群馬県内におけるM&A(合併・買収)の動向や背景、実際に発表された事例の概要、またそれらが地域経済や企業戦略に与える影響などを、具体的にご紹介いたします。群馬県は、関東地方の北部に位置し、製造業から観光業まで幅広い産業が根付いています。特に自動車関連部品や電子部品の製造分野、食品産業、さらには豊かな自然資源を生かした観光リゾート事業など、多彩な産業が存在していることが特徴です。このような産業構造の中で、事業継承や成長の加速を目的としたM&Aが継続的に行われており、近年はその多様性がより際立ってきました。

本記事では、2000年代後半から2020年代にかけて公表された事例を中心に、群馬県にゆかりのある企業をめぐるM&Aの動向を可能な限り網羅的にまとめることで、県内の産業構造の変化や今後の展望を探ります。事例ごとに、M&Aの目的・意義、取得価額や株式譲渡の日程などを簡潔に振り返り、群馬県という地域特性やそこで活躍する産業の姿を浮き彫りにしてまいります。企業買収・子会社化に至った背景には、国内のみならず世界規模の競合環境の変化が大きく影響しており、企業再編の動きが地元経済にも波及している点が特徴的です。最後に、これらのM&Aが地場企業の成長戦略や雇用、経営資源の活性化にどのように寄与しているのか、群馬県経済の一端として考察いたします。


1.群馬県におけるM&Aの背景と特徴

1-1.地理的特性と産業構造

群馬県は首都圏に位置するものの、東京や神奈川、埼玉などの大都市圏とは異なる独自の経済圏を形成しています。山間地域が多く、かつ利根川水系をはじめ豊かな水資源を活用した産業や、上越新幹線・関越自動車道など交通の利便性を生かした製造業の集積が県内外からの注目を集めてきました。自動車部品や輸送機器関連の工場、電子部品メーカーなどが点在し、全国規模・グローバル規模で展開する大手企業のサプライチェーンの一翼を担っています。

一方、県北部の自然資源を生かした観光業やリゾート事業も存在感を放ち、草津温泉や水上温泉のように日本有数の温泉地、また冬場にはスキー場などがレジャー産業の中心を形成してきました。こうした多彩な産業分野においても、事業承継や規模拡大、財務改善を目的としたM&Aはめずらしくなくなっています。

1-2.企業の生存戦略としてのM&A活用

日本全体で少子高齢化に伴う市場縮小や、人手不足、競合激化などが進む中、群馬県内企業も例外ではなく、積極的にM&Aを活用する動きが顕在化しています。かつては地元での事業承継が中心でしたが、昨今では大都市圏や他地域、さらには海外企業との資本提携も視野に入れた再編が行われるようになりました。これには、企業グループに属することで調達コストを抑制したり、販売チャネルを拡充したり、といった明確なメリットがあるためです。


2.主要事例の紹介

以下では、2008年以降に公表された、群馬県内所在企業または群馬県で展開する企業を対象としたM&A事例を集約し、ご紹介いたします。各事例は発表日時を起点に、その概要や目的、取得価額、取得予定日などを簡潔に整理しています。企業名や業種から見えてくる群馬ならではの特色もあわせて解説いたします。


2-1.医療・調剤薬局関連のM&A

(1)日本調剤<3341>、調剤薬局6店舗運営のアイケイファーマシーを子会社化(2010/02/23)
日本調剤は、大型総合病院前に調剤薬局を展開するアイケイファーマシー(大阪市)の全株式を取得し子会社化しました。アイケイファーマシーは群馬県、埼玉県、大阪府の6店舗を運営しており、日本調剤グループとして戦略強化を図る狙いがありました。取得価額は非公表ながら、県内の店舗網拡大によって北関東での地盤を固める動きといえます。

(2)日本調剤<3341>、群馬の調剤薬局経営有鄰を子会社化(2011/02/28)
続いて日本調剤は2011年、群馬県桐生市で調剤薬局を運営する有鄰を子会社化しました。売上高は4億5000万円ほどで、店舗数は1店舗ながら、県内に深く根ざした薬局ブランドの獲得を目指した事例です。調剤薬局業界は拡大傾向を続けていますが、報酬体系の変化など外部環境は厳しく、日本調剤はM&Aによる事業強化を急ぎました。

