- 1. 徳島県とM&Aの概況
- 2. 金融業界における経営統合・再編
- 3. 製造業・卸売業をめぐるM&A
- 4. 小売・流通業のM&A動向
- 5. サービス業・情報関連事業におけるM&A
- 6. 観光・ホテル事業に関するM&A
- 7. 建設・インフラ関連事業をめぐるM&A
- 8. ゴルフ場事業・レジャー関連のM&A
- 9. 物流・運送事業をめぐるM&A
- 10. 医療・ヘルスケア関連のM&A
- 11. そのほかの特色あるM&A事例
- ピースリビング<1437>によるアークホーム子会社化(2017年1月18日発表)
- コクヨ<7984>によるオリジンとエステイツクの子会社化(2022年11月30日発表)
- SPK<7466>による北光社の子会社化(2023年3月23日発表)
- ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>による四国エレベーターサービスの子会社化(2021年9月14日発表)
- オージックグループ<6168>と金属部品加工事業のネットワーク
- KOZOホールディングス<9973>によるサニーフーヅが運営する3県の「小僧寿し」店舗取得(2024年10月4日発表)
- WDBホールディングス<2475>によるWDB環境バイオ研究所の譲渡(2018年12月7日発表)
- エルモ社<7773>のサンヨーオーエーグループ買収(2008年1月30日発表)
- オートバックスセブン<9832>による大洋の完全子会社化(2010年2月24日発表)
- 12. 徳島県におけるM&Aの総括と今後の展望
1. 徳島県とM&Aの概況
徳島県は四国の東部に位置し、比較的コンパクトな地方都市としての特徴を持っております。一方で、古くから医薬品や化学繊維などの製造業が盛んな土地でもあります。製造業に限らず、近年では情報技術(IT)産業や観光・サービス業の発展も見られ、企業買収や資本提携などを通じて地元企業と県外企業が連携を深めるケースが増加傾向にあります。
M&Aが行われる背景には、企業の成長戦略や事業承継問題、地域経済活性化、人材確保の問題などが複雑に絡み合っています。徳島県特有の事情としては、都市部への人口流出に伴う人材不足と経営者の高齢化、さらには国内外の競争激化に伴う収益力確保の必要性といった課題が挙げられます。そうした中で、徳島県内企業は県外企業との資本・業務提携を通じ、販路拡大や技術力の強化を目指す動きが活発化してきました。
以下では、実際に発表されたM&A事例を中心に、その具体的な経緯や目的、シナジー効果などを詳しく見ていきます。
2. 金融業界における経営統合・再編
香川銀行<8556>、徳島銀行<8561>と2010年4月に経営統合
2009年1月26日に発表されたこの統合は、地方銀行同士の経営基盤強化を目的としたものでした。両行は合併ではなく共同持株会社方式により「トモニホールディングス(以下、トモニHD)」を設立し、その傘下に入る形をとりました。名称は「トモニ」、つまり「共に地域を支える」という想いが込められ、高松市に本店を置いて発足しています。徳島銀行・香川銀行は地域の信頼とブランド力を維持しつつ、経営機能を効率化して新たな地域金融グループとしての成長を図る方針を打ち出しました。
トモニホールディングス<8600>、2016年4月1日に大正銀行と経営統合
2015年9月15日に発表された経営統合では、トモニHDが株式交換によって大正銀行を完全子会社化する形となりました。徳島・香川の地銀と大阪の地方銀行が経営統合することで、四国から関西にまたがる広域ネットワークを整備し、広域での融資ニーズに対応する狙いがあったとされています。また、大正銀行は住宅融資や不動産担保ローンに強みを持ち、一方のトモニHDは中小企業融資に強みがあります。この補完関係を生かした営業体制を目指しました。
日産証券グループ<8705>、金融商品仲介業の徳島インベストメントを子会社化
2023年12月13日には、日産証券グループが金融商品仲介業を行う徳島インベストメント(徳島市)の全株式を取得すると発表しました。日産証券グループは商品先物取引や証券事業を手がけており、徳島インベストメントの地元顧客基盤と外務員事業を活用し、さらなる営業効率化と収益拡大を図る狙いがあります。地方に根ざす証券関連企業の買収は、金融機関による地域金融の再編や機能強化の一環として位置づけられます。
