- 1. はじめに:福祉用具レンタル業界の背景
- 2. 福祉用具レンタル業界の特徴と課題
- 3. M&Aの意義と目的
- 4. 福祉用具レンタル業界におけるM&Aの動向
- 5. 具体的なM&A事例の紹介・解説
- 5-1. 芙蓉総合リースによる日本信用リースの子会社化(2021年)
- 5-2. 揚工舎によるケア・フレンドの子会社化(2021年)
- 5-3. 幸和製作所グループの複数買収・事業譲渡事例
- 5-4. ロングライフホールディングによる日本ビコーの子会社化(2011年)
- 5-5. ワキタによるニチイケアネットの子会社化(2023年)
- 5-6. メディカル一光グループのホームヘルスケア事業譲渡と買収事例
- 5-7. ニチイ学館の海外進出における福祉用具卸販売事業買収事例(2011年)
- 5-8. パラマウントベッドホールディングスによるSMFLレンタルの福祉用具レンタル卸事業取得(2024年予定)
- 5-9. ニチイ学館によるダスキンゼロケア事業取得(2009年)
- 5-10. トーカイグループによる福祉用具貸与・販売事業の積極的取得事例
- 5-11. マックスによるカワムラサイクルのTOB(2010年)
- 5-12. タカノによるユーキ・トレーディングの子会社化(2023年)
- 5-13. みらかホールディングスによるケアレックス完全子会社化(2009年)
- 5-14. フランスベッドホールディングスによる事業買収事例
- 5-15. ジェイ・エス・ビーによるフレンド・ケアシステムの子会社化(2019年)
- 5-16. シダーによるパインの買収(2011年)
- 5-17. ウェルディッシュによるグランドルーフの子会社化(2025年予定)
- 5-18. ココカラファインによる愛安住・キコーメディカル買収事例
- 5-19. エヌリンクスによるCoCoXiaの子会社化(2023年予定)
- 5-20. インターネットインフィニティーによるフルケアの子会社化(2021年)
- 6. 事例から見る共通点と今後の展望
- 7. まとめ:M&Aがもたらす福祉用具レンタル業界の未来
1. はじめに:福祉用具レンタル業界の背景
日本は世界でも類を見ないペースで高齢化が進展しており、総人口に占める65歳以上の割合は今後もさらに上昇すると見込まれています。こうした社会的背景のもと、介護保険制度のもとで必要となる福祉用具(車椅子やベッド、歩行器など)の需要が増えています。特に、高齢者が可能な限り在宅で自立した生活を送るためには、個々人の身体状況に合わせた福祉用具の利用が不可欠です。
福祉用具を提供するサービスには主に「レンタル(貸与)」と「販売」がありますが、現行の介護保険制度では、介護認定の度合いによってはレンタルサービスを活用するのが一般的です。また、福祉用具の適切な選定・メンテナンスには一定の専門知識と体制が求められるため、全国で多くの事業者が福祉用具レンタルや関連サービスを提供しているのが現状です。
一方で、競合が激化する中で安定的に利益を確保するためには、ある程度の規模拡大やサービスの多角化が避けて通れません。そうした背景から、福祉用具レンタル業界では近年、数多くのM&Aが実施されています。本記事では、この業界におけるM&Aの背景や狙い、具体的な事例を紹介しながら、将来的な展望について考察します。
2. 福祉用具レンタル業界の特徴と課題
2-1. 高齢化社会の進展
日本は急速な高齢化の進展によって、要介護認定を受ける人の数が年々増加しています。介護保険サービスの利用者数が増えるにつれ、福祉用具レンタルへの需要も高まることが見込まれています。特に、独居や高齢夫婦世帯の増加により、在宅で利用できる福祉用具の必要性は今後も拡大すると考えられます。
2-2. 介護保険制度との関係
福祉用具の貸与事業は、介護保険制度のサービス区分に含まれ、利用者は原則1割(条件により2〜3割)負担で福祉用具を借りることができます。こうした公的保険制度の下支えがあるため、景気変動に左右されにくいという特徴を持ちます。しかし、国や自治体の財政状況による給付費の圧縮、貸与品目や上限金額の見直しなどが随時行われるため、制度改正の影響を受けやすい側面もあります。
2-3. 参入障壁と競合状況
