目次
  1. はじめに:岡山県におけるM&Aの意義
  2. 第1章:製造業・インフラ系企業の動き
    1. 1-1. 日清オイリオグループとJ-オイルミルズによる搾油機能の統合
    2. 1-2. 三井E&Sホールディングス(旧・三井造船)関連の再編
      1. (1) 艦艇事業の三菱重工業への譲渡
      2. (2) 千葉工場の造船事業終了に伴う希望退職募集
    3. 1-3. サノヤスホールディングスの造船事業撤退
  3. 第2章:地域金融・証券業のM&A
    1. 2-1. 中国銀行による津山証券の子会社化
    2. 2-2. その他の金融関連の動き
  4. 第3章:IT・システム開発分野のM&A
    1. 3-1. 日本電通による三洋コンピュータの子会社化
    2. 3-2. デザインワン・ジャパンによるイー・ネットワークスの子会社化
    3. 3-3. TOKAIホールディングスによるアムズブレーンの子会社化
  5. 第4章:医薬品・医療関連のM&A
    1. 4-1. ビー・エム・エルによる岡山医学検査センターの子会社化
    2. 4-2. ファーマライズホールディングスによるカワモトとドレミ薬局の子会社化
    3. 4-3. 安田倉庫によるエーザイ物流の子会社化
  6. 第5章:食品・外食産業におけるM&A
    1. 5-1. 神戸物産によるサラニの全事業取得
    2. 5-2. すかいらーくホールディングスによる「資さんうどん」の資さんを子会社化
    3. 5-3. 穴吹興産による祖谷渓温泉観光など2社の子会社化
    4. 5-4. リックコーポレーションによるアグリ元気岡山の子会社化
  7. 第6章:その他多彩な業種の事例
    1. 6-1. 三井E&Sによる関連事業の譲渡・取得など
      1. (1) 千葉工場造船事業終了に伴う希望退職
      2. (2) フェローテックによるアドマップの子会社化
    2. 6-2. ヤマハによるヤマハ鹿児島セミコンダクタの半導体製造事業譲渡
    3. 6-3. トレックス・セミコンダクターによるフェニテックセミコンダクターの子会社化
    4. 6-4. トピー工業によるリンテックス買収
    5. 6-5. ベステラによるオダコーポレーションの子会社化
    6. 6-6. きずなホールディングスによる備前屋の子会社化
    7. 6-7. コンセックによる丸金建設の子会社化
    8. 6-8. エディオンによる室山運輸の子会社化
  8. 第7章:サービス業・観光・レジャー関連のM&A
    1. 7-1. ストライダーズによるロテルド倉敷(ホテル日航倉敷)の子会社化
    2. 7-2. アスカによる岡山国際サーキットの子会社化
    3. 7-3. アコーディア・ゴルフの岡山御津カントリークラブ売却や津山ゴルフクラブ譲渡
  9. 第8章:ケーブルテレビ・通信事業のM&A
    1. 8-1. ビック東海によるエルシーブイ、倉敷ケーブルテレビの子会社化
    2. 8-2. TOKAIホールディングスによるテレビ津山の子会社化
    3. 8-3. TOKAIホールディングスによるシオヤのCATV事業取得
  10. 第9章:小売・流通業におけるM&A
    1. 9-1. ウエルシアホールディングスによる金光薬品の子会社化
    2. 9-2. ウエルシアホールディングスによるジュンテンドーのドラッグストア事業取得
    3. 9-3. オートバックスセブンによるオートバックス山陰の譲渡
  11. 第10章:事業再生・再編の一形態としてのM&A
    1. 10-1. 曙ブレーキ工業の早期退職実施と岡山県拠点への影響
  12. 第11章:産業廃棄物処分や環境ビジネス関連のM&A
    1. 11-1. ジェイホールディングスによるエイチビーの子会社化
    2. 11-2. ギフティによるpaintoryの子会社化
  13. 結び:岡山県M&Aの今後と地域経済への示唆

はじめに:岡山県におけるM&Aの意義

岡山県は中国地方のほぼ中央に位置し、歴史的・文化的にも重要な拠点として発展を遂げてきました。交通網としては山陽新幹線や瀬戸大橋などが整備され、本州と四国を結ぶアクセスの要衝でもあり、工業分野では水島コンビナートをはじめとする製造業の集積がみられます。農業においては「晴れの国 おかやま」というキャッチフレーズに象徴される温暖な気候を活かした果物・野菜などの生産が盛んなほか、観光やサービス業など多彩な産業が点在する地域です。

