- はじめに:岐阜県の経済とM&Aの背景
- 1.2008年前後のM&A:事業の選択と集中が本格化
- 2.2009~2011年頃のM&A:リーマンショック後の再編
- 3.2012~2013年:選択と集中と地域承継の進行
- 4.2014~2015年:地元企業の再編や観光・レジャー関連強化
- 5.2016~2017年:医薬・食品領域の再編と物流強化
- 6.2018~2019年:地域企業の後継者問題や産業シフト
- 7.2020~2022年:物流・不動産関連の事業譲渡や車載電池・EV関連
- 8.観光・レジャー・外食・流通の再編事例
- 9.建設・不動産・インフラ系の事例
- 10.製造業・ものづくり関連の譲渡・買収
- 11.自動車ディーラー再編とVTホールディングスの動き
- 12.その他の注目事例
- 総括と今後の展望
はじめに:岐阜県の経済とM&Aの背景
岐阜県は中部地方に位置し、県南部では名古屋都市圏に隣接し、北部では豊かな自然を生かした観光産業が盛んな地理的特徴を持っています。古くから繊維産業や刃物産業、陶磁器などの地場産業が発展してきた一方、近年では情報通信産業や輸送用機器関連なども発展し、多種多様な企業が集積しています。しかし、少子高齢化や人口減少による内需縮小、国際競争の激化、後継者不足などの課題も多く、これらを乗り越えるためにM&Aを活用する動きが広がっています。
M&Aは事業規模の拡大だけでなく、技術やノウハウの獲得、販路の確保、経営効率化、地域企業の存続などさまざまな目的があります。加えて、近年の事業承継問題もM&Aのきっかけとなりやすく、岐阜県でもこの流れを捉えた企業再編が行われている状況です。以下では、実際に発表されたM&Aニュースを年代順、あるいは企業ごとに区分しながら、できる限り多角的に見ていきたいと思います。
1.2008年前後のM&A:事業の選択と集中が本格化
1-1. 日本紙パルプ商事によるトキワの製紙事業取得(2008年11月)
概要
製紙・化粧品事業を行うトキワ(岐阜県中津川市)が製紙事業から撤退を表明し、日本紙パルプ商事がこれを取得する決定がなされました。尾張旭工場(愛知県)での印刷用紙や段ボール原紙の製造は月産3,000トン〜8,600トン規模と、中堅クラスの生産能力を誇ります。日本紙パルプ商事はトキワの総代理店としても取引関係が深く、安定供給を継続するための事業譲受とされました。
背景と狙い
- 印刷用紙や段ボール原紙の需要の安定確保
- トキワ側の事業再編に伴う選択と集中
- 紙流通大手の日本紙パルプ商事にとっては既存顧客維持とコスト削減
1-2. カーゾーンによる求人情報誌事業の取得(2008年2月)
概要
カーゾーン(現社名等は省略)は、岐阜県を中心に求人情報誌を発行するアースプランニングから「職安メモ」「QポンアッタATTa」といった媒体事業を3000万円で取得しました。
背景と狙い
- 東海エリアの求人広告事業に参入し、印刷外注費や配本ルートの効率化を目指す
- 情報誌分野の強化により収益源多角化を図る
当時は紙媒体からWEBへの移行期でもありましたが、地方においては紙媒体求人のニーズが根強く、一定のシェアを確保できれば収益化が期待できる市場でもありました。
1-3. アコーディア・ゴルフによるトーカイ開発からのゴルフ場事業取得(2008年2月発表・2008年3月取得)
概要
ゴルフ場大手運営会社アコーディア・ゴルフは、民事再生手続き下にあったトーカイ開発(岐阜市)から瑞浪トーカイカントリークラブおよび上宝カントリークラブ(いずれも岐阜県内)のゴルフ場事業を新設会社に分割させ、それを取得しました。取得価額は1000万円とされています。
背景と狙い
- トーカイ開発が経営再建を図る中で、ゴルフ場の再生ノウハウを持つアコーディアがスポンサー役に
- アコーディア・ゴルフは岐阜県周辺でもゴルフ場ネットワークを広げ、収益性強化を目指す
