- 1. はじめに:広島県とM&Aの関わり
- 2. 広島県経済の概観とM&Aの背景
- 3. 事例で見る広島県のM&A動向
- 3-1. タクシー業界
- 3-2. 製造業界・製造派遣業界
- 3-3. 金融業界
- 3-4. 卸売・小売業界
- 3-5. 医療・医薬品業界
- 3-6. 交通インフラ・バス事業
- 3-7. 建築・土木・建材業界
- 3-8. 海運業界
- 3-9. 建設コンサル業界
- 3-10. 流通・小売(スーパーマーケット)のM&A
- 3-11. その他の業界
- (1) リョービと三菱重工印刷紙工機械のオフセット印刷事業統合(2014年1月1日)
- (2) リョービによる京セライダストリアルツールズ(KIT)との中国法人分割(2024年8月1日)
- (3) リョービによるパワーツール事業の京セラへの譲渡(2018年1月5日)
- (4) ブイ・テクノロジーによるオー・エイチ・ティーの子会社化(2016年4月1日)
- (5) ファーマフーズと広島バイオメディカルの経営統合(2013年9月30日)
- (6) タカミヤによる日建リースの子会社化(2025年2月下旬予定)
- (7) ツルハホールディングスによるハーティウォンツの子会社化(2013年12月20日取得予定)
- (8) はるやま商事によるインターネットカフェ事業の映クラへの譲渡(2008年7月頃予定)
- (9) トヨタ紡織による聖和座套(蚌埠)の譲渡(2024年予定)
- (10) スターゼンによるキング食品の子会社化(2010年7月12日取得予定)
- (11) ココカラファインによる岩崎宏健堂・アイ・システムの子会社化(2013年11月1日取得予定)
- (12) ダイサンによるシステムイン国際の子会社化・山陽セイフティーサービスからの事業取得
- (13) セーラー広告によるゴングの子会社化(2009年4月7日取得予定)
- (14) コーコス信岡によるMBOでの非公開化(2014年)
- (15) グローム・ホールディングスによる福山医療器の子会社化(2023年9月29日取得予定)
- (16) ツルハホールディングスによる共栄ファーマシーの一部店舗取得(2015年3月1日)
- (17) クリヤマホールディングスによるサンエーの子会社化(2015年8月31日)
- (18) ウエルシアホールディングスによるププレひまわりの子会社化(2021年12月1日予定)
- (19) グンゼによるジーンズ・カジュアル ダンと伊達デパートの子会社化(2016年4月15日)
- (20) ウエルシアHDによるジュンテンドーの「サンデーズ」事業取得(2019年2月28日)
- (21) アシードホールディングスによる宝積飲料の株式交換(2011年4月1日)
- (22) シキボウによるマーメイドスポーツのバンリューゴルフへの譲渡(2022年12月15日)
- (23) アジアゲートHDによるA.Cインターナショナルの譲渡(2021年3月17日完了)
- (24) アインホールディングスによるファーマシィホールディングスの子会社化(2022年5月23日予定)
- (25) ジェネレーションパスによるアクトインテリアなどの取得と譲渡(2017年・2018年)
- (26) エディオンによるサンフレッチェ広島の子会社化(2023年9月10日予定)
- (27) フジオフードグループによる丼専門店「ザ・どん」運営子会社の譲渡(2023年6月28日)
- (28) フジによるスーパーふじおかの会社分割を通じた子会社化(2012年)
- (29) フジによるニチエーの会社分割による新会社子会社化(2020年7月1日取得予定)
- (30) インターネットインフィニティーによる正光技建の子会社化(2022年10月1日取得予定)
- (31) イズミによるユアーズの子会社化(2015年10月13日取得予定)
- (32) オージックグループによるオイダ製作所の子会社化(2023年2月7日)
- (33) フォーバルテレコムによるトライ・エックス広島事業部の譲渡(2021年4月1日)
- (34) フォーバルテレコムによるタクトシステムの取得(2008年4月8日)
- (35) アイナボホールディングスによるマニックスの子会社化(2021年10月1日取得予定)
- (36) Abalanceによるサンシャインティーズの子会社化(2023年10月20日)
- (37) JBイレブンによる「アーシーマーシー」6店舗の取得(2010年3月1日・3月31日)
- (38) イズミによる西友九州店舗事業の取得(2024年8月1日)
- 4. 広島県におけるM&Aの特徴と課題
- 5. 今後の展望:広島県M&Aの将来性と地域経済へのインパクト
- 6. まとめ
1. はじめに:広島県とM&Aの関わり
広島県は、自動車関連産業や造船業、食品加工業など多彩な産業を育んできた都市として知られております。中でも県内に本社や工場を持つ地場企業は、小売業や建設業、製造業をはじめとする多彩な分野で地域に根付いたビジネスを展開しています。しかし、近年の少子高齢化や人手不足、グローバル競争の激化などを背景として、地域企業の体力低下や事業承継問題が深刻化し、経営体制の再構築が求められる場面が増えてきました。
