目次
  1. 1. はじめに:健康食品業界の市場動向とM&Aの必要性
    1. 1-1. 健康食品業界の意義と拡大
    2. 1-2. なぜM&Aが必要か
  2. 2. 健康食品業界M&Aの全体像
    1. 2-1. 健康食品企業と周辺業界との境界
    2. 2-2. M&A戦略の特徴と注目ポイント
  3. 3. 主要M&A事例の解説
    1. 3-1. 大塚ホールディングス<4578>による米ボナファイドヘルス買収
    2. 3-2. 大正製薬ホールディングス<4581>のMBOによる非公開化
    3. 3-3. 扶桑化学工業<4368>によるエックスワン取得
    4. 3-4. 石垣食品<2901>によるメディアート子会社化
    5. 3-5. 売れるネット広告社<9235>の一連のM&A
    6. 3-6. ユーグレナ<2931>の積極的な買収(キューサイなど)
    7. 3-7. ファンケル<4921>関連(キリンHD<2503>によるTOB ほか)
    8. 3-8. オリックス<8591>によるDHC子会社化
    9. 3-9. その他の健康食品に関連するM&A事例
  4. 4. 健康食品業界M&Aの目的と効果
    1. 4-1. 事業領域拡大・ポートフォリオ強化
    2. 4-2. ブランド力・研究開発力の獲得
    3. 4-3. 販路拡大・海外進出
    4. 4-4. 経営再建・シナジー創出
  5. 5. M&Aにおける留意点や課題
    1. 5-1. 規制・法令への対応(景品表示法、薬機法など)
    2. 5-2. 企業文化・事業方針の統合
    3. 5-3. ポストM&Aの戦略実行
    4. 5-4. ターゲット選定・買収価額の妥当性判断
  6. 6. 今後の健康食品業界M&A展望
    1. 6-1. 市場規模と技術革新の見通し
    2. 6-2. コロナ禍以降の健康意識・ライフスタイル変化
    3. 6-3. ESGやSDGsへの対応とヘルスケア事業の深化
  7. 7. まとめ:健康食品業界M&Aがもたらす未来

1. はじめに:健康食品業界の市場動向とM&Aの必要性

1-1. 健康食品業界の意義と拡大

健康食品とは、サプリメントや特定保健用食品、機能性表示食品など、生活者の健康維持・増進を目的にして製造・販売される商品を指します。昨今の日本では、高齢化社会が進み、多くの消費者が生活習慣病やロコモティブシンドローム、さらには美容面にも強い関心を抱くようになりました。そうした背景から、健康食品やサプリメントはもはや一般的な食品に近い存在として受け入れられ、市場規模は拡大基調にあります。

また、新型コロナウイルス感染症が顕在化して以降、健康意識がさらに高まったことで、感染対策としての免疫力アップや自宅ケア需要の増加など、健康食品を取り巻く環境は追い風を受けています。一方で、業界内の競合激化や研究開発投資の必要性の増大から、企業規模の拡大や安定的な収益確保が課題となってきています。

1-2. なぜM&Aが必要か

このような環境下、企業は市場シェアをより強固にし、ブランド力や研究開発力を高めるためにM&Aを有効な戦略として選択するケースが増えています。特に健康食品業界は、医薬品・化粧品など隣接するヘルスケア業界との境界が曖昧であり、製薬企業や化粧品メーカーなど大手企業からの買収ニーズも高まっています。また、海外への輸出や拠点展開を目指す場合に、現地企業との提携・買収が最短ルートになることも少なくありません。

本記事では後述するように、大塚ホールディングスやキリンホールディングスなど、大手が健康食品企業を傘下に収める動きが加速しています。一方、中小企業においては財務基盤の安定化や事業承継の手段としてM&Aが活用されるケースも多く、両極で買収・売却のニーズが重なり合い、さらに活発化しているといえます。


2. 健康食品業界M&Aの全体像

2-1. 健康食品企業と周辺業界との境界

健康食品業界の特色の一つは、医薬品・化粧品・飲料・食品など多岐にわたる事業領域との境界が曖昧である点です。製薬会社がサプリメントを開発したり、清涼飲料水メーカーが特定保健用食品を発売したり、美容関連企業が機能性のあるサプリメントを販売したりと、多様な企業が健康食品市場に参入しています。そのため、M&Aの対象は純粋な健康食品専業企業にとどまらず、「健康・美容・食品領域を手がける企業全般」が射程に入ることが多いです。

