- 第1章:鳥取県の経済・地域背景
- 第2章:主要なM&A事例の詳細
- 2-1. ローソンによるポプラの山陰地区コンビニ事業取得
- 2-2. 高島屋による米子高島屋のジョイアーバンへの譲渡
- 2-3. メディカル一光によるハピネライフケアの子会社化
- 2-4. スカラによるエッグなど4社の子会社化
- 2-5. ツルハホールディングスによるたかきファーマシー(1店舗)の取得
- 2-6. エフピコによる上田包装企業の子会社化
- 2-7. オービスによる寿鉄工の子会社化
- 2-8. コンセックによる山陰建設サービスの子会社化
- 2-9. オートバックスセブンによるタニムラの子会社化
- 2-10. エスイーによる森田工産の子会社化
- 2-11. THE WHY HOW DO COMPANYによるCATCH THE STARの譲渡
- 2-12. KYORITSUによる山陰クリエートの子会社化
- 2-13. FDKによる三洋電機傘下の電池子会社2社の買収
- 第3章:鳥取県M&A事例に見る特徴と総合的考察
- 第4章:鳥取県M&Aの今後の展望
- 結び
第1章:鳥取県の経済・地域背景
1-1. 人口構造と少子高齢化の影響
鳥取県は、総人口が約55万人強(2020年国勢調査時点)と、全国の都道府県の中で最も少ない人口規模です。県全体で見ると、特に若年層の人口流出による地域活力の低下が課題となっています。また高齢化率は全国平均と比較しても高い水準にあり、買い物難民や交通網の維持など、日常生活にかかわるインフラ整備も重要なテーマとなっています。
少子高齢化が進むと、企業の後継者不足は深刻化します。家族経営の中小企業や個人事業主が多い地方では、経営の継承先が見つからないという問題が顕在化しやすくなります。こうした背景のもと、M&Aという手法が、企業存続や地域経済活性化のための有力な選択肢として注目を集めています。
1-2. 鳥取県の主要産業と特徴
鳥取県の産業構造は農業、水産業をはじめとする一次産業が目立つイメージが強いですが、実際には観光業、製造業、IT関連、流通・小売業など、さまざまな分野の企業が活動しています。山陰地方の地理的特性から、比較的広域にわたる物流網の確保が求められる一方で、東京や大阪などの大都市圏と直接つながる交通機関も一定程度整備されています。
県西部の米子市や境港市は、商業地として古くから栄えてきた歴史を持ち、また企業誘致やIT関連企業の集積、空港や港湾の整備によってビジネス拠点としての可能性も注目されてきました。こうした背景が、全国規模の企業との資本提携やM&Aの舞台となる下地を作っています。
1-3. 鳥取県におけるM&Aの特徴
鳥取県のM&A事例を見ると、以下のような特徴が挙げられます。
- 事業承継型M&A
地方における企業オーナーの高齢化や後継者不足を背景に、地域の有力企業や県外の大手企業が買収・出資を行い、企業存続を図るケースが増えています。 - 販路拡大・スケールメリット獲得のためのM&A
新たな顧客層を取り込むため、県外企業との連携やグループ傘下入りを通じて販路を拡大したり、仕入れコストや物流面での効率化を実現したりする意図があります。 - 異業種連携による新事業創出
近年は地方創生の気運もあいまって、IT・介護・医療といった分野で新しい技術やサービスを取り込む目的のM&Aも少なくありません。
本記事では、こうした背景を踏まえながら、鳥取県で実際に行われた複数のM&A事例を時系列や業種ごとに整理し、各社の狙いと今後の展望について詳しく見ていきます。
第2章:主要なM&A事例の詳細
ここからは、実際に公表されたM&A事例を中心に解説します。事例ごとに、買収・譲渡の目的や背景、シナジー効果、地域経済への影響などを考察していきます。
2-1. ローソンによるポプラの山陰地区コンビニ事業取得
発表時期:2016年9月6日
概要:
- ローソンがポプラから山陰地区のコンビニエンスストア事業を取得
- 対象店舗:ポプラ54店舗(うち2店舗は「ローソン・ポプラ」ブランドで先行)
- 営業総収入:合計22億2,000万円
- 事業の受け皿会社として「ローソン山陰」(鳥取県米子市)を設立
- ポプラ・ポプラ・プロジェクトからそれぞれ株式を交付で受け取る形
