目次
  1. 1. 宮崎県におけるM&Aの背景と特徴
  2. 2. 畜産排泄物処理プラント設計・製造「天神製作所」の子会社化(日創プロニティ〈3440〉)
  3. 3. 地場スーパー「戸村精肉本店」の子会社化(リテールパートナーズ〈8167〉)
  4. 4. 「串カツ田中」福岡県内直営店の譲渡(串カツ田中ホールディングス〈3547〉→イートスタイル)
  5. 5. 大和工機の子会社化(岡本工作機械製作所〈6125〉)
  6. 6. リテールパートナーズの積極的な事業取得とドミナント戦略
    1. 6.1. 「新鮮市場」事業の取得(オーケーから)
    2. 6.2. 小野商店のスーパー2店舗取得
  7. 7. フージャースホールディングス〈3284〉のホームステージ子会社化
  8. 8. ナガワ〈9663〉による住重ナカミチハウスの事業取得
  9. 9. テンプホールディングス〈2181〉によるハウコムの子会社化
  10. 10. ホテル事業の一部譲渡と買収(マーチャント・バンカーズ〈3121〉)
  11. 11. タイヨー〈9949〉、経営陣によるTOB(MBO)で非公開化
  12. 12. スタートトゥデイ〈3092〉によるアラタナの子会社化
  13. 13. ジャパン・フード&リカー・アライアンス〈2538〉、焼酎メーカー佐藤焼酎製造場の子会社化
  14. 14. クオールホールディングス〈3034〉によるケーアイ調剤薬局の子会社化
  15. 15. キヤノン〈7751〉、宮崎ダイシンキヤノンを完全子会社化
  16. 16. GFA〈8783〉、障害者就労支援子会社のガルヒ就労支援サービスを経営陣に譲渡
  17. 17. JFLAホールディングス〈3069〉、酒造会社10社を一挙に譲渡
  18. 18. FHTホールディングス〈3777〉、太陽光発電所2カ所を譲渡
  19. 19. 宮崎県のM&A動向がもたらす影響と今後の展望
  20. 20. まとめ

1. 宮崎県におけるM&Aの背景と特徴

宮崎県は、全国的には人口規模が大きくはないものの、農畜産物や観光、近年ではIT分野にも力を入れている県です。特に農畜産業は全国でも有数の産地として知られ、農畜産品に付加価値を加える加工食品産業も盛んです。一方で、県内の人口減少や東京一極集中の影響を受け、地方企業の後継者不足や収益基盤の脆弱化といった課題も抱えています。そうした背景の中で、事業を存続・発展させる手段としてM&Aが活発化しているのです。

また、隣県の鹿児島や熊本、大分、福岡など九州各地の企業との関係も深く、九州全域のドミナント戦略の一環として宮崎県企業の買収・提携が行われることも増えています。大手外食チェーンによる南九州進出や、スーパー大手による地域店舗網の整備などは典型的な例です。さらに、IT分野では宮崎市や都城市、小林市などに拠点を構える企業やコールセンター事業などが集積し、これらの企業が東京や海外を含む大きな資本に取り込まれる事例も散見されます。

以下では、宮崎県に関連する代表的なM&A事例を順に紹介し、その背景や目的、今後の展開を考察していきます。


2. 畜産排泄物処理プラント設計・製造「天神製作所」の子会社化(日創プロニティ〈3440〉)

  • 発表日:2023年2月20日
  • 取得企業:日創プロニティ
  • 被取得企業:天神製作所(宮崎県都城市)
  • 売上高:5億7100万円
  • 営業利益:1200万円
  • 純資産:3億7600万円
  • 取得価額:8億4000万円
  • 取得予定日:2023年3月13日

天神製作所は1993年に設立された企業で、畜産排泄物から堆肥を作る撹拌機や堆肥をペレット状に成形する装置などを主力としており、畜産王国とも呼ばれる宮崎県の中でも重要な役割を担っています。宮崎県は全国屈指の畜産県であり、鶏や豚、牛などの飼育が盛んですが、その副産物として大量の排泄物が発生します。これを環境に配慮した形で資源化することは持続可能な畜産業にとって必須の課題です。

