目次
  1. 1.石川県におけるM&Aの背景
    1. 1-1.産業構造と地域特性
    2. 1-2.中小企業における事業承継課題
  2. 2.事例から見る石川県のM&A動向
    1. 2-1.日本アジア投資<8518>関連のM&A
      1. 2-1-1.林鍛造所の売却(2011年12月発表/2012年5月20日譲渡)
      2. 2-1-2.森長電子の株式を譲渡(2012年2月8日)
    2. 2-2.クスリのアオキホールディングス<3549>の積極的なM&A戦略
      1. 2-2-1.サン・フラワー・マリヤマの吸収合併(2021年2月4日発表/2021年5月21日合併)
      2. 2-2-2.一二三屋の子会社化(2021年11月4日発表/2022年3月1日取得)
      3. 2-2-3.木村屋の子会社化(2024年7月4日発表/2024年8月21日取得予定)
      4. 2-2-4.中尾(能美市)から大浜町店の取得(2023年9月7日発表/2023年11月1日取得予定)
      5. 2-2-5.スーパーヨシムラ・ハッスルの子会社化(2024年12月5日発表/2025年2月28日取得予定)
    3. 2-3.明光ネットワークジャパン<4668>とMAXISホールディングスの事例(2014年9月1日発表/2014年9月2日取得)
    4. 2-4.日本エコシステム<9249>のテッククリエイト買収(2023年9月27日付で子会社化)
    5. 2-5.前田工繊<7821>によるダイイチ買収(2014年10月3日発表/2014年10月20日取得)
    6. 2-6.燦キャピタルマネージメント<2134>によるグランドホテル松任の譲渡(2013年2月25日)
    7. 2-7.北陸電話工事<1989>の電通自動車整備買収(2015年5月29日発表/2015年6月中旬取得)
    8. 2-8.三谷セキサン<7821>によるトスマク・アイの買収(2010年5月27日発表/2010年6月4日取得)
    9. 2-9.リックス<7525>によるCEM買収(2022年6月14日発表/同日取得)
    10. 2-10.リコー<7752>によるPFUの買収(2022年4月28日発表)
    11. 2-11.極楽湯ホールディングス<2340>によるエオネックス・利水社買収(2020年3月10日発表/2020年4月1日取得)
    12. 2-12.原弘産<8894>による石川再資源化研究所の譲渡(2012年2月15日発表/2012年2月16日譲渡)
    13. 2-13.小松精練<3580>によるパッゾ買収(2012年7月30日発表/2012年8月13日取得)
    14. 2-14.加賀電子<8154>によるKGFの譲渡(2010年3月25日発表/2010年3月31日譲渡)
    15. 2-15.岡村製作所<7994>による富士精工本社の子会社化(2008年3月27日発表/同日実施)
    16. 2-16.丸井織物による倉庫精練<3578>へのTOB(2022年8月8日発表)
    17. 2-17.ラックランド<9612>による木戸設備工業の子会社化(2016年10月3日発表/同日取得)
    18. 2-18.マツモトキヨシホールディングス<3088>による示野薬局の子会社化(2013年11月14日発表/2013年12月16日取得)
    19. 2-19.バローホールディングス<9956>による鷺富運送の子会社化(2024年4月2日発表/同日取得)
    20. 2-20.はるやま商事<7416>によるモリワン買収(2008年7月31日発表/2008年8月1日取得)
    21. 2-21.コマニー<7945>のMBOによる非公開化(2022年5月10日発表)
    22. 2-22.コーユーレンティア<7081>によるOST買収(2024年10月15日発表/2024年10月16日取得予定)
    23. 2-23.クレスコ<4674>によるソラン北陸の買収(2012年3月23日発表/2012年4月1日取得)
    24. 2-24.ケーズホールディングス<8282>による吉田商事の子会社化(2008年10月20日発表/2008年11月28日実施)
    25. 2-25.タケダ機械<6150>によるタケダ精機の子会社化(2009年5月18日発表/2009年5月20日実施)
    26. 2-26.タケエイ<2151>による北陸環境サービスの買収(2009年3月5日発表/2009年3月6日取得)
    27. 2-27.サークルKサンクス<3337>によるサンクス・ホクリアの子会社化(2010年2月26日発表/2010年3月1日取得)
    28. 2-28.エンバイオ・ホールディングス<6092>による太陽光パーク2の買収(2016年10月21日発表/2016年10月24日と2017年1月24日に分割取得)
    29. 2-29.グラフィコ<4930>による医薬品事業の譲渡(2022年11月22日発表/2023年2月1日譲渡)
    30. 2-30.ウイルコホールディングス<7831>によるウィズコーポレーションの譲渡(2019年11月12日発表/2019年12月2日譲渡)
    31. 2-31.アコーディア・ゴルフ<2131>によるゴルフ場事業の売却(2012年10月1日発表/同日譲渡)
    32. 2-32.アドベンチャー<6030>によるwundou売却(2020年8月5日発表/2020年8月31日譲渡)
    33. 2-33.QLSホールディングス<7075>によるふれあいタウンの買収(2023年8月18日発表/2023年8月31日取得)
  3. 3.石川県におけるM&Aの特徴と今後の展望
    1. 3-1.事業承継と地域活性化
    2. 3-2.大手小売・サービス企業の北陸進出
    3. 3-3.製造業のサプライチェーン内製化と高付加価値化
    4. 3-4.不採算事業やノンコア事業の譲渡による経営資源の集中
  4. 4.まとめ―石川県のM&Aが示す地域経済の未来