(3)東邦薬品<8129>、群馬地盤の薬品卸の須江薬品を株式交換により子会社化(2008/06/06)
東邦薬品は、須江薬品(群馬県みどり市)を株式交換で完全子会社化しました。須江薬品は1967年設立、同県を商圏とする医薬品卸売業者で、これまで地域に密着した営業基盤を築いてきた企業です。東邦薬品としては、同社を取り込むことで流通機能の向上と意思決定の迅速化を狙い、北関東エリアの強化を図っています。

(4)メディカルシステムネットワーク<4350>、富岡調剤薬局を子会社化(2012/04/02)
メディカルシステムネットワークは、調剤薬局の全国チェーンを展開する企業として知られていますが、新たに群馬県へ進出するため、富岡調剤薬局(富岡市)の全株式を取得しました。群馬県内に5店舗、東京都に1店舗を保有しており、同グループの店舗網拡大と地域連携が期待されています。競合が激化する調剤市場において、M&Aや新規出店をバランスよく進める戦略の一端と言えます。

(5)協和医科ホールディングス<3154>、栗原医療器械店を子会社化(2009/10/20)
協和医科HDは、静岡県を中心に医療機器卸売りを展開してきましたが、関東への事業拡大を図る中で、群馬・栃木県に強固な顧客基盤を持つ栗原医療器械店(太田市)を買収。医療分野における一層のシェア拡大を狙った事例です。

(6)メディアスホールディングス<3154>、医療機器販売のアイテックスメディカルを子会社化(2019/02/07)
メディアスHDは子会社である栗原医療器械店を通じ、千葉県に拠点を置くアイテックスメディカルを子会社化しました。直接的には千葉エリアの強化ですが、すでに群馬県太田市の栗原医療器械店を傘下にしているため、北関東~関東全域での営業網シナジーも考えられます。

(7)みらかホールディングス<4544>、群馬臨床検査センターを子会社化(2011/12/01)
みらかHDは群馬臨床検査センター(前橋市)を買収し、検査事業の地盤強化を図りました。北関東における開業医向けサービスと地域連携を深め、医療関連インフラの充実を後押ししているケースです。


2-2.自動車・部品関連や製造業のM&A

(1)総合メディカル<4775>、調剤薬局経営のとりせんファーマシーを子会社化(2009/08/31)
一見医療系のニュースですが、対象は「とりせんファーマシー(太田市)」で、地場スーパーマーケット「とりせん」の関連会社でした。群馬・栃木県内で調剤薬局8店舗、ドラッグストア2店舗を運営しており、総合メディカルが北関東での店舗網拡大を実現した事例です。

上記は医療分野の事例に近いですが、「とりせん」がスーパーという意味では流通業の要素も含んでおり、地域密着事業の買収である点が特徴です。

(2)富士テクニカ<6476>、宮津製作所(大泉町)から金型関連事業を取得(2010/09/17)
富士テクニカは自動車車体プレス金型業で、宮津製作所の事業を統合し日本の金型技術をさらに強化する狙いがありました。新興国の自動車部品メーカーとの競争が激化する中で、国内金型メーカー同士の提携・集約は、技術優位性を維持しつつコスト競争力を高める流れの一環です。

(3)日創プロニティ<3440>、吾嬬ゴム工業(藤岡市)を子会社化(2016/01/29)
工業用ゴム製品の製造を行う吾嬬ゴム工業(藤岡市)は売上高14億2000万円、営業利益1億5300万円という堅実な企業でした。日創プロニティがM&Aを通じて製品ラインナップを拡充し、営業基盤強化を狙った事例です。

(4)両毛システムズ<9691>、サンフィールド・インターネットを子会社化(2009/07/29)
両毛システムズは情報システム関連の地場企業であり、桐生市に拠点を置くサンフィールド・インターネットを子会社化しました。情報通信やシステム販売において地元シェアを固めることで北関東におけるIT関連事業の安定化に寄与しています。

(5)富士紡ホールディングス<3104>、プラスチック金型設計・製造の藤岡モールドを子会社化(2019/11/29)
埼玉県越谷市の東京金型を買収後、続けて藤岡市の藤岡モールドを子会社化した事例です。群馬・埼玉を中心に金型事業の拠点を形成し、化成品事業の強化を目的としています。

(6)東海運<9380>、貨物自動車運送業の関東エアーカーゴなど3社を子会社化(2008/12/19)
さいたま市に本社を置く関東エアーカーゴ(西武運輸の埼玉・群馬・栃木地区代理店)を傘下に収め、小口配送の全国ネットワークに参加しました。群馬県も配送拠点エリアに含まれており、県内物流においても大きな影響があります。