こうした状況を打開する選択肢としてM&Aが注目を集めています。M&Aには、後継者不在問題を解決する「事業承継型」の買収や、同業他社とのシェア拡大・技術力強化を狙った「経営戦略型」の合併・買収、さらには異業種参入を狙う「多角化型」など、さまざまな形態と目的があります。広島県においても、企業の大小問わずM&A事例が多様に存在しており、地域経済の活性化に一定の役割を果たしていると考えられます。
本稿では、提供いただいた具体的なM&A事例を通じて、広島県が抱える課題やそこから生まれるM&Aの意義、また個々の企業の戦略や背景を読み解きながら、広島県のM&A像を探ってまいります。
2. 広島県経済の概観とM&Aの背景
2-1. 地域企業の課題とM&Aの必要性
広島県には、自動車産業と関連部品製造企業が集積しているほか、鉄鋼・造船・建設関連企業も数多くあります。一方で県の中央〜北部にかけては農業や林業を中心とした産業が展開され、飲食料品製造や観光関連の小売業なども見られます。こうした多彩な産業構造は、県全体の雇用や地域経済を支えてきました。
しかし、国内市場の少子高齢化による需要縮小や、グローバル化による競争激化の波は、広島県の企業も例外なく直面しており、企業体質や財務基盤の強化は喫緊の課題となっています。さらに、経営者の高齢化や後継者難によって廃業を余儀なくされるケースも増加傾向にあります。こうした中で、県外や海外からの資本を呼び込み、技術や人材を取り込むM&Aが盛んに行われているのです。
2-2. 広島県の産業構造と事業承継問題
広島県は、県庁所在地である広島市だけでなく、福山市や呉市、東広島市といった工業都市が点在しており、各都市で特色ある産業が発展してきました。特に福山市は製鉄や造船、繊維関連の町として成長してきた経緯がありますが、近年は生産拠点の海外移転などの影響もあり、競争環境が大きく変化しています。
そうした状況下での企業経営には、事業再編のためのM&Aや、後継者難による事業承継型M&Aが不可欠になる場合があります。以下に挙げる事例を通して、広島県内企業のM&Aがどのように行われているかを具体的に見てまいります。
3. 事例で見る広島県のM&A動向
ここでは、提供いただいた事例を中心に、業界別に整理しながらM&Aの特徴や背景を紐解きます。M&Aが広島県内企業のどのような課題を解決し、どのような相乗効果を生み出しているかを概観することで、地域経済の動向を浮き彫りにしていきます。
3-1. タクシー業界
(1) 第一交通産業による広島合同タクシーの子会社化(2019年2月4日取得)
第一交通産業<9035>は、2019年2月4日付でタクシー会社・広島合同タクシー(広島市)の全株式を取得し、子会社化しました。タクシー事業は地域住民の日常の足となる公共交通機関の一部を担うため、地域密着型の企業活動が重要です。一方で、地元企業の経営体力不足が顕在化し、運転手不足や車両維持コストなどの課題があったと推測されます。この子会社化に伴い、第一交通産業グループの広島県内タクシー保有台数は増加し、拠点拡大と安定したサービス提供が可能となりました。取得価額は非公表ですが、広島県内でのグループ強化を狙ったM&Aとして意義のある事例です。
(2) 第一交通産業によるはとタクシーの子会社化(2019年7月19日取得)
同年7月には、タクシー車両42台を保有する「はとタクシー」(広島市)も子会社化しました。広島県内のタクシー保有台数はこれによって297台へ拡大しています。はとタクシーは1964年設立と歴史のある企業で、従業員56名の規模感でした。地域交通の担い手としての知名度やブランド力がある地元企業を取り込むことで、第一交通産業は県内での市場シェアを確保しつつ、県外資本として広島地域に根ざしたサービス展開を強化しました。
3-2. 製造業界・製造派遣業界
(1) 日総工産によるベクトル伸和の子会社化(2021年8月31日取得予定)
製造派遣や製造請負の最大手クラスである日総工産<6569>は、製造請負を主力とするベクトル伸和(愛知県知立市)の全株式を取得し子会社化すると発表しました。ベクトル伸和は広島県にも拠点を持ち、半導体や精密機器などの製造業の請負業務を広範に手掛けています。こうした広島県の製造業基盤を支える人材派遣・請負企業を取り込むことで、日総工産としては地域の人材確保や事業領域の拡大を図れるメリットがあり、県内の製造企業にとっては雇用維持や人材サービスの安定供給が期待できるでしょう。
(2) 日創プロニティによる綾目精機の子会社化(2017年4月7日取得予定)
金属精密切削加工業の綾目精機(広島県府中市)は、2017年4月に日創プロニティ<3440>へ子会社化されました。綾目精機は印刷機械部品や工作機械部品など多様な精密切削加工を担い、地元製造業のサプライチェーンにおいて重要な役割を果たす企業です。日創プロニティは綾目精機との協力により、幅広い市場への事業拡大を目指しています。こうしたM&Aは、技術力を持つ地場企業の技術継承とさらなる販路開拓につながり、県内製造業の活性化にも寄与すると考えられます。
(3) 石井表記によるエクセルからの太陽電池ウエハー事業取得(2010年4月1日 会社分割)