日創プロニティによる子会社化の狙いは、金属加工事業の領域を広げることと同時に、環境関連事業を強化するところにあります。畜産排泄物の処理技術や設備製造技術を持つ天神製作所のノウハウは、全国的にも通用するビジネスチャンスを秘めています。SDGsやカーボンニュートラルが注目される中、畜産排泄物の適正処理や資源化は一段と重視されており、将来性の高い分野といえます。

今回のM&Aは、日創プロニティが地方の有望な事業を取り込む形での成長を図る典型例といえます。宮崎県の畜産業を支える技術が全国展開されることで、日創プロニティにとっては新たな売上源の確保と企業価値の向上につながり、天神製作所にとっては大手企業のネットワークを活かした事業拡大の加速が期待されます。


3. 地場スーパー「戸村精肉本店」の子会社化(リテールパートナーズ〈8167〉)

  • 発表日:2021年3月23日
  • 取得企業:リテールパートナーズ(マルミヤストアが実行)
  • 被取得企業:戸村精肉本店(宮崎県日南市)
  • 売上高:32億3000万円
  • 営業利益:6620万円
  • 純資産:23億7000万円
  • 取得価額:非公表

地場スーパーの戸村精肉本店は、宮崎県日南市を中心にスーパーマーケット4店舗とレストラン1店舗を運営しています。同社は1972年の設立以来、地域密着型の食品スーパーとして定評がありますが、その事業は精肉だけでなく、焼肉のタレの製造でも高い知名度を誇ります。子会社の戸村フーズが製造する「戸村のたれ」は県内シェアトップともいわれ、全国的にも認知度が高まっています。

リテールパートナーズは傘下に「マルミヤストア」「丸久」「マルキョウ」といったスーパー事業を抱え、九州山口エリアで集中的に店舗展開を行っています。その狙いは地域集中出店(ドミナント戦略)を軸とした収益性向上であり、戸村精肉本店の買収も南九州における店舗網拡充の一環です。

「戸村精肉本店」というブランド力と、日南市に根ざした店舗網は、リテールパートナーズにとっては確固たる地域顧客基盤を得ることを意味します。一方、戸村精肉本店側も、広域展開するグループのバックアップを得ることで、商品調達コストの削減や販売エリアの拡大が期待できるでしょう。こうしたM&Aは、地方の中小スーパーが全国規模もしくは広域展開の企業グループに取り込まれることで、経営資源やノウハウを共有し、更なる成長を目指すパターンとして近年多く見られます。


4. 「串カツ田中」福岡県内直営店の譲渡(串カツ田中ホールディングス〈3547〉→イートスタイル)

  • 発表日:2023年6月15日
  • 譲渡企業:串カツ田中ホールディングス
  • 譲受企業:イートスタイル(宮崎県小林市)
  • 譲渡店舗数:11店舗(福岡県内)
  • 直近売上高:6億3900万円
  • 譲渡価額:非公表
  • 譲渡予定日:2023年8月1日

串カツ田中ホールディングスは、「串カツ田中」の直営店を全国で展開していますが、今回の譲渡は福岡県内の直営店11店舗を、宮崎県小林市に本社を置くイートスタイルに譲渡するというものです。イートスタイルは大手外食チェーンのフランチャイズ加盟店事業を主力としており、「博多もつ鍋 幸」「サーティワンアイスクリーム」「いきなりステーキ」「ポポラマーマ」「ビビン亭」「久世福商店」など、多彩なブランドを手がけています。「串カツ田中」についても既に宮崎県、鹿児島県、長崎県でFC店舗を運営していました。

今回の事例は、**“経営資源の集中”**というキーワードで説明ができます。串カツ田中ホールディングスは直営店をFC化することで、店舗運営の負担を減らし、全社戦略に注力できるようになります。一方、イートスタイルは福岡県内の店舗を一挙に11店舗取得することで、九州内における自社フランチャイズ網を拡充できるメリットがあります。串カツ田中ホールディングスにとっては、宮崎県本社のイートスタイルが九州圏におけるオペレーションやローカルマーケット攻略に長けている点も魅力でしょう。

宮崎県企業が福岡県の直営店を取得する形ですが、もともとイートスタイルはFCビジネスのノウハウを持ち、様々な飲食ブランドとの提携実績があります。県境を越えたM&Aや事業譲渡は今後もますます増加すると予想され、地方企業が近隣他県で事業を拡大するうえで有力な手段となっています。


5. 大和工機の子会社化(岡本工作機械製作所〈6125〉)

