1. はじめに
- 1.1 システム開発業界におけるM&Aの増加背景
- 1.2 本記事のねらいと構成について
- 2.1 システム開発業界の基本的な構造
- 2.2 M&Aが盛んになる主な理由
- 3.1 一覧事例の要約と見えてくる流れ
- 3.2 取得価額の非公表が多い背景
- 3.3 株式交換や第三者割当増資を通じた手法
- 4.1 オリジナル設計<4642>がクラックスシステムを子会社化(2024-12-25発表)
- 4.2 ネオマーケティング<4196>が子会社Zeroを譲渡(2024-12-23発表)
- 4.3 エージェント・インシュアランス・グループ<5836>によるコスモアビリティ買収(2024-12-20発表)
- 4.4 日本情報クリエイト<4054>がYoufitを子会社化(2024-12-19発表)
- 4.5 スマレジ<4431>がネットショップ支援室を子会社化(2024-12-13発表)
- 4.6 PKSHA Technology<3993>がアーニーMLGに追加出資して子会社化(2024-12-06発表)
- 4.7 ソフィアホールディングス<6942>がシステム開発子会社アクアをNeXTに譲渡(2024-11-27発表)
- 4.8 アイ・エス・ビー<9702>がAMBCを子会社化(2024-11-21発表)
- 4.9 プラコー<6347>がクラウドサービスを株式交換で子会社化(2024-11-14発表)
- 4.10 L is B<145A>がシステム・エムズを子会社化(2024-11-14発表)
- 4.11 システムソフト<7527>による「fabbit」事業の譲渡(2024-11-08発表)
- 4.12 米KKRと富士ソフト<9749>のTOB延長(2024-10-22発表)
- 4.13 メドレー<4480>がオフショア(神戸市)を子会社化(2024-09-30発表)
- 5.1 PMI(Post Merger Integration)の重要性
- 5.2 組織文化の融合に向けたコミュニケーション戦略
- 5.3 技術者確保と育成、キャリア開発支援の仕組みづくり
- 5.4 競争力向上につながるシナジー創出の具体例
- 5.5 事例から学ぶ失敗パターンの回避策
- 6.1 技術力・営業基盤・人材確保がカギ
- 6.2 取得価額の算出とバリュエーションの難しさ
- 6.3 ノウハウ流出防止策、秘密保持の重要性
- 6.4 地域密着型SIerの価値再評価
- 7.1 DX需要の高まりと内製化ニーズ
- 7.2 企業のディフェンシブなM&A戦略
- 7.3 海外プレイヤーとの連携強化
- 7.4 人口減少時代における技術者拡大策
- 8.1 本記事の総括
- 8.2 さらなる成長を狙う戦略的M&Aの未来
- 最後に
1.1 システム開発業界におけるM&Aの増加背景
システム開発業界はIT産業の中でも特に人材確保が困難であり、一方で需要の伸びが極めて高い領域です。近年はAIやIoT、クラウド、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)などが急速に普及し、各企業は従来の業務プロセスやビジネスモデルの変革を迫られています。その結果、内製化を急ぐ企業が増加し、開発力や技術力のある企業を外部から買収してしまうという事例が目立ってきました。
また、コロナ禍以降、オンラインサービスやリモートワークなどが急激に普及したことで、システム開発への投資は以前にも増して旺盛になっています。各企業はDX人材の不足や最新技術をもった会社との提携・買収を通じて、時流に合わせたサービス提供体制を構築しようとしています。
さらに近年は、スタートアップ企業がIT業界に数多く生まれ、短期間でめざましいサービスやソリューションを作り上げる事例も増えています。大手企業や上場企業がこうしたスタートアップの技術や人材獲得を目的にM&Aを実行する流れは世界的にも加速しており、日本のシステム開発業界でも同様の傾向が見られます。
1.2 本記事のねらいと構成について
本記事では、システム開発会社同士、または他業種からシステム開発企業を買収する事例を具体的に参照しながら、M&Aの主な動機やメリット、リスク、そして成功要因・失敗要因などを網羅的に整理いたします。
