目次
  1. 1. 営業支援業界の概況と発展要因
    1. 1-1. 営業支援とは何か
    2. 1-2. 市場が拡大する背景
    3. 1-3. DX(デジタルトランスフォーメーション)と営業支援の関係
  2. 2. M&Aが活発化する要因と狙い
    1. 2-1. DX推進と業務効率化ニーズ
    2. 2-2. 大手企業によるスケールメリットの追求
    3. 2-3. 新規参入や海外展開への足掛かり
    4. 2-4. 非コア事業の切り離しと選択と集中
  3. 3. 国内営業支援業界における主なM&A事例
    1. 3-1. 野村総合研究所によるSMS Management & Technologyの子会社化(2017年)
    2. 3-2. アント・キャピタル・パートナーズによるソフトブレーン買収(2020)
    3. 3-3. 光通信によるスマート・ナビ完全子会社化(2014)
    4. 3-4. レントラックスの阿迪納市場営銷策劃有限公司買収(2020)
    5. 3-5. もしもしホットライン(現りらいあ)によるエニーの子会社化(2008)
    6. 3-6. 三井物産によるりらいあコミュニケーションズTOB(2023)
    7. 3-7. ヨシムラ・フードHDのヤマニ野口水産・エスケーフーズ買収に見る営業支援活用
    8. 3-8. わかば総研のMBOによるFUTABA・まつげエクステ事業譲渡(2010)
    9. 3-9. メディアフラッグによる和菓子会社「十勝」買収(2013)
    10. 3-10. フルキャストHDの連続的な売却・買収(2009~2011)
    11. 3-11. ハイブリッドテクノロジーズによるドコドア買収(2024)
    12. 3-12. プロトコーポレーションによるコスミック流通産業など2社の子会社化(2022)
    13. 3-13. リビン・テクノロジーズによる仲介王子会社化(2023)
    14. 3-14. ナレッジスイートによるAI CROSSのInCircle事業取得(2021)
    15. 3-15. デュアルタップによるデュアルタップグロウスの経営陣譲渡(2023)
    16. 3-16. ヒト・コミュニケーションズHDのSALES ROBOTICS買収(2019)ほか
    17. 3-17. ファーマライズHDのミュートス子会社化(2017)
    18. 3-18. ヒト・コミュニケーションズHDのMoffly買収(2021)とLOWCAL買収(2018)
    19. 3-19. ダイセキによるシステム機工買収(2010)
    20. 3-20. ジーニーによるHiCustomer「Arch」事業取得(2024)
    21. 3-21. ゲートウェイによるエンジェルインベストメントベンチャーの買収(2010)
    22. 3-22. エクサウィザーズによるスタジアム買収(2023)
    23. 3-23. キャリアインデックスによるSales X子会社化(2023)
    24. 3-24. オークファンによるスマートソーシング買収(2016)
    25. 3-25. SIGグループによるエイ・クリエイション子会社化(2024)
    26. 3-26. アイドマ・ホールディングスによる一連のM&A(メイクブイHD、どこでもデスクトップ事業など)
    27. 3-27. INESTによるアイ・ステーション譲渡(2023)
    28. 3-28. GFAによるキレイモ28店舗買収と“営業支援”活用(2022)
    29. 3-29. CDGによるゴールドボンド譲渡(2019)
    30. 3-30. SREホールディングスによる九州シー・アンド・シーシステムズ買収(2021)
    31. 3-31. GA technologiesによるイタンジ子会社化(2018)
    32. 3-32. HEROZによるbizyの営業コンサル・テレマーケ事業取得(2024)
  4. 4. M&Aによるシナジーと具体的なメリット
    1. 4-1. 開発リソースの集約と迅速な市場投入
    2. 4-2. 既存顧客へのクロスセル・アップセル
    3. 4-3. 海外進出やグローバル顧客対応への近道
    4. 4-4. 経営資源の再配置とコスト削減
  5. 5. 今後の課題と展望
    1. 5-1. 営業支援システムの高度化とAI・クラウド活用
    2. 5-2. インサイドセールスやライブコマースなど新手法との融合
    3. 5-3. M&A後の統合管理(PMI)と組織文化の調整
    4. 5-4. 規制や個人情報保護対応の強化
  6. 6. まとめ

