1.京都府におけるM&Aの概況
1-1.京都経済の特徴とM&Aの増加要因
京都府は歴史的・文化的に大変豊かな地域であり、伝統産業はもとより、観光事業、ハイテク産業、大学や研究機関を基盤とした先進的な技術開発など、多彩な産業が集積しております。近年では、老舗企業や伝統産業の存続と事業承継が課題となる一方、新興企業やベンチャー企業がイノベーションを生み出しており、多様性に富んだ産業構造が特徴です。
しかしながら、国内全体と同様に、京都府でも少子高齢化による後継者不足や人手不足が深刻化してきていることが、M&Aの増加要因の一つとなっています。特に地方都市では、企業オーナーの高齢化が進むなか、従業員の雇用継続と地域経済の活性化を目的として、M&Aを活用する動きが活発化しています。
また、京都市周辺や南部工業地域、府北部の舞鶴・福知山地域などで、それぞれに地場産業が育まれており、外部企業の進出・投資意欲も高まりやすい基盤があります。自動車部品製造や医療分野、食品スーパー、タクシー事業、教育関連など、幅広い業種のM&Aが行われている点も、京都府の特徴といえるでしょう。
2.京都府に関連するM&A事例一覧
以下では、実際に行われたM&A事例をピックアップし、それぞれの目的や狙い、取得価額(公表されている場合)などを整理してご紹介いたします。なお、本記事で取り上げる事例の多くは取得価額が非公表となっており、開示されているデータを基に背景などを考察してまいります。
2-1.教育関連事業・学習塾のM&A事例
(1)明光ネットワークジャパンによるケイ・エム・ジーコーポレーション買収
- 買収当事者
- 買収企業:明光ネットワークジャパン
- 被買収企業:ケイ・エム・ジーコーポレーション(京都市)
- 概要
明光ネットワークジャパンは、全国に2000教室以上を展開する個別指導塾「明光義塾」で知られており、フランチャイズと直営教室を両立させる形で事業を拡大しています。被買収企業であるケイ・エム・ジーコーポレーションは、京都府、滋賀県、奈良県で合計43教室を運営していました。明光ネットワークジャパンはチェーン全体の競争力を強化する目的で、このフランチャイジーの全株式を取得し子会社化しました。 - 背景と狙い
競合が激化する学習塾業界では、直営とフランチャイズが混在した形態で地域ごとに経営体制を効率化していく動きが加速しています。明光ネットワークジャパンとしてはブランド力の維持・向上をめざすと同時に、教室運営のノウハウや生徒募集体制を強化するためにフランチャイジーをグループ下に取り込み、チェーン全体の運営効率を高めようとしたとみられます。 - 特徴と今後の展望
京都府や滋賀県、奈良県など近畿圏での生徒確保・地域展開をさらに充実させることで、明光義塾チェーンとしての一体感や教育サービスの向上が期待されます。学習塾市場は少子化や学習スタイルの変化などの影響を受けており、今後もこうした直営化・再編が進むと考えられます。
2-2.自動車・自動車部品関連のM&A事例
(1)武蔵精密工業による浅田可鍛鋳鉄所の子会社化
- 買収当事者
- 買収企業:武蔵精密工業
- 被買収企業:浅田可鍛鋳鉄所(京都府福知山市)
- 概要
浅田可鍛鋳鉄所は1916年創業の老舗で、自動車用・建機用の球状黒鉛鋳鉄素材や機械加工を手がけています。武蔵精密工業はデファレンシャルアセンブリーやパワートレイン事業の強化を目指し、浅田可鍛鋳鉄所を子会社化しました。 - 背景と狙い
自動車産業はグローバルレベルで大きな変革期を迎えていますが、依然として鋳造技術の重要性は高く、老舗の職人技と生産技術は貴重な経営資源となります。武蔵精密工業はこの買収により、競争力の高い鋳造技術を取り込み、自社の生産ライン強化と商品開発力の向上に活かそうとしています。 - 特徴と今後の展望
デファレンシャルアセンブリーなどの駆動系部品は、EV(電気自動車)の台頭によって構成部品の変化が進む一方、軽量化・耐久性のニーズが高まっており、鋳造技術の高度化が引き続き求められます。本買収によって、京都府福知山市の地域経済活性化にも寄与すると期待されます。
(2)武蔵精密工業によるニデック傘下のニデックドライブテクノロジーから無人搬送台車事業を取得
