目次
  1. 第1章:駐車場運営業界の概要
    1. 1-1. 自動車社会の進展と駐車需要の増大
    2. 1-2. 駐車場運営業界の特徴と市場構造
    3. 1-3. M&Aが活発化する理由
  2. 第2章:国内事例に見るM&Aの狙いと背景
    1. 2-1. 大和ハウス工業<1925>による駐車場関連事業のM&A
      1. 2-1-1. テクニカル電子<6716>のTOB(2018年)
      2. 2-1-2. トモの子会社化(2014年)
    2. 2-2. 日本エコカ工業<3345>の駐車場運営事業取得事例
    3. 2-3. 東京建物<8804>による日本パーキング<8997>のTOB(2010年)
  3. 第3章:海外展開と国際M&Aの動向
    1. 3-1. 日本駐車場開発<2353>によるインドネシア企業の子会社化(2013年)
    2. 3-2. 日成ビルド工業<1916>によるシンガポールのP-Parking Internationalの子会社化(2017年)
    3. 3-3. パーク24<4666>の英国NCP買収(2017年)
  4. 第4章:その他の注目事例
    1. 4-1. バイク王&カンパニー<3377>による駐車場運営事業の譲渡(2017年)
    2. 4-2. PKSHA Technology<3993>によるアイドラの子会社化(2019年)
    3. 4-3. YOZAN<6830>による新総企の譲渡(2008年)
  5. 第5章:M&Aにおけるシナジーとリスク
    1. 5-1. シナジー効果の具体例
    2. 5-2. M&Aのリスクと留意点
  6. 第6章:駐車場運営業界の未来とM&Aの展望
    1. 6-1. MaaS時代への変革
    2. 6-2. 都市再開発や観光需要との連携
    3. 6-3. 環境問題と駐車場運営
    4. 6-4. 中小企業の再編と全国展開
  7. 第7章:事例から学ぶ成功要因と課題
    1. 7-1. 成功要因
    2. 7-2. 課題とリスク回避策
  8. 第8章:今後の展望とまとめ

第1章:駐車場運営業界の概要

1-1. 自動車社会の進展と駐車需要の増大

日本や先進国では長らく自動車社会が発展してきましたが、新興国も含めた世界規模でのモータリゼーションはさらに進む傾向にあります。自動車の普及台数が増えれば駐車場の需要も高まり、加えて都市部では再開発や商業施設の増加、訪日外国人観光客(インバウンド)増加によるレンタカー利用やカーシェアサービスなど、多様なモビリティの広がりによって駐車場の存在意義が一段と高まっています。

さらに、駐車場は単なる「クルマを停める場所」にとどまらず、交通インフラの一部として渋滞対策や都市計画とも深く関わっています。駐車場の整備が進むことで、違法駐車の減少、交通渋滞の緩和など社会的課題の解決にも寄与すると期待されます。

1-2. 駐車場運営業界の特徴と市場構造

駐車場運営のビジネスは、主に「土地の借り上げや自社所有地の活用」「コインパーキング方式の導入」「月極駐車場の管理」「大型施設系駐車場の管理」など、多様な業態があります。近年はコインパーキング事業の成長が著しく、街中の小規模用地にもパーキングメーターやゲート式、もしくはロック板方式のコインパーキングを導入して短期利用を促進する取り組みが増えています。また、大型商業施設や娯楽施設などでは、より大規模な立体駐車場や地下駐車場を運営し、顧客サービスの一環として無料化や割引サービスを提供する事例も見られます。

市場構造としては、大手企業が全国展開でコインパーキングや大規模駐車場運営を手掛ける一方、地域密着型の中小事業者が特定のエリアで月極駐車場を運営したり、地元の施設駐車場の管理を請け負ったりするケースがあります。こうした大手と中小が共存する構造の中で、専門性の高いノウハウが蓄積され、地域ごとの特性に合わせた駐車場運営が行われています。

