目次
  1. はじめに
  2. 1.SNSマーケティングとは
  3. 2.SNSマーケティング業界におけるM&Aの背景と目的
  4. 3.SNSマーケティング業界における主なM&A事例
  5. 3.1.ライスカレー<195A>、HADOからバーチャルインフルエンサー事業を取得(2024/08/14)
  6. 3.2.ラバブルマーケティンググループ<9254>の2つのM&A事例
    1. 3.2.1.タイDTK ADの子会社化(2023/03/22)
    2. 3.2.2.ユニオンネットの子会社化(2024/08/05)
  7. 3.3.ホットリンク<3680>、wevnalからSNS広告事業と一部メディア事業を取得(2023/01/27)
  8. 3.4.ユミルリンク<4372>、SNS運用サポートなどのROCを子会社化(2024/06/14)
  9. 3.5.バルコス<7790>、女性用吸水ショーツ企画・販売のimmunityを子会社化(2024/02/14)
  10. 3.6.フューチャーベンチャーキャピタル<8462>、THE FREE AGENT LABを子会社化(2024/06/18)
  11. 3.7.トレンダーズ<6069>、CARAFULを子会社化(2023/03/29)
  12. 3.8.プラップジャパン<2449>、シンガポールのWild Advertising & Marketingを子会社化(2021/02/16)
  13. 3.9.スペースシャワーネットワーク<4838>、インフルエンサーマーケティング事業のGROVEを子会社化(2019/02/22)
  14. 3.10.ガイアックス<3775>、SNSマーケティング企業のGENIC LABを子会社化(2021/06/01)
  15. 3.11.アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、Webサービス子会社のpopteamを譲渡(2023/01/31)
  16. 3.12.PR TIMES<3922>、SNSマーケティング支援のNAVICUSを子会社化(2023/11/20)
  17. 3.13.Orchestra Holdings<6533>の2つのM&A事例
    1. 3.13.1.テテマーチからSNSマーケティングツール「CAMPiN」事業を取得(2021/09/30)
    2. 3.13.2.SNSマーケティング事業のミンツプランニングを子会社化(2022/05/09)
  18. 4.SNSマーケティング業界M&Aの特徴と傾向
  19. 5.SNSマーケティングM&Aのメリットとリスク
    1. 5.1.メリット
    2. 5.2.リスク
  20. 6.今後の展望:SNSマーケティングM&Aは加速するのか
  21. 7.M&Aを成功させるためのポイント
  22. 8.まとめ

はじめに

近年、スマートフォンやソーシャルメディアの普及に伴い、「SNSマーケティング」という領域が急速に拡大しています。これまではテレビCMや雑誌広告といった従来型の広告手法が主流でしたが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が日常生活に深く浸透する中で、企業のプロモーション活動やブランド構築において「SNSをどう活用するか」が重要なテーマとなってきました。

こうした潮流を背景に、SNSマーケティングを専門とする企業やSNSを活用したコンサルティング企業が数多く生まれ、その市場規模は拡大し続けています。一方で、企業間競争の激化や新たなテクノロジーの登場もあり、SNSマーケティングの手法や運用の高度化が求められています。こうした中、SNSマーケティングの専門性を持つ企業を買収することで、自社のサービスラインナップを拡充し、ビジネスチャンスを広げようとする動きが活発化しているのです。

本記事では、SNSマーケティング業界におけるM&A(企業の合併・買収)動向や背景、具体的な事例、シナジー(相乗効果)の狙い、今後の展望などを約30,000文字という長文にわたり詳しく解説していきます。実際に行われたM&Aの事例を挙げながら、業界全体としてどのような戦略・狙いで買収や合併が進められているのかを紐解いていきたいと思います。

1.SNSマーケティングとは

まずは基礎として「SNSマーケティング」とは何か、改めて整理しておきます。SNSマーケティングとは、Facebook、Instagram、Twitter(現X)、YouTube、TikTok、LINEなどのソーシャルメディアを活用して、企業やブランドの認知度向上、顧客とのコミュニケーション促進、売上拡大などを目的に行われるマーケティング手法です。

SNSマーケティングの代表的な取り組みとしては、以下のようなものがあります。

SNSアカウントの運用サポート
企業公式アカウントの企画立案やコンテンツ制作、日々の投稿、ユーザーとのコミュニケーションなどを代行、またはコンサルティングするサービス。

インフルエンサーマーケティング
SNS上で大きな影響力を持つインフルエンサー(フォロワー数やエンゲージメントの高い個人・グループ)を起用し、商品やサービスをPRする手法。企業の広告よりも消費者に身近に感じられ、購買意欲を喚起しやすい特徴がある。

