31日)
    7. 2-7.日本アビオニクス<6946>、プリント配線板事業を沖電気工業<6703>グループに譲渡(2016年7月7日)
    8. 2-8.クオール<3034>、調剤薬局運営の共栄堂を子会社化(2016年8月23日)
  5. 【3.2018年~2020年前後の主なM&A事例】
    1. 3-1.フィデアホールディングス<8713>、グランド山形リースを子会社化(2018年8月7日)
    2. 3-2.パイオニア<6773>、FA機器子会社の東北パイオニアEGをデンソー<6902>に譲渡(2018年9月7日)
    3. 3-3.ウイン・パートナーズ<3183>、エムシーアイを完全子会社化(2018年11月6日)
    4. 3-4.白銅<7637>、東港金属東北支店の非鉄金属販売事業を取得(2020年1月30日)
    5. 3-5.トレイダーズホールディングス<8704>、木質バイオマス発電のZEエナジーを江寿に譲渡(2020年5月14日)
    6. 3-6.ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>、コスモジャパンを子会社化(2020年9月14日)
    7. 3-7.曙ブレーキ工業、国内生産拠点での早期退職募集(2020年12月1日・2021年2月16日)
  6. 【4.2021年~2025年にかけての主なM&A事例】
    1. 4-1.GFA<8783>、黒沼畜産から東京都内の焼肉店を取得(2021年8月18日)
    2. 4-2.メイコー<6787>、NEC<6701>傘下のNECエンベデッドプロダクツを子会社化(2022年7月28日)
    3. 4-3.メイホーホールディングス<7369>、エムアンドエムの人材派遣事業を取得(2022年11月14日)
    4. 4-4.ベルーナ<9997>、地熱発電事業の最上ジオエナジーを子会社化(2023年3月28日)
    5. 4-5.牧野フライス製作所<6135>、各種産業機械OEMのエツキを子会社化(2023年4月3日)
    6. 4-6.ナ・デックス<7435>、トガシ技研(民事再生中)から設備・機械加工事業を取得(2023年4月27日)
    7. 4-7.GENDA<9166>、ワイ・ケーコーポレーションから東北地区のアミューズメント施設運営事業を取得(2023年11月20日)
    8. 4-8.サクサホールディングス<6675>、有機ELディスプレー製造のソアーを子会社化(2024年5月29日)
    9. 4-9.精工技研<6834>、射出成形品製造のエムジーを子会社化(2024年10月2日)
    10. 4-10.サクサ<6675>、傘下のサクサテクノが手がける3事業を譲渡(2024年11月29日)
    11. 4-11.クスリのアオキホールディングス<3549>、伏見屋グループから東北・関東のスーパー46店舗を取得(2024年12月5日)
    12. 4-12.ウチヤマホールディングス<6059>、三友医療から山形県内の介護事業所を取得(2024年12月19日)
  7. 【まとめと今後の展望】

【はじめに】

山形県は豊かな自然環境とともに、農業をはじめとする第一次産業や、電子部品・精密機器などの製造業が盛んな地域として知られています。近年では、全国的に少子高齢化や人口減少の影響が加速する中で、企業が新たな成長機会を求めたり、事業承継の課題に直面したりするケースが増加しており、山形県内においてもM&A(企業の合併・買収)が活発化してきています。これにより、県内企業が外部資本と連携することで新たなシナジーを生み出したり、経営資源を効率的に活用したりする動きが見受けられます。

本記事では、山形県内に関連する近年のM&A事例を網羅的にご紹介しながら、それぞれの背景や狙い、今後の展望などをまとめて解説いたします。具体的には、2008年頃から2025年頃にかけて報じられた事例を中心に、県内企業が買収されるケース、あるいは県内企業が他社を買収するケース、さらに県内に拠点を持つ事業の譲渡など、多岐にわたるM&A取引を取り上げます。山形県ならではの産業事情や経営環境を踏まえながら、M&Aが地域や企業にとってどのような意味合いを持つのか、その一端を感じ取っていただければ幸いです。