1.石川県におけるM&Aの背景

1-1.産業構造と地域特性

石川県は、金沢市を中心とした伝統工芸や観光業が広く知られています。一方で、製造業やIT関連産業の集積もあり、新旧が交錯する産業構造が特徴です。金沢市近郊や能美市、小松市、白山市などには自動車部品や電子部品の工場が点在し、かほく市や中能登町といった地域には繊維産業の拠点があります。北陸新幹線の開通以来、観光需要も高まり、サービス業や流通業も拡大傾向にあります。

しかしながら、北陸という地域特性から、地元市場だけで事業を拡大し続けることは容易ではありません。また、少子高齢化による人手不足や後継者問題も深刻化しています。こうした背景の中、M&Aは企業の成長を図るだけでなく、事業承継の手段としても注目されるようになりました。

1-2.中小企業における事業承継課題

石川県を含めた地方では、事業承継に直面する中小企業が増加しています。創業者や代表者の高齢化、後継者不在、さらには市場規模の縮小もあいまって、優良な技術や人材、ブランドを守りながら次世代に事業を引き継ぐことが困難となるケースが多く見受けられます。その中で、第三者への事業譲渡という形をとるM&Aは、有力な選択肢の一つとされています。特に県外や海外の企業から見れば、石川県内企業が有する独自の技術や販路は大きな価値を持ち、新たな地域展開や商品開発の基盤として魅力的です。


2.事例から見る石川県のM&A動向

本章では、実際に石川県に関係する企業同士、あるいは他地域の企業による買収・子会社化の事例を詳細に取り上げます。各事例からは、「事業承継」「事業領域の拡大」「地域経済への影響」「シナジー効果」といったさまざまな視点が浮き彫りになります。


2-1.日本アジア投資<8518>関連のM&A

2-1-1.林鍛造所の売却(2011年12月発表/2012年5月20日譲渡)

日本アジア投資は、子会社である日本プライベートエクイティ(JPE)のファンドを通じて石川県かほく市の林鍛造所を保有していましたが、代表の林浩氏らが設立した持株会社ハヤシ・ホールディングスに譲渡しました。林鍛造所は長年蓄積してきた鍛造技術や品質管理ノウハウを強みとし、日本アジア投資は事業承継投資として支援を行ってきました。経営の安定基盤が整った段階で譲渡したことで、林鍛造所はさらなる自立経営を目指しました。これにより、地域の伝統技術と雇用が継続され、石川県内の製造業の活性化にも貢献したと考えられます。

2-1-2.森長電子の株式を譲渡(2012年2月8日)

同じく日本アジア投資の子会社であるJPEが、森長電子(金沢市)の株式をアンカー・アース工法で知られる日本地工(埼玉県川口市)に譲渡したケースも注目を集めました。森長電子は耐雷システムや電子応用システムを官公庁、地方自治体、公共企業法人、民間向けに提供する企業です。譲渡先の日本地工は土木関連を中心に事業領域を広げており、森長電子の技術や顧客基盤と自社のインフラ構築技術を組み合わせることで、公共事業や新規分野でのシナジーを期待しました。この譲渡は、地域に根差した企業が持つ技術力が大手の拡大戦略に合致し、M&Aを通じてより広い範囲で展開していく好例とも言えます。


2-2.クスリのアオキホールディングス<3549>の積極的なM&A戦略

石川県白山市に本社を構えるクスリのアオキホールディングスは、北信越・関東・東海・関西・東北など全国にドラッグストアを広げる企業グループです。同社はドラッグストアビジネスに食品スーパー(生鮮食品を含む)を組み合わせた“メディカル×食品”戦略を積極推進し、多数のM&Aを通じて新たな地域へ進出すると同時に、食品販売の強化を図っています。以下に近年の主要な動きをまとめます。

2-2-1.サン・フラワー・マリヤマの吸収合併(2021年2月4日発表/2021年5月21日合併)

能登地区で食品スーパー2店舗を運営していたサン・フラワー・マリヤマ(輪島市)をクスリのアオキが吸収合併しました。石川県内での地盤をより一層固めると同時に、既存ドラッグストアとの購買層を取り込み、食品販売における競争力を高めています。特に能登地区は人口減少や高齢化が顕著なエリアでもあり、地域住民の利便性向上にも寄与する事例として評価されています。

2-2-2.一二三屋の子会社化(2021年11月4日発表/2022年3月1日取得)