  • 発表日:2023年9月28日
  • 取得企業:岡本工作機械製作所
  • 被取得企業:大和工機(宮崎県都城市)
  • 事業内容:産業機械・生産設備の製作、半導体製造装置や真空装置の納品実績豊富
  • 取得価額:非公表
  • 取得予定日:2023年11月1日

大和工機は1982年設立で、宮崎県都城市に拠点を置きながら、半導体製造装置や真空装置の製作にも携わってきました。都城市は宮崎県でも大きな商工業都市であり、農畜産だけでなく製造業も一定の存在感を示しています。

岡本工作機械製作所にとって、大和工機の買収は、九州における半導体関連装置の製造拠点・開発施設としての活用を狙うもので、九州での半導体産業の盛り上がりを踏まえた戦略的な投資といえます。近年、熊本県における大手半導体メーカーの工場誘致をはじめ、九州地域では半導体産業が注目を集めています。そうした流れを捉え、岡本工作機械製作所が地理的に近い宮崎県に拠点を持つ大和工機を取り込むことで、生産効率の向上や物流コストの削減、地元人材の獲得など多面的なメリットが得られると期待できます。

宮崎県は、県北部においても航空機関連部品の製造や電子部品関連企業の集積が進んでいますが、県南部の都城市も重要な工業都市のひとつです。今回の子会社化によって、岡本工作機械製作所は半導体分野での競争力を強化し、日本国内外の需要に対応する体制を築いていくと思われます。


6. リテールパートナーズの積極的な事業取得とドミナント戦略

リテールパートナーズ〈8167〉は、2015年に山口県の丸久と大分県のマルミヤストアが経営統合して発足した流通グループです。その後、2017年には福岡県のマルキョウを完全子会社化し、九州・山口エリアでの店舗網拡大を推し進めています。宮崎県内でもマルミヤストアブランドで複数の店舗を展開し、地域に密着したスーパーマーケット事業を中心に据えています。

このようにリテールパートナーズは、県境を越えて「地域集中出店(ドミナント戦略)」を徹底することでスケールメリットを追求し、強固な基盤を作り上げる戦略をとっています。以下では、同社の代表的な2つの事例を取り上げます。

6.1. 「新鮮市場」事業の取得(オーケーから)

  • 発表日:2016年3月22日
  • 取得企業:リテールパートナーズ(子会社を通じて)
  • 被取得事業:「新鮮市場」を中心としたオーケーの食品スーパー事業
  • 対象店舗数:スーパー18店舗と共配センター
  • 対象事業の売上高:101億円
  • 取得予定日:2016年6月24日

リテールパートナーズの子会社・マルミヤストアが大分県を中心に、宮崎県や熊本県、福岡県などで事業を展開していることから、同じ大分県に本拠を置くオーケーの「新鮮市場」事業を取得するのは自然な拡大といえます。大分県での店舗網強化により、ドミナント戦略をさらに進め、物流や仕入れなどのコスト面でのシナジーを高めることが主な狙いでした。結果として、マルミヤストアは大分県内でのシェアを大きく伸ばし、グループ全体の店舗数増加につなげています。

6.2. 小野商店のスーパー2店舗取得

  • 発表日:2021年2月24日
  • 取得企業:リテールパートナーズ(マルミヤストアが実行)
  • 被取得企業:小野商店(大分県宇佐市)の「セルフおの安心院店」「セルフおの院内店」
  • 取得価額:非公表
  • 取得予定日:2021年3月25日

こちらも大分県内のスーパー2店舗をマルミヤストアが引き継ぎ、店舗網の拡充を狙ったM&Aです。リテールパートナーズは、もともと大分県、宮崎県、福岡県、熊本県、鹿児島県と広域で85店舗(当時)のスーパーマーケットやディスカウントストアを運営していましたが、大分県内でのドミナント強化は徹底的に進めています。宮崎県日南市の戸村精肉本店の買収とも通じるものがあり、**「九州・山口エリアをひとつの経済圏として店舗網を強化する」**という強い意志がうかがえます。


7. フージャースホールディングス〈3284〉のホームステージ子会社化

  • 発表日:2022年11月18日
  • 取得企業:フージャースホールディングス(傘下企業を通じて)
  • 被取得企業:ホームステージ(熊本市)
  • 事業内容:マンション分譲・賃貸(「レクシア」シリーズ)
  • 対象エリア:熊本県、宮崎県
  • 取得価額:非公表
  • 取得予定:2022年12月下旬