1-3. M&Aが活発化する理由

駐車場事業におけるM&Aが活発化する背景には、以下のような理由が挙げられます。

  1. 市場拡大による規模のメリット
    駐車場事業は土地や建物の投資にかかる固定費が大きい一方、運営管理におけるスケールメリットを得やすいビジネスです。台数や拠点数を増やすほど運営ノウハウやシステム投資の回収がしやすくなり、効率化が進むため、M&Aによる規模拡大が効果的とされています。
  2. ITやIoT技術の導入
    駐車場機器や管理システムの高度化が進む中、ハードウェア開発やソフトウェア開発のノウハウを取り込むために異業種の企業も駐車場事業に参入しています。また駐車場運営会社同士でも、最新の課金・予約システムを取り込み合うことで競争力を高める動きが見られます。
  3. 海外展開への足掛かり
    駐車場事業は経済成長が著しい新興国や、公共交通機関が発達しているものの都心部のクルマ需要が高い欧米などでもビジネスチャンスがあります。現地企業をM&Aで取り込むことで、海外市場への参入ハードルを下げ、現地の文化や規制に対応した運営ノウハウを一挙に確保できる点が魅力です。
  4. 不動産の有効活用と開発の一環
    駐車場事業は不動産開発の一形態としても位置づけられます。不動産デベロッパーが駐車場運営会社を傘下に収めることで、自社が開発する建物や土地をより効率よく活用し、開発した施設との相乗効果を狙う動きが見られます。

本稿で取り上げる具体的なM&A事例を通じて、これらの背景や動きを深堀りしていきます。


第2章:国内事例に見るM&Aの狙いと背景

ここでは、日本国内の企業同士や、日本企業による国内事業の買収などを中心に取り上げます。都市部の集客施設やオフィスビル、商業ビルなどでは、駐車場が施設の利便性を左右する重要な要素です。そのためデベロッパーや大手企業が駐車場運営会社を子会社化し、安定的な収益獲得や施設誘導の最適化を目指すケースが増えています。

2-1. 大和ハウス工業<1925>による駐車場関連事業のM&A

2-1-1. テクニカル電子<6716>のTOB(2018年)

大和ハウス工業は、傘下の大和リースを通じてテクニカル電子に対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化を図りました。テクニカル電子はコインパーキングの運営だけでなく、駐車場機器の開発・製造・販売も手がけている企業です。大和ハウスグループにとっては、自社がこれまで不動産開発や建築事業で蓄積してきたノウハウと、テクニカル電子の駐車場機器開発力・運営ノウハウを融合させ、駐車場事業を更に拡大することが狙いでした。

今回のTOBでは、テクニカル電子の全株式を取得し、買付金額は最大で約17億7000万円。1株あたり3300円と公表前営業日の終値2578円に対して28.01%のプレミアムをつけています。こうした駐車場事業への投資判断は、駐車需要の堅調な伸びやストック型ビジネスの安定性を踏まえたものであり、不動産デベロッパーが「駐車場運営会社や機器メーカー」を取り込む典型的な事例といえるでしょう。

2-1-2. トモの子会社化(2014年)

大和ハウス工業は2013年に福岡県を拠点とするダイヨシトラストを子会社化して駐車場事業の基盤を築いた後、2014年には関東・近畿を中心に駐車場事業を展開するトモを子会社化しました。トモは施設系駐車場の運営ノウハウを持ち、売上高32億6000万円という比較的大きな規模を誇る企業です。大和ハウス工業はこれによって地域や駐車場形態を多角的にカバーできる体制を強化し、全国的な駐車場ネットワーク構築を一段と進めています。

施設系駐車場は商業施設やオフィスビルなどの集客施設に付随する形で運営されるため、利用者数も比較的安定しており、収益性の観点でも魅力的です。不動産開発と併せて展開すると、土地オーナーや施設との一括契約など柔軟な提案ができるため、M&Aを通じて業界内でのプレゼンスを高めようとする動きが読み取れます。

2-2. 日本エコカ工業<3345>の駐車場運営事業取得事例

日本エコカ工業は主に中古自動車部品の販売・買取を行う企業でありながら、駐車場事業にも積極的に進出しているのが特徴です。同社はホットガレージ(福井市)から駐車場運営事業を複数回にわたり取得しています。

  • 2008年1月の取得:東京、千葉、愛知、石川、福井の5カ所の駐車場を譲受。直近売上高は合計1830万円で、取得価額は8790万円。
  • 2011年12月の取得:福井市の12台分の駐車場(売上高224万円)を運営している事業を720万円で取得。

