- 1. 廃棄物処理業界の概要と課題
- 2. 廃棄物処理業界におけるM&Aの背景
- 3. 近年の主なM&A事例
- 3-1. 富士興産<5009>による環境開発工業の子会社化(2022年9月28日発表)
- 3-2. 特種東海製紙<3708>による貴藤ホールディングスの子会社化(2024年4月1日発表)
- 3-3. 大栄環境<9336>による浦安清運およびアイアの子会社化(2024年7月1日発表)
- 3-4. 大栄環境<9336>による産業廃棄物収集運搬業の栄和リサイクル子会社化(2024年1月24日発表)
- 3-5. 大栄環境<9336>による建物解体業の海成の子会社化(2024年12月6日発表)
- 3-6. 天昇電気工業<6776>による竜舞プラスチックの子会社化(2021年3月19日発表)
- 3-7. 不二サッシ<5940>によるエコマックスの譲渡(2010年7月30日発表)
- 3-8. 日立造船<7004>、スウェーデン自治体のメタン発酵施設買収(2018年4月12日発表)
- 3-9. 土木管理総合試験所<6171>による環境と開発の子会社化(2022年6月28日発表)
- 3-10. 成友興業<9170>によるエコワスプラントの子会社化(2024年7月10日発表)
- 3-11. 成友興業<9170>による栄興産業の子会社化(2024年7月16日発表)
- 3-12. 神鋼環境ソリューション<6299>によるIHI環境エンジニアリングの事業取得(2018年9月27日発表)
- 3-13. 北日本紡績<3409>による金井産業の子会社化(2021年10月4日発表)
- 3-14. 新明和工業<7224>によるメルテック事業承継のDOWAエコシステムへの譲渡(2009年7月30日発表)
- 3-15. 三谷セキサン<5273>によるトスマク・アイの子会社化(2010年5月27日発表)
- 3-16. 新東京グループ<6066>によるグリーンシステムズの子会社化(2019年12月19日発表)と譲渡(2021年3月26日発表)
- 3-17. 新都ホールディングス<2776>による北山商事の株式交付による子会社化(2024年4月18日発表)
- 3-18. ユシロ化学工業<5013>によるエヌエス・ユシロのJFE環境への譲渡(2010年4月28日発表)
- 3-19. 鴻池運輸<9025>による日鉄住金リサイクルの子会社化(2015年11月25日発表)
- 3-20. 兼松<8020>による兼松環境のオリックス<8591>への譲渡(2008年2月25日発表)
- 3-21. ヤマダホールディングス<9831>によるあいづダストセンターの子会社化(2023年1月17日発表)
- 3-22. ヤマダホールディングス<9831>による三久の子会社化(2021年4月1日発表)
- 3-23. リファインバースグループ<7375>によるコネクションの子会社化(2022年5月30日発表)
- 3-24. メッツ<4744>と新東京グループのTOB(2012年1月26日発表)
- 3-25. ミダックホールディングス<6564>による柳産業の子会社化(2021年9月24日発表)
- 3-26. ミダックホールディングス<6564>によるLOVE THY NEIGHBORの子会社化(2022年5月26日発表)
- 3-27. ミダックホールディングス<6564>によるフレンドサニタリーの子会社化(2023年9月21日発表)
- 3-28. ソルクシーズ<4284>によるインターディメンションズの東北ターボ工業への譲渡(2021年2月12日発表)
- 3-29. ニッコンホールディングス<9072>による古河環境サービスの子会社化(2023年11月10日発表)
- 3-30. ダイセキ環境ソリューション<1712>による杉本商事の子会社化(2023年3月31日発表)
- 3-31. ダイセキ<9793>による大阪油化工業<4124>のTOB(2024年12月13日発表)
- 3-32. コムシスホールディングス<1721>による北有建設・北興産業子会社化(2019年2月8日発表)
- 3-33. コムシスホールディングス<1721>による東亜建材工業子会社化(2015年8月6日発表)
- 3-34. コムシスホールディングス<1721>によるワールドエコ子会社化(2022年5月12日発表)
- 3-35. ジパング<2457>によるメディカルサポートの譲渡(2009年11月25日発表)
- 3-36. タケエイ<2151>とリバーホールディングス<5690>による経営統合(2021年3月18日発表)
- 3-37. タケエイ<2151>による諏訪重機運輸の子会社化(2011年7月1日発表)
- 3-38. タケエイ<2151>によるイコールゼロの子会社化(2015年9月7日発表)
- 3-39. タケエイ<2151>による北陸環境サービスの子会社化(2009年3月5日発表)
- 3-40. タケエイ<2151>による東北交易の子会社化(2013年12月6日発表)
- 3-41. タケエイ<2151>による富士車輛の子会社化(2014年5月15日発表)
- 3-42. タケエイ<2151>による富士リバースの子会社化(2014年10月14日発表)