- 買収当事者
- 買収企業:武蔵精密工業
- 売却企業:ニデックドライブテクノロジー(旧・日本電産シンポ、京都府向日市)
- 概要
武蔵精密工業はAIを活用した物流の自動化を新規事業の重点としており、その一環として無人搬送台車事業を11億4800万円で取得しました。 - 背景と狙い
人手不足への対応や物流効率化の重要性が高まるなか、自動運搬・自動倉庫システムの需要は伸び続けています。武蔵精密工業にとっては自動車部品以外への事業領域拡大につながる点が大きく、今後の成長ドライバーとなる可能性があります。 - 特徴と今後の展望
ニデック(旧・日本電産)はモーター技術を軸とした世界的なリーディングカンパニーであり、傘下企業から事業を切り出すことでグループ全体の選択と集中を進めています。一方、武蔵精密工業にとっては工場・物流の自動化ニーズを取り込む好機となり、新規事業としての拡充が注目されます。
(3)日本電産シンポ(ニデックグループ)関連の減速機事業における複数のM&A
ニデック(旧・日本電産)は、京都府長岡京市や向日市を拠点としてモーター関連事業を世界的に展開してきましたが、ここ数年は産業用ロボットや工作機械の需要拡大をにらみ、減速機事業を強化するM&Aを繰り返しています。以下、その主な事例をご紹介します。
- 日本電産シンポによるドイツのMSグレスナー買収(2018年9月)
- 同芯軸型精密減速機を得意とする日本電産シンポが、直交型減速機の強みを持つドイツ・MSグレスナーを取得し、欧州市場の開拓を加速させました。
- 日本電産シンポによるドイツの大型減速機メーカー・デッシュを買収(2019年2月)
- 小型から大型までラインナップを拡充し、総合減速機メーカーへの成長を図るため、老舗のデッシュ・アントリープステヒニク社を子会社化しました。
- 日本電産シンポによる計測器販売事業(2019年6月)・変速機・減速機の国内販売事業(2020年1月)の譲渡
- 杉本商事やフルサト工業に一部事業を譲渡し、製造に集中する形で選択と集中を進めています。
これらの一連の動きから、ニデックグループが京都を拠点としながらも世界市場を視野に、高収益分野である減速機・変速機事業を柱として事業再編に取り組んでいることがうかがえます。
(4)日本電産サンキョーによるインドネシアのガラスレンズ加工会社買収(2015年7月)
- 買収当事者
- 日本電産サンキョー(長野県を拠点だが本社機能を京都の日本電産が持つ)
- 被買収企業:PT. NAGATA OPTO INDONESIA
- 概要
車載カメラ向けのガラスレンズを主力とする同社を買収し、プラスチックレンズに加えてガラスレンズ加工を内製化することで、収益性向上と車載カメラ分野への展開力強化を図りました。日本電産グループは車載関連事業を重点強化領域と位置付けており、京都発の総合電機メーカーとしてさらなる事業拡大を狙っています。
2-3.タクシー・交通関連事業のM&A事例
(1)第一交通産業による八光タクシー買収(2013年8月)
- 買収当事者
- 買収企業:第一交通産業
- 被買収企業:八光タクシー(京都市)
- 概要
全国でタクシー・バス事業を手がける第一交通産業は、京都市を拠点とする八光タクシーの全株式を取得しました。これにより、京都府内での保有タクシー台数が大幅に増え、観光客や地元利用者への利便性向上が期待されました。 - 背景と狙い
京都市は世界的観光都市であり、タクシー需要も観光シーズンを中心に安定していることから、既存タクシー事業者にとって魅力的な市場です。第一交通産業は全国的に営業エリアを拡大する戦略を進めており、その一環として京都市内の老舗タクシー会社を傘下に収めることで競争力を強化しました。
(2)大和自動車交通によるタクシーの十全交通買収(2024年11月)
- 買収当事者
- 買収企業:大和自動車交通
- 被買収企業:十全交通(東京都府中市)
- 概要
多摩地区で営業するタクシー会社の十全交通を子会社化しました。京都府に直接拠点がある事例ではありませんが、東京・多摩地区における営業拠点の補完と大和自動車交通グループとの連携が目的です。
