- 1. 愛媛県のM&A概況と背景
- 2. 物流・運送業のM&A動向
- 3. 製造業・卸売業をめぐるM&A
- 日本紙パルプ商事<8032>とゴークラ(2009年10月1日発表)
- 北越紀州製紙<3865>(現・日本製紙グループ)と大王製紙関連(2012年6月26日発表)
- 小津産業<7487>によるディプロの子会社化(2013年5月13日発表)
- 石井表記<6336>、上海賽路客電子を子会社化(2014年10月22日発表)
- テクノホライゾン・ホールディングス<6629>、エムディテクノスを子会社化(2019年6月21日発表)
- ありがとうサービス<3177>と今治デパート傘下企業(2020年4月13日発表)
- 「今治タオル」大手の一広、川辺<8123>をTOBで子会社化(2020年12月21日発表)
- アウトソーシング<2427>とCELCOグループ(2014年12月22日発表)
- OCHIホールディングス<3166>による愛媛プレカットの子会社化(2018年5月7日発表)
- ダイキアクシス<4245>とアルミ工房萩尾(2021年10月22日発表)
- 4. 流通・小売業のM&A事例
- 5. タクシー・サービス業のM&A
- 6. 医薬品・ヘルスケア・介護業界のM&A
- 7. 農業・水産・食品関連M&A
- 8. 金融・証券業界のM&A
- 9. 建設・プラント関連業のM&A
- 10. エレベーター保守管理業のM&A
- 11. エネルギー関連のM&A
- 12. 愛媛県におけるM&Aの潮流と今後の展望
- おわりに
1. 愛媛県のM&A概況と背景
愛媛県は四国の北西部に位置し、瀬戸内海に面しているため古くから造船や製紙、水産加工などの産業が栄えてきました。特に四国中央市周辺の「紙のまち」として知られる製紙業や、瀬戸内海の豊富な水産資源を活かした養殖・食品加工産業、そして今治市や新居浜市を中心に展開する造船・プラント関連企業など、基幹産業は多岐にわたります。
一方で、地方の人口減少や企業経営者の高齢化が進む中、愛媛県でも事業承継の必要性や新しい技術・ノウハウ導入への期待を背景に、県内外の企業によるM&Aが活発化している状況にあります。また、四国内だけではなく、中国・関西地方など近隣地域との経済交流や流通網の連携も盛んであり、県を越えた企業同士の資本提携・買収案件が目立ちます。
以下では、物流・運送業、製造業・卸売業、流通・小売業、サービス業、医薬・ヘルスケア関連など、多岐にわたる愛媛県のM&A事例を詳しくご紹介しながら、そこにある狙いやシナジー効果、今後の展望について探ってまいります。
2. 物流・運送業のM&A動向
大和ハウス工業<1925>、神山運輸・神山トランスポートを子会社化(2022年8月9日発表)
大和ハウス工業は、愛媛県松前町の運送業者である神山運輸、神山トランスポートの2社を株式交換で子会社化しました。神山運輸は低温物流、神山トランスポートは長距離幹線輸送を得意とし、全国規模の冷凍食品輸送サービスを提供しています。大和ハウスは自社の物流施設設計・施工ノウハウにとどまらず、物流ビジネス全体をトータルに手がける戦略を掲げており、両社の強力な輸送網と組み合わせることで国内物流の最適化を図る狙いがあります。
大王製紙<3880>による鬼怒川ゴム工業傘下・ケイジー物流の子会社化(2020年5月27日発表)
衛生用紙「エリエール」で知られる大王製紙は、鬼怒川ゴム工業の子会社であるケイジー物流(千葉市)の全株式を取得し、子会社化しました。大王製紙のグループ物流会社ダイオーロジスティクス(愛媛県四国中央市)を通じて株式を取得する形です。ケイジー物流は自動車部品輸送のノウハウを持ち、関東や九州で営業所を展開しています。大王製紙は製造拠点と需要地を結ぶ物流網の効率化と、グループ外への輸送サービスの拡充を目指しており、このM&Aは全国的な物流体制強化の一環といえます。
三井倉庫ホールディングス<9302>と丸協グループ6社(2015年11月4日発表)