- 3-43. タケエイ<2151>による池田商店の子会社化(2008年4月23日発表)
- 3-44. タケエイ<2151>による橋本建材興業の子会社化(2012年10月16日発表)
- 3-45. タケエイ<2151>による野口木材起業の子会社化(2011年12月27日発表)
- 3-46. タケエイ<2151>による環境保全の子会社化(2008年9月17日発表)
- 3-47. タケエイ<2151>による市原グリーン電力の子会社化(2020年4月23日発表)
- 3-48. タクマ<6013>によるカンポリサイクルプラザ(CRP)子会社化(2008年10月10日発表)
- 3-49. エンビプロ・ホールディングス<5698>による富士見BMSの子会社化(2021年10月25日発表)
- 3-50. アシードホールディングス<9959>によるロジックイノベーションの子会社化(2021年7月1日発表)
- 3-51. アサヒホールディングス<5857>(現・AREホールディングス)によるエコマックス買収(2010年7月30日発表)
- 3-52. アミタホールディングス<2195>による台湾子会社「台灣阿米達」の譲渡(2020年4月24日発表)
- 3-53. フジコー<2405>のMBOによる非公開化(2019年11月1日発表)
- 3-54. ジェイホールディングス<2721>によるエイチビーの子会社化(2022年9月26日発表)
- 3-55. YAMATO<7853>によるイーエコワークスのMBO(2008年10月22日発表)
- 3-56. TOKAIホールディングス<3167>によるウッドリサイクルの子会社化(2022年5月27日発表)
- 3-57. THE WHY HOW DO COMPANY<3823>による宇部整環リサイクルセンターの子会社化(2023年8月29日発表)
- 3-58. TREホールディングス<9247>によるタッグの子会社化(2023年10月31日発表)
- 3-59. サニックス<4651>によるC&R、ホクハイの子会社化(2009年10月1日発表)
- 3-60. AREホールディングス<5857>(旧・アサヒホールディングス)子会社ジャパンウェイストとJ-STAR系レナタスの統合(2023年10月26日発表)
- 3-61. DOWAホールディングス<5714>による東南アジアの廃棄物処理会社MAEH買収(2009年1月20日発表)
- 4. M&A後のシナジーと統合のポイント
- 5. 廃棄物処理業界M&Aの課題と注意点
- 6. 今後の展望
- 7. まとめ
1. 廃棄物処理業界の概要と課題
1-1. 廃棄物処理業界とは
廃棄物処理業界は、一般家庭や事業所・工場などから排出されるさまざまな廃棄物を、安全かつ適切に収集・運搬し、リサイクルや再資源化、あるいは処分(焼却や埋立など)を行う産業の総称です。家庭ゴミを扱う「一般廃棄物」、建設廃材などを扱う「産業廃棄物」の2種類に大きく分けられ、それぞれ収集・運搬から中間処理(破砕、選別、圧縮、溶融など)、最終処分(埋立・焼却)まで多段階にわたるサービスを提供することで成り立っています。
日本では、環境保全に対する意識や法規制が近年ますます強化され、循環型社会の実現を目指して3R(リデュース・リユース・リサイクル)を推進する動きが強まっています。その結果、廃棄物の適正処理や高度なリサイクル技術が求められるようになり、業界内の企業は多岐にわたる許認可の取得、技術開発、施設設備への大規模投資が必要になっています。
1-2. 業界が直面する主な課題
- 法規制の強化
廃棄物処理法や各地方自治体の条例などが、年々厳格化している傾向にあります。また特定有害産業廃棄物の扱いは高度かつ専門的な技術が求められ、許可条件も厳しくなるため、個々の中小企業では対応が難しいケースが増えています。 - 施設整備費用や運営コストの上昇
焼却施設やリサイクルプラントなどの建設・維持管理には莫大なコストが必要です。また、廃棄物の収集や運搬を行う車両の維持費、人件費の高騰などもあり、中小企業単独では継続が難しくなる傾向があります。 - 事業承継の問題
日本国内の産廃企業の多くは地方の中小事業者であり、経営者の高齢化にともない事業承継が大きな課題となっています。地元密着の企業でも後継者不足が深刻で、外部資本へのM&Aや業務提携を模索する動きが顕在化しています。 - 技術革新と循環型社会への要請
国内外で循環型社会に向けた技術革新が進む中、廃棄物処理業界でもデジタル技術やバイオ技術、ケミカルリサイクルなど新たな技術的ブレイクスルーが次々と登場しています。こうした新技術を活用し、大規模に投資・導入しようとするには、資本力が求められます。
2. 廃棄物処理業界におけるM&Aの背景
2-1. 大規模投資の必要性と経営リスクの分散
廃棄物処理業には、焼却炉や中間処理施設、最終処分場など大規模インフラが必要になります。これらを新設・更新するには、数億円から数十億円、さらには百億円規模に至る投資が避けられません。単独での大型投資は資金負担が非常に重くなるため、資本の受け入れや業務提携、あるいは大企業からの支援を仰ぐケースが増えています。
また新設備への投資で失敗した場合のリスク回避を図るために、既に関連施設・設備を所有する企業を買収する形がM&Aではしばしば選択されます。