ただし、その後上宝カントリークラブは2009年2月に再度譲渡(P・T・C社へ)されており、リゾートホテル事業に注力したい買い手の意向とも合致し再編が進んだ形です。
2.2009~2011年頃のM&A:リーマンショック後の再編
2-1. 伊藤忠食品による愛知伊藤忠食品の譲渡(2009年4月)
概要
伊藤忠食品は、完全子会社の愛知伊藤忠食品を関連会社の中部メイカン(岐阜市)へ譲渡することを決定しました。これによって愛知伊藤忠食品の株式を中部メイカンに売却し、東海地区における食品卸のさらなる効率化を図りました。
背景と狙い
- 食品卸業界の再編と、商圏の整理・深耕
- 物流コスト削減や両社の重複エリア最適化
リーマンショック後の需要低迷もあり、食品卸売大手は地域特化戦略を強め、収益改善を目指す動きが強まっていました。
2-2. ロジコムによる本巣ショッピングワールドの子会社化(2011年9月)
概要
ロジコムは岐阜県本巣市でショッピングモールを運営する本巣ショッピングワールド(旧リオワールドから事業承継)を取得し、「LCワールド本巣」として再スタートさせました。ロジコムは東京や埼玉を中心に不動産賃貸事業を行っており、地方商業施設への投資を拡大しています。
背景と狙い
- 地域密着型ショッピングモールの再生
- 不動産ポートフォリオの分散と収益の安定化
ショッピングモール再生はテナント誘致・運営ノウハウが重要であり、ロジコムがその強みを活かせると判断したものと考えられます。
3.2012~2013年:選択と集中と地域承継の進行
3-1. 近鉄百貨店による婦人フォーマルウエア・アランシアの譲渡(2012年7月)
概要
近鉄百貨店は婦人フォーマルウエアのアランシアをイギン(岐阜市)に譲渡しました。売上規模は約5億円と小さいながら、百貨店の新中期経営計画の一環で収益改善が急務とされていました。
背景と狙い
- 近鉄百貨店のグループ事業見直し
- フォーマルウエアの開発力があるイギンへの集約により事業価値向上
アランシアは近鉄百貨店の売場にも出品していたため、百貨店向けブランドを維持しつつ、イギンのノウハウで競争力向上を期待されました。
3-2. 天昇電気による天昇ポーランドコーポレーションの譲渡(三甲へ、2013年3月)
概要
天昇電気は、ポーランドでプラスチック製品を製造・販売する天昇ポーランドコーポレーションの株式を産業資材メーカーの三甲(岐阜県瑞穂市)に譲渡し、保有比率を63.6%から20.1%へ引き下げました。譲渡価額は約6億7800万円。
背景と狙い
- 三甲はプラスチックコンテナ等の分野で国内トップクラスの実績
- EU圏や東欧諸国への販路拡大を目指すための資本導入
- 天昇電気にとっては主力外事業の整理と財務強化
プラスチック資材市場はグローバル競争が激しく、技術力と販売チャネルの拡充が重要でした。
3-3. アコーディア・ゴルフによる岐阜関スポーツランドの子会社化(2013年12月)
概要
ゴルフ場「ボゥヴェールカントリー倶楽部」を保有する岐阜関スポーツランドが民事再生手続きの中で、スポンサー契約に基づきアコーディア・ゴルフに株式譲渡を行いました。
背景と狙い
- 名古屋近郊からのアクセスが良い立地で、幅広い層へアプローチしやすいコース
- アコーディア・ゴルフがゴルフ場再生ノウハウを提供し、収益力を回復させる
東海圏での拠点強化としても意義のある買収とされています。
4.2014~2015年:地元企業の再編や観光・レジャー関連強化
4-1. 日本駐車場開発によるめいほう高原開発の子会社化(2014年10月)
概要
日本駐車場開発は子会社を通じ、郡上市にある「めいほうスキー場」を運営するめいほう高原開発の株式約61.36%を1億6900万円で取得しました。めいほう高原開発は売上高10億8000万円、営業利益1億900万円、純資産4億7300万円。
背景と狙い
- 名古屋からのアクセスが良いスキー場の魅力
