はじめに
近年、ハウスメーカー・注文住宅業界ではM&A(企業の合併・買収)の動きが活発化しております。少子高齢化と人口減少の進行により、国内の新設住宅着工戸数は長期的に減少傾向にあります。一方で、人々のライフスタイルの多様化や省エネ・エコへの関心の高まり、高気密・高断熱といった住宅性能の向上による建築コスト・技術力の課題など、住宅業界を取り巻く環境は年々複雑かつ競争が激しくなっています。
大手ハウスメーカーや異業種からの新規参入組も含めて、市場シェアの確保や新技術の取り込み、サービス領域の拡張を狙う企業が増加しており、その結果として業界再編ともいえる動きが加速しています。特に地域の地場工務店や中堅のハウスメーカーを対象にした買収・子会社化や、事業譲渡(特定事業の売買)などのM&Aが相次いでいるのです。
本記事では、こうしたM&Aが行われる背景や狙い、メリット・デメリット、そして業界に及ぼす影響について、具体的な事例を交えながら解説いたします。提示された複数の事例は、業界内で広範囲にわたるM&Aの動向を捉える上で非常に興味深いケースが多く、それぞれに背景や意図が異なります。そのため、一つひとつの事例を丁寧に紹介しながら、総合的に考察してまいります。
第1章:ハウスメーカー・注文住宅業界の現状と課題
1-1. 少子高齢化と住宅着工戸数の減少
日本の新設住宅着工戸数は、バブル崩壊後の長期にわたる経済停滞や少子高齢化の加速、人口減少の進行などにより、大きな伸びが期待できない状況にあります。国土交通省の統計を見ると、一時的な景気刺激策による持ち直しや超低金利政策の影響で一時的に増加する年もあるものの、長期的には横ばいから緩やかに減少のトレンドが続くと見込まれています。
こうした市場の縮小が見込まれる状況下では、生き残りをかけた競争が激化しており、住宅メーカー各社はさまざまな戦略を打ち出しています。戸建住宅中心の企業、集合住宅(マンション)やリフォーム・リノベーションを得意とする企業、さらには異業種から参入し「住宅関連の総合サービス」を掲げる企業も増えています。
1-2. 住宅性能の高度化と建築費高騰
住宅の高性能化の潮流としては、高気密・高断熱や耐震性の強化、太陽光発電などの省エネ設備の導入、断熱材や新工法の開発などが挙げられます。顧客のニーズが多様化・高度化する一方、建築費は人件費や建材費の高騰などにより高止まりしており、コスト管理が難しくなっています。
また、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及やスマートホーム化など、住宅そのものの付加価値を高める技術が急速に広がっています。ハウスメーカー各社はこれらのトレンドに対応しつつ、持続的な成長と高い収益性を確保する必要があり、そのための投資を継続して行わねばなりません。
1-3. 事業の多角化・サービスのワンストップ化
新築住宅市場だけではなく、リフォーム・リノベーション市場や不動産仲介、さらに太陽光発電・蓄電池などのエネルギー関連サービス、家電や家具などとの融合ビジネスにシフトする動きも見られます。こうした「住まいに関わるトータルソリューション」を提供することにより、顧客との接点を広げ、継続的な収益機会を得ようとする戦略が注目されています。
そのため、既に顧客基盤を持つ企業や高い技術力・地域密着度を誇る工務店などを傘下に収めるM&Aが急増しています。次章以降では実際の具体例をもとに、どういった理由でM&Aが行われ、どんなシナジー効果が期待されているのかを探っていきます。
第2章:ハウスメーカー・注文住宅業界におけるM&A事例の概要
ここでは、提示いただいた主なM&A事例を大きく整理しながら、その特徴や業界的なインパクトについてご紹介いたします。多くの事例で見られるキーワードや背景には、次のようなものが挙げられます。
- 地域拡大・エリア戦略
・既存の営業エリア外への進出、販売網の拡充
・顧客層の拡大や、フランチャイズ加盟店との相乗効果を狙う - 事業の多角化・総合化
・注文住宅だけでなく、分譲住宅、不動産仲介、リフォームなどワンストップサービス化
・不動産ソリューションビジネス全般への展開 - 後継者問題・事業継承
・経営者の高齢化や後継者不在によりM&Aを活用 - 選択と集中
・大手企業がコア事業に経営資源を集中し、周辺事業を売却
・異業種企業が住宅事業に新規参入するケース - 成長戦略としてのM&A
