- 1. はじめに
- 2. WEBメディア業界M&Aの基本的な特徴
- 3. M&Aにおける主な評価ポイントと留意事項
- 4. 2023年~2025年にかけてのWEBメディア関連M&A事例一覧
- 5. 事例詳細解説(2025年)
- 6. 事例詳細解説(2024年)
- 6-1. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、旅行代理店のインプレストラベルを子会社化
- 6-2. コンフィデンス・インターワークス<7374>によるDolphin譲渡
- 6-3. マツキヨココカラ&カンパニー<3088>、AppBrew買収
- 6-4. KPPグループホールディングス<9274>、フランスPoitou事業取得
- 6-5. ZUU<4387>、金融機関向け送客メディア「NET MONEY」新会社を譲渡
- 6-6. テー・オー・ダブリュー<4767>、Qeticを子会社化
- 6-7. WOWOW<4839>、cinraを子会社化
- 6-8. エキサイトホールディングス<5571>、NAPBIZを買収
- 6-9. ブロードメディア<4347>によるビデオ・コミックサービス、エンタメ情報サービス譲渡
- 6-10. オリコン<4800>、モバイル事業をエムティーアイ<9438>傘下企業に譲渡
- 6-11. セーラー広告<2156>、メディア・エーシーを子会社化
- 6-12. マーチャント・バンカーズ<3121>、娯楽TVメディア・コンテンツをアートポートインベストに譲渡
- 6-13. フュートレック<2468>、メディアジャパンをイヴレスに譲渡
- 6-14. アクリート<4395>によるズノー・メディアソリューション買収
- 6-15. ポールトゥウィンホールディングス<3657>、DMM.comから舞台事業を取得
- 6-16. GMOメディア<6180>による趣味なび買収
- 6-17. じげん<3679>、保険マンモスを子会社化
- 6-18. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、グローリーを買収
- 7. 事例詳細解説(~2024年中盤まで)
- 7-1. INCLUSIVE<7078>、「枚方つーしん」運営のmorondoを譲渡
- 7-2. オーエムツーネットワーク<7614>、マイメディア買収
- 7-3. C Channel<7691>、マキシムを譲渡
- 7-4. 東宝<9602>、サイエンスSARUを子会社化
- 7-5. ピアラ<7044>、美容情報サイト「MOTEHADA」事業をFUNDiTに譲渡
- 7-6. ビューティガレージ<3180>、美容業界専門メディアの女性モード社を子会社化
- 7-7. エアトリ<6191>、GROWTHを子会社化
- 7-8. 日本リビング保証<7320>とメディアシーク<4824>の経営統合(Solvvyへ社名変更予定)
- 7-9. ジーニー<6562>、ソーシャルワイヤー<3929>を子会社化
- 7-10. メディア総研<9242>、アドウィルを子会社化
- 7-11. 東北新社<2329>、スター・チャンネルをジャパネットブロードキャスティングに譲渡
- 7-12. インフォネット<4444>、ブランドデザイン買収
- 7-13. ALiNKインターネット<7077>、エンバウンドを子会社化
- 7-14. ラクスル<4384>、マーケティング事業のWild Sideを買収
- 7-15. AnyMind Group<5027>、マレーシアArche Digital買収
- 7-16. セーラー広告<2156>、メディア・エーシー買収
- 7-17. 日本創発グループ<7814>によるアスコム子会社化
- 7-18. バルコス<7790>、immunityを子会社化
- 7-19. cotta<3359>、フレンバシーのVegewel取得
- 7-20. Gunosy<6047>、SmarpriseをBrave groupに譲渡
- 7-21. ELEMENTS<5246>、アドメディカ買収
- 7-22. 石垣食品<2901>、メディアートを子会社化
- 8. 事例詳細解説(~2023年)
- 8-1. TSIホールディングス<3608>、READY TO FASHION子会社化
- 8-2. ブロードメディア<4347>、プログラミング教育divを買収
- 8-3. AppBank<6177>、3bitterをSTPRに譲渡
- 8-4. ノジマ<7419>、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPEJ)のアニメ衛星放送事業を取得
- 8-5. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、papaya japan完全子会社化
- 8-6. トランザクション・メディア・ネットワークス<5258>、ウェブスペース買収
- 8-7. エヌリンクス<6578>、ジョイントの「ネットの教科書」取得
- 8-8. メディアスホールディングス<3154>、マコト医科精機など買収
- 8-9. 芙蓉総合リース<8424>、「デンタルマッチ」事業を取得
- 8-10. まぐまぐ<4059>、「PLAYLIFE」事業取得
- 8-11. 中広<2139>、フリーペーパー大手関西ぱどを子会社化
- 8-12. サイバー・バズ<7069>、スタイル・アーキテクトを譲渡
- 8-13. ミンカブ・ジ・インフォノイド<4436>、フロムワン買収
- 8-14. クルーズ<2138>、YES・CROOZ EC Partners・CARAFULの譲渡・買収
- 8-15. メディアスホールディングス<3154>、田中医科器械製作所事業取得
- 8-16. ベクトル<6058>、ビジコネット買収
- 8-17. …(その他案件省略、上記で既述の通り)
- 9. 海外動向や他業種参入も視野に入れたWEBメディアM&Aの展望
- 10. M&A成功のための戦略・注意点
- 11. おわりに
1. はじめに
1-1. WEBメディア業界におけるM&Aの背景
近年、テクノロジーの発展や消費者行動の多様化を背景に、WEBメディア業界では大規模な再編や連携が進んでいます。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の普及や、スマートフォンの急速な浸透により、メディア消費の形態が大きく変わり、既存のビジネスモデルを新しいかたちへと転換する企業が増えてきました。一方で、紙媒体からデジタルへの移行が加速し、広告やコンテンツのデジタル化が必須となってきています。