山形県の企業動向や地域経済、ひいては地方創生や事業承継に興味をお持ちの方にとって、少しでもお役に立つ情報を提供できればと考えております。

それではまず、近年のM&A動向を俯瞰した上で、各事例を時系列や特徴ごとにご紹介していきます。


【山形県におけるM&Aの背景と動向】

山形県は、東北地方の日本海側に位置し、気候条件や地形的な特徴などから農林水産業が盛んな一方で、山形市周辺や庄内地方、置賜地方、村山地方など地域ごとに異なる工業集積を形成してきました。特に電子部品や半導体関連、精密機器の分野では、かつて「山形新時代」と呼ばれるほどの積極的な工場誘致が行われ、県内には多くの製造業の拠点が置かれています。

一方で、全国的な産業構造の転換やグローバル化、さらには人口減少が進む中で、山形県内でも企業の後継者不足や設備投資の難しさなど、さまざまな経営課題を抱える企業が少なくありません。このような環境の中で、県内企業が持続的な成長を目指すために、外部企業とのM&Aによる提携や買収が選択肢として注目されるようになりました。

また、県外・海外資本が山形県に進出し、地元企業の技術やブランド、あるいは地域に根差したネットワークを活かすことで、事業の拡大や効率化を図るケースも増えています。近年では、地方銀行をはじめとした金融機関がM&Aサポートに積極的に取り組んでいるほか、山形県庁や市町村も事業承継や創業支援の一環としてM&Aのマッチング支援を充実させる動きがみられます。

以下では、主な事例を概観しながら、それぞれの取引における目的や背景、効果などを個別にご紹介いたします。


【1.2008年~2010年代前半の主なM&A事例】

1-1.カウボーイ<9971>、食品スーパーの本間物産を譲渡(2008年2月28日)

北海道を地盤とする小売企業のカウボーイは、山形県遊佐町に本社を置く食品スーパー本間物産の全株式(所有比率53.85%)を酒小売業の伏見屋(秋田県仙北市)に譲渡しました。本間物産は東北地方や新潟県を中心に「マルホンカウボーイ」など27店舗を展開してきた企業です。 カウボーイは事業再生・再構築の途上にあり、これまで多角的に手がけていた小売事業を整理するために譲渡を決断しました。譲渡価額は6億円とされています。地域に根ざす本間物産としては、伏見屋グループに加わることで商品供給や資本面の強化を図り、さらなる発展を目指しました。

1-2.きらやかHD<8378>、きらやかリースを新生銀行<8303>グループに譲渡(2008年5月23日)

きらやかホールディングスは、完全子会社だったきらやかリース(山形市)の株式を新生銀行傘下の昭和リースに譲渡しました。これにより、きらやかリースは昭和リースの連結子会社となり、きらやかHDも一部株式を保持する形で引き続き連携します。 リース事業は、地域の中小企業の設備投資や資金ニーズに応じて重要な役割を担います。昭和リースは全国的な規模とネットワークを持っており、そのグループ傘下となることで、きらやかリースはより広範囲の金融ソリューションを提供しやすくなったといえます。譲渡価額は非公表ですが、2008年7月1日付で株式の92.6%を譲渡し、新生銀行グループの一翼として山形県や東北地方の顧客基盤強化を図りました。

1-3.昭和電工<4004>、富士通<6702>傘下の山形富士通が手がけるHDD記憶媒体事業を取得(2009年2月17日)

昭和電工は、富士通グループが所有する山形富士通(川崎市)のハードディスク記憶媒体事業を取得すると発表しました。その後、富士通が新会社「昭和電工HD山形」(山形県東根市)を設立し、同社の全株式を昭和電工が取得する形がとられています。取得価額は非公表ですが、2009年7月1日付で完了しました。 サーバー用メディアなどストレージ関連事業の強化を狙う昭和電工にとって、富士通系の高い技術力や生産設備を取り込むことは大きなメリットがありました。山形県東根市の工場ではHDD用メディアの開発・生産を行っており、昭和電工のストレージ事業拡大に貢献する形となっています。

1-4.荘内銀行<8347>、北都銀行と経営統合(2009年5月15日)