福祉用具レンタル事業を行うには、専門スタッフ(福祉用具専門相談員など)の配置や、介護保険制度の指定事業者としての認可取得が必要です。一方で、設備投資面での大きなハードルは比較的低いとされており、全国規模から中小規模の事業者まで、非常に多様な企業が参入しているのが現状です。大手介護事業者、医療機器メーカー系企業、リース会社、地元密着の小規模事業者などがひしめき合い、地域や品目ごとに激しい競合が繰り広げられています。
こうした競争下では、一定の規模を確保することでスケールメリットを活かし、より多様な福祉用具を取り揃えたり、在庫回転率を高めたり、メンテナンスコストを削減したりといった効率化が期待できます。そのため、M&Aによって事業基盤を拡充する動きが活発化しているのです。
3. M&Aの意義と目的
3-1. 事業拡大・シェア獲得
福祉用具レンタル業界でのM&Aの最大の目的の一つが、事業拡大や市場シェアの獲得です。同業他社を吸収したり、関連事業を併せ持つ企業を買収したりすることで、自社の売上規模や営業エリアを一気に拡大できます。また、競合相手を取り込むことで市場シェアを高め、価格競争力や交渉力を強化する狙いもあります。
3-2. サービスの多角化・付加価値の向上
介護サービス全般を手がける企業が、福祉用具レンタルに留まらず、訪問介護や居宅介護支援、デイサービスなど多角的に展開する例は少なくありません。M&Aによって、異なる介護領域や関連サービスを手掛ける企業をグループに加えることで、利用者への総合的な介護ソリューションを提供できるようになります。結果として、付加価値の高いサービスを展開でき、他社との差別化を図りやすくなります。
3-3. 経営資源の集中と選択
業界再編が進む中で、得意な事業領域に経営資源を集中させ、それ以外の事業を譲渡する企業も少なくありません。特に、福祉用具の製造や研究開発で強みを持つメーカーが、レンタルや小売り事業の運営に関するリソースを外部に委ねるケースが代表例です。逆に、中小事業者が大手に事業を譲渡することで、利用者や取引先へのサービスを安定的に継続できるメリットもあります。
3-4. 人材確保とノウハウ獲得
介護・福祉分野では人材不足が深刻化しており、専門人材を確保できるかどうかが事業の成否を左右します。M&Aを通じて、既存事業者の経験豊富なスタッフや顧客とのつながり、営業ノウハウをまとめて獲得できるのは大きなメリットです。特に、リハビリ専門職や福祉用具専門相談員など、資格や専門知識を持つ人材の確保は容易ではありませんが、買収先企業が有する人材リソースを活用できれば、事業の拡大と品質向上を同時に達成する可能性が高まります。
4. 福祉用具レンタル業界におけるM&Aの動向
4-1. 大手リース・レンタル企業による積極的な買収
介護保険下での需要拡大が続く中、金融・リース系の大手企業が福祉用具レンタル分野に本格参入する動きが見られます。リース・レンタル業に強みを持つ企業にとって、福祉用具事業は景気に左右されにくい安定収益が期待できる点が魅力といえます。大手企業が関連事業を既に手がける中小・地域密着型企業を買収し、地域の営業拠点やスタッフごと取り込むケースが増加しています。
4-2. 介護サービス事業者間の統合
居宅介護やデイサービスなど別の介護サービスと合わせて、福祉用具レンタルを提供する事業者が多いのも特徴です。そうした中、サービスラインナップを拡大して利用者の利便性を高めるため、あるいは拠点数の拡大による配送・メンテナンス体制の強化のため、介護サービス事業者同士でM&Aが行われることも増えています。
4-3. 製造メーカーによる下流企業の買収・事業譲渡
福祉用具を製造するメーカーが、販売・レンタル事業者を子会社化するケースも少なくありません。自社製品の流通網を拡大するとともに、ユーザーの声をダイレクトに吸い上げて製品改良へと反映しやすくなるのがメリットです。逆に、メーカーが直接の小売り・レンタル事業を手放し、製造へ経営資源を集中させる動きも見られ、これらはすべて“経営の選択と集中”の一環といえるでしょう。
4-4. 地域密着型企業の買収・統合
地方都市などでは、地場資本の中小介護事業者が地域に根ざしたサービスを提供しており、利用者や行政との信頼関係を築いているケースが多いです。こうした地域密着企業を買収・統合することで、一気にその地域でのネットワークを構築する狙いもあります。また、買収される側にも、大手のバックアップを得てサービス品質を安定化させたり、財務基盤を強化したりするメリットがあります。