三井倉庫HDは、大阪府を拠点とする丸協運輸(大阪府寝屋川市)、ならびに愛媛県東温市に本拠を構える「丸協運輸(愛媛)」などグループ計6社を買収し子会社化しました。丸協グループはトラック1,000台超を保有し、全国規模で運送業・倉庫業を展開しています。三井倉庫はこれにより幹線輸送から小口配送まで一貫した物流サービスを充実させ、小ロット化・多頻度化の進む市場に対応できる体制を整えたというわけです。四国エリアにおいても、丸協愛媛のネットワークを活用し、さらなる営業拡大を狙っています。
その他の物流関連M&A
- 日本紙パルプ商事や製紙企業による物流再編
紙パルプ業界が集中する四国中央市周辺では、製紙工場~物流拠点までの輸送効率化を目指す動きが盛んです。大王製紙や北越紀州製紙(現・日本製紙グループ)などが拠点を置き、グループ全体で輸送体制の見直しを進めています。M&Aのみならず、共同配送や共同倉庫利用などの連携事例が増えています。
3. 製造業・卸売業をめぐるM&A
日本紙パルプ商事<8032>とゴークラ(2009年10月1日発表)
日本紙パルプ商事は愛媛県四国中央市に拠点を置くゴークラ(和洋紙、文房具の販売・加工)へ追加出資を行い、持株比率を70%に引き上げ子会社化しました。紙製品の販売強化やグループシナジー創出を通じ、新規事業分野の開拓を目指す動きとして注目されました。紙産業が盛んな四国中央市においては、こうした紙商社や製紙会社が関わるM&Aが幾度となく発生しています。
北越紀州製紙<3865>(現・日本製紙グループ)と大王製紙関連(2012年6月26日発表)
大王製紙の創業家(井川意高氏関連)による不祥事を受けた事業再編の一環として、北越紀州製紙が大王製紙関連会社の株式を取得した事例です。その中で、大王商工(愛媛県四国中央市)を50.6%取得して子会社化することが決定し、さらに北越紀州製紙は大王製紙自体の株式保有比率も引き上げて筆頭株主となりました。愛媛県内の製紙業における資本再編として大きな話題となり、業界再編の象徴的な動きとして記憶されています。
小津産業<7487>によるディプロの子会社化(2013年5月13日発表)
小津産業は、ウェットティッシュなど不織布製品の製造・販売を行うディプロ(四国中央市)の全株式を取得し、完全子会社化しました。これにより、小津産業は不織布事業の拡充および家庭紙・日用雑貨部門との連携を強化。紙おしぼり・不織布製品など幅広い分野への営業力が高まりました。不織布は衛生用途など多岐にわたる需要があるため、愛媛県の紙産業クラスタとのシナジーを生み出す意図がうかがえます。
石井表記<6336>、上海賽路客電子を子会社化(2014年10月22日発表)
愛媛県に本社を置く石井表記は、中予電器(松山市)およびその子会社などから上海賽路客電子(上海セルコ)の全持ち分を取得しました。上海セルコは中国で基板実装や電子機器組立の受託製造を行う企業で、売上高45億円超の規模を持っています。石井表記は、太陽電池ウエハー事業などで債権を抱えていた関係もあり、この子会社化を通じて債権回収や事業基盤の強化を進めました。愛媛県を起点としながら、中国市場を狙うグローバルな展開が感じられる事例です。
テクノホライゾン・ホールディングス<6629>、エムディテクノスを子会社化(2019年6月21日発表)
FA(ファクトリーオートメーション)機器などを手がけるテクノホライゾンHDは、メカトロニクス関連装置メーカーのエムディテクノス(愛媛県西条市)の全株式を取得しました。これにより、製造現場向け装置の開発・生産体制を強化し、市場拡大が見込まれる産業用ロボット・自動化領域での競争力を高めています。
ありがとうサービス<3177>と今治デパート傘下企業(2020年4月13日発表)
ありがとうサービスはブックオフやモスバーガーなどのフランチャイズ事業を四国・九州地方で展開していますが、今治デパート傘下で飲食店を経営するエージーワイ(愛媛県今治市)の全株式を取得し子会社化しました。喫茶店やレストランを運営するエージーワイを取り込むことで、さらなるフードサービス事業の拡大と地域密着型の店舗運営を強化しようとするものです。