- 日本駐車場開発はスキー場運営にも注力しており、全国展開の一環
- 冬季観光資源の安定化と収益の多角化
レジャー需要の伸び悩みもある中、駐車場運営で培った管理ノウハウを活かし、集客力の向上を図る狙いがありました。
4-2. 神戸物産による菊川の酒造事業取得(2014年2月発表・4月実行)
概要
業務スーパーを運営する神戸物産は、岐阜県各務原市の老舗蔵元「菊川」から酒造事業を会社分割により承継しました。取得価額は当初非公表でしたが、最終的に5000万円と公表されています。
背景と狙い
- 1871年創業の老舗による清酒、焼酎、みりん等の酒造り技術を活かし、業務スーパーや外食事業に供給
- 神戸物産のプライベートブランド強化
- 老舗酒造の地域継承と販路拡大
歴史ある酒造りを全国規模の流通網に乗せる好例となりました。
4-3. 太平洋工業によるゴルフ場「太平洋開発」の売却(2015年7月)
概要
太平洋工業はゴルフ場「養老カントリークラブ」(大垣市)を運営する太平洋開発の株式66.5%を譲渡すると発表しました。譲受先はアイランドゴルフ(東京都港区)で、譲渡価額は非公表。
背景と狙い
- ゴルフ人口の減少と経営環境の厳しさ
- レジャー事業からの撤退による本業への集中
- アイランドゴルフにとっては経営ノウハウを活かしゴルフ場運営を拡大
岐阜県内ではスキー場やゴルフ場といったレジャー施設の再編が同時期に進んでいることがうかがえます。
4-4. ユニチカによるユニチカ京都ファミリーセンターの譲渡(2015年1月発表・2月実行)
概要
ユニチカはスイミングスクールやフィットネスクラブなどのスポーツ施設運営を行う子会社(京都市)の全株式を、岐阜県多治見市に本社を置くスポーツクラブ運営のコパンに譲渡しました。
背景と狙い
- ユニチカの中核事業とは異なる領域の整理
- コパンの運営拡大とノウハウの活用
レジャー・スポーツ事業は運営能力や地域密着が鍵であり、同業への譲渡で顧客満足度を維持しつつ運営を安定化させる狙いがあります。
5.2016~2017年:医薬・食品領域の再編と物流強化
5-1. 東海染工による岐阜事業所の希望退職募集(2020年3月発表)
(※これは直接的なM&Aではなくリストラ施策ですが、岐阜県事業所に関連する再編として言及します)
米中貿易摩擦や世界経済の減速により編物(ニット)染色事業の受注環境が急激に悪化している中、経営合理化策として岐阜事業所に勤務する40歳以上の正規社員20名程度の希望退職を募りました。M&Aの動きがあるわけではありませんが、同県の産業環境が厳しいことを示唆するトピックです。
5-2. 日新製糖によるツキオカフィルム製薬の子会社化(2017年10月)
概要
日新製糖はパッケージへの箔押事業、食用純金箔や可食フィルムなどを手がけるツキオカフィルム製薬(岐阜県各務原市)の株式80%を取得しました。
背景と狙い
- 食品関連分野での商品ラインナップ拡充
- 水溶性可食フィルム技術を応用し化粧品や医薬品領域に進出
- ツキオカフィルム側は大手の資本力を得て研究開発・販路拡大
可食フィルムは介護食、栄養補助食品などの可能性もあり、今後の需要増が見込まれます。
5-3. 平和によるニューキャピタルゴルフクラブの取得(2016年10月)
概要
パチンコ機器やゴルフ場運営を手がける平和は、子会社のPGP(パシフィックゴルフプロパティーズ)を通じ、ゼロ・マネジメントが運営していたニューキャピタルゴルフクラブ(岐阜県恵那市)を取得しました。
背景と狙い
- ゴルフ事業拡大による収益源多角化
- 知名度向上や顧客サービスの一貫強化
平和グループのゴルフ場買収は全国各地で活発に行われており、岐阜県内でも例外ではありません。
5-4. 千趣会によるベルメゾンロジスコ株式譲渡と再子会社化(2017年~2024年)
概要