(7)天昇電気工業<6776>、竜舞プラスチック(太田市)を子会社化(2021/03/19)
プラスチック射出成形加工の分野で、天昇電気工業は大阪のアァルピィ東プラから独立した竜舞プラスチックを買収することにより、自動車部品や家電・OA機器などのプラスチック成形品事業を拡大しています。太田市はスバルをはじめ自動車関連産業が集積する地域であり、現地での製造拠点を確保する戦略的意義が高いです。

(8)米久<2290>、野崎商店(前橋市)の食肉事業を取得(2010/08/19)
食品産業の一例として、食肉卸売・小売業の野崎商店からハム・ソーセージ製造販売事業を買収した事例です。米久は静岡に本社を置く食品メーカーで、国産豚肉の供給体制を広げるため、群馬県の生産・加工ルートを取り込みました。

(9)神戸物産<3038>、伊藤忠飼料傘下の但馬の群馬県高崎事業所の食肉処理場・養鶏場事業を取得(2015/01/28)
食品スーパー「業務スーパー」などを運営する神戸物産が、グループ子会社である朝びき若鶏を通じて取得した事例です。飼料の提供や種鶏の育成なども含め、群馬県高崎市における鶏肉生産拠点を獲得し、鮮度の高い鶏肉を各店舗で提供できるようになりました。

(10)朝日工業<5456>、神鳳興業(藤岡市)の砕石事業を取得(2016/11/01)
骨材(砕石)事業を拡大する目的で、藤岡市に拠点を置く神鳳興業の砕石事業を買収。インフラ・建設需要が堅調な中、資材供給の安定確保が重要とされる事例です。

(11)村上開明堂<7292>、ミツバ<7280>傘下の大嶋電機製作所(太田市)を子会社化(2021/08/31)
自動車用バックミラーを主力とする村上開明堂が、ミツバ(桐生市に本社工場を持つ大手自動車部品メーカー)傘下でドアミラーなどを製造する大嶋電機製作所を買収しました。東日本エリアに生産拠点を確保しつつ、顧客基盤の拡充を図る典型的な垂直的M&Aです。

(12)日本高周波鋼業、子会社の高周波精密で希望退職募集(2022/04/29)
特殊鋼メーカーが主力事業を再編する一環で、高周波精密の事業拠点を統合・移転し、生産拠点をカムス(群馬県太田市)に集約すると発表しました。EV化への対応で、駆動系部品需要の減少が背景にあります。これはM&Aというより事業再編ですが、県内工場が統合される事例として注目されています。

(13)光村印刷<7916>、群馬高速オフセットを子会社化(2009/06/12)
読売新聞群馬工場の運営会社である群馬高速オフセット(藤岡市)を傘下に収め、新聞事業を強化した動きです。印刷業界も再編が進む中で、地元工場を取り込み、大手新聞社との協力関係をより深めました。

(14)三洋電機<6764>、半導体子会社の三洋半導体(大泉町)を米オン・セミコンダクターへ売却(2010/07/15)
家電大手として歴史ある三洋電機がパナソニック傘下に入る過程で、戦略的に半導体事業を切り離した事例です。売却先が米国のオン・セミコンダクターであり、グローバルな視点で再編が進んだ典型例といえます。大泉町の三洋半導体工場は群馬県内でも大規模雇用を支えた企業で、県経済への影響が大きかったM&Aです。

(15)小島鉄工所<6112>、創業家によるMBOで非公開化(2020/06/26)
群馬県高崎市に本社を置く大型油圧プレス機の老舗メーカー・小島鉄工所が、時価総額の低迷に伴い名古屋証券取引所2部上場廃止リスクを抱え、創業家によるMBO(経営者買収)を選択しました。市況悪化や上場基準の変更が地方上場企業に与える影響を示す事例でもあります。

(16)三光合成<7888>、HMヤマト(ヤマト・インダストリー傘下)から射出成形・加工事業を取得(2020/11/13)
群馬県伊勢崎市のHMヤマト事業を取り込み、三光合成が関東圏の射出成形拠点を確保することで商圏拡大を目指した例です。これにより、大型成形品への対応力が高まるとみられています。