この変化の波を捉えるためにも、企業同士が得意分野を取り込みあい、シナジー効果を追求するM&A(合併・買収)の重要性が以前にも増して高まっています。広告代理店がデジタルマーケティング企業を買収したり、大手IT企業がメディアサイトを取得したりと、大手・中堅企業を問わずさまざまな動きが起きています。
1-2. 近年の業界動向とM&Aニーズの高まり
数年前までは、インターネット広告やSEO対策などのマーケティング手法が中心でしたが、今ではSNSを活用したインフルエンサーマーケティングや、サブスクリプションモデルのメディアが台頭してきています。また、動画配信サービスやライブコマースなどの新たなプラットフォームも次々と登場し、メディア業界の境界があいまいになっています。
こうした環境では、企業が単独で0から新規領域に参入するよりも、すでに事業を展開している企業を買収して短期間で成果をあげる手法が採られがちです。その結果、デジタル広告のノウハウやユーザー基盤を持つ企業のM&Aはさらに活発になっています。
1-3. 本記事の目的と構成
本記事では、2023年から2025年にかけて行われたWEBメディア業界のM&A事例を紹介し、それらの事例から見えてくる共通点やポイントをまとめます。さらに、WEBメディア業界特有のM&Aにおける狙い、組織統合上の留意点、シナジーを最大化するための戦略などについても解説します。最終的には、M&Aの検討にあたっての参考情報として、本記事をお役立ていただければ幸いです。
2. WEBメディア業界M&Aの基本的な特徴
2-1. WEBメディア企業のビジネスモデルとM&Aの目的
WEBメディア企業の収益源は、大きく「広告収入」「コンテンツ販売(サブスク含む)」「ECとの連携」などに分けられます。多くの場合、広告収入が大部分を占めていますが、近年では有料会員制度や自社ECとの掛け合わせにより収益の多角化を目指す企業が増えています。
M&Aの目的としては、
- ユーザーデータの獲得
- コンテンツやクリエイターの確保
- 広告商品、アドテクノロジーの取り込み
- 既存サービスとのクロスセル、顧客基盤拡大
などが挙げられます。
2-2. コンテンツ多角化とクロスメディア展開の意義
M&Aによって異業種や他領域のメディア企業を傘下に加え、配信コンテンツのジャンルを広げることでユーザー層を拡張し、新しい広告主を獲得できます。テレビや新聞、雑誌などのマスメディア、あるいはリアルのイベント事業や旅行代理店との相乗効果を狙う動きも顕著です。また、放送局や新聞社がWEBメディアを買収することもあり、コンテンツのデジタル展開や若年層へのリーチ強化が狙いとなるケースが増えています。
2-3. アクセス数(トラフィック)やユーザーデータの活用メリット
WEBメディアはアクセス数やユーザーデータそのものが価値を持ちます。M&Aにより既存メディアでは得られなかったデモグラフィック(年齢、性別、地域など)や行動履歴を一気に増やし、広告の商品価値を向上させることが可能です。また、このデータを解析しながら新規事業やターゲット向けの広告配信精度向上も期待できます。
2-4. グループシナジーと経営資源再配置のポイント
M&A後には事業ポートフォリオの見直しが行われることが多く、収益性の高い事業へリソースを重点的に投下したり、不採算事業の整理・撤退が進められたりします。特にメディア業界では、急速な技術革新や市場競争が起こるため、少し先の需要を見越した経営判断が求められます。とりわけ、PMI(Post Merger Integration:買収後の経営統合)を成功させるための文化融合や方針共有がきわめて重要です。
3. M&Aにおける主な評価ポイントと留意事項
3-1. 事業の継続可能性とターゲット企業の収益モデル
WEBメディア企業を評価する際には、獲得できるユーザー数やアクセス数だけでなく、以下の収益モデルを確認する必要があります。
- 広告収入の割合:アドネットワークや広告代理店との関係性、広告在庫(インプレッション)管理の仕組み
- サブスクモデルの有無:月額課金による安定収益の割合
- EC連携やアフィリエイト:コンバージョン率、ブランド力、顧客生涯価値(LTV)など
収益モデルの中心が広告の場合、広告市場の景況や広告媒体としての魅力をどれだけ持続できるかがカギです。逆にサブスク中心の場合は、継続率や退会率、会員獲得コストなどを綿密に調べる必要があります。
3-2. ユーザー基盤・ブランド力・知的財産(IP)の評価
WEBメディアではユーザー基盤の大きさやブランド力が企業価値を大きく左右します。たとえば、特定のジャンルで圧倒的シェアを誇るメディアや、ソーシャルメディアで大規模なフォロワーを持つメディアなどは、買収後にほかのサービスとの連携が期待できます。また、オリジナルIP(キャラクターやストーリーなど)を保有している場合、展開先がグッズ販売やイベント、映像化など多岐にわたるため、長期的に収益を生み出す可能性があります。
3-3. 人材とノウハウの継承、DX推進との関連
WEBメディアの運営には専門性の高い人材(エディター、デザイナー、エンジニア、マーケターなど)が不可欠です。M&Aの実行によって人材流出が起きないように、組織統合の段階でしっかりとしたスキームづくりが求められます。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の観点から、IT基盤や顧客データ管理のノウハウをどう活かすかも評価ポイントとなります。
3-4. スタートアップや新興企業を買収する際のリスク・留意点
スタートアップや新興企業の多くは急成長を目指すために投資を積極的に行う一方で、短期間で黒字化が難しいケースが多いのも事実です。買収側企業はビジョンや経営陣の手腕を正しく評価し、PMIでの方針が合致しているかを慎重に判断する必要があります。また、大企業が参入しづらいニッチ市場を専門にしている場合、参入障壁の高さがメリットになる半面、市場規模が限定的であるリスクも伴います。
4. 2023年~2025年にかけてのWEBメディア関連M&A事例一覧
4-1. 事例リストの概要
ここでは、主に2023年から2025年にかけて公表されたWEBメディア業界関連のM&Aや事業譲渡の動きをまとめます。業種としては、
- インターネット広告事業
- 旅行代理店やEコマースとメディアの連携
- 化粧品・健康食品のECを軸とする企業の買収
- ゲーム開発や映像制作会社などIPを軸とする企業の取得
- アンバサダーマーケティングやSNSマーケティング企業の子会社化
- 地域メディアの買収・譲渡
- オウンドメディア制作関連企業の統合
など、多岐にわたります。
4-2. 個別のM&Aトピック概観
