- 1.看板業界の概要とM&Aが注目される背景
- 2.看板業界におけるM&Aのメリット
- 3.看板業界M&Aの主なシナジーとリスク
- 4.近年の看板業界M&A動向:事例総覧
- 5.【事例1】博展によるヒラミヤ子会社化
- 6.【事例2】河野商事による武蔵野興業TOB子会社化
- 7.【事例3】ローランド ディー.ジー.による一連の施策
- 8.【事例4】ミマキエンジニアリングによるアルファーデザイン子会社化
- 9.【事例5】メディアフラッグ(現インパクトHD)の積極的M&A戦略
- 10.【事例6】ミナトホールディングスによるリバース子会社化
- 11.【事例7】フリービットによる医療情報基盤の子会社化
- 12.【事例8】ヒビノによるエヌジーシー子会社化
- 13.【事例9】ニューラルポケットによるネットテン・フォーカスチャネル子会社化
- 14.【事例10】ソルクシーズ子会社の譲渡事例:インターディメンションズの売却
- 15.【事例11】グリーンクロスのM&A戦略
- 16.【事例12】インパクトホールディングス(旧メディアフラッグ)MBOによる非公開化
- 17.【事例13】アララによるクラウドポイント子会社化
- 18.【事例14】エーアイによるフュートレック株取得(TOB)
- 19.その他の注目事例
- 20.今後の看板業界M&Aの展望
- 21.看板業界企業がM&Aを成功させるためのポイント
- 22.まとめ
1.看板業界の概要とM&Aが注目される背景
看板業界の多様化
看板業界は、従来の「文字や図柄を大きく掲示する」といったパネル看板・ネオンサイン・テント看板など、いわゆるアナログな広告手段が中心でした。しかしながら、近年のデジタル技術の発展に伴い、大型モニターを用いた映像広告からLEDを使った電飾看板、さらにインターネットに接続されて遠隔配信が可能なデジタルサイネージまで、さまざまな広告手段が普及しております。
また、デジタルサイネージは屋外・屋内どちらでも導入が進み、公共施設や商業施設、オフィス、公共交通機関など、幅広い場所に設置されるようになりました。これにより、ITインフラや映像技術と掛け合わせた形での新規参入が後を絶たず、看板業界の境界線は一段とあいまい化し、“広告・ICT・映像技術”が交錯する領域となっています。
看板業界における再編の動き
このような業界構造変化に対応するため、企業規模の拡大や新技術の取り込みが急務となりました。特に中小企業が中心であった看板業界では、経営基盤を強固にするために大手企業の傘下に入ったり、新規ビジネスを素早く取り込むためにスタートアップ企業を買収したりといったM&Aが活発化しているのです。
一方、看板設置や保守、施工に強みをもつ企業は、全国に対応可能なネットワークや技術力を早期に獲得するべく、関連会社を子会社化する流れも増えています。これらの背景には、デジタルサイネージをめぐる競争環境の激化や、コロナ禍によって消費動向や営業活動が大きく変化したことも大きく影響していると考えられます。
2.看板業界におけるM&Aのメリット
2-1. 新規領域への参入・技術獲得
看板業界がデジタルや映像・ITなど多角的な要素を含むようになった結果、自社の既存技術だけでは新規領域に参入しづらいケースが増えました。そのため、すでに新技術を保有している企業をM&Aで取り込むことによって、開発コストや時間を削減し、スピーディな参入を狙う企業が増えています。
2-2. スケールメリットによるコスト削減
看板製作には素材の仕入れや設計、印刷・加工、施工、運用・メンテナンスといった工程があり、いずれも人手や設備が必要です。小規模事業者が単独で成長するには限界があるため、M&Aを通じて調達規模拡大や設備の効率的活用を実現することが可能です。これにより、製作コストや広告宣伝コストが下がり、収益性の向上が期待できます。
2-3. 販売網・顧客基盤の拡大
地域密着型の看板会社が全国展開を狙う場合や、新規顧客層を取り込みたい企業が存在する場合、すでに地域や業種での営業ネットワークを持つ企業とのM&Aは最適な選択肢となります。買収先企業の取引先や販路を活用して、新規事業の拡販やサービス強化へ結びつけることができるためです。
2-4. 人材やノウハウの確保
看板製作では、高度な金属加工技術、設計やデザイン、映像技術、ソフトウェア開発など、専門技術や知見が必要となる場面が多々あります。これらの技術を一から社内育成するには時間も費用もかかりますが、M&Aによって専門技術を持つ社員やノウハウを一括で獲得できるため、人材不足への対応策としても効果的です。