「今治タオル」大手の一広、川辺<8123>をTOBで子会社化(2020年12月21日発表)
タオルメーカー大手の一広(愛媛県今治市)は、ハンカチやスカーフなどの繊維製品を扱う専門商社・川辺に対してTOBを実施し、筆頭株主として保有割合を最大55%まで引き上げる計画を打ち出しました。川辺はジャスダック上場のまま残り、一広が筆頭株主として指揮をとることで、国内外でのタオルブランド・繊維商材の拡販に拍車をかける狙いがあります。今治タオルと川辺が培ってきた流通チャネルや海外工場の活用などを組み合わせることで、両社の製造・販売力を強化する事例として注目されました。
アウトソーシング<2427>とCELCOグループ(2014年12月22日発表)
人材サービス大手のアウトソーシングは子会社を通じ、愛媛県に拠点を置くCELCOグループのタイ子会社「CELCO (THAILAND) CO., LTD.」を株式取得し、90%を保有する形で子会社化しました。CELCOは電子機器のプリント基板製造などを手がけており、特に日系電機メーカー向けビジネスで実績があります。アウトソーシングとしては、東南アジアでの製造受託・人材派遣の拡大を図るうえで大きな足がかりとなるM&Aでした。
OCHIホールディングス<3166>による愛媛プレカットの子会社化(2018年5月7日発表)
九州で住宅建材卸を主力とするOCHIホールディングスは、松山市に本社を置く住宅用木材加工の愛媛プレカットを約13~14億円で買収し、子会社化を決定しました。愛媛プレカットは四国有数の木材加工能力をもち、住宅市場で機械化・プレカット化が進む中、継続的な受注拡大が期待される企業です。OCHIホールディングスはこれにより四国地区の事業基盤を強化し、プレカット事業を軸にさらなる拡販を狙っています。
ダイキアクシス<4245>とアルミ工房萩尾(2021年10月22日発表)
水処理装置・住宅機器事業のダイキアクシスは、愛媛県新居浜市のアルミ工房萩尾を完全子会社化しました。アルミ工房萩尾は住宅サッシやエクステリア建材の施工・販売を手がけており、ダイキアクシスの住設機器事業との連携により、住宅設備の総合提案が可能となるシナジーが期待されています。
4. 流通・小売業のM&A事例
フジ<8278>を中心とした流通再編
スーパーふじおかの子会社化(2012年9月18日発表)
愛媛県を地盤とするフジは、広島県廿日市市を拠点に10店舗を運営するスーパーふじおかの事業を会社分割のうえ取得し、完全子会社化しました。愛媛県に加え、広島県・山口県での店舗を展開するフジにとって、さらなる広域拡大の一手となったM&Aです。会社分割で新設会社を設立し、その全株式を取得する手法が用いられました。
ニチエーの子会社化(2020年1月14日発表)
2020年には広島県備後地区を中心にスーパー11店舗を展開するニチエーの事業を承継する新会社を設立し、フジがその全株式を取得して子会社化することを決定。ニチエーは売上高約90億円と地域密着の老舗スーパーであり、フジにとっては広島県東部エリアでの店舗網拡大に寄与する買収となりました。
レデイ薬局との提携(ツルハHD<3391>と共同TOB、2015年4月13日発表)
さらに、フジはドラッグストア大手のツルハホールディングスと共同で、中四国でドラッグストア「レデイ薬局」を運営するJASDAQ上場企業レデイ薬局の株式をTOBにより買い付けしました。最終的にレデイ薬局は非上場化し、ツルハHDが51%、フジが49%を保有する体制となりました。こうした流通・ドラッグの連携は消費者の利便性向上とグループ各社の収益拡大を狙うもので、愛媛県発のドラッグストアが大手資本と組む好例でもあります。
ウエルシアホールディングス<3141>による調剤薬局買収・ププレひまわりとの提携
愛媛県のネオファルマーやサミット買収(2020年5月18日発表)
ウエルシアは愛媛県四国中央市のネオファルマー(10店舗)と新居浜市のサミット(3店舗)の全株式を取得し、子会社化しました。四国での調剤事業を強化する狙いで、今後ドラッグストアとの併設やサービス拡充を図るとみられます。