たとえば2025年には、エディア<3935>がゲームソフト開発のゼロディブを子会社化し、家庭用ゲームソフトの開発体制強化とクロスメディア展開を狙っています。同じく2025年にはアジャイルメディア・ネットワーク<6573>が個人運営の旅行代理店事業を取得したり、ウェルディッシュ<2901>が化粧品・健康食品開発企業を買収するなど、メディアやEC・旅行代理店など「他業種×メディア」を融合させる動きも見られます。
こうしたクロスボーダー的な業種連携の買収案件は、ユーザーに対して新たなサービス価値を提供するとともに、広告のみならずサブスクや旅行手数料、EC売上など複数の収益源を確保する狙いがあるといえます。
5. 事例詳細解説(2025年)
ここでは2025年中に公表された事例を抜粋し、それぞれの背景とポイントを簡単に解説します。
5-1. エディア<3935>によるゼロディブ買収
概要
- 取得目的:家庭向けゲームソフトの開発体制強化、クロスメディア展開およびIP創出
- 取得価額:未確定
- ゼロディブの売上高:1億8600万円
解説
エディアはモバイル向けコンテンツやゲーム事業を中心としていますが、近年では既存メディアやゲームIPを使ったイベント事業など多角化が目立ちます。クロスメディア展開では、原作ゲームを軸にコミック・アニメ・イベントなど幅広く展開できるIPの獲得が重要です。ゼロディブはマニア向けゲームを多数手がけ、特定のジャンルで根強いファンを抱えています。その強みをエディアの既存事業基盤と組み合わせ、さらなるIP展開を目指す考えがうかがえます。
5-2. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、個人運営旅行代理店事業「トラベルサポート空」を取得
概要
- 取得目的:旅行子会社を通じた旅行事業の成長加速
- 直近売上高:1億3800万円
- 「トラベルサポート空」が顧客のリピーターを中心に評価を獲得
解説
アジャイルメディア・ネットワークはアンバサダーマーケティングを核としていますが、旅行代理店事業などリアル×メディアの相乗効果を模索中です。個人が運営する旅行代理店事業には濃密なリピーター・ファンがおり、コミュニティを強みにビジネスを展開しています。アジャイルメディア・ネットワークが得意とするSNSやアンバサダーの手法を活用し、旅行事業の拡大を狙うのは合理的といえます。
5-3. ウェルディッシュ<2901>によるハーバーリンクスホールディングス買収
概要
- 取得目的:化粧品・健康食品事業の加速
- 売上高:8億1000万円
- ウェルディッシュはかつての石垣食品から社名変更し、新規分野への注力を進めている
解説
ウェルディッシュは旧来の食品事業から脱却し、化粧品・健康食品領域へ拡大を図っています。ハーバーリンクスホールディングスが持つECノウハウやブランド力を取り込み、売上拡大を早期に実現しようとする狙いがうかがえます。このように食品や化粧品、健康補助食品を包括するヘルスケア分野への参入は、市場拡大の余地が大きいため、近年のメディア企業や食品メーカーのM&Aでも増えています。
5-4. エイチーム<3662>、Eストアー<4304>傘下のWCAを子会社化
概要
- 取得目的:法人向けマーケティング支援の強化
- WCAの売上高:3億2700万円(営業利益はマイナス)
- 取得価額:1億5300万円
解説
エイチームは比較サイトや情報メディア事業を展開しており、法人へのマーケティング支援を強化しています。WCAが保有するWebマーケティングコンサルや広告運用のノウハウを組み合わせることで、エイチームの既存顧客向けに幅広いサービスを提供できます。M&Aによって赤字企業を取得する例は珍しくありませんが、顧客基盤や人材を含めた「将来の成長力」を重視するケースが増えています。
5-5. アクリート<4395>によるズノー子会社化
概要
- 取得目的:SMS事業から事業多様化へ
- ズノーの主力サービス:「入札王」「ジーワン調査部」など
- 取得比率:ズノー株の51%を株式交付で取得
解説
アクリートはSMS送信サービスを柱にしていましたが、多様化を図るためマーケティング活動支援分野に積極的に参入しています。ズノーは官公庁入札情報やテレビ番組アーカイブスなど独自の情報コンテンツを持ち、それを活用したメディア運営を行っています。アクリートがズノーのコンテンツを取り込み、新ビジネスを開発することで収益の柱を増やす狙いがうかがえます。株式交付を用いたM&Aは、現金負担を抑えつつ被買収企業のモチベーションを維持できるメリットがあります。
5-6. プロジェクトホールディングス<9246>、DCXforceを経営陣に譲渡
概要
- DCXforce:インターネットメディアコンサルを展開
- 譲渡先:同社社長の新宅央氏が新設するHSCOMPANY
- 譲渡価額:1億5000万円
解説
プロジェクトホールディングスは主要事業に経営資源を集中すべく、DCXforceを経営陣に譲渡しました。MBO(経営陣による買収)は、スピンアウト先として事業を継続する際にスムーズな運営移行が可能です。特にメディアコンサルなど人材依存度の高い事業では、経営陣が社内ノウハウをもっとも熟知しているため、譲渡後の運営リスクが低いとされます。
5-7. メディアファイブ<3824>、匠工房を経営陣に譲渡
概要
- 匠工房:内装工事事業
- メディアファイブはIT系人材事業やシステム開発を軸としていた
- 非中核分野の切り離しとして譲渡を決断
解説
メディアファイブはITシステム人材事業などメイン領域の強化と、内装工事など建築関連事業とのシナジーが乏しいと判断した結果、経営陣へ譲渡するという流れです。WEBメディア業界のみならず、IT企業が異業種の企業を手放す事例は少なくありません。集中と選択の一環として譲渡が行われることはよくあるケースです。
6. 事例詳細解説(2024年)
6-1. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、旅行代理店のインプレストラベルを子会社化
概要
- 取得目的:アンバサダーマーケティングと旅行商品の企画・開発を連動
- 株式80%取得(取得価額136万円)
- 残り20%はクロノス・インターナショナルが取得
解説
アンバサダーマーケティングで知られるアジャイルメディアが旅行事業にも積極的に投資を進めています。SNSや口コミを通じて旅行サービスを広める際には、顧客が実際に体験した内容(写真・感想)が効果的です。このように、ユーザーコミュニティを使った認知拡大策との親和性が高い旅行代理店事業を取り込むことで、さらなる成長を図っているといえます。
6-2. コンフィデンス・インターワークス<7374>によるDolphin譲渡
概要
- Dolphin:人材採用メディア・ソリューション事業を展開
- 直近売上高:2040万円、営業利益424万円
- 譲渡先:chestnuts(研修やセミナー企画)