・業界縮小の中で、シェア確保やノウハウ獲得のために積極的に買収する
2-1. ヒノキヤグループ(桧家ホールディングス)周辺のM&A
ヒノキヤグループ<1413>(旧 桧家ホールディングス)は、注文住宅を中心とする企業買収を積極的に行ってきました。以下はその一部事例です。
- 戸建分譲会社の石塚建設工業や住宅建設の子会社化(2008年)
桧家住宅が戸建分譲と不動産売買の2社を買収し、注文住宅特化から総合的な住宅事業への展開を目指しました。後継者不在の企業からの譲渡提案を受け、買収により土地取得や販売、住み替え仲介まで網羅する体制を構築したのが特徴です。 - 不動産売買の池田住販子会社化(2011年)
桧家ホールディングス(当時)は分譲住宅事業を強化するため、千葉県を地盤とする池田住販を傘下に収めました。注文住宅と分譲住宅の両輪を育てる方針と、エリア拡大戦略が伺えます。 - 注文住宅の建築請負会社三栄ハウスの子会社化(2011年)
神奈川県に未進出だった桧家ホールディングスが、同地域で40年以上実績のある三栄ハウスを取り込み、注文住宅事業を神奈川県に拡大しました。地場企業を買収することで地域密着型のノウハウや営業基盤を素早く獲得できるメリットがありました。 - 静岡のハウジーホーム子会社化(2018年)
自社のフランチャイズ加盟企業を買収する形で、東海地区への本格進出を図りました。FC加盟先とのネットワークと不動産情報を共有することで一気に事業拡大を目指す典型的な戦略です。 - 北都ハウス工業(新潟)子会社化(2013年)
信越地方へのエリア拡大。注文住宅事業や不動産事業を展開する桧家ホールディングスが、ローコスト住宅「パパまる」ブランドで支持を得る北都ハウス工業を買収し、新規顧客層を取り込みました。 - 鉄筋コンクリート系プレハブ住宅のレスコハウス子会社化(2016年)
耐震・耐久性に優れた住宅を都心部に販売するレスコハウスを取り込むことで、郊外中心の桧家ホールディングスが都市部における受注拡大と不動産ソリューションビジネスを強化。 - ヤマダ電機(現ヤマダHD)によるヒノキヤグループTOB(2020年)
こうした一連のM&Aを経て成長してきたヒノキヤグループでしたが、ヤマダ電機の傘下に入ることでさらなるシナジーを狙いました。ヤマダ電機は「暮らしまるごと」のコンセプトで家電からリフォーム、住宅までを一貫して提供する戦略を打ち出し、ヒノキヤの施工力やブランド力を活用する方針です。ヒノキヤ側も家電量販店大手の集客力や資本力を得ることで、企業間競争が激しい住宅業界での生き残りを図っています。
2-2. ヤマダ電機(ヤマダHD)による住宅事業強化
ヤマダ電機<9831>(2020年10月にヤマダホールディングスへ社名変更)は、家電量販店としての地位を確立しつつ、「家電住まいる館」という新業態で住宅関連事業を強化してきました。これまでにも複数のM&A事例があり、とりわけ目立つのが以下です。
- エス・バイ・エル(後のヤマダホームズ)の買収(2011年)
中堅住宅メーカーのエス・バイ・エルを買収し、住宅事業へ本格参入しました。独自工法を持つハウスメーカーを得ることで、家電販売と住まい関連商品のシナジーを生み出す戦略です。 - ハウステックの買収(2012年)
キッチン・バスなどの住宅設備メーカーを取り込むことで、住設分野への商品展開と自社グループ内での資材調達の効率化を図りました。 - ナカヤマ(住宅リフォーム会社)の買収(2017年)
リフォーム事業を拡大し、新築だけでなくリフォーム・リノベーション分野にも深く入り込みました。その後、グループ内で吸収合併されています。 - 大塚家具の子会社化(2019年末)
家具やインテリアの分野へも領域を拡大。「住まいに必要なものをトータルで提案する」とのコンセプトをさらに強化しました。 - レオハウスの買収(2020年)
親会社ナック<9788>のもとで業績が低迷していたレオハウスをわずか4億8900万円で完全子会社化しました。全国展開に加えて低価格帯の商品ラインナップに強みを持つレオハウスを取り込み、「家電住まいる館」での住宅相談カウンターなど、実店舗・リアル拠点を活かした顧客接点を拡充しています。
こうした戦略は、家電量販店として全国的な知名度・集客力を持つヤマダHDならではの取り組みと言えます。少子高齢化・人口減で右肩上がりが見込みづらい家電小売事業を補うため、住宅やリフォーム領域での継続的な収益を確保しようとしているのです。