福島県いわき市で地場食品スーパーを展開する一二三屋を子会社化し、即日クスリのアオキが吸収合併する方針を打ち出しました。これにより、東北地方へのネットワークを強化し、ドラッグストア内での生鮮食品販売を充実させる戦略を取りました。いわき市や郡山市といった東北南部の主要都市にも進出することになり、販売網拡大の一歩ともいえます。

2-2-3.木村屋の子会社化(2024年7月4日発表/2024年8月21日取得予定)

千葉県市原市を拠点とし、「スーパーガッツ」というブランド名で4店舗を運営する木村屋を子会社化し、同日付で吸収合併する計画を明らかにしました。首都圏へのさらなる食い込みを図り、既存のドラッグストア事業との相乗効果を狙います。生鮮食品の取り扱いノウハウを取得するだけでなく、関東エリアにおける店舗網拡大に拍車をかける狙いです。

2-2-4.中尾(能美市)から大浜町店の取得(2023年9月7日発表/2023年11月1日取得予定)

石川県内におけるさらなる食品スーパー店舗の確保として、中尾が運営する大浜町店を取得することを決定しました。近年、ドラッグストアにおける生鮮食品の取り扱いはもはや差別化の重要要素となっており、クスリのアオキとしては今後も石川県内外で積極的に食品スーパーとの提携や買収を行う姿勢を示しています。

2-2-5.スーパーヨシムラ・ハッスルの子会社化(2024年12月5日発表/2025年2月28日取得予定)

奈良県・和歌山県で食品スーパーを計6店舗展開するスーパーヨシムラとハッスルの両社を一挙に買収し、同日付で吸収合併する計画を示しました。クスリのアオキグループにとっては和歌山県への初進出となり、近畿エリアでのドラッグストアと食品事業の結びつきをいっそう強化します。ここでも生鮮3品の取り扱いによる店の総合力向上が期待されます。

このように、クスリのアオキホールディングスがドラッグストア運営企業として食品スーパーの経営を取り込み、一体的に運営する取り組みは、石川県を発祥とする企業の全国展開における代表的成功例といえます。M&Aを通じて地理的・業態的な補完関係を築き、地域住民への利便性を高めながら収益性の向上を図るというモデルは、全国のドラッグストアチェーンが注目するところでもあります。


2-3.明光ネットワークジャパン<4668>とMAXISホールディングスの事例(2014年9月1日発表/2014年9月2日取得)

個別指導塾「明光義塾」をフランチャイズ展開するMAXISホールディングスは、石川県をはじめ東京都、埼玉県、山梨県、静岡県、愛知県などで大規模な教室網を誇っていました。明光ネットワークジャパンは直営とフランチャイズを組み合わせて全国2100以上の教室を運営しており、MAXISホールディングスを子会社化することで、直営との連携強化やノウハウの相互共有、そしてチェーン全体の競争力向上を狙いました。石川県内の教育環境においてもブランド力向上や学習指導の質的向上が期待され、地元生徒や保護者にとってもメリットがありました。


2-4.日本エコシステム<9249>のテッククリエイト買収(2023年9月27日付で子会社化)

鉄道線路・施設の保守点検を手がけるテッククリエイト(金沢市)の全株式を取得し、高速道路向け維持修繕業務に加え、鉄道分野へも本格進出しました。テッククリエイトはJR西日本グループとの取引を長年継続し、北陸3県(石川・富山・福井)で線路内の融雪装置や車両基地の機械設備などの修繕や改修を請け負う専門企業です。日本エコシステムにとっては、新たなインフラ事業分野への拡大と、北陸における営業基盤の強化を同時に実現できる買収となりました。鉄道インフラ分野は公共性が高く、安定した収益も見込めるため、事業ポートフォリオの多角化としても評価されるところです。


2-5.前田工繊<7821>によるダイイチ買収(2014年10月3日発表/2014年10月20日取得)

土木資材・産業資材の製造販売で知られる前田工繊は、石川県津幡町に拠点を置く撚糸(ねんし)メーカーのダイイチを子会社化しました。衣料品や産業資材向け撚糸だけでなく、ワイピンググロスなどを一貫生産できる体制を構築し、産業資材事業の強化を狙いました。ダイイチのノウハウと前田工繊の開発力を組み合わせることで、新製品の開発やコスト削減、さらには提案型営業のスピードアップにつなげています。北陸地域は繊維産業の歴史が深く、伝統ある撚糸技術を活かしたM&Aによる事業拡大は、産業資材分野の高度化をも推進する一例です。


2-6.燦キャピタルマネージメント<2134>によるグランドホテル松任の譲渡(2013年2月25日)