石井表記<6336>は太陽電池ウエハー製造のエクセル(広島県福山市)から、太陽電池ウエハー事業を1円で取得する形となりました。エクセルは世界的な太陽電池需要の変動で財務状況が悪化し、事業の存続が困難になっていたとされています。石井表記としては、太陽電池ウエハーの供給を安定させるためにこの事業を取得し、エクセルソーラー(新設会社)を立ち上げた後、商号を石井表記ソーラーに変更しています。事業存続のための支援型M&Aとしての意味合いが強く、県内製造業の技術と雇用を守る一例となりました。
3-3. 金融業界
(1) 藍澤證券による八幡証券の子会社化(2013年5月24日取得)
藍澤證券<8708>は、八幡証券(広島市)を子会社化することで、中国地方や山口県への営業基盤を拡大しました。八幡証券は県内外に複数の店舗を展開しており、地域密着の証券ビジネスを展開していました。藍澤證券にとっては地域密着型の証券会社を取り込むことで、これまで薄かったエリアにおける営業チャネルを強化する狙いがあったと考えられます。金融業界においても、地域特化型企業を大手証券会社が取り込む動きは、商圏や顧客基盤を得るうえで効果的です。
3-4. 卸売・小売業界
(1) 大木による健翔の卸売事業取得(2011年3月1日取得予定)
大木<8120>は、広島県廿日市市の卸売企業・健翔から全卸売事業を取得し、子会社健翔大木を通じて同事業を承継しました。これにより、中国地方での営業基盤を獲得し、全国規模での営業力強化に繋げようとする狙いがうかがえます。地域の卸売企業はローカル顧客網を持つことが多く、大木のような全国的卸売企業にとっては事業拡大の手段として有益なM&Aになったと考えられます。
(2) 米久による太洋興産の畜産関連事業取得(2010年12月1日取得予定)
食肉加工大手の米久<2290>は、畜産物の製造・販売を手がける太洋興産(広島県尾道市)から畜産関連事業を取得し、大洋ポークという100%子会社を設立しました。国産豚肉事業の拡大を狙う米久にとって、地場企業の買収はスケールメリットと地域への供給体制強化の両面から重要な施策となります。広島県内の畜産関連事業を押さえることは、県内の食肉流通にも影響し、消費者へ安定的に製品を提供することにも寄与すると言えます。
(3) 免疫生物研究所によるネオシルクの子会社化(2009年7月1日取得予定)
免疫生物研究所<4570>は、タンパク質受託生産事業のネオシルク(広島県東広島市)の株式を追加取得し、約92.7%の持ち株比率としました。抗体などのタンパク質供給を行う免疫生物研究所と、タンパク質製造技術を研究開発するネオシルクとの連携は、バイオ産業発展の観点からも意義があります。大学発技術や地場企業の研究力などをM&Aで結びつけることで、県内外の医療・研究機関を支援し、新たな事業創出の可能性を広げます。
(4) 翻訳センターによる福山産業翻訳センターの子会社化(2023年12月13日発表、2024年1月12日取得予定)
翻訳センター<2483>は、特許翻訳サービスを主力とする福山産業翻訳センター(広島県福山市)を子会社化すると発表しました。広島県福山市に拠点を置く翻訳会社を取り込むことで、翻訳センターは特許翻訳分野の強化およびシェア拡大を狙っています。県内には製造業を中心に多くの知的財産を抱える企業が存在しており、特許関連や技術資料の翻訳需要は高いと予想されます。地元企業の買収による事業エリア拡大は、双方にとってシナジー(相乗効果)が期待されるパターンといえます。
3-5. 医療・医薬品業界
(1) 山下医科器械によるトムスの子会社化(2017年6月1日取得予定)
医療機器販売・メンテナンスを手がけるトムス(広島県廿日市市)は、山下医科器械<3022>によって全株式を取得されました。透析関連事業に強みを持つトムスの獲得により、山下医科器械は医療サービスの総合支援体制を強化し、多様化する医療ニーズへの対応を目指しています。広島県は大都市と地方都市が混在し、病院やクリニックの分布も広範に及びますが、資本力のある企業の傘下に入ることで、地域医療に対する安定したサービスを提供できると期待されます。
3-6. 交通インフラ・バス事業
(1) 広島電鉄による芸陽バスの子会社化(2012年3月9日取得)
広島電鉄<9033>は、関連会社であった芸陽バス(広島県東広島市)の株式を追加取得し、子会社化しました。もともと広島電鉄は広島市を中心に市内電車やバス事業を手がけてきましたが、芸陽バスの子会社化によって、東広島市や県北部地域へのバス路線を強化し、効率的な運行体制の構築を図っています。公共交通機関同士の再編は、運行ダイヤの統合やサービス向上につながりやすく、地域住民の利便性向上にも結びつく重要なM&Aです。
3-7. 建築・土木・建材業界
(1) 北川鉄工所によるユニットハウス事業譲渡(2008年10月1日譲渡)
北川鉄工所<6317>は、建設現場向けユニットハウス「ユニロック」を中心とするレンタル・販売事業を大木建設(広島県福山市)に譲渡しました。建材・工事分野のグループ再編において、相乗効果が薄いと判断された事業を切り離すケースです。譲渡により経営資源を主力事業へ集中させるという方針は、中堅企業や大手企業が事業ポートフォリオを最適化するうえで一般的な手段となっています。