これらの事例からは、中古自動車部品事業を主軸とする企業が、安定収益源として駐車場運営事業を取り込む動きをうかがえます。中古部品ビジネスは景気や自動車販売台数に影響を受けやすい面があるため、ストック型ビジネスである駐車場運営を買収によって獲得し、収益の安定化を図ることは戦略的に理にかなっています。加えて同じ自動車関連事業としてシナジーを見出しやすい点も魅力でしょう。

2-3. 東京建物<8804>による日本パーキング<8997>のTOB(2010年)

東京建物は大手不動産デベロッパーとして知られており、ビルやマンションなどの開発を広範に手がけています。同社は2010年に日本パーキングをTOBで完全子会社化すると発表しました。日本パーキングは駐車場運営の大手であり、上場企業でしたが、今回のTOBにより上場廃止となっています。

買付価格は1株あたり6万円で、公表前営業日終値4万6500円に対して約29.03%のプレミアムがつけられ、買付価額は32億4700万円となりました。厳しい不動産市況の中でも、駐車場事業を手中に収めることで自社の所有建物や管理物件とのシナジーを狙ったものと推察されます。実際、不動産デベロッパーはオフィスビルやマンション開発といった都心部の大型プロジェクトだけでなく、商業施設や複合開発を進める際に駐車場確保が不可欠となるため、運営ノウハウを持つ企業の完全子会社化はメリットが大きいといえます。


第3章:海外展開と国際M&Aの動向

駐車場運営事業は海外でも需要があり、特に東南アジアや欧米圏は都市部の駐車需要が拡大傾向にあるため、現地企業をM&Aによって取り込む動きが進んでいます。また逆に、日本企業が海外の駐車場運営企業を買収することで海外事業を拡大するケースも増えています。

3-1. 日本駐車場開発<2353>によるインドネシア企業の子会社化(2013年)

日本駐車場開発はタイの子会社を通じて、インドネシアの組立式自走式駐車場販売事業を行うPT.SUN SIFA NIPPONINDOの株式60%を取得し子会社化しました。インドネシアではジャカルタや地方都市で自動車台数の急激な増加に対して交通インフラが追いついておらず、渋滞や路上駐車が大きな社会問題になっています。組立式自走式駐車場は短期間・低コストで建設できる利点があるため、このニーズに対応できる技術と価格帯を持つPT.SUN SIFA NIPPONINDOへの出資は、今後の市場拡大を見据えた戦略といえます。

日本駐車場開発は国内でもスキー場や公共施設の指定管理者事業など多角経営を進める企業ですが、インドネシアでも現地ニーズに合わせた駐車場事業を展開できるよう、販売事業と自社の運営ノウハウを一体化し、更なる拡大を狙っています。取得価額は非公表であるものの、新興国の駐車場市場は将来性が高いため、国際展開に意欲的な日本企業の典型的な例といえるでしょう。

3-2. 日成ビルド工業<1916>によるシンガポールのP-Parking Internationalの子会社化(2017年)

日成ビルド工業はプレハブ建築やシステム建築などを得意とする企業として知られていますが、シンガポールにおいて駐車場運営・管理事業を展開するP-Parking International Pte Ltdを40億3700万円で買収し、子会社化することを決定しました。P-Parking Internationalは運営・管理台数が6万5000台を超える大手で、売上高は28億1000万円、純資産6億1000万円とシンガポールの駐車場運営会社としては大規模です。

日成ビルド工業の狙いは、自社の立体駐車場やシステム建築技術を駐車場運営事業に組み合わせ、特に東南アジア諸国の都市圏での駐車ニーズ拡大に対応することとされています。シンガポールは国土面積が限られているため、自走式や立体式などの効率的な駐車場が求められる市場です。今後は近隣のマレーシア、インドネシア、タイなどにも事業を展開していく足掛かりとなる可能性が高く、日本企業による海外企業買収の成功モデルとして注目されます。

3-3. パーク24<4666>の英国NCP買収(2017年)

パーク24は日本国内でコインパーキング大手「タイムズ」ブランドを運営する業界最大手ですが、海外展開にも力を入れています。2017年に英国最大手の駐車場事業者National Car Parks Limited(NCP)を、日本政策投資銀行(DBJ)と共同で買収し、パーク24が51%、DBJが49%を保有する形でNCPを連結子会社化しました。