1. 営業支援業界の概況と発展要因

1-1. 営業支援とは何か

営業支援とは、企業が商品やサービスを効率よく販売するために必要となる業務プロセスをサポートするさまざまなサービスやシステムを指します。代表的なものに顧客管理システム(CRM)、商談管理システム(SFA)、マーケティングオートメーションツール、コールセンター・訪問営業代行、店頭販売支援、インサイドセールスサポートなどがあります。

こうしたシステムやサービスを活用することで、営業担当者の作業負荷軽減や成約率の向上、顧客とのエンゲージメント強化など多方面でメリットが得られます。少子高齢化や働き方改革の影響で人材確保が課題となる企業も多く、営業支援をアウトソーシングする動きは近年ますます高まっています。

1-2. 市場が拡大する背景

  1. ICTの進歩と導入コストの低下
    クラウド型サービスの普及やスマートデバイスの利用拡大により、SaaS型営業支援ツールを手軽に導入できる環境が整いました。小規模事業者でも安価に利用できることで市場が拡大しています。
  2. 企業の競争激化と差別化ニーズ
    国内市場が成熟化する中で、売上拡大を求める企業は営業プロセスの効率化や見込み客の発掘に注力しています。顧客データを活用した提案力強化や購買行動データの分析など、デジタルマーケティングの手法が注目されるようになりました。
  3. 在宅勤務やリモートワークの広がり
    新型コロナウイルス感染症拡大後、非対面営業を余儀なくされた企業が多く、インサイドセールスやオンライン商談支援ツールを導入するケースが増えました。さらにデータ管理や顧客コミュニケーションをオンライン完結で行うために、各種クラウドサービスとの連携が加速しています。

1-3. DX(デジタルトランスフォーメーション)と営業支援の関係

企業がDXを推進するにあたり、営業部門が担う役割は大変大きいといえます。DXによってアナログからデジタルへ、対面からオンラインへと切り替わる部分が増えるほど、営業支援システムやサービスの需要は高まります。こうした市場トレンドを背景に、既存事業者や新興ベンチャーが積極的に参入してきました。その過程で企業間の競争は激しくなり、拡大戦略としてM&Aを選択する企業が増えているのです。


2. M&Aが活発化する要因と狙い

2-1. DX推進と業務効率化ニーズ

企業にとってDXを推進することは、生産性向上や業務効率化、顧客体験向上に不可欠です。営業支援はDXの成否を左右する重要領域であるため、大手ITコンサルやシステムインテグレーターが積極的に関連企業を取り込んでいます。また、技術革新のスピードが速いため、自社開発だけでは追いつかず、M&Aによって即戦力の人材と技術を獲得する動きも活発化しています。

2-2. 大手企業によるスケールメリットの追求

営業支援サービスは、人材の大量投入や大規模システムの開発など、ある程度の資本力と顧客基盤があれば効果を発揮しやすい分野です。大手企業が先行ベンチャーや専門企業を買収して事業を拡大することで、スケールメリットを得られるケースが多く見られます。一方で、大手の子会社になることで買収された企業も営業リソースや知名度を活かせるメリットがあり、ウィンウィンの関係が成立することがしばしばあります。

2-3. 新規参入や海外展開への足掛かり

営業支援企業の多くは、国内市場のみならず海外市場に展開しているケースも少なくありません。海外では日本とは異なる商習慣や販売手法が求められる場合が多く、現地企業や既にノウハウを持つ企業との連携や買収によって、一気に市場開拓を進める企業も増えています。野村総合研究所による豪州のSMS Management &Technology買収などは、海外進出の顕著な例といえるでしょう。