広告運用
Facebook広告、Instagram広告、LINE広告、TikTok広告、Twitter広告など、各SNSが提供する広告プラットフォームを活用して、ターゲットを絞った集客やブランディングを図る手法。

SNSキャンペーン企画・実施
プレゼント企画やハッシュタグキャンペーンなどを通じて、短期間で集中的に認知度の向上を図る。参加ユーザー同士の拡散が大きな効果を生む。

SNS解析・リスニング
ユーザーがSNS上で発信している情報をデータ化・可視化し、商品やサービスに対する評判、ブランドイメージの把握、KPI(重要業績評価指標)の測定などを行うことで、マーケティング戦略を最適化する。

これらの手法はいずれも、企業とユーザーとの「つながり」を強化するうえで非常に重要です。SNSマーケティングを成功させるには、「拡散されやすい魅力的なコンテンツ」「ユーザーとの継続的なコミュニケーション」「最新アルゴリズムの理解やデータ分析に基づいた施策」など、多面的なノウハウが求められます。

2.SNSマーケティング業界におけるM&Aの背景と目的

ここからは本題である「SNSマーケティング業界でのM&A」の背景について詳しく見ていきます。企業がSNSマーケティング専門企業を買収・合併する狙いは、大きく以下のように整理できます。

SNSマーケティングノウハウの獲得
SNSマーケティングは、広告媒体としての活用方法やユーザー心理の理解、アルゴリズム変化への対応など、高度な専門知識を要します。既存の広告代理店やコンサルティング会社が一からSNSマーケティングの専門チームを立ち上げるよりも、実績のある企業を買収してしまう方がスピーディでリスクが低いケースが多いのです。

新規事業領域の拡大
デジタルトランスフォーメーション(DX)の波があらゆる業種で進む中、企業のマーケティング活動もデジタル化が避けられません。SNSはデジタルマーケティングの重要なチャネルと位置づけられており、今後さらに需要が高まると予想されています。そこで「SNSマーケティング事業を自社の事業ポートフォリオに加えたい」という思惑が働きます。

自社サービスとのシナジー創出
既存の広告事業やPR事業、EC事業、動画制作事業などを展開している企業にとって、SNSマーケティング企業のノウハウや顧客基盤、運営しているメディアやツールなどが大きなシナジー(相乗効果)をもたらす可能性があります。SNSを通じた販促が加わることで、一気通貫のマーケティングサービス提供が可能になります。

海外展開およびインバウンド需要への対応
SNSは世界的に共通するプラットフォームが多い(FacebookやInstagram、TikTokなど)ため、海外展開の足がかりとしてSNSマーケティング企業を買収する事例も増えています。また、日本を訪れる外国人観光客(インバウンド)向けのPRにSNSが効果的であることから、アジア圏への拠点を拡大する目的でM&Aを行うケースも見られます。

競合他社の参入防止・規模拡大
市場が拡大している分野では、競合が増えて価格競争やサービス競争が激化する傾向があります。そのため、有望企業を早めに傘下に収めることで市場シェアを固め、競合他社の参入を制限する狙いもあります。

こうした背景があるため、SNSマーケティング業界でのM&Aは今後も活発化していくと考えられます。次章では、具体的なM&Aの事例を一覧しながら、それぞれの特徴や経緯、狙いについて詳しく見ていきます。

3.SNSマーケティング業界における主なM&A事例

ここからは、実際に行われたSNSマーケティング関連企業のM&A事例を時系列または関連性ごとに紹介し、その内容やシナジーの狙いなどを掘り下げて解説します。今回参考として挙げる事例は以下です。

ライスカレー<195A>、HADOからバーチャルインフルエンサー事業を取得(2024/08/14)
ラバブルマーケティンググループ<9254>、タイDTK ADを子会社化(2023/03/22)
ラバブルマーケティンググループ<9254>、ユニオンネットを子会社化(2024/08/05)
ホットリンク<3680>、wevnalからSNS広告事業と一部メディア事業を取得(2023/01/27)
ユミルリンク<4372>、SNS運用サポートなどのROCを子会社化(2024/06/14)
バルコス<7790>、女性用吸水ショーツ企画・販売のimmunityを子会社化(2024/02/14)
フューチャーベンチャーキャピタル<8462>、THE FREE AGENT LABを子会社化(2024/06/18)
トレンダーズ<6069>、TikTok中心のインフルエンサーマーケティング事業を手がけるCARAFULを子会社化(2023/03/29)
プラップジャパン<2449>、シンガポールの広告会社Wild Advertising & Marketingを子会社化(2021/02/16)
スペースシャワーネットワーク<4838>、インフルエンサーマーケティング事業のGROVEを子会社化(2019/02/22)
ガイアックス<3775>、SNSマーケティングのGENIC LABを子会社化(2021/06/01)
アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、Webサービス子会社のpopteamを譲渡(2023/01/31)
PR TIMES<3922>、SNSマーケティング支援のNAVICUSを子会社化(2023/11/20)
Orchestra Holdings<6533>、テテマーチからSNSマーケティングツール「CAMPiN」事業を取得(2021/09/30)
Orchestra Holdings<6533>、SNSマーケティング事業のミンツプランニングを子会社化(2022/05/09)
これらの事例それぞれに注目しながら、SNSマーケティング分野のM&A特有の特徴や背景、企業側の狙いを把握していきましょう。