- 不動産関連も会社分割で承継、取得価額6億7,600万円
- 取得予定日:2016年11月1日
背景・狙い:
鳥取県を含む山陰地方は全国的にも人口減少の速度が速く、コンビニ市場は競争が激化する一方で店舗維持のハードルが高まっていました。ローソンとポプラは2014年から共同仕入れや物流インフラの相互活用などで連携を深めており、2015年11月には「ローソン・ポプラ」のブランドを先行的に導入。これにより、山陰地方に特化した品揃えやサービス体制を整え、地域密着型の店舗展開を目指していました。
シナジー効果:
- 物流効率化: 共同仕入れや共同配送により、1店舗あたりの物流コスト削減が期待できる。
- 地域密着: ポプラが従来から培ってきた地元密着のノウハウに、ローソンの全国規模のシステムやブランド力が加わり、地域ニーズへの対応がしやすくなる。
- ブランド力向上: ローソンとしての統一感ある店舗づくりにより、全国チェーンならではの安心感を提供すると同時に、ポプラの地域に根付いた信頼関係を活用する。
地域経済への影響:
店舗の閉鎖を避けつつ、より効率的なオペレーションを追求することで地域内の雇用が維持される効果が見込まれます。また、共同開発された地元産品の取り扱いが拡大すれば、地域農産物や特産品の販路拡大にも貢献する可能性があります。
2-2. 高島屋による米子高島屋のジョイアーバンへの譲渡
発表時期:2019年10月11日
概要:
- 高島屋が100%出資子会社である米子高島屋(売上高48億9,000万円、営業利益200万円、純資産27億7,000万円)の全株式をジョイアーバン(鳥取県米子市)に譲渡
- 2020年3月1日付で譲渡
- 商標は継続使用、屋号は「JU米子高島屋(仮称)」に変更予定
- ジョイアーバンは市街地活性化事業などを手がけ、2018年3月に米子高島屋東館を取得
背景・狙い:
米子高島屋は2003年に設立され、米子駅周辺の商業地として地域住民から長く親しまれてきました。しかし百貨店業界は、全国的な消費動向の変化やネット通販の台頭などにより売上が伸び悩み、地方店の経営が苦境に陥るケースが増えていました。そんな中、地元企業であるジョイアーバンが一体的な再開発計画を進める中で、東館取得に続き本館も引き継ぐことになったのが今回の譲渡です。
シナジー効果:
- 地元による再開発: ジョイアーバンは米子市の市街地活性化に関する実績を持ち、自治体や地域企業との連携も進めてきました。百貨店建物の再開発や周辺整備を一体的に行うことで、地域全体の商業活性化を促進します。
- ブランド価値の維持: 「高島屋」の名称を継続使用することで、既存顧客からの信頼感やブランドイメージをできるだけ損なわずに事業を再編できます。
地域経済への影響:
百貨店は地元の商業中心地として長年機能してきた拠点です。その維持は、周辺商店街や交通などにも影響を与えます。今回の譲渡によって、地域主導のまちづくりが進み、観光や買い物客の流入を増やす可能性があります。
2-3. メディカル一光によるハピネライフケアの子会社化
発表時期:2014年3月28日
概要:
- メディカル一光がグループホーム運営や福祉用具レンタルを手がけるハピネライフケア(鳥取県米子市、売上高16億9,000万円、営業利益5,950万円、純資産6億8,300万円)の全株式を取得
- ハピネライフケアは鳥取県、島根県内に27拠点を持ち、認知症対応グループホームや小規模多機能ホームを運営
- 取得価額は非公表、取得予定日は2014年4月1日
背景・狙い:
介護事業は、少子高齢化が進む日本全体で需要が拡大傾向にあります。特に高齢化率が高い鳥取県・島根県では、介護サービスの供給量と質の確保が急務でした。メディカル一光は、調剤薬局や介護サービスなどヘルスケア事業を幅広く展開する企業であり、ハピネライフケアの取り込みによって地域へのサービス拡充と事業基盤の強化を狙いました。
シナジー効果:
- 地域密着度の向上: ハピネライフケアが持つ山陰地方のネットワークを活用することで、メディカル一光グループ全体の地域密着型ヘルスケアサービス提供が可能になります。