千趣会は通信販売「ベルメゾン」の物流機能を担うベルメゾンロジスコ(岐阜県可児市・美濃加茂市に物流拠点)を2017年に住友商事子会社の住商グローバル・ロジスティクスに51%譲渡し、物流効率化を進めました。その後2024年~2025年にかけて、株式を買い戻す形で再子会社化すると発表しています。
背景と狙い
- 共同事業による物流改革の完了に伴い、再度グループ統合
- 通販ビジネスが伸び悩む中、物流コスト削減と配送サービス向上が重要課題
- 岐阜県内の物流拠点は地の利(中部圏)を活かした全国発送の要衝
近年はEC需要の拡大が続いており、岐阜県が広域物流拠点として注目を集めています。
6.2018~2019年:地域企業の後継者問題や産業シフト
6-1. 日医工による武田テバファーマのジェネリック医薬品事業取得(2020年発表・2021年2月完了)
概要
日医工は武田テバファーマが営むジェネリック医薬品事業と高山工場(岐阜県高山市)を買収しました。高山工場は一般固形製剤を年間40億錠規模で生産可能。外部委託していた製品の内製化を狙います。
背景と狙い
- ジェネリック医薬品の市場拡大と生産能力の確保
- 武田テバファーマはイスラエル企業テバと武田薬品が出資する合弁会社
- 岐阜県北部(飛騨地域)にある拠点を活かし、国内医薬品供給の安定化
ジェネリック市場拡大が進む中、国内大手が積極的な設備投資と再編を行う事例といえます。
6-2. ヨシムラ・フード・ホールディングスによる森養魚場の子会社化(2019年5月)
概要
ヨシムラ・フード・ホールディングスは鮎養殖事業の大手・森養魚場(岐阜県大垣市)の全株式を13億6000万円で取得しました。年間収穫量約800トン、全国シェア16%と国内トップクラス。
背景と狙い
- 稚魚の人工ふ化から成育、出荷まで行う技術力を評価
- ヨシムラ・フードHDのグループシナジーで、食品加工・流通網の拡充
- 高齢オーナーによる後継者問題の解決
地域の伝統産業(鮎養殖)と都市資本のマッチングによる事例として注目されました。
6-3. 丸順によるホンダ四輪販売丸順の譲渡(2018年3月)
概要
自動車部品製造の丸順(岐阜県大垣市)は、ホンダディーラー事業を手がけるホンダ四輪販売丸順の全株式を、ホンダカーズ東海(名古屋市)と丸順の取締役2名(創業家)に譲渡しました。
背景と狙い
- 丸順が自動車販売事業から撤退し、本業の自動車部品・金型製造に集中
- ホンダカーズ東海は岐阜県での販売網を拡大
- 創業家への一部譲渡で地元の要望も考慮
その後、VTホールディングスが関連株式を取得し、最終的にはグループ会社化が進んでいきます。
6-4. ソフィアホールディングスによる調剤薬局・コンビメディカルの買収(2019年2月)
概要
ソフィアHDは、岐阜県各務原市の調剤薬局企業・コンビメディカル(2店舗、売上高約3.7億円)を4.2億円で子会社化しました。
背景と狙い
- 岐阜県内での調剤薬局ネットワーク拡大
- 地域密着型医療サービス需要の高まり
- ソフィアHDの医療関連事業強化
ドラッグストアや調剤薬局の再編が活発化する中、地域単位での買収は今後も増加が予想されています。
7.2020~2022年:物流・不動産関連の事業譲渡や車載電池・EV関連
7-1. 日本板硝子によるバッテリーセパレーター事業の米国ENTEKへの譲渡(2021年5月)
概要
日本板硝子はバッテリーセパレーター事業を米国ENTEKに売却し、新会社「日本板硝子コンパス」(岐阜県垂井町)を設立して譲渡しました。最終的に2021年8月に完了し、株式はENTEKの日本法人が取得。
背景と狙い
- 車載用電池需要の拡大をにらみ、世界的メーカーENTEKとの連携を強化
- 日本板硝子のバッテリーセパレーターは競争力があるが、グローバル展開のためENTEKの販路を活用
- 日本板硝子は非コア事業の整理と財務体質改善
岐阜県垂井町の事業所が電池分野の最先端拠点として期待されています。
7-2. 日産自動車によるビークルエナジージャパン子会社化(2022年9月)