(2) 北川精機によるキタガワエンジニアリングの株式譲渡(2019年8月30日譲渡予定)
北川精機<6327>は、特定子会社であるキタガワエンジニアリング(広島県府中市)の株式48%を自己株式取得の形で譲渡し、グループから離脱させました。合板プレス機械製造を中心とする建材機械事業は北川精機の祖業であったものの、グループ内でのシナジーが乏しいことから経営資源をCFRP関連など新成長領域に振り向ける決断を下しました。伝統事業の再編は困難を伴いますが、将来の企業価値向上を最優先とする戦略の一例と言えます。
(3) 三光産業による五反田ゴム工業の子会社化(2023年8月10日取得)
三光産業<7922>は、工業用ゴム製品を製造する五反田ゴム工業(広島県北広島町)を取得しました。五反田ゴム工業は自動車や土木・建築分野向けのゴム製品を幅広く扱っています。三光産業はすでに他県で樹脂製品などの製造拠点を持っており、今回の取得によって製造工程全体の効率化やサプライチェーン拡大が期待されます。特に広島県は自動車関連産業が盛んであり、ゴム部品需要が一定水準で存在することもM&Aの後押しになったと思われます。
(4) 塩見ホールディングスによるKワークス・ヤマト建材の譲渡(2008年9月・12月)
塩見ホールディングス<2414>は、建築・土木工事のKワークス(広島県呉市)、および建具工事業のヤマト建材(同じく広島県呉市)をそれぞれ譲渡しました。業績の下振れや建築業界を取り巻く厳しい経営環境を背景に、効率的な組織再編の一環として子会社を外部へ譲渡したケースです。地場経営者がMBO(経営陣による買収)する形や、外部の買手により業務継続を図る形など、地域内での再編により仕事と雇用を維持する動きが伺えます。
3-8. 海運業界
(1) 第一中央汽船による泉汽船の譲渡(2015年3月31日譲渡予定)
第一中央汽船<9132>は、内航海運事業を手がける泉汽船の株式62.10%をリベラ(広島県呉市)に譲渡しました。海運業界の構造改革の一環で、外航海運を主力とする第一中央汽船が内航海運を切り離し、地元資本のリベラがそれを承継する形です。広島県の呉市は海上交通の拠点として歴史があり、海事産業に造詣の深い企業が多く存在します。地元企業へ譲渡することで、運航や整備など地域インフラに密接な事業の継続が期待されました。
3-9. 建設コンサル業界
(1) 建設技術研究所による広建コンサルタンツの子会社化(2024年10月29日発表、11月12日取得予定)
建設技術研究所<9621>は、広島県福山市の広建コンサルタンツを子会社化すると決定しました。地方自治体を主要顧客とする建設コンサルタント会社を取得することで、建設技術研究所は中国地方への足がかりを強化します。広建コンサルタンツは農林土木分野に強みがあり、これまで建設技術研究所が十分にカバーしていなかった分野を補完できる点がポイントです。公共事業の効率化や災害対策などで需要が見込まれるため、今後もこうしたコンサル分野でのM&Aが進む可能性があります。
3-10. 流通・小売(スーパーマーケット)のM&A
(1) 丸和によるユアーズへの第三者割当増資(2009年3月17日)
丸和は、スーパーマーケットのユアーズ(広島県海田町)へ第三者割当増資を行い、ユアーズの持株比率を66.62%まで高めました。これによりユアーズは丸和の親会社となる形です。広島県内で複数店舗を展開するユアーズの経営権を確保することで、仕入れや物流面の効率化が期待され、県内小売市場に大きな影響を及ぼしました。スーパーマーケット業界は薄利多売で規模のメリットが重要となるため、県内企業同士の協力関係強化は有効な戦略と言えます。
(2) ワッツによるリアルの子会社化(2018年4月2日取得予定)
100円ショップを展開するワッツ<2735>は、大阪府と広島県で4店舗を運営する小型ディスカウントショップ「リアル」を子会社化しました。これにより、ワッツはディスカウントショップ事業に参入し、収益源の多様化を図っています。広島県内にも「リアル」店舗があり、既存の100円ショップ事業との相乗効果も期待できます。
(3) メディカルシステムネットワークによる関西薬品の全事業取得(2009年10月1日)
メディカルシステムネットワーク<4350>は、広島県三原市で調剤薬局8店舗とドラッグストア4店舗を運営する関西薬品の全事業を取得しました。広島県への進出と中国地方での店舗展開基盤を獲得する目的が強く、グループ全体として調剤薬局ネットワークを拡大できます。地方への新規出店でイニシャルコストがかかる場合、既存店を一括取得するM&Aは有力な選択肢となり、競合他社との差別化にもつながります。
(4) ポプラによる大黒屋食品の譲渡(2021年10月8日)
ポプラ<7601>は、海産珍味製造卸を行う子会社の大黒屋食品(広島市)を、まるか食品(広島県尾道市)に譲渡しました。ポプラはコンビニエンスストアを主力としますが、近年は特定業態への出店に注力しており、大黒屋食品とのシナジーが薄れてきたことが譲渡の理由とされています。地域内の大手食品メーカーに譲渡することで、大黒屋食品のこれまでの珍味製造技術や従業員の雇用を守ると同時に、ポプラは本業に専念できるというメリットがあります。