2-4. 非コア事業の切り離しと選択と集中

一方で、営業支援事業を行う子会社や部門が親会社からすると「非中核事業」に位置づけられる場合もあります。そうしたケースでは、事業譲渡や株式売却を通じて切り離し、親会社は本業に集中する戦略を取ることがあります。これにより、譲り受ける側は営業支援関連事業を取り込むことで規模拡大を狙い、譲り渡す側は経営資源を再配置し、財務健全化を図ることが可能になります。


3. 国内営業支援業界における主なM&A事例

ここからは具体的なM&A事例を取り上げ、各社がどのような背景や狙いで合併・買収・譲渡を進めたのかを概説いたします。


3-1. 野村総合研究所によるSMS Management & Technologyの子会社化(2017年)

日付: 2017年6月20日
概要:
野村総合研究所(NRI)は豪州子会社ASG Groupを通じ、オーストラリアのITサービス会社であるSMS Management &Technologyの全株式を取得。SMSは通信会社や金融機関向けに営業支援・顧客管理のコンサルティングやIT導入を強みとし、ASGはバックオフィス関連が主力でした。両社のサービスを補完し合うことで、幅広い事業拡大を見込んでいます。海外への事業展開をさらに広げたいNRIにとって、オセアニアでの顧客基盤獲得は重要な位置づけでした。


3-2. アント・キャピタル・パートナーズによるソフトブレーン買収(2020)

日付: 2020年8月14日
概要:
投資会社アント・キャピタル・パートナーズが営業支援サービス大手ソフトブレーンをTOBと自己株式取得のスキームで完全子会社化しました。ソフトブレーンはSFAソリューション「eセールスマネージャー」の開発・提供で知られ、長らくスカラ<4845>の傘下でしたが、投資ファンドの力を活用してさらなる成長を目指す方針に転換。スカラは株式売却で得た資金を新たな投資に振り向けるなど、お互いの戦略が一致した結果のM&Aとなりました。


3-3. 光通信によるスマート・ナビ完全子会社化(2014)

日付: 2014年1月20日
概要:
通信サービス大手の光通信が、タブレット端末を用いた営業支援・顧客管理システムの提供を行うスマート・ナビを株式交換により完全子会社化。光通信の法人向けシステムソリューション事業との協力を図り、大型顧客への販路拡大とソリューションの高度化を進めようとしました。光通信にとってはグループ内での商材を増やすことで、クロスセルの機会を創出する狙いが大きかったといえます。


3-4. レントラックスの阿迪納市場営銷策劃有限公司買収(2020)

日付: 2020年1月8日
概要:
レントラックス<6045>は、中国で越境EC向けの一括支援サービスを提供する阿迪納市場営銷策劃有限公司を買収。日本から中国に進出する企業に対して販売促進・物流・営業支援などのフルフィルメントを行う点で高いノウハウを持ち、アジア圏でのEC支援を拡充しようとしていたレントラックスにとって、同社の子会社化は大きな意味を持ちました。越境ECの需要拡大を睨み、海外拠点と連携した営業支援が可能になったわけです。


3-5. もしもしホットライン(現りらいあ)によるエニーの子会社化(2008)

日付: 2008年11月26日
概要:
旧もしもしホットライン(現りらいあコミュニケーションズ)は、店頭販売支援会社のエニーを子会社化。コールセンターや訪問営業支援に加え、店頭での顧客対応や販売促進もカバーすることで、顧客企業に対する総合的な営業支援を提供する体制を確立しました。当時、コールセンター大手のもしもしホットラインが店頭チャネルを手中に収めたことで、ワンストップソリューションが強化されたといえます。


3-6. 三井物産によるりらいあコミュニケーションズTOB(2023)

日付: 2023年1月13日
概要:
三井物産は筆頭株主として36.56%を保有していたりらいあコミュニケーションズに対してTOBを実施し、完全子会社化を目指すと発表しました。買付完了後、KDDI傘下のKDDIエボルバと経営統合し、KDDIが51%・三井物産が49%を出資する形になる計画です。コールセンター事業大手2社の統合により、顧客接点業務でのシェアが大きく拡大し、DX時代の新たな営業支援・コンタクトセンターモデルを追求する狙いと見られています。