概要
日産自動車は官民ファンドのINCJが保有するビークルエナジージャパン株式を取得し子会社化することを決定しました。ビークルエナジージャパンは岐阜県美濃加茂市を含め国内3拠点を持ち、車載用リチウムイオン電池の製造を手掛けます。
背景と狙い
- ハイブリッド車向けリチウムイオン電池の安定調達
- 将来のEV・HV普及を見越した国内生産基盤の強化
- 日立Astemoやマクセルとの関係維持による技術連携
岐阜県は自動車関連部品の製造拠点も多く、EV化の波を受けさらなる活性化が期待されています。
7-3. 地主(旧:日本商業開発)によるツノダ買収と譲渡(2021年・2022年)
概要
不動産投資事業を手がける地主(旧社名:日本商業開発)は、マーキュリアインベストメント傘下のツノダ(自転車メーカーの旧工場用地を活用する不動産賃貸会社)を子会社化し、その後主要不動産売却後に山八商事へ再度譲渡しました。ツノダは愛知県や岐阜県内に不動産を保有していましたが、底地の売却などにより資産整理を進めた結果、手放す運びとなりました。
背景と狙い
- ディスカウントストアや店舗用地の底地取得を主要業務とする地主
- ツノダが保有していた岐阜県などの物件は事業用定期借地権ビジネスに活用
- 資産売却後は保有する必要がなくなり、譲渡に至る
地方の遊休地や工場跡地を活用する事例の一つといえます。
7-4. レシップホールディングスによる高電圧変圧器事業の譲渡(2023年9月)
概要
レシップHD(バス用LED表示や照明事業で知られる)は、子会社が手がける高電圧変圧器事業を加藤鉄工バーナー製作所(岐阜県岐南町)に譲渡すると発表しました。
背景と狙い
- レシップグループの事業再編(選択と集中)
- 加藤鉄工バーナー製作所が事業を継承し、新たな製品展開を期待
- 地域内での事業譲渡により雇用維持や技術継承に配慮
8.観光・レジャー・外食・流通の再編事例
8-1. ドン・キホーテによるビックワンの子会社化(2008年10月)
概要
中京地区(愛知県6店舗、岐阜県1店舗)でディスカウントストアを展開するビックワンを23億円で取得しました。設立後すぐに株式を取得し、グループの店舗網を強化しています。
背景と狙い
- 愛知・岐阜エリアでの既存店舗網の拡大
- ディスカウント市場の競争激化に対応
- 相乗効果による商品調達・販売促進
名古屋圏は大消費地の一つであり、岐阜県も近接市場として重要視されていることが分かります。
8-2. ソラストによるプラスの子会社化(2021年10月)
概要
ソラストはグループホーム・小規模多機能型居宅介護を16事業所運営するプラス(岐阜県各務原市、売上高約11.2億円)を28億2000万円で子会社化しました。
背景と狙い
- 愛知県中心の事業強化と周辺地域への進出
- 超高齢化社会に向けた介護施設の需要増
- ソラストグループの在宅・施設サービスの充実
岐阜県は今後ますます高齢化が進むと見込まれ、介護事業への参入が進んでいます。
8-3. バローホールディングスによる地元スーパーの買収事例(2018年~2019年)
バローホールディングス(岐阜県を拠点に中部エリアで展開)は、地域スーパーのM&Aに積極的です。
- フタバヤ(2018年8月)
- 滋賀県長浜市を中心とする3店舗を子会社化。
- 青果や惣菜売り場に強みをもつフタバヤを取得し、滋賀県でのシェア拡大。
- サンコー(2019年1月)
- 富山県高岡市中心に8店舗。魚介類に強みを持つ「サンコー」を81.6%取得。
- 北陸戦略を加速し、地元の食文化と合体することでバローが持つ生鮮ノウハウを掛け合わせる狙い。
- 三幸(富山県)や昭和フイルム(2023年3月)など
- 合成樹脂原料やインテリア商品の販売を手がける昭和フイルムを子会社化
- PB商品のパッケージフィルムなどを自前化しコストダウンや品質向上を目指す
