目次
  1. 第1章 香川県の経済概要とM&Aの背景
    1. 1-1. 香川県の概況
    2. 1-2. 香川県におけるM&Aの特色
  2. 第2章 香川県における主要なM&A事例一覧と解説
    1. 2-1. 冷凍食品メーカーのテーブルマークによるケイエス冷凍のTOB(2010年)
    2. 2-2. 大王製紙による猫砂メーカー大手・大貴の子会社化(2022年)
    3. 2-3. 大本組によるゴルフ場・坂出カントリークラブの売却(2013年)
    4. 2-4. 平河ヒューテックによる古河電気工業傘下・四国電線の子会社化(2011年)
    5. 2-5. 日医工によるジェネリック医薬品製造・テイコクメディックスの子会社化(2008年)
    6. 2-6. 穴吹興産による祖谷渓温泉観光・祖谷温泉の子会社化(2020年)
    7. 2-7. 小野建によるヤマサの子会社化(2022年)・マツオメタルの子会社化(2024年)
      1. ヤマサ(高知市)の子会社化
      2. マツオメタル(高松市)の子会社化
    8. 2-8. 加ト吉(現・テーブルマーク)によるグリーンフーズのTOB(2009年)
    9. 2-9. 国際航業ホールディングスと五星の資本提携・解消の動き(2008年~2010年)
    10. 2-10. マミヤ・オーピーとキャスコの売却・買収・再売却(2010年・2022年)
      1. キャスコを子会社化(2010年)
      2. キャスコのKSTへの譲渡(2022年)
      3. シャフトラボの子会社化(2022年)
    11. 2-11. ヨシムラ・フード・ホールディングスによる細川食品・細川フーズの子会社化(2022年)
    12. 2-12. メディカル一光グループによる若松薬品の子会社化(2024年)
    13. 2-13. ポエックによるミモトの子会社化(2019年)
    14. 2-14. マルヨシセンターによるレックスの子会社化(2012年)
    15. 2-15. ダイヘンによる四変テックの子会社化(2023年)
    16. 2-16. スターゼンによるキング食品の子会社化(2010年)
    17. 2-17. チムニーによる焼肉店運営シーズライフの子会社化(2019年)
    18. 2-18. セーラー広告によるゴングの子会社化(2009年)
    19. 2-19. クリエアナブキグループの事業拡大とM&A(2008年~2015年)
      1. セシールのアウトソーシング事業取得(2012年)
      2. 採用工房の子会社化(2015年)
      3. WORKPORTから一般労働者派遣事業を取得(2008年)
    20. 2-20. クスリのアオキHDによるムーミーからの7店舗取得(2024年)
    21. 2-21. ジー・テイストによる活性化本舗さぬきの子会社化(2016年)
    22. 2-22. ウエルシアHDによるププレひまわりの子会社化方針(2021年)
    23. 2-23. 神栄による農業子会社・神栄アグリテックの譲渡(2021年)
    24. 2-24. J-オイルミルズによる坂出事業所の倉庫・不動産事業譲渡(2019年)
    25. 2-25. JRCによる三好機械産業の子会社化(2024年)
    26. 2-26. ありがとうサービスによるエージーワイの子会社化(2020年)
    27. 2-27. Jトラストによるクレジット会社たかせんの子会社化(2012年)
  3. 第3章 香川県M&Aの今後の動向と展望
  4. 第4章 M&Aが香川県にもたらすメリットと課題
    1. 4-1. メリット
    2. 4-2. 課題
  5. 第5章 まとめ

第1章 香川県の経済概要とM&Aの背景

1-1. 香川県の概況

香川県は四国地方の北東部に位置し、四国4県の中では最も面積が小さい県ですが、人口密度が比較的高く、商業や工業など多様な産業が集積しています。うどんをはじめとする食品関連産業や、瀬戸内海を活かした水産加工業、さらに工業地帯を抱える坂出市や観音寺市、高松市近郊での製造業などが盛んです。近年は四国全体で少子高齢化が進み、国内市場の縮小に伴う経営課題を抱える中小企業が増えており、その打開策としてM&Aを積極的に活用する動きが見られます。

1-2. 香川県におけるM&Aの特色

香川県では特に食品関連産業が多く存在し、冷凍食品や水産加工など全国でも知名度の高い企業がいくつかあります。一方でゴルフ場運営やホテル事業、不動産開発など、観光やサービス関連の企業もめざましい活躍をしています。これらの企業が経営基盤の強化を図る際、あるいはグループ全体でのシナジーを追求する際にM&Aを活用するケースが増えてきました。