2-2. 地域シェア拡大とスケールメリットの追求
人口の減少にともなう廃棄物の総量の減少や、収集エリアの偏在化などによって、事業拡大を図るためには他の地域に足場を築くことが有効になります。特に建設廃棄物においては大都市圏での需要が高く、施設を相互利用したり、収集・運搬網を統合したりすることでコスト削減や効率化を実現しようとする動きが強いです。このように、事業範囲を拡大して収集運搬ルートを広げることは、業界が求める安定稼働や収益性向上への近道といえます。
2-3. 技術やノウハウの取得
厳しい法規制をクリアするためには、先進的なリサイクル技術やバイオマス・メタン発酵などの特許技術、さらには各種許認可や認証の取得が不可欠です。そのため、こうした技術やノウハウを持つ企業を買収することで短期間で強化を図ろうとする企業が増えています。これは日本国内に限らず、欧州やアジアへ展開するためにも重要であり、廃棄物エネルギー化技術やケミカルリサイクル技術を海外企業から取得する狙いもあります。
2-4. 事業承継・後継者問題への対応
地方で長年にわたり廃棄物処理を行ってきた企業の中には、後継者がおらずM&Aを通じて大手のグループ入りを図るケースが散見されます。大手に吸収されることで、経営者個人の引退後も従業員の雇用を維持でき、顧客や地域社会へのサービスを継続できるメリットがあります。
3. 近年の主なM&A事例
ここからは、近年公表された事例を中心に、それぞれのM&Aが持つ狙いや背景を順次ご紹介いたします。掲載されている企業データや取得価額などは公表されている情報に基づいたものです。
3-1. 富士興産<5009>による環境開発工業の子会社化(2022年9月28日発表)
富士興産は廃棄物の再資源化やリサイクル事業などを展開する環境開発工業(北海道北広島市)の全株式を取得しました。新規事業としてリサイクル関連を推進するという狙いがあり、未利用資源の活用にも積極的に取り組む方針を示しています。
3-2. 特種東海製紙<3708>による貴藤ホールディングスの子会社化(2024年4月1日発表)
製紙会社として知られる特種東海製紙が、環境・リサイクル事業を営む貴藤(東京都昭島市)とその持株会社である貴藤ホールディングスの全株式を取得しました。建設系廃棄物の中間処理を得意とする貴藤を取り込み、特種東海製紙の環境関連ビジネスを強化すると同時に、事業領域の拡大を狙います。
3-3. 大栄環境<9336>による浦安清運およびアイアの子会社化(2024年7月1日発表)
大栄環境は、関東地区でのシェアや自治体との取引を拡大するため、廃棄物収集運搬の浦安清運とリサイクル事業のアイアを同時に子会社化しました。浦安市の指定業者として一般廃棄物の収集運搬を長年手がける浦安清運と、兄弟会社のアイアを取り込むことで、首都圏でのネットワーク拡大を進める狙いがあります。
3-4. 大栄環境<9336>による産業廃棄物収集運搬業の栄和リサイクル子会社化(2024年1月24日発表)
大栄環境は首都圏での収集運搬能力を強化すべく、産業廃棄物の収集運搬を行う栄和リサイクル(東京都新宿区)の全株式を取得することを決議しました。大栄環境が既に子会社化している中間処理施設会社の共同土木(埼玉県上尾市)との連携を深めることで、業務効率化やシェア拡大を図る方針です。
3-5. 大栄環境<9336>による建物解体業の海成の子会社化(2024年12月6日発表)
解体工事機能を取り込むことで廃棄物の受入量増加などを見込んだM&Aです。大栄環境は近畿圏を主力としながら、関東エリアにも積極展開しており、今回の海成買収もその一環として位置づけられています。
3-6. 天昇電気工業<6776>による竜舞プラスチックの子会社化(2021年3月19日発表)
天昇電気工業はプラスチック成形品事業の基盤拡大として、プラスチック製品の射出成形加工を手がける竜舞プラスチック(群馬県太田市)の全株式を取得しました。射出成形加工は廃プラスチックの発生源でもあり、適正処理と再資源化の視点で連携を強化する可能性がうかがえます(同社は医療廃棄物用容器の製造も手がけています)。
3-7. 不二サッシ<5940>によるエコマックスの譲渡(2010年7月30日発表)
不二サッシは、産業廃棄物の中間処理・収集運搬を行うエコマックスをジャパンウェイスト(神戸市)に譲渡しました。不二サッシは事業構造の再編に伴い、収益性の低迷していた廃棄物処理部門を切り離す決断を下した格好となります。
3-8. 日立造船<7004>、スウェーデン自治体のメタン発酵施設買収(2018年4月12日発表)
日立造船はスイスの子会社を通じて、ヨンショーピング市が持つメタン発酵設備を買収しました。ヨーロッパの先端的なバイオガス技術を自社の主力技術の一つとして取り込み、生ごみなど有機性廃棄物からのエネルギー回収を強化しようとしています。
3-9. 土木管理総合試験所<6171>による環境と開発の子会社化(2022年6月28日発表)
同社は建設コンサルタント業の環境と開発(熊本市)を子会社化し、産業廃棄物処理施設や再生エネルギー施設の建設・設計などまでを幅広く展開するノウハウを取り込みました。環境に配慮した社会インフラの建設が求められる昨今、公共事業や民間工事においても廃棄物処理やリサイクル技術が必要不可欠となっています。