5. 具体的なM&A事例の紹介・解説
ここでは、実際に報道されている福祉用具レンタル業界におけるM&A事例をピックアップし、その背景や狙いを解説します。なお、売上高や営業利益、純資産などの数値は発表当時のものであり、現在は変動している可能性があります。
5-1. 芙蓉総合リースによる日本信用リースの子会社化(2021年)
- 概要: 芙蓉総合リースは、持ち分法適用関連会社である日本信用リースの株式を追加取得して完全子会社化しました。
- 背景・狙い: グループとして医療・福祉分野へ注力する戦略の一環とされ、福祉用具や医療機器のリース事業を強化することで安定的な収益を確保する狙いがあったと考えられます。
- ポイント: リース大手企業が介護・福祉用具の分野で事業拡大を図る事例の代表例です。
5-2. 揚工舎によるケア・フレンドの子会社化(2021年)
- 概要: 介護サービスを多角的に展開する揚工舎が、福祉用具貸与・販売を行うケア・フレンドを子会社化しました。
- 背景・狙い: 既存の有料老人ホームや居宅介護支援事業とのシナジーを高め、利用者にトータルな介護サービスを提供する体制を整える狙いがあるとみられます。
- ポイント: 全株式を取得し、赤字のケア・フレンドを傘下に収めたことで経営テコ入れの効果が期待されます。
5-3. 幸和製作所グループの複数買収・事業譲渡事例
幸和製作所はシルバーカーや歩行車などの歩行補助具を主力とする福祉用具メーカーです。同社は近年、積極的にM&Aや事業譲渡を進めており、以下が主な例となります。
- 幸和ライフゼーションによるデイサービス事業のポラリスへの譲渡(2021年)
- 概要: デイサービス事業を他社へ譲渡し、福祉用具の製造・販売に経営資源を集中させる方針を示しました。
- ポイント: 主要事業にリソースを集中し、経営効率を高める典型的な例です。
- シクロケアの子会社化(2019年)
- 概要: 住宅改修用品や入浴補助具を製造するシクロケアを買収し、事業領域を拡大。
- ポイント: 住宅改修分野への進出により、同社の既存顧客層に対して幅広い製品を提供できるようになった点が大きいです。
- パーソンケアの子会社化(2024年予定)
- 概要: 福祉用具レンタル・販売のパーソンケアを子会社化し、現場からのニーズを製品開発に活かす方針。
- ポイント: 製造・販売とレンタルサービスの垂直統合を進めることで、総合的な介護ソリューションを構築する狙いがうかがえます。
- 幸和ライフゼーションによる福祉用具レンタル事業のヤマシタへの譲渡(2023年)
- 概要: 関東圏を中心とするレンタル事業を切り離し、主力の製造販売に集中。
- ポイント: 自社グループ内でのレンタル業を手放す一方、引き続き製造販売に注力する“選択と集中”の典型例です。
- パムック・あっぷるの子会社化(2019年)
- 概要: 車いすのオーダーメイドや福祉用具レンタルを行うパムックと、レンタルやデイサービスを行うあっぷるを同時に買収。
- ポイント: 事業多角化と、製造とサービスの垂直統合をさらに推し進める意図が明確です。
5-4. ロングライフホールディングによる日本ビコーの子会社化(2011年)
- 概要: 首都圏で福祉用具の販売・レンタルや訪問入浴などの在宅介護サービスを行う日本ビコーを2億円で買収。
- 背景・狙い: 関西圏と首都圏で有料老人ホームや在宅介護事業を展開するロングライフホールディングが、首都圏での事業拡大を図るために子会社化。
- ポイント: 大都市圏での顧客基盤強化を目的とする買収事例です。
5-5. ワキタによるニチイケアネットの子会社化(2023年)
- 概要: 総合商社的な機能を持つワキタが、ニチイホールディングス傘下の福祉用具レンタル卸・販売事業者であるニチイケアネットを子会社化。
- 背景・狙い: 新規事業の柱として福祉用具レンタル卸業を拡大する意図。
- ポイント: 大手介護事業者からの事業切り離しが進む例であり、ワキタは規模の大きな卸事業を獲得することでシェア拡大を図ったものとみられます。
5-6. メディカル一光グループのホームヘルスケア事業譲渡と買収事例