3.看板業界M&Aの主なシナジーとリスク
3-1. シナジー効果の例
- 技術シナジー
例えば、デジタルサイネージを得意とする企業が、従来からあるサイン・看板製作ノウハウを持つ企業を取り込むことで、“デジタルとアナログのハイブリッド広告サービス”を提供することができるようになります。 - 販売シナジー
販売網・顧客基盤の統合により、従来は単独で対応できなかった大規模案件や全国的なチェーン案件への対応力が高まります。 - ブランド力向上
過去実績や評判、特定の分野での実績を誇る企業を買収することで、業界内での信頼を得やすくなる場合もあります。 - コストシナジー
製造工程や調達先の一本化などにより、コスト削減の効果が見込めます。
3-2. リスク
- 企業文化の違いによる摩擦
製造技術メインの職人気質の企業文化と、最新ITを駆使したベンチャー気質の文化が融合するには、社内調整の時間やマネジメントスキルが必要です。 - M&A後のブランド・組織統合
M&A時の契約や周知が不十分だと、買収企業と被買収企業それぞれのブランドが毀損される可能性があります。 - 買収価格の負担
将来期待だけに基づき高額な買収価格を支払ってしまうと、回収が難しくなって財務悪化につながるケースもあります。 - 事業領域の拡散による管理コスト増加
看板業界でも、映像・通信・人材サービスなど多様な事業領域が混在するため、管理部門が追いつかずに効率が落ちるリスクがあります。
4.近年の看板業界M&A動向:事例総覧
ここからは、近年の看板業界を取り巻くM&Aに関する主な動きや事例をご紹介いたします。看板業界と言っても、対象となる企業の事業領域は幅広く、必ずしも看板製作会社同士のM&Aだけでなく、プリンターや広告関連機器メーカー、人材サービス企業など、多種多様です。
本章では、それぞれの事例の背景や目的、取得(あるいは譲渡)価額や株式交換比率、買付の期間など、公開情報をベースにまとめています。看板業界の特徴としては、看板そのものの製造・施工だけでなく、人材派遣や広告関連IT企業との資本提携、あるいは海外での事業拡大を狙った動きも見られます。
5.【事例1】博展によるヒラミヤ子会社化
- 公表日:2024年9月30日
- 概要:展示会やイベント企画を手がける博展が、商業施設の什器・装飾品、特殊車両部品を製造するヒラミヤを子会社化。
- ヒラミヤの売上高:1億6900万円
- 営業利益:1100万円
- 純資産:6600万円
- 取得価額:2億3000万円
- 取得予定日:2024年10月7日
背景と狙い
ヒラミヤは金属加工技術を駆使し、シェルフ、ディスプレースタンド、電飾看板などの製造を手がけており、商業施設に必要な什器の設計・製作を強みにしています。博展としては、自社の企画・施工領域のサービスに加えて、付加価値の高い一括提供型サービス(企画から施工、部材製造まで)を強化したいという目的がありました。
デジタル技術が進む一方で、物理的な装飾品・什器への需要は一定数残っており、商業施設ではディスプレイや什器のクオリティが重要視されています。そのため、博展のイベント企画力とヒラミヤの製造技術が組み合わされば、より幅広い空間演出や広告実装が可能になると考えられています。
6.【事例2】河野商事による武蔵野興業TOB子会社化
- 公表日:2013年11月12日
- 概要:不動産業の河野商事が、武蔵野興業に対してTOB(株式公開買い付け)を実施。武蔵野興業はTOBに賛同し、上場維持の予定。
- TOB価格:1株あたり135円(TOB公表前営業日の終値178円に対して24.1%ディスカウント)
- 買付予定数:100万株(約1億3500万円)
- 買付期間:2013年11月13日~12月11日
背景と狙い
武蔵野興業は映画事業部門や自動車教習部門を持ちつつ、不動産事業を主軸におく企業です。看板事業としては映画館などの屋外サインや興行関連の広告などが挙げられます。不動産業を営む河野商事がTOBを行った理由には、武蔵野興業の第二位株主であるリサ・パートナーズとの資本関係を一部解消し、経営を安定化させる狙いがありました。
看板業界としては直接的には大きな影響を感じにくい買収ですが、映画館などの看板や広告枠の取り扱いを強化したい河野商事側の思惑も考えられます。不動産と屋外広告は立地やスペースの利用権が大きく絡むため、土地の活用法として屋外広告を重視する企業も少なくありません。