解説
人材メディア系の事業は、競合が多くシステム保守やSEO施策などに手間がかかりがちです。コンフィデンス・インターワークスは経営資源を主要事業に集中させるため、規模が小さく単独拡大が難しいメディア事業を手放す判断をしました。近年はIT・ゲーム分野に特化するコンフィデンスグループが、再編を加速する中での一環といえます。
6-3. マツキヨココカラ&カンパニー<3088>、AppBrew買収
概要
- 「LIPS」運営企業AppBrewを子会社化
- 取得価額:非公表
- LIPSはコスメ情報の口コミサイトで月間数千件の投稿
解説
マツキヨココカラ&カンパニーが化粧品レビューサイトLIPSを取得した事例です。ドラッグストア×コスメ口コミメディアの協業により、実店舗でのセールスやECと連動させることで顧客体験を向上させ、販売促進やリピート購買を狙います。SNSマーケティング色が強い口コミサイトは、化粧品や美容に関するリアルな声が集まりやすくデータ活用余地が大きい点が魅力です。
6-4. KPPグループホールディングス<9274>、フランスPoitou事業取得
概要
- 印刷機やフィルム、インクの消耗品販売に関する事業を取得
- 補完性を強化する狙い
- 取得価額・取得日は非公表
解説
KPPグループは紙パルプ流通の大手ですが、デジタル印刷関連分野にも事業領域を拡げています。フランス企業とのM&Aにより欧州の販路や商品ラインナップを獲得し、グローバル化を推進。紙の需要が縮小傾向にある一方で、デジタル印刷やメディア素材の需要は特定領域で拡大するため、戦略的な海外展開といえます。
6-5. ZUU<4387>、金融機関向け送客メディア「NET MONEY」新会社を譲渡
概要
- 送客メディア事業を会社分割で新会社を設立し、その株式67%をFUNDiTに譲渡
- MACBEE Planetが3%、ZUUが30%を保有
- 譲渡価額は合計7億6900万円
解説
ZUUは金融機関向けのマッチング・送客事業を強化していましたが、結果的に金融関連検索やSEOに注力する上で、他社と提携して運営するほうが成長機会を得られると判断した形です。送客メディアは広告単価が高い反面、コンプライアンス面で厳しい管理が求められます。今回、投資事業のFUNDiTやマーケティングのMACBEE Planetとの連携でさらに事業拡大を進める狙いとみられます。
6-6. テー・オー・ダブリュー<4767>、Qeticを子会社化
概要
- オウンドメディア構築・運用支援を行うQetic(売上高2億3300万円)を買収
- 取得価額は未確定
- ソーシャルメディアやデジタル体験領域でのコンテンツ企画力強化が狙い
解説
広告代理店としてイベントやキャンペーンなどのプロデュースを行うテー・オー・ダブリューが、デジタルメディア運用力を高めるためにQeticを傘下に迎えた事例です。従来のマス広告だけでなく、SNSやネット広告、インフルエンサーとのコラボなどが広告キャンペーンの中心になりつつあります。そのなかで専門のメディア運営力や編集力を取り込む意義は大きいといえます。
6-7. WOWOW<4839>、cinraを子会社化
概要
- インターネットメディア運営のcinra(売上高9億6400万円)を買収
- 取得価額は非公表
- デジタルマーケティング成長を目指す
解説
有料放送で知られるWOWOWは、コンテンツ事業を軸に中長期的な成長を模索しており、デジタルマーケティング分野の強化が急務とされています。cinraは自社メディアを通じて若者・クリエイター層へリーチできる点が特徴です。この買収によりWOWOWコミュニケーションズなど関連子会社と協業を進め、ネット配信やイベント企画など多様な分野との連動が見込まれます。
6-8. エキサイトホールディングス<5571>、NAPBIZを買収
概要
- 漫画系インフルエンサー特化型メディア運営のNAPBIZ(売上高2億2500万円)
- 取得価額は非公表
- 良質コンテンツを拡充しメディア事業を加速
解説
エキサイトホールディングスは老舗ポータルサイト「Excite」の運営を軸に、複数のキュレーションメディアを展開しています。近年は漫画分野の需要が高まっており、インフルエンサーを絡めたPR効果も期待できます。NAPBIZは人気の漫画家やイラストレーターのインスタグラムやX(旧ツイッター)と連携し、大きなファンコミュニティを作り上げています。そのコンテンツ力を取り込み、既存メディアとの相互送客によるトラフィック拡大とマネタイズ強化が狙いといえるでしょう。
6-9. ブロードメディア<4347>によるビデオ・コミックサービス、エンタメ情報サービス譲渡
概要
- 動画配信「クランクイン!ビデオ」や電子コミック「クランクイン!コミック」をZITTOに譲渡
- エンタメ情報サイト「クランクイン!」などをローソンエンタテインメントに譲渡
- 事業ポートフォリオ見直し
解説
ブロードメディアは幅広いデジタルコンテンツサービスを運営してきましたが、収益面の改善と戦略的再編のため、主力外とされるビデオ・コミック配信やエンタメ情報サービスを相次いで譲渡しました。競争激化する動画・電子コミック業界で収益の安定化を図るには大規模投資が必要と判断し、集中と選択を行ったものとみられます。
6-10. オリコン<4800>、モバイル事業をエムティーアイ<9438>傘下企業に譲渡
概要
- oricon MEのモバイル事業を会社分割し、メディアーノが買収
- スマホ・PC向け音楽配信サイト「オリコンミュージックストア」など
- オリコンはCS(顧客満足度)調査などに経営資源を集中
解説
ランキング情報など多彩なメディアを展開するオリコンですが、モバイル音楽配信や電子書籍分野など競合が激化する領域では収益性が低迷していました。そこでエムティーアイ傘下企業へ譲渡し、得意とするCS調査やニュース配信に集中することを決定。買い手にとっては既存事業とのシナジーが得られれば譲渡事業の再生・拡大の余地が期待できます。
6-11. セーラー広告<2156>、メディア・エーシーを子会社化
概要
- 高知エリアで広告事業を展開するメディア・エーシー(売上高2億3200万円)
- セーラー広告は中国・四国エリアを中心に広告事業を拡大中
解説
セーラー広告は地域密着の広告会社として地盤を固めてきました。メディア・エーシーを買収することにより、高知県エリアでのシェアを一気に拡大し、地元企業との取引獲得を狙う動きです。地域広告は大手広告代理店の参入が比較的少ない反面、地元企業を丁寧に開拓するノウハウが必要な領域といえます。
6-12. マーチャント・バンカーズ<3121>、娯楽TVメディア・コンテンツをアートポートインベストに譲渡
概要
- キャラクターや映像作品の企画・制作などを手がける子会社
- 2022年に取得していたが、再び元親会社の傘下に戻る形
