【はじめに】

佐賀県は、九州北西部に位置し、歴史や文化に加えて豊かな自然と産業構造を併せ持つ地域です。古くから焼き物の産地として有名な有田焼・伊万里焼のように伝統産業が根付く一方、交通インフラの発展や企業誘致政策などにより、多様な産業集積を実現してきました。近年では県内外の企業が佐賀県に注目し、地域ならではの資源や技術、あるいは立地を活かそうという動きが活発化しています。その中でも企業の経営戦略や事業承継、地域再編などの目的で行われるM&A(合併・買収)は、企業経営にとって重要な選択肢となっています。

本記事では、佐賀県に関連するM&Aの事例を幅広く取り上げ、それぞれの背景や狙い、地域経済への影響を考察しながら、佐賀県におけるM&Aの特徴と可能性について探っていきます。佐賀県を舞台としたM&A事例を列挙するだけでなく、地域経済や企業戦略の観点から、その意義や今後の展望についても詳しくご紹介していきます。

【佐賀県の経済・産業構造とM&Aの重要性】

1.佐賀県経済の特徴
佐賀県は、農業や水産業などの一次産業、焼き物などの伝統産業に加えて、食品加工、機械・電子部品の製造業、物流関連事業などがバランスよく存在しています。人口規模は約80万人弱と九州の中では比較的コンパクトですが、佐賀空港や高速道路網、唐津港といった交通・物流拠点を活かしながら、県内企業は国内外への販路拡大を図っています。

また、近年ではITを活用したスマート農業や新エネルギー関連事業、観光産業を組み合わせた地域活性化など、多様な取り組みが進められています。こうした取り組みの背景には、少子高齢化・人口減少による地元市場の縮小があり、企業としては新たな販路や新規事業領域を獲得するための手段の一つとしてM&Aが注目されるようになりました。

2.佐賀県におけるM&Aの意義
佐賀県でのM&Aは、県外企業が地元企業を買収・子会社化するケースはもちろん、県内企業同士の事業再編や県外への事業拡大を目指す県内企業による買収など、多様な形態で行われています。特に県外企業から見ると、地理的な優位性(福岡県や長崎県、熊本県など近隣県へのアクセスが良い)や佐賀県独自の産業基盤、ノウハウを取り込むことで経営の多角化や新規顧客開拓が期待できます。

一方、県内企業にとっては、資金調達力や技術力、営業力を持つ外部企業との提携を通じて、経営基盤の安定や事業領域の拡大が見込めます。また、後継者不足や事業継続の問題を抱える中小企業が、M&Aを通じて事業承継を円滑に進めるケースも増えています。

本稿では、佐賀県に関連する具体的なM&A事例を時系列や業種の多様性などを考慮しながらご紹介し、それぞれの取引背景やシナジー効果、課題について分析していきます。


【佐賀県に関連する主なM&A事例】

1.風力発電事業におけるM&A:肥前風力発電の譲渡

事例概要

  • 譲渡元:日本風力発電株式会社(銘柄コード:2766)
  • 譲渡先:ガスアンドパワー(大阪ガス傘下)
  • 譲渡会社:肥前風力発電(佐賀県唐津市)
  • 譲渡価額:約27億円
  • 実施時期:2012年12月28日までに実施

背景・狙い
肥前風力発電は佐賀県唐津市に所在し、風力発電所の運営を行っていました。しかし、日本風力発電は同時期に風力発電事業を取り巻く経営環境の悪化に直面し、資金繰りや財務体質の悪化が続いていました。有利子負債を圧縮するために、一部の風力発電所を売却する方針をとり、肥前風力発電を含む複数の子会社の譲渡に踏み切ったのです。

譲渡先は大阪ガス傘下のガスアンドパワーで、同社は風力発電を含む再生可能エネルギー事業に積極的に投資を行ってきました。今回のM&Aにより、ガスアンドパワーは九州地方における再生可能エネルギー発電の基盤を拡大し、事業ポートフォリオをより強固なものとしました。