(5) ヤマシナによる中国山科サービスの子会社化(2022年3月31日取得予定)
ヤマシナ<5955>は、広島県福山市を拠点とする中国山科サービス(ネジ、プレス品、樹脂成形品の仕入れ販売)の株式を追加取得し、子会社化しました。ヤマシナは同社との長年の取引実績があり、販路拡大や共同調達によるコスト削減などのシナジーを狙ったものと考えられます。
3-11. その他の業界
以下では、多種多様な業界で行われたM&Aをまとめてご紹介します。広島県内企業への出資や譲渡、子会社化は、県内産業を支えるさまざまな企業に波及しています。
(1) リョービと三菱重工印刷紙工機械のオフセット印刷事業統合(2014年1月1日)
リョービ<5851>は印刷機器事業と三菱重工印刷紙工機械のオフセット枚葉印刷機事業を会社分割し、新会社アールエム(後のリョービMHIグラフィックテクノロジー)に集約しました。市場縮小が見込まれる印刷機分野での収益力を高める狙いがあり、競合企業同士の事業統合というM&A手法の一例となります。
(2) リョービによる京セライダストリアルツールズ(KIT)との中国法人分割(2024年8月1日)
リョービは、京セラ子会社のKITと合弁運営していた中国の京瓷利優比(大連)机器有限公司(KITCN)を、建築用品事業とパワーツール事業に分割する再編を発表しました。パワーツール事業を京セラが継承し、建築用品事業をリョービが持つ形に分割することで、双方がそれぞれの強みに集中できる体制が整います。広島県府中市に本社を持つKITとの合弁が一旦解消される形ですが、もともと合意されていた再編方針の実行とされています。
(3) リョービによるパワーツール事業の京セラへの譲渡(2018年1月5日)
リョービは、パワーツール事業を京セラ<6971>へ譲渡しました。国内市場で一定のシェアを維持していた同事業ですが、グローバル展開での競争強化を目指すならば、海外販売網の強い京セラと組む方が有益という判断に至ったとされています。
(4) ブイ・テクノロジーによるオー・エイチ・ティーの子会社化(2016年4月1日)
検査装置メーカーのオー・エイチ・ティー(広島県福山市)をブイ・テクノロジー<7717>が買収しました。フラットパネルディスプレイやプリント基板検査などの特殊技術を持つ企業の買収は、自社製品ラインナップの拡大や、新技術開発でのシナジーが期待できます。
(5) ファーマフーズと広島バイオメディカルの経営統合(2013年9月30日)
ファーマフーズ<2929>は、広島大学のニワトリバイオ関連技術を応用する広島バイオメディカルを吸収合併しました。研究開発スピードの加速と医薬品分野への展開を目指す案件で、大学発ベンチャーとの連携によるイノベーション創出の一例です。
(6) タカミヤによる日建リースの子会社化(2025年2月下旬予定)
仮設機材レンタル大手のタカミヤ<2445>は、広島市に拠点を持つ日建リースを傘下に収めると発表しました。中国地方で確固とした顧客基盤を持つ企業を取り込むことで、地域でのシェア拡大と拠点体制の強化を狙うものと見られます。
(7) ツルハホールディングスによるハーティウォンツの子会社化(2013年12月20日取得予定)
ツルハホールディングス<3391>は、広島市を中心にドラッグストア「ウォンツ」を展開するハーティウォンツの株式56%を取得し、子会社化しました。広島や中国地方に根付くドラッグストア網を活用し、ツルハの仕入れ力や物流網を融合させることで、大手ドラッグストアチェーンとしてのさらなる拡大を実現しています。
(8) はるやま商事によるインターネットカフェ事業の映クラへの譲渡(2008年7月頃予定)
はるやま商事<7416>は、紳士服事業との相乗効果が薄いと判断し、インターネットカフェ事業を映クラ(広島県福山市)に譲渡しました。多角化した事業を整理し、本業特化へと方針転換する企業再編の一例です。
(9) トヨタ紡織による聖和座套(蚌埠)の譲渡(2024年予定)
トヨタ紡織<3116>は、中国における自動車用シートカバー製造子会社・聖和座套(蚌埠)を香港貿易会社に譲渡すると発表しました。赤字体質が続き債務超過に陥っていた子会社を整理し、中国における生産最適化を進める狙いがあります。グローバル企業においても、本社が広島県に立地する関連会社の動向が、地域産業に影響を与える場合があります。
(10) スターゼンによるキング食品の子会社化(2010年7月12日取得予定)
スターゼン<8043>は、食品メーカーのキング食品(広島県福山市)を買収しました。ハム・ソーセージ・加工食品などに強みを持つスターゼングループが地場企業の生産設備や販路を取り込むことで、製品ラインナップ強化や地域での流通網拡大を図っています。
(11) ココカラファインによる岩崎宏健堂・アイ・システムの子会社化(2013年11月1日取得予定)
ココカラファイン<3098>は、岩崎宏健堂(山口県周南市)とアイ・システムの株式を取得し、山口県・広島県でのドラッグストア事業を拡大しました。中国地方での市場シェアアップと競合優位性確保を目的としています。