- 投資事業への集中
解説
マーチャント・バンカーズは近年、ボウリング場やホテル・ネットカフェなど幅広い事業を売却しており、その流れでメディア・コンテンツ事業も手放すことになりました。投資事業やフィンテックなどを重点領域とする一方、映像やキャラクターといった領域は比較的長期的な視点が必要であり、今回の譲渡はより効率的な資本配置という流れです。
6-13. フュートレック<2468>、メディアジャパンをイヴレスに譲渡
概要
- テレビ番組制作や企業向け映像の制作事業
- フュートレックは音声認識ソリューションなどが主力
- グループ内シナジーが見いだせず、業績も低迷
解説
フュートレックは音声技術企業として注力する領域を音声認識やAI事業に再定義した結果、映像制作子会社がグループシナジーを十分発揮できていなかったようです。映像制作というコンテンツ領域はIT企業と融合しづらいケースもあり、業績低迷をきっかけに譲渡となりました。買い手企業イヴレスが情報セキュリティーコンサルティングを行っている点はやや異色ですが、映像制作を新たな収益源と考えている可能性があります。
6-14. アクリート<4395>によるズノー・メディアソリューション買収
概要
- インターネット広告やSEO、Webサイト制作などを行うズノー・メディアソリューション
- アクリートはSMS(ショートメッセージ)事業からソリューション拡大中
- 取得価額非公表
解説
先述したズノー本体とは別途、メディアソリューションを扱う子会社を買収した動きです。アクリートは単一サービス依存からの脱却を急いでおり、広告代理やSEOソリューションなどBtoBマーケティングサービスを強化することで、一社提供できる範囲を拡大させる狙いです。
6-15. ポールトゥウィンホールディングス<3657>、DMM.comから舞台事業を取得
概要
- 「DMM STAGE」レーベルから2.5次元舞台などを買収
- ポールトゥウィングループはメディア・コンテンツ業務も手がける
- 製作委員会方式でアニメやゲームの舞台化を展開
解説
ポールトゥウィンホールディングスはデバッグ・テスト事業で知られますが、近年はグッズ販売やイベント企画などエンタメ分野も強化しています。2.5次元舞台は漫画やアニメファンを対象にした舞台公演で人気を博しており、コンテンツビジネスの一大領域に成長しつつあります。買収によりDMM.comの持つ舞台関連ノウハウをグループ内に取り込み、マルチメディア展開を狙う動きです。
6-16. GMOメディア<6180>による趣味なび買収
概要
- 教室運営支援プラットフォームを運営
- GMOメディアは「コエテコカレッジbyGMO」などオンラインスクール向けサービスを展開
- 取得価額2億700万円
解説
GMOグループとして幅広いネットサービスを展開するGMOメディアは、オンライン学習プラットフォーム「コエテコカレッジ」を自社で立ち上げています。趣味なびを買収することで、教室や講師と参加者をマッチングするデータベースや運営ノウハウを獲得し、一層のコンテンツ拡充と運営支援を図ります。今後は離職率の高い個人講師向けに、安定したマーケティングや教室経営ノウハウを提供する見通しです。
6-17. じげん<3679>、保険マンモスを子会社化
概要
- じげんはライフサービスプラットフォームの送客ビジネスを展開
- 保険マンモスは保険相談サイトを運営
- 取得価額6億6600万円
解説
じげんは就職・住まい・投資など多岐にわたる「ライフサービス」系メディアを連携し、顧客にまとめて検索や予約を提供するプラットフォームを目指しています。保険相談サービスは顧客単価が高く、既存の顧客基盤とのクロスセル効果が期待できます。こうした金融商品系メディアは厳格な広告規制があるものの、送客単価が高いため事業としての魅力は大きいといえます。
6-18. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、グローリーを買収
概要
- 絵本・玩具・屋内外遊具など幼児用教育材の製作・販売
- アンバサダーマーケティングの新たな施策開発に期待
- 取得価額2000万円
解説
保育園・幼稚園など教育現場への商品を扱う企業を買収したケースです。グローリーは地域の保育所などと深いつながりをもち、高いリピート率があるとされています。アジャイルメディア・ネットワークとしては、親子コミュニティを通じた口コミマーケティングとの親和性を考慮した買収と考えられます。
7. 事例詳細解説(~2024年中盤まで)
7-1. INCLUSIVE<7078>、「枚方つーしん」運営のmorondoを譲渡
概要
- 大阪府枚方市の地域生活情報サイト
- 競争環境の激化で業績低迷
- 地域メディアネットワーク構築からの方向転換
解説
INCLUSIVEは地域メディアを複数展開し、同社が得意とするメディアコンサルティングで事業拡大を狙っていましたが、競争や広告単価の低下が影響し、事業売却に踏み切りました。ローカル情報メディアは、一定のアクセスを確保しやすい一方、広告主の規模が限定的になるケースもあり、競合との差別化が難しい側面があります。
7-2. オーエムツーネットワーク<7614>、マイメディア買収
概要
- 販売管理や勤怠管理など業務システム開発
- かねてからグループのシステム導入・保守業務を受託
- 内製化でコスト削減を目指す
解説
小売業や流通業が自社のシステム構築ベンダーを買収して内製化を図るケースは、DXが進む近年増加傾向です。WEBメディアの運営にもシステムやアプリ開発が必須となるため、今回のように自社グループ内に開発リソースを取り込み、将来的にコストメリットやスピードアップを図る戦略は理にかなっています。
7-3. C Channel<7691>、マキシムを譲渡
概要
- 婦人アパレルブランド「神戸レタス」などのネット通販
- 売上高39億9000万円、営業利益900万円
- グループの選択と集中
解説
C Channelは美容・ファッション分野の動画メディアなどを展開していましたが、婦人アパレル販売子会社を譲渡することで経営リソースをコア事業(映像メディアやインフルエンサー関連など)に集中させる方針を打ち出しています。近年はアパレルECにおける競合が激化しており、収益確保の難しさが背景にあるとみられます。
7-4. 東宝<9602>、サイエンスSARUを子会社化
概要
- アニメーションスタジオであり、「犬王」「夜明け告げるルーのうた」などを制作
- 取得価額:非公表
- 東宝グループでアニメ事業の成長加速
解説