ププレひまわり子会社化へ(2021年7月16日発表)
広島県福山市に本拠を持ち、中国・四国を中心に123店舗を展開するププレひまわりの株式50%超を取得し、ウエルシアHDの子会社化を目指すと発表。愛媛県を含む四国地方でも複数店舗を展開するププレひまわりとの連携によって、さらなる商勢圏拡大が見込まれます。ツルハHDとフジ、サンドラッグ、大屋などがしのぎを削る四国のドラッグストア市場は、こうした業界再編が一段と進んでいます。
サンドラッグ<9989>と四国のドラッグストア「大屋」(2022年9月1日発表)
サンドラッグは、愛媛県西条市を拠点とする大屋を完全子会社化することを決定しました。大屋は「mac」というドラッグストアブランドを四国4県を中心に50店舗以上展開し、売上高265億円と地域で大きな存在感を持ちます。サンドラッグは既にディスカウントストア「ダイレックス」を四国地方に出店しているものの、ドラッグ店舗としては本格参入ではなかったため、今回の買収がサンドラッグの四国戦略の転機になるとみられます。
フジオフードグループ本社<2752>、海鮮丼など丼専門店「ザ・どん」の運営子会社を譲渡(2023年6月28日発表)
「ザ・どん」は北海道・広島・愛媛など全国各地に展開していましたが、フジオフードグループ本社は店舗数の拡大やシナジーを慎重に検討した結果、当該子会社を第三者に譲渡しました。愛媛県内でも2店舗が展開されており、この地域における飲食業態の再編と多店舗展開の難しさが浮き彫りになった事例です。
5. タクシー・サービス業のM&A
第一交通産業<9035>と勝山タクシー(2012年4月9日発表)
第一交通産業は、松山市に拠点を置く勝山タクシーの全株式を取得し、勝山第一交通と社名変更しました。タクシー保有台数が19台増加し、同社グループとして愛媛県内の保有台数が53台、全国で7,000台超となりました。地域交通の確保が課題となる地方都市において、全国タクシー事業者による買収は経営の安定やサービス向上につながると期待されています。
ロイヤルホテル<9713>、リーガロイヤルホテル新居浜の譲渡(2012年4月6日発表)
ロイヤルホテルは、傘下のリーガロイヤルホテル新居浜(愛媛県新居浜市)をホテル再生を手がけるブリーズベイホテルに譲渡しました。ブリーズベイホテルとフランチャイズ契約を結んだうえで、名称はそのまま営業を継続。中期経営計画に基づきグループ基盤を強化する中で、不採算資産の切り離しという選択をとった形です。
広告・人材サービス分野のM&A
- セーラー広告<2156>とゴング(2009年3月24日発表)
セーラー広告は中国・四国地方を中心に営業拠点を持つ総合広告会社として、福岡県で広告事業を営むゴングを買収し子会社化しました。愛媛県にも拠点を有しており、両社協力による広告提案力の強化が狙いです。 - クリエアナブキ<4336>とミウラチャレンディ(2015年10月16日発表)
中国・四国地方No.1の総合人材サービス企業を目指すクリエアナブキは、愛媛県の人材派遣会社ミウラチャレンディを子会社化。愛媛県における売上高拡大と営業基盤の強化を図り、地域密着型の人材サービスを推進しています。
6. 医薬品・ヘルスケア・介護業界のM&A
パナソニックヘルスケアの大型譲渡(2013年9月27日発表)
パナソニックは、愛媛県東温市に拠点を置くパナソニックヘルスケア(医療機器事業、売上高980億円)を米投資ファンドKKR傘下のPHCホールディングスへ譲渡しました。譲渡価額は1,650億円。追加投資の必要性や医療分野の専門知識を得ることを背景に、パナソニック単独での経営継続が難しいと判断した結果でもあります。譲渡後もパナソニックは20%の株式を保有し、医療機器事業との協力関係を維持しています。
ソラスト<6197>による介護サービス企業の子会社化
- JAWA(2018年10月1日発表)
ソラストは大阪府や愛媛県などでグループホーム、有料老人ホームを運営するJAWAを買収。地域トータルケアの実現を目指し、事業所の拡大と専門性を強化しました。 - ベストケア(2017年9月27日発表)