山形県鶴岡市に本店を置く荘内銀行と、秋田県秋田市に本店を置く北都銀行は、2009年10月1日付で株式移転によりフィデアホールディングス(仙台市)を設立し、経営統合を行いました。普通株式の割当比率は、荘内銀行が1、北都銀行が0.15とされています。 両行は近隣県である山形と秋田を地盤としており、広域連携による相乗効果の早期実現とブランド力強化を狙い、ホールディングス化による統合を選択しました。東北地方では地方銀行同士の統合や連携が進んでおり、その一つの代表例となります。地銀再編の流れが加速する中での先進的な事例でした。

1-5.オーシャンシステム<3096>、弁当給食事業のフーディーを子会社化(2010年9月8日)

オーシャンシステムは新潟県を本拠とし、スーパーマーケットや食材宅配事業などを展開している企業です。同社は、山形県米沢市に拠点を置く弁当給食事業者のフーディー(純資産1億500万円)を株式交換により子会社化しました。2010年11月1日付でフーディーの1株に対し、オーシャンシステムの509.5株を割り当てる比率が設定されました。 フーディーは山形県内で「フレッシュランチ39」に加盟するなど、弁当・給食分野で一定の知名度を得ていました。オーシャンシステムとしては、弁当給食事業でのノウハウを共有し合うことでシナジーを生み出し、地盤を拡大する狙いがありました。


【2.2010年代後半の主なM&A事例】

2-1.グローベルス<3528>、山形県のハウスビルダー・ササキハウスを子会社化(2012年11月29日)

グローベルスは不動産開発やマンション分譲などを展開する企業で、事業領域の拡大を目的に山形市を拠点とするハウスビルダーのササキハウス(売上高19億9000万円、営業利益8600万円、純資産12億2000万円)を買収しました。取得価額は約9億9700万円で、2012年11月30日付で子会社化しています。 ササキハウスは地域密着型の注文住宅などで実績がありました。グローベルスとしては住宅事業における幅を広げ、地方の優良企業を取り込むことで収益力の向上を狙いました。一方、ササキハウスとしては大手資本との連携で営業基盤や開発ノウハウを強化するメリットが期待されました。

2-2.CKサンエツ<5757>、日立ケーブルプレシジョンの日立工場めっき線事業を取得(2013年6月20日)

伸銅品や精密部品などを製造するCKサンエツ(石川県)が、子会社のサンエツ金属を通じ、日立電線グループの日立ケーブルプレシジョン(日立ケーブルの100%子会社、山形県米沢市)のめっき線事業を取得しました。取得価額は非公表で、2013年6月30日付で事業を承継しています。 サンエツ金属はもともと伸銅事業と精密部品事業を主力とし、めっき線の生産設備の増強に力を入れていました。今回の事業取得により、山形県での生産拠点や取引関係を取り込むことで、コスト競争力と製品ラインアップの強化を実現しました。

2-3.ソニー<6758>、ルネサス エレクトロニクス<6723>傘下の鶴岡工場を取得(2014年1月29日)

ルネサス エレクトロニクスが進める国内生産拠点再編の一環として、山形県鶴岡市にあるルネサス山形セミコンダクタの鶴岡工場をソニーが買収しました。取得価額は約75億1000万円で、2014年3月31日付でソニーセミコンダクタに譲渡されています。 ソニーはスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器市場で需要が高まるイメージセンサー(CMOSセンサー)の増産を目指しており、鶴岡工場を新たな生産拠点とすることで、世界トップクラスのシェアを誇るソニーのイメージセンサー事業をさらに強化しました。鶴岡工場の従業員もソニーに移籍し、地域経済の雇用維持にも寄与する形となりました。

2-4.価値開発<3010>、プレミアリゾートオペレーションズを子会社化(2014年10月27日)