また、香川県以外の大手企業が地盤強化や市場開拓を目的として、香川県内の企業を子会社化する動きも活発です。少子高齢化の進行により、後継者不足が顕在化している中小企業は、事業承継対策として大手企業や同業他社とのM&Aを選択することも少なくありません。


第2章 香川県における主要なM&A事例一覧と解説

ここでは、実際に公表された主なM&Aの事例を取り上げ、それぞれの特徴や背景、シナジー効果、そして地域経済に与える影響などを解説いたします。


2-1. 冷凍食品メーカーのテーブルマークによるケイエス冷凍のTOB(2010年)

概要

  • 買収主体:JT子会社であるテーブルマーク(旧・加ト吉、香川県観音寺市)
  • 買収対象:冷凍食品メーカーのケイエス冷凍(当時上場企業)
  • 目的:完全子会社化によるグループ連携の強化
  • 公開買付価格:1株あたり1560円
  • TOB期間:2010年2月3日~3月17日

テーブルマーク(旧称・加ト吉)は香川県を代表する冷凍食品メーカーの一つです。当時、連結子会社だったケイエス冷凍をTOB(株式公開買い付け)により完全子会社化することを決定しました。背景として、世界的な金融危機や少子高齢化による市場縮小が見込まれる中で、グループ間の連携を強化し、経営の効率化を高める必要があったことが挙げられます。

テーブルマークはJTグループの傘下に入った後も冷凍うどんや冷凍食品のトップブランドとしての地位を築いています。ケイエス冷凍の完全子会社化は、工場・開発拠点・販売チャネルの一体運営により、コスト削減や商品開発の効率化を狙ったものでした。TOBによって上場廃止となったケイエス冷凍ですが、グループの一体化が進むことで、さらなる競争力強化が期待されました。


2-2. 大王製紙による猫砂メーカー大手・大貴の子会社化(2022年)

概要

  • 買収主体:大王製紙
  • 買収対象:大貴(東京都港区)
  • 売上高:27億1000万円
  • 取得価額:約74億円
  • 取得目的:グループ内でのマテリアルリサイクルモデルの確立

大王製紙は衛生用紙や紙おむつ、生理用品、マスクなどの分野で国内大手の一角を占めています。今回の大貴の子会社化は、同社が紙製猫砂の市場で大きなシェアを有している点と、紙リサイクルを通じた環境負荷低減や原料効率化を狙った点が大きな特徴です。大貴は規格外となった紙おむつや壁紙などをリサイクル原料として活用しており、四国工場(香川県三豊市)を持つことから、四国内の生産拠点を効率的に活かす体制が整います。

香川県においては製紙関連企業やリサイクル関連企業との連携も見込まれるため、大王製紙が掲げるマテリアルリサイクルの推進において、同県の産業とシナジーを生む可能性があります。


2-3. 大本組によるゴルフ場・坂出カントリークラブの売却(2013年)

概要

  • 売却主体:大本組
  • 買収主体:ゴルフ事業のタカガワアトランティス(香川県まんのう町)
  • 対象会社:坂出カントリークラブ(香川県坂出市)

建設事業を中心とする大本組は、ゴルフ場運営子会社として坂出カントリークラブを1988年に設立し約20年にわたり営業を続けていました。しかしゴルフ場事業の先行き不透明感が高まる中、タカガワアトランティスへの売却を決断しました。タカガワホールディングス(徳島県)グループは兵庫県や中四国地方で複数のゴルフ場を運営しており、集客や運営ノウハウに強みを持っています。

ゴルフ場業界はバブル期に乱立した施設の採算悪化や利用者の減少などが課題となっており、当該M&Aはゴルフ場同士の集約や運営効率化の一環といえます。香川県におけるゴルフ観光の強化にも繋がる可能性があり、坂出カントリークラブの今後の運営に関心が高まりました。


2-4. 平河ヒューテックによる古河電気工業傘下・四国電線の子会社化(2011年)

概要

  • 買収主体:平河ヒューテック
  • 買収対象:四国電線(香川県さぬき市)
  • 売上高:65億4000万円
  • 取得価額:16億5000万円
  • 取得目的:自動車・ネットワーク市場での競争力強化