一方で、全国的に少子高齢化や人口減が進む中、地域密着の企業を中心に後継者不足や経営環境の変化への対応が課題となるケースも増えています。企業が持続的に発展していくためには、業務提携や資本提携、さらにはM&A(合併・買収)といった戦略的な手段を用いて組織を強化し、新しい技術やノウハウを導入することが求められる局面が増えています。

岡山県におけるM&Aには、大企業と地元企業の提携による技術力・生産力の強化や、地域金融機関が地元の証券会社等を取り込むことでより総合的な金融サービスを実現する動き、あるいは後継者不足解消を目的とした中小企業同士のM&Aなど、多種多様な形態が存在します。本稿では、実際に公表された事例を振り返りつつ、それぞれの目的や戦略、地域経済に与える影響などを総合的に考察してまいります。


第1章:製造業・インフラ系企業の動き

1-1. 日清オイリオグループとJ-オイルミルズによる搾油機能の統合

事例概要

  • 公表日:2023年2月20日
  • 当事者
    • 日清オイリオグループ株式会社(以下、日清オイリオ)
    • 株式会社J-オイルミルズ(以下、J-オイルミルズ)
  • 統合の内容
    新会社「製油パートナーズジャパン」(岡山県倉敷市)を設立し、日清オイリオの水島工場およびJ-オイルミルズ倉敷工場の搾油機能(原油と油粕の製造)を統合。共同出資により新会社を設立して、国内搾油業の国際競争力向上と安定供給体制の確保を目指す。

実施の背景と狙い
食用油の需要構造は近年多様化しており、健康志向や調理方法の変化などによって新製品・高機能性オイルの需要が伸びる一方、原料価格の高騰や国際競争の激化も続いています。そうした中、搾油機能の統合によってスケールメリットを獲得し、生産効率や物流効率を高める狙いがありました。さらに、岡山県倉敷市の水島地区は日本有数の工業地帯であり、工場集約によって地域の産業基盤を活性化するとともに、地元への雇用維持・経済波及効果も期待されます。

実施予定日の変更経緯

  • 当初は2023年4月3日に実施予定だったが、2023年3月24日に日程変更を発表。
  • 2023年8月9日、最終的に2023年10月2日に実施すると決定し公表。

このように、M&Aや事業統合が実際に動き出すまでには、社内外の手続きや関連当局との調整などが必要となるため、やむを得ず実施時期が変更されるケースも散見されます。

1-2. 三井E&Sホールディングス(旧・三井造船)関連の再編

(1) 艦艇事業の三菱重工業への譲渡

  • 公表日:2020年6月12日
  • 当事者:三井E&Sホールディングス、三菱重工業
  • 内容:三井E&S造船が手がける艦艇事業を三菱重工業へ譲渡する基本合意を締結。譲渡対象となる艦艇事業は岡山県玉野市の玉野艦船工場が担っており、防衛省を中心とする船舶の建造・修繕を継続しながらも、三菱重工への事業譲渡により経営再建を進める。

背景と意義
世界的な造船需要の変動やコスト競争が激化する中、三井E&Sは大幅な構造改革を余儀なくされました。すでに商船建造からの撤退を決めた千葉工場(千葉県市原市)に続き、艦艇部門でもより大手の三菱重工業との協業・譲渡による継続を図ることで、企業としての再建を優先しています。一方、岡山県玉野市としては、同工場の雇用や地域経済における存在感が大きいため、譲渡後も建造・修繕業務の継続が表明されたことは大きな意味を持ちます。

(2) 千葉工場の造船事業終了に伴う希望退職募集

  • 公表日:2020年2月27日
  • 当事者:三井E&Sホールディングス、三井E&S造船
  • 内容:千葉工場の事業終了(3月末)にともない、玉野艦船工場(岡山県玉野市)やグループ各社への再配置が検討されたものの、全従業員を吸収することが困難と判断し、200名程度の希望退職を募集する施策が公表されました。

これら一連の再編は、造船市場の激化した競争環境下において、効率的な事業運営を目指すためのものであり、厳しい決断を迫られた事例といえます。岡山県に残る拠点(玉野艦船工場)は艦艇・修繕に特化しながら事業継続が図られていますが、地域経済への影響や雇用の確保が大きな課題となりました。

1-3. サノヤスホールディングスの造船事業撤退

  • 公表日:2020年11月9日
  • 当事者:サノヤスホールディングス、新来島どっく
  • 内容:サノヤスホールディングスが造船事業から撤退し、100%子会社サノヤス造船(大阪市)が運営する水島製造所(岡山県倉敷市)を含む造船部門全体を新来島どっくへ譲渡。譲渡価額は100万円と公表され、大幅な赤字事業を切り離す形となりました。