京都府内ではないものの、タクシー事業における再編の文脈でいうと、観光都市としての京都に出入りするタクシー事業者や大手グループの動きが全国的に波及している背景がうかがえます。
2-4.運送・倉庫・物流関連のM&A事例
(1)武蔵精密工業によるニデックドライブテクノロジーからの無人搬送台車事業取得(繰り返し)
こちらは先述のとおり、自動車部品メーカーによる物流自動化事業への進出として注目される例です。京都府向日市に所在するニデックドライブテクノロジーの事業を取得しており、京都がモノづくりとロボティクス技術の結節点として注目される象徴的なM&Aといえます。
(2)大日本木材防腐によるHOTTAの3PLサービス事業取得(2011年12月)
- 買収当事者
- 買収企業:大日本木材防腐(子会社の東洋陸運)
- 売却企業:HOTTA(京都府宇治市)
- 概要
総合物流事業者であったHOTTAから3PL(サードパーティー・ロジスティクス)サービス事業を取得。京都府内企業の物流事業を再編しつつ、自社グループの物流ネットワーク強化を狙いました。 - 背景と狙い
3PLサービスは、製造業などの企業が倉庫管理や配送業務を外部委託する形で利用されるもので、業務効率化ニーズが高まっている分野です。大日本木材防腐は建材や木材の防腐・加工を主要事業としながら、グループ企業の物流機能を活かして多角化を進めており、その一環として、HOTTAの事業を取り込みました。
(3)安田倉庫によるOSO買収(2023年4月)
- 買収当事者
- 買収企業:安田倉庫
- 被買収企業:OSO(京都府八幡市)
- 概要
運送・倉庫業を手がけるOSOの全株式を安田倉庫が取得しました。OSOは約60台の車両と本社倉庫を活用しており、京都府内を中心に事業展開しています。グループの輸配送ネットワークを拡充し、顧客サービスを向上させる狙いがあります。 - 背景と狙い
ロジスティクス分野では配送ネットワークの充実が競争力の鍵となります。安田倉庫は全国的に倉庫・運送事業を展開しており、関西地域ではさらなるサービス強化が必要と判断したことで、京都府の物流拠点を取得しました。 - 特徴と今後の展望
eコマース拡大による物流需要の増大、人材不足への対策など、物流企業同士の再編が加速している中、京都府内の物流事業者も大手企業との提携やM&Aを活用する動きが続くとみられます。
2-5.医療・介護・調剤薬局関連のM&A事例
京都府は医療分野でも大学や病院の集積度が高く、福祉・介護分野の事業者も多数存在します。ここでは医療・介護関連のM&A事例を取り上げます。
(1)日清医療食品の非公開化(2010年10月)
- 買収当事者
- 買収企業:ワタキューセイモア(京都府井手町、子会社を通じてTOB実施)
- 被買収企業:日清医療食品
- 概要
病院や福祉施設向けの給食事業を手がける日清医療食品が、親会社であるワタキューセイモアの完全子会社となるためのTOBを実施し、上場を廃止しました。ワタキューセイモアはリネンサプライ事業で医療・福祉業界と密接な関係を持ち、グループシナジーを追求するために短期的な株価変動に左右されない経営基盤を求めていました。 - 背景と狙い
給食業界はコスト競争が激しく、安定供給や品質管理が重要です。ワタキューセイモアはシナジー創出のために日清医療食品を完全子会社化し、地域ごとのサービス拡充を進める方針です。
(2)みらかホールディングスによる日本医学臨床検査研究所の取得(2010年4月)
- 買収当事者
- 買収企業:みらかHD(子会社のエスアールエル)
- 被買収企業:日本医学臨床検査研究所(京都府久御山町)
- 概要
臨床検査事業を手がける日本医学臨床検査研究所は近畿エリアで強固な営業基盤を持っていました。エスアールエルはこの企業を取得し、自社の受託臨床検査サービスとの相乗効果を図りました。 - 背景と狙い
医療分野では検査や医療機器などの分野でM&Aが活発化しています。少子高齢化で医療需要は拡大基調にあり、検査・医療支援サービスを通じて地域のヘルスケアを下支えする狙いがあります。
(3)メディカル一光グループによる京寿薬品の子会社化(2024年6月予定)
- 買収当事者
- 買収企業:メディカル一光グループ
- 被買収企業:京寿薬品(京都府京田辺市)
- 概要