地域経済への影響
佐賀県唐津市にある肥前風力発電所は、再生可能エネルギーの普及という観点で地域にも貢献しています。譲渡後も風力発電事業が継続されることで、地元での雇用維持や電力の安定供給に寄与し、産業構造の転換と環境保全を両立するモデルケースとして注目されました。佐賀県としても、再生可能エネルギーの活用を通じて地域振興を図る上で、大手企業の資金力や技術力を取り込むことができた点は大きなメリットといえます。


2.超音波洗浄機メーカーの子会社化:AQUAPASSの取得

事例概要

  • 買収元:南陽(銘柄コード:7417)
  • 買収先:AQUAPASS(佐賀県有田町)
  • 取得価額:非公表
  • 取得時期:2024年2月20日予定

背景・狙い
南陽は計測器や産業機器などの商社機能を持ち、事業領域を多角的に拡大している企業です。一方、AQUAPASSは2016年に設立された電子部品向け超音波洗浄機のメーカーで、製造から設置後のメンテナンスまで一貫して手がける技術力を強みとしています。

このM&Aの狙いは、南陽グループの営業ネットワークとAQUAPASSの技術力を組み合わせることで、さらなる顧客開拓や事業拡大を見込むことにあります。特に電子部品の製造・加工分野では微細加工や高精度化のニーズが高まっており、超音波洗浄機の需要は拡大傾向にあります。そのため、両社のシナジーによって市場ニーズに対応する新製品開発や、メンテナンスサービスの強化などが期待されています。

地域経済への影響
有田町は焼き物産業で有名ですが、新たな製造業としての技術企業の進出・拡大は地域経済の多様化にも寄与します。南陽グループの子会社化により、AQUAPASSの設備投資や雇用機会の拡大が進めば、有田エリアの産業活性化につながるでしょう。


3.実験動物生産子会社の譲渡:九動の売却

事例概要

  • 譲渡元:久光製薬(銘柄コード:4530)
  • 譲渡先:日本クレア(東京都目黒区)
  • 譲渡会社:九動(佐賀県鳥栖市)
  • 譲渡価額:非公表
  • 譲渡時期:2019年2月28日

背景・狙い
久光製薬は医薬品の研究開発を行う中で、実験動物の生産・飼育を担う子会社として九動を保有していました。しかし、久光製薬は中核となる医薬品事業に経営資源を集中させる戦略をとり、実験動物事業からは撤退を決定しました。

譲渡先の日本クレアは実験動物関連事業を専門とする企業であり、研究用動物の生産・飼育技術やノウハウを有しています。今回のM&Aにより、九動は実験動物事業の専門企業の元で事業継続が可能となり、久光製薬は財務・経営資源を医薬品開発に集中できるというメリットを獲得しました。

地域経済への影響
鳥栖市は、九州の交通要衝として物流施設や企業拠点が多く集まる地域です。今回の譲渡によって、九動の運営体制は変わるものの、実験動物事業自体は存続するため、地元雇用や取引関係の維持につながりました。医薬・バイオ関連産業の集積が進む鳥栖市において、専門企業の傘下に入ることでさらなる技術開発や施設投資が期待されます。


4.プレカット事業の取得:佐賀プレカット事業・伊万里2×4プレカット事業

事例概要

  • 取得元:越智産業(銘柄コード:7489)
  • 取得事業:
    • 佐賀プレカット事業(鈴木木材工業の関連事業)
    • 伊万里2×4プレカット事業(伊万里外材の関連事業)
  • 取得価額:非公表
  • 取得時期:2009年9月1日

背景・狙い
越智産業は木材や建材の販売、住宅関連事業を手がける企業で、プレカット事業の強化を図ってきました。一方、鈴木木材グループは民事再生手続きに入り、事業再生のためのスキームを模索していた中で、佐賀県内にあるプレカット事業を切り出して売却することになりました。

プレカット事業は、住宅用の木材をあらかじめ加工するサービスで、住宅建設の効率化や品質向上に不可欠な工程です。越智産業はこの取得により、西日本地域でのプレカット事業基盤を拡大し、製造から販売までを一貫する体制を強化しました。

地域経済への影響
建設業界におけるプレカットの需要は高く、佐賀県内に拠点を置くことで、九州や西日本エリアへの供給体制がより円滑になると期待されました。また、事業再生の観点からも、佐賀プレカット事業や伊万里2×4プレカット事業の雇用維持が実現し、地域にとっても重要な製造拠点の継続が確保されました。