このように金融セクターでは、地銀同士や証券会社などとの連携、あるいは合併によって規模を拡大し、生き残りを図ろうとする動きが徳島県でも活発化しているのが特徴です。
3. 製造業・卸売業をめぐるM&A
徳島県には、医薬品や化学品、食品、建材など多様な製造業が存在しています。近年では、大手企業が徳島県内の中堅企業を買収して生産拠点を広げたり、共同での商品開発を進める事例が増えつつあります。
日本調剤<3341>による長生堂製薬の子会社化(2013年4月2日発表)
ジェネリック医薬品(後発医薬品)の市場拡大を背景に、調剤薬局事業大手の日本調剤は、徳島市に本社を置く長生堂製薬の株式55.29%を取得し子会社化を決定しました。長生堂製薬は売上高106億円、営業利益12億円という堅調な業績を誇っており、今回のM&Aによって日本調剤はジェネリック医薬品分野における自社の製造基盤と競争力を強化する狙いを持ちました。
尾家産業<7481>による壽屋商事の子会社化(2024年2月9日発表)
業務用食品卸大手の尾家産業が、徳島県に本拠を置く壽屋商事の全株式を取得することを決めました。尾家産業は既存の地域ネットワークが手薄だった徳島県における対応力を強化できるほか、壽屋商事がもつ商材や顧客との結びつきを生かし販路を広げるシナジーが期待されています。壽屋商事は売上高17億4000万円、営業利益2600万円と安定した業績を持ち、尾家産業の四国戦略において重要な拠点となりそうです。
ハリマ化成<4410>による日立化成工業<4217>子会社の日立化成ポリマー徳島工場事業の取得(2009年9月15日発表)
樹脂・化成品事業で国内有数のハリマ化成は、日立化成ポリマーのロジン変性樹脂事業を取得し、印刷インキ分野での樹脂製造を強化しました。徳島工場は日立化成ポリマーが保有していたもので、ハリマ化成にとってはロジン系樹脂の製造拠点拡充および供給体制の安定化が大きなメリットとなりました。
ファーマフーズ<2929>によるアンテグラルのバイオサイエンス事業取得(2022年12月12日発表)
研究用試薬の製造・販売を手がけるアンテグラル(徳島市)のバイオサイエンス事業を、ファーマフーズが取得した事例です。ファーマフーズは独自の抗体作製技術を活用して抗体医薬品の開発を進めており、アンテグラルのたんぱく質解析技術との組み合わせにより、創薬ターゲット探索の強化を狙いました。
アルフレッサ ホールディングス<2784>による篠原化学薬品の株式交換(2014年2月4日発表)
高知県・徳島県・愛媛県において診断薬卸売り事業を展開する篠原化学薬品を、アルフレッサHDが完全子会社化しました。アルフレッサグループの営業・物流網と篠原化学薬品の診断薬販売ノウハウを掛け合わせることで、四国地域を含む西日本全体での市場シェア拡大と効率化を図りました。
メディカル一光グループ<3353>による若松薬品の子会社化(2024年7月24日発表)
医薬品卸事業を拡大する戦略の一環として、メディカル一光グループが沢井製薬の販売代理店を務める若松薬品(高松市)の全株式を取得したものです。若松薬品は香川県・徳島県を主な営業エリアとし、ジェネリック医薬品を中心に販売実績を積み上げてきました。メディカル一光グループは調剤薬局事業やヘルスケア事業にも注力しており、エリア拡大による物流や販売網の効率化が期待されています。
こうした製造業・卸売業のM&Aは、国内市場の縮小やグローバル競争の激化に対応するためのスケールアップ戦略だけでなく、企業同士の得意分野を補完し合う狙いが大きいことが特徴的です。
4. 小売・流通業のM&A動向
徳島県は人口規模こそ大都市圏に比べると小さいものの、観光や物流の拠点となる地理的要衝に位置しています。このため、県内企業の流通網や小売ネットワークを取り込むM&Aが相次いでいます。
アクサスとナカイのTOB(2009年2月16日発表/3月18日発表)