2-3. RIZAPグループ(旧 健康コーポレーション)によるタツミプランニングの買収
RIZAPグループ<2928>は、ダイエットジム「RIZAP」を中心に健康・美容関連事業を展開してきましたが、住宅事業へも参入しました。
- タツミプランニングの買収(2016年)
神奈川・横浜エリアで年間400~500棟もの注文住宅やリフォームを手がけるタツミプランニングを25億4000万円で子会社化。高いデザイン力が評価されており、グッドデザイン賞を複数回受賞している企業です。RIZAPグループはこれにより「住の分野」への展開を強化し、同時にインテリア雑貨を取り扱うグループ会社との相乗効果を狙いました。 - タツミプランニングの再譲渡(2019年)
しかしながら、後述する高松コンストラクショングループ<1762>への売却が決まりました(RIZAP時代は社名が健康コーポレーション→RIZAPグループ)。RIZAPグループとしては住宅分野の収益化が進まず、新規事業としての「RIZAPブランド住宅」展開を模索したものの、十分な成果が上がらなかった背景が考えられます。
結果として、タツミプランニングは同グループを離脱し、高松コンストラクショングループへ渡りました。これは「異業種からの参入が必ず成功するわけではない」「グループ内での方向性が変われば、M&Aした企業の再売却もありうる」という一例と言えます。
2-4. ナック<9788>グループとその売却事例
ナックは、「レオハウス」「国木ハウス」「ジェイウッド」「秀和住研」など、複数の住宅会社を買収しながら多角経営を行ってきました。一方で、業績が低迷した企業については売却も実施しています。
- レオハウスの売却(2020年)
前述のとおり、レオハウスはヤマダ電機に4億8900万円で売却されました。ナック側は宅配水(クリクラ)やダスキン代理店、住宅などの多角化を進めていましたが、受注不振が続いたレオハウスの立て直しは難しいと判断したようです。 - 国木ハウス買収(2017年)
北海道の厳しい気候に対応する注文住宅のノウハウ獲得を目的に、日本製紙傘下だった国木ハウスを買収しました。寒冷地工法など技術的特徴のある企業を取り込むことで、ナックの住宅事業の幅を広げる狙いがありました。 - ジェイウッド子会社化(2013年)
岩手県を中心に、天然無垢材などを活かした独自ブランドを展開するジェイウッドを買収。東北エリアへの足がかりを得るとともに、自然素材志向の若いファミリー層を取り込むことで、新たな収益源として期待した事例です。 - 秀和住研子会社化(2024年)
青森県・秋田県を地盤とし、フランチャイズ「ACE HOME」に加盟する秀和住研を子会社化。ナックハウスパートナーを通じたFC戦略の強化を目的としており、住宅事業の地方拠点を増やすことで全国的な収益の安定化を図る戦略がみられます。
このように、ナックのケースは「広いエリアに複数の住宅ブランドを持ち、総合的に収益を上げる試み」と「業績が低迷した場合の売却」の両面が確認できます。いかに買収後、グループ内でのシナジーを発揮し、継続して成長させられるかが勝敗を分けると言えます。
2-5. 地方の地場工務店や中堅ビルダーの買収・売却事例
上場企業が地方の老舗工務店や中堅ビルダーを傘下に収める動きは多く見られます。逆に大手・上場企業が収益性の低い子会社や事業を地方企業・経営陣に譲渡するケースもあります。以下、いくつかの事例をピックアップします。
- 安江工務店<1439>による京都のガーデン子会社化(2024年)
リフォーム事業を主力とする安江工務店が、新築注文住宅設計・施工の地場工務店ガーデンを買収。地域密着型の工務店ネットワークを全国展開の一環として取り込む例です。 - ロゴスホールディングス<205A>による新潟の坂井建設子会社化(2024年)
新潟県長岡市で「ディテールホーム」ブランドを展開する坂井建設を31億1900万円と高額で買収。新潟県シェア強化と注文住宅事業の拡充が目的です。地域大手の買収により、早期に知名度と施工ネットワークを得る狙いがあります。 - ヤマイチ・ユニハイムエステート<2984>による大成住宅の子会社化(2024年)