平河ヒューテックは通信ケーブルや電子機器用ワイヤハーネスなどを取り扱う上場企業で、自動車分野や通信インフラ分野に成長機会を求めていました。四国電線は衛星放送や車載用の同軸ケーブルなどの分野で評価の高い技術力を有し、もともとは古河電気工業の傘下でした。今回の子会社化により、平河ヒューテックは生産体制・研究開発体制の強化を図ることができ、四国電線にとってはさらなるマーケット開拓のチャンスとなりました。

香川県内の製造業は小規模から中堅規模の企業が多い傾向にありますが、四国電線のように全国的にも技術力が認められている企業も珍しくありません。大手グループとの連携が密になることで、県内から全国・海外市場への展開が一層進むと期待されています。


2-5. 日医工によるジェネリック医薬品製造・テイコクメディックスの子会社化(2008年)

概要

  • 買収主体:日医工
  • 買収対象:テイコクメディックス(さいたま市)
  • 背景:帝國製薬(香川県東かがわ市)の完全子会社
  • 目的:製品ポートフォリオの拡充とジェネリック医薬品の普及強化

ジェネリック医薬品大手の日医工が、帝國製薬の子会社であるテイコクメディックスを子会社化した事例です。テイコクメディックスは「スーパージェネリック」と呼ばれる剤型改良品を得意としており、皮膚疾患領域などで特に強みを持っていました。買収後は日医工の営業網を活かし、ジェネリック医薬品の普及促進や新薬開発への取り組みを一層強化しています。

香川県は帝國製薬の本社が所在するなど製薬業も一定の存在感があり、地元企業が持つ技術や特許などが大手製薬企業の目に止まりやすい環境にあります。本事例も、技術力の高い地方企業が大手と連携し、全国展開へと舵を切った一例といえます。


2-6. 穴吹興産による祖谷渓温泉観光・祖谷温泉の子会社化(2020年)

概要

  • 買収主体:穴吹興産
  • 買収対象:祖谷渓温泉観光(徳島県三好市)および祖谷温泉(高松市)
  • 目的:観光関連事業の拡大戦略
  • 対象のホテル:「和の宿 ホテル祖谷温泉」(全20室)

穴吹興産は香川県と岡山県を中心にホテルや旅館事業に展開を広げる不動産デベロッパーです。今回のM&Aは、徳島県三好市にある人気温泉施設「和の宿 ホテル祖谷温泉」を運営する祖谷渓温泉観光と、ケーブルカー事業を運営する祖谷温泉を傘下に収めるというものです。祖谷温泉エリアは「大歩危祖谷温泉郷」として四国を代表する観光地の一つであり、穴吹興産はこれを機に四国全域の観光事業をさらに盛り上げることを目指しています。

香川県を含む四国4県は観光資源が豊富で、近年は外国人観光客の増加も見込まれていました(ただし2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響で一時的な落ち込みあり)。穴吹興産のような地元大手が観光施設を積極的に取り込むことで、地域一体の観光開発が進む可能性が高まります。


2-7. 小野建によるヤマサの子会社化(2022年)・マツオメタルの子会社化(2024年)

ヤマサ(高知市)の子会社化

  • 買収主体:小野建
  • 買収対象:ヤマサ(高知市)
  • 事業内容:鉄鋼・土木建築資材の販売
  • 取得株式数:70.4%
  • 目的:四国一円での営業強化

小野建は全国各地に拠点を持つ鉄鋼製品の商社であり、今回のヤマサ子会社化を通じて四国エリアでの事業基盤を強化しました。元々丸亀営業所(香川県丸亀市)などを有していましたが、更なる拡販体制構築や物流効率化が狙いとみられます。

マツオメタル(高松市)の子会社化

  • 買収主体:小野建
  • 買収対象:マツオメタル(高松市)
  • 事業内容:ステンレス鋼や銅、アルミの販売・加工
  • 取得目的:販売拡充と地域密着

2024年3月に予定されるマツオメタルの子会社化は、前述のヤマサの買収と同様、四国内における営業・加工ネットワークを強化するものです。小野建は香川県丸亀市にも営業所を置いており、これらの連携を通じてサービスの幅を広げる考えです。


2-8. 加ト吉(現・テーブルマーク)によるグリーンフーズのTOB(2009年)

概要

  • 買収主体:加ト吉(香川県観音寺市)
  • 買収対象:グリーンフーズ
  • 目的:水産事業の経営基盤強化
  • 買付価格:1株あたり3万5000円
  • 買付総額:9億3100万円