7.【事例3】ローランド ディー.ジー.による一連の施策
ローランド ディー.ジー.は広告・看板用の大判インクジェットプリンターで高いシェアを誇るメーカーです。近年、市場の成熟化や競争激化、新型コロナウイルス感染拡大による需要変動などを受け、大規模な構造改革を行いました。この節では、同社の一連の動きについてまとめます。
7-1. 早期退職募集と事業構造改革
- 公表日1:2020年12月17日
- 内容:150人程度の早期退職募集(連結従業員の約12%)
- 対象:すべての製造専任職+35歳以上の管理職・一般社員・嘱託社員
- 背景:広告・看板市場の成熟化・競争激化に加え、コロナ禍による収益低下。コスト構造の抜本見直しとサイン市場への依存脱却が狙い。
- 公表日2:2021年3月11日
- 内容:早期退職に190人応募(予定の150人を上回る)
- 背景:経営環境の悪化と将来的な事業ポートフォリオ転換への対応が急務。
7-2. リトアニアUAB Dimense printの子会社化
- 公表日:2023年7月31日
- 子会社化:壁紙材・インク開発のUAB Dimense print(リトアニア)
- 株式取得率:50.1%
- 非公表の取得価額
- 狙い:広告・看板用プリンター以外にも、壁紙市場に本格参入することで付加価値の高い用途開発を目指す。壁紙印刷に強みをもつ同社と連携し、新市場の開拓を推進。
7-3. MBOによる非公開化
- 公表日:2024年2月9日
- 買収主体:米投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズが設立したXYZ(東京都港区)
- TOB:1株につき5035円(公表前終値3895円に29.27%のプレミアム)
- 買付予定数:1231万9393株
- 背景:広告・看板向けプリンターが売上の4割を占めるが、その市場が中長期的な停滞・減速を予測。成長戦略を描くうえで非公開化を通じて事業構造を大胆に改革する必要性があると判断。
ローランド ディー.ジー.は技術力の高いプリンターメーカーとして知られ、看板市場と深く結びついています。しかし、デジタルサイネージや他の広告手段の台頭により、大判プリンターに依存したビジネスモデルの将来性への懸念が高まりました。そのため、構造改革による新規事業領域(壁紙などインテリア市場)の強化、加えて経営を柔軟に行うための株式非公開化へと踏み切った事例といえます。
8.【事例4】ミマキエンジニアリングによるアルファーデザイン子会社化
- 公表日:2018年9月13日
- 概要:ミマキエンジニアリング(広告・看板用や産業用インクジェットプリンター)によるFA装置メーカーのアルファーデザイン完全子会社化
- 取引手法:株式交換
- 株式交換比率:ミマキエンジニアリング1:アルファーデザイン26
背景
ミマキエンジニアリングは、インクジェットプリンターの世界的なサプライヤーとして知られます。アルファーデザインはFA(ファクトリーオートメーション)装置を中心に搬送装置や周辺装置の技術を持っていました。プリンターの前後工程の自動化や多品種少量生産への対応が急速に求められるなか、アルファーデザインの搬送技術を取り込むことで、プリンターの生産性や付加価値を高める狙いがありました。
看板業界向けインクジェットプリンターの高度化だけでなく、産業用途(工場内)におけるラベル印刷やパッケージ印刷などにも幅広く応用が見込めるため、業務提携から資本統合へと進んだ好例といえます。
9.【事例5】メディアフラッグ(現インパクトHD)の積極的M&A戦略
メディアフラッグは、店舗の販促支援や覆面調査、デジタルサイネージを活用した広告サービスなど、いわゆる「フィールドマーケティング」に特化して成長してきました。2019年4月にインパクトホールディングス(以下「インパクトHD」)へと社名を変更。その過程で、複数の企業買収や子会社化を実施しています。
9-1. 札幌キャリアサポートの子会社化
- 公表日:2018年1月19日
- 概要:人材派遣・職業紹介の札幌キャリアサポートを子会社化
- 売上高:4億9200万円
- 取得価額:3億2000万円
- 背景:北海道内での推奨販売事業や店頭スタッフ派遣を強化し、販促領域を拡大。デジタルサイネージを用いた店頭販促の一体運用を狙う。