京都府京田辺市を中心に調剤薬局を5店舗展開する京寿薬品を完全子会社化し、京都府でのドミナント展開を強化すると発表しました。三重県に次ぐ重要拠点として京都府の事業拡大を狙います。 - 背景と狙い
調剤薬局業界は再編が進んでおり、大手チェーンが中小薬局を取り込んで地域シェアを拡大する動きが顕著です。メディカル一光グループも複数の買収を通じて、各都道府県での出店網を強化しています。
(4)ココカラファインによる訪問看護事業のリハワークス買収(2011年12月)
- 買収当事者
- 買収企業:ココカラファイン
- 被買収企業:リハワークス(東京都府中市)
- 概要
機能訓練型デイサービスや訪問看護事業を営むリハワークスの全株式を取得して子会社化しました。ドラッグストア・調剤薬局を主力事業とするココカラファインが介護事業へも参入・拡大する狙いです。 - 背景と狙い
今後の在宅医療・在宅介護の需要増をにらみ、ドラッグストア企業が薬局・介護・看護事業までサービスを拡張する例が相次いでいます。ココカラファインは関西を中心に強固な基盤を持っており、地域包括ケア体制を後押しする事業戦略を打ち出しています。
2-6.小売・ドラッグストア・食品スーパー関連のM&A事例
(1)クスリのアオキホールディングスによるフクヤの子会社化(2020年10月)
- 買収当事者
- 買収企業:クスリのアオキHD
- 被買収企業:フクヤ(京都府宮津市)
- 概要
京都北部で食品スーパーを8店舗運営するフクヤの株式94.8%を取得しました。クスリのアオキはドラッグストアと食品の複合型店舗を展開しており、京都北部地区でのドミナントを狙っています。 - 背景と狙い
医薬品と食品をワンストップで提供するドラッグストアモデルが全国的に増えており、クスリのアオキは店舗網拡大と生鮮食品の強化を図る目的で地域スーパーを買収する戦略を積極的に進めています。
(2)クスリのアオキホールディングスによるハッピーテラダの子会社化(2024年12月予定)
- 買収当事者
- 買収企業:クスリのアオキHD
- 被買収企業:ハッピーテラダ(滋賀県大津市/京都府5店舗・滋賀県4店舗)
- 概要
京都と滋賀で合計9店舗を展開する食品スーパーを買収し、ドラッグストアでの生鮮食品販売を強化します。クスリのアオキはここ数年で複数の食品スーパーを取得しており、医薬品×食品の総合小売モデルを確立しつつあります。 - 特徴と今後の展望
関西エリアでは競合ドラッグストアチェーンも多く、差別化のためには食品・調剤を含めた総合的な地域密着型サービスが鍵となります。クスリのアオキが京都・滋賀エリアのスーパーを取り込む動きは、さらに拡大していく可能性があります。
(3)ウエルシアHDによるタキヤ・シミズ薬品の株式交換(2015年3月)
- 買収当事者
- 買収企業:ウエルシアホールディングス
- 被買収企業:タキヤ(兵庫県)、シミズ薬品(京都府)
- 概要
イオン傘下のドラッグストアチェーンであるウエルシアHDが、関西エリアで店舗を展開するタキヤ、京都府を中心に店舗網を構築するシミズ薬品を株式交換によって子会社化しました。シミズ薬品は京都市に本社を置き、55店舗を運営していた企業です。 - 背景と狙い
ウエルシアHDは関西への進出を強化しており、近畿二府四県を中心にドミナントを展開するために、地盤のしっかりしたドラッグストアを取り込む動きが続いています。京都府内においてシミズ薬品の取得は大きなシェア拡大につながりました。
(4)ハウスコムによる不動産会社の子会社化
不動産仲介事業を手がけるハウスコムも、関西進出を強化する過程で複数の買収を行っています。たとえば宅都(大阪市)やシーアールエヌ(京都市)などを次々と買収・子会社化し、店舗網を拡大させています。京都府内には元々6店舗(京都府2、大阪府4)しかなかった直営店を、M&Aにより大幅に増やそうとする戦略です。
2-7.建設・住宅関連のM&A事例
(1)バルクホールディングスによるハウスバンクインターナショナル買収(2014年1月)とその後の譲渡(2016年12月)
- 買収当事者
- 2014年1月:バルクホールディングスがハウスバンクインターナショナル(京都府長岡京市)を株式交換で子会社化