- サービスの多様化: 認知症グループホームや小規模多機能ホームなど、様々な介護サービスを展開しているハピネライフケアをグループに加えることで、メディカル一光にとってもケア領域のバリエーション拡大が期待できます。
地域経済への影響:
介護事業は地域雇用創出にも直結する重要産業です。従業員雇用を維持したままサービスを拡充することができれば、高齢化社会の課題に対応しつつ地域経済を下支えする大きな役割を担うことになります。
2-4. スカラによるエッグなど4社の子会社化
発表時期:2022年1月31日
概要:
- スカラがシステム開発のエッグ(鳥取県米子市、売上高17億1,000万円、営業利益1億7,000万円、純資産2億2,200万円)などグループ4社の全株式を取得
- 地方創生や高齢者の健康など社会課題をビジネスで解決する狙い
- エッグはふるさと納税基幹システムのパイオニアで、導入自治体数は約680、シェアトップ
- 取得価額は10億600万円、取得予定日は2022年2月28日
- エッグがスカラ傘下に入る前に、医療ソフト開発のコロンブス、BPO事業のBizサポート、ビッグデータ分析のエッグ総研の3社を子会社化
背景・狙い:
スカラはITソリューションやSaaS事業などを展開し、自治体向けシステムや情報発信サービスも手がける企業です。地方自治体との連携需要が高まるなか、ふるさと納税関連サービスでトップシェアを誇るエッグの技術やノウハウを取り込むことで、さらに自治体向けビジネスを拡大する狙いがあります。
シナジー効果:
- 自治体向けサービス拡大: ふるさと納税システムをはじめ、地方創生を支える自治体との取引基盤を強化できる。
- グループ内サービスの統合: 医療関連ソフトやBPO、ビッグデータ分析などを統合し、総合的なITソリューション企業グループとして付加価値を高める。
- 地方拠点の活用: 鳥取県米子市を拠点とするエッグの開発拠点や人材を活かし、IT人材不足が課題となっている都市部との連携も図る。
地域経済への影響:
IT関連企業が地方に拠点を置くことで、雇用機会の創出や若年層のUターン・Iターン促進が期待されます。また、自治体向けサービスが強化されることで、行政サービスの効率化や住民満足度の向上など、間接的な地域活性化にもつながる可能性があります。
2-5. ツルハホールディングスによるたかきファーマシー(1店舗)の取得
発表時期:2020年12月1日
概要:
- ツルハホールディングス傘下の「ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本」が、たかきファーマシー(鳥取県米子市)から調剤薬局1店舗を取得
- ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本は中国・九州で285店舗展開(うち調剤併設79店舗、調剤専門薬局20店舗)
- 取得価額は非公表、取得予定日は2021年2月1日
背景・狙い:
ドラッグストア業界は全国的に再編が進み、調剤薬局の機能を取り込む大手グループが増えています。ツルハホールディングスは全国各地に事業拡大しており、中国・九州エリアを担当する子会社を通じて地域の調剤ニーズに応える方針を強化しています。とりわけ高齢化が進む地域では、店舗数の拡充と地域医療との連携強化が求められており、今回のM&Aはその一環と考えられます。
シナジー効果:
- 調剤機能の拡充: 従来型のドラッグストアだけでなく、調剤薬局を併設することで「かかりつけ薬局」機能を強化。高齢者を中心に患者の利便性を高められます。
- 物流・仕入れの効率化: グループ規模で医薬品・雑貨などを一括仕入れするため、コスト効率が改善し、価格競争力の確保が可能となります。
地域経済への影響:
大手ドラッグストアチェーンの進出は、地域住民にとって医療・健康管理の選択肢が広がるメリットがある一方、地元中小薬局との競合が強まる懸念もあります。しかし鳥取県内の調剤薬局運営者の後継者不足などを考慮すると、大手グループによる引き継ぎはサービス維持の観点でもプラスに働く可能性があります。
2-6. エフピコによる上田包装企業の子会社化
発表時期:2016年6月24日
概要:
- エフピコが食品用包装資材を販売する上田包装企業(鳥取県米子市)の全株式を取得し子会社化