(12) ダイサンによるシステムイン国際の子会社化・山陽セイフティーサービスからの事業取得
ダイサン<4750>は、土木工事積算システムを開発するシステムイン国際(広島県三原市)を子会社化し、建築足場施工サービス事業を展開する山陽セイフティーサービス(広島県福山市)からはビケ足場事業を取得しました。足場施工体制の強化とソフト面での支援による建設業界向けサービスを拡充する狙いがあります。
(13) セーラー広告によるゴングの子会社化(2009年4月7日取得予定)
セーラー広告<2156>は、福岡県を中心とした広告業ゴングを子会社化し、九州エリアへの進出を図りました。既に中国地方に拠点を持つセーラー広告にとって、ゴングの買収で西日本の営業網が拡大し、地域顧客への多角的サービスが可能となると考えられます。
(14) コーコス信岡によるMBOでの非公開化(2014年)
作業服などを手がけるコーコス信岡<3599>は、創業家によるMBOにより上場廃止を選択しました。広島県福山市を拠点に100年以上の歴史を持つ同社は、為替リスクや競争激化の中で中長期の事業改革を推進するために株式の非公開化を決断。地場企業の老舗ブランドを守るための戦略的MBOの事例です。
(15) グローム・ホールディングスによる福山医療器の子会社化(2023年9月29日取得予定)
グローム・ホールディングス<8938>は、医療機器卸売業の福山医療器(広島県福山市)を子会社化し、医療機関との取引強化を狙います。病院や介護施設などへのサポート体制の充実により、幅広い医療関連事業の拡大を目指すとされます。
(16) ツルハホールディングスによる共栄ファーマシーの一部店舗取得(2015年3月1日)
ツルハホールディングスは、メディカルシステムネットワークの子会社・共栄ファーマシーから広島県内のドラッグストア5店舗を取得しました。買収後のブランド統合や調剤併設の拡充などを進めることで、地域の医療提供体制強化に寄与します。
(17) クリヤマホールディングスによるサンエーの子会社化(2015年8月31日)
クリヤマホールディングス<3355>は、熱伝導式尿素水識別センサー製造販売のサンエー(広島県三次市)を買収しました。排ガス浄化技術に欠かせない尿素SCRシステムタンク用センサーは特許権が絡む先端技術で、クリヤマHDはこれを取り込むことで自社の自動車排ガス規制対応製品ラインナップを強化しています。
(18) ウエルシアホールディングスによるププレひまわりの子会社化(2021年12月1日予定)
ウエルシアHD<3141>は、中国・四国地方で123店舗を展開するププレひまわり(広島県福山市)の株式を50%超取得し、子会社化すると発表しました。中国地方での店舗網拡充とシェア拡大が主な目的で、ププレひまわりにとってもウエルシアの資本力やノウハウを活用できるメリットがあります。
(19) グンゼによるジーンズ・カジュアル ダンと伊達デパートの子会社化(2016年4月15日)
グンゼ<3002>は、広島県庄原市でジーンズ専門店などを運営する2社を買収しました。アパレル事業の強化や地方での商圏拡大が背景とみられます。広島県では繊維・アパレル関連の歴史が長く、地場に根差した小売企業を取り込むことで新規ブランド拡充や地域密着の販売戦略が可能となります。
(20) ウエルシアHDによるジュンテンドーの「サンデーズ」事業取得(2019年2月28日)
ホームセンター大手ジュンテンドー<9835>が運営するドラッグストア「サンデーズ」7店舗(島根・広島・岡山)をウエルシアHDが取得しました。ホームセンターとドラッグストアの併設は一定の相乗効果がありますが、ジュンテンドー側が事業構造改革を進めた結果、一部事業をウエルシアHDに譲渡する運びとなった事例です。
(21) アシードホールディングスによる宝積飲料の株式交換(2011年4月1日)
アシードホールディングス<9959>は、サプリメント飲料で実績を持つ宝積飲料(広島県東広島市)を株式交換により子会社化しました。高齢化社会に伴い健康志向が高まる中、新たな需要の取り込みを狙います。広島県内の飲料関連事業の技術や販路を取り込むことで、飲料事業の強化を目指すのが目的です。
(22) シキボウによるマーメイドスポーツのバンリューゴルフへの譲渡(2022年12月15日)
シキボウ<3109>は、ゴルフ場運営子会社のマーメイドスポーツ(広島県福山市)をバンリューゴルフに譲渡しました。ゴルフ産業は地域観光やレジャー振興の観点で重要ですが、主力事業とのシナジーが見込みにくい場合や投下資本効率が低い場合に売却されるケースがあります。本事例も事業ポートフォリオの見直しとして位置付けられます。
(23) アジアゲートHDによるA.Cインターナショナルの譲渡(2021年3月17日完了)
アジアゲートホールディングス<1783>は、広島紅葉カントリークラブ(広島県廿日市市)を含む複数ゴルフ場を運営するA.Cインターナショナルをサモアの投資会社へ譲渡しました。新型コロナウイルス下での経営悪化が大きく影響しており、債務処理を含む再建策としての売却とみられます。
(24) アインホールディングスによるファーマシィホールディングスの子会社化(2022年5月23日予定)