バローHDはスーパー以外にもホームセンター「ホームセンターバロー」やドラッグストアを手がけ、流通統合の加速がうかがえます。
9.建設・不動産・インフラ系の事例
9-1. トーホーによる食品スーパー「トーホーストア」の売却検討とバローホールディングスへの一部譲渡(2023年~)
概要
業務用食品卸のトーホー(神戸市)は、傘下の食品スーパー「トーホーストア」(兵庫県中心34店舗)の再建を図る中で、バローHDの中部薬品や八百鮮、ヤマタなどへ店舗ごとに分割譲渡を進めています。岐阜県多治見市に本社を置く中部薬品が複数店舗を取得する予定です。
背景と狙い
- 関西圏におけるスーパーマーケット事業の低迷
- バローHDグループが関西進出を強化し、エリアの店舗ネットワークを拡大
- トーホーストアは大半の店舗を閉鎖し、事業から撤退予定
流通再編が広域化し、岐阜県企業が他県の店舗を取得する事例として注目されます。
9-2. ひかりHDのトライによる小林工業の子会社化(2021年2月)
概要
ひかりホールディングス(神奈川県)は電気通信工事の子会社・トライ(愛知県春日井市)を通じ、土木工事・建物改修の小林工業(岐阜県可児市)を買収。1944年創業の老舗です。
背景と狙い
- 建設工事の業容拡大
- 既存の通信工事や設備工事とのシナジー
- 地域のインフラ投資需要取り込み
建設業は人手不足や後継者問題が深刻化しており、県外資本との提携・買収が進んでいます。
9-3. OCHIホールディングスによるDS TOKAIの子会社化(2014年12月)
概要
OCHIホールディングスは建設・土木事業を行うDS TOKAI(岐阜県可児市)を約8~9億円で子会社化。東海建設として1972年に創業し、岐阜・愛知エリアを中心に活動してきました。
背景と狙い
- 中京圏での建築工事事業拡大
- 非住宅分野の専門知識と営業基盤獲得
- 規模拡大による仕入れ・受注の効率化
建築・土木分野でのM&Aは公共事業や再開発案件に対応するうえでも重要です。
9-4. メイホーホールディングスによるノース技研・サンライフケア事業取得(2021年)
概要
メイホーHDは岐阜県を中心に建設コンサル、人材派遣、建設、介護の4事業を展開。北海道の建設コンサル「ノース技研」を子会社化したほか、愛知県常滑市のサンライフケアから通所介護事業所を取得し、介護分野でも拡大を図っています。さらに、2018年には地域コンサルタント(岐阜県恵那市)を子会社化するなど、建設関連の人材・ノウハウを積極的に集約しています。
10.製造業・ものづくり関連の譲渡・買収
10-1. 富士テクニカ宮津による富士アセンブリシステムの譲渡(2012年7月)
概要
自動車用溶接治具製造の富士アセンブリシステム(岐阜県関市)を連結子会社から外し、株式を無償譲渡し、債権の一部放棄を行いました。累積赤字が大きく、第三者の下で再建を図る狙いです。
背景と狙い
- 親会社の財務負担軽減
- 富士アセンブリシステムは新体制で事業基盤拡充
- 自動車産業の再編とグローバル競争への対応
製造業では赤字子会社の切り離しや事業提携を通じた再生がよく見られます。
10-2. 田辺三菱製薬による田辺製薬吉城工場のニプロファーマ譲渡(2019年2月)
概要
田辺三菱製薬は医薬品小分け包装を行う子会社「田辺製薬吉城工場」(岐阜県飛騨市)をニプロファーマ(大阪市)に譲渡しました。少量多品種の医薬品包装に対応する生産拠点として機能してきましたが、ニプロファーマ傘下でも委託製造は継続予定です。
背景と狙い
- 製薬企業のバリューチェーン最適化
- ニプロファーマは受託製造事業で国内トップクラス
- 地域雇用維持と事業継続
医薬品製造領域では大手同士の再編やCMO(医薬品受託製造)への移管が進行しています。
10-3. シャルレによる田中金属製作所(岐阜県山県市)の買収とその後の事業再編(2020年7月~2023年2月)
概要