9-2. 伸和企画の子会社化
- 公表日:2018年12月18日
- 概要:ノベルティ企画・デザインの伸和企画を子会社化
- 売上高:8億7900万円
- 取得価額:3億9600万円
- 背景:販促・店頭支援においてノベルティの企画製作までを包括的に提供。店頭販売だけでなく、キャンペーン事務局機能や物流機能なども強化し、グループ全体で顧客提案力を高める。
9-3. シアーズの子会社化
- 公表日:2014年5月8日(その後5月23日変更)
- 概要:小型デジタルサイネージなどセールスプロモーション事業を手がけるシアーズを完全子会社化
- 取得価額:当初1億7900万円 → 協議後1億6000万円
- 背景:メディアフラッグ(当時)創業期からシアーズのデジタルサイネージ設置管理の受託実績があり、親和性が高かった。子会社化によってサービスをワンストップ化。
インパクトHD(旧メディアフラッグ)は、店頭向け販促ソリューションを強みとしつつ、デジタルサイネージ領域や人材派遣領域にも進出し、業務効率化と売上拡大を狙ってきた企業です。こうした積極的なM&Aが実を結び、全国対応可能なマネキン派遣やデジタルサイネージの導入支援など、幅広いサービスを提供できる体制を整えました。
10.【事例6】ミナトホールディングスによるリバース子会社化
- 公表日:2023年3月23日
- 概要:ミナトホールディングス子会社の日本ジョイントソリューションズ(JJS)を通じ、Webサイト制作や動画制作を手がけるリバース(山口市)の全株式を取得
- 取得価額:非公表
- 取得予定日:2023年4月3日
背景
リバースは、デジタルサイネージ向けの動画制作や自治体向けのWebサイト制作などを行っており、JJSとの業務重複が多く、協業メリットが見込まれました。デジタルサイネージ運用においては、ハードウェアの設置だけでなく、映像コンテンツや広告動画の制作が重要です。JJSとリバースの技術・営業基盤を融合することで、案件拡大と収益性の向上が期待できます。
11.【事例7】フリービットによる医療情報基盤の子会社化
- 公表日:2017年6月30日
- 概要:廣済堂グループの医療情報基盤(医療施設向けサイネージの開発・運営)を全株式取得
- 取得価額:1100万円(アドバイザリー費用含む)
- 背景:フリービットは通信インフラやITサービスを提供する企業。ヘルスケア事業や動画広告配信とのシナジーを見込んで、医療施設向けのデジタルサイネージ運用ノウハウを獲得。
このケースでは、デジタルサイネージの運用フィールドが医療施設に特化している点が特徴です。待合室やロビーなどで電子看板を活用し、患者や来院者に向けた情報提供を行うビジネスモデルを、IT企業が取り込むことで、広告配信ビジネスや医療系サービスとの統合を目指した事例といえます。
12.【事例8】ヒビノによるエヌジーシー子会社化
- 公表日:2023年11月22日
- 概要:ヒビノが映像ソリューション事業のエヌジーシー(双日傘下)を全株式取得
- 売上高:22億6000万円
- 営業利益:7300万円
- 純資産:6億9600万円
- 取得価額:非公表
- 背景:ヒビノは音響・映像機器の設計施工やコンサート・イベント運営を得意としており、エヌジーシーが強みを持つ大型LEDディスプレイのソリューション(デジタルサイネージ含む)を取り込むことで、需要拡大が見込まれる分野への対応力を強化する狙い。
デジタルサイネージが普及する中、映像制作システムやディスプレイ技術が益々重要になっています。ヒビノとエヌジーシーの統合により、コンサート・イベント領域から商業施設・スタジアム・交通機関など多岐にわたる映像機器・サイネージ需要に対応できる総合力を生み出そうとする戦略が垣間見えます。
13.【事例9】ニューラルポケットによるネットテン・フォーカスチャネル子会社化
ニューラルポケットはAI技術を活用し、カメラ映像解析やデジタルサイネージの広告効果測定などを展開するベンチャー企業です。同社は立て続けに2社を買収し、サイネージ事業を強化しました。
13-1. ネットテンの子会社化
- 公表日:2022年2月21日
- 取得価額:24億1900万円
- 背景:ネットテンは屋外向け電子看板を主力とし、ビル壁面や小売店・飲食店への導入実績が多い。ニューラルポケットはネットテンの営業網とメンテナンス体制を取り込むことで、AIカメラ搭載型サイネージの導入先を拡大しようと狙った。