加ト吉(現・テーブルマーク)は以前よりグリーンフーズを子会社化していましたが、追加TOBによって完全子会社化することで、さらに事業基盤を強化しました。水産加工品や冷凍食品は国内外の原料事情に左右されやすい分野ですが、同時に家庭用需要や外食需要の拡大が見込まれていました。完全子会社化によって加ト吉は水産加工部門のコスト構造改善や品質管理の一元化を進め、市場競争力を高める狙いがありました。


2-9. 国際航業ホールディングスと五星の資本提携・解消の動き(2008年~2010年)

概要

  • 買収主体:国際航業ホールディングス
  • 買収対象:総合建設コンサルタントの五星(香川県三豊市)
  • 取得時期:2008年に59.50%を取得し子会社化
  • 解消:2010年6月、意見の相違により資本提携を解消

総合建設コンサルタントとして地方自治体へのサービスを提供する五星は、国際航業グループと資本業務提携を結ぶことで、相互に地域密着と技術サポートの融合を期待されていました。しかし経営方針の相違により、わずか2年ほどで資本提携解消に至っています。国際航業HDは五星が実施する自社株買い付けに応じる形で株式を譲渡し、資本関係を解消しました。M&Aは必ずしも長期的に良好な関係が続くとは限らないことを示す事例でもあります。


2-10. マミヤ・オーピーとキャスコの売却・買収・再売却(2010年・2022年)

キャスコを子会社化(2010年)

  • 買収主体:マミヤ・オーピー
  • 買収対象:キャスコ(香川県さぬき市)
  • 事業内容:総合ゴルフ用品メーカー(ゴルフボール・クラブ・グローブ等)
  • 取得株式比率:91.2%
  • 取得目的:スポーツ事業の経営基盤強化

マミヤ・オーピーはゴルフクラブのシャフトメーカーとしての強みを持つ一方、ゴルフ市場が縮小傾向にある中、総合ゴルフメーカー化による経営の安定を図っていました。キャスコを傘下にすることで、シャフトからボール・クラブ・グローブに至る総合的な商品ラインアップを可能にしました。

キャスコのKSTへの譲渡(2022年)

  • 売却主体:マミヤ・オーピー
  • 買収主体:KST(埼玉県美里町)
  • 譲渡価額:5億円

しかし2022年、マミヤ・オーピーはキャスコをゴルフ場経営などを手掛けるKSTに譲渡しました。背景には、同社がカーボンシャフト事業に経営資源を集中する方針を打ち出したことがあります。

シャフトラボの子会社化(2022年)

  • 買収主体:マミヤ・オーピー
  • 買収対象:シャフトラボ(東京都千代田区)
  • 取得目的:カーボンシャフト事業の強化
  • 取得価額:2億円

キャスコ売却と同時期に、マミヤ・オーピーはゴルフシャフトの製造・販売を手がけるシャフトラボを子会社化し、主力のシャフト事業に集中投資する形をとっています。カーボンシャフトを扱う米国子会社UST Mamiyaを軸に世界市場での競争力を高め、総合ゴルフ用品からは一時的に撤退するという戦略的再編といえます。


2-11. ヨシムラ・フード・ホールディングスによる細川食品・細川フーズの子会社化(2022年)

概要

  • 買収主体:ヨシムラ・フード・ホールディングス
  • 買収対象:細川食品(香川県観音寺市)、細川フーズ(香川県三豊市)
  • 取得価額:合計11億4500万円
  • 事業内容:冷凍食品(かき揚げ、チヂミ、冷凍米飯など)の製造・販売

ヨシムラ・フード・ホールディングスは、中小食品メーカーをグループ化して事業効率化や販路拡大を進める持株会社です。細川食品は約60年にわたって培ったノウハウを持ち、国産野菜を使ったかき揚げなどで高い評価を得ています。香川県の食品製造業は地元の農産物や水産物を活かした事業モデルが多く、全国市場への展開余地も大きいといわれます。本事例もその一例であり、地域の食品メーカーが全国的ブランドのポートフォリオに組み込まれることで、安定的な成長を見込めると期待されています。


2-12. メディカル一光グループによる若松薬品の子会社化(2024年)

概要

  • 買収主体:メディカル一光グループ
  • 買収対象:若松薬品(香川県高松市)
  • 売上高:16億4000万円
  • 目的:医薬品卸事業での効率化・拡大

メディカル一光グループは調剤薬局事業やヘルスケア事業などを幅広く展開しています。医薬品卸売り事業においては、公定価格が存在するため価格転嫁が難しく、規模拡大による効率化が求められています。若松薬品は沢井製薬の販売代理店として香川県や徳島県を営業エリアとしており、地元に根付いたネットワークを持ちます。同社の傘下入りはメディカル一光グループの四国エリアでの卸事業を強化する狙いがあるとみられます。