下着・アパレルメーカーのシャルレは、ウルトラファインバブル技術を用いたシャワーヘッド製造で知られる田中金属製作所の全株式を取得しました。しかし、2023年2月に真ちゅう部品・金属切削加工事業を分社化し、前社長に譲渡して「TKS」に社名変更するなど、事業分割が進められています。
背景と狙い
- 美容・健康領域への事業拡大を目指すシャルレが、人気の美容シャワーヘッドを取り込む
- 金属加工事業とシャワーヘッド事業のシナジーが乏しく、分離して効率化
- 岐阜県内におけるものづくり企業の技術承継
ウルトラファインバブル市場は近年注目されており、大手アパレルの参入で話題となりました。
10-4. コメ兵によるフォーバイフォーエンジニアリングサービスの子会社化(2019年5月)
概要
リユース大手のコメ兵は、自動車用ホイールの企画・開発・販売を行うフォーバイフォーエンジニアリングサービス(岐阜県可児市)を買収。不動産事業は含まず、ホイールブランド「BRADLEY」などの事業を取り込みました。
背景と狙い
- コメ兵は中古タイヤ・ホイール事業を展開しており、開発力の強化を狙う
- フォーバイフォー社はクロスカントリー車専用に特化した独自ブランドを保有
- 相互の顧客基盤を活かし売上拡大
中古品と新規開発品の融合が、付加価値の高いサービス展開を可能にしています。
10-5. イチネンHDによる共栄(岐阜県高山市)の子会社化(2015年8月)
概要
工作機械や工具販売を行う共栄の全株式を取得。機械工具販売事業におけるラインナップ拡大と新たな商圏の確立を目指しました。
背景と狙い
- 飛騨地方など、岐阜県北部への販売ネットワーク拡充
- 工作機械業界での競争力強化
- 町工場や中小メーカーの購買需要を掘り起こす
11.自動車ディーラー再編とVTホールディングスの動き
11-1. VTホールディングスによるホンダ四輪販売丸順の子会社化(2020年11月~2021年1月)
概要
VTホールディングスはホンダディーラーのホンダ四輪販売丸順の株式を追加取得し、34%から66%へ引き上げました。これにより岐阜県大垣市のホンダ販売網を強化。
背景と狙い
- VTHDはホンダカーズ東海を傘下に持ち、愛知県や岐阜県などで店舗展開
- PDIセンター(新車納整工場)の運営も協力して行い、経営効率アップ
- 地元ディーラーの後継者問題解決
自動車販売では大手ディーラーグループが地域子会社を取り込む動きが増加しています。
11-2. VTホールディングスによる富士モーター商会・大兵自動車の店舗取得(2021年4月)
概要
同社傘下のホンダカーズ東海が、愛知県津島市のホンダカーズ2店舗(富士モーター商会・大兵自動車から)を事業譲受し、愛知県内の販売拠点を拡充。
背景と狙い
- 中京圏でのホンダ車販売のシェア拡大
- 地域販売会社の集約による効率的な運営
岐阜・愛知など東海地方一帯を広域商圏と位置づける戦略の一端と見られます。
12.その他の注目事例
12-1. マーチャント・バンカーズによる土岐グランドボウルのボウリング事業譲渡(2024年3月)
概要
マーチャント・バンカーズは「土岐グランドボウル」(岐阜県土岐市)のボウリング事業をスポルトに無償譲渡し、土地建物は10年間の定期建物賃貸借契約を結び賃料収入を得る方針です。
背景と狙い
- ボウリング事業から撤退し、本業の投資事業に集中
- 地域アミューズメント施設の継続運営を図る
- 財務上の選択と集中によるコスト圧縮
歴史ある娯楽施設を残しつつ、運営ノウハウを持つ企業に譲渡する事例です。
12-2. サーラコーポレーションによる同和化学の子会社化(2024年2月)
概要
サーラコーポレーションは動物用医薬品卸のアスコを通じ、同和化学(名古屋市、主に愛知・岐阜エリアを商圏)を子会社化。中部エリアでのシェア拡大を図ります。
背景と狙い
- ペット市場や畜産関連市場の拡大
- 新しい分野での事業領域拡充
- 岐阜県を含む中部地域での物流網や営業力強化