背景
サノヤス造船は1911年創業の老舗であり、水島製造所を拠点とする造船事業を主力としていました。しかし、世界的に需給バランスが崩れ、船価の下落が続く中で採算が悪化。再建策として最終的に造船から撤退し、主力を産業用・建設用機械装置の製造や遊園地施設など別分野へ集中する決断に至りました。譲渡先の新来島どっくは1987年に再出発した造船メーカーで、愛媛県今治市を本拠とし多彩な船種を建造する実績があります。

こうした造船業からの撤退や再編は、大きな雇用や経済的波及効果を生む重工業が集積する岡山県にとって、大きなインパクトがある事例です。一方で、競争力が落ちた部門を手放し、他の事業にリソースを集中するという動きもまた、企業の生き残り戦略としてはよくみられるものです。


第2章:地域金融・証券業のM&A

2-1. 中国銀行による津山証券の子会社化

  • 公表日:2008年12月22日
  • 当事者:株式会社中国銀行、津山証券
  • 内容:金融商品取引業を営む津山証券(岡山県津山市)の株式取得により、子会社化する計画が発表されました。最終的に、2009年6月1日付で同社株式81.01%を取得し子会社化。
  • 背景と狙い:地方銀行は従来の預金・融資業務に加え、顧客企業や個人投資家への証券業務・資産運用アドバイスといった総合金融サービス強化が求められてきました。中国銀行が津山証券を取り込むことで、地域の証券ニーズに応える体制を確立するとともに、自行グループ内での顧客囲い込みを目指した形といえます。

2-2. その他の金融関連の動き

近年、地銀は収益源の多様化のためM&Aや業務提携を活用しており、岡山県内でも同様の動きが確認されています。地元の企業買収だけでなく、県外証券会社との連携や投資信託販売強化などを通じたビジネスモデル再構築が広がっています。


第3章:IT・システム開発分野のM&A

3-1. 日本電通による三洋コンピュータの子会社化

  • 公表日:2012年3月15日
  • 当事者:日本電通株式会社、三洋コンピュータ
  • 内容:日本IBMの特約店としてシステム構築事業を行う三洋コンピュータ(岡山市)の株式を取得し子会社化。中国地方への商圏拡大が狙い。
  • ポイント:岡山県内の企業を取り込むことで、IT・通信領域において地域展開を強化する狙いがみられます。ITインフラ整備は地方企業の事業効率改善やDX推進において重要であり、日本電通としても中国地方でのプレゼンス向上を図ったものと考えられます。

3-2. デザインワン・ジャパンによるイー・ネットワークスの子会社化

  • 公表日:2021年10月22日
  • 当事者:株式会社デザインワン・ジャパン、株式会社イー・ネットワークス
  • 内容:イー・ネットワークス(岡山市)の全株式を取得し子会社化。「エキテン」を運営するデザインワン・ジャパンは、中小企業向けのWeb制作・受託開発、サーバー関連サービスなどを活用してサービスを強化。ベトナムの開発拠点とも連携し、DX分野のソリューション拡大も狙う。
  • 狙い:クラウドサービスやWebサービスが急速に普及するなかで、システム開発力の強化や地域の顧客獲得が喫緊の課題。岡山のIT企業を取り込むことで、開発リソースや地域の中小企業ネットワークを獲得する効果が期待されます。

3-3. TOKAIホールディングスによるアムズブレーンの子会社化

  • 公表日:2019年7月19日
  • 当事者:TOKAIホールディングス、アムズブレーン
  • 内容:アムズブレーン(岡山市)の株式99%を取得し子会社化。同社の実質的な事業子会社であるアムズユニティーもグループとして取り込む。
  • 背景:TOKAIホールディングスは静岡県を拠点とし、通信・CATV・アクア事業など多角的に展開。岡山県にもデータセンターを保有しており、地元のシステム開発企業を傘下に収めることで、県内や近隣地域のDX需要を取り込むとともに、グループシナジーを狙っています。

以上のように、IT・システム開発領域でも、企業規模拡大や技術力向上、他地域への事業展開を目指してM&Aが活発に行われていることがわかります。


第4章:医薬品・医療関連のM&A

4-1. ビー・エム・エルによる岡山医学検査センターの子会社化

  • 公表日:2014年6月27日
  • 当事者:ビー・エム・エル、岡山医学検査センター
  • 内容:岡山県倉敷市に拠点を置き、受託臨床検査や調剤薬局を運営する岡山医学検査センターの全株式を取得。ビー・エム・エルは大手臨床検査会社として全国展開しており、今回の取得により、岡山県でのサービス拡充と競争力強化を図る。