(17)小倉クラッチ<6408>、三泉(伊勢崎市)の事業取得(2018/03/27)
電磁コイルや電磁クラッチ部品を手がける三泉を分社化し、小倉クラッチが買収するスキームです。大型油圧プレスや自動車部品関連など、群馬県の機械系製造業はM&Aの活発な領域でもあります。

(18)遠藤製作所<7841>、鍛造部品製造の日亜鍛工(富岡市)を子会社化(2024/12/25アナウンス)
ゴルフクラブ鍛造を主力とする遠藤製作所が、タービンや建機、鉄道部品などを扱う大型鍛造の老舗・日亜鍛工を買収する予定と発表。県内製造業のさらなる集約が進んでおり、事業ポートフォリオの拡大が見込まれています。

(19)愛三工業<7283>、金属プレス加工のアイエムアイ(富岡市)を子会社化(2023/11/21)
アルミやステンレスの深絞り技術で実績があるアイエムアイを取り込み、電動化製品への対応力を強化するとしています。特にEV用電池ケースの製造など、今後需要が拡大する分野でシナジーが期待されます。

(20)協和医科ホールディングス<3154>、栗原医療器械店(太田市)を14億円で買収(再掲)
前述したとおり医療機器ディーラーの買収として、県内有数の売上を持つ企業の事業承継をサポートし、関東地域での拡大が実現しました。


2-3.レジャー・観光関連のM&A

(1)日本駐車場開発<2353>、川場リゾート(川場村)を子会社化(2010/10/08)
スキー場運営を行う日本スキー場開発が、川場スキー場を運営する川場リゾートを買収。沼田ICから17キロと首都圏からの好アクセスを生かし、スキー場ビジネスの収益安定化を目指しました。県北部の観光資源を活用したレジャー関連M&Aとして注目されました。

(2)レーサム<8890>、THE RAYSUM運営子会社アセット・ホールディングス(安中市)をRight Nowに譲渡(2022/07/29)
ゴルフ場「THE RAYSUM(旧レーサム ゴルフ&スパ リゾート)」を運営する子会社を譲渡。ゴルフ場運営は県内でも珍しくありませんが、再建やファンドとの提携が多くみられる領域です。譲渡先はレーサムの創業者が設立した会社という特色があります。

(3)平和<6412>、レイクウッドゴルフクラブ「富岡コース」を取得(2019/07/18)
平和はゴルフ場運営の大手であり、PGMホールディングスを傘下に収めた実績があります。富岡市に27ホールを持つ「レイクウッドゴルフクラブ富岡コース」を買収し、ゴルフ事業の拡大を継続しています。

(4)マーチャント・バンカーズ<3121>、リゾートホテル「ヴィラ北軽井沢エル・ウィング」運営子会社を譲渡(2012/09/24)
北軽井沢エリアにおけるリゾートホテルの運営を担うヴィラ北軽井沢を、新星住建の子会社に売却しました。採算改善が課題となっていたため、リノベーション投資による再生を図る動きです。


2-4.小売・サービス・フランチャイズ関連のM&A

(1)中広<2139>、パリッシュ出版(高崎市)からフリーマガジン「月刊パリッシュ」発行事業を取得(2015/07/03)
フリーマガジン発行事業を全国で展開する中広が、「月刊パリッシュ」の運営権を取得し、関東地区進出の足がかりとしました。発行部数36万部と県内に一定の認知度を持つ媒体を取り込むことで、広告収益源を確保しています。

(2)日新製糖<2117>、中村屋<2204>子会社のエヌエーシーシステム(NACS)を買収(2018/12/20)
フィットネスクラブ事業を展開するNACSを取得し、日新製糖は自社の「ドゥ・スポーツプラザ」や「ブレダ」ブランドとシナジーを追求しました。群馬県にも複数店舗を持ち、首都圏エリアでのサービス網を広げています。

(3)わらべや日洋ホールディングス<2918>、ヱスビー食品<2805>傘下のヒガシヤデリカから食品製造事業を取得(2022/10/07)
セブンイレブン向け調理麺や焼きたてパンの事業を承継し、北関東工場(太田市)を含む製造拠点を引き継ぐ形です。県内の食品製造・加工のさらなる集約が行われ、わらべや日洋HDとしては販売力の強化が見込まれます。