アニメコンテンツは国内のみならず海外でも需要が高く、大きなビジネスチャンスとなっています。映画大手の東宝がクリエイター集団のサイエンスSARUを傘下に収めることで、映画公開だけでなくメディアミックス(ゲーム、グッズ、イベントなど)を一体化して展開する可能性が高まります。このように映像大手がアニメ制作会社を買収する動きは珍しくなく、コンテンツIPを戦略的に育てる流れが進んでいます。
7-5. ピアラ<7044>、美容情報サイト「MOTEHADA」事業をFUNDiTに譲渡
概要
- SEO領域での運営負担増を理由に事業売却
- ピアラは化粧品やECマーケティング支援が主力
- 業務負担と検索アルゴリズムへの対応困難
解説
SEOメディア運営はGoogleのアルゴリズム変動など外部要因の影響を受けやすく、負担も大きいのが実情です。ピアラはメディア施策よりも自社マーケティング支援のコア領域に専念するため、同サイトを売却しています。これはEC支援企業などにありがちな事例で、SEOによる集客のリスクを回避する動きでもあります。
7-6. ビューティガレージ<3180>、美容業界専門メディアの女性モード社を子会社化
概要
- 老舗出版社女性モード社を買収
- 月刊誌「HAIRMODE」など技術本、デジタルメディアを提供
- メディアのブランド力を活かしプラットフォーム強化
解説
ビューティガレージは美容サロンの備品販売や店舗設計などを手がける企業ですが、美容関連の情報発信を強化する狙いで出版社を傘下に迎えました。美容師向け専門書に強い出版社を傘下に置くことで、美容サロン向け物販や教育研修の付加価値を高める可能性があります。メディアと専門的ノウハウを結びつけるM&Aとして好例です。
7-7. エアトリ<6191>、GROWTHを子会社化
概要
- マーケティング特化のジョブマッチングプラットフォーム
- エアトリは総合旅行予約のほか、多角的事業を展開
- 将来的にGROWTHのIPOも視野
解説
旅行予約サイト「エアトリ」で知られるエアトリは、会社名が示す旅行事業だけでなく、人材ソリューションやメディア運営、投資事業にも積極的です。マーケティング人材の需要は拡大しており、GROWTHの保有するプラットフォームを通じて企業との連携を深めることで、自社のマーケティングサービスにも活かせると期待されます。
7-8. 日本リビング保証<7320>とメディアシーク<4824>の経営統合(Solvvyへ社名変更予定)
概要
- 日本リビング保証がメディアシークを株式交換で完全子会社化
- 保証・金融・BPOサービスとSI・デジタルコンテンツ開発の融合
- 2025年1月1日付で統合、同年11月にはSolvvyへ社名変更予定
解説
住宅設備や家電保証などを手がける日本リビング保証が、システム開発や画像解析技術に強いメディアシークを取り込む例です。顧客の幅広いビジネスニーズに対応するための体制づくりとされており、フィンテックやSaaS分野へもサービスを広げています。ITによる業務最適化や新たな金融サービス創出を意識している点が特徴です。
7-9. ジーニー<6562>、ソーシャルワイヤー<3929>を子会社化
概要
- ソーシャルワイヤーが第三者割当増資
- ジーニーが49%取得し取締役の過半数派遣で連結子会社化
- PR・インフルエンサーマーケなどを強化
解説
ジーニーは広告プラットフォーム事業を主力に成長してきましたが、ニュースリリース配信やクリッピングサービスなど広報・PRにおいて強い基盤を持つソーシャルワイヤーとの連携で、広告・PR領域のシナジーを狙います。50%未満の取得であっても、取締役派遣などで実質支配力基準に該当すれば連結子会社化できる点も興味深いです。
7-10. メディア総研<9242>、アドウィルを子会社化
概要
- ブランドデザインやWebサイト制作で強み
- メディア総研の顧客・エリアと補完関係
- 取得価額3億7200万円
解説
メディア総研は、Webコンサルや代理店業務で積極的に事業拡大してきました。アドウィル買収により、ブランドデザインとWebサイト制作の顧客基盤を取り込み、既存顧客にクロスセルを狙います。地方中堅企業や製造業のWebブランディング支援に強い企業を合わせてエリア拡大を図るのは常套手段です。
7-11. 東北新社<2329>、スター・チャンネルをジャパネットブロードキャスティングに譲渡
概要
- BS放送サービス「スターチャンネル」運営
- 最近の多メディア化や配信事業の競争激化で業績低迷
- 債務超過に陥っていた
解説
東北新社は映像制作や配給事業で知られますが、BS放送の「スター・チャンネル」運営は近年のストリーミングサービス勃興などで苦戦が続きました。通販大手のジャパネットが運営するBS放送「BSJapanext」との連携で視聴者を増やし、事業再生を図る動きとみられます。既存メディアがネット配信勢との競合で赤字転落し、他企業に譲渡される例は増加傾向です。
7-12. インフォネット<4444>、ブランドデザイン買収
概要
- Webサイトのブランドマーケティング支援
- 採用やオウンドメディア構築ノウハウを獲得
- 取得価額1億6900万円
解説
インフォネットはCMS(コンテンツ管理システム)やWebサイト構築サービスを提供するIT企業として拡大してきました。ブランドデザインのようなデザイン・クリエイティブ領域を取り込むことで、総合的なWeb活用支援を強化し、競合と差別化を図る方針でしょう。
7-13. ALiNKインターネット<7077>、エンバウンドを子会社化
概要
- 「温泉むすめ」をはじめとする地域活性化コンテンツ事業
- 天気予報専門メディア「tenki.jp」を運営するALiNK
- 取得価額2億7630万円
解説
地域との結びつきが強いキャラクターIPを展開しているエンバウンドを買収することで、ALiNKインターネットは観光や地域支援のジャンルへと事業を拡張しています。気象データ×観光情報×キャラクターIPを組み合わせることで、新たな顧客獲得を狙える可能性が大です。
7-14. ラクスル<4384>、マーケティング事業のWild Sideを買収
概要
- テレビ広告やブランドマーケティングに強み
- ラクスルは運用型テレビCMサービス「ノバセル」を展開
- 取得価額は非公表
解説
印刷通販などで知られるラクスルですが、広告代理業のようなサービスも手がけています。「ノバセル」はテレビCMの効果測定を強みとするプラットフォームであり、Wild Sideのメディアバイイング機能を加えることで、より包括的な広告施策が提供可能になります。
7-15. AnyMind Group<5027>、マレーシアArche Digital買収
概要
- アジアを中心に15カ国以上でEC・メディア支援を行うAnyMind
- マレーシアEC市場の成長を見越した展開
- 取得価額約2億3400万円
解説