3-7. ヨシムラ・フードHDのヤマニ野口水産・エスケーフーズ買収に見る営業支援活用

ヨシムラ・フード・ホールディングス<2884>は主に食品関連の中小企業をグループに取り込み、営業支援や商品開発などで協力し合う独自の事業モデルを築いています。たとえばヤマニ野口水産(2017年10月買収)やチルド惣菜のエスケーフーズ(2016年9月買収)では、ヨシムラグループが持つ「営業支援プラットフォーム」を活用することで販路拡大に成功し、双方の収益増につなげています。食品メーカーや加工業者にとっては、一社単独では難しい大手流通企業やスーパーへの営業を可能にするというメリットがあります。


3-8. わかば総研のMBOによるFUTABA・まつげエクステ事業譲渡(2010)

日付: 2010年11月19日
概要:
わかば総研<2192>は、美容関連子会社FUTABAとまつげエクステ事業を、それぞれ代表取締役へのMBO(経営陣買収)という形で譲渡し、基幹事業であるマーケティング・営業支援や資金調達支援へ集中する方針を示しました。企業規模が小さいために注力できない事業を手放し、コンサルティングや営業支援など本来の強みに経営資源を再配分する動きの一例といえます。


3-9. メディアフラッグによる和菓子会社「十勝」買収(2013)

メディアフラッグ<6067>は、覆面調査や店頭での営業支援・マーケティング支援を手がける企業です。2013年に埼玉の和菓子製造・販売会社「十勝」を買収し、同社の小売・流通ノウハウを活用して経営改善を図ると表明しました。実際に店舗オペレーションの合理化や販売促進活動を強化することで、食品製造企業に新たな販売チャンネルや集客手段を提供する狙いです。このように、営業支援企業が自ら製造小売業を買収してノウハウを垂直統合する事例も珍しくありません。


3-10. フルキャストHDの連続的な売却・買収(2009~2011)

フルキャストホールディングス<4848>は、かつては派遣事業のほか、通信商材の販売代理やコールセンター事業など複数の営業支援事業を手がけていました。しかし業績不振もあり、2009年12月には光通信グループ2社(テレマーケティング関連)を買収し、営業支援事業の強化を図った一方、2011年にはフルキャストマーケティングを部分的に売却するなど、自社の経営戦略に合わせて買収と売却を繰り返しました。これらは典型的な「選択と集中」の動きといえます。


3-11. ハイブリッドテクノロジーズによるドコドア買収(2024)

ハイブリッドテクノロジーズ<4260>は2024年7月、新潟市を拠点に総合デジタルマーケティング事業を行うドコドアの株式80%を取得すると発表。新潟エリアでのエンジニア採用基盤と、低コストでのシステム開発体制を手に入れ、営業支援やバックオフィス効率化などのDXソリューションを強化する狙いです。地方企業との連携によるコスト優位性を得ながら、全国へ営業支援サービスを展開する好例です。


3-12. プロトコーポレーションによるコスミック流通産業など2社の子会社化(2022)

中古車情報サイト「グーネット」などを運営するプロトコーポレーション<4298>は、金券・チケットショップ「J・マーケット」を運営するコスミック流通産業とコスミックGCシステムを買収しました。プロトコーポレーションはこれまでオンラインメディアやDXノウハウを強みとしてきましたが、今回の買収によってリアル店舗との接点を獲得。リアルとオンラインを融合させた営業支援やサービス拡充を目指しています。


3-13. リビン・テクノロジーズによる仲介王子会社化(2023)