燦キャピタルマネージメントは、子会社として経営していたグランドホテル松任(白山市)の全保有株式をIT・金融事業を行うISホールディングスに譲渡しました。グランドホテル松任は売上高4億4400万円、営業利益が赤字という状況下で再建を目指していましたが、燦キャピタルの事業再編方針の一環としてホテル事業を手放し、今後の財務強化を図りました。ホテルや観光関連業は北陸新幹線の開通などで需要が期待される一方、コロナ禍など不測の事態も考慮すると、グループ全体での集中と選択が求められます。この譲渡を通じて、ホテル施設のさらなる再生と地域観光需要の獲得が進むことが期待されました。


2-7.北陸電話工事<1989>の電通自動車整備買収(2015年5月29日発表/2015年6月中旬取得)

北陸電話工事は石川県白山市の電通自動車整備の株式を追加取得し、完全子会社化としました。北陸電話工事グループの車両購入や修理業務を効率化し、車両管理業務の内製化を図ることを目的としています。自社グループの保有車両を外部に委託するよりも、整備会社を傘下に置くことでコストメリットやメンテナンス効率の向上が見込めます。地域の中小整備会社が大手インフラ関連企業のグループに加わることで、安定した受注基盤が確保され、従業員の雇用も安定する利点があります。


2-8.三谷セキサン<7821>によるトスマク・アイの買収(2010年5月27日発表/2010年6月4日取得)

コンクリート二次製品や土木資材を扱う三谷セキサンは、昭栄<3003>の子会社であるトスマク・アイ(石川県白山市)を全株式取得により子会社化しました。トスマク・アイは廃棄物収集運搬や浄化槽管理、土木補修、リサイクル事業などを幅広く展開しており、三谷セキサンにとっては事業領域を拡大できるメリットがありました。石川県における公共インフラ整備や環境事業は安定した需要が見込まれ、三谷セキサン側はコンクリート製品との相乗効果を見据えています。このようなM&Aによる新たな分野への参入は、地方企業にとって将来の収益源を確保する重要な戦略です。


2-9.リックス<7525>によるCEM買収(2022年6月14日発表/同日取得)

各種装置・資材の商社機能を持つリックスは、子会社を通じて産業用機械制御盤や搬送機械を設計・製作するCEM(石川県白山市)を取得し、子会社化しました。リックスは以前から電装部分を主に外注してきましたが、CEMの買収により内製化を促進し、生産コストの削減や品質管理の強化が期待されます。北陸地域には多くの製造業関連企業が点在するため、制御盤設計や機械製作などの受託ニーズが根強く、地域のものづくり企業との連携を図るうえでも、M&Aは効率的な成長手段と言えます。


2-10.リコー<7752>によるPFUの買収(2022年4月28日発表)

OA機器大手のリコーは、富士通<6702>の子会社でスキャナーで世界トップクラスのシェアを誇るPFU(石川県かほく市)の株式80%を取得し子会社化しました。当初は842億円で2022年7月1日に取得予定とされていましたが、のちに予定日が9月1日に変更され、最終的に株式取得価額は905億8400万円に修正されました。PFUは文書の電子化に強みを持ち、リコーはアナログからデジタルへの移行を加速させる戦略の一環としてPFUの技術力を取り込みました。これにより、石川県を拠点とするPFUはグローバル規模のリコーグループのサポートを受け、さらなる事業拡大の可能性が期待されます。県内にとっても雇用維持や技術力の継承が図られ、企業ブランド価値の高まりが見込まれます。


2-11.極楽湯ホールディングス<2340>によるエオネックス・利水社買収(2020年3月10日発表/2020年4月1日取得)

温浴施設「極楽湯」「RAKU SPA」を全国に展開する極楽湯ホールディングスは、日本アジアグループ<3751>傘下で温泉掘削や地質調査を行うエオネックス(金沢市)と利水社(金沢市)を子会社化しました。これにより、温浴施設に不可欠な設備工事やメンテナンスを内製化できるほか、北陸をはじめ全国規模での温泉事業や地下資源調査にも取り組みやすくなります。石川県は温泉地としての資源も豊富で、観光振興に大きく寄与する産業でもあるため、温泉技術を有する地元企業の買収は、設備保守のコスト削減だけでなく、新たな温浴施設開発の起点にもなり得ます。


2-12.原弘産<8894>による石川再資源化研究所の譲渡(2012年2月15日発表/2012年2月16日譲渡)

不動産業を主力とする原弘産は、リサイクル事業に進出していた子会社の石川再資源化研究所(鳳珠郡)の株式をほぼ全て譲渡し、環境事業から撤退しました。売上高が950万円と規模が小さく、連続赤字や財務状況の問題もあり、不動産分譲事業や賃貸管理事業に集中する経営方針を打ち出したものです。地方の中小企業が複数事業を抱える場合、経営効率を改善するためにコア事業以外を手放す例は珍しくありません。譲渡によって石川再資源化研究所は別の個人経営の下で事業継続が可能となり、地域の雇用やリサイクル技術の維持にもつながります。


2-13.小松精練<3580>によるパッゾ買収(2012年7月30日発表/2012年8月13日取得)