2-13. ポエックによるミモトの子会社化(2019年)

概要

  • 買収主体:ポエック
  • 買収対象:ミモト(香川県坂出市)
  • 事業内容:一般産業機械や省力化設備の設計・製作
  • 取得目的:三和テスコ(ポエック子会社)との連携強化

ポエックは環境装置や産業機器の製造・販売を行う企業です。三和テスコ(高松市)とミモトはもともと外注・受注関係にあり、今回の子会社化によって製造工程の連携や新規顧客開拓の効率化が期待されます。香川県の製造業においては、複数の企業が連携して一部の工程を担い合うケースが多く、中小規模の企業同士のM&Aや資本提携が今後さらに増加する可能性があります。


2-14. マルヨシセンターによるレックスの子会社化(2012年)

概要

  • 買収主体:マルヨシセンター
  • 買収対象:レックス(香川県綾川町)
  • 事業内容:物流センター運営
  • 目的:製造・物流の一体化による効率化

香川県を中心にスーパーマーケットを展開するマルヨシセンターは、全商品の配送業務や配送センター運営を行うレックスの株式を追加取得して子会社化しました。これにより物流面でのシナジー効果が高まるほか、製造子会社であるフレッシュデポとの統合システム構築も強化されます。流通業界における物流改革は欠かせない戦略であり、食品スーパーでも生産から販売までの一元管理が注目されています。


2-15. ダイヘンによる四変テックの子会社化(2023年)

概要

  • 買収主体:ダイヘン
  • 買収対象:四変テック(香川県多度津町)
  • 売上高:147億円
  • 取得目的:電力機器の生産分業の柔軟化
  • 取得比率:38.6%→65.3%

ダイヘンは電力機器や溶接機器を手掛けるメーカーで、四変テックは変圧器や配電盤などを製造しています。従来から38.6%を保有しており、持分法適用会社でしたが、追加取得により子会社化することで、更なる連携強化を図ります。四変テックは1946年設立という長い歴史を持ち、地域に根付いた老舗メーカーです。電力インフラの重要性が高まる中、両社の共同開発や生産最適化によって競争力を高めようとする意図が見て取れます。


2-16. スターゼンによるキング食品の子会社化(2010年)

概要

  • 買収主体:スターゼン
  • 買収対象:キング食品(広島県福山市)
  • 売上高:23億8000万円
  • 譲渡元:テーブルマーク(香川県観音寺市)及び代表者一族
  • 取得価額:11億5000万円

キング食品はハム・ソーセージ・加工食品分野で地域に密着したブランド力を持っており、テーブルマークが保有していた株式をスターゼンが取得する形で子会社化しました。スターゼンは畜産物の加工・販売を手掛ける大手企業であり、キング食品を取り込むことで加工食品事業の幅を広げました。香川県の大手食品メーカーからの譲渡という形ですが、県外企業との提携により業界再編が進む好例といえます。


2-17. チムニーによる焼肉店運営シーズライフの子会社化(2019年)

概要

  • 買収主体:チムニー
  • 買収対象:シーズライフ(東京都渋谷区)
  • 店舗展開エリア:都内、埼玉県、香川県
  • 主なブランド:焼肉「牛星」8店舗、焼肉「山河」2店舗

チムニーは「はなの舞」「さかな道場」など居酒屋チェーンを全国展開しており、外食産業の中で海鮮居酒屋業態を主力としています。シーズライフは焼肉店舗を中心とする外食事業者で、香川県にも数店舗を展開していました。今回の子会社化は業態の多角化と地域拡大の一環といえます。香川県の外食市場はうどん店が有名ですが、焼肉や居酒屋業態も根強い需要があり、今後も県内での多店舗展開が期待されています。


2-18. セーラー広告によるゴングの子会社化(2009年)

概要

  • 買収主体:セーラー広告
  • 買収対象:ゴング(福岡市)
  • 売上高:6億5300万円
  • 取得目的:事業エリアの拡大と広告サービスの高度化

セーラー広告は香川県、高知県、愛媛県、徳島県、岡山県、広島県に営業拠点を持ち、地方を中心とした広告事業を展開していました。一方ゴングは福岡県を中心とした広告会社です。両社の提携・子会社化により、広告メディアの共同活用や顧客基盤の相互補完が見込まれます。香川県内企業が九州へ進出する足がかりとしてのM&Aとしても意義のあるケースです。