近畿圏地盤のヤマイチが、埼玉県を地盤とする大成住宅を100%子会社化。首都圏進出の足がかりを得る代表的な事例と言えます。大成住宅も後継者問題を抱えており、実質的に「株式追加取得」で完全子会社化となりました。 - 三栄建築設計<3228>による民事再生中ウィズ・ワンからの注文住宅・リフォーム事業取得(2019年)
民事再生中の企業から事業だけを切り出し、自社のリソースを注入して立て直す手法です。住宅事業にとどまらず、経営破綻企業を再生する際の手法として最近は広く使われています。 - メルディアDC<1739>による建都住宅販売子会社化(2022年)
京都での不動産仲介・戸建分譲事業を行う建都住宅販売を取得し、戸建分譲の強化を図る。単なる注文住宅枠に留まらず、仲介~分譲までの一貫体制を目指す戦略が見えます。 - ミライノベート<3528>によるササキハウス譲渡(2022年)
子会社の注文住宅会社を役職員が設立した新会社に売却。従業員が事業承継する形でのMBO(マネジメント・バイアウト)に近いケースです。創業時の社風や迅速な意思決定を取り戻したいとの思いで株式譲渡が行われた、という興味深い事例です。 - 高松コンストラクショングループ<1762>によるタツミプランニング買収(2019年)
RIZAPグループからタツミプランニングが高松コンストラクショングループに再譲渡されました。関東での戸建事業拡充を狙う高松コンストラクショングループと、RIZAPグループにとっての構造改革の一環という両社の思惑が合致した結果です。 - 高見澤<5283>によるセイブ子会社化(2016年)
長野県で土地開発・住宅販売を行うセイブの株式を99.5%取得。プレカット工場も有するセイブのノウハウを取り込むことで、地域に根差した不動産関連事業を強化する狙いがありました。 - ワールドホールディングス<2429>による豊栄建設買収(2017年)とエンデバー・ユナイテッドへの再譲渡(2020年)
札幌市の戸建て注文住宅でトップクラスの認知度を持つ豊栄建設を買収したものの、最終的にはファンドに譲渡。ワールドHDは人材ビジネスと不動産ビジネスを柱としており、買収時にはリフォーム・リノベーション等への展開シナジーを見込んでいました。しかし、さらなる事業成長のため強力なパートナーを得るべきと判断し、M&Aの再度の出口としてファンドへの売却を決めたとしています。 - ニチハ<7943>による松本建工のFPパネル・注文住宅事業取得(2009年)
外装材メーカーから周辺事業へステップアップする戦略の一環。高断熱工法「FP工法」を開発した松本建工のノウハウを取り込むことで、断熱資材の開発や高性能住宅分野での事業展開を図る事例です。 - ハイアス・アンド・カンパニー<6192>による「R+house」ショールーム取得(2018年)
加盟店ネットワークの充実を目的に、住宅会社ロジックのショールームを取得。「R+house」の高性能注文住宅を全国に広める拠点拡充を狙いました。 - サンワカンパニー<3187>によるベストブライト子会社化(2022年)
キッチンや洗面、建具といった建材通販を主力とするサンワカンパニーが、建売・注文住宅事業を行うベストブライトを買収。自社の建材供給先を拡充するとともに、建売・注文住宅を取り扱うことでユーザーへの提案領域を広げる事例です。 - ケイアイスター不動産<3465>とフレスコ・プレスト・ホーム事例
ケイアイスターはコンパクト戸建分譲事業を中心に成長してきましたが、地域密着型の住宅会社や分譲会社を取り込み、シェア拡大を図っています。フレスコを子会社化した後、方針転換で持ち分を譲渡するなど、戦略の変更も見られます。プレスト・ホームを買収して注文住宅の受注拡大を狙うなど、地域ごとに事業方針を変えつつ統合を進める特徴があります。 - サーラコーポレーション<2734>による宮下工務店子会社化(2019年)
愛知・静岡・三重を地盤とするサーラ住宅のグループが、浜松市で地元に根強い工務店を取り込むことで、エリア内のさらなるシェア拡大を狙った事例です。 - グランディーズ<3261>によるレオパレス21傘下のもりぞう買収(2022年)
中高級志向の注文住宅ノウハウを買収し、低価格帯建売との相乗効果を期待する例。売却元のレオパレス21は経営再建中であり、事業選択と集中により手放すという側面もありました。 - エムジーホーム<8891>によるTAKI HOUSE子会社化(2020年)