不動産一括査定サイト「リビンマッチ」を運営するリビン・テクノロジーズ<4445>は、2023年12月に不動産業界向けシステム開発を行う仲介王を買収し、クラウドシステム開発力とエンジニア人材を補強する方針を示しました。不動産業界特化の営業支援システムは大手フランチャイズなどにも導入されており、リビン・テクノロジーズのプラットフォームとの連携でさらなる事業拡大を狙っています。


3-14. ナレッジスイートによるAI CROSSのInCircle事業取得(2021)

ナレッジスイート<3999>は2021年3月、AI CROSSが提供しているビジネスチャット「InCircle」事業を譲り受けることを決定。同社が開発中の次世代型SFA/CRM「Knowledge Suite」にチャット機能を搭載することで、ワンストップの営業支援プラットフォームを完成させようとしています。業務チャットはセキュリティ面で官公庁や大手企業にも導入されやすく、既存の営業支援サービスとの組み合わせが期待されます。


3-15. デュアルタップによるデュアルタップグロウスの経営陣譲渡(2023)

投資用マンション開発・販売を主力とするデュアルタップ<3469>は、法人向け営業支援を行う子会社デュアルタップグロウスを2023年に代表取締役へ譲渡すると発表。設立わずか数年の同社がグループ事業とのシナジーを見込めず、今後の収益貢献も限定的と判断されたため、MBO方式で子会社化から離脱する流れとなりました。


3-16. ヒト・コミュニケーションズHDのSALES ROBOTICS買収(2019)ほか

SALES ROBOTICSの買収(2019年4月25日)
ヒト・コミュニケーションズ・ホールディングス<4433>は、インサイドセールス支援のシステム開発を行うSALES ROBOTICSを子会社化。BtoBを中心に電話やメール、Web会議ツールで行う営業手法が注目されるなか、リアル(店頭)からバーチャル(Eコマース・コールセンター)までの「オムニチャネル」体制を構築する狙いがあります。

Moffly買収(2021年5月27日)
ライブコマース事業のMofflyを51%取得し、動画配信を使った新たな販売チャネルを獲得。顧客の販路拡大ニーズに合わせ、リアル×EC×ライブ配信での営業支援を実現する方向へ舵を切っています。

LOWCAL買収(2018年12月21日)
ITインフラやシステム開発のLOWCALを買収し、デジタル化が進む小売・サービス領域でさらなるサービス強化を狙いました。これら一連のM&Aにより、ヒト・コミュニケーションズHDは営業支援サービス領域を幅広くカバーしています。


3-17. ファーマライズHDのミュートス子会社化(2017)

調剤薬局などを運営するファーマライズホールディングス<2796>は、製薬企業向け営業支援システム開発のミュートスを2017年に買収しました。電子お薬手帳や医薬品データベースの整備など、ヘルスケア分野における情報サービスを強化するうえで、医療・製薬分野の専門システム開発力を取り込みたい思惑がありました。医薬MR向けの営業支援システム導入実績を持つミュートスを取り込むことで、BtoBのサービス拡大を目指しています。


3-18. ヒト・コミュニケーションズHDのMoffly買収(2021)とLOWCAL買収(2018)

先述のとおり、ヒト・コミュニケーションズHDはリアル店舗とオンライン販売の統合を目指しており、ライブコマースのMofflyやITソリューションのLOWCALの買収によって、顧客企業の販売促進手段を一気通貫でサポートできる体制を築いています。単純な人材派遣や店頭スタッフ派遣だけでなく、デジタルマーケティングやEC運用など総合的な営業支援へとビジネスモデルを拡張しています。


3-19. ダイセキによるシステム機工買収(2010)

廃棄物処理大手のダイセキ<9793>は2010年にタンク貯蔵施設洗浄工事を行うシステム機工を子会社化しました。一見、営業支援とは関係なさそうですが、システム機工が持つ洗浄部門の国内シェア60%という強力なビジネス基盤と、ダイセキによる営業支援で中小タンク洗浄事業も取り込む狙いがあったとされています。自社顧客へのクロスセルや営業代行を強化し、システム機工の売上拡大に貢献するというモデルです。