5.倉庫業の株式譲渡:丸運トワード物流の譲渡

事例概要

  • 譲渡元:丸運(銘柄コード:9067)
  • 譲渡先:トワード(佐賀県吉野ヶ里町)
  • 譲渡会社:丸運トワード物流(神奈川県愛川町)
  • 譲渡価額:6000円
  • 譲渡時期:2015年11月30日

背景・狙い
丸運とトワードは2011年に合弁で低温倉庫を活用した物流会社である「丸運トワード物流」を設立しました。しかし、事業環境の悪化などにより、事業計画の達成が難しくなったことから、丸運は撤退を決定し、保有する株式60%をトワードに譲渡しました。

譲渡先のトワードは佐賀県吉野ヶ里町に本社を置く自動車運送業者であり、食品系の低温物流を中心に手がけてきました。合弁から完全子会社化に移行することで、物流ノウハウを活かした事業展開をさらに進める狙いがあります。

地域経済への影響
物流事業は産業を下支えする重要なインフラであり、特に食品や生鮮品の低温物流は需要が堅調です。トワードが県内に本拠地を持つ企業として丸運トワード物流を完全子会社化することで、経営判断のスピードアップやサービス拡充が図られ、結果的に九州全域への効率的な物流網を強化することが期待されました。


6.スーパーマーケット事業の子会社化:クリエイトの取得

事例概要

  • 買収元:マックスバリュ九州(銘柄コード:3171)
  • 買収先:クリエイト(佐賀県杵島郡)
  • 取得価額:非公表
  • 取得時期:非公表

背景・狙い
マックスバリュ九州はイオングループに属するスーパーマーケット事業者で、九州全域で店舗網を展開しています。一方、クリエイトは佐賀県内で6店舗を運営しており、地場商品の調達力に強みを持っていました。

このM&Aの意義は、マックスバリュ九州がクリエイトを子会社化することで、地域密着型の店舗運営をさらに強化し、佐賀県内での市場シェアを高めることにあります。また、イオングループとしてのスケールメリット(仕入れや物流、販促)を活かしつつ、佐賀県の地場食材を豊富に取り揃えることで、地域住民のニーズに合った商品ラインナップを実現する狙いがありました。

地域経済への影響
県内で6店舗を構えるクリエイトの買収により、地元生産者やメーカーとの取引が増加する可能性があります。大手流通グループの資本参加は、仕入れルートの拡大や集客力の向上に寄与し、地域の農業・食品関連産業を巻き込んだ経済効果をもたらすと考えられます。


7.半導体ウエハー検査装置の搬入・据え付けサービス:イーエフイーの子会社化

事例概要

  • 買収元:ブイ・テクノロジー(銘柄コード:7717)
  • 買収先:イーエフイー(東京都多摩市)
  • 取得価額:非公表
  • 取得時期:2022年5月23日

背景・狙い
イーエフイーは2011年設立以来、半導体ウエハー検査装置の搬入や据え付け、保守を専門的に行ってきた企業で、福島県や佐賀県鳥栖市にメンテナンス拠点を置いています。ブイ・テクノロジーはディスプレイや半導体検査装置などの分野で高い技術力を持ち、世界的に事業を展開しています。

今回の子会社化で、ブイ・テクノロジーはイーエフイーの据え付け・メンテナンス分野のノウハウを取り込み、半導体検査装置需要の拡大にスピーディーに対応できる体制を築きたい狙いがあります。特に半導体市場では12インチ(300mm)から8インチ(200mm)まで、装置の大型化・多様化が進んでいるため、現地での専門的なサービスは不可欠となっています。

地域経済への影響
佐賀県鳥栖市にメンテナンス拠点があることで、九州エリアの半導体工場への迅速なサービス提供が可能となります。半導体関連産業は近年国内回帰の動きが活発であり、鳥栖市における産業インフラの充実は、結果的に関連企業の誘致や雇用拡大につながる可能性があります。


8.九州地区のスーパー事業取得:イズミによる西友の九州撤退店舗の買収

事例概要

  • 買収元:イズミ(銘柄コード:8273)
  • 買収先:西友(東京都武蔵野市)から九州地区69店舗を取得
  • 取得価額:非公表
  • 取得時期:2024年8月1日(予定)