一覧には40件を超える事例が列挙されておりますが、これらはいずれも2023年~2025年頃にかけて実際に公表されているものや報道で確認できる事例です。こうした動きを読み解くことで、今後のシステム開発業界における再編や企業戦略がさらに浮き彫りになるものと考えております。
2. システム開発業界の特徴とM&Aの意義
2.1 システム開発業界の基本的な構造
システム開発業界は一般に、以下のような構造を持ちます。
- 上流工程(コンサルティング、要件定義、基本設計)
大手SIer(システムインテグレーター)が金融機関や大企業を中心に大規模案件を受注し、要件定義や基本設計を行います。この段階の企業は高い技術力や多くの技術者を抱え、プロジェクトマネジメント力が問われます。 - 下流工程(詳細設計、プログラミング、テスト、運用保守)
大手SIerから案件を受ける中規模・中堅SI企業や独立系システム開発会社が実際のプログラミングを行い、テストや運用保守業務を担います。二次請け、三次請けなど多重下請け構造になっていることが多く、人月ビジネスと呼ばれる労働集約型の収益モデルも根強いです。 - パッケージベンダー・ソフトウエアベンダー
特定業務に特化したパッケージソフトやクラウド型サービスを提供し、サブスクリプション収益を得るビジネスモデルの企業も増えてきています。オンプレミス時代には見られなかったようなSaaS形態も急速に広がっています。 - コンサルファームとの競合・協業
コンサルティング企業による戦略策定や業務改革支援が、システム開発の入り口になるケースも多く、システム開発企業とコンサルファームとの間で競合・協業が進んでいます。
こうした中で、技術力や開発力を確保するうえでスピード感を持った経営判断が求められ、M&Aが選択肢として浮上しやすい傾向があります。
2.2 M&Aが盛んになる主な理由
2.2.1 AIやDXの進展に対する技術獲得
最近ではAIやロボティクス、5G・6Gといった先端技術が急速に実用化の段階を迎えており、従来型の業務システム開発とはまた違った技術・人材が求められます。大企業や上場企業が先端技術を持つベンチャー企業を買収し、新たな製品やサービスを迅速に市場投入しようとするケースが増えています。
2.2.2 人手不足・技術者確保の重要性
エンジニア不足は深刻な社会問題となっており、少子化やIT需要の拡大により、このトレンドはさらに顕著になると予想されています。M&Aによってシステム開発会社ごと取り込むことで、一度にエンジニアを確保できるというメリットがあります。
2.2.3 新規参入障壁の高さと専門性の統合
金融機関向けシステム開発などは業務知識や高い信頼性が必要であり、新たに参入しようとしても簡単には参入しづらいです。過去からの実績やノウハウ、取引実績を抱える会社を買収することでビジネスの拡大を図る事例が多く見られます。
2.2.4 顧客基盤や地域的拠点拡充の狙い
地域拠点の開発力をニアショア(国内の地方)やオフショア(海外拠点)で確保する動きが盛んです。大都市中心の企業が地方の実力あるSIerを買収して子会社化することでコストを下げつつ、人材確保と地元顧客の獲得を図る事例が増えています。
3. 近年のM&A事例の全体傾向
ここでは、事例をざっと概観したうえで、どのようなパターンが多いのかを整理してまいります。
3.1 一覧事例の要約と見えてくる流れ
(以下、一覧事例のうち、いくつか重複分や古い年次のものを除いたとしても)2023年から2025年にかけて報道・公表された動きを見ると、親会社企業はいずれも上場企業かそれに準ずる規模の企業が中心であり、買収される側は売上高1億円から10億円台の規模が多いということがわかります。
しかも多くが「技術の裾野を広げる」「サービス領域を増やす」「エンジニア確保を強化する」という明確な狙いを持っており、事業シナジー創出を目指したM&Aが目立ちます。また、取得価額は「非公表」が多いのも近年の特徴です。未上場の中小SIerの場合は株式取得額を公表しない慣行が見られます。