- 上田包装企業は1960年創業で、山陰地方のスーパーマーケットや食品加工会社などに包装資材を販売
- 取得価額は非公表、取得予定日は2016年7月1日
背景・狙い:
エフピコは食品容器や包装資材を製造・販売する国内大手メーカーで、スーパーやコンビニなどに幅広く商品を提供しています。一方、上田包装企業は山陰エリアで長年の販売ネットワークを築き、地域における営業基盤が強固です。エフピコにとっては、同社のネットワークを取り込むことで地域密着型の販売チャネルを強化し、顧客サービスの向上とシェア拡大が可能となります。
シナジー効果:
- 物流・販売ネットワークの融合: 山陰地方の流通事情に精通している上田包装企業を傘下に収めることで、スピーディな商品供給やきめ細かい顧客対応を実現できる。
- 商品開発の効率化: 現場の生の声を収集しやすくなり、新しい包装資材の商品企画や改良に反映しやすくなる。
地域経済への影響:
包装資材は食品産業を支える重要な要素です。地元のスーパーや食品加工会社にとっては、これまで以上に安定的かつ多様な資材供給を得られるメリットがあるでしょう。また、エフピコはリサイクルなど環境配慮の分野でも積極的に取り組んでいるため、地域の環境意識の向上にも寄与する可能性があります。
2-7. オービスによる寿鉄工の子会社化
発表時期:2024年2月16日
概要:
- オービスが、鉄骨加工と鋼構造物工事業を営む寿鉄工(鳥取県米子市、売上高8億9,900万円、営業利益6,080万円、純資産4億1,900万円)の全株式を取得
- 重量鉄骨製作領域への進出が狙い
- 寿鉄工は1946年創業で、Hグレード認定(5段階評価のうち上から2番目)を取得
- 取得価額は非公表、取得予定日は2024年3月5日
背景・狙い:
オービスは木材を中心とした製造・建材関連事業を展開している企業として知られています。近年は需要の多様化から、木造に限らず鉄骨造建築への対応力が求められる場面も増えています。重量鉄骨製作は高層ビルや大規模建築物などで需要が高く、寿鉄工の技術力を取り込むことで事業領域の拡大を図る狙いがあります。
シナジー効果:
- 技術と製造ノウハウの獲得: 寿鉄工が持つ鉄骨製作技術や品質管理体制を活かし、オービスの建材事業領域を広げる。
- 総合建築資材メーカーとしての地位強化: 木材と鉄骨の両方を扱えることで、建築分野のニーズに幅広く対応できるようになる。
地域経済への影響:
鉄骨加工業は地域の建築・土木インフラを支える重要な産業です。寿鉄工が大手企業の子会社化により、財務基盤の安定や取引拡大が期待できれば、地域の雇用維持や関連業者への波及効果も見込まれます。
2-8. コンセックによる山陰建設サービスの子会社化
発表時期:2013年1月17日
概要:
- コンセックが耐震補強工事を専門とする山陰建設サービス(鳥取県米子市、売上高5億9,600万円、営業利益4,200万円、純資産1億1,300万円)の全株式を取得
- 取得価額は4,000万円、譲渡予定日は2013年1月24日
- コンセックは切削器具の開発・製造・販売を展開
背景・狙い:
東日本大震災以降、建築物の耐震化や防災対策が全国的に注目されるようになりました。コンセックは切削・穿孔などコンクリート関連の施工技術に強みを持っていますが、より高度な耐震補強工事のノウハウを持つ山陰建設サービスを取り込むことで、自社の工法技術開発や専門機器開発を加速させる目的がありました。
シナジー効果:
- 施工技術の高度化: 耐震補強工事の実績豊富な企業をグループに迎え、建物診断から工事までの一貫サービスを提供できる。
- 防災分野への取り組み強化: 防災需要の高まりに対応した製品・技術開発を行い、市場拡大を目指す。
地域経済への影響:
鳥取県は地震をはじめとする自然災害リスクも少なくない地域であり、公共施設や民間建築物の耐震化が重要視されています。地元企業のノウハウを活かして建築物の安全性向上を図ることは、地域住民にとって安心感をもたらし、長期的に安全な街づくりに寄与します。
2-9. オートバックスセブンによるタニムラの子会社化
発表時期:2008年2月18日
概要:
- オートバックスセブンが山陰エリアでオートバックス店舗を運営するタニムラ(鳥取市、売上高12億1,500万円)の全株式を取得