- 概要: メディカル一光グループは子会社ハピネライフ一光のホームヘルスケア事業をヤマシタに譲渡(2022年)。一方で過去には東邦ホールディングスグループからホームヘルスケア事業を取得(2014年)するなど、売却と買収の両面でM&Aを行っています。
- 背景・狙い: 同社は調剤薬局やヘルスケア事業に注力しつつ、在宅介護の分野を補完的に展開してきました。経営資源を集中するため、福祉用具のレンタル・販売事業から撤退する決断を下したとみられます。
- ポイント: 同じ企業グループでも、時期や経営状況によって“事業取得”と“事業譲渡”を柔軟に使い分ける戦略が見られます。
5-7. ニチイ学館の海外進出における福祉用具卸販売事業買収事例(2011年)
- 概要: 子会社のニチイケアネットが中国企業・常州中進医療器材有限公司の福祉用具卸販売事業を取得し、新会社を設立。
- 背景・狙い: 中国での高齢化と福祉市場拡大を見据えて、販売網を一気に獲得し、さらに日本式の販売員研修を行うことで安全・高品質な福祉用具の普及を目指した。
- ポイント: 介護関連企業が海外市場に進出する先駆的事例であり、日本国内だけでなく海外でもM&Aが行われる可能性を示唆しています。
5-8. パラマウントベッドホールディングスによるSMFLレンタルの福祉用具レンタル卸事業取得(2024年予定)
- 概要: パラマウントベッドHDの子会社PCS(パラマウントケアサービス)が、SMFLレンタルの代理店事業を分社化した新会社を取得予定。
- 背景・狙い: フランチャイズ展開してきた事業を系列化し、自社ブランドの福祉用具レンタル事業をさらに拡大する狙い。
- ポイント: 医療・介護ベッドのトップメーカーが、下流のレンタル事業を取り込むことで事業の裾野を広げ、メーカーとしての強みを最大限活かす動きです。
5-9. ニチイ学館によるダスキンゼロケア事業取得(2009年)
- 概要: 清掃用具レンタル大手のダスキンが手がけていた在宅介護サービス事業を、ニチイ学館が買収。
- 背景・狙い: 介護保険対象外サービスやフランチャイズでのレンタルなどでノウハウを持つダスキンとのシナジーを期待しつつ、高齢者介護事業の領域拡大を図った。
- ポイント: ダスキンは介護サービスから撤退し、ニチイ学館はサービス領域を拡充。大手同士のM&Aとして話題となりました。
5-10. トーカイグループによる福祉用具貸与・販売事業の積極的取得事例
トーカイはリネンサプライや病院サポートで有名な企業ですが、1996年から福祉用具貸与・販売にも進出。近年、多くの会社から福祉用具貸与事業を取得しており、地域ごとに顧客基盤を拡大しています。
- 堀田介護サービス(2017年)
- LE.O.VE(2024年予定)
- 中日本信和(2021年)
- 内藤建設(2019年)
- 新和企業(日新製鋼系、2015年)
- ドリームライフ(2018年)
- ウェルファー(2018年)
- イビデン産業(イビデン系、2019年)
- 山田屋(寝具店、2019年)
- 松屋リネンサプライ(2018年)
- 佐藤(2025年予定)
…など、多数の事業取得を通じて全国的に拠点を拡充しているのが特徴です。
5-11. マックスによるカワムラサイクルのTOB(2010年)
- 概要: 介護用車いす製造・販売を行うカワムラサイクルに対し、事務機器大手のマックスが株式公開買い付け(TOB)を実施し、子会社化を目指した事例。
- 背景・狙い: マックスは住環境機器事業へ参入しており、カワムラサイクルのノウハウを取り込みながら介護関連機器の開発を強化する方針を示した。
- ポイント: メーカー同士の協業によるシナジー創出の典型例です。
5-12. タカノによるユーキ・トレーディングの子会社化(2023年)
- 概要: オフィス関連機器などを手がけるタカノが、車椅子など福祉用具・健康用品の輸入販売に強みを持つユーキ・トレーディングを買収。
- 背景・狙い: 福祉・健康分野への進出や強化を目指す中で、既存の流通チャネルと合わせて事業領域を広げたい意図がある。
- ポイント: 製造業者が福祉用具に参入し、商品ラインナップの拡充や顧客ニーズ把握を強化する事例といえます。
5-13. みらかホールディングスによるケアレックス完全子会社化(2009年)
- 概要: 福祉用具・用品の貸与・販売を手がけるケアレックスの株式を追加取得し、みらかHDの完全子会社とした。