3-10. 成友興業<9170>によるエコワスプラントの子会社化(2024年7月10日発表)
成友興業は産業廃棄物の中間処理業であるエコワスプラント(東京都日の出町)の株式50.7%を株式交付の手続きで取得しました。既存事業の一つである産業廃棄物処理事業とのシナジーを期待しており、住宅新築など建設系廃棄物の再資源化に力を入れます。
3-11. 成友興業<9170>による栄興産業の子会社化(2024年7月16日発表)
埼玉県川口市における廃コンクリートの中間処理を行う栄興産業(東京都江戸川区)を取り込み、首都圏でのがれき類や建設汚泥・汚染土壌の処理事業の拡大を図る戦略としています。都内の需要だけでなく、埼玉県からも産業廃棄物を取り込み、グループ全体での相互支援を強化する狙いがうかがえます。
3-12. 神鋼環境ソリューション<6299>によるIHI環境エンジニアリングの事業取得(2018年9月27日発表)
神鋼環境ソリューションは、IHI環境エンジニアリング(東京都江東区)が保有していた廃棄物処理施設関連、バイオマス関連、リユース処理業などの事業をまとめて会社分割の方式で取得しました。これにより収益基盤拡大や営業・技術ノウハウの融合による競争力向上を図っています。
3-13. 北日本紡績<3409>による金井産業の子会社化(2021年10月4日発表)
北日本紡績は新規参入したリサイクル事業の本格展開に向け、プラスチック製造や産業廃棄物リサイクルを行う金井産業(山口県周南市)を買収。廃プラスチックの安定的な提供元を確保するため、グループに収集運搬許可や中間処理設備を保有させることが重要と判断しています。
3-14. 新明和工業<7224>によるメルテック事業承継のDOWAエコシステムへの譲渡(2009年7月30日発表)
産業廃棄物や一般廃棄物の収集・運搬、再資源化事業を手がけるメルテックを分社化し、その新会社をリサイクル事業で実績のあるDOWAエコシステム(東京都千代田区)へ譲渡しました。新明和は主要事業への集中を図り、メルテックはリサイクル事業大手の傘下で成長を目指す形です。
3-15. 三谷セキサン<5273>によるトスマク・アイの子会社化(2010年5月27日発表)
昭栄グループの子会社であるトスマク・アイ(石川県白山市)を買収し、廃棄物収集運搬や浄化槽管理、リサイクル事業など幅広いサービスを取り込みました。上下水道施設の保守管理なども行うトスマク・アイのノウハウを生かし、三谷セキサンは事業領域を拡げています。
3-16. 新東京グループ<6066>によるグリーンシステムズの子会社化(2019年12月19日発表)と譲渡(2021年3月26日発表)
新東京グループは2019年に民事再生手続き中だったグリーンシステムズを買収し再建を支援しました。しかし、再建が一定の成果を上げた段階で、2021年に非公表の買い手に全株式を譲渡し、事業の選択と集中を進めました。このように、M&Aによって再建を果たした後、改めて譲渡する事例も増えています。
3-17. 新都ホールディングス<2776>による北山商事の株式交付による子会社化(2024年4月18日発表)
鉄・非鉄金属リサイクル、廃棄物処理などを手がける北山商事(長野市)の株式50.1%を取得することで、金属スクラップ輸出事業の拡大を目指しています。株式交付方式を活用し、北山商事の社長が新都ホールディングスの筆頭株主となるという、資本提携の新しい形が注目されます。
3-18. ユシロ化学工業<5013>によるエヌエス・ユシロのJFE環境への譲渡(2010年4月28日発表)
産業廃棄物処理業を手がけるエヌエス・ユシロ(川崎市)をJFE環境(横浜市)に譲渡。ユシロ化学工業は金属加工油剤やビルメンテナンスへ経営資源を集中させる一方、譲り受けたJFE環境はリサイクル事業の総合力を強化することになりました。
3-19. 鴻池運輸<9025>による日鉄住金リサイクルの子会社化(2015年11月25日発表)
日鉄住金リサイクル(茨城県鹿嶋市)の全株式を取得し、グループのリサイクル事業と高温処理技術を結合させることで、質の高い環境関連サービスを提供しようとしています。廃棄物処理と物流の融合は効率の面で大きな相乗効果が期待できます。
3-20. 兼松<8020>による兼松環境のオリックス<8591>への譲渡(2008年2月25日発表)
総合商社の兼松が傘下の廃棄物処理事業会社である兼松環境をオリックスに譲渡。商社機能の強化という方針に伴い、環境関連事業を譲渡する事例は当時も珍しくありませんでした。
3-21. ヤマダホールディングス<9831>によるあいづダストセンターの子会社化(2023年1月17日発表)
家電販売大手のヤマダHDが、使用済み家電の再資源化や廃棄物焼却・埋め立てまで一気通貫のシステムを構築する目的で、あいづダストセンター(福島県会津若松市)を子会社化しました。これにより、リサイクルや最終処分に至るまでを自社完結し、事業効率を高める戦略が特徴的です。
3-22. ヤマダホールディングス<9831>による三久の子会社化(2021年4月1日発表)
建築系廃棄物のリサイクルや再資源化を専門とする三久(茨城県小美玉市)を子会社化。グループ内の資源循環体制を拡充し、さらに環境事業を強化する動きが鮮明となりました。