2-19. クリエアナブキグループの事業拡大とM&A(2008年~2015年)

セシールのアウトソーシング事業取得(2012年)

  • 買収主体:クリエアナブキの子会社・クリエ・ロジプラス(香川県高松市)
  • 事業譲受元:セシールビジネス&スタッフィング
  • 目的:物流センター運営ノウハウの習得

クリエアナブキは香川県を本社とする人材派遣や人材紹介を主力とする企業ですが、子会社を通じてアウトソーシング事業にも参入。セシール(高松市に本社を置く通信販売大手)のグループ会社からアウトソーシング事業を取得し、物流センターの運営ノウハウを獲得することで新たな収益源確保を目指しました。

採用工房の子会社化(2015年)

  • 買収主体:クリエアナブキ
  • 買収対象:採用工房(東京都渋谷区)
  • 目的:採用コンサルティングサービス強化

クリエアナブキは大都市圏での人材関連サービスを強化する一環として、採用活動支援を行う採用工房を持分法適用関連会社から子会社化しました。地元香川や中四国だけでなく、首都圏の顧客獲得にも力を入れ、サービスの総合力を高める施策です。

WORKPORTから一般労働者派遣事業を取得(2008年)

  • 買収主体:クリエアナブキ
  • 買収対象:WORKPORT(東京都品川区)の労働者派遣事業
  • 目的:東京エリアでの人材サービス強化

IT関連企業に強いWORKPORTから一般労働者派遣事業を取得し、東京地区での売上増を図りました。香川県を拠点としながら大都市圏へ進出し、首都圏・中四国全域でのネットワークを築く戦略の一環となっています。


2-20. クスリのアオキHDによるムーミーからの7店舗取得(2024年)

概要

  • 買収主体:クスリのアオキホールディングス
  • 譲渡元:ムーミー(高松市)
  • 店舗数:7店舗
  • 目的:四国初進出と食品スーパー事業の強化

クスリのアオキはドラッグストア事業で全国展開を進めており、近年は食品売場を拡充してドラッグストア+食品スーパーのハイブリッド店舗戦略を推進しています。ムーミーは高松市、さぬき市、東かがわ市に計7店舗を持ち、「四季食彩館ムーミー」として地域密着型のスーパーを運営してきました。今回の取得はクスリのアオキにとって香川県内初進出となり、既存のドラッグストア事業と食品スーパーのノウハウを組み合わせることで、新たな顧客層の取り込みが期待されます。


2-21. ジー・テイストによる活性化本舗さぬきの子会社化(2016年)

概要

  • 買収主体:ジー・テイスト
  • 買収対象:活性化本舗さぬき(香川県宇多津町)
  • 事業内容:讃岐うどん店「塩がま屋」の運営
  • 取得目的:四国での店舗開発拠点確保

外食事業を全国展開するジー・テイストは、既に四国で複数の店舗を運営していましたが、本場の讃岐うどん店を取り込むことで地域密着型ブランドを強化しました。讃岐うどんは香川県を代表する飲食ジャンルであり、M&Aを通じて地元の老舗や有名店を傘下に収める動きが少しずつ増えています。


2-22. ウエルシアHDによるププレひまわりの子会社化方針(2021年)

概要

  • 買収主体:ウエルシアホールディングス
  • 買収対象:ププレひまわり(広島県福山市)
  • 店舗数:中国・四国地方を中心にドラッグストア123店舗
  • 出店エリア:広島県、岡山県、島根県、鳥取県、兵庫県、愛媛県、香川県

ウエルシアHDはイオン系列のドラッグストア大手であり、全国展開を加速しています。一方、ププレひまわりは地域に根差したドラッグストアチェーンとして成長してきました。香川県内にも店舗を有し、調剤薬局併設型の店舗運営を行うなど、幅広い顧客基盤を持っています。これによりウエルシアは四国・中国地方へ大きく進出できる見込みで、地元顧客へのサービス拡充が期待されます。


2-23. 神栄による農業子会社・神栄アグリテックの譲渡(2021年)

概要

  • 売却主体:神栄
  • 買収主体:H.A.S.E.(香川県三豊市)
  • 対象会社:神栄アグリテック(福井県あわら市)
  • 事業内容:キャベツ・トマト・メロンなどの栽培