NCPは1931年創業の老舗で、ロンドンやバーミンガムなどの中心部で約15万台の駐車場を運営し、ITシステムにも強みがあります。パーク24は英国における大規模駐車場のノウハウや顧客基盤を取り込むだけでなく、空港や駅といった交通拠点をベースに新たなモビリティサービスを展開することも視野に入れており、まさに“駐車場×MaaS(Mobility as a Service)”戦略の一環と見られます。

近年はカーシェアやサブスクリプション型の移動サービスなど新しいモビリティ形態が誕生しているため、駐車場事業者は単に「停める場所の提供」だけでなく、「移動の接点としてのプラットフォーム化」を目指す方向にシフトしており、この点で英国のNCP買収は大きな意味を持ちます。


第4章:その他の注目事例

4-1. バイク王&カンパニー<3377>による駐車場運営事業の譲渡(2017年)

バイク王&カンパニーは中古バイクの買取や販売を中心に展開していますが、以前は駐車場運営事業も兼営していました。しかし2017年に駐車場運営事業を名古屋鉄道グループの名鉄協商へ譲渡すると発表し、会社分割を実施。譲渡先は新設会社のパーク王(東京都港区)で、その全株式を名鉄協商が取得する形での譲渡です。

事業の売上高は7億7600万円と、バイク王の全売上高の4.6%を占める規模。譲渡額は7億8000万円でした。バイク王はバイク事業にリソースを集中して業績改善を目指すため、駐車場事業を整理したものと考えられます。駐車場事業は安定収益が見込める一方で、管理コストやノウハウが必要となる側面もあり、主力事業とのシナジーが薄いと判断された場合は売却の対象となることがあります。名鉄協商は交通関連の大手企業グループの一員として、駐車場事業の拡大を目論む狙いがうかがえます。

4-2. PKSHA Technology<3993>によるアイドラの子会社化(2019年)

AIアルゴリズム開発を手がけるPKSHA Technologyは2019年、駐車場機器メーカーのアイドラ(旧・アイテック)の全株式を特別目的会社(桜坂1号)を通じて取得し、子会社化しました。アイドラは全国に10万台以上のIoT機器を配置し、駐車場機器の製造・販売と運営受託を行う企業です。

PKSHA TechnologyはAIや機械学習などの高度な技術を強みとする企業で、今回の買収によりMaaS(Mobility as a Service)領域への本格的な参入を狙っています。駐車場ビジネスは膨大なリアルデータが収集可能であり、車両の入出庫や利用者の動向など、AIで解析すれば新しい付加価値サービスの開発が期待できます。特にスマートシティや自動運転が普及していく未来においては、駐車場と車両をネットワークでつなぎ、最適化や自動決済などが求められるため、この分野に強いプレーヤーをM&Aによってグループ化する動きが今後も続くと予想されます。

4-3. YOZAN<6830>による新総企の譲渡(2008年)

YOZANはかつて無線通信事業で名を馳せた企業で、2006年に駐車場運営会社の新総企を子会社化しました。狙いは新たな駐車場管理システムの構築や、電波や無線技術を活用したビジネスモデルの展開でした。しかし思うように相乗効果を出せず、YOZANの業績悪化も相まって2008年に新総企をフレンド成長投資(東京都千代田区)に8億円で譲渡するに至りました。

M&Aは常に成功するとは限らず、既存事業と買収先のシナジーが生まれなかったり、買収後の統合プロセスが計画どおりに進まなかったりする事例もあります。このケースでは新総企の売上高4億2900万円、営業利益4600万円という安定収益がありながらも、YOZAN本体が抱える問題を解消するには至らず、結果的に手放す形となったようです。