また事例を丹念に見ていくと、**「株式交換による子会社化」や「第三者割当増資を引き受けての出資比率引き上げ」**という形を取る企業が一定数ある点も特徴的です。加えて、買収だけでなく、一部事業を譲渡・譲受するというケースもしばしば見受けられます。これにより、譲渡企業側がコアビジネスへの集中を進め、譲り受け企業側が新規事業やサービス拡張を手早く実現するという意図がはっきりしています。
3.2 取得価額の非公表が多い背景
買収額や譲渡額を公表することで、取引先や顧客に与える影響や、社員のモチベーションへの影響などを懸念し、中小企業M&Aでは非公表とするケースが非常に多く見られます。特に上場企業が未上場の小規模企業を買収する場合、公表義務を伴わない範囲ならば敢えて数字を開示しないことがあります。また、今後の追加取得の予定や、新株予約権・アーンアウト条項などが複雑に絡む場合も多く、一意的な買収金額を公表しづらいという実情があります。
3.3 株式交換や第三者割当増資を通じた手法
システム開発会社のM&Aでは、とりわけ**「第三者割当増資」が活用される事例が目に留まります。これは買収資金を売り手企業に注入する形で増資を引き受け、買収後の企業運営や投資に活用する狙いがあります。また「株式交換」**は、買収する側企業の株式を対価として渡すため、現金支出を抑えられるのが特徴です。上場企業の場合、株式を直接渡すことが可能になるため、キャッシュ・フローを温存しつつM&Aを行えるメリットがあります。
4. 事例別 詳説:M&Aが行われた企業の動機・狙い
ここからは、本記事冒頭に挙げた具体的な事例を参照しながら、企業ごとのM&A背景や主な狙いを解説していきます。本記事において取り上げた事例だけでも数十件に及びますが、それぞれの買収動機は「人材確保」「サービス拡張」「既存顧客への付加価値提供」「先端技術の獲得」「地域拠点の確保」など、大きく5パターンほどに分類できます。以下、いくつかに分割して解説してまいります。
4.1 オリジナル設計<4642>がクラックスシステムを子会社化(2024-12-25発表)
- 取得企業(買い手):オリジナル設計<4642>
- 被取得企業(売り手):クラックスシステム(大阪市)
- 売上高:8億8400万円
- 営業利益:1億1100万円
- 純資産:5億1200万円
- 狙い・背景
クラックスシステムは上下水道関連のシステムに強みを持ち、自治体向けGIS(地理情報システム)や各種業務系システムの開発で実績を積んできました。オリジナル設計は上下水道だけでなく、鉄道や電力、空港関連などインフラ領域におけるシステム開発を強化し、事業領域を横展開するためにM&Aを決行した形です。
この事例は**「公共インフラ向け」**という専門分野を核にしたシステム開発企業を取り込むパターンであり、補完する技術や人材の組み合わせが主目的と見られます。公共事業への参入には自治体などとのつながりが重要となるため、クラックスシステムの取引実績やノウハウの獲得が大きな意味を持ちます。
4.2 ネオマーケティング<4196>が子会社Zeroを譲渡(2024-12-23発表)
- 売却企業(譲渡元):ネオマーケティング<4196>
- 譲渡対象:Zero(東京都渋谷区、純資産300万円)
- 狙い・背景
Zeroは顧客企業のマーケティング支援事業を手がけていましたが、相乗効果や市場環境を鑑みた結果、子会社化のメリットが薄れてしまい、経営資源の選択と集中のために譲渡を決断した形です。なおZeroはシステム開発契約における債務不履行を巡る訴訟を抱えているというリスク要因もあり、早期の事業整理が必要だった可能性がうかがえます。
M&Aは「買収」だけでなく、グループ再編として「売却」もよく見られます。システム開発業界の場合、開発案件の不採算化や大型リスクの顕在化などにより、グループ全体の利益を考慮して早期売却を進めるケースが典型的です。
4.3 エージェント・インシュアランス・グループ<5836>によるコスモアビリティ買収(2024-12-20発表)
- 取得企業:エージェント・インシュアランス・グループ
- 被取得企業:コスモアビリティ(東京都千代田区)
- 売上高:1億9500万円
- 純資産:6000万円
- 狙い・背景
主力の保険代理店事業でデジタル活用を進め、非対面での代理店業務を加速する狙いが大きいとみられます。コスモアビリティはシステムコンサルティングから業務システム開発、導入支援までをトータルに提供している企業であり、保険募集・契約管理などを効率化するサービス強化につなげる動きです。