合成繊維などの製造販売で知られる小松精練(石川県能美市)は、紳士服の製造販売を営むパッゾ(東京都渋谷区)を子会社化することを決定しました。石川県を代表する繊維メーカーがアパレル分野へ進出し、製品事業の多様化を図る戦略です。繊維産業は川上から川下まで幅広い工程が存在しますが、上流工程だけでは付加価値が限られるため、最終製品分野に乗り出すことで新たな収益源を得る狙いがあります。また、小松精練が培った高機能繊維技術をパッゾの製品開発に生かすことで、高付加価値アパレルの市場拡大にも期待が寄せられました。


2-14.加賀電子<8154>によるKGFの譲渡(2010年3月25日発表/2010年3月31日譲渡)

電子部品商社として大手の加賀電子は、飲食店運営子会社のKGFを同業のアルバ(石川県小松市)へ譲渡しました。KGFはカレー専門店「カレーの市民アルバ」やフレッシュジューススタンドを運営していた企業で、アルバはその本家筋にあたります。ブランド力を持つ「アルバカレー」は石川県の名物としても知られますが、加賀電子グループとして飲食事業のシナジーが限定的であったため、ブランドの発祥地であるアルバに事業を集約する形となりました。これにより、地域の飲食文化も維持され、経営資源の最適化が図られたケースと言えます。


2-15.岡村製作所<7994>による富士精工本社の子会社化(2008年3月27日発表/同日実施)

オフィス家具大手の岡村製作所は、金庫室の扉などを製造する富士精工本社(石川県能美市)の株式を追加取得し子会社化しました。同社と総販売代理店契約を締結していた経緯があり、金庫関連事業のさらなる強化を目的としています。富士精工本社の技術力は高く評価されており、M&Aを通じて商品開発の加速や生産工程の効率化を期待しています。石川県の製造業の強みとして、金属加工やセキュリティ装置といったニッチな技術が挙げられますが、こうした技術を大手企業が取り込むことで全国的あるいはグローバルな展開につながり、結果として地域経済の発展にも貢献する動きとなります。


2-16.丸井織物による倉庫精練<3578>へのTOB(2022年8月8日発表)

丸井織物(石川県中能登町)は、すでに株式の過半数を保有する倉庫精練に対してTOB(株式公開買付け)を実施し、完全子会社化を目指しました。繊維の一貫生産体制を構築することで、納期短縮やコスト削減を実現し、競争力向上と取引拡大を図る狙いです。倉庫精練の東証スタンダード上場はTOB成立後に廃止となる見込みですが、それによって短期的な株主利益への配慮から解放され、長期的な視点で製造プロセスや研究開発に投資しやすくなります。石川県での繊維関連企業の再編として注目を集め、地域の中核産業のひとつである繊維事業の強靱化にもつながる動きです。


2-17.ラックランド<9612>による木戸設備工業の子会社化(2016年10月3日発表/同日取得)

商業施設や飲食店などの施工を手がけるラックランドは、給排水設備工事を行う木戸設備工業(白山市)を子会社化しました。北陸新幹線開通に伴う地域活性化が進むなか、石川県を拠点とする建設・設備工事企業を取り込むことで、地場の案件受注を強化しようという狙いがあります。設備工事の専門ノウハウがグループに加わることで、ワンストップサービスの提供が可能になり、施工品質や顧客満足度の向上にも寄与すると考えられます。


2-18.マツモトキヨシホールディングス<3088>による示野薬局の子会社化(2013年11月14日発表/2013年12月16日取得)

ドラッグストア大手のマツモトキヨシHDは、ファルコSDホールディングスから石川県金沢市に本社を置く示野薬局を買収しました。示野薬局は石川、富山、岐阜など北陸エリアを中心に63店舗を運営し、売上高173億円を上げる地場有力チェーンでした。マツモトキヨシは北陸エリアでの店舗網を一気に拡大し、クスリのアオキといった地元企業との競合を強化する形となります。地域的に大手同士の競争が活発化することで、消費者にとっては品揃えやサービス向上が期待される反面、地場中小薬局にとっては厳しい競争環境が生まれるという側面もあります。


2-19.バローホールディングス<9956>による鷺富運送の子会社化(2024年4月2日発表/同日取得)

中部地方を地盤とする総合流通グループのバローホールディングスは、完全子会社の中部興産を通じて、鷺富運送(石川県白山市)を買収しました。鷺富運送はドライ、冷凍、冷蔵の3温度帯別輸配送に対応する物流会社で、北陸3県を中心に19億9000万円の売上高を有する中堅企業です。バローはスーパーやホームセンター、ドラッグストアなど幅広いリテール事業を展開しており、高効率な物流網を構築するための戦略として石川県の専門運送会社を傘下に収めました。今後、倉庫運営ノウハウや配送拠点の共同活用などでコスト削減やサービス向上が見込まれます。


2-20.はるやま商事<7416>によるモリワン買収(2008年7月31日発表/2008年8月1日取得)