価値開発は、全国にビジネスホテルの「ベストウェスタン」ブランドを展開する企業で、ホテル・ブライダル施設を運営するプレミアリゾートオペレーションズ(東京都千代田区)を子会社化しました。プレミアリゾートオペレーションズは売上高6億8200万円、営業利益マイナス3700万円という状況でしたが、「ベストウェスタン the japonais 米沢」(山形県米沢市)など複数の施設を運営していました。取得価額は非公表で、2014年10月31日に完了しています。 山形県米沢市にあるホテル運営事業を取り込むことで、価値開発は観光客やビジネス需要へのサービス提供を拡大させました。地元の観光振興や地域雇用にもプラスに働く案件として注目されました。

2-5.オートバックスセブン<9832>、連結子会社を通じ「オートバックス米沢店」を取得(2016年1月29日)

カー用品大手のオートバックスセブンは、フランチャイズチェーン加盟法人であるビッグ東北(福島県郡山市)が運営していた「オートバックス米沢店」(山形県米沢市)を子会社を通じて取得しました。取得価額は非公表で、2016年4月1日に完了しています。 山形エリアにおける店舗経営体制を最適化することが目的とされ、オートバックス独自のマーケティングノウハウを直営店に活用することで、競争力強化を図りました。

2-6.マルカキカイ<7594>、洗浄用機械メーカーの管製作所を子会社化(2016年3月31日)

産業機械商社のマルカキカイは、山形県天童市に本社を置く管製作所(売上高11億円、営業利益8400万円、純資産2億1900万円)の全株式を取得し、2016年4月1日付で子会社化しています。取得価額は非公表です。 管製作所は洗浄機器や産業設備の製造を得意とし、マルカキカイはエンジニアリング事業の強化を図るために同社を傘下に収めました。県内の精密機械産業との取引も期待され、事業の裾野拡大が狙いです。

2-7.日本アビオニクス<6946>、プリント配線板事業を沖電気工業<6703>グループに譲渡(2016年7月7日)

日本アビオニクスは、リニア中央新幹線の建設計画に伴い、子会社の山梨アビオニクスの敷地・建屋が路線にかかることから生産拠点を停止し、JR東海へ土地を譲渡することを決定しました。それに伴い、山形県鶴岡市に拠点を置くOKIサーキットテクノロジーなどへプリント配線板事業を移管し、事業継続を図ることとなりました。譲渡価額は移管時点の簿価とされています。 プリント配線板は高い認定基準やノウハウが必要なため、工場移転による再認定が難しい背景がありました。沖電気工業グループは同分野で実績を持つ企業であり、この事業譲渡により日本アビオニクスの取引顧客への対応を継続する形となりました。

2-8.クオール<3034>、調剤薬局運営の共栄堂を子会社化(2016年8月23日)

大手調剤薬局チェーンのクオールは、新潟県および山形県で85店舗を展開する共栄堂(新潟市)を買収しました。共栄堂は売上高126億円、純資産46億4000万円という規模で、取得価額は134億円。2016年10月3日付で子会社化しています。 共栄堂としてはクオールグループのシステムや人的リソースを活用することで、より効率的な店舗運営とサービス向上を目指せます。一方クオールは、東北・北陸エリアへの店舗網拡大により、地域密着型のサービスを広範囲で展開できるようになりました。


【3.2018年~2020年前後の主なM&A事例】

3-1.フィデアホールディングス<8713>、グランド山形リースを子会社化(2018年8月7日)

荘内銀行と北都銀行が統合して誕生したフィデアホールディングスは、山形市に本社を置く総合リース業のグランド山形リース(GYL)の全株式を17億2000万円で取得しました。2018年10月1日付で子会社化しています。 GYLは山形県を中心にリース事業を展開しており、フィデアHDとしてはリース機能の活用を両行(荘内銀行・北都銀行)にまたがって行うことで、融資だけでなくリースを含めた総合的な金融サービスを提供できる体制を整えました。秋田県への展開も視野に入れており、地域企業の設備投資促進に寄与するM&Aといえます。

3-2.パイオニア<6773>、FA機器子会社の東北パイオニアEGをデンソー<6902>に譲渡(2018年9月7日)