3-23. リファインバースグループ<7375>によるコネクションの子会社化(2022年5月30日発表)
産業廃棄物の収集運搬・中間処理を行うコネクション(東京都足立区)を買収し、本格進出を予定しているプラスチックケミカルリサイクル事業の拠点とする計画を発表しました。こうしたリサイクル向け原料の調達拠点確保は、プラスチック廃棄物の再利用促進にも大きく寄与します。
3-24. メッツ<4744>と新東京グループのTOB(2012年1月26日発表)
不動産事業が低迷し解散方針を公表していたメッツを、新東京グループの代表・吉野勝秀氏がTOBで経営支援を行うと発表した事例です。これは異業種からの参入による事業再生ケースとして興味深い動きでした。
3-25. ミダックホールディングス<6564>による柳産業の子会社化(2021年9月24日発表)
東海エリアを主力とする廃棄物処理企業のミダックHDは、浜松市の柳産業を子会社化し、建設系廃棄物の破砕・再資源化事業を取り込みました。自社の既存施設だけでなく、新たな中間処理設備との連携を図り、処理コストを低減しつつ事業基盤を強固にするとしています。
3-26. ミダックホールディングス<6564>によるLOVE THY NEIGHBORの子会社化(2022年5月26日発表)
英語教育保育園の運営会社を買収しており、これは一見すると本業の廃棄物処理とは無関係な多角化の典型例です。近年、リスク分散や新たな成長エンジンを求めるため、廃棄物処理に限定せず幅広い事業への投資を行う企業が散見されます。
3-27. ミダックホールディングス<6564>によるフレンドサニタリーの子会社化(2023年9月21日発表)
三重県のし尿収集運搬を手がけるフレンドサニタリーを買収し、一般廃棄物収集運搬事業を拡大。ミダックはかつてし尿収集運搬も行っていたため、既存ノウハウの再活用でさらなる業務効率化を進める狙いです。
3-28. ソルクシーズ<4284>によるインターディメンションズの東北ターボ工業への譲渡(2021年2月12日発表)
映像・音響設備の設計・施工を行う子会社を産業廃棄物処理や特殊工事を主力とする東北ターボ工業(盛岡市)へ譲渡。ソルクシーズグループはIT関連を中心に事業構成を見直し、一方の東北ターボ工業は多角化を図る動きといえます。
3-29. ニッコンホールディングス<9072>による古河環境サービスの子会社化(2023年11月10日発表)
物流ネットワークを強みとするニッコンHDが、公共ごみ収集や一般・産業廃棄物収集運搬を担う古河環境サービスを買収し、リサイクル・環境分野の事業を拡大。物流と廃棄物処理の融合も今後の課題となる分野で、大きな相乗効果が期待されています。
3-30. ダイセキ環境ソリューション<1712>による杉本商事の子会社化(2023年3月31日発表)
土壌汚染対策を中心に展開してきた同社が、一般廃棄物や廃プラスチックなどを扱う杉本商事(滋賀県彦根市)を買収し、環境分野の新規ビジネスに注力する動きを鮮明にしました。今後は子会社の杉本紙業との連携で古紙リサイクルなども強化するとみられます。
3-31. ダイセキ<9793>による大阪油化工業<4124>のTOB(2024年12月13日発表)
産業廃棄物処理を手がけるダイセキが、精密蒸留技術をもつ大阪油化工業を完全子会社化する方針を示し、TOBを発表しました。多様化・高度化する廃棄物リサイクルニーズに応えるため、高度な分離・精製技術を取り込む狙いがあります。
3-32. コムシスホールディングス<1721>による北有建設・北興産業子会社化(2019年2月8日発表)
情報通信インフラ工事で知られるコムシスHDが、舗装工事や産業廃棄物リサイクルセンターを備える北有建設、骨材販売の北興産業を株式交換方式で完全子会社化し、土木工事分野の事業基盤を強化しています。
3-33. コムシスホールディングス<1721>による東亜建材工業子会社化(2015年8月6日発表)
産業廃棄物の収集・運搬・処理などを行う東亜建材工業(北海道千歳市)を株式交換で完全子会社化。環境負荷の低減を積極的に推進し、情報通信分野以外にも環境関連ビジネスを広げています。
3-34. コムシスホールディングス<1721>によるワールドエコ子会社化(2022年5月12日発表)
セメント骨材卸やミネラルウォーター製造、さらには産業廃棄物の収集運搬も手掛けるワールドエコ(長野県栄村)を株式交換で子会社化し、信越エリアの事業拡大を狙っています。子会社6社を含むSUNグループ全体で売上約70億円と一定の規模があり、地域でのプレゼンスを向上させる動きです。
3-35. ジパング<2457>によるメディカルサポートの譲渡(2009年11月25日発表)
金生産事業を主力とするジパングが、子会社の医療廃棄物処理業メディカルサポートを廃棄物収集運搬業の中部メディカルに譲渡し、本業に経営資源を集中しました。金と廃棄物処理という異なる業態を抱える企業も珍しくなく、こうした譲渡例は事業の選択と集中が背景にあります。
3-36. タケエイ<2151>とリバーホールディングス<5690>による経営統合(2021年3月18日発表)