第5章:M&Aにおけるシナジーとリスク

5-1. シナジー効果の具体例

  1. 運営ノウハウの取得と拠点拡大
    駐車場事業は地域特性を踏まえた集客や料金設計、機器の設置やメンテナンスに関するノウハウが鍵を握ります。M&Aによって成熟した運営ノウハウを素早く取り込むことで、新規エリアへの進出や拠点数拡大をスムーズに進められます。
  2. 不動産活用との相乗効果
    不動産デベロッパーが駐車場運営会社を子会社化することで、自社物件の駐車場運営を内製化し、コストダウンやサービス向上を図れます。また、商業施設やオフィスとの一体開発で利用者を呼び込みやすくなり、付加価値向上が期待できます。
  3. 技術・システム連携の強化
    駐車場機器メーカーやIT企業を取り込むケースでは、スマートフォン決済や予約管理システム、自動ナンバー認識などの高度化が可能になります。データ解析による需要予測やダイナミックプライシング、利用者の属性分析など、マーケティングに役立つ新たなサービス展開にもつながります。
  4. 海外市場への進出
    新興国や欧米など海外市場で既存事業者を買収することで、現地の規制や習慣に対応した事業運営が可能になります。迅速な拡大とローカライズが求められる駐車場事業においては、現地パートナーのノウハウ獲得が非常に大きなアドバンテージとなります。

5-2. M&Aのリスクと留意点

  1. 統合プロセスの失敗
    企業文化や経営方針の違いが大きい場合、M&A後のシナジー創出には時間やコストがかかります。統合プロセスが計画どおり進まないと、業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。
  2. 既存事業との不整合
    バイク王&カンパニーやYOZANの事例のように、本業と駐車場事業の相乗効果が薄かったり、予想ほど業績が伸びなかったりすると、結局は事業譲渡や撤退を選択せざるを得なくなるケースがあります。
  3. 過剰投資と財務負担
    M&Aには買収資金が必要であり、大型案件になるほど財務に大きな負担がかかります。投資回収に見合った利益が得られないと、経営全体のバランスが崩れる恐れがあります。
  4. 海外規制・文化の壁
    海外M&Aでは現地の法規制や文化的要素、商慣行を理解する必要があります。これを怠ると、期待ほど事業を拡大できず、撤退せざるを得なくなるリスクがあります。

第6章:駐車場運営業界の未来とM&Aの展望

6-1. MaaS時代への変革

現在、世界的にMaaS(Mobility as a Service)の概念が広がり、複数の交通手段をシームレスにつなぐサービス開発が進んでいます。カーシェアやライドシェア、自動運転技術の進歩など、移動手段が多様化するなか、駐車場は“乗り換え拠点”としての重要度を増しています。例えば、公共交通機関と自家用車の乗り継ぎを支援するパークアンドライドや、カーシェア拠点としての駐車場活用などが挙げられます。

こうした時代の変化に対応するため、駐車場運営会社はITやIoT技術を活用した利便性向上や、スマホアプリ連動型の予約・決済サービスなどを強化しています。さらにはAIによる混雑予測や自動精算など、新技術の投入も活発化しており、その背景にはM&Aで得られる技術提携や資金力の拡大が大きく寄与しています。

6-2. 都市再開発や観光需要との連携

大都市圏では再開発プロジェクトが盛んに行われており、大規模商業施設や複合施設の建設が進むほど、来訪者向け駐車場ニーズは引き続き堅調です。一方で地方都市や観光地でも、インバウンド旅行者や地域活性化のために観光拠点での駐車場整備が求められています。こうした幅広い需要に応え、地域の公共交通や観光事業と連携して駐車場インフラを整えるには、資金力やノウハウを兼ね備えた企業集団が有利です。

大手不動産デベロッパーや、海外進出を狙う国内企業が、地域事業者を買収して駐車場運営に参入する動きは今後も加速が見込まれます。特に地方再生や観光振興という政策的要請との接点を狙ったM&Aも増える可能性があります。

6-3. 環境問題と駐車場運営

環境問題への配慮として、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)の充電設備を備えた駐車場の需要も高まっています。大都市圏では自治体の条例や国の施策などで、環境にやさしいクルマへのシフトが加速しているため、充電スタンド設置や設備投資が経営戦略の一部になりつつあります。M&Aによって充電インフラ事業を行う会社を傘下に収めたり、共同開発を進めたりするケースも想定されます。

また駐車場の屋上を太陽光パネルで覆い、再生可能エネルギーを活用する例や、建物自体を環境に配慮した設計にする例など、環境対応型駐車場の普及が進みつつあります。こうした取り組みは建設・不動産事業とも相性が良く、グループ全体で推進するためにM&Aが活用されることも考えられます。