13-2. フォーカスチャネルの子会社化
- 公表日:2021年10月22日
- 取得価額:2億6700万円
- 背景:フォーカスチャネルは主に都心大型マンションのエントランスにデジタルサイネージを設置して広告配信を行う。高所得者層をターゲットに広告展開が可能な媒体をニューラルポケットのAI解析技術と組み合わせ、付加価値を高める。
AI解析技術と従来型のサイネージ提供企業を統合することで、サイネージ広告のターゲティングや効果測定の高度化を目指す動きが顕著に見られます。
14.【事例10】ソルクシーズ子会社の譲渡事例:インターディメンションズの売却
- 公表日:2021年2月12日
- 概要:ソルクシーズが映像・音響設備やデジタルサイネージ事業を手がけるインターディメンションズを、東北ターボ工業に譲渡
- 売上高:2億2500万円
- 営業利益:△4480万円
- 純資産:△7250万円
ソルクシーズとしては事業構成見直しの一環で不採算子会社を手放す形となりました。インターディメンションズは赤字・債務超過状況にあったため、新たな親会社のもとで事業再建を目指す狙いがあると推測されます。M&Aは売り手側にも「事業再編」「財務改善」の手段として活用される代表例です。
15.【事例11】グリーンクロスのM&A戦略
グリーンクロスは道路工事現場用の安全機材や建築防災用品などを手がける企業ですが、看板広告類も取り扱っており、近年は全国展開の一環としてM&Aを積極的に実施しています。
15-1. アイ工芸の子会社化
- 公表日:2024年3月27日
- 概要:看板の製作・施工を行うアイ工芸(東京都板橋区)を子会社化
- 背景:グリーンクロスは工事現場用看板だけでなく、幅広い看板製作を事業とする。アイ工芸の技術力や設備力を活用して、自社の販売ネットワークとの相互活用を狙う。
15-2. マクテックの子会社化
- 公表日:2022年3月28日
- 概要:塔屋サインなど屋外広告を得意とするマクテック(大阪市)を子会社化
- 背景:同じくグリーンクロスが得意とするサイン事業のさらなる拡大。工事用に限らず商業施設やビル向けの大型看板においても存在感を高める。
15-3. 山行舎の子会社化
- 公表日:2022年3月28日
- 概要:安全機材用品、測量器具を製造する山行舎(名古屋市)の全株式を取得
- 背景:工事現場で使われる機材や看板、測量器具まで手広く取り扱うことで、グループ全体でのサービスをワンストップ化。競争力向上とユーザーへの利便性向上を狙う。
グリーンクロスは工事・建築関連の安全用品から入り、看板事業にも広がりを持たせた企業ですが、同業や周辺業種の企業を積極的に取り込み、自社の製品ラインナップを多層的に充実させています。安全機材用品と看板という組み合わせは現場ニーズに直結しやすく、業務受注の幅も広がります。
16.【事例12】インパクトホールディングス(旧メディアフラッグ)MBOによる非公開化
- 公表日:2023年1月26日
- 概要:米ファンドのベインキャピタルと組み、TOBを実施。買付主体はBCJ‐70(東京都千代田区)。買付価格は1株4500円。最大買付代金272億4000万円。TOB成立後は上場廃止。
- 背景:同社は店頭マーケティングやデジタルサイネージで成長を遂げたが、コロナ禍以降の販促デジタルシフトを機動的に進めるため、非公開化を選択。創業者で社長の福井氏が所有する株式のうち一部はTOBに応募しない。
メディアフラッグ時代から続くM&A戦略によって事業規模を拡大してきた一方、市場環境の変化スピードや、新規投資を積極的に行う必要性が増していたことで、短期的な株式市場の評価から自由になる非公開化を選んだと推測できます。
17.【事例13】アララによるクラウドポイント子会社化
- 公表日:2023年10月13日
- 概要:デジタルサイネージを主力とするクラウドポイント(東京都渋谷区)を株式交換により子会社化。アララは2024年3月1日付で持株会社「ペイクラウドホールディングス」に移行。
- 株式交換比率:アララ1:クラウドポイント3.47
- 背景:アララはキャッシュレス決済やカード発行システムなどを強みとするが、サイネージによる情報発信と組み合わせて店舗のDX化を推進する狙いがある。クラウドポイントは飲食店やコンビニなど全国2万カ所、4万8000面のサイネージ導入実績を持ち、アララグループとの親和性が高い。