(4)ヤマノホールディングス<7571>、灯学舎(川崎市)を子会社化し、群馬県の学習塾「スクールIE」FC店舗を取得(2023/11/15)
やる気スイッチグループ「スクールIE」のフランチャイズ運営を手がける灯学舎は、神奈川や群馬など首都圏で17教室を運営しています。ヤマノHDは教育事業を拡大中であり、既存のFC展開会社とのシナジーを狙っています。

(5)ヤマト・インダストリー<7886>、ハイモールド(伊勢崎市)を子会社化(2016/11/01)
1000トン以上の大型成形機を保有するハイモールドを取り込むことで、プラスチック製品の製造販売体制を拡充し、国内生産力を強化しました。

(6)フレアス<7062>、群馬県高崎市でマッサージ業を営む大平幸彦氏から事業を取得(2019/08/13)
在宅訪問マッサージを全国で展開するフレアスが、群馬県内の事業を継承しサービス網を広げる事例です。高齢化の進展を背景に、訪問医療サービス分野もM&Aの対象となっています。

(7)環境フレンドリーホールディングス<3777>、リクラウドを子会社化(2024/08/09)
再生エネルギー投資特化のクラウドファンディング企業を株式交換で取得。岩手県や群馬県内に小型太陽光発電所を保有しており、クラウドファンディングを使った地域エネルギー事業への投資拡大が期待されます。

(8)ヤマダ電機<9831>、ナック<9788>子会社レオハウスを買収(2020/03/24)
ヤマダ電機(本社:群馬県高崎市)は、住宅事業やインテリア事業など「暮らしまるごと」のコンセプトで事業多角化を進めています。今回のレオハウス(東京都)買収により、注文住宅分野でも規模拡大を図っています。

(9)トーホー<8142>、関東食品(高崎市)を子会社化(2019/02/25)
学校給食・病院給食などの業務用食品卸売を得意とする関東食品の株式追加取得で、最終的に87.4%を保有しました。既に一部保有していた関東食品を完全支配に近い形とし、北関東地域の業務用食品流通を強化しています。

(10)ゼンショーホールディングス<7550>、フジタコーポレーション(太田市)を買収(2016/10/18)
「すき家」で知られるゼンショーが、群馬県を中心にスーパー「フジマート」などを44店舗運営するフジタコーポレーションを子会社化しました。自社グループの食品小売事業との統合によって物流や商品開発の効率化を狙っています。

(11)ゲオホールディングス<2681>、ファミリーブック(太田市)を子会社化(2013/10/09)
レンタルショップ大手のゲオが、関東・信越地方で72店舗を運営するファミリーブックの株式96.9%を買収。レンタル・セルショップ業界でも再編が進行し、地域シェアの拡大に繋げました。

(12)プラザクリエイト<7502>、スリーエヌ(群馬県伊勢崎市)を子会社化(2015/07/31)
携帯販売代理店の事業拡大策として、ソフトバンクショップ5店舗を運営するスリーエヌを買収。モバイル事業の販路拡張が目的です。

(13)クオール<3034>、アルファームを完全子会社化(2013/03/15)
関東で調剤薬局を展開するアルファームを買収し、クオールは業界トップクラスの店舗数となりました。茨城・栃木・群馬の3県で23店舗を展開し、北関東エリアの戦略拠点が強化されています。

(14)ダスキン<4665>、ボストンハウスを子会社化(2023/11/30)
北関東を中心にイタリアンレストラン「ナポリの食卓」など計23店舗を展開するボストンハウス(桐生市)を買収。「ミスタードーナツ」以外の外食領域を強化したいダスキンの狙いが見えます。

(15)クリエイト・レストランツ・ホールディングス<3387>、和食レストラン「いっちょう」(太田市)を子会社化(2019/09/02)
関東で積極的に飲食店チェーンを展開するクリエイト・レストランツHDが、個室料亭風の「いっちょう」40店舗、焼肉「萬家」5店舗などを丸ごと買収。グループ連邦経営の拡大による収益増が期待されています。

(16)エコモット<3987>、パワーでんきカンパニー(高崎市)から太陽光設備造成・電気工事事業を取得(2022/10/14)
IoTソリューションや再エネ関連に注力するエコモットが、太陽光設備工事を手掛ける事業を取得し、蓄電池システムなどの周辺事業拡大を進めています。

(17)カーリットホールディングス<4275>、南澤建設(渋川市)を子会社化(2021/09/14)
エンジニアリング事業を強化するため、地場建設会社である南澤建設を取得し、工事力や地域社会への対応力を高めました。