紳士服業大手のはるやま商事は、北陸地方で5店舗を展開するモリワン(石川県野々市町)の全株式を取得し、子会社化しました。モリワンは旧社名からの事業承継会社であり、年間売上高は17億円規模。はるやま商事は西日本を中心に全国展開している大手チェーンであるため、北陸地方の出店余地を広げると同時に、モリワンの地域密着型経営を活かし、地元顧客の需要を取り込む狙いがありました。アパレル業界は店舗戦略が経営の鍵を握るため、M&Aによる地域展開は有効な手段となっています。


2-21.コマニー<7945>のMBOによる非公開化(2022年5月10日発表)

間仕切り専業大手のコマニー(小松市)は、創業家の資産管理会社であるコマツコーサンがTOBを実施し、株式を非公開化するMBO(マネジメント・バイアウト)を発表しました。オフィス家具や建材メーカーなどの異業種企業が参入してくるなか、短期的な株価や業績に左右されない長期視点で事業構造改革を進めるため、上場廃止を選択したものです。買付価格にはプレミアムが設定され、少数株主にも一定の利益をもたらす形となりました。石川県発祥のトップシェア企業がMBOを行い、さらなる技術革新や海外展開を加速させようとしている点は、地域にとっても大きな意味を持ちます。


2-22.コーユーレンティア<7081>によるOST買収(2024年10月15日発表/2024年10月16日取得予定)

ICT機器のレンタル・販売を手がけるOST(金沢市)の株式51.1%を取得し、北陸地区の顧客基盤と事業基盤を獲得する狙いです。コーユーレンティアは企業向けレンタルサービスを全国的に展開しており、石川県や富山県、福井県での営業強化を見据えています。OSTは2006年設立と比較的若い企業ですが、地域に根付いたICT事業のノウハウを持ち、今後はコーユーレンティアの広域ネットワークと組み合わせることでさらに成長が期待されます。


2-23.クレスコ<4674>によるソラン北陸の買収(2012年3月23日発表/2012年4月1日取得)

ITサービスを提供するクレスコは、アウトソーシング大手のTIS<3626>が保有していたソラン北陸を取得して子会社化しました。ソラン北陸は金沢市を拠点にシステム開発やITコンサルティング、情報セキュリティサービスなどを展開しており、北陸地域の企業に密着したビジネススタイルが特色です。クレスコとしては、地方拠点の確保とサービスメニューの拡充が課題であり、今回の買収を通じて地域に密着したソリューションビジネスを強化しました。IT・ソフトウェア産業はインターネット環境があれば地理的制約が比較的少なく、優秀なエンジニアや技術を地域に残すという意味でも、M&Aが重要な手段となります。


2-24.ケーズホールディングス<8282>による吉田商事の子会社化(2008年10月20日発表/2008年11月28日実施)

大手家電量販店チェーンのケーズデンキを統括するケーズホールディングスは、石川県野々市町で家電4店舗を運営する吉田商事を株式交換により完全子会社化しました。その後、北越ケーズが吸収合併し、北陸エリアの店舗網強化を進めました。地方の家電量販店は大手チェーンとの競争が激化し、生き残りを図るには資本力や仕入れ力が勝負を分ける局面も多いです。M&Aによってブランドや仕入れルートを一本化し、価格競争力を高めることで地域顧客の支持を確保する施策が一般的になっています。


2-25.タケダ機械<6150>によるタケダ精機の子会社化(2009年5月18日発表/2009年5月20日実施)

金属加工機械を製造するタケダ機械(石川県白山市)は、同じく石川県能美市に拠点を置くタケダ精機を買収しました。タケダ精機はタケダ機械からの製缶・板金、装置組立などを下請けで請け負っており、タケダ機械にとって欠かせない協力企業でした。M&Aによってタケダ精機を連結子会社化することで、生産管理や品質保証の統合が進み、受注増に伴う生産キャパシティの安定も期待されます。このように、川上から川下まで一貫した生産体制を構築し、外部に委託していた業務をグループ内で完結させるパターンは、製造業がよく採用する戦略の一つです。


2-26.タケエイ<2151>による北陸環境サービスの買収(2009年3月5日発表/2009年3月6日取得)

廃棄物処理業を主力とするタケエイは、日宝工業の完全子会社である北陸環境サービス(金沢市)を取得しました。管理型最終処分場を有し、多様な廃棄物処分に対応できる北陸環境サービスの設備は、タケエイが首都圏以外での事業拡大を図る上で魅力的でした。産業廃棄物処理業は環境規制が厳しい一方で、安定的な需要が見込まれる業態でもあります。地方の最終処分場は希少性が高く、M&Aでの設備獲得は事業ポートフォリオの強化に直結します。


2-27.サークルKサンクス<3337>によるサンクス・ホクリアの子会社化(2010年2月26日発表/2010年3月1日取得)