4-2. ファーマライズホールディングスによるカワモトとドレミ薬局の子会社化

  • 公表日:2009年7月27日
  • 当事者:ファーマライズホールディングス、カワモト、ドレミ薬局
  • 内容:カワモト(岡山県津山市)がドレミ薬局を取得後、ファーマライズホールディングスがカワモトに第三者割当増資を引き受ける形で出資し、最終的にカワモト株式51.2%を取得。
  • 背景:少子高齢化と医療需要の増大を受けて、調剤薬局の役割は益々重要になっています。全国展開を進めるファーマライズHDが、岡山県内で複数店舗を有する薬局を取り込み、地域基盤を強化した格好です。

4-3. 安田倉庫によるエーザイ物流の子会社化

  • 公表日:2022年12月28日
  • 当事者:安田倉庫、エーザイ、エーザイ物流
  • 内容:エーザイ傘下のエーザイ物流(神奈川県厚木市)の全株式を取得。エーザイ物流は札幌市・厚木市・岡山県真庭市の3拠点を持ち、医薬品物流を担う。
  • 狙い:メディカル物流体制を強化し、全国をカバーできるインフラを整える。岡山県真庭市の拠点も含め、医薬品の安定供給に資する物流ネットワークの効率化が期待される。

このように医療・薬局・臨床検査分野でも、企業再編を通じて事業の効率化や地域でのサービス拡充を目指す動きが顕著です。


第5章:食品・外食産業におけるM&A

5-1. 神戸物産によるサラニの全事業取得

  • 公表日:2020年4月1日
  • 当事者:神戸物産、サラニ
  • 内容:岡山県瀬戸内市に拠点を置く洋菓子製造販売のサラニの全事業を神戸物産子会社を通じて取得。デザート分野のPB(プライベートブランド)充実を図る。
  • 背景:全国展開する「業務スーパー」等で知られる神戸物産は、自社ブランドのスイーツやデザートを強化する戦略を推進。岡山県の洋菓子メーカーを取り込むことで、品質の安定供給と新商品開発のスピードアップを狙ったと考えられます。

5-2. すかいらーくホールディングスによる「資さんうどん」の資さんを子会社化

  • 公表日:2024年9月6日
  • 当事者:すかいらーくホールディングス、資さん(北九州市)
  • 内容:九州・山口県・岡山県・関西圏に展開する「資さんうどん」の運営会社である資さんを買収。全株式を240億円で取得し子会社化。岡山県にも既存店舗があり、地方ロードサイド事業の強化を図る。
  • 意義:近年の外食産業では、地方発の人気チェーン店を有力大手が取り込む例が増えています。「資さんうどん」は北九州発祥ながら岡山県や兵庫県、大阪府などにも進出しており、さらに関東展開を予定。すかいらーくグループの全国ネットワークを活用して、さらに成長を加速させようという狙いがあります。

5-3. 穴吹興産による祖谷渓温泉観光など2社の子会社化

  • 公表日:2020年6月1日
  • 当事者:穴吹興産、祖谷渓温泉観光、祖谷温泉
  • 内容:「和の宿 ホテル祖谷温泉」(徳島県三好市)を運営する祖谷渓温泉観光、およびケーブルカーを運営する祖谷温泉の兄弟会社2社を子会社化。穴吹興産は岡山県にもホテルや旅館を持ち、観光事業を強化。
  • 背景:穴吹興産は不動産デベロッパーとして知られますが、四国・中国地方でホテル・旅館事業に力を入れており、地域資源を活かした観光事業の拡大が狙い。岡山県で培ったノウハウも活用し、四国内や周辺地域の観光産業を繋げる効果が期待されます。

5-4. リックコーポレーションによるアグリ元気岡山の子会社化

  • 公表日:2014年2月14日
  • 当事者:リックコーポレーション、アグリ元気岡山
  • 内容:アグリ元気岡山(総社市)の全株式を取得。「農マル園芸」のブランドで花き・果樹・野菜等の生産直売や観光農園事業を手がける企業のノウハウを取り込む。
  • 狙い:リックコーポレーションはホームセンターや生活関連用品販売などを行う企業であり、農産物直売・観光農園事業へ参入することで地域の農業活性化や集客力向上を図る。岡山県内での知名度が高い「農マル園芸」のブランドを得ることは大きなシナジーとなります。