神栄は食品や電子部品、化学製品など多角経営を進めてきましたが、農業事業については大きな相乗効果が得にくいと判断し、H.A.S.E.へ譲渡を決定しました。H.A.S.E.は野菜栽培を行う会社であり、香川県三豊市を拠点としています。農業分野においても規模拡大や設備投資の必要性が増しており、地方企業間でのM&Aが進む例の一つといえます。


2-24. J-オイルミルズによる坂出事業所の倉庫・不動産事業譲渡(2019年)

概要

  • 譲渡主体:J-オイルミルズ
  • 対象:坂出事業所(倉庫、不動産)、子会社の坂出ユタカサービス
  • 譲渡価額:20億円

J-オイルミルズは日本の大手油脂メーカーで、1949年から香川県坂出市で事業を行ってきましたが、現在は搾油工場としては稼働しておらず、倉庫事業や駐車場経営などを行うのみとなっていました。これらの事業を別会社へ譲渡し、食品事業に集中するための事業再編を進めた事例です。坂出は地理的に物流拠点としての機能が高い土地柄ですが、コア事業とのシナジーが薄かったことから切り離しを決断したと考えられます。


2-25. JRCによる三好機械産業の子会社化(2024年)

概要

  • 買収主体:JRC
  • 買収対象:三好機械産業(香川県東かがわ市)
  • 取得目的:ロボットSI(システムインテグレーション)事業の基盤拡大
  • 事業内容:各種コンベヤーや搬送装置の設計・製作

生産ラインの自動化や省人化ニーズが高まる中、JRCはロボットSI事業に力を入れています。香川県東かがわ市に本拠を置く三好機械産業は大手製造業からの受注が多く、長年にわたり搬送装置分野で実績を積んできました。四国エリアの未開拓市場を取り込むことと、既存事業への技術的シナジーを狙う形です。


2-26. ありがとうサービスによるエージーワイの子会社化(2020年)

概要

  • 買収主体:ありがとうサービス
  • 買収対象:エージーワイ(愛媛県今治市)
  • 店舗展開:香川県、福岡県、大分県で喫茶店・レストラン経営
  • 取得目的:フードサービス事業の拡大

ありがとうサービスはブックオフやモスバーガーなどのフランチャイジーとして四国や九州で多店舗展開しており、外食分野にも注力しています。エージーワイの買収により、香川県を含むエリアでの飲食事業を拡充し、さらなる多店舗化と顧客開拓を目指しています。香川県は外食産業が盛んな土地柄であり、チェーン店・個人経営店ともに競争が激しいため、新規参入にはM&Aが有効な手段となります。


2-27. Jトラストによるクレジット会社たかせんの子会社化(2012年)

概要

  • 買収主体:Jトラスト(子会社を通じて)
  • 買収対象:たかせん(香川県高松市)
  • 売上高:8100万円
  • 取得目的:四国エリアの信販事業基盤の確保

たかせんは1964年設立の老舗クレジット会社で、主に香川県を中心とした営業を続けていましたが、信販業界の厳しい競争環境により営業所の整理が進められていました。Jトラストは全国的に金融事業を展開しており、たかせんを買収することで四国地方の営業基盤を拡大。事業効率化や商品開発を推進し、地域金融サービスの再編に一役買う形となりました。


第3章 香川県M&Aの今後の動向と展望

上記のように、香川県を舞台とするM&Aには多種多様な業種・業態が関係しています。食品・製造業・サービス業・小売業など、県内外からのアプローチがますます活発になっているのが特徴です。

  1. 事業承継型M&Aの増加
    中小企業の高齢化が進む中、後継者不在の問題は全国的に深刻化しています。香川県でも例外ではなく、老舗企業をはじめ多くの企業が事業承継策を検討している状況です。これまでは地元での親族継承が一般的でしたが、他県企業や同業大手とのM&Aによって事業存続を図るケースが増えると予想されます。
  2. 食品産業への注目度アップ
    うどんやオリーブオイル、水産加工など、香川県の強みである食品産業に対し、全国規模の食品メーカーや商社、投資ファンドが注目を集めています。海外輸出を見据えた商品開発やブランド強化のためには投資が不可欠であり、M&Aを通じたアライアンスが活性化する見込みです。
  3. 観光産業・外食産業の再編
    インバウンド需要の回復や地域活性化の文脈で、ホテル・旅館や外食産業でも資本提携やM&Aが増加する可能性があります。香川県は瀬戸内国際芸術祭や高松空港の国際線誘致など、観光誘客策に積極的であり、こうした動きに合わせた企業再編や業態転換が進むと思われます。
  4. 製造業のDX化と異業種連携
    四国全体で労働力不足への対応が課題となる中、産業用ロボット・省人化機器を扱う企業への期待が高まっています。JRCによる三好機械産業の子会社化のように、ロボットやAI、IoTを活用した生産性向上を図るために、大手企業が地元企業と連携する事例が増えるでしょう。
  5. 地元大手の積極的M&A
    穴吹興産やマルヨシセンターなど、香川発祥の企業が自身の事業拡張のために県内外でM&Aを行うケースも今後増えていくと考えられます。地場資本が中心となって地域を盛り上げるためには、新規事業とのシナジーを強く意識した戦略が求められます。