フージャースホールディングスは首都圏を中心にマンション分譲事業を展開している不動産会社であり、地方都市へも積極的に進出を図っています。ホームステージは熊本県や宮崎県で分譲マンション「レクシア」を展開しており、地方都市での高品質マンション分譲に定評があります。この買収により、フージャースホールディングスは九州エリアでの事業基盤を一気に獲得できるメリットがあり、ホームステージにとっても首都圏での豊富なノウハウや資金力を得ることで新規案件の開発などが期待できます。

宮崎県を含む九州地方は、今後も人口減少傾向が続く一方、地域によってはコンパクトシティ化が進んでおり、中心部に機能が集約される動きがあります。駅前再開発や利便性の高い地区のマンション需要など、ニーズは一定数存在するとみられ、こうした動きを先読みしたM&Aとして注目されています。


8. ナガワ〈9663〉による住重ナカミチハウスの事業取得

  • 発表日:2008年10月1日
  • 取得企業:ナガワ
  • 被取得企業:住重ナカミチハウス(宮崎県都城市)
  • 事業内容:ユニットハウス・プレハブハウスの製造・販売・レンタル
  • 対象事業の直近売上高:15億9000万円
  • 取得価額:非公表
  • 取得予定日:2009年1月1日

ナガワはプレハブ・ユニットハウス大手で、全国的に事業を展開しています。住重ナカミチハウスは住友重機械工業のグループ会社で、九州全域でビジネスを展開していました。宮崎県都城市に拠点を持つ同社を事業譲受することで、ナガワは九州地区でのユニットハウス事業の加速とともに、建築技術やノウハウの吸収を狙ったものとされています。

宮崎県都城市は前述のとおり工業や流通の拠点都市であり、南九州の広域流通の要所としての機能も担っています。ナガワとしては、ここに拠点を置く企業の事業基盤を取り込むことで、九州マーケットへの浸透をより強固なものにする意図があったと推察されます。


9. テンプホールディングス〈2181〉によるハウコムの子会社化

  • 発表日:2010年5月11日
  • 取得企業:テンプホールディングス(完全子会社のテンプスタッフが取得)
  • 被取得企業:ハウコム(川崎市)
  • 売上高:18億円
  • 純資産:1億6600万円
  • 取得価額:非公表
  • 取得予定日:2010年5月31日

ハウコムはヘルプデスク・サービスデスク業務を中心としたITサポート事業に特化しており、宮崎県に365日24時間対応のサポートセンターを展開していることで知られていました。宮崎県はコールセンターやバックオフィス業務を地方に設置する動きの先駆けとなっており、テンプホールディングスとしては優れたITサポートのインフラを活用することで、アウトソーシング事業を拡大する狙いがありました。

地方都市においては、人件費などのコストメリットや地元自治体からの補助金・支援策もあり、コールセンター誘致やIT関連企業の誘致が盛んです。ハウコムの子会社化は、こうした地方の強みを吸収しつつ、大手人材派遣会社がアウトソーシングの付加価値を高める好例といえます。


10. ホテル事業の一部譲渡と買収(マーチャント・バンカーズ〈3121〉)

  • 発表日:2012年5月28日
  • 譲渡企業:マーチャント・バンカーズ
  • 譲受企業:ホロニックホテルズ(ホロニックの完全子会社)
  • 譲渡対象:「ホテルグランディ宮崎」(宮崎県宮崎市)、「大分アリストンホテル」(大分県大分市)
  • 譲渡価額:合計137百万円(うち「ホテルグランディ宮崎」は34百万円、「大分アリストンホテル」は103百万円)
  • 買収対象:ホテルシステム二十一(「加古川プラザホテル」を運営)
  • 買収価額:468百万円

マーチャント・バンカーズは投資事業や金融事業を展開しており、ホテル事業にも参入していました。しかし、経営資源の最適化の観点から、宮崎県と大分県で運営していたホテルを譲渡し、その資金をもとに「加古川プラザホテル」を運営するホテルシステム二十一を買収するという選択を行いました。