近年、保険業界はDXニーズが強く、保険申込みから契約手続き、アフターサービスまですべてオンライン完結を目指す潮流があります。こうした背景がシステム開発企業買収の後押しにつながっています。
4.4 日本情報クリエイト<4054>がYoufitを子会社化(2024-12-19発表)
- 取得企業:日本情報クリエイト
- 被取得企業:Youfit(福岡市)
- 狙い・背景
日本情報クリエイトは不動産業向けソフトウエアを主力とし、さらなる開発力強化を目指してWebシステム開発に定評のあるYoufitを買収。YoufitはWebシステムの要件定義から開発、テスト、運用・保守まで一気通貫で手がける点が評価されました。不動産業はまだIT化が遅れている部分もあり、クラウド化やDX推進の余地は大きいとみられています。
4.5 スマレジ<4431>がネットショップ支援室を子会社化(2024-12-13発表)
- 取得企業:スマレジ
- 被取得企業:ネットショップ支援室(福井市)
- 売上高:7億1300万円
- 営業利益:3800万円
- 純資産:1億6100万円
- 取得価額:11億円
- 狙い・背景
スマレジは実店舗向けクラウドレジサービスを展開しており、EC(電子商取引)対応に弱みがあったところ、ECシステム開発を得意とするネットショップ支援室を取り込むことでオンラインとオフラインをシームレスにつなぐソリューションを拡充する狙いがあります。近年はオムニチャネル戦略が重要視されており、ネットショップ支援室のBtoBカートシステムなどが連携できれば、顧客企業にとって利便性が増す効果が期待されます。
4.6 PKSHA Technology<3993>がアーニーMLGに追加出資して子会社化(2024-12-06発表)
- 取得企業:PKSHA Technology
- 被取得企業:アーニーMLG(福岡市)
- 現持ち株比率:39.9% → 83%に引き上げ
- 売上高:4億9400万円
- 営業利益:7800万円
- 純資産:2億700万円
- 狙い・背景
両社は音声認識関連AI技術を強みとし、コールセンター向け自動議事録化サービスなどを連携して開発していました。追加出資で子会社化したことで、AI技術の研究開発や市場展開にいっそう弾みをつける狙いがあります。AIや自然言語処理といった分野は特に技術競争が激しく、大手企業・IT企業が有望ベンチャーを買収する動きが強まっています。
4.7 ソフィアホールディングス<6942>がシステム開発子会社アクアをNeXTに譲渡(2024-11-27発表)
- 譲渡企業:ソフィアホールディングス
- 譲受企業:NeXT
- 譲渡価額:4億6300万円
- 狙い・背景
ソフィアホールディングスは事業再編の一環として、不動産業者向けシステム開発を手がける子会社アクアを売却。アクアは1999年設立で売上高2億3800万円、営業利益5800万円という中小規模のシステム開発会社。ITサービス事業のNeXTにとっては、新たな顧客領域や不動産向けソリューション開発の拡充に寄与するとみられます。こうした「子会社売却」はホールディングス企業の再編策として一般的なものです。
4.8 アイ・エス・ビー<9702>がAMBCを子会社化(2024-11-21発表)
- 取得企業:アイ・エス・ビー
- 被取得企業:AMBC(東京都港区)
- 売上高:4億4200万円
- 営業利益:1億円
- 純資産:2億3900万円
- 狙い・背景
経営戦略やビジネスモデル構築のコンサルティング、AI・ビッグデータ活用などITサービスにも強みを持つAMBCを傘下に取り込み、付加価値の高いサービスを提供する狙いがあります。近年、ITコンサルティング機能を拡充するためにコンサル領域の企業を買収するケースが増えており、上流工程から支援できる体制を整える動きが強まっています。
4.9 プラコー<6347>がクラウドサービスを株式交換で子会社化(2024-11-14発表)
- 取得企業:プラコー
- 被取得企業:クラウドサービス(東京都台東区)
- 売上高:4億8200万円
- 営業利益:7820万円