建設系廃棄物を主力とするタケエイと、金属・自動車・家電系廃棄物処理を幅広く扱うリバーホールディングスが共同持株会社を設立し統合することを発表しました。国内トップクラスの廃棄物リサイクルグループを形成し、売上高1000億円規模を目指すとのことです。
3-37. タケエイ<2151>による諏訪重機運輸の子会社化(2011年7月1日発表)
甲信越地域への進出を目指し、民事再生中だった諏訪重機運輸を支援・買収。最終処分場の許可量超過問題の再建を図る一方、タケエイとしては新たな地域シェアを獲得しました。
3-38. タケエイ<2151>によるイコールゼロの子会社化(2015年9月7日発表)
イコールゼロは長野市を拠点に一般・産業廃棄物処理を展開しており、廃液処理や有害産廃処理なども行う多角的企業です。タケエイとしては新分野への足掛かりと地域基盤の拡充が狙いです。
3-39. タケエイ<2151>による北陸環境サービスの子会社化(2009年3月5日発表)
建設廃棄物処理を主力とするタケエイが、管理型最終処分場を持つ北陸環境サービス(金沢市)を買収。北陸地域への事業拡大と同時に、新たな廃棄物分野への対応力を強化しました。
3-40. タケエイ<2151>による東北交易の子会社化(2013年12月6日発表)
福島県を中心に産業廃棄物処理を行う東北交易を取り込み、北関東から南東北へ事業エリアを拡大する戦略を打ち出しました。震災復興なども視野に入れた展開が示唆されています。
3-41. タケエイ<2151>による富士車輛の子会社化(2014年5月15日発表)
廃棄物処理プラントの開発に強みを持つ富士車輛をグループ化し、自社の廃棄物処理サービスとプラント設計技術のシナジーを目指します。再資源化事業を推進するうえで、技術提案力を強化する試みといえます。
3-42. タケエイ<2151>による富士リバースの子会社化(2014年10月14日発表)
生木(剪定枝や造園廃材など)のチップ化を手がける富士リバースを取得し、一般廃棄物処理分野へ本格的に参入。木質バイオマス発電事業を検討するなど、再生エネルギー領域へも積極姿勢を示しています。
3-43. タケエイ<2151>による池田商店の子会社化(2008年4月23日発表)
建設現場から排出されるアスファルトやコンクリートなどを再生骨材に加工する池田商店(東京都世田谷区)を買収。建設系廃棄物をリサイクルするルートがさらに拡充されました。
3-44. タケエイ<2151>による橋本建材興業の子会社化(2012年10月16日発表)
諏訪重機運輸を通じて長野県安曇野市の橋本建材興業を取得。長野県中信地域での事業エリア拡大と、コンクリートがらなどのリサイクル体制の強化を狙います。
3-45. タケエイ<2151>による野口木材起業の子会社化(2011年12月27日発表)
同じく長野県内の解体業・廃棄物処理業を手がける野口木材起業を買収し、諏訪市から松本市まで事業範囲を拡大。解体工事と廃棄物処理を一体で行うサービスモデルを強化しています。
3-46. タケエイ<2151>による環境保全の子会社化(2008年9月17日発表)
タケエイは青森県平川市の環境保全を取得し、土壌分析・水質分析など計量証明事業をグループ内に取り込みました。廃棄物処理から土壌汚染調査まで幅広いソリューションを提供する総合環境企業化を図っています。
3-47. タケエイ<2151>による市原グリーン電力の子会社化(2020年4月23日発表)
木質バイオマス発電を行う市原グリーン電力(千葉県市原市)と、その燃料供給会社である循環資源の株式を取得。建設廃棄物処理と木質チップ利用発電の相乗効果を狙い、再生可能エネルギー事業への本格参入を図る動きです。
3-48. タクマ<6013>によるカンポリサイクルプラザ(CRP)子会社化(2008年10月10日発表)
廃棄物処理プラント大手のタクマとカンポの合弁会社CRPがダイオキシン検出問題で操業停止となった後、タクマが株式の大半を追加取得することで再建を担いました。大手プラントメーカーによる管理体制の強化で事業を立て直す事例と言えます。
3-49. エンビプロ・ホールディングス<5698>による富士見BMSの子会社化(2021年10月25日発表)
金属・プラスチックのリサイクル事業を展開するエンビプロHDは、バイオマス燃料製造の富士見BMS(静岡県富士市)を買収。木くずなどの廃棄物を有効活用する体制を整え、顧客の利便性向上とバイオマス原燃料の需要拡大に対応します。
3-50. アシードホールディングス<9959>によるロジックイノベーションの子会社化(2021年7月1日発表)
自動販売機オペレーション事業等を行うアシードHDは、物流アウトソーシングや廃棄物リサイクル事業を行うロジックイノベーション(岡山市)を買収し、多角的な事業展開を進めています。
3-51. アサヒホールディングス<5857>(現・AREホールディングス)によるエコマックス買収(2010年7月30日発表)
アサヒHD(現・AREHD)は、不二サッシグループから産業廃棄物処分業のエコマックス(神奈川県寒川町)を取得。貴金属リサイクルと廃棄物処理事業の両軸で事業拡大を図る方針の一環でした。その後、2023年10月には、子会社のジャパンウェイストとJ-STAR傘下のレナタスの統合による更なる業界再編を発表しています。