東海地方地盤のマンションデベロッパーが、神奈川・東京で分譲する住宅会社を買収し、事業地域を関東まで拡大。自社でのマンション・テナントビルなど開発と組み合わせて、総合不動産事業を展開しようという狙いがうかがえます。 - INCLUSIVE<7078>による注文住宅マッチングサイト「SuMiKa」事業取得(2020年)
メディア事業を手がけるINCLUSIVEが、建築家・設計事務所とユーザーをつなぐマッチングサイトを取得。広告収益やコンサルティング収益を目指し、不動産テック分野への進出を図る事例です。 - タマホーム関連の株式集約(2015年)
TAMAXがTOBを行い、創業家保有株式を集約する例。これは売却や買収というより、創業家の支配力強化が目的ですが、上場企業でもこうした動きは起こり得ることを示しています。 - サンセイランディック<3277>によるOne’s Lifeホーム譲渡(2022年)
サンセイランディックの全額出資子会社だった注文住宅・リフォーム会社を住宅会社の相川スリーエフに売却。想定していたシナジーが発揮できず、貸付債権も放棄しての手放しになっています。 - Lib Work<1431>による幸の国木材工業子会社化(2023年)
熊本・福岡を地盤とする注文住宅会社Lib Workが、製材加工会社を9億6400万円で買収。木材の安定調達を狙い、自社の建築資材サプライチェーンを強化する事例です。
第3章:ハウスメーカー・注文住宅業界M&Aの背景と狙い
上記のようにさまざまな買収・売却が行われていますが、それらの背景や狙いは概ね次のポイントに集約されます。
3-1. 地域拡大・営業エリアの拡張
注文住宅は展示場やショールーム、営業担当の訪問など、地域の足腰が重要な事業です。そのため、新規エリアへの進出には莫大なコスト・時間がかかります。そこで既に地盤を持つ地場工務店や中堅ビルダーを買収することで、一気にその地域での実績や人脈、ブランド力を取り込むことが可能になります。
たとえば、ヒノキヤグループが神奈川・新潟・静岡に進出した事例、ヤマイチが埼玉の大成住宅を買収した事例など、ほとんどのM&Aでこうした地域拡大が主目的となっています。
3-2. 事業領域の多角化・ワンストップサービス
新築だけでなく、分譲住宅、不動産仲介、リフォーム・リノベーション、賃貸管理、さらには家具・家電まで含めた「トータルソリューション」の提供が一大潮流です。住宅市場が頭打ちになるなかで、新築受注だけに頼らないビジネスモデルを作り上げることが求められています。
不動産仲介会社、分譲専門企業、リフォーム会社などを統合することで、土地の仕入れから、注文住宅・分譲住宅の販売、アフターサービス、リフォーム、さらにはインテリア販売など多角的な収益を得られる体制をめざすのです。
3-3. 後継者問題・事業継承ニーズ
地場の老舗工務店は経営者の高齢化・後継者不在に直面し、大手や中堅資本へM&Aという形で事業継続を図る例が少なくありません。上場企業や地域の有力企業に買収されることで財務的な安定と後継者不在問題を解決し、従業員の雇用も守ることができます。石塚建設工業や住宅建設(桧家住宅に譲渡)、ササキハウス(ミライノベートから役職員設立の会社へ)など、典型的な後継者問題を背景とした事例があります。
3-4. コア事業への集中とノンコア事業の売却
大手企業が本業とシナジーが薄い子会社を手放す例も多く見られます。夢真ホールディングス<2362>が保育施設運営の我喜大笑や高級注文住宅施工の岩本組を売却したケースは、建設技術者派遣の中核事業に集中する方針が背景にありました。
また、レオパレス21が子会社もりぞうを手放したり、RIZAPグループがタツミプランニングを売却したりといった事例も、「当初の期待シナジーが十分に得られなかった」「キャッシュ確保や財務改善を優先した」などの理由からノンコア化した事業を切り離す動きといえます。
第4章:M&Aによるメリットとリスク
4-1. M&Aのメリット
- 迅速な市場拡大
新規エリア進出時に自力で拠点を構築するよりも、地場企業を買収する方が圧倒的に早くノウハウや顧客基盤を獲得できます。 - シナジー効果
不動産仲介やリフォーム、家電販売など他事業との連携により、顧客一人当たりの売上を高められる可能性があります。ブランド力を共有したり、物流・資材調達を統合したりしてコスト削減も期待できます。 - 後継者不在問題の解消