AnyMindは日本発のグローバルテック企業で、広告配信やECプラットフォーム支援などを広範囲に行っています。マレーシアのArche Digital買収により、急拡大が予想される現地のEC事業に足場を築く戦略がうかがえます。アジア地域ではECとソーシャルメディア連携が盛んであり、広告やインフルエンサー事業とのシナジーが見込まれます。
7-16. セーラー広告<2156>、メディア・エーシー買収
こちらはすでに6-11で触れられているため重複省略。
7-17. 日本創発グループ<7814>によるアスコム子会社化
概要
- ビジネス書や生活実用書を出版
- 既存の印刷・メディア関連事業との相乗効果
- 取得価額1億200万円
解説
日本創発グループは印刷や広告関連のグループ会社を多数抱えており、出版事業のアスコムを取り込むことで自社のメディア価値を高めています。人気の健康本やビジネス実用書などを電子書籍化し、自社の広告・販促スキームと掛け合わせて販売拡大を図ると考えられます。
7-18. バルコス<7790>、immunityを子会社化
概要
- 女性用吸水ショーツの企画・販売
- インフルエンサーなどSNSマーケティングを活用
- 取得価額1億円
解説
バルコスはバッグやファッションアイテムを取り扱ってきましたが、SNSマーケティングに強いimmunityを取り込み、EC事業のDX化を推進。女性向け商材においてはインフルエンサーの口コミやコミュニティが重要となるため、本買収によりファッション事業とのシナジーを狙う形です。
7-19. cotta<3359>、フレンバシーのVegewel取得
概要
- ベジタリアン向けレストラン情報メディア
- プラントベースフードに特化
- 消費者やレストラン、食品メーカー、自治体とも連携強化
解説
お菓子・パン作りの材料ECで知られるcottaは、健康志向やプラントベースフードへの需要が高まる潮流を捉えています。Vegewelはベジタリアン・ヴィーガン向けの情報サイトとして独自のコミュニティを形成しており、cottaが展開するEC「cotta tomorrow」などとの相互誘導やレシピ提案の拡張が期待できます。
7-20. Gunosy<6047>、SmarpriseをBrave groupに譲渡
概要
- IP(知的財産)関連事業のSmarprise
- 通販サイト「Colleize」など
- Gunosyは傘下のゲームエイトを通じて2019年に子会社化していた
解説
ニュースアプリ「グノシー」で有名なGunosyは、ゲーム攻略メディアやIPビジネスに注力してきましたが、Smarpriseの戦略と合わなくなったため譲渡を決定。Brave groupはVTuberなどバーチャルキャラクターを扱う企業であり、アニメキャラクター関連通販サイトのSmarpriseを取得してIPビジネスを拡大する意図があります。
7-21. ELEMENTS<5246>、アドメディカ買収
概要
- ヘルスケアやWeb広告事業を手がける
- 株式50.1%を6億3000万円で取得
- 新たな広告商品やWebメディアの開発
解説
ELEMENTSは複数のネット広告関連事業を展開しており、ヘルスケア事業にも積極的です。アドメディカが持つ医学・医療情報サイト「CareNet.com」などで培った広告配信・運用ノウハウを融合し、高単価の医療系マーケティングを伸ばす戦略が予想されます。
7-22. 石垣食品<2901>、メディアートを子会社化
概要
- 化粧品・健康食品の販売
- 業績低迷する石垣食品が新規事業として買収
- 取得価額1億5000万円
解説
麦茶やビーフジャーキーなど食品製造の石垣食品(現・ウェルディッシュ)が、健康食品や育毛剤などを手がけるメディアートを取得し、新たな収益源として化粧品・健康食品事業を強化。知見や開発ノウハウを活かし、再建を図る狙いです。
8. 事例詳細解説(~2023年)
ここでは比較的新しい2023年以前からの事例も簡単にまとめます。メディア業界では人材や旅行、化粧品販売、インターネット広告分野と連動したM&Aが多く見受けられます。
8-1. TSIホールディングス<3608>、READY TO FASHION子会社化
アパレル業に特化した求人メディアなどを運営するREADY TO FASHIONを取得。グループ内の人材サービスを活性化し、ファッション業界向けの採用プラットフォーム拡充を狙います。
8-2. ブロードメディア<4347>、プログラミング教育divを買収
通信制高校の運営など教育事業にも注力するブロードメディアが、プログラミング学習「テックキャンプ」で知られるdivを取得し、デジタル教育領域を強化。
8-3. AppBank<6177>、3bitterをSTPRに譲渡
AppBankはメディア事業に集中するため、イベント物販支援システム等を手がける子会社を、クリエイターサポートのSTPRに売却しました。
8-4. ノジマ<7419>、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPEJ)のアニメ衛星放送事業を取得
家電量販店を中核とするノジマが、アニメチャンネルを衛星放送事業に取り込み、メディアとしての幅を広げる。既存の「アクションチャンネル」「ミステリーチャンネル」に続くチャンネル拡充策です。
8-5. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、papaya japan完全子会社化
韓国に特化したアパレル・コスメ販売事業を運営するpapaya japanの株式を追加取得し、海外ファッションとの連携強化を狙います。
8-6. トランザクション・メディア・ネットワークス<5258>、ウェブスペース買収
POSシステムやコンビニ収納代行システム開発を行うウェブスペースを取得し、小売業向けシステム領域へ一層踏み込みます。
8-7. エヌリンクス<6578>、ジョイントの「ネットの教科書」取得
ネット回線などの情報比較サイト拡充。自社メディアとの連携を強化し、インターネットインフラ分野でのメディア収益拡大を図ります。
8-8. メディアスホールディングス<3154>、マコト医科精機など買収
医療機器販売会社を次々と買収することで地盤を拡大。医療機器の流通網を全国的に整備し、メディア宣伝や営業力強化も並行して行う方針です。
8-9. 芙蓉総合リース<8424>、「デンタルマッチ」事業を取得
歯科衛生士と歯科医院をマッチングするWebメディア事業を買収し、医療分野の新規領域へ参入。近年はリース事業者がITを活用したアセット事業に活発に取り組んでいます。
8-10. まぐまぐ<4059>、「PLAYLIFE」事業取得
投稿型のお出かけ情報メディアを運営し、既存のメルマガ配信と組み合わせる。旅行・レジャー分野のコンテンツ拡充を狙う。
8-11. 中広<2139>、フリーペーパー大手関西ぱどを子会社化