愛媛県を中心に機能訓練型デイサービスを提供するベストケアを32億9000万円で取得。関東・関西においても事業展開するベストケアのノウハウを取り込むことで、ソラストの全国介護ネットワークを拡充させています。
トーカイ<9729>とドリームライフの福祉用具事業(2018年5月21日発表)
トーカイは介護・福祉用具サービスに注力しており、愛媛県北宇和郡のドリームライフが手がける福祉用具貸与・販売、住宅改修事業を会社分割で承継しました。愛媛県での営業基盤を持つドリームライフの機能を獲得することで、四国エリアでの拠点拡充と在宅介護サポートの強化が期待されています。
アルフレッサ ホールディングス<2784>と篠原化学薬品(2014年2月4日発表)
高知県・徳島県・愛媛県で診断薬卸売りを行う篠原化学薬品をアルフレッサHDが株式交換により完全子会社化しました。診断薬分野でのシェア拡大と四国における販売網の強化が目的です。医療用医薬品とは別に、診断薬領域も地方卸の再編が進んでおり、このM&Aもその一環といえます。
サンドラッグ、大屋のドラッグチェーン統合
前述の通り、サンドラッグは愛媛県西条市の大屋を完全子会社化し、四国地方で「mac」というドラッグチェーンを運営する大屋の店舗網をグループ内に取り込みました。医薬分野・ヘルスケア市場が拡大を続ける中、各大手ドラッグストアが地方有力チェーンの取り込みを加速させている代表例といえます。
7. 農業・水産・食品関連M&A
ヨンキュウ<9955>と海昇(2011年5月12日発表)
水産物や魚の餌料などを扱う海昇(愛媛県宇和島市)をヨンキュウが子会社化した事例です。海昇は売上高152億円と大きなスケールを持ち、鮮魚販売や養殖向け飼料などを幅広く手がけていました。ヨンキュウとの統合により販売数量の増加や新たな販路開拓など、相乗効果が期待されています。
ベルグアース<1383>の中国進出(青島芽福陽園芸の子会社化、2014年9月13日発表)
野菜苗・花苗の生産で知られるベルグアース(愛媛県宇和島市)は、山口園芸の100%子会社である青島芽福陽園芸(中国・山東省)の第三者割当増資を引き受け、株式の62.5%を取得し子会社化しました。これにより中国における野菜苗・花苗の生産・販売事業を本格的に展開し、将来的な海外市場の開拓を狙っています。愛媛県内には柑橘や野菜生産の基盤がある一方、中国は野菜の大消費地であり、今後の成長領域として期待を寄せています。
マルイチ産商<8228>、養殖魚事業のダイニチを子会社化(2024年9月13日発表)
水産物卸大手のマルイチ産商は、愛媛県宇和島市を拠点とするダイニチを111億4500万円で買収し、子会社化する予定を発表しました。ダイニチはマダイやブリなど養殖魚の「飼料製造~養殖~加工~販売」を一貫して行い、国内外の外食・海外市場にも流通網をもっています。国際認証「ASC」を世界で初めてマダイで取得するなど、養殖技術に強みがある企業です。マルイチ産商は、ダイニチを傘下に収めることで産地活性化と自社の水産バリューチェーン強化を図ろうとしています。
ワールドホールディングス<2429>とファーム(農業公園運営、2017年2月3日発表)
民事再生手続き中だったファーム(愛媛県西条市)の第三者割当増資をワールドホールディングスが引き受けて子会社化。農業公園を中心としたレジャー・観光ビジネスの再生を通じて地域雇用を創出し、地元との連携を強化する動きです。
8. 金融・証券業界のM&A
岡三証券グループ<8609>と愛媛証券(2024年5月21日発表)
岡三証券グループは子会社の岡三証券を通じて、松山市の愛媛証券が持つ金融商品取引業務を取得すると発表しました。岡三証券は2024年9月に証券プラットフォーム事業を開始する予定であり、その一環として愛媛証券の業務リソースや地元での顧客基盤を取り込むことで、中国・四国エリアでの事業拡大を図ります。
9. 建設・プラント関連業のM&A
新興プランテック<6379>、池田機工・東新製作所を子会社化
