目次
訪問看護ステーション運営業の市場環境
訪問看護ステーションの市場環境は、以下の点が特徴です。
– 需要の増加:訪問看護の需要は急速に増加しており、2021年にはコロナ禍の影響を受けながらも過去最大の前年比1,161件の増加を記録しました。高齢化率の増加や在宅療養のニーズ拡大が要因です。
– 事業所の増加:訪問看護ステーションの事業所数は10年で2倍以上の増加を記録しており、2024年4月1日時点で17,329件に達しました。新規開設も続いています。
– 規模の拡大:訪問看護ステーションの規模は徐々に拡大傾向にあり、利用者数100人以上のステーションが20.9%を占めています。
– 小規模事業所の多い状況:訪問看護ステーションの規模は39人以下が35.9%を占めており、小規模な事業所が多い状況です。
– スタッフの確保が課題:訪問看護ステーションの運営には看護師含め、スタッフの安定的な確保が必須ですが、採用や人事管理の面で苦労している事業所が多くあります。
– M&Aの活発化:訪問看護事業のM&A(事業譲渡)は活発に行われており、売上高5,000万円~1億円の規模の法人(事業)の案件が多い傾向にあります。
– 需要と供給の乖離:訪問看護における人材確保が困難であり、求人倍率が3.22倍と最大になっています。
これらの点を踏まえると、訪問看護ステーションの市場環境は需要の増加と規模の拡大が進む一方で、スタッフの確保やM&Aの活発化が課題となっています。
訪問看護ステーション運営業のM&Aの背景と動向
訪問看護ステーション運営業のM&Aの背景と動向は以下の通りです。
### 背景
高齢化社会の進展
日本の高齢化が進む中、訪問看護ステーションの需要は今後も増加すると考えられています。これにより、事業規模の拡大や新規参入を目的としたM&Aや事業承継が増加することが期待されています。
### 動向
需要の増加と事業規模の拡大
訪問看護ステーションの需要の増加は、要介護度が高い高齢者の増加や、訪問看護ステーションの数が多く職員が不足していることによるものです。これにより、M&Aや事業承継が活発化しています。
関連業種とのシナジー効果
訪問看護業と関連する業種とのM&Aは、双方の事業が組み合わさることでシナジー効果の創出が期待されています。例えば、老人ホームなどの事業と組み合わせることで、特有のノウハウや技術を活用することが可能です。
### 流れ
M&Aの流れ
訪問看護ステーションのM&Aや事業承継は以下の流れで行われます。
1. M&A・事業承継の専門家に相談
2. M&A・事業承継先の選定及び、交渉開始
3. M&A・事業承継先のトップと面談
4. M&A・事業承継先との基本合意書の締結
5. M&A・事業承継先によるデューデリジェンスの実施
6. 最終契約書を締結する
7. クロージング
最終契約書はすべての内容において法的拘束力をもつため、締結後は特別な理由がない限り破棄することはできません。
### 注意点
M&Aの理由を明確にする
M&Aや事業承継を行う理由を明確にすることが重要です。自社が何を目的としてM&Aや事業承継を行うのかを明確にしておかなければ、一貫した交渉を進めることはできません。
従業員の雇用維持
M&Aや事業承継を行う際には、従業員の雇用維持を最優先することが重要です。従業員が退職するのを防ぐため、明確な計画を立てることが必要です。
### メリット
経営資源の獲得
訪問看護事業を買収すると、人材やノウハウ、オフィスなどの経営資源を獲得できます。また、自社が進出していないエリアの顧客を獲得することで、事業規模の拡大も実現できます。
### 手法
株式譲渡と事業譲渡
訪問看護業のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡以外に、会社分割や合併などのスキームが用いられる場合もあります。具体的には、グループ内の訪問看護事業を統合・再編する場合には、会社分割や合併などのスキームが用いられます。
訪問看護ステーション運営業のM&A事例
訪問看護ステーション運営業のM&A事例を以下にまとめます。
### 訪問看護ステーション運営業のM&A事例
1. センコーグループHDによるビーナスの株式取得
– ライフサポート事業の強化が目的であり、積極的にエリア拡大を進めていく。
– ビーナスは、高齢者の介護予防サービスを中核事業とする会社であり、デイサービスの「ビーナスクラブ」や訪問看護の「訪問看護ステーション」など、合計43施設を運営しています。
2. セントケアHDによるミレニアの株式取得
– 双方の介護関連のノウハウを共有することで、グループ全体の企業価値向上に努めるとしています。
– ミレニアは、訪問看護事業を中核とする会社であり、平成16年の設立から事業を発展させ、東京都内に9ヶ所の訪問看護ステーションを保有しています。
3. ノーザリーライフケアの株式取得(日本ホスピスホールディングス)
– 北海道内におけるホスピス住宅展開、事業拡大を目的としています。
– 日本ホスピスホールディングスは、末期がん患者と難病患者を対象としたホスピス住宅を運営しています。
4. グッドパートナーズの株式取得(チャーム・ケア・コーポレーション)
– グッドパートナーズが有する経営資源(人材や成長性の高い事業など)の獲得を目的としています。
– チャーム・ケア・コーポレーションは、首都圏や近畿圏で介護付有料老人ホームを展開しています。
5. セントケア・ホールディングによるミレニアの支援
– セントケア・ホールディングは、在宅介護サービス事業を展開しており、ミレニアの支援を通じて双方の介護関連のノウハウを共有しています。
### 近年の動向
近年、訪問看護業界ではM&Aが活性化しており、拡大する訪問看護需要に対応するため、訪問看護ステーションの増設や看護人材の獲得に乗り出す事業者が増加しています。日本の高齢化が今後も加速するため、今後も訪問看護のM&Aは増加するとみられています。