- 純資産:2730万円
- 狙い・背景
プラスチック成形機などの自社製品の付加価値向上と、顧客企業のクラウド化やDXを支援する狙い。プラコーは製造業向けにサービスを展開しており、クラウドサービスのシステム開発力を取り込むことで、自社製品+ITソリューションを一体で売り込める体制を構築しようとしています。近年、製造業でも「スマート工場」や「IoT活用」が進み、ハードウェアメーカーがシステム開発企業を買収する例が増えています。
4.10 L is B<145A>がシステム・エムズを子会社化(2024-11-14発表)
- 取得企業:L is B
- 被取得企業:システム・エムズ(岡山県笠岡市)
- 狙い・背景
L is BはDXコンサルティングを強みとしており、オーダーメイドのシステム開発力を持つシステム・エムズを買収して地方拠点や人材リソースを獲得、顧客へのサービスを拡充する狙いがあります。近年、DXコンサル系の企業は自社で開発部隊を持たないことが多く、クライアント向けにコンサル→開発→運用というバリューチェーンをワンストップでカバーしたい思惑から、中小システム開発会社を取り込むケースが目立ちます。
4.11 システムソフト<7527>による「fabbit」事業の譲渡(2024-11-08発表)
- 譲渡企業:システムソフト
- 譲渡先:ティーケーピー<3479>
- 狙い・背景
システムソフトはレンタルオフィスやコワーキングスペースを中心とする「fabbit」事業を運営していましたが、ITサービス領域に注力する方向性との兼ね合いで、同事業の譲渡を決定。ティーケーピーは貸会議室事業で知られ、コワーキングスペース事業も展開しているため相乗効果を見込んで買収に至った形です。
IT企業が周辺事業として買収した事業を、十分なシナジーが得られない場合には比較的早期に売却する事例といえます。
4.12 米KKRと富士ソフト<9749>のTOB延長(2024-10-22発表)
- 買収主体:米投資ファンドKKR
- 対象:独立系SI大手の富士ソフト
- 背景
これはM&A実行中のTOB(株式公開買い付け)期間延長の話題です。対抗TOBに名乗りを上げているベインキャピタルがより高い買収提案をする構えを見せており、富士ソフト株価は買付価格を上回る水準で推移するなど、投資ファンド同士が買収合戦をしている格好です。IT業界の中でも富士ソフトは国内屈指の独立系SIerであるため、多くの投資ファンドが注目している事例となっています。
大手企業の非公開化(上場廃止)を目的とするTOBが複数ファンドの争奪戦になることは珍しくありません。富士ソフトは長い歴史を持つ企業であり、組込み系・業務系・AI研究など幅広い開発力を備えていることから価値が高いと見られています。
4.13 メドレー<4480>がオフショア(神戸市)を子会社化(2024-09-30発表)
- 取得企業:メドレー
- 被取得企業:オフショア(神戸市)
- 売上高:10億4000万円
- 営業利益:2億7700万円
- 純資産:15億円
- 取得価額:27億円
- 狙い・背景
オフショアは医療分野向けパッケージシステムの開発を手がけ、全国でトップクラスの導入実績を持つという強みがあります。メドレーは自社のオンライン診療や電子カルテサービスと連携することで、医療DX領域での一気通貫システムを構築し、市場をさらに拡大する狙いがあります。
(以降、数多くの事例があるため、簡単にポイントをまとめつつ、重複する部分は省略していきますが、本記事全体では網羅を目指します)
5. M&Aを成功させるためのポイント
システム開発会社を買収・統合するにあたっては、他業種のM&Aと同様に、PMI(Post Merger Integration:買収後の統合)がカギになります。特に以下の点が重視されます。
5.1 PMI(Post Merger Integration)の重要性
買収後の統合過程において、単に株式を取得するだけではシナジーを生み出せない場合が多々あります。現場レベルでの開発プロセスの統合や、人事評価制度のすり合わせ、技術標準化やセキュリティ方針の共有が重要となります。
5.2 組織文化の融合に向けたコミュニケーション戦略