ドラッグストアや生活雑貨店、スポーツショップ、リカーショップを展開するアクサス(徳島市)が、ホームセンター事業を主力とするナカイをTOB(株式公開買付)によって完全子会社化する方針を示しました。ナカイは継続的な営業損失を計上しており、アクサスの商材導入や共同仕入れによるコスト削減で再生を図る狙いです。TOB成立後、ナカイは上場廃止となりました。これにより、アクサスは大手流通グループとして徳島県のみならず周辺地域へのさらなる拡大を目指す体制を整えました。
イズミ<8273>によるデイリーマートの子会社化(2015年10月15日発表)
中四国地方で大型ショッピングセンター「ゆめタウン」を展開するイズミが、徳島県美馬市を拠点に食品スーパー7店舗を運営するデイリーマートを子会社化しました。大規模商圏型の「ゆめタウン」と小商圏型の食品スーパーとの連携で、地域の消費ニーズに幅広く対応するという相互補完の効果が期待されています。
アクサスホールディングス<3536>関連のM&A
- GIVERSの子会社化(2024年9月18日発表)
美容サロン向けサプリメントや化粧品の企画・生産を手がけるGIVERS(東京都千代田区)を、アクサスが全株式取得。これによりアクサスは、従来の小売・卸のみならず企画・生産機能を取り込んで、オリジナルブランドの拡充を狙います。 - ウオール・デコの子会社化(2021年12月15日発表)
アジアンチーク材の加工・販売を手がけるウオール・デコの全事業を取得することを決め、同社を子会社化。輸入木材インテリアの強化と、新規商材の小売・卸展開を見据えています。
アクサスは徳島市に本社を置く企業として、周辺県や首都圏企業を積極的に取り込み、販売チャネルを拡充する動きを強めています。
5. サービス業・情報関連事業におけるM&A
日本電通<1931>と四国システム開発の提携(2014年2月14日発表)
システム構築を手がける四国システム開発(徳島市)の株式62.9%を日本電通が取得し、子会社化しました。金融機関、マスメディア、地方公共団体など幅広い業種にシステムソリューションを提供している四国システム開発を取り込むことで、日本電通はソリューション事業を強化しました。
メディアドゥホールディングス<3678>と徳島データサービス
- 株式交換による子会社化(2018年12月13日発表)
電子書籍取次大手のメディアドゥHDは、データ入力事業を手がける徳島データサービスを株式交換で子会社化しました。書誌データ入力やデジタルコンテンツ創出における業務効率化・拡充が狙いでした。 - テック情報への再譲渡(2019年10月24日発表)
ところがその後、グループ全体の成長戦略を見直した結果、2019年10月に徳島データサービスの全株式を持ち分法適用関連会社であるテック情報に譲渡することを決定。わずか1年足らずでのグループ離脱となりましたが、事業運営の最適化という観点で判断されたとみられます。
ブロードバンドタワー<3776>によるティエスエスリンクの株式交換(2018年12月21日発表)
情報セキュリティーソフト開発などを手がけるティエスエスリンク(徳島市)を、ブロードバンドタワーが株式交換によって子会社化しました。情報漏洩対策ソフトやバックアップサービスを強みとするティエスエスリンクを取り込むことで、情報セキュリティー事業を中核に据えようとする戦略がうかがえます。
チエル<3933>の地方創生・ICT戦略
- MIMAチャレンジからのサテライトオフィス運営事業取得(2023年12月11日発表)
傘下の四国チエルクリエイト(徳島県三好市)を通じ、美馬市のサテライトオフィス運営事業と行政委託事業を譲り受ける形で、新会社「美馬チエル」を設立し株式を取得。サテライトオフィス運営による地方創生支援事業の拡大を図ります。 - 南海MJEの子会社化(2023年2月28日発表)
徳島県三好市にあるOA機器販売・保守の南海MJEを、株式70%取得により子会社化。四国地域の公的機関や学校へのICTサービスを強化し、教育分野でのビジネス展開を加速させようとする戦略です。
うるる<3979>のBPO(業務代行)事業強化
- 渋谷地下街のスキャンセンター「徳島つるぎ町事業所」の取得(2024年8月14日発表)