経営再建中のパイオニアは、ファクトリーオートメーション(FA)機器を製造する子会社の東北パイオニアEG(山形県天童市)をデンソーに譲渡すると決定しました。譲渡価額は109億円で、2018年12月1日に完了しています。 東北パイオニアEGは、1988年設立以来、自動車や電子、医療、食品、半導体など幅広い分野にFA機器を供給していました。パイオニアは主力であるカーエレクトロニクス分野に経営資源を集中するため、グループ事業の見直しを進めており、デンソーはFA分野の強化や技術獲得を目的にこの譲渡を受け入れました。天童市の事業所はそのまま継続され、地元雇用の維持に貢献しています。

3-3.ウイン・パートナーズ<3183>、エムシーアイを完全子会社化(2018年11月6日)

医療機器販売大手のウイン・パートナーズは、子会社のテスコ(仙台市)を通じて、山形県天童市のエムシーアイ(売上高25億8000万円、営業利益1億3300万円、純資産13億1000万円)の全株式を取得しました。取得価額は10億円で、2018年12月1日付で完了しています。 エムシーアイは山形県を中心に医療機器の販売・賃貸・保守サービスを展開しており、テスコが強みとする東北エリアの営業基盤と合わせることで、一層の顧客サービス向上を図る狙いがあります。ウイン・パートナーズは秋田県の大沢商事を買収するなど東北地方での営業ネットワークを拡張しており、このM&Aもその一環といえます。

3-4.白銅<7637>、東港金属東北支店の非鉄金属販売事業を取得(2020年1月30日)

非鉄金属や加工材料を扱う専門商社の白銅は、金属スクラップ事業などを手がける東港金属(東京都大田区)の東北支店(山形県東根市)が営む非鉄金属販売事業を取得しました。取得価額は非公表で、2020年3月11日に予定通り完了しています。 白銅はアルミや銅などの非鉄金属材料の販売に強みを持ち、東北エリアの拠点強化を図りたい思惑がありました。山形県内の産業需要を確実に取り込むことで、営業基盤の拡大と顧客サービス向上を実現するとみられます。

3-5.トレイダーズホールディングス<8704>、木質バイオマス発電のZEエナジーを江寿に譲渡(2020年5月14日)

FX(外国為替証拠金取引)事業を主力とするトレイダーズHDは、子会社であるZEエナジー(東京都港区、山形県最上町で木質バイオマス発電所を運営)の株式50.99%を投資会社の江寿(京都市)に譲渡し、債権も同時に譲渡する取引を決定しました。株式の譲渡価額は1597円という象徴的な数字で、2020年5月15日に実施されています。 ZEエナジーは山形県最上町で「もがみまち里山発電所」を運営してきましたが、設備不具合や運転調整が続き、債務超過に陥っていました。トレイダーズHDは49%の株式を残して共同経営の形をとりつつも、経営再建のため江寿の資本参加を得る道を選びました。

3-6.ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>、コスモジャパンを子会社化(2020年9月14日)

エレベーター保守管理を手がけるジャパンエレベーターサービスHDは、青森県八戸市のコスモジャパン(売上高8340万円、営業利益マイナス488万円、純資産マイナス480万円)の全株式を取得し子会社化しました。取得価額は非公表で、2020年10月2日に完了しています。 コスモジャパンは東北エリアで約400台のエレベーター保守を担当しており、山形県鶴岡市も営業エリアに含まれています。ジャパンエレベーターサービスHDとしては、東北地方への未進出地域にサービス体制を整えることで、全国展開をさらに進める狙いがありました。

3-7.曙ブレーキ工業、国内生産拠点での早期退職募集(2020年12月1日・2021年2月16日)

曙ブレーキ工業は事業再生ADR(私的整理)の手続きの一環として、国内4工場(山形県寒河江市の曙ブレーキ山形製造など)を含む生産拠点再編を進める中で、2020年12月~2021年2月にかけて早期退職を実施しました。180人程度の募集に対して223人が応募するなど、目標を上回る結果となっています。 これはM&Aとはやや異なる動きですが、山形県寒河江市の拠点も含む再編により、グループ全体のコスト削減や事業構造のスリム化を急ぐ状況が垣間見えます。自動車部品業界は電動化や世界的な需要変動もあり、大きな転換期を迎えています。