さらに、IT業界からの参入やスタートアップ企業との提携も活発で、特にD2C(DtoC)型ECビジネスを得意とする企業が健康食品に注力するケースも増えています。ブランド力、顧客基盤、ECノウハウなど、M&Aを通じて獲得したい経営資源は多岐にわたり、企業の目的に応じてM&Aの方向性が変わります。

2-2. M&A戦略の特徴と注目ポイント

健康食品業界におけるM&Aの特徴としては、大きく以下のポイントが挙げられます。

  1. ブランドや研究開発力の獲得
    消費者からの信頼を得やすいブランドや、機能性表示を支える研究開発力を持つ企業の買収は、事業拡大に大きく寄与します。
  2. 既存販路・新規販路の強化
    通信販売やドラッグストア販路など、健康食品の販売チャンネルは多岐にわたります。既存の企業に販路をまとめて取り込めるM&Aは、時間やコストを大きく削減できる利点があります。
  3. 海外展開への足がかり
    欧米やアジア圏への輸出拡大を狙い、海外企業を買収する動きも顕著です。また、逆に外資系企業が日本国内の健康食品市場に参入するために日系企業を買収する事例も散見されます。
  4. バリュエーションの難しさ
    健康食品は「将来の需要」「ブランド力」「研究開発成果」など、定量化が難しい評価ポイントが多く、買収価格の算定が一般的な製造業以上に複雑になる場合があります。

3. 主要M&A事例の解説

ここでは、実際に近年発表された健康食品分野または周辺領域のM&A事例を取り上げ、その背景や意義、狙いなどを解説します。いずれも報道を通じて明らかになった情報を中心にまとめていますが、いずれの事例も「なぜこのタイミングでM&Aをしたのか」「どのようなシナジーを期待しているか」といった点を把握するうえで大いに参考になるものといえます。


3-1. 大塚ホールディングス<4578>による米ボナファイドヘルス買収

発表日:2023年12月1日
大塚ホールディングスは、米国子会社ファーマバイト(カリフォルニア州)を通じて、女性向け健康食品を製造・販売する米国ボナファイドヘルス(ニューヨーク州)を4億2500万ドル(約627億円)で買収すると発表しました。ファーマバイトは「ネイチャーメイド」ブランドを中心に健康食品事業を展開しており、ボナファイドヘルスの傘下入りにより女性向け製品群を拡充する狙いがあります。

ポイント

  • 大塚HDは、これまで医薬品・ニュートラシューティカルズ(栄養補助食品)領域でグローバルに事業を拡大してきましたが、特に米国では「ネイチャーメイド」のブランド力が大きな武器です。
  • 女性向け健康食品市場は、女性特有の更年期サポートや美容サプリなど豊富なニーズがあり、米国市場においても成長が続いています。
  • 本件は買収規模も大きく、大塚HDがヘルスケア全般を強化する戦略の一環と位置づけられます。

3-2. 大正製薬ホールディングス<4581>のMBOによる非公開化

発表日:2023年11月24日
大正製薬ホールディングス(HD)はMBO(経営陣買収)によって株式を非公開化すると発表しました。買収目的会社(SPC)の大手門がTOB(株式公開買い付け)を行い、買付価格は1株8620円、買付総額は7077億円超という非常に大きな規模です。大正製薬は「パブロン」「リポビタンD」など大衆薬で知られていますが、アジア市場を中心に健康食品や化粧品分野へも領域拡大を急務としており、市場の短期的な評価から離れ、事業構造転換を大胆に進める狙いがあるとされています。

ポイント

  • MBOによる上場廃止は、株式市場からの短期的なプレッシャーを抑え、経営方針を中長期視点で実施しやすくなるメリットがあります。
  • 一般医薬品や健康食品事業をコアとしながら、新たな成長戦略を模索することが期待されます。
  • 過去最大級のMBO金額となったことでも注目を集めています。