うるるは徳島県小松島市に3カ所のスキャンセンターを運営しており、顧客企業の書類や図面などの電子化サービスを手広く展開しています。DX需要の拡大に応じる形で処理能力を増強するため、東急グループの渋谷地下街が運営していた「徳島つるぎ町事業所」を取得し、BPO拠点を強化する方針です。
IT・サービス分野のM&Aにおいては、デジタル化やセキュリティー強化、地方創生といった多様なテーマがあり、各社が自社戦略の核となる技術や人材を徳島県内企業から得るケースが増えています。
6. 観光・ホテル事業に関するM&A
穴吹興産<8928>による「和の宿 ホテル祖谷温泉」運営会社の子会社化(2020年6月1日発表)
香川県や岡山県でホテル運営を行う穴吹興産は、徳島県三好市で「和の宿 ホテル祖谷温泉」を運営する祖谷渓温泉観光と、ケーブルカーを運営する祖谷温泉を子会社化しました。祖谷渓エリアは「大歩危祖谷温泉郷」として知られており、観光地としてのブランド力があります。穴吹興産は既存のホテル事業との連携やトラベル事業の強化を狙い、四国内でもリゾート観光の誘致を進めています。
7. 建設・インフラ関連事業をめぐるM&A
福山コンサルタント<9608>による環境防災の子会社化(2009年10月19日発表)
福山コンサルタントは子会社を通じて、徳島市に本社を置く建設コンサルタントの環境防災を51%取得し子会社化しました。環境防災は地質調査や耐震・防災設計などを手がけ、公共インフラ事業で実績を持ちます。福山コンサルタントとしては四国地方での受注拡大と、防災分野への進出を強化する狙いでした。
ETSホールディングス<1789>による中央電氣建設の子会社化(2022年5月10日発表)
四国電力向けに送電線工事を担う中央電氣建設(徳島県三好市)の全株式をETSホールディングスが取得。送電設備の維持管理や更新需要が見込まれる中、徳島県内にリソースを持つ中央電氣建設とその子会社になった電友社(徳島市)を傘下に取り込むことで、エネルギーインフラの確保と自社事業領域の拡大を狙います。
8. ゴルフ場事業・レジャー関連のM&A
大本組<1793>による坂出カントリークラブ売却(2013年10月28日発表)
大本組はゴルフ場「坂出カントリークラブ」(香川県坂出市)の全株式をタカガワアトランティスに譲渡。タカガワホールディングス(徳島市)のグループ会社です。ゴルフ人口の減少による事業環境の不透明感を背景に、ゴルフ場運営に特化したタカガワグループに譲渡することで、大本組は本業に経営資源を集中させる選択をしました。
アコーディア・ゴルフ<2131>による周防カントリークラブの譲渡(2013年11月1日発表)
ゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフは子会社を通じ、ゴルフ場資産をタカガワエージェンシー(徳島市)に売却しました。周防カントリークラブ(山口県)の運営は地域密着型のタカガワグループが引き継ぎ、収益性向上と地域活性を狙います。
9. 物流・運送事業をめぐるM&A
五健堂<9146>による六ツ星運送の子会社化(2022年2月25日発表)
五健堂は運送業の六ツ星運送(徳島県松茂町)を子会社化。一般貨物運送を中心に、関東への大型冷凍ウイング輸送などで実績を積む六ツ星運送を取り込むことで、五健堂は営業エリア拡大と物流のさらなる効率化を目指します。
五健堂<9146>によるナワショウからの神奈川・愛知拠点取得(2023年12月11日発表)
トラックドライバーの時間外労働規制「2024年問題」を見据え、中長距離輸送の中継拠点を確保するため、六ツ星運送を通じてナワショウの神奈川・愛知拠点の一部事業を取得しました。愛知県と神奈川県に拠点を置くことで輸送効率を高め、ドライバー負担を軽減する取り組みといえます。
10. 医療・ヘルスケア関連のM&A
メディカル一光グループ<3353>と若松薬品
前述の通り、ジェネリック医薬品の販売代理店として香川県・徳島県で営業している若松薬品の全株式を取得する形で、メディカル一光グループが一段と流通を統合しました。人口高齢化による医療費の増大やジェネリック普及などを背景に、地域密着の卸売企業との連携が進んでいます。
デンタス<6174>関連の事業譲渡・子会社化
歯科技工物製作を主力とするデンタスは、経営効率化を図る中で以下の動きを見せました。