- タニムラは鳥取県内でオートバックス4店舗をフランチャイズ運営
- 取得価額は非公表、取得予定日は2008年4月1日
背景・狙い:
オートバックスセブンはカー用品販売や整備サービスを全国展開しています。山陰エリアでのドミナント戦略を加速し、地域内でのシェア拡大や収益向上を狙うなか、既に複数店舗を運営していたタニムラを子会社化することで迅速な市場支配力強化を目指しました。
シナジー効果:
- 店舗運営ノウハウの共有: タニムラのローカル運営ノウハウとオートバックスセブンの全国的なマーケティング力が組み合わさり、地域顧客へのサービス向上が期待できる。
- スケールメリット: 資材・カー用品の一括仕入れや広告宣伝の効率化によってコスト削減が可能。
地域経済への影響:
車社会が進む鳥取県では、カー用品や整備サービスの需要は一定以上あります。大手チェーンが直接運営に乗り出すことで、地域におけるサービス水準が向上し、消費者の利便性が高まるメリットが考えられます。一方で、中小の自動車整備工場などとの競合も発生しうるため、地域全体のバランスをどう保つかが課題となります。
2-10. エスイーによる森田工産の子会社化
発表時期:2015年3月30日
概要:
- エスイーが鉄骨工事業の森田工産(鳥取県米子市、売上高6億2,000万円、営業利益3,100万円、純資産8,200万円)の全株式を取得
- 取得価額は2億3,000万円、取得予定日は2015年4月2日
- 事業領域の拡大が狙い
背景・狙い:
エスイーは、土木・建築用の建材や工法を扱う技術系企業であり、従来は橋梁やトンネルなどのインフラ案件を中心に事業を展開していました。鉄骨工事業で実績のある森田工産を傘下にすることで、鉄骨分野への本格参入を果たし、建築市場でのプレゼンス強化を図る狙いがあります。
シナジー効果:
- 技術力の相互補完: エスイーの土木・インフラ向け技術と森田工産の鉄骨工事技術を組み合わせ、複合的な建設プロジェクトに対応する。
- 新規受注拡大: 鉄骨工事を含む総合的な工事対応力が高まることで、受注案件の幅を増やすことができる。
地域経済への影響:
森田工産が地域で培ってきた職人や技術者、取引先との関係は、県内建設業界にも重要なネットワークです。大手企業のバックアップが入ることで、安定した設備投資や雇用維持が可能となり、地域の建設産業の底上げに貢献することが期待されます。
2-11. THE WHY HOW DO COMPANYによるCATCH THE STARの譲渡
発表時期:2024年1月29日
概要:
- THE WHY HOW DO COMPANYが、地産品を活用したECサイト「ふるさと物語」を運営するCATCH THE STAR(鳥取県境港市、売上高100万円、営業利益△200万円、純資産200万円)の全株式を、同社会長兼社長の田邊勝己氏に譲渡
- 譲渡価額は約200万円、譲渡予定日は2024年2月29日
- 事業計画が大きく下回り活動停止状態であったため、事業の選択と集中を進めた結果
背景・狙い:
ふるさと納税の広がりや地方創生の流れのなかで、地産品のECサイト事業は全国的に注目を集めています。しかし競合が激化する一方で、IT投資やマーケティング力の不足から想定ほど成長できない事例も見受けられます。CATCH THE STARも事業規模が小さく、運営コストの面で苦戦していた可能性が高いです。THE WHY HOW DO COMPANYとしては、不採算事業からの撤退による資源集中を目指し、オーナー個人に譲渡するという判断を下しました。
シナジー効果(今後の展望):
- スモールスタートの継続: 事業規模が小さいからこそ、個人オーナーとして細やかな経営を行い、採算を立て直す余地があります。
- 地域産品の販路拡大: 境港市を中心とした特産品を引き続き取り扱うことで、地元産品のPRや販売チャネル維持に役立つ可能性はあります。
地域経済への影響:
事業規模が小さいため、地域全体への影響は限定的かもしれません。しかし、オンラインによる地産品の販売は地方において貴重な販路でもあります。経営体制を再構築し、持続的に運営できれば、将来的には生産者や地域への経済効果に結びつく可能性があります。