3-52. アミタホールディングス<2195>による台湾子会社「台灣阿米達」の譲渡(2020年4月24日発表)
廃棄物リサイクル事業を営んでいた台湾子会社の業績不振を受け、段階的な撤退を進めた後、現地企業に全株式を譲渡しました。海外進出の難しさを示す一例といえるでしょう。
3-53. フジコー<2405>のMBOによる非公開化(2019年11月1日発表)
建設廃棄物中間処理や森林発電事業を手がけるフジコーは、経営陣らによるTOB(株式公開買い付け)を受け入れ非公開化を目指すと発表。大きな投資や新規事業開拓を進めるには、上場による短期的な利益追求から解放される必要があるという判断です。
3-54. ジェイホールディングス<2721>によるエイチビーの子会社化(2022年9月26日発表)
岡山県倉敷市の安定型最終処分場を運営するエイチビーを取得し、最終処分場事業への参入を果たしました。埋め立て容量の限界により稼働を一時休止していた施設を再稼働させることが期待されます。
3-55. YAMATO<7853>によるイーエコワークスのMBO(2008年10月22日発表)
YAMATOが子会社として所有していた廃棄物コンサルティング会社のイーエコワークスを、同社代表に譲渡。中小企業では、MBOを通じて経営の自由度を増しつつ、本体は主要事業にリソースを集中する例も少なくありません。
3-56. TOKAIホールディングス<3167>によるウッドリサイクルの子会社化(2022年5月27日発表)
通信やガス・エネルギー事業を展開するTOKAIグループが、木材チップ製造や産業廃棄物処理を手がけるウッドリサイクル(岐阜県下呂市)を買収し、カーボンニュートラルビジョンの推進とバイオマス発電事業への展開を狙っています。
3-57. THE WHY HOW DO COMPANY<3823>による宇部整環リサイクルセンターの子会社化(2023年8月29日発表)
IoT技術を強みとする同社が、産業廃棄物処理施設を運営する宇部整環リサイクルセンター(山口県宇部市)を買収し、サーマルリサイクル設備の導入など、新分野への進出を目指しています。各事業者による焼却・発電施設の導入は、近年のトレンドといえるでしょう。
3-58. TREホールディングス<9247>によるタッグの子会社化(2023年10月31日発表)
ペットボトルリサイクル設備を持つタッグ(宮城県東松島市)の株式54.2%を取得し、一般廃棄物領域を含めた収集・処理・リサイクル事業を拡大。プラスチック廃材の高品質な再生原料化を強化する事例です。
3-59. サニックス<4651>によるC&R、ホクハイの子会社化(2009年10月1日発表)
廃プラスチックの燃料化発電を行うサニックスエナジーが、焼却灰の最終処分を委託していたC&Rと、その施設を賃貸していたホクハイを子会社化し、排出から最終処分までの一貫体制を確立しました。発電事業と廃棄物埋立事業を一体化させる流れは、廃棄物ビジネスの水平統合の典型です。
3-60. AREホールディングス<5857>(旧・アサヒホールディングス)子会社ジャパンウェイストとJ-STAR系レナタスの統合(2023年10月26日発表)
貴金属リサイクル大手と産廃処理大手を兼ねるAREHDの中核子会社・ジャパンウェイストが、国内ファンドのJ-STAR系レナタスと統合。全国展開をさらに進め、業界リーディングカンパニーを目指します。一定の株式交換比率でAREHDがレナタス株式を保有し、両社の経営幹部がレナタスの役員に就任するなど、持ち株会社同士の再編事例としても注目されます。
3-61. DOWAホールディングス<5714>による東南アジアの廃棄物処理会社MAEH買収(2009年1月20日発表)
DOWAグループは日本国内だけでなく、インドネシア、タイ、シンガポールなど東南アジアでも廃棄物処理拠点を取得・運営し、グローバル展開を進めています。アジア地域での廃棄物処理は、日本の技術やノウハウを活用して市場拡大を狙う動きが活発です。
4. M&A後のシナジーと統合のポイント
これら数多くのM&A事例から読み取れるシナジー効果には、以下のようなものがあります。
- 事業エリアの拡大・収集運搬ネットワークの強化
地域をまたぐ廃棄物収集や運搬拠点の共有化により、広範囲に対応できる一貫体制が整備され、効率化が進みます。 - 処理設備や技術ノウハウの共有
解体工事から中間処理、最終処分までグループ内で完結することで、委託コスト削減やスピードアップを図れます。特に有害物質対応やバイオマス利用などの先端技術を取り込むメリットは大きいです。 - 顧客基盤の拡充と取引先の相互誘導
それぞれの得意分野や既存顧客へのサービス拡充を図ることで、顧客満足度を高めながら収益を拡大できます。 - 許認可や行政対応力の強化
廃棄物処理事業は、都道府県や政令指定都市での許認可が事業継続に不可欠です。M&Aで複数の許可をまとめて取得することで、新たなエリアや分野に素早く参入できます。
ただし、M&A後には統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)の難しさもついて回ります。地域に根差した企業文化、異なる給与体系や勤怠管理などを融合する際には従業員の摩擦も生じやすく、実務面での調整やリーダーシップが重要となります。