- 「デンタス・モデルカップ」販売事業の譲渡(2016年6月27日発表)
シケン(徳島県小松島市)に事業を譲渡し、デジタル技術を活用する新規事業に注力する体制を整えました。 - 子会社F・ソリューションズの譲渡(2019年8月30日発表)
同社の歯科技工物販売部門をシケンに集中させる狙いで株式を売却。経営資源を自社の歯科技工物制作ラインの合理化や新技術導入に集中する戦略とみられます。 - アイオニックの買収(2021年6月10日発表)
イオン歯ブラシなどのオーラルケア製品で世界展開するアイオニックを共同出資会社DSソリューションを通じて子会社化。これにより、デンタスは補綴(ほてつ)物だけでなく予防歯科分野へも事業領域を拡充しました。
11. そのほかの特色あるM&A事例
ピースリビング<1437>によるアークホーム子会社化(2017年1月18日発表)
資産形成を目的とした賃貸物件の設計・施工を行うピースリビングは、木造建築やリフォームを専門とするアークホーム(徳島市)を70%取得し子会社化しました。設計・施工分野を強化し、自社の賃貸事業からリフォーム事業まで一貫して対応できる体制を整える狙いです。
コクヨ<7984>によるオリジンとエステイツクの子会社化(2022年11月30日発表)
オフィス家具大手のコクヨは、徳島県阿波市と石井町に拠点を持つ家具製造企業オリジン・エステイツクを買収。オリジンはソファやダイニング家具、エステイツクはカバーリングソファなど独自性の高い製品を扱っています。従来からOEM提供などでコクヨとは取引関係にあり、今回の買収で新たな需要を取り込み、オフィスのアメニティー家具のラインナップを広げる方針です。
SPK<7466>による北光社の子会社化(2023年3月23日発表)
自動車・二輪車部品の卸売業である北光社(徳島市)をSPKが全株式取得しました。四国エリアのアフターマーケット拡大が期待される中、既に全国や海外にも事業を展開しているSPKは、地元密着型の北光社を取り込むことで地域戦略を強化しつつ、物流網と顧客基盤を広げるとみられます。
ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>による四国エレベーターサービスの子会社化(2021年9月14日発表)
徳島県内を中心に300台超のエレベーター保守管理を行う四国エレベーターサービスを買収し、地方拠点での保守網を強化しました。エレベーター保守業界では、メーカー系・独立系企業の再編が進んでおり、地方都市での安定的な顧客基盤を取り込む動きが活発化しています。
オージックグループ<6168>と金属部品加工事業のネットワーク
オージックグループは複数の金属部品加工会社を傘下に持ち、「中小企業連合」として相互扶助・安定経営を図るユニークな戦略を展開しています。徳島県にはフジタイト(吉野川市)が拠点を構え、同グループの一翼を担っています。2023年2月7日には岐阜県のオイダ製作所を買収するなど、全国規模で企業を傘下に収め、金属加工の受注体制を強化しています。
KOZOホールディングス<9973>によるサニーフーヅが運営する3県の「小僧寿し」店舗取得(2024年10月4日発表)
持ち帰り寿司「小僧寿し」の運営母体であるKOZOホールディングスは、フランチャイズ加盟店のサニーフーヅ(高知市)から兵庫・徳島・香川3県で展開する18店舗を取得し、直営店舗化を進めます。仕入れ・流通のコスト効率向上やブランド力強化が狙いで、高知県に本拠を置くサニーフーヅは自県への集中投資を選択しました。
WDBホールディングス<2475>によるWDB環境バイオ研究所の譲渡(2018年12月7日発表)
WDBホールディングスは2009年頃から環境や水産事業を幅広く手がけようと試みていましたが、最終的にノンコア事業と位置づけ、魚介類養殖を行うWDB環境バイオ研究所(徳島県美波町)を第三者に譲渡しました。大手人材派遣グループとしての本業に経営資源を集中させる意図がうかがえます。
エルモ社<7773>のサンヨーオーエーグループ買収(2008年1月30日発表)