コンビニエンスストア大手のサークルKサンクス(現ファミリーマートの一部)は、石川県と福井県で「サンクス」を展開するフランチャイジーのサンクス・ホクリア(白山市)の株式81%を追加取得し完全子会社化しました。北陸地域の競合激化に対応し、本部からの人的・資金的支援を拡充することで店舗数拡大やリニューアルを促進する狙いがあります。コンビニ市場は、地場チェーンが全国大手と提携あるいはM&Aされる形が多く、石川県内でも複数の店舗が全国チェーンに統合されてきました。


2-28.エンバイオ・ホールディングス<6092>による太陽光パーク2の買収(2016年10月21日発表/2016年10月24日と2017年1月24日に分割取得)

土壌汚染対策や再生可能エネルギー事業を手がけるエンバイオ・ホールディングスは、スペインのSOLARIG N-GAGE, S.A.から太陽光パーク2(東京都港区)を買収しました。石川県志賀町で売電の権利を保有する太陽光発電所の事業を取得することで、再生可能エネルギー分野へ参入を強化する狙いです。北陸地方は日照時間の面では他地域に比べ見劣りする部分もあるものの、固定価格買取制度(FIT)に支えられた太陽光投資は一定の魅力を保持していました。地域としてもクリーンエネルギー推進の観点から歓迎されるケースが多く、自治体や地元企業が協力して用地を確保する事例がしばしば見られます。


2-29.グラフィコ<4930>による医薬品事業の譲渡(2022年11月22日発表/2023年2月1日譲渡)

美容や健康関連商品の企画・製造・販売を手掛けるグラフィコは、不織布マスク製造などを行うミンラック(石川県志賀町)に対して、医薬品事業を譲渡しました。グラフィコは過去に合併を通じて一般用医薬品分野に参入していましたが、採算改善が難しく、コア事業である健康食品や化粧品、日用雑貨品に集中するため、医薬品事業を手放す判断をしました。石川県の企業が国内他地域の企業から事業を譲り受ける形ともいえ、ミンラックとしては医薬品という新たな商材を獲得して事業領域を広げるチャンスとなります。


2-30.ウイルコホールディングス<7831>によるウィズコーポレーションの譲渡(2019年11月12日発表/2019年12月2日譲渡)

印刷やWeb関連サービスを展開するウイルコHDは、子会社のウィズコーポレーション(石川県白山市)をウィズホールディングス(横浜市)に譲渡しました。ウィズコーポレーションは音の出る絵本のOEM生産を主力とする企業で、年間売上高30億円規模まで成長していましたが、グループ戦略の見直しの中で譲渡が決定されました。石川県の独自技術やクリエイティブ産業を担う企業が、より専門性を重視する買い手の下で新たな成長戦略を模索するという意味合いがあります。


2-31.アコーディア・ゴルフ<2131>によるゴルフ場事業の売却(2012年10月1日発表/同日譲渡)

ゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフは、「北陸グリーンヒルゴルフ」(かほく市)を経営する北陸グリーンヒルゴルフと「福島カントリークラブ」(福島市)を運営する福島カントリークラブを、アイランドゴルフに譲渡しました。石川県内のゴルフ場事業は、観光需要や企業向け接待ゴルフなど一定の需要があるものの、リゾート人口の減少傾向を背景に厳しい経営環境に直面しています。大手が収益性の低いゴルフ場を売却し、事業ポートフォリオを最適化する動きの一環と見ることができます。


2-32.アドベンチャー<6030>によるwundou売却(2020年8月5日発表/2020年8月31日譲渡)

航空券予約サイト「skyticket」を運営するアドベンチャーは、スポーツ用品衣料の製造子会社wundouを丸井織物(石川県中能登町)に譲渡しました。新型コロナウイルスの拡大により旅行事業が大きく影響を受ける中、非中核事業の整理を進める一方、丸井織物としてはスポーツアパレル事業への参入強化を目指す狙いがあります。石川県に本拠を置く繊維関連企業は機能性素材や高品質の製造技術に強みがあり、スポーツウェア市場においてもさらなる成長が期待できます。


2-33.QLSホールディングス<7075>によるふれあいタウンの買収(2023年8月18日発表/2023年8月31日取得)

保育事業を中心に展開するQLSホールディングスは、石川県金沢市でデイサービスや訪問介護を手がけるふれあいタウンを子会社化しました。QLSは介護福祉や人材派遣事業への多角化を表明しており、高齢化率の高い石川県で既存の介護サービスを取り込む形です。保育事業と介護事業の両立により、幅広い年齢層を対象とする総合福祉サービスの実現が期待されます。県内での介護需要は今後も拡大傾向にあり、地元企業のノウハウを得ることは新規参入リスクを軽減する意味でも有効です。


3.石川県におけるM&Aの特徴と今後の展望

3-1.事業承継と地域活性化

石川県のM&A事例を俯瞰すると、ファンドによる事業承継支援や大手企業の子会社化による後継者不在問題の解消が大きなテーマとして挙げられます。林鍛造所や森長電子の例から見ても、地元の老舗企業や優れた技術を持つ中小企業がファンドや大企業の傘下に入ることで、技術や雇用が維持され、さらには成長の機会を得ています。また、伝統産業だけでなくIT、医療、介護、観光、環境事業など多岐にわたる業種でM&Aが行われており、地域の産業構造をより多角的に育てる効果も期待できます。