食品や外食産業におけるM&Aは、商品開発力やブランド力、物流効率などを強化する手段として活発化しています。地方の名物チェーンや生産・直売を手がける企業を取り込むことで、規模拡大や差別化を図る動きが岡山県でも目立ちます。


第6章:その他多彩な業種の事例

6-1. 三井E&Sによる関連事業の譲渡・取得など

(1) 千葉工場造船事業終了に伴う希望退職

先述の通り、三井E&Sは造船事業の再編を進める一方で、半導体関連部品製造(アドマップ)をフェローテックに譲渡するなど多方面のリストラ・再編を行ってきました。岡山県に所在する玉野艦船工場の行方が注目されます。

(2) フェローテックによるアドマップの子会社化

  • 公表日:2015年6月2日
  • 当事者:フェローテック、三井造船(現・三井E&S)
  • 内容:三井造船が保有するアドマップ(岡山県玉野市)の株式66.02%をフェローテックが取得。半導体関連部品の製造拠点として強化。
  • 狙い:フェローテックは半導体・真空シールなどの分野でグローバルに事業を展開しており、アドマップの高品質部品を取り込むことで生産体制や製品ラインアップの拡充を図る。岡山県にある製造拠点は、半導体需要の伸びを捉える上でも重要といえます。

6-2. ヤマハによるヤマハ鹿児島セミコンダクタの半導体製造事業譲渡

  • 公表日:2015年3月27日
  • 当事者:ヤマハ、フェニテックセミコンダクター(岡山県井原市)
  • 内容:ヤマハ鹿児島セミコンダクタ(鹿児島県湧水町)の半導体製造事業を岡山県に本社を置くフェニテックセミコンダクターに譲渡。
  • 背景:ヤマハは地磁気センサーなどを手がけつつも、ファブレス化(自社工場を持たずに製品企画・開発に特化)を進めており、製造部門は生産受託企業に託す形を選択。フェニテックセミコンダクターとしては受託生産の拡大により事業規模を拡大できるメリットがある。

6-3. トレックス・セミコンダクターによるフェニテックセミコンダクターの子会社化

  • 公表日:2016年3月14日
  • 当事者:トレックス・セミコンダクター、フェニテックセミコンダクター
  • 内容:フェニテックセミコンダクターが実施する第三者割当増資をトレックス・セミコンダクターが引き受け、株式51.0%を取得して子会社化。
  • 意義:岡山県井原市に本社を置くフェニテックは、半導体受託生産で実績を上げてきました。一方のトレックスは電源ICなどでグローバル展開しており、両社の顧客基盤や製造技術を結集することで競争力向上を図っています。結果として、岡山県での半導体製造機能強化に繋がっています。

6-4. トピー工業によるリンテックス買収

  • 公表日:2018年1月15日
  • 当事者:トピー工業、新日鉄住金(現・日本製鉄)
  • 内容:車両用ホイール製造会社リンテックス(倉敷市)の全株式を新日鉄住金から取得し完全子会社化。リンテックスは1952年設立だが債務超過に陥っていた。
  • 狙い:トピー工業としては、乗用車用スチールホイールを含む製造ラインアップを強化することで、新興国需要への対応や国内外での競争力アップを図る。岡山県倉敷市の生産拠点は水島コンビナート近辺に位置し、資材・物流の利点も大きいと考えられます。

6-5. ベステラによるオダコーポレーションの子会社化

  • 公表日:2023年7月21日
  • 当事者:ベステラ、オダコーポレーション(岡山市)
  • 内容:水島コンビナートの石油精製装置や化学装置の建設・メンテナンス工事に実績を持つオダコーポレーションの全株式を取得し子会社化。ベステラはプラント解体・更新工事を主力とし、今回の取得によってプラント建設・メンテナンスとの一体的なサービスを強化。
  • ポイント:プラント解体と建設・メンテナンスをワンストップで行うことで、顧客企業にとっては工程管理やコスト面でのメリットが期待されます。岡山県はエネルギー・化学プラントの集積地であり、今後の設備更新需要も見込まれます。

6-6. きずなホールディングスによる備前屋の子会社化

  • 公表日:2021年1月14日
  • 当事者:きずなホールディングス、備前屋(瀬戸内市)
  • 内容:備前屋の全株式を取得し、葬儀葬祭分野において中国エリアへ初進出。備前屋は岡山県瀬戸内市と岡山市で家族葬や一般葬を行う。
  • 狙い:葬祭ビジネスは地域性が強いものの、高齢化が進む中で全国的にサービスの需要が高まっています。きずなHDとしては地盤を拡大し、岡山県の拠点を確保することでブランド力向上を目指す戦略です。