- 池田機工(2009年11月5日発表)
愛媛県西条市に拠点を置く動機械整備工事会社の池田機工を80%取得し子会社化。発電プラントや化学プラントのポンプ・コンプレッサー整備工事に強みを持ち、新興プランテックはプラントメンテナンス事業における技術力を補完できると判断しました。 - 東新製作所(2011年9月26日発表)
引き続き、石油・石油化学プラントの整備工事を行う東新製作所(新居浜市)も全株式を取得。四国地方に事業拠点を持つことで、石油化学集積地におけるプラントメンテナンスをさらに強化しました。
サノヤスホールディングス<7022>、サノヤス造船を新来島どっくに譲渡(2020年11月9日発表)
大阪で創業し、岡山県倉敷市の水島製造所で造船を行っていたサノヤス造船を新来島どっく(愛媛県今治市に造船拠点を持つ)に譲渡することを決定。世界的に新造船需要が落ち込む中、造船事業の赤字からの回復が難しいと判断したサノヤスHDが造船部門を切り離す形です。新来島どっくは四国有数の造船企業であり、今治市周辺は国内屈指の造船集積地として知られています。
10. エレベーター保守管理業のM&A
ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>とエヒメエレベータサービス(2021年7月14日発表)
ジャパンエレベーターサービスHDは、愛媛県松山市のエヒメエレベータサービス(保守契約台数1,300台超)を買収し子会社化しました。地方都市で独立系エレベータ保守会社が一定のシェアを持つケースは多く、ジャパンエレベーターサービスは全国展開を進める一環として、その実績やノウハウを取り込み、保守管理の効率化や受注拡大を目指しています。
11. エネルギー関連のM&A
大阪ガス<9532>と伊藤忠エネクス<8133>の提携(2017年8月3日発表)
両社はLPガス(液化石油ガス)事業で提携し、関東・中部・関西の各地域を統合した新会社「エネアーク」を共同出資で設立しました。一方でそれ以外の地域(愛媛県松前町にある愛媛日商プロパンなど)については、大阪ガスが保有する子会社株式を伊藤忠エネクスグループに譲渡し、地域ごとの事業再編を進める形となりました。愛媛県や高知県に存在する日商プロパンは、伊藤忠エネクスホームライフ西日本に移管され、エリア内での競争力強化が図られています。
12. 愛媛県におけるM&Aの潮流と今後の展望
本記事で見てきたように、愛媛県におけるM&Aは製紙・紙加工業、造船・プラント関連、水産養殖、ドラッグストアやスーパーなど多岐にわたります。その背景には、以下のような要因が考えられます。
- 事業承継・後継者不足への対応
地方企業では経営者の高齢化や後継者難が進んでおり、優良企業であっても次の世代に承継できないリスクが高まっています。そのため、大手企業やファンドなどの資本受け入れによって経営を安定化させる動きが活発化しているといえます。 - 地域経済の縮小と生き残り戦略
愛媛県を含む四国全体で人口減少は続いており、内需頼みの事業では先行きが厳しいケースが増えています。M&Aにより販路を広げたり、他地域や海外との連携を進めたりすることで、収益源を多様化しようとする動きが目立ちます。 - 産業クラスターの強化・シナジー創出
四国中央市の製紙・紙加工業、今治市のタオル産業や造船業、宇和島市の養殖産業など、愛媛県内には地域産業クラスターが存在します。M&Aによって同業者や関連業者を取り込み、垂直統合や横の連携を強化することで、競争力を高める動きが加速しています。 - 大手企業や投資ファンドの積極参入
パナソニックの医療機器事業や、投資ファンドJ-STARを通じて成長を図ってきたダイニチなど、大手・外資ファンドが愛媛県内の企業に注目し、買収や資本提携を行う事例が増加しています。地元中小企業にとっては新しい技術・知見・資本を獲得できるチャンスであり、地域の雇用維持につながる期待があります。 - 広域連携・地域を越えたM&A