ホテルグランディ宮崎は宮崎市中心部に位置し、観光客だけでなくビジネス利用にも便利な立地です。一方で、大分アリストンホテルも大分市の中心部にあり、同様にビジネス客から観光客まで幅広く利用されています。地方都市のホテル運営は、稼働率が大都市圏ほど高くなく、収益が不安定になりがちな面がありますが、**「地方都市×観光資源」**の組み合わせ次第では大きな利益を生む場合もあります。

今回の譲渡と買収は、マーチャント・バンカーズが経営戦略上、他地域のホテルに資本を集中したい意図があったことを示しています。地元企業や外部の投資家、ホテル運営専門企業が地方ホテルを取得する事例は多く、宮崎県内でも同様の再編が起こっています。


11. タイヨー〈9949〉、経営陣によるTOB(MBO)で非公開化

  • 発表日:2013年7月31日
  • 公開買付者:清和産興(タイヨー代表取締役社長の清川氏の会社)
  • 買付目的:完全子会社化(MBO)
  • 買付価格:1株あたり1100円
  • 買付期間:2013年8月1日~9月11日
  • 対象株式数(買付予定数):1417万4217株(下限945万4203株)、買付額は最大約155億円

タイヨーは鹿児島県や宮崎県など南九州で食品スーパーを展開していましたが、ショッピングセンターや大手資本の進出などによって利益面が悪化しつつありました。そこで経営陣によるTOB(MBO)を実施し、上場廃止に踏み切ることで「所有と経営を一致させ、独自の事業戦略を迅速に実行する」決断をしました。

地方のスーパー業界は大手グループとの競争や、人口減少、地域の買い物環境の変化など困難が山積しています。上場を続けるメリット(資金調達や知名度)より、非公開化して柔軟な経営判断を行いたいと考える企業も少なくありません。タイヨーのMBOはその典型的事例といえるでしょう。


12. スタートトゥデイ〈3092〉によるアラタナの子会社化

  • 発表日:2015年3月25日
  • 取得企業:スタートトゥデイ(株式交換方式)
  • 被取得企業:アラタナ(宮崎市)
  • 売上高:5億7800万円
  • 営業利益:▲2500万円(赤字)
  • 純資産:4億400万円
  • 株式交換比率:スタートトゥデイ1 : アラタナ117.3(アラタナ1株に対しスタートトゥデイの117.3株を割当)
  • 実施予定日:2015年5月28日

アラタナは2007年に宮崎県で設立され、ECサイト構築やWEBマーケティングを手がけるベンチャーとして全国的な注目を集めていました。地方からEC関連サービスで飛躍する企業は当時まだ珍しく、「ITで地方を盛り上げる」事例として多くのメディアに取り上げられました。

スタートトゥデイ(当時、現在はZホールディングスグループとの動きなどもあり社名変更を経ています)は、ファッションEC「ZOZOTOWN」を中心に成長していた企業で、アラタナの高度なEC構築技術やクリエイティブ力を評価し、完全子会社化に至りました。これにより、スタートトゥデイは自社ECビジネスの強化と多様化を進め、アラタナは大企業の資本力と顧客基盤を生かしてさらなるサービス拡張が可能になりました。

宮崎県ではIT関連の企業誘致やベンチャー支援が積極的に行われており、こうした企業が大手のグループに取り込まれることで新たなシナジーが生まれるのは、県にとっても雇用創出や県外への情報発信という観点で大きなメリットが生まれます。


13. ジャパン・フード&リカー・アライアンス〈2538〉、焼酎メーカー佐藤焼酎製造場の子会社化

  • 発表日:2017年9月25日
  • 取得企業:ジャパン・フード&リカー・アライアンス(酒造子会社の盛田が取得)
  • 被取得企業:佐藤焼酎製造場(宮崎県延岡市)
  • 売上高:1億6100万円
  • 営業利益:▲283万円
  • 純資産:1億4400万円
  • 取得価額:非公表
  • 取得予定日:2017年10月1日

佐藤焼酎製造場は麦焼酎などを製造し、延岡市で地域に根付いた酒造会社として事業を行ってきました。ジャパン・フード&リカー・アライアンスは、酒類や食品の企画・製造・販売を手がける持株会社であり、名古屋の老舗醸造メーカー「盛田」などを傘下にもつなど、多角的に事業を展開しています。