【4.2021年~2025年にかけての主なM&A事例】

4-1.GFA<8783>、黒沼畜産から東京都内の焼肉店を取得(2021年8月18日)

金融・投資事業や不動産関連事業を手がけるGFAは、山形県中山町の食肉小売業者である黒沼畜産から、東京都練馬区の焼肉店「まっしぐら」の事業を取得しました。取得価額は1000万円で、2021年9月30日付で完了しています。 新型コロナウイルス感染症の影響で飲食業界が厳しい状況にある中、GFAとしてはポストコロナを見据えた飲食事業の拡大を図りたいという思惑がありました。黒沼畜産は山形牛などのブランド肉を扱う業者として知られ、この連携により都内での販路拡大やブランド力向上が期待されます。

4-2.メイコー<6787>、NEC<6701>傘下のNECエンベデッドプロダクツを子会社化(2022年7月28日)

プリント基板や電子回路基板の受託製造を主力とするメイコーは、NECの子会社であるNECエンベデッドプロダクツ(山形県米沢市)を112億円で買収しました。2022年10月1日付で子会社化しています。 NECエンベデッドプロダクツは売上高140億円、営業利益マイナス1億8400万円、純資産36億円という状況で、開発・設計から量産までの一貫受託が強みです。メイコーとしては高付加価値の電子製品まで対応可能な体制を整え、EMS(電子機器受託製造サービス)事業の強化につなげたい狙いがあります。米沢市の工場機能を活かし、県内のエレクトロニクス産業のさらなる発展にも期待が寄せられます。

4-3.メイホーホールディングス<7369>、エムアンドエムの人材派遣事業を取得(2022年11月14日)

メイホーホールディングスは、子会社のスタッフアドバンス(福島県二本松市)を通じて岩手県山田町のエムアンドエムから人材派遣事業を2000万円で取得しました。取得予定日は2023年1月1日とされています。 スタッフアドバンスは福島県、宮城県、山形県で人材派遣事業を展開しており、今回の取得で岩手県にも事業を拡大します。東北各県をカバーする体制を整えることで、人材不足に悩む地元企業により幅広いサービスを提供できるようになるとみられます。

4-4.ベルーナ<9997>、地熱発電事業の最上ジオエナジーを子会社化(2023年3月28日)

通信販売大手のベルーナは多角化戦略の一環として、地熱発電事業に参入することを決定しました。同社は傘下企業を通じて、最上ジオエナジー(東京都江東区)の株式94.9%を18億8000万円で取得し、2023年3月30日に子会社化しています。 最上ジオエナジーは2020年設立以来、山形県最上町で地熱発電事業を進めており、2025年をめどに発電開始を目指しています。ベルーナにとっては、太陽光発電に続く再生可能エネルギー事業への本格参入であり、地域資源を活かしたエネルギー供給に期待が寄せられます。

4-5.牧野フライス製作所<6135>、各種産業機械OEMのエツキを子会社化(2023年4月3日)

工作機械大手の牧野フライス製作所は、山形県村山市に本社を置くエツキを買収し、2023年4月1日付で子会社化しました。エツキは1973年設立で、多種多様な産業機械のOEM生産を手がけており、山形県に深い製造基盤を持ちます。取得価額は非公表です。 牧野フライス製作所にとっては、需要変動に柔軟に対応する生産協力体制を確立するのが狙いで、エツキの製造技術や人材を活用することで生産効率を高めることが期待されます。一方でエツキにとっても、世界規模で展開する大手企業グループに入ることで研究開発や販路拡大が見込まれます。

4-6.ナ・デックス<7435>、トガシ技研(民事再生中)から設備・機械加工事業を取得(2023年4月27日)

FA(ファクトリーオートメーション)関連のソリューションを提供するナ・デックスは、民事再生手続き中のトガシ技研(山形県鶴岡市)の設備・機械加工事業を承継することを発表しました。2023年6月1日付で全額出資の新会社に事業を移管する予定で、取得価額は非公表です。 トガシ技研は産業用機械製造を行っていましたが、2023年2月に東京地裁へ民事再生法の適用を申請していました。ナ・デックスとしては、トガシ技研が持つ技術力や取引先を活用し、FA関連の事業領域をさらに強化するとともに、地元における雇用や技術の継承を図る狙いがあります。