(18)キーコーヒー<2594>、三国コカ・コーラボトリング子会社のクリスタルコーヒーから業務用コーヒー卸事業を取得(2010/08/05)
埼玉・群馬・新潟県を中心としたエリアで業務用コーヒー卸を強化し、キーコーヒーは首都圏近郊での販売体制を整えています。

(19)イエローハット<9882>、伊藤忠商事<8001>子会社アイ・シー・エスから自動車用品小売事業を取得(2008/10/08)
東京都・埼玉県・群馬県内の10店舗を対象に買収し、自動車用品販売の拠点を拡大した事例です。自動車王国とも言われる群馬での店舗展開の相乗効果が見込まれました。

(20)ウェルシアホールディングス<3141>、クスリのマルエ(前橋市)を子会社化(2020/04/08)
ドラッグストア大手のウェルシアHDがクスリのマルエの株式を追加取得し、51%を保有して子会社化。県内で58店舗を運営する地場ドラッグストアを傘下にしたことで、さらなる地域密着とシェア拡大が図られています。

(21)アサヒ商会<3368>、群馬文具小売協会を子会社化(2012/09/28)
文具・事務用品を扱うアサヒ商会が、リユース事業との相乗効果を狙って群馬文具小売協会を買収。県内の文房具販売ネットワークを活かし、生産性向上を図る事例です。

(22)アインホールディングス<9627>、コム・メディカル(新潟県三条市)とABCファーマシー(長岡市)を子会社化(2018/08/23)
両社は群馬県にも店舗網を持ち、新潟・群馬・山形・富山など複数県で調剤薬局を56店舗展開していました。全国チェーン戦略を進めるアインHDによる地域店舗網取り込みの好例といえます。

(23)オーシャンシステム<3096>、ヨシケイ両毛(桐生市)を子会社化(2023/03/14)
「ヨシケイ」のフランチャイズによる夕食材料セット宅配事業を県南東部・両毛地区へ拡げるためのM&Aです。新潟県を地盤としていたオーシャンシステムが群馬・栃木にも営業エリアを広げ、売上拡大を図ります。

(24)マルヤ<9975>、山口本店(足利市)の食品スーパー事業を取得(2013/10/22)
栃木・群馬県内で8店舗を持つ食品スーパーの事業譲渡を受け、マルヤ(ゼンショーグループ)が商圏拡大を図った事例です。

(25)ニッコンホールディングス<9072>、ミツバ<7280>傘下のミツバロジスティクス(太田市)を子会社化(2024/03/14)
物流企業大手のニッコンHDが、ミツバグループの物流子会社を買収し、グループ向けサービスを拡充。太田市という自動車部品生産拠点に近い物流ネットワークの強化が期待されています。

(26)ダイワ精工<7990>、ゴルフクラブ製造のフォーティーン(吉井町)を子会社化(2008/08/21)
上級者向けオリジナルクラブを展開するフォーティーンの買収により、ダイワ精工はゴルフ事業のブランド力を拡充しました。

(27)ティーライフ<3172>、生活雑貨卸のアペックス(高崎市)を子会社化(2012/10/23)
自社ECサイトの強化を図るティーライフが、アペックスの雑貨企画開発力と物流力を取り込み、商品の幅を広げました。

(28)セコム<9735>、子会社セコム上信越<4342>をTOBで完全子会社化(2021/05/28)
新潟・群馬・長野3県に展開するセコム上信越を完全子会社化し、一体運営による地域セキュリティサービスの強化を図りました。

(29)ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>、関東エレベーターシステム(館林市)を子会社化(2022/01/19)
エレベーター保守管理会社として1200台以上の管理実績を持つ関東エレベーターを買収し、北関東地区でのサービス基盤を拡充しました。

(30)ダイコク電機<6430>、ソフト開発のライリィ(高崎市)を子会社化(2023/03/20)
メダルを使わないスマートパチスロなど新領域への進出を目指すダイコク電機が、組み込みソフト開発企業のライリィを取り込み、自社開発体制を強化しました。

(31)テクノアルファ<3089>、ペリテック(高崎市)を子会社化(2011/09/01)
計測・検査システム製造のペリテック買収により、メーカー機能を持つ技術専門商社としての地位を確立しようとした事例です。

(32)ダントーホールディングス<5337>、群馬タイル販売(高崎市)を完全子会社化(2012/05/12)
内外装タイル事業を展開するダントーHDが、北関東エリアの販売体制強化として群馬タイル販売を買収しました。