エルモ社はOA機器販売会社のサンヨーオーエーグループ11社の株式を取得し、そのうち6社を子会社化。サンヨーオーエー徳島(鳴門市)など、地域に根ざした販売網を広げ、映像機器やシステム関連サービスの販売拡大を目指しました。
オートバックスセブン<9832>による大洋の完全子会社化(2010年2月24日発表)
兵庫県南あわじ市を拠点とし、オートバックス店舗の運営会社として事業展開していた大洋の全株式を取得し、子会社化しました。徳島・淡路エリアにおけるブランド力とシェア拡大を図り、地域密着と収益向上を目指したものです。
12. 徳島県におけるM&Aの総括と今後の展望
本記事で取り上げた事例から浮かび上がる傾向として、徳島県では以下のような特徴が見られます。
- 地域に根ざした中小企業の後継者問題や成長戦略への対応
徳島県に拠点を置く中小企業が、大手企業や他地域の同業者に株式を譲渡する事例が増えています。背景には経営者の高齢化や人材不足、地域市場の縮小などがあり、M&Aにより事業承継を図り、雇用や地域サービスを維持する動きが強まっています。 - 四国~関西圏に広がる広域連携
金融機関の統合に象徴されるように、徳島県と隣接県・大阪などの都市部が一体となってビジネスを広げる流れが見られます。徳島銀行と香川銀行が経営統合してトモニHDを設立し、その後大正銀行を取り込んだのは好例です。こうした広域連携は、地方が単独では困難だった大規模投資や新事業展開を可能にします。 - 観光・IT・ヘルスケアなど新成長分野への参入
徳島県特有の観光資源や地場製薬企業の技術力、さらには近年のデジタルシフト(DX)の波を受け、県内企業を買収して新たな市場に参入しようとする県外企業の動きが活発です。また逆に、県内企業も県外の投資やノウハウを取り込むことで成長を加速させる例が増えています。 - シナジー効果の重視
物流や流通などの分野で、共同仕入れや拠点の相互活用によりコスト削減とサービス向上を両立しようとするケースが多く見られます。アクサスがホームセンターのナカイを取り込むことで多業態を展開したり、五健堂が六ツ星運送やナワショウの拠点を取得して長距離物流を効率化する例が典型です。 - 今後の課題と期待
徳島県では人口減少や高齢化が進む一方、徳島市を中心とした商業エリア、あるいは大歩危・祖谷渓などの観光資源の魅力を活かした投資が進みつつあります。国や自治体も地方創生の一環として、企業誘致やサテライトオフィスの整備支援などの政策を打ち出しています。
これらの支援と相まって、県外からのM&Aによる地域活性化が一層進む可能性があります。特にICTやデジタル化、環境・医療分野での需要は今後ますます高まり、地域企業の技術やノウハウに注目が集まるでしょう。
総じて、徳島県におけるM&Aは、多様な業種で行われていることが特徴です。金融や製造業、IT、サービス業、観光など、さまざまな分野において県内企業が県外企業から出資を受け入れたり、逆に県内企業が県外企業を買収している動きが確認できます。これらのM&Aには、経営の効率化や規模拡大による競争力強化、地域課題への対応など多岐にわたる目的があり、それらをどのように実現するかが今後の大きな焦点となるでしょう。
地方創生や企業の存続という観点で、M&Aは必ずしも「大手に吸収されるだけ」という負のイメージではなく、両社がウィンウィンとなるシナジーを生み出せるかが鍵です。実際に、徳島県内の多くの事例では、雇用維持と経営継続が図られ、さらには新商品の開発やサービス強化が進んでいます。今後も、徳島県におけるM&Aのトレンドを注意深く見守りながら、地域経済の活性化や企業の競争力強化の方向性を探ることが重要になっていくのではないでしょうか。
以上、徳島県における多彩なM&A事例を俯瞰してみました。企業活動は常に動いており、上記以外にも多くの資本提携や買収・譲渡が進んでいます。地域という枠を超え、広域や全国レベルでシナジーを獲得する動きはさらに加速すると思われます。企業の姿が変われば、地域経済の構造も少しずつ変化します。その変化を前向きにとらえ、経営資源の最適配置と新しい価値創造につなげていくことが、今後の徳島県経済の発展にとって重要なテーマといえるでしょう。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。