第4章 M&Aが香川県にもたらすメリットと課題

4-1. メリット

  1. 経営基盤の強化
    大手企業の資本参加により、中小企業でも新たな設備投資や販路拡大が可能になります。地域企業が全国や海外市場へ進出しやすくなる点は大きなメリットです。
  2. 後継者問題の解消
    事業承継が円滑に進むことで、優れた技術やノウハウを持つ地元企業が継続し、雇用も維持されます。地域経済の安定に寄与するでしょう。
  3. 地域ブランディングの向上
    香川県発の製品やサービスが大手の力を借りて全国的にPRされる機会が増え、香川県のブランド価値向上にも繋がります。
  4. イノベーション促進
    製造業やIT企業が連携すると、製品開発やサービスの高度化が進み、新たな市場創出にも期待できます。

4-2. 課題

  1. 企業文化や経営方針の違い
    M&A後に経営方針の対立やコミュニケーション不足からトラブルが生じることがあります。実際に国際航業HDと五星の提携解消などの事例からも、事前調整の重要性がわかります。
  2. 地域経済の空洞化リスク
    大手資本による買収で、本社機能や研究開発部門が県外に移転してしまう場合、地元に利益が還元されにくくなる懸念があります。地元雇用の維持や自治体との連携など、長期的視点での取り組みが必要です。
  3. 情報不足と専門家の活用
    中小企業の中にはM&Aに関する知識や交渉経験が不足しており、結果的に適正価格での売買ができないケースがあります。公的機関や金融機関、M&Aアドバイザーなど専門家ネットワークの活用が欠かせません。

第5章 まとめ

香川県で行われたM&A事例を見ると、冷凍食品や水産加工、製造業、ホテル・ゴルフ場運営、ドラッグストアや医薬品卸、小売・外食産業など、非常に幅広い分野での活発な動きが確認できます。背景には以下のような要因が挙げられます。

  • 少子高齢化による事業承継問題の深刻化
  • 大手による地域市場の開拓やシェア拡大戦略
  • 地方企業が全国・海外展開を目指す際の資本力強化
  • 観光や食品など、地域資源を活かした産業の再評価

M&Aは買収する側だけでなく、売却される側や地域社会、従業員、取引先などにも大きな影響を及ぼします。成功の鍵は、単なる株式譲渡や事業譲渡に留まらず、経営理念や組織文化を丁寧に擦り合わせ、コストや売上拡大だけではなく、地域貢献や雇用維持など長期的な視点でのシナジーを追求することにあります。

香川県は地理的にコンパクトながらも、県庁所在地である高松市を中心に四国各県へアクセスしやすく、また関西圏や岡山県との連携も比較的容易です。インフラ整備も進み、物流拠点や観光拠点としての可能性が高い地域として注目されています。今後も地域に根付いた企業と大手企業のマッチングが進み、さらなる経済活性化や新産業の創出が期待されます。

地方創生が叫ばれる昨今、香川県でも自治体や金融機関、産業支援機関が中小企業のM&Aをサポートする動きが強まっています。こうした支援と専門家ネットワークの充実によって、企業オーナーが適切なパートナーを見つけやすくなり、スムーズに事業承継や事業拡大を図ることができるでしょう。

M&Aは単なる企業の買収・売却という金融取引ではなく、企業の将来像や地域社会との協調、従業員のキャリア形成など、多面的に影響を及ぼす重要なテーマです。本稿で紹介した各事例を通じ、香川県内のM&Aがいかに多様化しているか、その背景と狙いがどのように結びついているかをご理解いただけたかと思います。今後の香川県におけるM&A動向にも引き続き注目が集まることでしょう。