(33)プラント系・発電系のM&A(ファーストエスコ<9514>、等)
バイオマス発電・電力小売り事業は燃料価格や需給動向に左右されがちであり、県内外の工場・発電所が売却されるケースがあります。ファーストエスコは木質バイオマス発電所や電力子会社をファンドに譲渡し、事業集中を図りました。

(34)アルフレッサ ホールディングス<2784>、エーザイ<4523>傘下のサンノーバ(太田市)から医薬品製造販売事業を取得(2015/12/18)
医薬品製造受託業の生産能力拡充とグループシナジーを狙い、顆粒剤や液剤、軟膏などの多彩な生産設備を太田市に有するサンノーバを買収しました。

(35)TOKAIホールディングス<3167>、群馬県下仁田町・にかほ市のガス事業取得
上下水道やガス事業の民営化の流れの中で、TOKAI HDが群馬県下仁田町のガス事業を譲り受けるなど、インフラ領域でもM&Aが進んでいます。

(36)アルファグループ<3322>、スマホアクセサリー販売子会社のインチャージを東群ホールディングス(伊勢崎市)に譲渡(2019/10/10)
モバイル事業の見直しとして、スマホアクセサリー小売を展開するインチャージを地場物流企業の東群ホールディングスに売却。事業領域の選択と集中が進む事例です。

(37)オーイズミ<6428>、下仁田物産(本社は神奈川県だが製造拠点は下仁田町)を子会社化(2020/01/24)
こんにゃくゼリー製造などで知られる下仁田物産の買収により、オーイズミは事業多角化を図りました。県内発の食品ブランド強化にも寄与しています。

(38)サンデンHD<6444>、流通システム事業子会社SDRSを投資ファンドに売却(2019/08/07)やサンデンシステムエンジニアリングをエクシオグループへ譲渡(2022/09/20)
太田市に本社を置くサンデンが、主力の自動車機器事業に資源を集中するため、飲料自販機やショーケース部門をファンドへ売却。県内製造業再編の象徴的な動きとなりました。

(39)JMホールディングス<3539>、田園都市未来新田(太田市)が運営するショッピングセンター「ニコモール」を子会社化(2021/02/01)
食品スーパーや業務用スーパーを展開するJM HDが、太田市のSC運営会社を取り込み、商業施設事業を強化しました。

(40)アークランドサービスホールディングス<3085>、コスミックダイニング(前橋市)を買収(2020/05/08)
とんかつ専門店「かつや」で知られるアークランドが、コロッケなど冷凍食品製造のコスミックダイニングを取り込み、グループ内の外食メニュー開発や食品製造にシナジーをもたらす狙いです。

(41)HABITA CRAFT<1427>、エムケー(伊勢崎市)を子会社化(2014/10/23)
住宅販売強化のため、地元工務店を買収。北関東圏での住まい関連サービスを強化するケースです。

(42)JESCOホールディングス<1434>、阿久澤電機(高崎市)を子会社化(2022/09/14)
電気工事・通信工事で100年以上の歴史を持つ企業を取得し、北関東地域における事業展開を強化。地場インフラ工事会社のM&Aとして注目されます。

(43)FDK<6955>、三洋電機<6764>の電池子会社2社(群馬県高崎市含む)を買収(2009/10/28)
アルカリ電池中心のFDKが、ニッケル水素電池やリチウム電池領域を強化するため、三洋の関連子会社を取得した例です。

(44)SANKYO<6417>、ゴルフ場運営・不動産事業を毒島会長の資産管理会社へ譲渡(2019/08/06)
本社を高崎市に置くパチンコ大手SANKYOがグループ内のゴルフ場(吉井カントリークラブ)と不動産管理事業を分割・譲渡。遊技機事業へ資本を集中させる動きです。