3-3. 扶桑化学工業<4368>によるエックスワン取得

発表日:2008年7月18日
扶桑化学工業は、ヤマノホールディングスの子会社で自然派化粧品などを販売するエックスワン(東京都品川区)を約8億円で子会社化することを決定しました。エックスワンは会員制無店舗販売を中心に自然派化粧品や健康食品を取り扱い、扶桑化学工業としてはこれを通じて商品開発力を強化する考えがあります。

ポイント

  • 扶桑化学工業は化学製品を中心としてきた企業ですが、化粧品・健康食品分野にも注力しはじめており、エックスワン買収は異業種とのシナジーを狙う代表的事例です。
  • 比較的小規模なM&Aですが、健康・美容領域への事業拡張の布石として位置づけられました。

3-4. 石垣食品<2901>によるメディアート子会社化

発表日:2024年1月17日
石垣食品は、化粧品・健康食品の販売などを手がけるメディアート(名古屋市)を子会社化すると発表しました。株式50%を取得した後、株式交換により完全子会社化する手続きです。石垣食品は飲料事業や珍味事業、インターネット通販、化粧品事業などに取り組んでいますが、全体的に業績が低迷しており、メディアートが持つ商品開発力のノウハウを活用して損益改善を図る戦略です。

ポイント

  • 同社は食関連の幅広い分野を扱いつつも低迷が続き、テコ入れが急務でした。
  • 化粧品と健康食品のシナジーは比較的強いとされ、両方の製造・販売ルートや素材開発などを組み合わせることで、新商品開発やブランド強化を狙う意図が見えます。

3-5. 売れるネット広告社<9235>の一連のM&A

売れるネット広告社は、健康食品や化粧品業界などを中心とした通販事業者向けにクラウドサービスやマーケティング支援サービスを提供してきましたが、2023年~2024年にかけて積極的にM&Aを行いました。

  1. オルリンクス製薬の子会社化(2024年2月6日)
    化粧品や健康食品のD2C事業を手がけるオルリンクス製薬を買収。自らD2C事業に参入し、ノウハウを拡充する目的です。買収額は約100万円。
  2. 運用型広告のグルプスを子会社化(2024年2月6日)
    健康食品や化粧品を中心としたD2C事業者向けマーケティング支援の強化と他業界への展開を目指して3億3700万円で買収しました。
  3. 中国越境EC事業の取得(2024年5月13日)
    アクセスブライトから中国越境EC事業を取得し、海外販路の拡大とモール事業のノウハウを取り込み、「売れる越境EC社」を設立しました。
  4. Wi-Fiルーター等レンタルのJCNTを子会社化(2024年7月11日)
    事業多角化の一環として情報通信サービス分野に参入。健康食品や化粧品を中心とした支援業に留まらず、新たな収益の柱を育てる動きです。

ポイント

  • 売れるネット広告社は元々はマーケティング支援の専門家ですが、健康食品を含めたD2Cビジネスへの垂直統合を進めています。
  • 市場が成熟化する中、企業価値を高めるために事業領域の拡大を狙う好例といえます。
  • 買収額が小さいものから数億円規模まで多様であり、機動力あるM&A戦略を実行している点が特徴です。

3-6. ユーグレナ<2931>の積極的な買収(キューサイなど)

ユーグレナは、微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)の培養技術を持ち、健康食品や化粧品、バイオ燃料など幅広い領域を手がけるベンチャー企業として知られていますが、ここ数年で複数のM&Aを実施してきました。

  1. キューサイの子会社化(2021年)
    「青汁」で有名なキューサイを子会社化。健康食品や化粧品を製造・販売する大手企業を取り込むことで、ユーグレナ商品の販路や研究開発基盤を強化しました。
  2. イースターの子会社化(2017年)
    健康食品のオンライン販売事業を手がけるイースターを株式交換により子会社化。自社EC基盤と顧客基盤を拡大しました。
  3. フックの子会社化(2018年)
    フックは女性向け天然成分のサプリメントや健康食品をECで販売。ユーグレナと顧客層が親和性があり、シナジーが高いと判断されました。

ポイント

  • ユーグレナは自社の微細藻類素材の機能性をさらに広めるべく、健康食品分野の販路獲得・顧客基盤拡大のため積極的にM&Aを活用してきました。
  • 研究開発型ベンチャー企業が、販売力・商品開発力強化のために多角的M&Aを行うモデルケースとして注目されています。

3-7. ファンケル<4921>関連(キリンHD<2503>によるTOB ほか)