動物用医薬品卸は限られたプレイヤーが多く、M&Aで地域シェアを固める傾向があります。
総括と今後の展望
岐阜県で見られるM&A動向は、以下のような大きな特徴が挙げられます。
- レジャー・観光施設の再編
スキー場やゴルフ場、ボウリング場などを中心に、施設運営企業や他エリアのレジャー大手が取得する例が目立ちます。人口減少や娯楽の多様化による利用者減少をカバーしつつ、新たな集客策で地域活性化を狙う動きがあります。 - 製造業・医薬品関連の再編
岐阜県には古くからの地場産業や大手メーカーの工場が点在しており、事業承継や選択と集中による譲渡が進んでいます。また、グローバル化に対応するため海外資本との連携もみられます。 - 食品スーパー・流通業の広域化
バローホールディングスをはじめ、多店舗展開する企業が県内・県外を問わず地域スーパーを買収し、シェア拡大を図るケースが盛んです。特に生鮮食品や惣菜へのノウハウがキーとなり、地元顧客の支持を得ることが重要になっています。 - 不動産・物流拠点としての岐阜県の優位性
中京圏の一角として、各物流企業が岐阜県を拠点に大型倉庫を構えたり、物流子会社を設立したりする事例が増加しています。地元企業の株式を取得し、物流体制の効率化やEC需要増への対応が進んでいます。 - 事業承継問題への対応
高齢化が進む中小企業の後継者不足が深刻化しています。M&Aによって存続を図る動きが多く、特に老舗の酒造、養魚場、金属加工などで都市部や上場企業が買収し、技術を継承するケースが見られます。 - 地域金融機関やファンドのサポート拡大
直接の事例としては言及が少ないものの、銀行・信金・ファンドなどによるマッチングサービスが拡充され、地元企業のM&Aを後押ししています。今後も公的機関や金融機関が地方再生を目指した取り組みを強化すると考えられます。
総じて、岐阜県におけるM&Aは「大手企業の非中核事業整理」「地方の老舗企業の後継者問題解決」「広域展開を目指す中堅企業による買収」などが主要なテーマとして表れています。また、ものづくり県としての歴史を持つ一方で、観光資源も豊富であることが特徴であり、レジャー産業の変動も少なくありません。製造業ではEV関連や医薬品製造、食品加工など新たな成長分野に注力するための資本提携も増加傾向です。
今後は人口構造の変化やデジタル技術の進歩、カーボンニュートラルやSDGsへの対応などが企業戦略を大きく左右し、岐阜県内においても更なる業種再編が見込まれます。その際には地元企業同士の合併や大都市圏企業による買収、海外資本とのアライアンスなど、多彩なM&Aスキームが用いられるでしょう。地域経済の活性化に向け、行政・金融機関・専門家・事業者が一体となって、円滑なM&Aを後押しすることが重要となります。
おわりに
本稿では岐阜県に関連するM&Aの実例を多数ご紹介し、それぞれの背景や狙い、地域への影響などを概観してまいりました。企業の成長戦略や事業承継、地域経済の活性化など、M&Aの目的は多岐にわたります。岐阜県は地理的にも産業構造的にも多彩な要素を持ち合わせており、M&Aによる再編は今後も続くと考えられます。事例の一つひとつが企業のみならず地域社会にとっても大きな意味を持ち、雇用の維持・創出や技術伝承にも直結します。引き続きM&A動向を注視し、地域に根差した企業の持続可能な発展に繋がるかどうかが重要な論点となるでしょう。
今後も岐阜県が多様な産業や伝統技術を活かし、次世代の経営環境や市場ニーズに適応していくうえで、M&Aが有力な選択肢になり続けることは間違いありません。県内外の企業間連携がより盛んになることで、豊かな自然や文化と融合した新たなビジネス創出にも期待が高まります。岐阜県におけるM&Aの事例は、地方創生の一端を垣間見る上でも大変興味深い題材といえます。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。