今回の子会社化は、地方の中小酒造メーカーを大手食品・酒類企業グループが取り込むことで、製造技術や地域ブランドを守りつつ、広域販路の活用や商品開発の強化を図るという構図です。特に九州の焼酎文化は全国的に注目されるもので、各県ごとの地元ブランドを持つ焼酎メーカーが多数存在します。ジャパン・フード&リカー・アライアンスは、こうした全国に散らばる地域銘柄をまとめて展開する戦略を持ち、佐藤焼酎製造場の買収もその一環とみられます。


14. クオールホールディングス〈3034〉によるケーアイ調剤薬局の子会社化

  • 発表日:2021年7月15日
  • 取得企業:クオールホールディングス
  • 被取得企業:ケーアイ調剤薬局(鹿児島県姶良市)
  • 事業内容:鹿児島県、宮崎県で調剤薬局8店舗を運営
  • 取得価額:非公表
  • 取得日:2021年7月15日

クオールホールディングスは全国規模で調剤薬局を展開する大手企業で、医療・ヘルスケア分野のサービス拡充に積極的です。ケーアイ調剤薬局は鹿児島県と宮崎県に8店舗を抱えており、地域医療を支える存在でした。調剤薬局業界も再編が進んでおり、特に大手チェーンは規模拡大による物流・在庫管理の効率化や、顧客サービス(在宅医療やオンライン服薬指導など)の充実を図っています。

南九州(鹿児島・宮崎)エリアは、比較的高齢化率が高く、医療サービスの需要が増えると同時に、医療資源の確保が課題になっています。クオールホールディングスによる子会社化は、地元薬局の経営安定化とサービス向上に寄与する可能性が高く、地域住民にもメリットがあると考えられます。


15. キヤノン〈7751〉、宮崎ダイシンキヤノンを完全子会社化

  • 発表日:2017年4月26日
  • 取得企業:キヤノン
  • 被取得企業:宮崎ダイシンキヤノン(宮崎県木城町)
  • 売上高:521億円
  • 営業利益:4億5400万円
  • 純資産:31億8000万円
  • 株式交換比率:キヤノン:宮崎ダイシンキヤノン=1:5.91
  • 実施予定日:2017年6月1日

キヤノンは宮崎ダイシンキヤノンにすでに50%を出資していた持分法適用会社でしたが、このたび完全子会社化を決定しました。宮崎ダイシンキヤノンはデジタルカメラ製造の重要拠点であり、木城町での生産体制を担ってきました。

完全子会社化により、戦略決定のスピードを上げ、競争が激化するカメラ市場や映像機器市場での地位向上を目指すとみられます。地方拠点の工場においては、グループ全体の経営方針が明確化されることで投資判断が迅速化し、新製品の導入や生産ラインの再構築などがスムーズに進められる利点があります。宮崎県としても、キヤノンの大規模な生産拠点が安定して稼働することは雇用確保や税収面で大きな意義があり、行政としても手厚い支援を続けています。


16. GFA〈8783〉、障害者就労支援子会社のガルヒ就労支援サービスを経営陣に譲渡

  • 発表日:2024年5月31日
  • 譲渡企業:GFA
  • 被譲渡企業:ガルヒ就労支援サービス(宮崎県都城市)
  • 売上高:7600万円
  • 営業利益:▲2270万円
  • 純資産:▲8520万円
  • 譲渡価額:非公表
  • 出資構成:GFAが51%、ガルヒ社長・宮脇氏が49%→譲渡後、宮脇氏が100%所有

ガルヒ就労支援サービスは、障害者向け就労継続支援A型や就労移行支援を行う企業で、ITスキルを持つ障害者が雇用契約に基づいて働ける環境を整えたり、フランチャイズ方式で全国に就労支援事業所を展開するなど、ユニークな取り組みを行っていました。しかし、赤字が常態化しているGFAは資金繰り改善の一環として、収益が安定しない子会社を手放す決断を下した形です。

譲渡先はガルヒ社長の宮脇氏本人であり、MBO(Management Buy-Out)型のスキームに近いと言えます。障害者就労支援は社会的意義が高い事業ですが、採算面での課題が大きく、国や自治体の補助金や助成金などの公的支援をうまく活用しながら運営する必要があります。宮崎県都城市という地方都市での取り組みとしては先進的な試みでしたが、やはり資本力のある大手との連携か、経営陣が自らリスクを負って事業を継続するかの二択を迫られる状況にあったと推測されます。