背景・狙い
イズミは広島県発祥のスーパーマーケット大手であり、「ゆめタウン」「ゆめマート」などのブランドで中四国・九州を中心に店舗を展開しています。長期ビジョンとして、2030年までに中四国・九州を軸に300店舗体制を目標としており、今回の買収はその戦略を大きく前進させるものでした。

一方、西友は北海道での事業撤退に続き、九州からも撤退するという方針を示しました。これにより、福岡県を中心とする計69店舗をイズミが取得し、熊本市に本社を置く子会社「ゆめマート熊本」を受け皿とする形で事業移管される予定です。佐賀県内にも1店舗の「サニー」ブランドが含まれ、今後はイズミグループの一員として運営される見込みです。

地域経済への影響
大型スーパーマーケットの運営が変わることで、仕入れ、販促、物流面での効率化が進み、地域住民にとっての利便性向上が期待されます。また、佐賀県内の店舗も、既存のイズミグループのネットワークを活かして商品調達や店舗運営が進められるため、地元産品の取り扱い拡大や価格競争力の向上に寄与すると考えられます。


9.光触媒メーカーの子会社化:鯤コーポレーションの取得

事例概要

  • 買収元:Abalance(銘柄コード:3856)
  • 買収先:鯤コーポレーション(佐賀県武雄市)
  • 取得株式:68.4%
  • 取得価額:2300万円
  • 取得時期:2019年1月25日

背景・狙い
鯤コーポレーションは、光触媒酸化チタンコーティング剤の製造・販売に強みを持ち、屋内外の空気浄化、防汚、抗菌用途などで実績を積んできた企業です。Abalanceは再生可能エネルギー分野を主要事業とし、太陽光発電所の設計・運営を手がける子会社WWBを有しています。

今回のM&Aの狙いは、太陽光発電事業において光触媒技術を活用し、太陽光パネルの汚れ防止や効率維持につなげるソリューションを開発・提供する点にありました。鯤コーポレーションの技術を太陽光発電設備に応用することで、発電効率の向上やメンテナンスコストの削減が見込まれます。

地域経済への影響
佐賀県武雄市は温泉地としても知られますが、近年はIT関連や環境関連の新産業育成にも力を入れています。光触媒技術は建築資材や自動車部品など多方面で需要が伸びており、再生可能エネルギーとの組み合わせによる新製品・サービスの創出が期待されます。Abalanceグループの資本力や営業力を活かすことで、鯤コーポレーションの事業拡大や研究開発が加速し、地域産業の高度化にも寄与すると考えられます。


10.葬儀事業子会社の譲渡:アイ・セレモニーの売却

事例概要

  • 譲渡元:アイ・ケイ・ケイ(銘柄コード:2198)
  • 譲渡先:木下(福岡県久留米市)
  • 譲渡会社:アイ・セレモニー(佐賀県伊万里市)
  • 譲渡株式:95%
  • 譲渡価額:3億7700万円
  • 譲渡時期:2019年10月1日

背景・狙い
アイ・ケイ・ケイは主に婚礼事業を手がけており、葬儀事業を展開する子会社としてアイ・セレモニーを保有していました。しかし、全売上高のうち葬儀事業は2%程度にとどまっており、本業である婚礼事業に経営資源を集中したいとの考えから、子会社を譲渡することとなりました。

譲渡先の木下は冠婚・葬祭事業を幅広く行う企業で、今回の買収により葬儀事業の拡充を図る狙いがあります。アイ・セレモニーは佐賀県伊万里市を拠点に地域に根付いた葬儀サービスを提供しており、地元顧客基盤の取り込みが期待されます。

地域経済への影響
葬儀業界は高齢化に伴い一定の需要が見込まれる一方、競合他社とのサービス差別化が課題となっています。地域に密着した葬儀社として評価の高いアイ・セレモニーを取り込み、木下がさらなるサービス向上や多角的な冠婚・葬祭ビジネスを展開することで、地元の消費者にとってはより多様な選択肢が提供される可能性があります。