3.M&Aの狙いや今後の展望

ここまで数多くの事例を列挙してまいりましたが、群馬県内でのM&Aには大きく以下の特徴・狙いがあると考えられます。

  1. 事業承継・地域密着の強化
    地方企業では後継者不足が深刻化する中、地元の同業他社や大手グループへの売却を通じて事業を存続させるケースが増えています。医療機器卸や調剤薬局など、地域との結びつきが強い産業ではより顕著です。
  2. 生産拠点や営業拠点の確保
    製造業分野では、群馬県が自動車産業や精密部品・電子部品などのサプライチェーン上で重要な位置を占めることから、M&Aによって地理的優位性を確保しようとする動きが目立ちます。太田市や桐生市、高崎市、伊勢崎市といったエリアで自動車部品や金型成形などの工場・事業所がM&Aの対象となってきました。
  3. 新規事業の拡大やノウハウの取得
    ゴルフ場やスキー場、温泉・リゾート施設といった観光資源を活かしたレジャー産業でも、収益構造の改善や多店舗展開のノウハウ獲得を狙った事例が散見されます。大手企業が参入することで、集客面やサービス水準の向上も期待できます。
  4. 経営資源の選択と集中
    サンデンや三洋電機のように、主力事業への注力を図るために不採算部門や非中核事業を譲渡する「切り離し型M&A」も見られます。こうした再編によって財務体質を改善し、グローバル競争を勝ち抜く体制を整えるのが目的です。
  5. 大手小売・サービスによるシェア拡大
    ドラッグストアや食品スーパー、飲食店など、全国ブランドが地元有力企業や店舗網をM&Aすることで、スピーディに地域シェア拡大を実現しています。逆に地場企業にとっては、大手チェーンのネットワークや商品の仕入れルートを活かしてより安定した経営を続けられるメリットがあると言えます。

4.群馬県経済への影響と課題

M&Aが地域経済に与える影響は大きく、正面から見れば次のようなプラス面と課題が考えられます。

  1. プラスの効果
    • 雇用維持や拡大
      後継者不在で廃業リスクがあった企業を大手グループが買収することで、雇用が確保されるケースが多く見られます。
    • 地域ブランドの発展
      こんにゃくや鶏肉、薬局、リゾートなど、地域に根差した事業が全国展開する機会を得やすくなります。
    • サービス水準の向上
      大手資本の導入で設備投資やノウハウが蓄積され、顧客サービスの充実が進みます。
  2. 課題やデメリット
    • 意思決定の集権化
      本社機能が県外や海外に移った場合、地域の声を反映しにくくなる懸念があります。
    • 地域企業の自立性低下
      買収後に、事業の方針が大きく変わり地元顧客へのサービスや商品開発が疎かになるリスクも否定できません。
    • 産業構造の変化による空洞化リスク
      不採算部門を切り離すM&Aの増加は、最悪の場合、地元工場の閉鎖や大幅なリストラにつながる可能性があり、地域経済に衝撃を与えることがあります。

5.まとめ

群馬県におけるM&Aは、医療・調剤薬局、食品・飲食、製造・物流、観光・レジャーと多彩な業種で活発に行われています。背景には、全国的な後継者不足や国際競争の激化、事業再構築ニーズなど様々な要因が複合的に作用しています。一方で、買収される企業が群馬県の地場産業を支える「要」となっているケースも多く、M&Aの成否は地域の雇用や経済に大きく影響を及ぼします。

特に、自動車部品や金型産業のような製造業では、新興国との競合やEV化といった世界的トレンドが今後も再編を加速させると見込まれます。食品小売、ドラッグストアなどの分野も、より効率的な物流やスケールメリットを追求するためにM&Aが続くでしょう。さらに、群馬県北部のレジャー産業やリゾート開発の分野でも、外部資本参入により高付加価値化を目指す動きが出てきています。

今後、群馬県の経済発展を図る上では、M&Aによって県外企業と連携するメリットを活かしつつも、地域固有の産業・雇用をどのように守り、育てていくかが重要なテーマとなるでしょう。企業の存続と事業継承を促進しつつ、県内の産業クラスタを活性化させるためにも、公的機関や金融機関、地元企業同士の協力体制がさらに求められます。地域経済を支える多彩な企業が、M&Aをきっかけに新たなシナジーを生み出していくことが期待されます。

以上、群馬県で行われた主なM&A事例を参考に、産業別・狙い別の動向と地域経済への影響について概観いたしました。これら事例の積み重ねを通じ、群馬県全体の産業構造はさらに多様化し、県内外を結ぶ広域連携が一段と進む可能性があります。企業規模の大小を問わず、M&Aは事業の継承と発展、さらに新分野参入の有効手段として位置づけられているため、今後も注目されるテーマとなるでしょう。今後も群馬県の経済は、産業再編や地方創生の文脈の中で、積極的に変化を遂げていくと考えられます。