17. JFLAホールディングス〈3069〉、酒造会社10社を一挙に譲渡

  • 発表日:2022年12月27日
  • 譲渡企業:JFLAホールディングス(子会社の盛田を通じて)
  • 譲受企業:伝統蔵(東京都中央区)
  • 譲渡対象:加賀の井酒造(新潟県)、老田酒造店(岐阜県)、中川酒造(鳥取県)、千代菊(岐阜県)、常楽酒造(熊本県錦町)、佐藤焼酎製造場(宮崎県延岡市)、銀盤酒造(富山県)、富士高砂酒造(静岡県)、阿櫻酒造(秋田県)、桜うづまき酒造(愛媛県)
  • 譲渡価額:非公表
  • 譲渡予定日:2023年1月1日

JFLAホールディングスは、コロナ禍による酒類需要の低迷などから経営改善計画を進めており、その一環として子会社の盛田が保有する複数の酒造会社株式を一挙に譲渡しました。伝統蔵は酒類関連企業のコンサルティング業務を手がける企業で、地方の酒蔵再生にも携わるとみられています。

宮崎県の佐藤焼酎製造場も対象に含まれており、同社は先に紹介したように2017年にジャパン・フード&リカー・アライアンスの子会社になった企業でした。JFLAグループが再編の過程で複数の酒蔵を手放すにあたり、佐藤焼酎製造場も新たな譲渡先へ移ることになった形です。地方の中小酒蔵は、全国的な酒類消費動向の変化やコロナ禍の影響で経営が厳しいケースが多く、M&Aやグループ再編の動きが今後も続く可能性があります。


18. FHTホールディングス〈3777〉、太陽光発電所2カ所を譲渡

  • 発表日:2019年7月24日
  • 譲渡企業:FHTホールディングス(子会社のエリアエナジー)
  • 譲受企業:グローバルエナジー(東京都港区)
  • 譲渡対象:広野発電所(福島県双葉郡、出力1990kW)と児湯発電所(宮崎県児湯郡、出力936kW)
  • 譲渡価額:17億5950万円
  • 譲渡予定日:2019年8月23日

FHTホールディングスは、かつて5カ所の太陽光発電所(北海道、福島県、千葉県、福島県双葉郡、宮崎県児湯郡)を一括で売却する計画を立てていましたが、買収予定先のコマネチが資金を用意できず契約を解除。その後、新たにグローバルエナジーが2カ所(福島県双葉郡と宮崎県児湯郡)の発電所を引き受ける形で話がまとまりました。

宮崎県児湯郡は日照時間が長く、太陽光発電に適したエリアとして注目されていました。FIT(固定価格買取制度)のもと、多くの太陽光発電事業が宮崎県内でも立ち上がりましたが、太陽光発電事業の収益性は制度や市況、設備投資コストなどで左右され、事業者の売却が相次いだ時期でもあります。FHTホールディングスのように複数の発電所を保有している企業が、投資リスクの分散や資金確保のために売却するケースは全国的にも増えていました。


19. 宮崎県のM&A動向がもたらす影響と今後の展望

ここまで紹介してきたように、宮崎県を舞台とするM&Aは多岐にわたる業種で行われています。総合すると、以下のような傾向や影響が見えてきます。

  1. 後継者不足や経営基盤強化を背景とした買収
    宮崎県のような地方で起こるM&Aの大きな要因のひとつが、後継者不足です。地場の中小企業や老舗企業が事業を存続させるために、県外や都市部の企業グループに株式を譲渡する事例が増えています。同時に、大手企業が地方拠点を取り込むことで、コストや流通網などを効率化する利点もあります。
  2. ドミナント戦略による流通・小売業の再編
    リテールパートナーズのように、九州・山口エリアを中心に店舗網を広げ、地域を横断的に支配力を高める動きが顕著です。食品スーパー業界は激戦区となっており、広域グループの下に入ることで調達・物流などのコストを削減し、経営を安定化させる狙いがあります。
  3. 製造業・IT関連企業の拠点確保
    キヤノンや岡本工作機械製作所、テンプホールディングスのハウコム事例など、製造やITアウトソーシングの分野で、地方の優位性や独自技術を取り込む動きもあります。宮崎県は農畜産業のイメージが強い反面、コールセンター誘致や半導体関連産業など、先端産業の拠点として注目される地域でもあります。
  4. 観光・ホテル・不動産の再編
    観光業が重要な産業である宮崎県では、ホテル事業やマンション分譲などの不動産関連のM&Aが一定数見られます。地元資本が運営していた施設を大手が買収して再開発を進める、あるいはリソース集中のために売却するなど、宮崎県内のリゾート地や市街地における再編も今後注目されます。
  5. 食品・酒造など地元ブランドの活用
    宮崎県は豊富な農畜産物を背景に、加工食品や酒造などの地元ブランドが多くあります。これらを大手グループが買収し、全国あるいは海外展開する事例も増加傾向にあります。一方で、地元の伝統やブランドを守るために、地元出資者や自治体が支援を行うケースもあり、M&Aが地域活性化の一助となることもあります。