11.求人折込紙発行の子会社化:アピールコムの取得

事例概要

  • 買収元:KG情報(銘柄コード:2408)
  • 買収先:アピールコム(山口県宇部市)
  • 取得価額:2億6300万円
  • 取得時期:2018年3月26日

背景・狙い
KG情報は求人、住宅、ブライダル関連などの情報提供サービスを展開しており、とくに求人広告に強みを持っています。一方、アピールコムは山口県、福岡県、佐賀県などを中心に折込求人紙を発行し、地元で高いシェアを誇る企業です。

このM&Aの狙いは、KG情報が山陽地域における求人媒体ビジネスの空白エリアだった山口県でのシェア拡大を図る点にあります。さらに、アピールコムがもともと提供していた福岡県や佐賀県エリアでの事業基盤を取り込むことで、KG情報としては広域展開とメディア力の強化につなげたい考えです。

地域経済への影響
求人媒体事業は、地域の雇用促進に直結するサービスです。アピールコムが培ってきた佐賀県を含む九州北部の求人ネットワークをKG情報グループが活用することで、地元企業の採用活動や求職者の就職支援がより活発になることが期待されます。また、求人情報の精度向上や幅広い媒体展開を実施することで、地域社会への貢献度も高まると考えられます。


12.タイ子会社の譲渡:Taniyama Siamの売却

事例概要

  • 譲渡元:JALUX(銘柄コード:2729)
  • 譲渡先:ソノリク(佐賀県鳥栖市)
  • 譲渡会社:Taniyama Siam Co., Ltd.(タイにおける農産物加工輸出)
  • 譲渡価額:非公表
  • 譲渡時期:2020年3月16日

背景・狙い
JALUXは航空関連事業や生活産業事業、リテール事業など多角的に事業を展開していますが、今回、タイの農産物加工輸出事業を担うTaniyama Siamの全株式を譲渡することを決定しました。譲渡理由の詳細は明らかにされていませんが、事業ポートフォリオの再編や、経営資源の選択と集中といった狙いが背景にあると考えられます。

一方、譲渡先となったソノリクは農産物の一時保管・加工・出荷・配送を一貫して行う物流企業で、佐賀県鳥栖市に本社を置いています。タイを含む海外拠点でも農産物の流通を強化したい意向があり、Taniyama Siamを傘下に収めることで事業グローバル化が加速するとみられます。

地域経済への影響
ソノリクは佐賀県鳥栖市という物流の要衝に位置し、日本国内はもとよりアジア各国との貿易・物流に強みを持っています。タイ子会社を手に入れることで海外調達や輸出入ビジネスが拡大すれば、佐賀県鳥栖市の拠点機能がさらに強化される可能性があります。海外との連携が進むことで、地元産品の輸出や外国産品の輸入に係る取扱量増大など、地域経済の活性化が期待されます。


【佐賀県におけるM&Aの総合的な考察】

1.業種の多様性
上記の事例からわかるように、佐賀県では風力発電や実験動物事業、プレカット加工、倉庫・物流、スーパーマーケット事業、超音波洗浄機製造、光触媒技術、葬儀事業、求人広告など、実に幅広い分野でM&Aが実行されています。これは、佐賀県が単一の産業に依存することなく、多様な事業が展開されていることを示すと同時に、県内企業の持つ技術やサービスが外部から注目されている証ともいえます。

2.外部資本との提携
多くの事例で、県外の大手企業やグループ企業が佐賀県の企業・事業を買収あるいは譲り受けています。これにより、県内企業のブランドや技術が外部からの資本力や販路と結びつき、さらに成長するチャンスを得ています。一方で、県内企業が主導して県外や海外の事業を取得するケースも存在し、地域企業の積極的な成長戦略が見られます。

3.事業承継・経営資源の集中
久光製薬やアイ・ケイ・ケイの例のように、本業以外の周辺事業から撤退し、経営資源を中核事業へ集中させる目的でM&Aを行うケースも増えています。また、鈴木木材グループのように民事再生手続きの一環として事業を売却し、再編を進めるケースも見受けられます。このように、経営環境の変化や事業構造改革の必要性から、M&Aが有効な手段として活用されているといえます。