3.1.ライスカレー<195A>、HADOからバーチャルインフルエンサー事業を取得(2024/08/14)

概要
ライスカレー(株)は、SNSマーケティング事業のHADO(東京都渋谷区)からバーチャルインフルエンサー事業を2024年8月14日付で取得しました。動画投稿アプリ「TikTok」などSNS上で活躍するキャラクターIPを取り込む狙いです。該当事業の直近業績は売上高5000万円、営業利益4200万円。取得価額は1億2000万円とされています。

狙いとシナジー
バーチャルインフルエンサーは、リアルの人物ではなく、3DCGやイラストなどのキャラクターを用いてSNS活動を行う存在です。近年、CG技術やモーションキャプチャ技術の進歩に伴い、バーチャルインフルエンサーの人気が高まっています。
ライスカレー側は、こうしたキャラクターIPを取り込むことで、従来型のインフルエンサーマーケティングと差別化を図り、企業への独自提案が可能になると考えられます。また、キャラクター自体のグッズやメディア展開も見据えている可能性があり、単なる広告代理のモデルを超えたビジネスの多角化を期待できます。

子会社化による広がり
さらに、HADOのグループ会社NADESIKOの全株式を取得し、2025年8月に子会社化する計画も併せて発表されました。NADESIKOは2023年5月設立で、縦型ショート動画を活用したマーケティング事業を手がけています。取得価額は未定ですが、TikTokなどのプラットフォームを活用したショート動画マーケティングは今後も大きな伸びが見込まれる分野です。ライスカレーとしては、この2つの事業取得を通じて、一挙にSNSマーケティング関連のサービスを強化・拡充する狙いがあると考えられます。

3.2.ラバブルマーケティンググループ<9254>の2つのM&A事例

ラバブルマーケティンググループはSNSマーケティングやPR、広告支援を行う企業で、近年積極的なM&A戦略を展開しています。ここでは2つの事例を取り上げます。

3.2.1.タイDTK ADの子会社化(2023/03/22)

概要
2023年3月22日、ラバブルマーケティンググループは東南アジアで広告事業を展開するタイDTK AD Co., Ltd.(バンコク)の株式49%を取得し、子会社化すると発表しました。取得価額は非公表。東南アジアでの現地企業のマーケティング支援や、日本へのインバウンド需要獲得を視野に入れたものとされています。

東南アジア市場の魅力
東南アジアは経済成長率が高く、SNS利用者数も増加傾向にあります。特にタイではFacebookやInstagramが広く利用されているほか、TikTokの人気も急上昇中です。ラバブルマーケティンググループにとっては、この成長市場への参入が事業拡大を加速させる大きな契機になるでしょう。

インバウンド需要への対応
新型コロナウイルス禍の影響で一時的に落ち込んだインバウンド需要ですが、将来的に回復傾向が見込まれています。タイをはじめとする東南アジア諸国からの訪日客も多いため、SNSを通じた旅マエ・旅ナカの情報発信を支援する事業が大きな成長エンジンになり得ます。

3.2.2.ユニオンネットの子会社化(2024/08/05)

概要
ラバブルマーケティンググループはWebサイト制作などを手がけるユニオンネット(大阪市)の全株式を取得し、2024年11月1日付で子会社化すると発表しました。取得価額は1億2700万円。ユニオンネットの売上高は約6億2800万円、営業利益9700万円と規模も比較的大きく、主にコーポレートサイト制作やWeb広告運用、Webコンサルティングを展開しています。

SNSマーケティングとのシナジー
Webサイト制作や広告運用のノウハウは、SNSマーケティングと非常に親和性が高い分野です。SNSだけで完結するプロモーションよりも、公式サイトやランディングページを連携しながら運用する方が効果を高めやすくなります。ラバブルマーケティンググループとしては、ユニオンネットが持つ制作力・コンサルティング力を取り込むことで、自社のSNSマーケティング支援を一層包括的に展開できるようになると考えられます。