今後の展望としては、人口減少や地方経済の縮小が見込まれる中、さらにM&Aを通じた再編が進むと予想されます。特に中小企業の後継者不足問題は深刻化しており、外部資本との連携は企業の存続や成長のための現実的な選択肢です。宮崎県が強みとしてきた農畜産分野や観光分野だけでなく、半導体やIT分野といった新産業でも、企業買収や事業譲渡が活発化するでしょう。

また、宮崎県内においては、県が推進する企業誘致施策や市町村単位の補助金制度などがあるため、県外・海外の投資家や事業会社からも魅力的な投資先として映る可能性があります。地域の雇用や技術の継承、拠点の活性化という観点からも、地元と県外企業が協調してWIN-WINの関係を築くことが重要です。


20. まとめ

本記事では、宮崎県における多様なM&A事例を通じて、地方経済におけるM&Aの役割や、企業がそれぞれ目指す成長戦略、事業継承のリアルな姿を概観しました。畜産排泄物処理装置の製造会社から地場スーパー、外食チェーン、半導体製造装置メーカー、酒造会社、IT企業、ホテル事業など、その範囲は幅広く、宮崎県が多彩な産業を育んでいることが改めて確認できます。

宮崎県は農畜産・観光のイメージが強い一方で、IT関連や先端製造業などの企業進出や拠点化が進んでおり、M&Aにおいても業種横断的に活発な動きがあります。これは地方特有の人口減少や後継者不足、経営体力の限界などの課題と同時に、外部企業にとっては新規事業や地域ブランドを取り込む好機でもあるという二面性を表しています。

これらの事例の多くに共通するのは、「経営資源の再配分」と「シナジー効果」の追求です。大手企業が地場企業の強みを取り込み、地場企業が大手のネットワークや資本力を得ることで、双方の成長を目指す形が典型的な成功パターンとなっています。一方で、投資資金や買収後の運営ノウハウが十分に活かされず、経営統合後に混乱が生じるリスクも常に内在しています。

しかし、宮崎県独特の地理的条件や産業構造、さらにここ数年の世界的なサプライチェーンの変化や半導体需要の高まり、あるいは気候変動への対応などを考慮すると、今後もM&Aを通じて県内産業が再編・強化される可能性は大いにあります。カギとなるのは、単なる資本移動や経営権の移譲ではなく、いかに地域特性やローカルブランドを活かし、雇用や技術を守りつつ新たな価値を創出していくかという点です。

宮崎県は県外から見ると「やや遠い地方」と捉えられがちですが、豊かな自然環境や文化、温暖な気候など、人々を惹きつける要素が数多くあります。働き方や産業構造が多様化する現代では、地方への回帰やテレワークの普及による都市圏との人材交流が増えるなど、新しいムーブメントも見られます。こうした流れの中で、M&Aはただ企業同士の経済行為にとどまらず、地域の将来像をつくる重要なファクターとして位置づけられていくでしょう。

以上のように、宮崎県で行われたM&Aの数々は、地域が抱える課題とポテンシャル、企業の戦略的思考、そして地方経済を巡るダイナミックな動きを多角的に映し出しています。今後の宮崎県の経済発展や地域活性化の行方を占ううえでも、M&A動向の注視は欠かせないと言えます。地方企業はもちろん、県外からも注目を集める宮崎県のM&A潮流は、今後さらに加速すると見込まれ、そこから生まれる新たなイノベーションや地域創生の試みには、大いに期待が寄せられます。