- 2016年12月:バルクHDがハウスバンクインターナショナルを元親会社であるS&Gハウジング(旧・瀬戸口ハウジング)へ譲渡
- 概要
当初は住宅関連事業への多角化を目的に買収しましたが、想定した相乗効果が十分に得られず、利益率が悪化したことを受けて、2年ほどで譲渡する結果となりました。譲渡金額は2億2500万円です。 - 背景と狙い
新築分譲住宅の設計・施工・リフォームを手がけるハウスバンクインターナショナルと親会社の瀬戸口ハウジングは京都・長岡京市周辺で安定した顧客基盤を持っていました。しかし、新たな親会社のもとでの運営がうまく機能せず、最終的には元親会社へと回帰する形となりました。
(2)AVANTIAによるドリームホームグループの子会社化(2021年4月)
- 買収当事者
- 買収企業:AVANTIA
- 被買収企業:DreamTown、ドリームホームなど3社(いずれも京都市)
- 概要
京都府内でトップクラスの分譲戸建事業を展開するドリームホームグループ(合計売上高約160億円規模)をグループごと子会社化しました。AVANTIAは愛知県中心の企業ですが、関西進出を一気に加速させる狙いがありました。 - 背景と狙い
戸建住宅市場は全国的に競争が厳しくなる一方、関西地区はまだ成長の余地があると考えられています。AVANTIAとしては京都でのブランド力がある企業を取り込むことで即戦力とし、事業規模拡大を図ろうとしています。
2-8.老舗企業の買収・事業継承事例
(1)ユニチカの事業譲渡・再編事例
ユニチカは京都府宇治市に主要拠点を持つ繊維メーカーですが、経営再建の過程で非中核事業の売却を進めてきました。
- ユニチカ環境技術センターの譲渡(2015年3月)
- 一般化学分析子会社を建設技術研究所へ売却し、資源を重点事業に集中。
- プラスチック成形加工子会社のコソフ譲渡(2020年7月)
- コソフ(京都府久御山町)を自己株式取得するコソフおよび同社社長に譲渡し、さらなる再編を進めました。
- フィルム部門をダイセルに売却(2022年10月)
- 京都府亀岡市の工場などで展開していた機能性フィルム事業をダイセルへ移管し、タッチパネル部門だけを残す形で事業構造の最適化を図っています。
ユニチカの動きは京都発の大手素材メーカーが、グローバル競争を背景に事業の選択と集中を進めている好例といえます。
(2)三菱重工によるフォークリフト事業の再編(日本輸送機との統合)
- 買収当事者
- 三菱重工業(持分法適用関連会社の日本輸送機、京都府長岡京市)
- 概要
三菱重工は自社のフォークリフト事業(売上高1140億円)を日本輸送機に会社分割で継承させ、日本輸送機を子会社化する計画を発表しましたが、議決権割合は49.4%にとどめ、上場会社としての独立性を残す形となりました。 - 背景と狙い
世界的にフォークリフト市場が拡大し、海外勢と競合するなかで、生産・販売ルートの効率化と小型~大型までのラインナップ強化が不可欠でした。日本輸送機は京都で拠点を構え、中小型バッテリーフォークリフトや物流システムに強みを持ちます。
2-9.その他多彩な事例
(1)壱番屋による竹井(麺屋たけ井)買収(2023年3月)
カレーハウス「CoCo壱番屋」を運営する壱番屋が、「麺屋たけ井」を京都・大阪で展開する竹井(京都府城陽市)を子会社化しました。カレー以外の新業態を模索する壱番屋が、濃厚豚骨魚介つけ麺で有名なブランドを取得し、飲食業界における多ブランド経営を強化する狙いがあります。
(2)クラウディアホールディングスによる和装婚礼衣装製造・販売の二条丸八買収(2023年11月予定)
ウェディングドレスの製造・卸を主力とするクラウディアHDは、和装婚礼衣装で長年実績を持つ二条丸八(京都府木津川市)を子会社化します。近年、和婚への需要回復やインバウンドの増加を見込み、和装ラインナップの強化を図っています。
(3)アドベンチャーによるアヤベックス買収(2023年10月)
旅行予約サイト「skyticket」を運営するアドベンチャーが、京都府綾部市に本社を置くランドオペレーターのアヤベックスを約5億円で買収しました。インバウンド復活に合わせて、自社の旅行事業とのシナジーを高めようという狙いです。