教育業界への展開可能性
ユニオンネットは学校・教育関連で多数の取引実績を持ちます。教育機関も近年は生徒募集やブランディングのためにSNSを積極活用しており、そのサポート需要も高まっています。ラバブルマーケティンググループのSNS運用ノウハウとユニオンネットの制作実績を融合させることで、教育分野向けの新たなマーケティングサービスを構築できる可能性があります。

3.3.ホットリンク<3680>、wevnalからSNS広告事業と一部メディア事業を取得(2023/01/27)

概要
ホットリンクは、デジタルマーケティング支援事業のwevnal(東京都渋谷区)からSNS広告事業と、一部メディア事業である「fasme」を取得すると発表しました。SNS広告事業とfasmeの売上高は1億8800万円、営業利益は5500万円。取得価額は非公表で、2023年2月28日に取得予定とされています。

fasmeの強み
fasmeはメイク・コスメを中心とした情報サービスで、SNS上での発信力が高いメディアといえます。ホットリンクはSNSマーケティング支援を主力事業としていますが、ここに自社メディアを加えることで、単純に広告運用だけでなく、メディアからの流入を活用した包括的なサービス提供が可能になります。

SNSマーケティングの強化
SNS広告事業の拡充はホットリンクにとっても大きなメリットです。ホットリンクはソーシャルリスニングやSNS分析に強みを持ちますが、広告運用やメディア運営を取り込むことで、SNSマーケティングの上流から下流まで一貫して提供できる体制を確立できると考えられます。

3.4.ユミルリンク<4372>、SNS運用サポートなどのROCを子会社化(2024/06/14)

概要
ユミルリンクは、SNS運用サポートを行うROC(神戸市)の株式90%を取得して子会社化すると発表しました。売上高1億4800万円、営業利益△500万円、純資産△1300万円と赤字企業ですが、SNSマーケティングノウハウの獲得を目的としています。取得予定日は2024年9月2日で、残りの10%は2027年9月1日に取得予定です。

赤字企業の買収理由
一見すると赤字企業の買収はリスクが高いように思えます。しかし、SNSマーケティングのノウハウや人的リソース、運用体制などが魅力となり得ます。ユミルリンクは法人向けメッセージプラットフォーム「Cuenote」をSaaS形式で提供しており、ROCのSNS運用ノウハウとの連携により、新しいサービスモデルの開発や顧客への総合提案が期待できるでしょう。

段階取得によるリスクマネジメント
全株式のうち90%を先行して取得し、残る10%を数年後に取得するというスキームは、段階的に企業を取り込むことでリスクを分散する狙いがあります。ROCの事業成長を見極めつつ、最終的に完全子会社化することで、PMI(買収後の統合)を円滑に進めたい意図がうかがえます。

3.5.バルコス<7790>、女性用吸水ショーツ企画・販売のimmunityを子会社化(2024/02/14)

概要
バルコスは、女性用吸水ショーツを企画・販売するimmunity(東京都中央区)の全株式を取得し、子会社化すると発表しました。取得価額は1億円。immunityは2021年設立で、売上高5億3600万円、営業利益4100万円を計上しており、SNSマーケティングを活用した販売実績を持つことが特徴です。

ファッションアイテムとの親和性
バルコスはバッグや財布などファッションアイテムを製造・販売する企業であり、自社メディアやECサイトを運営しています。immunityが強みを持つ「インフルエンサーやSNSを活用した販売ノウハウ」は、バルコスの既存事業にも大いに活用できると考えられます。特にファッション分野はSNSとの相性が良く、インフルエンサーマーケティングの効果が高いのが特徴です。

D2Cビジネスの拡充
immunityの事業モデルは、D2C(Direct to Consumer)に近い形態と推測されます。インスタグラムやTikTokを通じて直接消費者に訴求し、ECサイトで購入してもらう流れは、広告費を効率的に使える利点があります。バルコスはこうしたノウハウを吸収することで、新たなD2Cブランド展開を強化していく狙いもあるでしょう。

3.6.フューチャーベンチャーキャピタル<8462>、THE FREE AGENT LABを子会社化(2024/06/18)

概要
フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)は、外食企業向け人材確保支援を行うTHE FREE AGENT LAB(FAL、東京都千代田区)の全株式を取得し、2024年7月12日に子会社化する予定でしたが、その後7月18日に取得が完了しました。取得価額は非公表です。FALはFacebookやInstagram、LINE広告を用いたSNSマーケティングを活用し、人材募集の課題を解決している新興企業です。