地域情報紙の編集・発行を手がけるぱどグループの再編の一環。無料情報誌の市場統合でコスト削減と営業力向上が期待されます。
8-12. サイバー・バズ<7069>、スタイル・アーキテクトを譲渡
ネットマーケティング支援事業から撤退し、ソーシャルメディアマーケティングの本業に集中。規模の小さい子会社を切り離す選択と集中例です。
8-13. ミンカブ・ジ・インフォノイド<4436>、フロムワン買収
サッカーや野球情報メディアを運営するフロムワンを買収し、スポーツメディアの領域を強化。既存のサッカー情報サイトと合わせて月間PVを増やす狙いです。
8-14. クルーズ<2138>、YES・CROOZ EC Partners・CARAFULの譲渡・買収
ファッション通販「SHOPLIST」運営に注力し、それ以外のEC運用代行やインフルエンサーマーケティング子会社などを整理。GameFiやメディア事業へリソース配分を変えています。
8-15. メディアスホールディングス<3154>、田中医科器械製作所事業取得
眼科や整形外科向け機器の取り扱い強化を狙い、地域医療を支える企業の買収を継続しています。
8-16. ベクトル<6058>、ビジコネット買収
Webメディアによる転職サービスや人材マッチングを取り込み、自社のPR事業とのシナジーを得る狙い。PR×人材メディアは需要が高い領域です。
8-17. …(その他案件省略、上記で既述の通り)
9. 海外動向や他業種参入も視野に入れたWEBメディアM&Aの展望
9-1. グローバル展開におけるキーポイント
海外の大手メディアプラットフォームとの競合に勝ち抜くため、日本企業のアジア進出や逆に欧米の大手IT企業が日本の有力WEBメディアを買収する事例も増えています。アニメや漫画IPを保有する日本企業が海外進出を加速する動きも顕著です。
9-2. 他業種(旅行・コマース・金融など)との境界領域でのM&A
旅行代理店や金融会社、製造業、ドラッグストアなどがWEBメディアと提携・買収する事例も多く見られます。ユーザー基盤を持つメディアを傘下にすることでブランド認知やマーケティング、EC展開とのシナジーを生み出す戦略です。
9-3. 知的財産やIP(知財)の活用事例
漫画やライトノベルなどの原作IPを強みにアニメ・舞台化を進める事例(東宝<9602>×サイエンスSARUやポールトゥウィンHD<3657>×DMM STAGE)が象徴的です。WEBメディア企業が有力なIPをもつコンテンツ制作企業を買収する動きは国内外で活発化しており、マルチメディア展開による収益拡大が期待されています。
9-4. 国内と海外企業の提携・買収事例
日本企業が海外スタートアップを買収する(AnyMind Group<5027>×Arche Digitalなど)かたわら、海外企業が日本のメディアを買収する例も増加しています。日本のコンテンツを海外へ流通させる流れや、日本市場への参入を強化するグローバル企業の思惑が絡み合っており、今後も増える見込みです。
10. M&A成功のための戦略・注意点
10-1. 経営統合後のPMI(Post Merger Integration)と組織文化の融合
WEBメディア業界はクリエイターやエンジニア、編集者など個人のスキルやモチベーションが事業の成否を大きく左右します。買収後に従業員が大量離職してしまうリスクを避けるため、PMI初期段階から経営方針の共有やインセンティブ設計に注力する必要があります。
10-2. ブランド資産の継承・リブランディング
M&Aによって企業名やサービス名が変更されたり、統合されるケースがありますが、ユーザーや顧客企業が離れてしまうリスクもあるため慎重な対応が求められます。特に古くから愛されてきたメディア名やロゴが変わる際には利用者への丁寧な説明と説得力のあるコンセプトが重要です。
10-3. デジタルマーケティング強化のフレームワーク
WEBメディア同士のM&Aでは、広告枠の集約やユーザーデータの蓄積が最大の強みになります。買収後はプラットフォームを統一し、広告主がアクセスしやすいシステムを整備することで収益増に直結させることができます。と同時に、ユーザーのプライバシー保護やセキュリティ強化も欠かせません。
10-4. 事業ポートフォリオ再編と選択と集中
M&Aによる拡大と同時に、不採算事業の整理や譲渡を進め、成長性の高い領域に経営資源を振り向ける手法は、特にWEBメディア業界では常套化しています。実例として、ブロードメディアやオリコンが非中核事業を譲渡したり、メディアファイブが内装工事業を売却したりなど、選択と集中を進めて収益の安定化を目指す企業が多く見られました。
11. おわりに
11-1. WEBメディア業界M&Aがもたらす今後の可能性
WEBメディアの世界は、テクノロジーの変化や消費者趣味嗜好の変化のスピードが速い一方、大きなユーザーデータベースや人気コンテンツを保有するメディア企業は、急速に収益を拡大できる可能性を秘めています。そのため、今後も「インターネット広告」「SNSマーケティング」「クロスメディア連携」「EC連動」など多様な領域でM&Aが活性化するでしょう。
11-2. 業界全体に与える影響と総括
IT企業や放送事業社、流通企業などがWEBメディアを取り込む動きは一段と広がり、業界の垣根が薄れています。ユーザーとしては、より便利で魅力的なサービスが期待できる反面、過度な寡占化によって広告コストが上昇したり、情報の多様性が損なわれるリスクにも注意が必要です。
11-3. さらなる変化を迎えるWEBメディア業界への期待
動画配信や音声SNS、メタバースやVR/ARを活用したメディアが次なる成長エンジンと目されるなか、そこでのM&Aも急増する可能性があります。今後もユーザー体験やコンテンツを主軸に、積極的な資本提携や事業統合が行われることで、多様化するニーズに対応していくことが予想されます。
以上、2023年から2025年にかけて公表された多数の事例をもとに、WEBメディア業界におけるM&Aの背景、特性、そして主要な案件の解説を行いました。WEBメディアという業態は、テクノロジー・消費動向の変化を常に察知しながら進化していくことが求められます。
M&Aはこうした変化への対応を加速する手段であり、事業ポートフォリオの柔軟な再編やグループシナジーの創出に大きく寄与します。一方で、買収後の統合や人材流出防止、広告市場や規制の変化にどう対応するかといった課題も抱えています。
今後も、さまざまな企業が自社の強みを活かすべくWEBメディア企業との連携を模索する中で、さらに多くのM&Aや事業再編が行われるでしょう。本記事が、そのような動向を理解する一助となれば幸いです。今後の業界発展と、ユーザーにとってより優れたサービスの登場に期待いたします。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。