ファンケルは、無添加化粧品やサプリメントを主力とする大手企業です。2019年にキリンホールディングスが約33%を出資し持ち分法適用関連会社としていましたが、2024年にキリンによるTOB(株式公開買い付け)が発表されました。

  • キリンHDのTOB(2024年6月14日発表)
    買付価格は当初2690円、後に2800円へと引き上げ、買付予定数は8205万株超、最大で約2297億円規模。ファンケルもTOBに賛同し、成立すれば上場廃止になる可能性があるというものでした。しかし、株価が買付価格を上回る状況もあり、TOBの成否は大きな注目を集めています。
  • ファンケルは健康食品大手として、国内のみならず海外でも認知度が高まり、キリンにとっては酒類・飲料・医薬品に続く「ヘルスサイエンス事業」の柱の一つとして期待されています。

ポイント

  • キリンはオーストラリアの健康食品大手ブラックモアズも買収しており、積極的にヘルスサイエンス分野へのシフトを進めています。
  • ファンケルは創業家が大きな影響力を持っていましたが、キリンとの連携によるグローバル展開や研究開発の強化などが見込まれています。
  • TOB中の株価が買付価格を上回り、ファンドなどが買い進める事態も見られ、最終的な行方が注視されました。

3-8. オリックス<8591>によるDHC子会社化

発表日:2022年11月11日
オリックスは、化粧品・健康食品大手のDHCを子会社化すると発表しました。創業者の吉田嘉明会長兼社長から株式の過半数を取得し、その後完全子会社化を目指す方向です。推定取得価額は3000億円規模とみられ、オリックスにとってはヘルスケア事業を強化する大きな投資です。

  • DHCは通販を中心に化粧品や健康食品を展開し、知名度が非常に高い企業ですが、創業オーナーの高齢化や事業承継の問題を背景に、外部資本による子会社化という選択肢をとったとみられます。
  • オリックスは多角的な事業ポートフォリオを持ち、近年は成長領域であるヘルスケア関連への投資を拡大しており、本件もその一環と考えられています。
  • 2023年1月31日に株式約91.1%を取得し子会社化を完了させたと公表されました。

ポイント

  • DHCは創業時は翻訳事業を展開していましたが、その後の健康食品・化粧品ビジネスの急成長により大手へと発展しました。
  • 大型のM&A案件として、市場や消費者にもインパクトが大きい事例です。
  • 今後オリックスの傘下で、どうブランド再構築や国際展開を図っていくのか注目されます。

3-9. その他の健康食品に関連するM&A事例

上記以外にも健康食品に絡むM&Aは多数行われています。たとえば:

  • キッコーマン<2801>による米国栄養補助食品子会社の売却
    事業ポートフォリオ再編の中で、栄養補助食品製造会社を投資ファンドに譲渡。海外健康食品事業から一部撤退しつつ、他領域を強化。
  • AFC-HDアムスライフサイエンス<2927>による関連企業の買収・出資
    百貨店のさいか屋<8254>への出資やヘルスケア関連ベンチャーとのM&Aにより、健康食品の受託製造・販売チャネルの拡充を図る。
  • コカ・コーラウエスト<2579>によるキューサイ買収(過去事例)
    青汁大手のキューサイを傘下に入れることで、健康志向の高い飲料市場を強化。

いずれも企業の事業再編や事業承継、海外戦略など、複数の要素が絡み合った結果としてM&Aが選ばれていることがわかります。


4. 健康食品業界M&Aの目的と効果

4-1. 事業領域拡大・ポートフォリオ強化

健康食品事業は多様なニーズに支えられていますが、単一企業が全てをカバーしようとすると多大なコスト・時間がかかります。そのため、M&Aにより自社に不足している技術やブランド、販路を一括獲得しようとする動機が強まるのです。大手飲料メーカーが健康食品企業を買収して新規事業を立ち上げたり、医薬品メーカーが栄養補助食品メーカーを取り込むケースなどが典型的な例です。

4-2. ブランド力・研究開発力の獲得

健康食品はリピート購入が多い商材であり、信用力やブランド力が非常に重要です。既に市場で高い評価を得ているブランドを買収することで、ゼロからブランドを立ち上げるコストを大幅に抑えながらシェアを獲得できます。また、研究開発に強い企業との提携・買収によって、新商品の開発サイクルを加速できる利点もあります。