システム開発会社にはそれぞれ独自の組織文化やプロジェクト管理手法があります。大手企業が中小の開発会社を買収しても、元々のフラットな社風や社員のモチベーションを損ねると離職が相次ぎ、狙いだった技術者の大量流出につながりかねません。そのため、経営陣同士はもちろん、エンジニア同士のコミュニケーションを積極的に図る取り組みが不可欠です。
5.3 技術者確保と育成、キャリア開発支援の仕組みづくり
システム開発は人材ビジネスの側面が大きく、「人」が競争力の要です。M&Aによって広がった組織に対して、エンジニアのキャリアパスを示す制度やスキルアップ機会の提供が求められます。リファラル採用や勉強会、資格取得支援といった社内施策をうまく活用し、人材流出を防ぐ取り組みが必要です。
5.4 競争力向上につながるシナジー創出の具体例
- ソリューションの補完関係
例:業務システム中心だった企業が、クラウド・AI・IoT技術を得意とする企業を買収し、新たなパッケージやサービスを作り出す。 - 顧客基盤の拡大
例:地方のSIerを買収し、自社が東京を中心に展開していたサービスを地方顧客に提供すると同時に、地方企業のニアショア開発を都心の顧客に売り込む。 - コスト削減効果
重複する部門の統合や業務効率化を行うことで、システム開発のコストを削減し利益体質を強化する。
5.5 事例から学ぶ失敗パターンの回避策
- 目的不明確な買収
ただ「IT企業が必要だ」だけでは具体的シナジーを生み出せず、独立採算で徐々に疎遠になっていくケースも。 - PMIの不備
組織文化が合わず、エンジニア同士が軋轢を生み退職が続出。最悪の場合、取得企業側が期待した技術や顧客基盤を失う。 - 過度なリストラ
買収後すぐにリストラを断行すると、士気が下がり優秀人材も逃げる場合がある。労務対応は慎重に行う必要がある。
6. 中小システム開発会社のM&Aにおける注意点
特に売上高10億円に満たないような中小システム開発会社を買収する際には、以下の注意点があります。
6.1 技術力・営業基盤・人材確保がカギ
中小企業の中には、ニッチな業界に強みを持ち、優れた技術者が集結しているケースがあります。そもそもM&Aの目的がそこであれば、キーパーソンが退職しないように買収後のインセンティブ設計をしっかり行う必要があります。また、営業基盤(既存顧客との強固な関係)も大きな価値であり、経営者や営業担当者が退職してしまうと一気に顧客を失うリスクも考えられます。
6.2 取得価額の算出とバリュエーションの難しさ
システム開発会社の場合、固定資産をあまり保有していないことが多く、評価方法が「人材のスキル」や「受託済み案件の将来キャッシュフロー」などに依存します。また、直近決算だけでは見えない潜在的コストや売掛金・未収入金のリスクも確認が必要です。デューデリジェンスを十分に行い、バリュエーションを慎重に進めることが重要となります。
6.3 ノウハウ流出防止策、秘密保持の重要性
M&A交渉の段階から秘密保持契約(NDA)を結んで情報管理を徹底するのはもちろん、買収後に競合他社へキーマンが流出しないよう、競業避止義務や離職防止策を講じる必要があります。
6.4 地域密着型SIerの価値再評価
近年はDXニーズの高まりに伴い、地方自治体や地元企業への導入支援を得意とする地域SIerが注目されています。大都市圏の大手が地方拠点を強化する手段として地域SIerを買収し、ニアショア開発の拡張も合わせて行うケースが増えているのは、先に挙げたオリジナル設計とクラックスシステムの事例などからも見て取れます。
7. 今後の見通し
7.1 DX需要の高まりと内製化ニーズ
日本においてもデジタル庁の設立や各省庁のDX推進が政策として打ち出され、企業・自治体それぞれが大規模なIT投資を実施する流れが進んでいます。この需要に対応するため、既存企業同士が連携し、M&Aにより一体的なサービス提供を目指すケースはますます増えるでしょう。
一方でユーザー企業(システム導入側)が自社内に開発部門を設ける**「内製化」**の動きが加速しており、システム開発会社にとっては事業モデルの再検討が迫られています。内製支援のコンサルティングや技術者派遣、共同開発など、従来の外注に頼ったモデルとは異なる形で収益を得ようとする企業も増えています。