6-7. コンセックによる丸金建設の子会社化

  • 公表日:2023年8月31日
  • 当事者:コンセック、丸金建設(倉敷市)
  • 内容:丸金建設の全株式を取得し、土木・解体工事の分野でコンクリート切断などを手がける特殊工事事業を強化。丸金建設は1983年設立で、土木・解体・舗装工事などを展開。
  • 背景:インフラの老朽化対策や再開発需要などを背景に、コンクリート構造物の解体や補修工事への需要は増加。コンセックはダイヤモンド工具や建設機械などを扱っており、施工部門とのシナジーを狙っています。

6-8. エディオンによる室山運輸の子会社化

  • 公表日:2024年8月1日
  • 当事者:エディオン、室山運輸(倉敷市)
  • 内容:岡山県倉敷市の運送会社・室山運輸の全株式を取得。家電輸送やリサイクル回収などで既に取引関係があり、グループ化することで物流体制を一層強固にする。
  • ポイント:家電量販店にとって物流網の確立はビジネス上重要な要素です。自社グループ内で運送を担える体制を整え、配送スピードやアフターサービスの品質向上を図ろうとしていると推測できます。

第7章:サービス業・観光・レジャー関連のM&A

7-1. ストライダーズによるロテルド倉敷(ホテル日航倉敷)の子会社化

  • 公表日:2014年6月10日
  • 当事者:ストライダーズ、ロテルド倉敷
  • 内容:ロテルド倉敷(京都市)が運営する「ホテル日航倉敷」(岡山県倉敷市)を子会社化。倉敷美観地区近くの客室数71室のシティホテルを取得。
  • 狙い:観光都市として人気の高い倉敷市でホテル事業を展開することで、観光需要の取り込みとホテル関連事業の拡大を図る。美観地区という好立地ゆえ、宿泊施設需要が根強く、インバウンド対応の強化なども見込まれました。

7-2. アスカによる岡山国際サーキットの子会社化

  • 公表日:2012年3月12日
  • 当事者:アスカ、ユニマットホールディング→岡山国際サーキット
  • 内容:ユニマットホールディングの子会社である岡山国際サーキットの全株式を取得。美作市に所在するサーキット場の運営・保有事業を取得し、自動車関連企業への受注活動や技術開発の場としても活用する計画。
  • ポイント:アスカは自動車部品や配電盤の製造などを行っており、サーキット運営を通じて新たな収益源の確保とともに、自動車関連企業とのネットワーク形成を期待。近年はモータースポーツを活用した地域振興も注目され、県内経済への波及効果が考えられます。

7-3. アコーディア・ゴルフの岡山御津カントリークラブ売却や津山ゴルフクラブ譲渡

  • 公表日
    • 岡山御津カントリークラブ:2013年12月2日
    • 津山ゴルフクラブ:2008年12月1日
  • 当事者:アコーディア・ゴルフ、ゴルフ場の運営会社(山陽空調工業やフラワ・プロパティなど)
  • 内容:ゴルフ場大手のアコーディア・ゴルフが、岡山県内で保有していた複数のゴルフ場運営会社を譲渡。収益性やポートフォリオ戦略を勘案し、事業の選択と集中を進めた事例。
  • 背景:ゴルフ産業はバブル期に全国で開発が進み、その後、需要減少や経営破綻、再編を経て、近年は比較的落ち着きを見せています。大手運営会社は収益性の高いゴルフ場を中心に運営し、採算の合わない施設は譲渡や売却する傾向が強まりました。地域経済にとっては運営主体の変更が雇用やサービス品質に影響を及ぼし得るものの、新オーナー企業による投資でリニューアルが行われ、地域活性化に繋がる可能性もあります。

第8章:ケーブルテレビ・通信事業のM&A

8-1. ビック東海によるエルシーブイ、倉敷ケーブルテレビの子会社化

  • 公表日:2009年11月27日
  • 当事者:ビック東海、エルシーブイ(LCV)、倉敷ケーブルテレビ(KCT)
  • 内容:LCVの株式87.3%、KCTの株式50%をそれぞれ取得。倉敷ケーブルテレビは岡山県倉敷市が主要サービスエリア。
  • 狙い:光回線やCATV事業を通じて通信サービスを強化する一環。岡山県や長野県のケーブルテレビ事業者を取り込むことで、地域密着型サービスを一気に拡大。出版事業を行っていたぎょうせいからの株式取得によるもの。