買収される側にとっては、経営者の高齢化で事業継承が困難な場合でも企業を存続させ、従業員の雇用を守ることが可能です。 - 経営リソースの集中
売却する側にとっても、コア事業へ資本や人的リソースを集中できる点は大きなメリットです。
4-2. M&Aのリスク・デメリット
- 文化・組織統合の難しさ
地場工務店と大手ハウスメーカーでは企業文化や社内体制が大きく異なります。統合後に従業員のモチベーションやブランドイメージが損なわれるリスクがあります。 - 買収金額と業績の不確実性
建築業は景気変動を受けやすく、業績予想が困難な場合もあります。過剰に高額な買収を行うと、想定したリターンを得られずのれんの減損リスクが発生します。 - シナジーが想定通りに発揮されない
RIZAPグループによるタツミプランニング買収後の売却のように、異業種間では経営ノウハウの共有が難しく、期待した相乗効果が得られないケースもあります。 - ブランド毀損による顧客離れ
地域密着で支持を得ていた企業が大手に買収されると、「地元の会社でなくなる」と見なされることもあり、地元ファンや顧客が離れてしまうリスクがあります。
第5章:M&A後の統合と事業戦略
5-1. 統合プロセスの重要性
買収自体はスタートラインに過ぎません。組織の統合やブランド・営業手法の整理、業務プロセスの標準化・効率化など、実務的なプロセスを丁寧に行わないと「シナジーの創出」は難しいのが実情です。特に地場企業と大手との統合では、従業員の不安をいかに取り除き、企業文化の違いを乗り越えるかが大きな課題となります。
5-2. 売り手企業との関係強化・ノウハウ移転
地域に根づいた地場工務店の場合、ベテラン社員や経営者の関係性、地域の設計事務所や金融機関とのつながりなどが大きな価値を持ちます。そこで、買収後すぐに既存経営者や従業員が退職してしまうと価値が消えてしまう恐れがあります。双方がWIN-WINの関係を築き、ノウハウ移転と人材定着を円滑に進めるための施策が重要です。
5-3. 事業の拡大戦略とブランド確立
買収した企業のブランドを維持するのか、それとも新ブランドに統合するのかは重要な意思決定ポイントです。注文住宅はブランディングが大きく売上を左右するため、地域で根付いたブランドを活かす場合もあれば、大手グループのネームバリューに切り替えることを選択する場合もあります。事例でも「ハウジーホームズを桧家のブランドで展開」「大成住宅をヤマイチのブランドに統合」など、さまざまなパターンが見られます。
第6章:今後の展望とM&A戦略
6-1. 住宅業界の今後の動向
- 新設住宅着工戸数の微減傾向
少子高齢化、人口減少のトレンドは続きます。ただし、都市部や人気地域では依然として住宅需要がある一方、地方の空き家増加や中古住宅市場の拡大が見込まれます。 - リフォーム・リノベーション需要の高まり
既存住宅のリフォームやマンションリノベーション、二世帯住宅化、断熱改修などに注目が集まっています。新築戸数が減る分、中古住宅を活用したり、性能向上リフォームが増えたりすることが想定され、関連企業の買収が増える可能性があります。 - 不動産テックの台頭
メディアによるマッチングやオンライン相談、VR内覧などテクノロジーを活用する動きが活発化しています。サイト運営企業やITスタートアップを取り込むM&Aも増えるでしょう。 - 大手量販店・商社など異業種参入の拡大
ヤマダ電機やイオン、パナソニックなど、異業種から住まいのトータルソリューションを提供する企業が増えています。大手小売業が地元工務店・ビルダーを傘下に収める動きは今後も続く可能性があります。
6-2. M&A戦略の方向性
- 地域シェアの拡大
住宅需要のある地域への進出を加速させるため、既存の有力地場企業を買収しマーケットシェアを獲得する動きは続くでしょう。 - リフォーム・リノベーションや不動産仲介企業との連携
新築一辺倒のビジネスモデルはリスクが大きいため、中古住宅やリフォーム分野の強化、買い替えや住み替えの仲介事業への進出も戦略の要となります。 - IT・メディア企業の取り込み
デジタルマーケティングやオンライン接客の強化を狙い、注文住宅マッチングサイトやリフォームプラットフォーム運営企業を傘下に収める可能性が高まります。 - 事業承継型M&Aの増加