SNSマーケティングが人材紹介へ応用
人材確保においてもSNSの活用は一般的になっています。特に外食産業などでは若年層の採用が重要で、InstagramやTikTokを中心に求人情報を発信する手法が注目されています。FALはこうした手法の専門的ノウハウを持ち、FVCが投資先企業への支援や自社の新規事業にそのノウハウを活かすことを期待していると考えられます。

ベンチャー支援×SNSマーケティング
FVCはベンチャー企業に投資し、成長支援を行うビジネスモデルをとっています。ベンチャー企業にとっても優秀な人材の採用は死活問題であり、SNSマーケティングを活用した採用支援ノウハウがあると、投資先の企業価値向上にもつながる可能性が高いです。今回の買収は単なる事業拡大だけでなく、投資育成プラットフォームの充実を図る狙いともいえます。

3.7.トレンダーズ<6069>、CARAFULを子会社化(2023/03/29)

概要
トレンダーズは、中国系動画投稿アプリ「TikTok」を中心としたインフルエンサーマーケティング事業を手がけるCARAFUL(東京都渋谷区)の全株式を取得し、2023年4月1日付で子会社化を決定しました。CARAFULはファッション通販サイトなどを運営するクルーズ<2138>の100%子会社でした。

TikTokの台頭
TikTokはショート動画ブームを牽引するプラットフォームとして急速に成長を遂げ、インフルエンサーやブランドとのコラボレーションが活発化しています。トレンダーズはこれまで独自のインフルエンサーネットワークやSNSマーケティング支援サービスを提供してきましたが、TikTok特化型のノウハウをより強化するためにCARAFULを買収したとみられます。

若年層への訴求力
TikTokは若年層の利用率が特に高いプラットフォームです。ファッションや美容、音楽などの分野でバイラルが起きやすく、新商品のPRに適しています。トレンダーズは美容メディア「MimiTV」も運営しており、CARAFULを子会社化することで、より幅広いSNSマーケティング施策を企業に提案できる体制を整えたといえます。

3.8.プラップジャパン<2449>、シンガポールのWild Advertising & Marketingを子会社化(2021/02/16)

概要
プラップジャパンは、シンガポールの広告会社Wild Advertising & Marketing Pte. Ltd.の株式80%を取得し、2021年3月1日付で子会社化しました。WildはSNSマーケティングに強みを持ち、シンガポール政府機関や公共機関のデジタルキャンペーンで実績を重ねてきました。

東南アジアへの事業拡大
プラップジャパンは2020年にもシンガポールのPR会社を子会社化しており、東南アジアへの拠点拡大に積極的です。SNSの利用率が高まるアジア市場において、政府関連のキャンペーンや公共事業のPRに強みを持つWildを取り込むことで、日系企業の海外展開支援も強化できる点が魅力です。

公共機関との取引実績の意義
SNSマーケティングは民間企業だけでなく、政府機関が国民や訪問外国人に情報を発信するうえでも有効です。公共機関との取引実績を持つことは信用度の高さの証とされ、他国の政府系案件獲得の際にも有利に働く可能性があります。

3.9.スペースシャワーネットワーク<4838>、インフルエンサーマーケティング事業のGROVEを子会社化(2019/02/22)

概要
スペースシャワーネットワークは音楽や映像の企画制作などを手がけるエンターテインメント企業ですが、2019年にインフルエンサーマーケティング事業を行うGROVE(東京都渋谷区)の持ち株比率を41.56%から53.01%に引き上げ、子会社化を決定しました。取得価額は非公表です。

エンタメ×SNSの融合
スペースシャワーは音楽チャンネル「SPACE SHOWER TV」などを運営しており、ミュージシャンやタレントとのネットワークを強みとしています。一方のGROVEは、Web動画制作やSNSアカウントの管理運用に長けた企業です。両者の強みを掛け合わせることで、音楽やエンタメとSNSの融合を加速させる狙いがあると考えられます。

インフルエンサーのマネジメント
GROVEが持つインフルエンサーのマネジメント力は、楽曲やイベントのプロモーションで大きな効果を発揮します。スペースシャワーネットワークがメディア運営やイベント制作で培ったノウハウと組み合わせることで、単なる広告代理にとどまらない新しいマーケティング手法を生み出せる可能性があります。

3.10.ガイアックス<3775>、SNSマーケティング企業のGENIC LABを子会社化(2021/06/01)

概要
ガイアックスはSNS関連の事業を得意としており、2021年6月1日付でGENIC LAB(東京都渋谷区)の全株式を取得し子会社化しました。取得価額は非公表です。

狙い
ガイアックスはすでにSNS運用支援やコミュニティ管理、口コミマーケティングなどを行っており、そこにGENIC LABの画像コンテンツ制作力やデザイン力を取り込むことで、より多面的なSNSマーケティングサービスを提供可能になります。