6-4. 中小企業の再編と全国展開

日本全国には多数の中小規模の駐車場運営企業が存在します。地元密着型で安定的に収益を得ている企業が多い一方、次世代経営者不足やシステム投資の負担増により、将来像を描きにくいケースも少なくありません。そのため大手企業による買収や資本提携を求める動きがさらに活発になる可能性があります。

M&Aにより、中小企業が持つ地域の顧客基盤や立地条件を大手が生かし、逆に大手が持つITシステムや資金力を中小企業が活用できれば、両社にとってウィンウィンな結果を生み出します。こうした再編の動きは、駐車場業界の集約化・効率化を進めるだけでなく、サービス水準の底上げにもつながると期待されます。


第7章:事例から学ぶ成功要因と課題

7-1. 成功要因

  1. 明確な戦略目標とシナジーの設計
    M&A後に具体的にどのようなサービス拡充や売上増を図るのか、明確なプランを持っている企業は統合を円滑に進められます。大和ハウス工業がテクニカル電子やトモを買収して駐車場事業の拡大を進めたのは、自社の不動産開発との連携という明確なシナジー目標があったからといえます。
  2. 投資余力と経営陣のコミットメント
    大規模な買収では買収資金が必要となり、経営陣のリーダーシップや財務基盤の安定が重要です。パーク24のNCP買収は、日本政策投資銀行との共同買収という形で資金リスクを分担しており、その点でも成功しやすい環境を作り出しました。
  3. 買収先経営陣や従業員との協調
    経営統合後も買収先のノウハウや人材が残らなければ意味がありません。買収企業が持つブランドや取引先、従業員のモチベーションを維持するための仕組みづくりが欠かせません。

7-2. 課題とリスク回避策

  1. 過度なプレミアム買収のリスク
    買収価格が高騰しすぎると、投資回収が長期化します。買収先の事業計画や将来予測を慎重に分析し、適正価格を見極める必要があります。
  2. コンプライアンスや現地規制のクリア
    海外企業の買収では、現地の法令や行政手続き、渉外が複雑化することがあります。専門家の活用や綿密な調査が必要です。
  3. 社内のIT・システム統合
    企業が抱える管理システムや課金システムなどを統合するにはコストと時間がかかります。優先順位を明確にし、段階的に移行する計画が求められます。

第8章:今後の展望とまとめ

駐車場運営業界のM&Aは、国内外の多様なプレイヤーが入り混じるダイナミックな展開を見せています。インフラや不動産、IT・AI技術まで幅広い業種との結びつきが大きいため、これからも新しい形態の買収や提携が増えていくでしょう。

  • 海外展開: 東南アジアのモータリゼーション進展や欧米市場でのカーシェア拡大など、海外企業の取り込みを通じたグローバル化が進む見込みです。
  • IT・AIの導入: PKSHA Technologyやパーク24の事例からわかるように、先端技術を活用したサービス拡充や新しいモビリティサービスとの連携がカギを握ります。
  • 不動産との一体開発: 東京建物や大和ハウス工業など、大手デベロッパーによる駐車場運営会社の子会社化が加速しており、都市開発や地方再生とセットになったM&Aの動きが今後も続くでしょう。
  • 中小企業の再編: 地域を支える駐車場運営事業者が大手との連携を模索するケースが増え、M&Aや資本提携による再編が進むと考えられます。

駐車場運営は、一見地味で安定志向のビジネスと思われがちですが、実際には自動車関連や不動産開発、IT・IoT、新興国のインフラ整備など多方面との連携が期待できる分野です。そのため、大手企業や投資家が注目し、多額の資本が投下されるケースが少なくありません。近年はMaaSブームも相まって、駐車場を「ただの停めるスペース」から「移動を支えるハブ」へと進化させる動きが顕著になり、そこに新しい付加価値を創造できる企業ほど成長の余地が大きいといえます。

また、少子高齢化や地方都市の衰退が議論される日本国内でも、都市部の再開発や観光インバウンド需要の取り込みは引き続き進む見通しであり、駐車場の供給が都市計画や不動産活用の一環として整備される機会は多いでしょう。さらに、EVシフトやシェアリングエコノミーなど、社会の変化に合わせて駐車場ビジネス自体の在り方も変化を迫られています。こうした激動の時代にあって、M&Aは企業規模や技術力、地域ネットワーク、海外拠点などの要素を一気に手に入れる手段として一段と注目が集まっています。