- 背景・狙い: 介護保険制度が始まるにあたり、安定需要が見込まれる福祉用具事業の強化が狙い。
- ポイント: 医療機関向け検体検査などで知られるみらかHDが、介護領域とのシナジーを狙った例です。
5-14. フランスベッドホールディングスによる事業買収事例
- ホームケアサービス山口の買収(2021年)
- 山口県で福祉用具レンタル・販売を行う同社を傘下に収め、メディカルサービス事業を拡大。
- カシダスの買収(2020年)
- ロングライフホールディングス傘下の企業を買収し、福祉用具貸与事業のシェア拡大を狙う。
- ポイント: ベッドメーカーとしての強みを活かし、各地域の事業者を取り込みながらレンタル事業を伸ばす手法が目立ちます。
5-15. ジェイ・エス・ビーによるフレンド・ケアシステムの子会社化(2019年)
- 概要: 学生マンション運営や高齢者住宅事業を手掛けるジェイ・エス・ビーが、福祉用具貸与事業のフレンド・ケアシステム(および子会社)を取得。
- 背景・狙い: 高齢者住宅入居者への福祉用具提供やリフォーム事業の拡大など、新たな収益機会を得る狙い。
- ポイント: 学生向け事業を主力とする企業が、高齢者領域にも本格参入する事例であり、多角化戦略の一環といえます。
5-16. シダーによるパインの買収(2011年)
- 概要: 介護サービスを全国的に展開するシダーが、有料老人ホームや福祉用具貸与事業を行うパインを1億2500万円で買収。
- 背景・狙い: 施設サービス事業拡大の一環として、複数の介護拠点や事業を一括取得。
- ポイント: シダーはリハビリ特化型デイサービス等にも強みがあり、買収で得た顧客基盤やノウハウを自社サービスに横展開しやすいと考えられます。
5-17. ウェルディッシュによるグランドルーフの子会社化(2025年予定)
- 概要: 食品・飲料事業と福祉用具レンタル・卸売を手がけるウェルディッシュが、給食受託サービスや介護用品卸を手がけるグランドルーフを買収。
- 背景・狙い: 健康食品や介護関連サービスが今後大きく伸びると見込み、総合的なヘルスケア企業への転換を目指す。
- ポイント: 給食受託(療養食)と福祉用具の融合が期待でき、シニア向けマーケットで多角化を図る事例です。
5-18. ココカラファインによる愛安住・キコーメディカル買収事例
- 愛安住の買収(2017年)
- 東海地区で福祉用具レンタル・販売や住宅改修を行う同社を傘下に取り込み、介護事業との連携を強化。
- キコーメディカルの買収(2021年)
- 関西圏での福祉用具販売網を獲得し、ドラッグストア・調剤事業とのシナジーを狙う。
- ポイント: ドラッグストアが介護事業に本格進出する例は増えており、店舗網と介護事業を結びつけることで地域包括ケアの担い手として存在感を高める動きです。
5-19. エヌリンクスによるCoCoXiaの子会社化(2023年予定)
- 概要: Web系サービスを得意とするエヌリンクスが、高齢者向け福祉用具レンタル・販売を行うCoCoXiaを買収。
- 背景・狙い: 高齢者分野への参入と同時に、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した業務効率化を進める狙い。
- ポイント: 介護領域ではデジタル化が遅れている部分が多く、IT企業が参入することで業界全体のイノベーションが進む可能性があります。
5-20. インターネットインフィニティーによるフルケアの子会社化(2021年)
- 概要: リハビリ型通所介護「レコードブック」などを展開するインターネットインフィニティーが、広島市のフルケアを買収。
- 背景・狙い: 中国地方での営業エリア拡大と、介護事業の総合化。
- ポイント: 同社が運営するケアマネジャー向けプラットフォームなどとの連動により、ネットワーク拡大と情報共有のさらなる強化が期待されます。
6. 事例から見る共通点と今後の展望
上記の事例を総合的に見ると、福祉用具レンタル業界でのM&Aには以下のような共通点や特徴が浮かび上がります。
6-1. 事業領域の拡大と垂直統合の加速
メーカーがレンタル事業を傘下に取り込む、あるいはレンタル事業者がメーカーを買収するなど、垂直統合が進む傾向が強まっています。製造から販売・レンタルまでを一括して手がけることで、製品開発や在庫管理、メンテナンスなど一連のオペレーションを効率化しやすくなります。