画像・ビジュアルの重要性
InstagramやPinterest、TikTokをはじめとしたSNSプラットフォームでは、テキストよりもビジュアルによる訴求力がものをいいます。魅力的な画像や動画を作成できる企業を傘下に収めることは、SNSマーケティングの競争力を高める重要な要素といえます。

3.11.アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、Webサービス子会社のpopteamを譲渡(2023/01/31)

概要
アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)は、Webサービス子会社であるpopteam(東京都港区。売上高2380万円、営業利益100万円、純資産427万円)を、プラスワンホールディングス(東京都港区)に譲渡しました。譲渡価額は350万円で、2023年2月3日に譲渡が完了しています。

SNSマーケティング事業からの撤退か?
AMNはSNSを活用した口コミマーケティングやアンバサダープログラムなどを強みとする企業ですが、popteamは中小企業や個人事業者向けのSNSマーケティングツール「DIGITAL PANDA」を展開していました。業績低迷が続き、事業の選択と集中を図るため譲渡に至ったとみられます。M&Aは「買収」だけでなく「譲渡」や「事業売却」も含まれ、グループとして必要な事業に再編していく動きが活発化している一例です。

譲渡後の展開
popteamはSNSアカウントの自動運用・分析を行うツールを提供しており、小規模事業者や個人クリエイター向けのニッチなサービスといえます。プラスワンホールディングス傘下でどのように再生・拡大が進むのか注目されます。

3.12.PR TIMES<3922>、SNSマーケティング支援のNAVICUSを子会社化(2023/11/20)

概要
プレスリリース配信サービス最大手のPR TIMESは、SNSマーケティング支援を手がけるNAVICUS(東京都千代田区)を2023年12月1日付で子会社化すると発表しました。取得株式は70%で、取得価額は非公表です。

プレスリリースからSNSへ
PR TIMESはプレスリリース配信で圧倒的なシェアを誇りますが、近年の広報・PR活動ではSNSの活用が欠かせません。企業の広報担当者もSNS運用を重要な業務と位置づけており、PR TIMESとしてはプレスリリース配信にとどまらず、SNS支援サービスを拡充することで、包括的な広報支援会社への進化を狙っています。

NAVICUSの赤字
NAVICUSは直近、売上高5億4700万円、営業利益△2970万円、純資産△5760万円と赤字・債務超過状態ですが、SNSマーケティングの実績や人材を評価されての買収とみられます。PR TIMESとしては、自社の顧客基盤にNAVICUSのSNS活用ノウハウを提供することで、赤字企業を再建しながらシナジーを生み出す戦略でしょう。

3.13.Orchestra Holdings<6533>の2つのM&A事例

Orchestra Holdingsはデジタルマーケティングを軸に成長している企業です。ここではSNSマーケティング関連で2つの事例を取り上げます。

3.13.1.テテマーチからSNSマーケティングツール「CAMPiN」事業を取得(2021/09/30)

概要
Orchestra Holdingsは子会社を通じて、テテマーチ(東京都品川区)からSNSマーケティングツール「CAMPiN」事業を取得すると発表しました。取得価額は非公表で、2021年10月に取得完了の予定です。

CAMPiNの特徴
CAMPiNはSNSキャンペーンの管理・分析を効率化するツールとして知られています。インフルエンサーマーケティングやハッシュタグキャンペーンなどの運用・効果測定が容易になるため、企業がSNSを活用したプロモーションを行う際に非常に便利です。Orchestra Holdingsとしては、自社のデジタルマーケティング支援サービスにCAMPiNを組み込むことで、付加価値を高める狙いがあるでしょう。

3.13.2.SNSマーケティング事業のミンツプランニングを子会社化(2022/05/09)

概要
Orchestra Holdingsはミンツプランニング(東京都渋谷区)の株式90%を取得し、子会社化すると発表しました。取得予定日は2022年5月16日、取得価額は非公表です。ミンツは2011年設立で、特に女性向けの商品やサービスに強いプランニング能力を持っています。

女性視点のマーケティング
SNSマーケティングではユーザーとのコミュニケーションが重視されますが、女性向け商材の場合は女性の目線や感性に寄り添ったクリエイティブ・企画が必要です。ミンツプランニングが得意とするこの領域を取り込むことで、Orchestra Holdingsはファッション、コスメ、ライフスタイルなど女性比率の高い市場において競争優位を築くことを期待していると考えられます。