(4)オートバックスセブンによる近藤自動車工業の子会社化(2024年5月予定)
カー用品大手のオートバックスセブンは、整備や板金を中心とする近藤自動車工業(京都府久御山町)を買収します。アフターマーケットサービスの一環として整備機能を強化し、顧客接点を広げる方針です。
3.京都府のM&Aが活発化する背景
3-1.後継者難・事業承継問題
全国的な傾向と同様に、京都府内の企業でもオーナー経営者の高齢化や後継者不在問題が顕在化しています。地方創生や地域経済の維持のため、老舗企業や地域に根ざした中小企業がM&Aを通じて事業継続を図るケースが増えています。特に職人技が必要な製造業や、老舗の販売ネットワークを引き継ぎたい企業にとっては、京都ブランドを活かして更なる成長を目指す好機となっています。
3-2.伝統産業の事業再編
西陣織や京焼・清水焼などの伝統産業は、国内外から注目を集める一方、後継者不足や海外生産との競合で苦戦している事業者も少なくありません。M&Aによる資本提携や異業種からの参入が進むことで、新たな商品開発や販路拡大を実現し、生き残りを図ろうとする動きも見られます。
3-3.大学・研究機関のベンチャー創出
京都大学や同志社大学など有名大学が集積する京都市内では、研究成果を活かしたベンチャー企業が次々に生まれています。バイオテクノロジーや情報通信分野で起業したベンチャー企業が、大手企業に買収されることで研究開発資金を得たり、事業シナジーを生み出したりする動きが今後も期待されます。
3-4.観光・サービス産業の活性化
京都は国内外からの観光客が多く訪れる世界的観光都市です。新型コロナウイルス感染症の影響は大きかったものの、アフターコロナにおけるインバウンド需要の回復が見込まれるため、宿泊・飲食・観光関連企業の業務提携やM&Aが一段と活発化していく可能性があります。
4.M&Aを成功に導くポイント
4-1.企業文化と経営哲学の統合
京都の企業は「おもてなし」や「長期的視点での経営」を重視する傾向が強いといわれます。買収側企業が異なる企業文化を持つ場合、その調和を図るためのコミュニケーションやWin-Winの関係づくりが欠かせません。現地の慣習や地域社会への配慮も重要になります。
4-2.事業シナジーの明確化
M&Aを行う際は、単純な規模拡大だけではなく、どのような形でシナジーを生み出せるかを明確にすることが大切です。京都における企業買収では、京都ブランドや地域の販売網、技術力を活かして、新たな市場を切り開くビジョンを提示できるかが成功の分かれ目になります。
4-3.適切な評価とデューデリジェンス
老舗企業や中小企業の中には財務諸表に現れにくい無形資産(顧客リスト、熟練技術、ブランド力など)が存在します。その価値を的確に評価し、適正な買収価格を設定するためにも、経験豊富な専門家のサポートが必要です。
5.今後の展望とまとめ
京都府内には老舗企業や魅力的な新技術・ブランドを持つ企業が多数存在し、後継者問題などを背景にM&Aの需要は引き続き高い水準が続くと考えられます。また、AI・ロボット・バイオといった先端技術分野でのベンチャー企業も育ちつつあり、大手企業による買収や資本参加を通じた事業化の加速が見込まれます。
一方、買収企業側が京都の地域性や企業風土を十分に理解せずにM&Aを進めると、期待したシナジーを得られずに短期間での撤退を余儀なくされるケースもあるため、慎重な調整が求められます。
本記事でご紹介した事例だけでも、教育や自動車部品、タクシー、物流、医療・介護、ドラッグストア・食品スーパーなど、多様な業界で京都府に関連するM&Aが行われていることがわかります。これは京都の産業構造の多彩さを如実に示しているといえるでしょう。
地域経済の活性化と企業の持続的発展を両立するために、M&Aは有効な手段の一つとなり得ます。 企業規模や業種にかかわらず、今後も京都府におけるM&Aは大いに注目を集めると思われます。今後もさらなる事例が出てくる可能性が高いため、地域の特徴や文化的背景を十分に理解したうえで、ベストなパートナーシップを築くことが成功への近道となるでしょう。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。