5. 廃棄物処理業界M&Aの課題と注意点
- 多様な法規制への対応
買収先の許認可や施設の保守管理体制、排出ガスや廃水に関する規制順守など、多岐にわたるチェックポイントがあります。徹底的なデューデリジェンスが欠かせません。 - 地域社会との関係性
廃棄物処理は地元住民とのコミュニケーションが非常に重要です。買収により経営母体が変わることで、地域住民の不安が生じる場合もあります。丁寧な説明会や地域貢献活動など、信頼関係の維持・構築に配慮が求められます。 - 事業転換や再建のリスク
民事再生中の企業や赤字部門を切り離すM&Aでは、再建までに想定以上のコストがかかったり、施設の補修や撤去が必要になる可能性があります。 - 長期視点の投資判断
廃棄物の数量・単価は景気変動に左右されます。短期的な収益悪化に耐えながら、安定供給と設備投資を続けるためには、長期視点での戦略や資金力が不可欠です。
6. 今後の展望
6-1. 業界再編のさらなる進展
国内人口の減少や建設投資の変動、リサイクル率の向上などにより、事業規模の拡大だけではなく収益性の確保が難しくなっていくことが予想されます。その一方で、2050年カーボンニュートラルに向けた施策や廃プラスチック削減、食品ロス削減など、新たな需要も創出されています。
こうした流れの中で、業界大手同士が経営統合して巨大グループを形成し、海外展開や新技術投資を促進するケースが今後ますます増えるでしょう。
6-2. 海外展開とグローバル化
日本企業が蓄積してきた環境技術やリサイクル技術は、東南アジアなど新興国の廃棄物処理インフラの発展に大きく貢献できると期待されています。DOWAホールディングスの事例などをはじめ、多くの企業が海外での事業拠点を模索し、M&Aを活用して参入する動きが顕著です。
6-3. 新技術導入による付加価値向上
特に廃プラスチックのケミカルリサイクル、バイオマス発電やメタン発酵など、廃棄物を有効資源として最大限に活用する技術が進化しています。サーマルリサイクル、さらにRDF(Refuse Derived Fuel)やRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)の利用拡大など、大規模投資が必要となる分野では大手同士の連携やM&Aが加速していくとみられます。
6-4. 地域経済と中小企業の行方
事業継承問題は避けて通れません。地方の中小産廃企業が大手に吸収される動きは続くでしょうが、地域密着の専門性やノウハウを活かすために、地元自治体や地場産業との連携を残しつつ、大手の資本・管理手法を取り入れる形が増えると想定されます。
6-5. ESG投資と資本市場からの注目
SDGsやESG投資への意識が高まる中、再生可能エネルギーや循環型社会を支える廃棄物処理企業は、投資家からの注目が高まっています。上場企業が廃棄物処理事業を積極展開し、M&Aで規模を拡大する動きも続くでしょう。ただし、環境事故や法令違反が発生すると企業価値が毀損する恐れが大きい分野であるため、適正処理とコンプライアンス経営が一段と重要になります。
7. まとめ
廃棄物処理業界は、循環型社会の要として、行政や産業界、そして消費者(地域住民)との連携が必須の重要インフラ産業です。一方で、競合の激化や技術革新、法規制強化などに伴う大規模投資ニーズから、企業単独では対応が難しくなっているのも現実です。そのような中、M&Aは大きな設備投資・許認可・技術・人材を一挙に集約する有力な手法として定着しつつあります。
本記事で取り上げたように、廃棄物処理業界では多種多様なM&Aが実施されてきました。大手のさらなる規模拡大や業種を越えた企業買収(あるいは事業譲渡)だけでなく、事業承継を目的とした中堅・中小企業の買収、海外展開を見据えたグローバルM&A、短期的な再生支援からの再譲渡など、形態はさまざまです。
今後も2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みと、SDGsに代表される持続可能な社会づくりの動きが一層強まることが予想されます。廃棄物を「負のコスト」ではなく「資源」と位置づける時代の到来により、廃棄物収集・運搬・処理やリサイクルに携わる企業は、さらに重要な役割を担うことでしょう。こうした背景のもと、業界では設備投資や人材確保をめぐる競争が加速し、その過程でM&Aは引き続き主要な戦略手段となると考えられます。
企業経営の観点では、M&Aの成立後にしっかりと統合プロセスを進め、設備や人員、ノウハウなどのリソースを最大限に活かすことが鍵を握ります。また、法規制順守や地域住民への情報提供、持続可能な処理システムの構築などが不可欠です。その結果として、廃棄物処理業界全体のレベルアップや、社会からの信頼向上につながることが期待されます。
廃棄物処理業界におけるM&A動向は、今後も注目を集め続けるでしょう。本記事が、その分析や実務に関わる皆さまにとって一助となり、企業の成長とともに環境負荷の削減、さらには資源循環型社会の実現に寄与するヒントとなれば幸いです。今後のさらなる展開にも、大いに期待が寄せられています。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。