大手調剤薬局チェーンのアインHD<9627>は、広島県福山市に本社を置くファーマシィホールディングスを子会社化します。これによりアインHDの調剤薬局数は1,200店舗を超える見通しです。中国地方での調剤網拡大と経営効率化が進むことで、地域医療への貢献度も高まります。
(25) ジェネレーションパスによるアクトインテリアなどの取得と譲渡(2017年・2018年)
ジェネレーションパス<3195>は、広島県廿日市市にある寝具・インテリア製造のアクトインテリアを一時子会社化しましたが、業績不振により早期に経営陣へ譲渡する結果となりました。買収後に想定していたシナジー効果が得られず撤退を余儀なくされるケースであり、M&A成功の難しさを示す事例でもあります。
(26) エディオンによるサンフレッチェ広島の子会社化(2023年9月10日予定)
家電量販大手のエディオン<2730>は、サッカーJ1サンフレッチェ広島(広島市)の第三者割当増資を引き受け、持株比率を76.10%に引き上げます。スポーツクラブの経営安定と新スタジアムへの移行費用負担が背景となっています。県民にとって象徴的なプロスポーツクラブを地元企業が支援する形で、地域活性化にも寄与する事例です。
(27) フジオフードグループによる丼専門店「ザ・どん」運営子会社の譲渡(2023年6月28日)
フジオフードグループ本社<2752>は、海鮮丼を中心とする「ザ・どん」の運営子会社を譲渡しました。広島県内にも複数店舗を持っていたものの、グループとしてのシナジーを見いだせないと判断し、譲渡を決定したとされています。飲食業界では比較的短期間での売却判断も珍しくなく、経営資源の集中や赤字事業の切り離しの一環として行われます。
(28) フジによるスーパーふじおかの会社分割を通じた子会社化(2012年)
フジ<8278>は、スーパーふじおか(広島県廿日市市)が運営する10店舗事業を会社分割後に全株式を取得し、子会社化しました。入札方式で進められたもので、地元スーパーマーケットの再編として注目を集めました。
(29) フジによるニチエーの会社分割による新会社子会社化(2020年7月1日取得予定)
フジは、広島県備後地区を地盤とするスーパーのニチエーを会社分割方式で取得し、11店舗を承継しました。フジにとっては広島県内各地への出店網拡大が狙いであり、地場のスーパーマーケットを傘下に取り込む動きの一貫です。
(30) インターネットインフィニティーによる正光技建の子会社化(2022年10月1日取得予定)
介護事業やIT事業を手がけるインターネットインフィニティー<6545>は、住宅リフォーム工事の正光技建(広島県廿日市市)を子会社化しました。すでに広島市のリフォーム会社・フルケアを傘下に収めており、これらを束ねることで住宅改修や高齢者向けバリアフリー工事などに強みを発揮できる狙いがあります。
(31) イズミによるユアーズの子会社化(2015年10月13日取得予定)
イズミ<8273>は、広島・岡山で64店舗を展開するユアーズを子会社化しました。広島県を代表する大型スーパーのイズミと、少商圏型店舗展開が得意なユアーズの協業により、市場競争力と商品調達力を強化しました。
(32) オージックグループによるオイダ製作所の子会社化(2023年2月7日)
オージックグループ<6168>は、農機・航空機部品の切削加工を行うオイダ製作所を傘下に加えました。オイダ製作所の技術力を取り込み、グループ内での金属部品加工力を高める狙いがあります。広島県内にも拠点を構えるセイエンなどと連携し、製造業集団としての総合力を強化すると見られます。
(33) フォーバルテレコムによるトライ・エックス広島事業部の譲渡(2021年4月1日)
フォーバルテレコム<9445>は、子会社トライ・エックス(広島県呉市)の広島事業部を経営陣が新設したトライサクセスに譲渡しました。事業部の独立要請に応じて行われたもので、MBOに近い形と言えます。地場企業が事業を継続しやすくするスキームとしても機能しており、地域での雇用維持にも貢献します。
(34) フォーバルテレコムによるタクトシステムの取得(2008年4月8日)
同じくフォーバルテレコムは、複写・印刷サービスを手がけるタクトシステム(東京都)を広島県呉市にある子会社トライ・エックスを通じて買収しました。デザインやDTP編集などを行うタクトシステムと、短納期・小ロット対応のトライ・エックスの統合により、ドキュメント制作の一貫体制が構築されました。
(35) アイナボホールディングスによるマニックスの子会社化(2021年10月1日取得予定)
アイナボHD<7539>は、住宅設備機器や水回り資材を扱うマニックス(兵庫県神戸市)を完全子会社化すると発表しました。マニックスは岡山県や広島県にも営業拠点を持ち、アイナボHDの販路拡大と工事案件獲得に貢献すると考えられます。
(36) Abalanceによるサンシャインティーズの子会社化(2023年10月20日)
Abalance<3856>は、広島県安芸高田市で太陽光発電事業を営むサンシャインティーズを子会社化しました。クリーンエネルギー関連事業を積極的に拡大する中で、地域に根差した太陽光発電所の取得が、ストック型ビジネスの強化に繋がるとされています。