訪問看護ステーション運営業の事業が高値で売却できる可能性
訪問看護ステーションの事業が高値で売却できる可能性について、以下のポイントをまとめます。
– 収益性が高い:訪問看護ステーションは収益性が高い分野であり、基本的な収益の仕組みは看護処置を実施して診療報酬や介護報酬を得ることで売上を出します。
– 人件費が大きな費用:訪問看護の運営において最も大きな費用がかかるのは人件費です。常勤で2.5人分の看護師等を配置する必要があります。
– 収支差率の変動:厚生労働省の調査によると、2021年度の決算収支差率は税引き前で7.2%、2022年度は5.9%で、毎年黒字で推移していますが、年々わずかながら収支が悪化しています。
– 収入における人件費率の増加:令和4年度決算で収入に対する給与費の割合が74.6%で、令和3年度と比較し0.7%増加しており、訪問看護の収入における人件費率が増加しています。
– 訪問回数の減少:令和5年度の実態調査によると、延べ訪問回数は13.2回減少していますが、訪問1回あたりの収入は増加しています。
– 企業価値の重要性:訪問看護ステーションの事業価値はあくまでも人で構成されており、人員体制がとても重要です。売却を焦らず、利益率を上げたり、新サービスで収益の拡大を図ったり、採用の仕組み構築するなど、企業価値を高めるための対策が求められます。
これらのポイントを考慮すると、訪問看護ステーションの事業が高値で売却される可能性はあるものの、収益性の維持や企業価値の向上が大切です。収益性の維持と企業価値の向上が重要です。
訪問看護ステーション運営業の企業が会社を譲渡するメリット
訪問看護ステーション運営業の企業が会社を譲渡するメリットは以下の通りです。
– 資金繰りが解放される: 訪問看護の運営には人件費や燃料費など多くの経費がかかり、常に資金繰りが課題となります。事業売却により、厳しい資金繰りから解放されます。
– スタッフの雇用や利用者へのサービス提供を継続できる: スタッフは譲受先の新しいオーナーのもと、基本的には従来通りの条件で引き続き雇用され、利用者へのサービス提供も継承されます。
– 事業の成長拡大が期待できる: 規模の大きな企業に統合される可能性があり、経営資源やノウハウの共有によって事業の成長拡大を図ることができます。
– 廃業よりも少ない負担で事業から撤退できる: 廃業手続きには利用者の引継ぎやスタッフ関連で資金と労力を要しますが、事業売却ではこうした金銭的な負担や労力の負担が少なく事業からの撤退ができます。
– 投資回収・現金化までの期間を短くできる: ストック型のビジネスである訪問看護ステーションでは長期計画で投資を回収していくことになりますが、事業売却では未来に予想される収益も価値として算定することができるため、投資回収までの期間を大幅に短縮し、現金化を早めることができます。
– 後継者不足の問題を解決できる: 親族や社内に後継者がいない場合でも、事業を売却することで、売却先の企業が事業を引き継ぎ、スタッフの雇用とサービス提供を継続することができます。
– 売却利益を獲得できる: 訪問看護ステーションを売却することで、経営者は売却利益を獲得できます。
– 経営資源を確保できる: 買収によって医療スタッフ、設備、顧客基盤、また事業ノウハウや地域のネットワークといった経営資源を確保することができます。
– 事業成長とリス軽減ができる: 新たな地域市場に参入することで、地域展開を促進し、事業の成長を実現できます。また異業種の買収では、異なる事業を展開することで、単一の事業に依存するリスクを軽減できます。
訪問看護ステーション運営業の事業と相性がよい事業
訪問看護ステーション運営業の事業と相性がよい事業は以下の通りです。
– 介護保険事業: 訪問看護ステーションは介護保険事業と密接に関連しており、介護保険の利用者に対する訪問看護サービスを提供することで収益を得ています。介護保険の利用者は、訪問看護指示書に基づいて看護処置を受けることができ、診療報酬や介護報酬を得ることができます。
– 医療保険事業: 訪問看護ステーションは医療保険事業も受け入れ、重症度の高い利用者に対して頻回の訪問を行い、収入を増やすことができます。医療保険の利用者に対する訪問は、30分以上で同一報酬となるため、回数を多く訪問することで収入が増加します。
– 在宅医療事業: 訪問看護ステーションは在宅医療事業と密接に関連しており、患者宅へ医師や看護師を派遣することで事業が成り立つ経営です。開業するうえで経営者に特定資格の必要はありませんが、事業運営において看護師や保健師などの有資格者の職員を確保する必要があります。
– 地域貢献事業: 訪問看護ステーションは地域貢献事業としても評価されており、地域の医療や介護の状況をよく知り、必要なサポートを的確に届けることでステーションの成長が期待されます。
これらの事業は、訪問看護ステーションの経営を支える重要な要素であり、相性がよい事業として挙げられます。
訪問看護ステーション運営業の企業がM&Aを依頼するならM&A Doがおすすめな理由
M&A Doは、訪問看護ステーション運営業の企業がM&Aを依頼する際におすすめの理由として、まず第一に譲渡企業様から手数料を一切いただかないという点が挙げられます。これにより、企業様はコストを気にせずにM&Aのプロセスを進めることができます。さらに、豊富な成約実績を持っており、多くの企業様に信頼されていることも大きな魅力です。加えて、訪問看護ステーション運営業の業界にも深い知見を保有しているため、業界特有のニーズや課題に対しても的確なサポートを提供することが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。