物流や流通、小売に代表されるように、近隣県との連携強化や、中国・関西・九州エリアにまたがる広域物流網の構築など、地理的要因を活かしたM&Aも進んでいます。愛媛県だけでなく、四国内はもとより瀬戸内海を介した経済圏や、関西・九州圏との連携により相乗効果を狙う動きがますます拡大していくでしょう。
今後の見通し
- 中小企業のさらなる統合
地方の中小企業が個別に生き残るのは難しく、業界再編や同業他社との連携強化が不可避とみられます。とくに建設業やサービス業では、事業承継・人材不足など課題が深刻化しており、M&Aや共同出資による再編が予想されます。 - 海外市場を睨んだM&A
中国をはじめとしたアジア地域への輸出や現地展開を目指す企業が増えており、ベルグアースやCELCOグループの事例のように、海外企業との連携や現地法人の買収がさらに増加すると考えられます。 - 投資ファンド・PEファンドの活発化
近年、国内外のプライベート・エクイティ(PE)ファンドが地方の優良企業に積極的に投資し、成長を支援する動きが顕著です。愛媛県でも大王製紙やダイニチなどがファンドの力を得て事業再編を進めた例があります。今後も類似の事例が増えるでしょう。 - 大手ドラッグストア・流通企業の競争激化
ドラッグストア業界やスーパーマーケット業界では、全国大手が愛媛県内の有力企業を相次いで買収しており、今後は地域密着型小売との競合がさらに厳しくなると見込まれます。こうした競争環境の中、差別化戦略としてサービス拡張や調剤機能の充実化が一層重要となります。 - 観光・サービス分野の再編
ホテルやレジャー施設、飲食業などはコロナ禍の影響を受け、経営環境が大きく変化しました。今後は観光需要の回復に伴う投資と、持続可能な経営に向けた再編や共同事業化が進む可能性があります。
おわりに
愛媛県におけるM&Aは、県内企業の成長戦略や事業承継、地域経済の活性化をはじめ、多種多様な狙いで行われています。製紙や造船、水産養殖といった伝統的産業から、ドラッグストア・調剤薬局やIT系、介護事業に至るまで、業種の幅広さが本県の産業構造の豊かさを物語っています。
しかしながら、人口減少と高齢化が進む地域社会において、企業規模の拡大や資本力・ノウハウの注入は避けて通れないテーマであり、M&Aという形で地域企業が大手や外資系ファンドと連携を深める動きは今後ますます活発化すると予想されます。
また、愛媛県は四国内でも地理的に比較的都市機能が整備され、瀬戸内海側の交通利便性などを背景に、海外との経済連携や近隣地域との広域経済圏を形成しやすい立地です。こうした優位性を生かし、県内企業が全国・海外企業との協業で新たなビジネスモデルを構築する流れも、今後の地域活性につながる大きなポイントとなるでしょう。
M&Aは時に「買収される側が吸収される」といったネガティブな見方をされることもありますが、本記事で紹介した事例の多くは、地域に根ざし、そこで育まれた強みや技術をより大きな枠組みで生かすためのポジティブな選択といえます。大手による買収でも、地元企業の社名や拠点を維持しながら雇用を守り、さらなる販路拡大や技術開発を促しているケースも少なくありません。むしろ、このような連携こそが地方創生の一助となり、企業と地域社会の双方にとって好ましい成果をもたらすはずです。
愛媛県は、造船・タオル・紙産業といった国内有数のクラスター産業を抱え、農水産物でも高品質なブランドを有しています。これらの魅力を生かすうえでも、今後のM&Aや資本提携がさらなる発展のカギを握るでしょう。企業側は戦略的に協力先を選び、地域行政や金融機関もM&Aを通じた企業の成長支援・事業承継支援を強化することで、愛媛県全体の産業力向上と経済の活性化がいっそう進むと期待されます。
以上、愛媛県にまつわるさまざまなM&A事例を概観しながら、その背景と今後の展望についてお伝えしました。企業活動は常に動いており、新たな提携や買収情報が今後も続々と出てくることでしょう。今後も愛媛県におけるM&A動向に注目しながら、地域産業のさらなる発展を見守っていきたいと思います。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。