アララは元来、電子マネーやプリペイドカードなどのフィンテック領域で強みを持っていますが、店舗向けDXが進む中で、サイネージ活用の需要が高まっています。クラウドポイントの子会社化により、デジタルサイネージの製品・サービス開発をさらに加速させ、顧客体験の向上を狙う動きと考えられます。
18.【事例14】エーアイによるフュートレック株取得(TOB)
- 公表日:2023年5月11日
- 概要:エーアイがフュートレックにTOBを実施し、筆頭株主グローリー(所有40.54%)の持株を取得する。フュートレックは上場維持。
- 買付価格:1株226円(公表前終値266円に15.04%ディスカウント)
- 背景:エーアイの「音声合成技術」とフュートレックの「音声認識技術」を組み合わせ、音声対話AI製品の開発を加速。デジタルサイネージ分野での音声対話型接客などへの応用も期待される。
看板という切り口では「音声対話型サイネージ」のような次世代技術が開発される可能性があります。エーアイとフュートレックのシナジーにより、インタラクティブな看板や広告が普及すれば、人々の買い物や街中での情報体験はさらに進化するでしょう。
19.その他の注目事例
19-1. オリンパス<7733>、科学事業をベインキャピタルに譲渡
オリンパスは医療用内視鏡の世界的リーダーですが、創業事業である顕微鏡などの科学事業を2023年4月3日付で売却しました。看板業界とは直接関わりが薄いものの、大手企業がコア事業に集中するために、周辺事業を売却する再編が進んでいる代表的な例です。大型M&Aとして経営資源の集中化が注目されました。
19-2. アビックス<7836>、第三者割当増資とプロテラスからのデジタルサイネージ事業取得
- 公表日(第三者割当増資):2009年6月2日
- 公表日(事業取得):2021年8月2日
- 概要:LED表示機で知られるアビックスが、デジタルサイネージ事業に集中するため、資本注入を受け、さらにプロテラスからサイネージ事業を取得。赤字が続き厳しい財務状況にあるなか、M&Aによる事業再生を図る動きがポイント。
19-3. UEX<9888>、ステイドを譲渡
- 公表日:2008年2月22日
- 概要:ステンレス製インテリア・エクステリア製品を手がけるステイド(看板装飾にも関連)をカスタムに譲渡。ステイドが債務超過に陥っていたため、UEXグループからの切り離しを行った。
19-4. KPPグループホールディングス<9274>、マレーシアImage Junctionからビジュアルコミュニケーション事業を取得
- 公表日:2024年6月28日
- 概要:KPPグループHDが東南アジア地域での大判インクジェット印刷機やデジタルサイネージの販売強化を目指し、Image Junctionのビジュアルコミュニケーション事業を買収。海外市場における看板需要増に対応する動き。
20.今後の看板業界M&Aの展望
20-1. DX・ITテクノロジーとの融合
看板を取り巻く環境は、デジタルサイネージ化、インタラクティブ技術の導入、AIを用いた視聴者分析などが急速に進んでいます。従来の看板専門業者がIT企業を買収する、もしくはITベンチャーが看板製作会社を取り込むなど、垂直・水平双方のM&Aが今後も増えると予想されます。
20-2. 海外進出や海外企業の買収
日本国内における看板需要が飽和傾向にある一方、東南アジアやアフリカなど新興国市場ではまだまだ屋外広告やデジタルサイネージの伸びしろが大きいと見られます。KPPグループHDのように海外企業の事業を取得するケースや、ローランド ディー.ジー.がリトアニア企業を買収するケースのように、海外進出を狙う動きが顕著になるでしょう。
20-3. 人材・ノウハウの確保
看板業界は製造・施工系の職人技術と、IT・映像技術の双方を必要とします。既存企業が新分野に進出するためには専門家の確保が不可欠であり、M&Aによる「人材買い」の動きは引き続き活発になると考えられます。
20-4. 非公開化による事業再編
上場企業であっても、看板市場に依存した事業モデルが今後伸び悩むことを想定し、成長戦略を機動的に進めるため非公開化を検討する企業が増える可能性があります。ローランド ディー.ジー.やインパクトホールディングスの例が今後の先行事例となり得ます。
21.看板業界企業がM&Aを成功させるためのポイント
- 統合戦略の明確化
買収後にどのような形で事業を統合し、シナジーを創出するかを明確に描く必要があります。技術的な融合や販売チャネルの統合プランをしっかりと策定しましょう。 - 企業文化の統合と従業員のモチベーション管理