3-20. ジーニーによるHiCustomer「Arch」事業取得(2024)

広告配信やマーケティング支援を手がけるジーニー<6562>は2024年9月、HiCustomerのデジタルセールスルームサービス「Arch by HiCustomer」を取得。顧客企業に対する営業支援を拡充する一手となりました。ジーニーはクラウド型のSFA/CRM「GENIEE SFA/CRM」を提供しており、デジタルセールスルームを組み合わせることで、商談~契約後のやり取りまでオンライン完結できる仕組みを目指しています。


3-21. ゲートウェイによるエンジェルインベストメントベンチャーの買収(2010)

ゲートウェイ<7708>は、投資育成事業や営業支援を行うエンジェルインベストメントベンチャーを子会社化しました。M&A投資アドバイザリー事業の中核会社として活用する計画で、ベンチャー企業のコンサルティングや営業支援に強みを持つ点に着目しています。トップが親族経営であった点なども特徴的で、意思決定がスムーズに進んだものと思われます。


3-22. エクサウィザーズによるスタジアム買収(2023)

AI関連サービスのエクサウィザーズ<4259>は2023年6月、営業支援やWebサービス開発を手がけるスタジアムを全株式取得。スタジアムは東証グロース上場を一度は予定したものの延期となっていた企業で、これをエクサウィザーズが取り込むことでAIプロダクト事業の拡大を狙います。営業支援におけるAI活用は今後大きな成長が見込まれる分野であり、スタジアムの顧客基盤やWeb開発力を相乗効果に結びつけたい考えです。


3-23. キャリアインデックスによるSales X子会社化(2023)

転職・求人情報サイト運営で知られるキャリアインデックス<6538>は2023年9月、会計・人事のDXコンサルを行うSales X(東京都港区)を10億3000万円で買収しました。キャリアインデックスは営業DXや法務DXなども展開しており、今回の買収で会計・人事領域へ支援サービスを広げる方針です。自社の求人データベースを武器に、各業界のDXコンサルを総合的に提供しようとしている事例です。


3-24. オークファンによるスマートソーシング買収(2016)

ネットオークション比較サイトで知られるオークファン<3674>は、クラウドソーシング営業支援のスマートソーシング(東京都港区)を子会社化する方向で協議を開始(2016年3月30日公表)。クラウドソーシングを活用したBtoB向け営業支援や企業へのソリューション提案を強化したいオークファンの狙いと、ベンチャーとしての成長資金確保を図るスマートソーシングの思惑が一致したM&Aです。


3-25. SIGグループによるエイ・クリエイション子会社化(2024)

SIGグループ<4386>は2024年3月、製薬会社向け営業支援システム開発などを手がけるエイ・クリエイションの買収を発表しました。医療分野やECサイト開発などでも実績がある企業の取り込みにより、ソフトウェア開発事業の売上拡大を目指しています。医薬・ヘルスケア領域は規制や専門知識が必要なため、こうした企業の買収による参入が効率的とされています。


3-26. アイドマ・ホールディングスによる一連のM&A(メイクブイHD、どこでもデスクトップ事業など)

クラウドワーカーを活用したオンライン営業支援を展開するアイドマ・ホールディングス<7373>は、フィールドセールス支援のメイクブイ・ホールディングスを買収(2022年12月)したほか、ドコデモからクラウド系VDIソリューション「どこでもデスクトップ」事業を取得(2021年9月)するなど、積極的に事業領域を広げています。オンライン営業支援とオフライン(訪問・店頭)両面を自社サービスとして提供することで、企業の多様なニーズに応えられる「ハイブリッド型」の営業支援体制を強化しているのです。


3-27. INESTによるアイ・ステーション譲渡(2023)

INEST<7111>は、法人・店舗向け営業支援サービスを展開する子会社アイ・ステーションの全株式を投資会社HBDに譲渡しました。事業ポートフォリオの整理を進めるINESTに対し、光通信グループのHBDが営業支援ノウハウを取り込みシナジーを発揮したい思惑が背景にあります。光通信グループは通信や法人向けサービスの大手であり、アイ・ステーションの営業チャネルを活かせると考えられます。