2-12. KYORITSUによる山陰クリエートの子会社化
発表時期:2023年3月1日
概要:
- KYORITSUがリサイクルプラスチックの開発・製造などを手がける山陰クリエート(鳥取県米子市、売上高8億5,200万円、営業利益8,060万円、純資産6億9,500万円)の全株式を取得し、3月1日付で子会社化
- 廃プラスチックを再利用した新素材合成樹脂の開発や、RPF(固形燃料)の製造、産業廃棄物の最終処分場事業を営む
- 取得価額は非公表
背景・狙い:
プラスチックゴミ削減やリサイクルの促進が世界的な課題となっています。KYORITSUは包装資材やプラスチック製品などを扱う企業であり、サステナビリティや循環型社会の実現が企業価値向上の重要テーマになっています。山陰クリエートの技術とリサイクル事業のノウハウを取り込むことで、環境配慮型の製品開発や事業拡大を図る狙いがあります。
シナジー効果:
- リサイクル技術の高度化: 山陰クリエートが長年培ってきた廃プラスチック再利用技術をKYORITSUの生産ラインに組み込み、環境負荷を下げる製品を開発できる。
- 循環型ビジネスモデルの構築: RPFなど新たな資源化事業をグループとして推進し、サステナブル経営を具体化する。
地域経済への影響:
リサイクル事業は産業廃棄物処理だけでなく、新たな製品価値を生むことができるため、地域産業を次のステージに引き上げる可能性があります。鳥取県内で排出される廃プラスチックの処理システム整備や関連雇用の維持・拡大が期待されます。
2-13. FDKによる三洋電機傘下の電池子会社2社の買収
発表時期:2009年10月28日
概要:
- FDKが三洋電機傘下のニッケル水素電池事業「三洋エナジートワイセル」(群馬県高崎市)とリチウム電池事業「三洋エナジー鳥取」(鳥取県岩美町)の全株式を取得
- 三洋エナジートワイセル:売上高298億円、営業利益4億4,900万円、純資産26億8,000万円
- 三洋エナジー鳥取:売上高89億9,000万円、営業利益△4,900万円、純資産5億7,500万円
- 取得価額はトワイセルが33億6,000万円、鳥取が30億4,000万円
背景・狙い:
当時、三洋電機はパナソニックによるTOBに伴い、競争法上の問題を回避するため一部事業の譲渡が必要とされていました。FDKは富士通グループの電池事業を担う企業で、アルカリ電池を中心に幅広いラインナップを持っています。ニッケル水素電池やリチウム電池分野を加えることで、電池ラインナップを強化し、総合電池メーカーとしての地位を確立する狙いがありました。
シナジー効果:
- 製品ラインナップの拡充: FDKは従来のアルカリ電池に加え、充電式電池やリチウム電池を獲得し、より広範なニーズに対応できるようになりました。
- 技術融合と研究開発力向上: 三洋エナジー鳥取が持つリチウム一次電池やコイン型二次電池の技術を吸収し、新製品開発につなげる。
地域経済への影響:
三洋エナジー鳥取が鳥取県岩美町に工場を持ち、地域雇用や税収で一定の役割を果たしてきました。FDK傘下となっても事業が継続されることで、地元の雇用維持や関連産業への波及が期待されます。また、世界的に電池需要が高まる中で、研究開発・生産拠点としての重要性が増せば、地域への投資も見込まれます。
第3章:鳥取県M&A事例に見る特徴と総合的考察
ここまで紹介してきた事例を通じて、鳥取県におけるM&Aには以下のような特徴やトレンドがあることが分かります。
- 事業承継と後継者不足への対応
地域に根付いた中小企業や個人事業主の高齢化は全国共通の課題ですが、人口が少ない鳥取県では特に深刻です。業績が安定していても、後継者がいないために事業継続が難しくなるケースが多いなか、M&Aによる承継が重要な手段となっています。 - 大手企業によるシナジー追求
ローソンやツルハホールディングス、オートバックスセブンなど、全国規模のチェーンや上場企業が地元企業を買収・子会社化する事例が散見されます。これらは地元企業の既存ネットワークやブランド力、ノウハウを取り込むことで、即戦力として地域展開を加速させる狙いがある一方、売り手にとっては財務基盤の安定や事業継続が期待できます。 - IT・介護・環境など成長分野への投資