4-7.GENDA<9166>、ワイ・ケーコーポレーションから東北地区のアミューズメント施設運営事業を取得(2023年11月20日)

アミューズメント事業を手がけるGENDAは、傘下企業を通じて福島県会津若松市のワイ・ケーコーポレーションが運営する「スーパーノバ」ブランド6店舗(宮城3、福島2、山形1)を取得することを決定しました。2023年12月下旬に完了予定で、取得価額は非公表です。 GENDAはゲームセンターやアミューズメント施設を全国展開しており、東北地方での店舗網拡大を進めています。山形県内には1施設が含まれており、地域密着型の娯楽需要を取り込むことでさらなる事業成長を狙います。

4-8.サクサホールディングス<6675>、有機ELディスプレー製造のソアーを子会社化(2024年5月29日)

情報通信機器メーカーのサクサホールディングスは、山形県米沢市にあるソアー(売上高45億8000万円、営業利益3700万円、純資産20億1000万円)の全株式を取得し、2024年7月31日付で子会社化することを発表しました。取得価額は非公表です。 ソアーはもともと東北パイオニアの旧米沢事業所が独立した形で、有機ELディスプレーや特殊光源などを製造しています。隣接するサクサグループの工場との一体運営により、生産設備の有効活用や人的リソースの共有が期待されます。山形県における電子部品・光学製品の製造拠点として引き続き重要な役割を果たす見込みです。

4-9.精工技研<6834>、射出成形品製造のエムジーを子会社化(2024年10月2日)

精密検査装置などを製造・販売する精工技研は、宮城県利府町に本社を置き、山形県にも複数工場を構えるエムジー(売上高23億4000万円、営業利益5億7400万円、純資産9億4500万円)の全株式を取得し子会社化します。エムジーは自動車や文具、医療用など幅広い用途のプラスチック成形品の供給を得意としています。取得価額は非公表で、取得予定日は未定です。 精工技研としては射出成形分野への参入強化を図り、顧客ニーズに合わせた成形品ビジネスを拡大する狙いがあります。エムジーの技術力・製造ラインをグループに取り込むことで、開発から製造まで一貫した対応が可能となり、顧客提案力を高める効果が見込まれます。

4-10.サクサ<6675>、傘下のサクサテクノが手がける3事業を譲渡(2024年11月29日)

サクサHDのグループ企業であるサクサ(同社も上場企業)は、子会社サクサテクノ(山形県米沢市)で生産している防災、汎用機器、口腔の3事業を外部企業に譲渡することを決定しました。譲渡予定日は2025年3月31日で、譲渡価額や譲渡先は非公表です。 グループで保有していても十分に事業成長が図れないと判断し、外部企業に経営を託すことで事業継続と拡大を目指す狙いがあります。サクサテクノの主力は通信機器やプリント基板組み立てなどであり、事業の選択と集中を進めることで経営資源をコア領域に集約していく方針がうかがえます。

4-11.クスリのアオキホールディングス<3549>、伏見屋グループから東北・関東のスーパー46店舗を取得(2024年12月5日)

ドラッグストア大手のクスリのアオキHDは、秋田県仙北市の伏見屋を中核とするグループ企業(本間物産、トップマート、LogiPlanning仙台など)からスーパーマーケット事業46店舗を取得すると発表しました。取得価額は非公表で、2025年2月28日付で完了予定です。 伏見屋グループはかつて本間物産の株式を取得しているなど東北地域でスーパーマーケット網を拡充してきました。今回の譲渡によってクスリのアオキHDはスーパーマーケット事業を一挙に60店舗超えからさらに46店舗追加し、東北・関東地区での食品小売を強化します。ドラッグストアと食品スーパーの複合的な展開により、消費者ニーズに幅広く応えられる体制が整います。

4-12.ウチヤマホールディングス<6059>、三友医療から山形県内の介護事業所を取得(2024年12月19日)