3-28. GFAによるキレイモ28店舗買収と“営業支援”活用(2022)

GFA<8783>は、美容脱毛サロン「キレイモ」を運営するヴィエリスから28店舗を買収しました。GFAは「CLUB CAMELOT」などのナイトクラブ運営で集客力を高めており、この集客チャネルをキレイモの営業支援に活用することで、再建を図る意図があります。エンタメ領域とのシナジーによる販売促進・ブランド周知が営業支援の新たな形として注目されました。


3-29. CDGによるゴールドボンド譲渡(2019)

販路開拓や営業支援サービスを主力とするCDG<2487>は2019年2月、100%子会社のゴールドボンドをMBO(経営陣による買収)で譲渡。ゴールドボンドは地域資源を活用した商品開発や販売支援を行っていましたが、CDGグループとのシナジーが限定的で業績も低迷していました。結果として代表者が新会社を設立し、同社を引き取る形が決まりました。大手企業と子会社の方向性が合わない場合に典型的な手法です。


3-30. SREホールディングスによる九州シー・アンド・シーシステムズ買収(2021)

ソニーグループ出身のAI活用不動産ベンチャー、SREホールディングス<2980>は2021年、システム受託開発の九州シー・アンド・シーシステムズ(福岡市)を買収し、AIクラウド事業の更なる強化を狙いました。同社は流通や金融の人事・営業支援システム開発で30年以上の実績を持ち、そのノウハウを自社のAIコンサルにも応用したい意図があるとみられます。


3-31. GA technologiesによるイタンジ子会社化(2018)

不動産テックのGA technologies<3491>は2018年にイタンジ(不動産仲介会社向け営業支援システム企業)を買収。AIを活用した中古不動産プラットフォーム「リノシー」と、不動産業界向けのSaaS(ノマドクラウドやクラウドチンタイ)を組み合わせることで、不動産仲介プロセスの効率化と透明化を進めています。近年の不動産業界では営業支援システムの重要性が高まっており、大手によるベンチャー買収が活性化しています。


3-32. HEROZによるbizyの営業コンサル・テレマーケ事業取得(2024)

HEROZ<4382>は2024年8月、AIを活用した営業支援を手がける子会社VOIQを通じ、bizyが運営する営業コンサルティング・テレマーケティング事業を取得。生成AIで自動化された営業支援を実現する計画を表明しています。電話やメールなどのコンタクトセンター業務をAIで支援し、効率的に顧客リードを育成・獲得する新時代の営業手法が期待されます。


4. M&Aによるシナジーと具体的なメリット

4-1. 開発リソースの集約と迅速な市場投入

営業支援システムは開発に時間とコストがかかるため、完成度の高いプロダクトや優秀な技術者を一括して取り込めるM&Aは大きなアドバンテージです。買収企業が既に市場で高い評価を得ている製品を持っていれば、自社サービスに統合するだけで短期間に提供範囲を拡充できます。

4-2. 既存顧客へのクロスセル・アップセル

大手企業や関連サービスを多数抱える企業が営業支援ベンチャーを買収すると、親会社の既存顧客基盤へ新サービスを売り込みやすくなります。逆に、買収された企業も親会社の営業リソースやブランド力を活用して、大型案件を獲得しやすくなるなど、クロスセルによる売上拡大が期待できます。

4-3. 海外進出やグローバル顧客対応への近道

国内のみならず海外マーケットでも営業支援が求められており、特にグローバル企業や現地法人を対象にしたサービスは成長性があります。現地企業の買収やジョイントベンチャーを通じて、一気に現地ネットワークを獲得するケースは少なくありません。野村総合研究所のSMS買収や、レントラックスによる中国企業買収などが代表例です。