介護サービス、ITソリューション、リサイクルプラスチックといった成長分野でもM&Aが活発です。特にスカラとエッグの事例や、KYORITSUと山陰クリエートの事例は、地方創生や環境問題の解決に向けて技術と資本が集まる好例といえます。 - 地域活性化と雇用維持
大手企業による買収だからといって、必ずしも地域活性化につながるとは限りません。ただし、本記事で紹介した事例の多くは、地元企業の強みを維持しながら事業再編や新サービス投入を図る方向性が強く見られます。これは、企業が単に資本やノウハウを提供するだけでなく、地域に根ざした経営を維持しようとする意識が高まっていることを示すものです。 - 事業継続のためのハイブリッド型M&A
百貨店やコンビニなど、地域における生活基盤サービスを担う企業が事業継続のためにM&Aを選択するケースも増えています。高島屋とジョイアーバンの例のように、地域の再開発やまちづくりといった視点が組み合わさることで、新しいビジネスモデルの創出につながる可能性があります。
第4章:鳥取県M&Aの今後の展望
4-1. さらなる事業承継案件の増加
鳥取県では今後も中小企業のオーナー経営者の高齢化が進むと考えられます。後継者不足が深刻化するなかで、M&Aは事業を存続させる現実的な選択肢として一層注目されるでしょう。行政や商工会議所、金融機関なども事業承継支援を強化しており、こうしたサポート体制の拡充がさらに必要となります。
4-2. 地域課題解決型のM&A
介護・医療、環境、IT、観光、農業など、地方における課題が多い分野でのM&Aは今後も注目されます。たとえばメディカル一光やスカラ、KYORITSUのように、社会課題に取り組むために専門企業を買収することで、新しいサービスを創出したり事業領域を広げたりする動きはますます増えると予想されます。
4-3. 外国企業との連携可能性
グローバル化の進展により、今後は海外企業が鳥取県を含む地方企業の技術や商品、地域ブランドに注目するケースも増えてくるかもしれません。特に食品や農産物、環境技術などは海外からの需要も高まっており、M&Aを通じて日本国内や海外市場に販路を拡大するチャンスもあります。
4-4. DX(デジタルトランスフォーメーション)推進による波及効果
デジタル技術を活用した業務効率化や新規事業創出は、人口減少に悩む地方にとって大きな可能性を秘めています。IT企業によるM&Aや投資が進むことで、地域にIT人材が流入し、スタートアップが生まれるなど、地域経済の新陳代謝が進む期待が高まります。
4-5. 地域金融機関・支援団体の役割
地方におけるM&Aをスムーズに進めるには、買い手と売り手を結びつけるプラットフォームや仲介が欠かせません。特に地方銀行や信用金庫などが、地域に密着したネットワークを生かして企業の事業内容や課題を熟知し、適切なマッチングを行うことが期待されます。
結び
鳥取県は日本国内でも特に人口が少なく、高齢化率も高い地域です。しかし、こうした状況は同時に、M&Aによる事業承継や地域課題解決型ビジネスの育成の場としての大きな可能性を秘めています。本記事で紹介した数々のM&A事例は、多くの場合、買い手企業が地域に進出して規模のメリットやノウハウを提供し、売り手企業が地元で培ってきた人材・ブランド力・技術力を活かす形でシナジーが生まれていることが特徴です。
今後も鳥取県におけるM&Aは、事業承継や生活基盤サービスの維持、地域創生に向けた新事業の展開など、多様な目的で進行していくでしょう。特に医療・介護分野やIT関連、環境ビジネスなどは、社会的要請の高まりから拡大が見込まれます。地域経済の活性化や住民の暮らしを守る観点からも、M&Aは一企業の経営戦略にとどまらず、地域ぐるみでの取り組みとしてますます重要性を増していくと考えられます。
本記事を通じて、鳥取県におけるM&Aの現状とその役割、事例から浮かび上がる課題や可能性を共有させていただきました。M&Aは企業にとっての成長戦略であると同時に、地域における産業や雇用を守る手段でもあります。今後、さまざまな業種・規模の企業が連携し、持続可能な地域づくりに貢献する動きがさらに広がることを願ってやみません。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。