介護事業やカラオケ事業などを展開するウチヤマHDは、子会社のさわやか倶楽部を通じて三友医療(山形県米沢市)の運営する介護付き有料老人ホーム「サンメイトきらら」(米沢市)とグループホーム「三友たかはた」(高畠町)を取得します。取得日は2025年3月1日予定、価額は非公表です。 ウチヤマHDの介護事業は九州地方を中心に全国展開を進めており、東北エリアでの事業拡大を狙っています。山形県内の介護需要は高まる一方で、新規参入や設備投資のハードルがあるため、既存事業所を買収する形での拡大は効果的な戦略となります。


【まとめと今後の展望】

こうして振り返ると、山形県に関連するM&Aの動きは、2000年代後半から2020年代半ばにかけて非常に多様な形で展開していることが分かります。製造業では、電子部品や自動車部品、FA機器などハイテク領域での買収や事業譲渡がいくつも行われており、グローバル市場での競争力強化や技術確保を目的とするケースが目立ちます。また、地域密着型サービスの分野でも、リースや調剤薬局、介護、ホテル運営、スーパーマーケットなど多種多様な業態においてM&Aが進みました。

山形県においてM&Aが増加する背景としては、

  1. 事業承継問題
    中小企業を中心に後継者不足が深刻化する中、大手企業との資本提携やグループ入りによって存続と事業拡大を両立させようとする動き。
  2. 経営効率化・選択と集中
    大手・中堅企業がグループ再編を通じて、コア事業への集中とノンコア事業の譲渡を同時に進める事例が多く、山形県内の拠点や工場が対象となることも。
  3. 地域活性化ニーズ
    地銀や自治体などがM&Aサポートに力を入れ、企業同士のマッチングを促進しているほか、雇用維持や設備継承のために外部資本を受け入れる動き。
  4. 国内外企業の地方進出
    山形県の企業や工場が培ってきた技術・ブランド・人材を獲得する目的で、県外・海外企業がM&Aに乗り出すケース。

といった要因があげられます。加えて、2020年代に入ってからは新型コロナウイルス感染症の影響もあり、飲食や観光などの業種を中心に厳しい経営状況が続いたことから、資本再編や事業譲渡が一段と増える可能性も指摘されています。

一方で、M&Aには買収側と売却側の思惑が一致しなければ成約しにくいという難しさもあります。とくに地方の事業者にとっては「地元雇用の維持」や「地域の信用・ブランドを守る」といった要素が強く意識される傾向があります。そのため、買収企業が地域貢献や従業員の雇用確保に理解を示し、長期的な視点で事業運営にあたることが重視されます。

山形県は自然環境に恵まれ、農業・観光分野での可能性も大いに残されており、また製造業や先端技術分野でも有望な企業が数多く存在します。こうしたポテンシャルを活かしながら、外部資本との連携やM&Aによる経営戦略が活発化すれば、地域経済の活性化にもつながるでしょう。

今後は、国内外の景気動向や技術革新のスピード、政策支援の有無などさまざまな要因によって、M&Aの潮流が変化していくと考えられます。しかし、事業承継や経営体力の強化という観点では、山形県を含む地方企業にとってM&Aは一つの選択肢として定着しつつあります。地域の金融機関や自治体、専門家が一体となり、円滑なマッチングやPMI(統合後の経営)支援を進めていくことが、今後ますます重要になるでしょう。

本記事でご紹介した事例が示すとおり、M&Aによる再編・統合は新たな可能性を生み出す一方で、地元の伝統や雇用、企業文化の変化を伴うこともあります。利害関係者同士が十分にコミュニケーションを取り、地域の特性を活かしながら持続的な発展を目指すことが、山形県の未来にとって大切な鍵となるのではないでしょうか。

以上、山形県における主なM&A事例を振り返りながら、その背景や狙い、今後の展望について概説しました。地方創生や地域経済活性化、企業経営の視点から、少しでも参考になる情報になれば幸いです。企業同士の連携がより良い形で実を結び、山形県が引き続き魅力ある地域として発展していくことを期待したいと思います。