3-2.大手小売・サービス企業の北陸進出

ドラッグストア業界を中心に、石川県から全国に展開するクスリのアオキや、県外企業による北陸エリアへの進出(マツモトキヨシと示野薬局の例など)が活発化しています。人口が決して多くはないエリアでも、購買力を狙った大手企業がM&Aを通じてネットワークを築く動きが目立ちます。その結果、消費者にとっては商品ラインナップやサービス面でメリットがある半面、地場中小の小売事業者にとっては競合が激化する側面もあり、地域内での企業再編がさらに加速する可能性があります。

3-3.製造業のサプライチェーン内製化と高付加価値化

タケダ機械とタケダ精機の関係やリックスとCEMの事例は、地場製造業が下請け企業を吸収して内製化を図り、生産プロセス全体の効率化や品質向上を目指す流れを示しています。北陸地方はものづくり企業が集積し、それぞれが高い技術力を持つケースが多いため、その企業連携の中でM&Aが行われることにより、付加価値の高い製品開発やサービス提供を実現しやすくなるといえるでしょう。

3-4.不採算事業やノンコア事業の譲渡による経営資源の集中

石川再資源化研究所の譲渡やウィズコーポレーションの譲渡などからは、グループ企業の事業整理が垣間見えます。地方企業は一つの事業に過度に依存するリスクを分散するため複数事業を展開してきた背景がありますが、市場環境の変化や本業以外の分野にノウハウが蓄積しにくい状況が続くと、グループ再編による経営資源集中が迫られる場合もあります。一方、買収側にとっては新規事業の拡大や既存事業とのシナジー創出が見込め、M&Aが双方にとってメリットとなる可能性があります。


4.まとめ―石川県のM&Aが示す地域経済の未来

以上、石川県を中心とする多種多様なM&Aの事例を振り返りました。石川県は伝統産業のイメージが強い一方、ITや医療・介護、観光、食品卸・小売など多彩な業種が集まる地域です。企業規模は中小から大手まで幅広く、事業承継ニーズや地域外からの進出ニーズが交錯して、M&Aマーケットが活性化しています。

第一に、 事業承継の手段としてM&Aがますます重要性を帯びている現状があります。地方では少子高齢化が進み、後継者難に陥る企業が増える中、外部資本の導入によって企業が存続・発展する道が開かれています。これは地域の雇用や技術力を維持する上で極めて重要です。

第二に、 新たな市場参入や地域展開を目指す企業にとって、地方拠点の強化は大きな経営テーマとなっています。石川県のような観光資源や伝統技術が豊富な土地には、まだ全国的・グローバル的には活かしきれていない潜在力があります。大手企業がM&Aを通じて、その潜在力を掘り起こし、高い付加価値を生み出す動きが今後も拡大するでしょう。

第三に、 M&A後の統合やシナジー創出がスムーズに進むかどうかが、成功の鍵を握ります。地域固有の企業文化や人材、商習慣を理解し尊重することが欠かせません。大手が地方企業を傘下に収めた場合でも、現地スタッフのモチベーションやノウハウを活かす施策がなければ、買収の意図した成果を得ることは難しくなります。

最後に、 コロナ禍や世界的な経済変動、人口減少など先行き不透明な要因が多い中でも、石川県を含む地方は独自の強みと課題を抱えています。M&Aは単に企業同士を結びつけるだけでなく、地域経済の活性化や持続可能性の確保につながる可能性を秘めており、その動向から目が離せません。石川県は、北陸新幹線開通以降の観光業の伸びや製造業の高度化、新産業の育成など多方面での動きが活発化しており、今後も国内外からの出資や買収が続くと考えられます。

本稿で取り上げたM&A事例は一部に過ぎませんが、石川県における多岐にわたる業種、目的、買収・譲渡の形態から、多様性に富むM&A環境が垣間見えます。事業承継や事業再編の手段として活用されるM&Aは、これからも地域の産業を守り、そして育てる重要なツールとなり続けるでしょう。石川県にお住まいの方々、あるいは石川県への進出や投資を検討している企業にとって、これらの事例は具体的なヒントや展望を示すものであり、地域の未来を切り拓く手段としてのM&Aの意義を改めて認識するきっかけになると考えます。

今後は、さらにAIやIoTを駆使した産業高度化や、新たな観光需要・ヘルスケア需要への対応など、多彩なテーマのもとでM&Aが活用される可能性が高まっていくでしょう。石川県で営まれる企業やこれから参入を目指す企業にとって、地域特有の文化・技術・人材を最大限活かしながら事業を拡大させるうえで、戦略的M&Aが不可欠な選択肢となっています。そして、その動向は地域社会全体の持続的発展と密接に結びついているのです。