4.SNSマーケティング業界M&Aの特徴と傾向

ここまで紹介した事例から、SNSマーケティング業界におけるM&Aにはいくつかの共通点や特徴が見受けられます。

SNSプラットフォームごとの強みを取り込む動き
TikTok特化型企業やInstagramでのインフルエンサーネットワーク構築に強みを持つ企業など、各プラットフォームに精通した企業を買収するケースが多く見られます。SNSごとにユーザー層やアルゴリズム、適切なコンテンツのスタイルが異なるため、専門性の高い人材やノウハウを持つ企業を取り込むことで一気に競争力を高める狙いがあります。

海外(特に東南アジア)への積極的展開
タイ、シンガポール、香港など、アジア地域でSNS広告やインフルエンサーマーケティングを手がける企業を子会社化する動きが目立ちます。東南アジアはSNS利用率の高さや経済成長の期待から、今後も拡大余地が大きい市場です。日本企業だけでなく、東南アジアの企業と連携しながら相互に顧客を紹介するモデルが主流となりつつあります。

赤字・債務超過の企業でもノウハウや人材目的で買収
SNSマーケティング企業は立ち上げから年数が浅く、設備投資や人材投資を先行しているため、赤字や債務超過の状態にある企業も少なくありません。しかし、大手企業からするとそのノウハウやスキル、人脈に大きな価値があり、買収後に再建しながら事業シナジーを狙うケースが見受けられます。

PMI(Post-Merger Integration)の重要性
SNSマーケティングは属人的な面が強く、クリエイターやインフルエンサー、運用担当者の裁量に頼る部分も大きいです。買収後に優秀な人材やクリエイターが流出してしまえば、取得した価値が目減りします。そのため、M&A完了後のPMIでは「人材のモチベーション維持」「現場の裁量を損なわない組織づくり」が重要視されています。

従来の広告代理店やPR企業の補完的役割
マスメディア広告やPRに強みを持つ企業が、SNSマーケティングを担うベンチャー企業を買収することでサービスを拡充する流れが加速しています。企業やブランドは、オンラインからオフラインまでシームレスにプロモーションを行える代理店を求めており、トータルソリューションを提供できる体制が評価されるようになっています。

5.SNSマーケティングM&Aのメリットとリスク

SNSマーケティング企業の買収には、以下のようなメリットとリスクが存在します。

5.1.メリット

事業ポートフォリオの拡充
成長市場であるSNSマーケティング領域に参入することで、企業の売上や収益源を多様化できる可能性があります。

専門人材・ノウハウの獲得
SNS広告運用、インフルエンサーマネジメント、メディア開発など、多様なノウハウや人材を一挙に確保できるため、時間とコストを節約できます。

ブランドイメージの向上
成長分野であるSNS領域に参入することで、投資家や顧客からの評価を高める要因にもなります。

シナジー効果
既存の広告事業やPR事業、EC事業などと掛け合わせることで、新たなサービスやビジネスモデルを創出できる可能性があります。

5.2.リスク

優秀な人材の流出
買収後に組織変更などで現場のモチベーションが下がり、コアメンバーが退職してしまうリスクがあります。SNSマーケティングは人的リソースへの依存度が高いため、これは非常に大きなリスクです。

カルチャーギャップ
ベンチャー気質でスピード感重視のSNS企業と、上場企業や大手広告代理店側の文化が合わずに混乱が起こる可能性があります。

ターゲットプラットフォームの変化
SNS業界は流行の移り変わりが早く、TikTokが急成長した一方で、従来勢力のFacebookやTwitter(現X)のユーザー構成が変化するなど、プラットフォームリスクが常に存在します。

収益構造の不安定さ
インフルエンサーや広告案件の獲得状況に左右されやすく、景気動向やクライアントの広告予算縮小で大きく業績がブレる可能性があります。

6.今後の展望:SNSマーケティングM&Aは加速するのか

SNSマーケティング業界のM&Aは、今後も加速していくと見られます。その理由は以下の通りです。

デジタルシフトのさらなる加速
新型コロナウイルス以降、オンラインでのコミュニケーションや購買行動はさらに進み、企業はSNSを主要なマーケティングチャネルとして活用せざるを得なくなっています。DXやEC化率の向上など、デジタル関連の投資は今後も続くと考えられ、SNSマーケティング事業者の需要も伸びるでしょう。

SNSプラットフォームの細分化・進化
TikTokのようにショート動画で爆発的に成長するサービスや、新たなSNSプラットフォームの登場も見込まれます。プラットフォームごとに異なる手法やユーザー属性に対応するため、幅広いノウハウを持つ企業へのニーズが高まり、M&Aを通じて専門性を取り込む動きが増えるでしょう。