看板製造・施工の現場は職人気質が強い一方、IT・映像系の企業はスピード感や柔軟性を重視する社風が多い場合があります。相互理解とコミュニケーション強化を図り、従業員のモチベーションを損なわないよう配慮が必要です。 - 財務リスクのコントロール
買収価格が適正かどうかの判断や、買収資金調達による負債拡大など、財務リスクを十分に検討しなければなりません。特にディスカウントTOBや高額買収の際は、投資回収計画を綿密に策定することが重要です。 - ポストM&Aのマネジメント体制
M&A後に運営を担う経営チームの編成や、組織運営ルールの統一、ブランド戦略の一本化など、ポストM&Aでの運営を誰がどのように推進していくかを早期に決定しておくことが大切です。 - 市場動向と顧客ニーズの把握
デジタルシフトが進む中で、看板市場に求められる技術やサービスのトレンドは変わりやすいです。事業シナジーがあるからといって、実際のマーケットがどう受容するかも検証が必要です。
22.まとめ
看板業界は、広告分野の中でも多様な要素が絡み合う特徴的な市場です。アナログからデジタルへの移行は一方向的に進んでいるように見えつつも、実際には屋外看板の根強い需要も依然として存在します。また、デジタルサイネージは単なるディスプレイにとどまらず、AIによる解析技術や映像制作ノウハウ、人材派遣など多方面との協業が不可欠になっています。
こうした複雑な市場構造の中で、M&Aがひとつの“成長加速の切り札”として活用されてきました。本記事で取り上げた各事例からもうかがえるとおり、看板業界のM&Aは次のような特徴を持っています。
- 事業構造の抜本改革が必要な企業が非公開化に踏み切るケース
(ローランド ディー.ジー.やインパクトホールディングスなど) - 地道な技術力・施工力をもつ企業を買収し、総合サービスの提供を目指すケース
(博展とヒラミヤ、グリーンクロスとアイ工芸など) - 海外市場や異分野への進出を狙うケース
(ローランド ディー.ジー.のリトアニア子会社化、KPPグループのマレーシア事業取得など) - IT・AI企業がサイネージ企業を買収し、新たな広告ビジネスモデルの創出を目指すケース
(ニューラルポケットのネットテン・フォーカスチャネル買収、エーアイによるフュートレック株取得など)
M&Aを推進する背景には、単なる企業規模拡大だけでなく、技術的なアドバンテージの早期取得や、販路の獲得、新市場への参入など、戦略的動機が複数絡んでいます。さらに、看板を取り巻く需要そのものが変化している点も重要です。コロナ禍以降、オンライン広告の勢いが増している一方で、人々のリアルな移動が回復するタイミングでは看板広告の“瞬発力”が見直される可能性があります。これらの変動する需要に対応するには、企業単独での取り組みだけでは不十分であり、他社との資本提携や買収を通じて素早くリソースを確保することが優位に働くのです。
今後の看板業界におけるM&A動向としては、デジタルサイネージに関連した企業同士の統合や、IT人材・映像クリエイター集団を取り込む動きがさらに加速すると考えられます。加えて、環境規制や消費者行動の変化に対応したエコ看板やスマートシティとの連動など、新たな市場セグメントへの参入を目的としたM&Aも十分に考えられるでしょう。
とはいえ、M&Aには統合コストや企業文化の衝突リスク、買収価格に見合うリターンを得られないリスクなども伴います。成功の鍵は、統合後の具体的戦略を明確にし、ポストM&Aをしっかりマネジメントすることです。業界特有の職人技や地域性も無視できません。そのため、看板業界でのM&Aに踏み切る際は、単なる資本の論理だけでなく、現場への理解や地域密着性、顧客ネットワークとの相乗効果をしっかり見極める必要があります。
本記事が、看板業界におけるM&Aの全体像と、具体的な事例から得られる学びをお伝えする一助となれば幸いです。業界再編は今後も続くものと考えられ、多様化する消費者ニーズや広告手法に合わせた進化のため、企業間連携やM&Aが果たす役割はますます大きくなるでしょう。これから看板業界で事業の拡張を検討する企業の皆様、あるいは看板関連企業の買収を模索する投資家の皆様にとって、少しでもご参考になれば幸いです。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。