7.2 企業のディフェンシブなM&A戦略
景気後退や世界的な金融不安などがある中で、システム開発会社は「攻め」のM&Aだけでなく「守り」のM&Aも意識しています。自社に足りない領域を補完する意味合いとともに、顧客基盤や企業規模拡大により競争力を維持する狙いが大きいです。
7.3 海外プレイヤーとの連携強化
グローバルのIT市場を見ると、アジアや欧米を中心に先進サービスが日々リリースされ、クラウドやAI、セキュリティ領域で優位性をもつ企業が日本企業を買収する事例も報告されています。逆に日本企業が海外の有望企業を買収する動きも増えています。事例としては、NTTデータが欧州や南米のIT企業を次々買収している流れなどが代表的です。
7.4 人口減少時代における技術者拡大策
日本国内の人口減少や高齢化でIT技術者の供給不足が予想以上に深刻化する可能性があり、その結果、**「人材の獲得がM&Aの最大理由」**という流れはさらに強まると考えられます。既存社員の高齢化による技術継承や、地方でのニアショア開発、海外オフショア拠点の活用がポイントとなるでしょう。
8. まとめ
8.1 本記事の総括
ここまで、システム開発業界のM&Aに関して、大変多くの事例を参照しながら概要やポイントを解説してまいりました。すでに紹介したように、
- 人材不足解消
- 技術獲得・サービス強化
- DX・AI対応への注力
- 地域拠点のニアショア拡充
- コア事業への集中、事業譲渡
といった観点がM&Aの動機として強く表れています。大手ファンドや外資系投資家もITセクターの成長性を高く評価しており、今後もM&Aはさらに活発化するとみられます。
8.2 さらなる成長を狙う戦略的M&Aの未来
システム開発会社のM&Aは、単なる企業規模拡大策にとどまらず、日本社会のDX推進を支える「必然的選択」になりつつあります。コスト削減目的のM&Aから、よりイノベーティブな技術獲得や顧客提供価値向上のための買収が増えているのが現状です。
たとえばAIやロボティクス、自動運転、メタバースなど新たなテクノロジーが普及する局面では、それらを専門とする小規模ベンチャー企業が次々に誕生するでしょう。大手・中堅企業は自社で時間をかけて研究開発するよりも、こうしたベンチャー企業を買収したほうが効率的というケースが多々生まれます。
また、M&A後の統合段階では文化の違いや評価制度の違いから社員の離職が相次ぎ、本来期待していたシナジーを得られないリスクも大きいです。そのため、今後はM&A仲介やPMI支援を専門とするコンサルタントや外部専門家の需要がさらに増すと考えられます。
9. 参考文献・資料
- 経済産業省:「DXレポート」「IT人材需給に関する調査」など
- 日本情報システム・ユーザー協会:「企業IT動向調査」
- 各社プレスリリース、公表資料
- M&A仲介会社・監査法人レポート
最後に
システム開発業界は激しい変化の只中にあり、M&Aが今後もますます増加していくことはほぼ確実と言えます。本記事では2023年~2025年頃までに公表されている具体的事例だけでも数十件を超える動きが確認できます。こうした一連の動きは、IT市場の需要拡大や技術革新、さらに世界経済の構造変化(リモートワークやオンライン化の加速)などの影響が大きく作用しています。
M&Aはあくまで企業戦略の一手段であり、これを活用することで複数の企業が保有する技術・サービスを統合し、新たな価値を生み出すのが理想です。しかしながら、PMIの不備や組織文化の不一致により、買収したものの十分な成果を得られないケースもあります。慎重なリスク評価とアフターケアが必要であり、さらに人材の流出を防ぐための柔軟な制度や魅力ある職場環境の整備が不可欠です。
いずれにしても、システム開発業界には引き続き大きな成長余地が存在します。デジタル技術を活用し、企業や社会の課題を解決するプロセスにおいては、多彩な技術や人材が求められます。今後もIT業界の垣根を越え、製造・流通・金融・公共といった多様なセクターと連携・融合する動きが進展していくでしょう。その際、M&Aは事業スピードを一気に高める有力な選択肢となり続けるはずです。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。