地方の工務店やビルダーで経営者が高齢化し、後継者不在の企業は増加傾向にあります。事業承継の手段としてのM&A需要が今後さらに高まると予測されます。 - 建材・資材のサプライチェーン確保
ウッドショックなど資材価格の不安定さが課題となる中、製材会社・プレカット工場を買収して川上部門の安定供給を図る動き(Lib Workの事例など)も注目されます。
第7章:まとめ
本記事では、ハウスメーカー・注文住宅業界における数多くのM&A事例を参考に、その背景や目的、メリット・リスク、そして今後の展望について解説してまいりました。人口減少や住宅着工戸数の微減傾向が続く中、業界内での競争は今後さらに激化するとみられます。
他業種との連携や分譲・リノベーション・不動産仲介などへの多角化、地域拠点の拡充、事業承継問題の解決、ノンコア事業の売却といったさまざまな要因が複合的に絡み合い、M&Aは業界の再編を推し進める原動力となっています。事例を眺めると、買収側が期待するシナジー効果が十分に発揮されず、数年後に再び売却されるケースも珍しくありません。M&Aで大切なのは、買収時の戦略設計だけでなく、その後の統合プロセスやブランド・文化の融合、人的リソースの確保・モチベーション維持など、地道な組織マネジメントです。
今後、技術革新や消費者ニーズの変化(省エネ・スマートホーム化など)も加速する中で、ハウスメーカー・注文住宅企業は柔軟な事業展開が求められます。既存の枠組みにとどまらず、家電や通信、金融・保険、住宅設備といった関連業種とのアライアンスやM&Aも増えることでしょう。さらに、WebやSNSでの情報発信が主流となり、オンライン完結型の住宅相談やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が一段と進むと考えられます。
一方で、地域密着工務店の強みである細やかな顧客対応や職人気質が軽視されると、ブランド力が毀損したり、地域顧客の支持を失ってしまうリスクもあるため、大手・中堅が地元企業を買収する際は、現場との共創体制をどのように築くかがポイントとなるでしょう。特に注文住宅は顧客の要望に合わせたオーダーメイドの商品性が強く、標準化や大量生産が難しい部分があります。M&A後も各地域で職人の確保や施工品質の維持に注力しないと、せっかくの買収効果を十分に活かせない可能性があります。
また、経営者の高齢化という社会問題を抱える日本では、地方の中小工務店で後継者が見つからないケースが増えており、こうした「事業承継型M&A」も今後さらに拡大が見込まれます。企業側も早めに事業継続のシナリオを描き、M&Aの準備や情報開示を行うことが求められます。買収を検討する大手・中堅としては、優良な地場企業を獲得する好機となる一方、買収後の活用ノウハウを持たなければ「宝の持ち腐れ」となってしまいかねない点は要注意です。
最終的に、こうした多様なM&Aが進むことにより、住宅業界のプレーヤーはさらに淘汰・再編されていくと考えられます。大手企業グループが全国規模で広い顧客層を取り込む一方で、得意分野や地域密着で勝負する独立系の企業も生き残りを図る構図がしばらく続くでしょう。消費者にとっては、ブランド力のある企業による高品質な住宅提供を受けられる半面、地域固有の工務店文化が失われるリスクもあります。しかし、新旧がうまく融合し、これまでにないサービスや高性能住宅が生まれるチャンスでもあります。
M&Aが住宅事業の将来像をどのように変えていくのかは、今後の市場動向や企業戦略によって左右されますが、ひとつ明確なのは、「住」に関するニーズは景気に左右される部分があるものの、生活に欠かせない基盤的なものであるという事実です。より良い住まいをより多くの消費者へ届けるためにも、買収する企業・される企業双方が建設的な統合プロセスを進め、地域社会や雇用、顧客満足に配慮しながら成長を目指すことが求められるといえるでしょう。
これらを踏まえ、本記事でご紹介した多種多様なM&A事例を通じて、業界全体が「選択と集中」「事業承継」「総合化」といったキーワードを軸に、激変する住宅市場に対応し続けていることがお分かりいただけたかと思います。引き続き、住宅関連業界の動向を注視しながら、M&Aがもたらす新たな変革とイノベーションに期待したいところです。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。