8-2. TOKAIホールディングスによるテレビ津山の子会社化

  • 公表日:2017年11月1日
  • 当事者:TOKAIホールディングス、テレビ津山
  • 内容:テレビ津山の株式96.0%を取得し子会社化。サービスエリアは津山市、勝央町。
  • 意義:TOKAIは静岡県を中心にCATV・通信事業を展開しており、岡山県内でも事業拡大。CATVを通じて放送・通信・電話を一括提供するトリプルプレイや4K・8K放送対応を進め、競合優位性を高めようとしています。

8-3. TOKAIホールディングスによるシオヤのCATV事業取得

  • 公表日:2019年5月20日
  • 当事者:TOKAIホールディングス、シオヤ
  • 内容:静岡県三島市周辺(田方郡韮山町・函南町、駿東郡清水町、沼津市大平)をエリアとするシオヤのCATV事業を取得。同社は岡山県にもデータセンターを持つTOKAIグループの一員となり、インフラ強化が図られます。
  • 背景:ケーブルテレビ事業は地上波難視聴対策や地域情報発信などで一定の需要がありますが、光回線との競合で事業構造の転換が進んでいます。TOKAIは全国複数拠点でのCATV展開により、規模のメリットを生み出そうとしています。

第9章:小売・流通業におけるM&A

9-1. ウエルシアホールディングスによる金光薬品の子会社化

  • 公表日:2019年3月18日
  • 当事者:ウエルシアHD、金光薬品(倉敷市)
  • 内容:岡山県内に31店舗(調剤薬局12店舗)を展開する金光薬品の株式96.6%を取得し子会社化。
  • 狙い:ウエルシアはイオン系のドラッグストア大手として全国規模で事業を展開。岡山県を含む中国地方に拠点を増やすことで商圏拡大を図り、調剤併設や介護などの総合サービスを提供できる体制構築を推進している。

9-2. ウエルシアホールディングスによるジュンテンドーのドラッグストア事業取得

  • 公表日:2018年12月17日
  • 当事者:ウエルシアHD、ジュンテンドー
  • 内容:ジュンテンドーが中国地方で展開するドラッグストア「サンデーズ」7店舗(岡山県新見店など)を取得。ホームセンター事業に経営資源を集中するジュンテンドーと、ドラッグ事業を強化するウエルシアの利害が一致。
  • 背景:ドラッグストア業界は再編が進んでおり、ウエルシアに限らず大手チェーンは積極的なM&Aで商圏を拡大。岡山県内の店舗もその一環で吸収された形となります。

9-3. オートバックスセブンによるオートバックス山陰の譲渡

  • 公表日:2012年1月31日
  • 当事者:オートバックスセブン、オートバックス山陰、美作グループ本社(岡山県津山市)
  • 内容:子会社オートバックス山陰(鳥取市)の全株式を、FC加盟法人である美作グループ本社へ譲渡。山陰エリアの店舗経営体制を最適化し、エリア競争力強化を狙う。
  • 狙い:オートバックスセブンは直営店とFC店のバランスを検討しながら事業効率を追求。岡山県津山市に本社を置く美作グループ本社への譲渡により、地域密着型の経営を図ると同時に、フランチャイズの枠組みを活用した運営を促進するといえます。

第10章:事業再生・再編の一形態としてのM&A

10-1. 曙ブレーキ工業の早期退職実施と岡山県拠点への影響

  • 公表日:2020年~2021年にかけて随時
  • 当事者:曙ブレーキ工業、曙ブレーキ山陽製造(総社市) など
  • 内容:業績悪化により私的整理の一種である事業再生ADR手続きで再建を目指す中、複数回にわたる早期退職者募集を実施。岡山県総社市に所在する曙ブレーキ山陽製造を閉鎖する方針が示されるなど、地域経済に大きな影響が生じた。
  • 背景:米国GM向け受注失敗や生産拠点の過剰などにより危機に陥った同社は、国内外複数の拠点を整理。M&Aという形ではなく、事業再編や工場閉鎖、早期退職募集を通じて経営をスリム化する事例となった。地元雇用への配慮として一部再配置や支援策が講じられたが、結果として200名以上の希望退職が集まるなど、波紋が広がった。

第11章:産業廃棄物処分や環境ビジネス関連のM&A

11-1. ジェイホールディングスによるエイチビーの子会社化

  • 公表日:2022年9月26日
  • 当事者:ジェイホールディングス、エイチビー(倉敷市)
  • 内容:エイチビーの全株式を3億2000万円で取得。安定型最終処分場を倉敷市に保有するが埋め立て容量上限で事業休止中。これを活用して最終処分場事業へ本格参入する狙い。
  • 意義:産業廃棄物処理業は許認可が必要で参入障壁が高い事業の一つ。M&Aによって許可や処分場を取得する手法は一般的です。岡山県の工業集積地である水島コンビナートをはじめ、産廃需要は根強く、ジェイホールディングスの事業多角化に寄与する可能性があります。