4-4. 経営資源の再配置とコスト削減

非コア事業の売却によって生じた資金を、本業の強化や将来性のある領域に再投資することで、企業全体の収益性を向上させる例も多数あります。また、M&A後にシステム開発や営業組織を統合することで重複コストを削減し、営業効率をさらに高められる点も魅力の一つです。


5. 今後の課題と展望

5-1. 営業支援システムの高度化とAI・クラウド活用

AIやビッグデータを活用した営業支援は今後ますます高度化し、見込み客の属性分析やパーソナライズされたアプローチが主流になると考えられます。チャットボットによる24時間対応や自動リードナーチャリングなど、新しい営業手法が登場するにつれ、スタートアップ企業が多くのソリューションを開発し、それを大手企業が買収する形態は引き続き増えそうです。

5-2. インサイドセールスやライブコマースなど新手法との融合

コロナ禍以降急速に注目された「インサイドセールス」は、訪問営業に比べてコスト効率が高く、BtoB市場で定着しつつあります。また、ライブコマースはBtoC向けの販売チャンネルとして存在感を増しており、リアル店舗との連携をはかる企業も増えています。営業支援企業はこれら新しい販売チャネルやマーケティング手段を取り込むため、関連するテクノロジー企業とのM&Aを進める可能性が高いです。

5-3. M&A後の統合管理(PMI)と組織文化の調整

M&Aが成功するかどうかは、買収後のPMI(Post Merger Integration)にかかっています。営業支援の領域は人材依存度が高いサービスも多いため、買収先社員のモチベーションや組織文化の違いをどう克服するかが課題となります。大手企業の傘下に入ることで、スタートアップの迅速な意思決定や革新的文化が失われるリスクが指摘されることもあります。

5-4. 規制や個人情報保護対応の強化

営業支援には顧客データの取り扱いが不可欠です。近年は個人情報保護の規制が強化されているため、データの安全管理やプライバシーへの配慮が必須となっています。また、新たに提供するサービスによっては金融商品取引法や各種業法に抵触しないか注意が必要です。グローバル展開を進める企業は各国の法規制に対応しなくてはならず、コンプライアンス体制の充実がM&Aのコストにも影響します。


6. まとめ

本稿では、営業支援業界における多岐にわたるM&A事例を取り上げ、それらの背景や狙い、得られるシナジー、今後の課題と展望について詳しく解説してきました。大きくまとめると以下のようなポイントが挙げられます。

  1. DXの加速と市場拡大
    営業支援はDX推進に不可欠であり、SFA・CRMなどのシステム導入やアウトソーシングへの需要が増大しています。リモートワークの普及や非対面営業手法の広がりも、その潮流を後押ししています。
  2. M&Aの活発化要因
    • 技術や人材の獲得(開発リソース確保)
    • 顧客基盤の拡大とクロスセル・アップセル
    • 海外や新規領域への進出
    • 非コア事業の切り離しや財務体質の改善
  3. 具体的な事例の多様性
    単なるIT企業によるIT企業の買収だけでなく、食品メーカーや不動産仲介企業が営業支援事業を買収するケース、投資ファンドによるバイアウト、コールセンターと店頭販売支援企業の統合など、非常に幅広い業態のM&Aが行われています。
  4. 今後の展望と課題
    営業支援の高度化(AI・データ活用)と多様化(インサイドセールス、ライブコマースなど)に伴い、新興企業が次々と新技術を開発するため、大手や投資ファンドが買収する流れは今後も続くとみられます。ただし、M&A後のPMIやコンプライアンス対応が成功のカギとなり、企業文化の調整や規制対応に慎重な姿勢が求められます。

営業支援領域は企業の売上や顧客満足に直接影響を与える重要な業務でありながら、専門的なノウハウやIT技術が必要となる分野です。そのため、外部企業との協業・買収による体制強化が最も顕著に進む領域の一つでもあります。国内のみならずグローバルでも競争が激化する中、各社がいかに的確なM&A戦略を組み、効果的にPMIを進められるかが、今後の大きな分かれ目となるでしょう。