(37) JBイレブンによる「アーシーマーシー」6店舗の取得(2010年3月1日・3月31日)
ラーメン・中華業態などを展開するJBイレブン<3066>は、グルメ杵屋の中華業態「アーシーマーシー」12店舗のうち6店舗を取得しました。広島県内では福山駅店や呉ゆめタウン店などが該当し、同地域での中華業態強化を図ったものです。
(38) イズミによる西友九州店舗事業の取得(2024年8月1日)
イズミは、西友(東京都武蔵野市)が九州地区で展開する69店舗をゆめマート熊本経由で取得すると発表しました。中国地方最大手のイズミが九州にも本格進出することで、九州・中四国の流通地図に大きな変化をもたらすと期待されます。西友は北海道に続き九州からも撤退する形で、戦略の再構築を進めています。
4. 広島県におけるM&Aの特徴と課題
4-1. 後継者不足・事業承継対策としてのM&A
事例を通じて明らかなように、広島県のM&Aには後継者不足を解消するための買収事例が数多く見られます。県内は製造業だけでなく、小売やサービス業などでも創業者や経営者の高齢化が進み、後継者難による廃業リスクが高まっているのが現状です。外部資本によるM&Aは、雇用維持や地場産業の技術・ブランド継承にも寄与しやすいため、今後も活発化が予想されます。
4-2. 多様な業種でのM&Aが進む背景
広島県では、自動車関連産業や造船・製鉄などの重工業に加え、食品製造や流通、サービス業も盛んです。そのため、M&A対象業種も多岐にわたっており、地元企業の再編だけでなく、大手企業が地場企業を取り込むケースも少なくありません。逆に、事業不採算部門やシナジーの低い子会社を県内外へ譲渡するケースもあるため、M&Aの往来が盛んになっています。
4-3. 中堅・中小企業におけるM&Aの地域貢献意義
広島県の中堅・中小企業は、地域に根ざした雇用を支え、コミュニティにおける経済活動の中心的役割を担うことが多いです。こうした企業がM&Aによって県外資本の傘下に入ることには、賛否両論ある一方で、企業存続と雇用確保、技術承継が図れる利点が大きいといえます。また、サービスや製造工程が大手グループのノウハウを導入することで向上し、地域住民へより良い商品やサービスを提供できるメリットも見逃せません。
5. 今後の展望:広島県M&Aの将来性と地域経済へのインパクト
広島県は自動車産業をはじめとする製造業の集積が厚く、また大消費地である広島市を軸とした流通・サービス業も発展してきました。今後は、さらに進む少子高齢化や国内市場の伸び悩み、そしてグローバル競争の熾烈化に対応するために、県内企業はM&Aを含む多角的な戦略を検討することが増えていくと考えられます。
- 事業承継支援としてのM&A拡大
広島県では地域金融機関やM&A仲介会社が積極的に事業承継支援サービスを展開しています。中小企業の廃業を防ぐためにも、M&Aによる事業継続は今後さらに重要視されるでしょう。 - 産学官連携と地域イノベーション
大学発ベンチャーやバイオテクノロジー、半導体関連などの先端技術が台頭するにつれ、研究開発型の企業連携・買収も増加傾向にあります。広島大学や県内の研究機関を起点としたイノベーション創出が、M&Aを伴う形で進展する可能性が高まります。 - 広島県外・海外資本の進出
大手流通・製薬・製造企業が、広島県の地場企業を買収する動きも活発です。これにより生じるメリット(雇用維持・技術提携など)とデメリット(本社機能の流出など)のバランスをどう保つかが、地域にとっての課題となります。 - 脱炭素・SDGs時代のM&A
太陽光発電事業やEV関連、環境技術などの新分野でのM&Aも今後増えると見込まれます。広島県も環境保護やグリーン産業の誘致に力を入れており、地域経済の新たな柱づくりにM&Aが活用されるシナリオが考えられます。
6. まとめ
広島県におけるM&A事例を概観しますと、製造業や小売・サービス業はもちろん、医療・バイオ・食品・金融・建設・海運など多彩な分野でM&Aが進んでいることがわかります。背景には後継者不足や経営環境の変化、事業拡大や地域連携など、企業ごとのさまざまな目的と事情が見え隠れします。
地域企業を買収・統合することで、買い手企業は新市場や技術、人材を獲得し、売り手企業は経営基盤の強化や事業承継問題の解決を図ることができます。地域住民にとっても、企業存続や雇用維持、サービス向上といった恩恵が期待される一方で、必要以上の県外資本流出による地元経済の空洞化を懸念する声もあるでしょう。
しかしながら、総じてM&Aは、地域経済のダイナミズムを生み出す手段として注目されており、広島県では今後も引き続きM&Aが重要な役割を果たすと考えられます。企業・自治体・金融機関など関係各所が協力し、円滑なM&Aが行われることで、地域産業の活性化と持続的な発展につながることが期待されます。
広島県の企業が培ってきた技術力やサービス品質を守り、新たな成長へのきっかけを得るためにも、M&Aを上手に活用することがこれからの鍵となるでしょう。本稿が、広島県におけるM&Aの実態を理解するうえでの一助となれば幸いです。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。