グローバル展開の重要性
アジアを中心にグローバルでSNSマーケティングを展開するケースが増える中、海外拠点を持つ企業や現地企業の買収によって海外事業基盤を一気に拡充する動きが加速する可能性があります。特にインバウンド需要の回復と相まって、旅行・観光分野へのSNS活用は今後も注目されます。

コマース機能との連動
SNS上で直接EC機能が利用できる「ソーシャルコマース」の領域は今後さらに拡大する見込みです。ライブコマースやインフルエンサープロモーションを組み合わせて売上を伸ばす企業が増える中、SNSマーケティング企業もECや決済サービスと連携する形で新たなソリューションを提供することが期待されます。

AI・データ活用の高度化
生成AIやビッグデータ解析を組み合わせることで、SNS上でのユーザー行動をより精密に分析し、最適な広告・コンテンツ配信を行う技術が急速に進んでいます。このような先端技術を持つ企業やスタートアップを買収して、自社のSNSマーケティング基盤を強化する動きも増えるでしょう。

7.M&Aを成功させるためのポイント

SNSマーケティング企業を買収する場合、以下のポイントを押さえておくと成功確率が高まると考えられます。

現場人材との信頼関係構築
SNSマーケティングは人材力が命です。買収前のデューデリジェンス(DD)段階から、相手企業のキーマンとの関係構築に努めることが重要です。買収後も自由度を持たせ、裁量を保つことで優秀な人材の流出を防ぎます。

ブランドイメージの両立
大手企業がベンチャー企業を買収する場合、従来のブランドイメージとの整合性をしっかり検討する必要があります。若年層に支持される「攻め」のSNS企業のカルチャーを壊さずに、グループ全体のコンプライアンスや管理体制を整えるバランスが求められます。

SNSプラットフォームや業種のリスクヘッジ
Facebook中心の企業を買収したものの、Facebookの利用が減少傾向になっている、といったプラットフォームリスクが常につきまといます。できるだけ複数プラットフォームに対応できるか、もしくは特定領域に突出しているなら他の領域は既存グループ企業と連携できるかなど、リスクヘッジのシナリオを描くことが大切です。

データドリブンな分析体制の統合
SNSデータはマーケティング戦略にとどまらず、新商品の開発や顧客体験(CX)向上にも活用可能です。買収企業が持つ分析ツールやノウハウをグループ全体に展開し、データドリブン経営の高度化を図ることで、M&Aの価値が一段と高まります。

ポストM&Aの継続投資
買収金額を用意するだけでなく、買収後にシステム開発費や人件費、マーケティング費など、成長支援のための投資が必要です。資金繰りや投資計画をあらかじめ十分に検討し、買収後の成長を加速させる体制づくりを行うことが重要です。

8.まとめ

本記事では、SNSマーケティング業界における各社のM&A事例を幅広く紹介しながら、その背景や目的、今後の展望について解説してきました。

SNSが企業のマーケティングにとって欠かせない存在となった今、市場は拡大し続けており、専門的なノウハウや人材を獲得するためにM&Aを活用する動きは今後ますます活発化すると考えられます。特にTikTokのように新興プラットフォームが次々と台頭する環境下では、スピード感を持って新技術や新興企業を取り込むことが競争優位を築くカギとなるでしょう。

また、海外展開やインバウンド需要への対応で東南アジア地域への進出が進む中、シンガポールやタイの企業を買収する事例も今後増える可能性が高いです。企業にとっては「SNS上でどれだけ効果的に認知を獲得し、ターゲットユーザーとコミュニケーションできるか」が勝負の分かれ目となり得ます。

もっとも、M&Aの成功には、買収後のPMIや人材流出リスクへの対応、カルチャーフィットなど、乗り越えなければならない課題が数多く存在するのも事実です。SNSマーケティングは属人的で流動性が高い業界だからこそ、現場レベルのモチベーション維持やノウハウの定着、そして早期シナジー創出の戦略が必要不可欠となります。

日々変化するSNSのトレンドやアルゴリズムに対応しつつ、買収企業の強みを最大限に引き出せるかどうか。ここがSNSマーケティングM&Aの成否を左右する最大のポイントといえるでしょう。

今後、さらなるDX化や5G/6G通信、Web3など新しいテクノロジーが進化すれば、SNSの形態や利用シーンも大きく変化するかもしれません。その時代のうねりの中で、自社のプレゼンスを高めるためにM&Aを活用する企業の動向から、今後も目が離せません。

以上が、SNSマーケティング業界における主なM&Aの動向や事例、そして今後の展望についての解説となります。SNSの台頭によって企業のコミュニケーション戦略が大きく変わる中、今回取り上げた事例をヒントに、M&Aの可能性やリスクを多角的に捉えながら、自社にとって最適な戦略を検討していただければ幸いです。