6-2. 地域単位でのシェア獲得と高齢者関連サービスの一体化
福祉用具レンタルは在宅介護の一部ですが、利用者側から見ると訪問介護、居宅介護支援、デイサービスなどとの組み合わせで日常生活を支える仕組みが重要です。M&Aを通じて、それらを一体的に提供できる事業者が増えてきています。地域包括ケアが進む中、医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを総合的に提供する体制が一層求められます。
6-3. DX推進・情報連携への期待
エヌリンクスの事例にも見られるように、介護業界のデジタル化はまだ十分に進んでいない領域も多く、オンラインでの申し込みや利用者・事業所の情報共有システムなど、DXの余地は大きいといえます。M&Aを通じてIT企業やノウハウを持つ企業が参入することで、業務効率化やサービスの質向上が期待できます。
6-4. 介護スタッフ不足への対応策としてのM&A
福祉用具事業の成否は専門スタッフやメンテナンス人員、配送業務に従事する人員など、多岐にわたる人材の質と量に左右されます。業界全体で慢性的な人材不足が叫ばれる中、M&Aによってノウハウと人材を一括して確保する動きも活発化しています。
6-5. 今後の課題と成功のポイント
- 制度変更への対応: 介護保険制度の改正や給付費削減の影響を見極め、安定した経営基盤を築くこと。
- サービス品質の維持・向上: M&A後の組織統合やスタッフ教育を疎かにすると、サービス品質の低下や利用者離れにつながるリスクがある。
- 地域ニーズへの対応: 地域密着型事業者を取り込むことで得られるローカルなネットワークを活かし、ニーズを的確に捉えたサービス展開が必要。
- 専門人材の育成・確保: 福祉用具専門相談員をはじめとする有資格者の育成や処遇改善が不可欠。
- DXによる業務効率化: 事務処理や在庫管理、顧客データの一元化などを進めることで競争力を高める。
7. まとめ:M&Aがもたらす福祉用具レンタル業界の未来
福祉用具レンタル業界は、高齢化が進む日本社会において今後も需要が拡大する重要なセクターです。同時に、競合激化や介護保険制度の見直し、慢性的な人材不足など、さまざまな課題も抱えています。こうした中で各事業者が生き残り、さらなる成長を遂げるためには、M&Aが非常に有効な手段となっています。
- 大手リース企業や介護サービス企業が参入してくることで、業界全体の再編が加速。
- メーカーによるレンタル事業の買収や逆にレンタル事業の譲渡など、“選択と集中”によって経営効率を上げる動きが顕著。
- 地域密着型企業の買収が進む一方、地域の特色やニーズに合ったサービスを継続的に提供できるかがカギ。
- 介護領域ではDX化が進まず、IT企業の参入によるサービス向上への期待が高まっている。
これまで取り上げた事例からもわかるように、M&Aを活用して市場シェアを拡大しつつ、事業領域を広げ、サービスの質を高めることは企業にとって大きなメリットがあります。ただし、買収後の統合作業やスタッフの定着、地域の利用者との信頼関係の維持など、乗り越えるべき課題も少なくありません。M&Aの成否は事前のデューデリジェンスやポストM&Aの統合プロセスの計画・実行能力に大きく左右されるでしょう。
介護保険制度が今後どのように変わっていくか、また人口減少が進む地域でどのようなサービス需要が生まれるかなど、不確定要素は多いものの、高齢社会が深まる日本において福祉用具レンタルの需要が急速に縮小する可能性は低いと考えられます。むしろ、住宅改修や見守りサービス、在宅医療機器との連動など、新しい付加価値を創造できる領域として期待される部分も多々あります。
今後は、単純な規模拡大だけでなく、利用者のQOL(生活の質)の向上を意識したサービス開発や、テクノロジーを活用した効率運営、高齢者の身体特性に合わせた製品イノベーションなどが求められるでしょう。M&Aがこうしたイノベーションを加速させる一方で、事業者が利用者第一の理念を失わずに経営を進めていくことが、業界の発展と社会のニーズに応えるための重要なポイントとなります。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。