11-2. ギフティによるpaintoryの子会社化

(※こちらはオリジナル衣料品の制作・販売プラットフォーム事業のM&Aですが、岡山県津山市が本社。)

  • 公表日:2022年9月14日
  • 当事者:ギフティ、paintory(岡山県津山市)
  • 内容:オリジナル衣料品制作プラットフォーム運営のpaintoryを買収し、法人ギフト市場やクリエイター向けサービスとの連携を強化。
  • 背景:インターネットを通じたクリエイターエコノミーやEC事業は急速に拡大しており、ギフティは電子チケット販売等で培ったノウハウを、アパレル領域のギフト化に応用するとみられます。岡山県は繊維産業の歴史もあり、デニムなどで有名な地域性が背景にあると想定されます。

結び:岡山県M&Aの今後と地域経済への示唆

岡山県内で行われたM&A事例を概観すると、以下のような特徴や傾向が浮かび上がります。

  1. 製造業の再編が顕著
    造船や半導体部品製造、さらには食品加工まで、多岐にわたる製造業で国際競争力や効率化を追求するためのM&Aが盛んです。古くから工業が盛んな岡山県では、外資を含む大企業グループの再編に巻き込まれる形で地元拠点の統廃合が行われるケースも多く見受けられます。
  2. 地域密着型企業の後継者問題や規模拡大を背景としたM&A
    調剤薬局やITサービス、農産物直売所など、地域独自のビジネスモデルを展開している企業が、大手グループに取り込まれる事例も増えています。こうした動きは、中小企業の後継者問題を解決する一助になるほか、大手グループとの連携でサービス力や設備投資が強化されるメリットがある一方、経営の自主性が失われる可能性や企業文化の融合といった課題も存在します。
  3. 観光・サービス業の拡大による地域活性化
    ホテル・旅館やゴルフ場、サーキット場などの買収は、観光客の誘致や地域ブランディングの向上に寄与する可能性があります。岡山県は倉敷の美観地区や瀬戸内海沿岸のリゾート、さらには桃太郎伝説や名産の果物などを活かした観光素材が豊富です。M&Aを通じて全国規模の企業が参入することにより、新たな集客策や投資が期待される一方、地域に根ざした運営がなされるかどうかが今後の課題となります。
  4. インフラ・通信事業の再編と競争力強化
    ケーブルテレビや通信分野でも、大手企業が積極的に地域事業者の買収・子会社化を進めています。これによって放送や通信、光回線サービスが高度化し、地域住民にとってはサービスの選択肢が増える反面、地元企業が独立性を失う可能性もあります。
  5. 地域金融機関の総合金融サービス化
    中国銀行が津山証券を子会社化した事例のように、地方銀行が地域密着型の証券会社やその他金融サービスを取り込み、ワンストップで多様なサービスを提供する動きが顕著です。銀行としては新たな収益源を確保でき、顧客としては専門的な相談を身近で受けられるメリットがあります。
  6. 雇用や地域経済への影響
    大手企業のリストラに伴う工場閉鎖や希望退職募集など、地域に大きな痛手となるケースも散見されます。一方で、譲渡や買収を通じて雇用が維持・創出される場合もあり、M&Aが地域にもたらす影響は決して一様ではありません。

まとめとして、岡山県は工業・農業・観光など多様な産業が混在しており、企業の業態もさまざまです。そのため、M&Aの目的や背景も一口では語れないほど多岐にわたります。大手企業が地元企業を買収して生産拠点を統合する事例もあれば、逆に岡山県発の企業が県外・海外へ進出する足掛かりとして他社を取得する動きもみられます。

今後も国内外での競争激化や人材不足の深刻化、技術革新のスピードアップなどを背景に、企業が生き残りをかけて提携・再編に乗り出すケースはますます増えるでしょう。岡山県においても同様の波が続くと予測されますが、地域経済活性化と雇用維持の観点で、行政や金融機関、経済団体などが連携し、中小企業のマッチングサポートやポストM&Aのフォローアップを強化することが求められます。

こうしたM&Aの動きを丁寧にウォッチし、地元企業が抱える課題やニーズを適切に汲み取り、事業継承・後継者不在問題や新規事業開発の機会創出に繋げていくことが、岡山県のさらなる成長と持続可能な発展に寄与するものと考えられます。