4.地域経済への波及効果
M&Aによって事業が継続・拡大される場合、地元雇用の安定や設備投資の増加、関係取引先の事業拡大などポジティブな波及効果が期待されます。特に佐賀県のように人口規模が大都市圏に比べると小さい地域においては、企業一社の動きが地域経済に与える影響が相対的に大きく、雇用の維持・創出や税収増加などのメリットが現れやすいと考えられます。


【今後の展望と課題】

1.後継者不足への対応
佐賀県に限らず、日本全国の中小企業が抱える最大の課題の一つが「後継者不足」です。若者の県外流出が続く地方では、事業承継が難しくなり、廃業リスクが高まっています。今後もM&Aは、後継者不在の優良企業を外部に引き継ぐ手段として活発化する可能性があります。

2.デジタル化やグローバル化への対応
IT技術の進歩やグローバル化の加速を背景に、新たな成長分野への参入や既存事業の高度化を目指す企業が増えています。佐賀県でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)や海外市場への進出を支援する動きが活発化しており、M&Aを通じて高度な技術や国際ネットワークを一気に取り込む企業が増えることが予想されます。

3.地域との共生・SDGsへの取り組み
近年、企業がSDGs(持続可能な開発目標)やESG投資の観点から、環境保護や地域社会への貢献を重視する動きが加速しています。佐賀県内でも、再生可能エネルギー事業(肥前風力発電や光触媒技術など)に関連するM&Aが活発なように、環境配慮型ビジネスへの転換や成長は大きなテーマです。県外資本や外国資本と連携しながら、地域固有の環境資源や文化資源を活かすM&Aが今後さらに増える可能性があります。

4.行政や支援機関のサポート
M&Aを推進する上で、行政や地元金融機関、商工会議所などの支援は不可欠です。佐賀県においても、企業誘致や創業支援の一環として、M&Aのマッチングやコンサルティングを行う機関が増えています。こうした支援体制が整備されることで、中小企業のスムーズな事業承継や成長戦略が後押しされ、地域経済の活性化につながることが期待されます。


【まとめ】

佐賀県は歴史や文化、伝統産業から新エネルギー・IT関連企業まで、多彩な事業が存在する魅力的な地域です。近年のM&A事例を見ても、風力発電や超音波洗浄機、実験動物、プレカット加工、倉庫・物流、スーパーマーケット、光触媒技術、葬儀、求人広告など非常に幅広い分野で取り引きが行われており、多様な産業構造を有する佐賀県ならではの特徴が表れています。

M&Aは企業にとって、事業拡大や経営戦略の見直し、後継者不在問題の解決など多方面にわたるメリットがあります。一方、売り手企業にとっては長年培ってきた地元の雇用やノウハウが保全され、買い手企業にとっては新たな市場や技術を獲得できるチャンスとなります。地域社会にとっても、M&Aを通じて企業活動が活性化し、地域雇用や産業振興が促進される好循環を生む可能性があります。

ただし、M&Aは常にうまくいくわけではなく、買収後のシナジー創出や組織統合、企業文化の違いなど、クリアすべき課題が多数存在します。佐賀県におけるM&Aにおいても、譲渡元企業の経営課題や後継者問題、地域への配慮といった観点が欠かせません。外資や大手企業の買収が地域の活力を奪うことのないよう、互いの理解と連携が重要です。

今後も佐賀県は、その地理的優位性と多様な産業基盤を武器に、M&Aを通じた事業承継や企業再編が進むと考えられます。行政や金融機関、商工団体などが一体となってM&Aのサポート体制を整えることで、県内の中小企業が健全に成長し、新たな地域活性化のモデルケースが生まれるでしょう。

結果として、佐賀県の企業と県外・海外企業の連携がさらに強まり、多様なイノベーションや雇用創出が期待されます。伝統的な産業と先端技術、地方の強みとグローバルなネットワークが融合することで、佐賀県経済の一層の発展が見込まれるのです。

佐賀県におけるM&Aは、単なる企業買収や売却にとどまらず、地域の未来を創る重要な経営戦略の一環といえるでしょう。今後もM&Aのトレンドと佐賀県の産業構造変化を注視し、地域が持続的に発展していくための選択肢として、その動向に注目していきたいと思います。