4-3. 販路拡大・海外進出

ドラッグストア、コンビニ、EC、テレビ通販、百貨店など、健康食品の販路は非常に多岐にわたります。販路ごとに顧客特性が異なり、ノウハウや物流体制も要求されるため、M&Aで販路を丸ごと取得するのは大きなメリットです。また、日本企業が海外展開を目指す場合、現地の販売会社や健康食品メーカーを買収することで参入障壁を低くして本格進出できるケースも多いです。

4-4. 経営再建・シナジー創出

業績が伸び悩む健康食品企業を救済する形でM&Aが行われることもあります。老舗企業や中小企業で後継者不足や資金繰りの問題を抱えるケースは少なくありません。そのような企業を大手が傘下に収め、研究開発資金の投入や販路強化によって、相互にメリットを得るパターンは今後も一定数存在すると考えられます。


5. M&Aにおける留意点や課題

健康食品業界は成長余地が大きい一方、規制や競合の増加など課題も多く、M&Aに伴うリスク管理が必要です。

5-1. 規制・法令への対応(景品表示法、薬機法など)

健康食品を販売する際には、景品表示法や健康増進法、薬機法などの法令遵守が求められます。特にサプリメントの広告表現で「痩せる」「病気を治す」といった表現を過度に用いると行政処分を受ける可能性があります。M&Aの対象企業が違反リスクを内包している場合、その整理が必要です。

5-2. 企業文化・事業方針の統合

大企業がベンチャー企業やオーナー企業を買収する場合、企業風土の違いが障害になることがあります。健康食品は商品開発やマーケティングに独特の文化が根づいている場合が多く、買収後の統合作業に時間がかかるケースも珍しくありません。

5-3. ポストM&Aの戦略実行

買収でブランドや販路を得ても、その後にうまく活用できなければシナジーは生まれません。開発スピードの上げ方、ECやリアル店舗の販促手法の統合、研究開発リソースの再配分など、買収後の戦略遂行体制を整備することが大切です。

5-4. ターゲット選定・買収価額の妥当性判断

健康食品は参入企業が多く、市場での地位が一見わかりにくい場合があります。ブランド力や研究開発力は定量評価が難しく、M&Aにおいて買収価格が過度に高騰しがちなリスクもあります。デューデリジェンス(DD)やバリュエーションで、将来キャッシュフローや知的財産などをいかに見極めるかが重要です。


6. 今後の健康食品業界M&A展望

6-1. 市場規模と技術革新の見通し

健康食品市場は高齢化、健康志向の高まり、予防医療需要の増加により、今後も拡大傾向が続くと予想されます。さらに、発酵技術やバイオテクノロジー、AIを活用した個別最適化サプリ(パーソナライズサプリ)など、技術革新も進んでいます。こうした新分野へ参入するため、既存企業がスタートアップや研究開発型企業を買収・提携する機会が増えるでしょう。

6-2. コロナ禍以降の健康意識・ライフスタイル変化

コロナ禍で自宅での栄養管理や免疫力アップへの関心が急激に高まりました。これにより、健康食品・サプリに関する情報発信がより重要になり、ECを利用する消費者も増加しました。D2C(DtoC)モデルの浸透がさらに進み、参入企業間の競争が激化する一方、マーケティング支援やノウハウを有する企業が買収対象として脚光を浴びると考えられます。

6-3. ESGやSDGsへの対応とヘルスケア事業の深化

近年はESG投資の観点から、健康食品の原材料調達や生産プロセスが環境・社会面で配慮されているかも注目されるようになっています。SDGs達成の観点から、サステナブルな原料調達や廃棄物削減などに積極的な企業の価値が高まっています。大手企業はこのような側面を強化するために、環境配慮型生産技術を持つ企業を買収するケースも増えそうです。


7. まとめ:健康食品業界M&Aがもたらす未来

健康食品業界は、市場の拡大と競争の激化、技術革新の進展などが同時に進むダイナミックな分野です。そこに参画する企業のM&A戦略は、時代の変化にあわせて多様化し、大型案件からスタートアップ買収まで幅広い動きが見られます。

  • 大手企業による市場支配の強化
    キリンホールディングスや大塚ホールディングス、オリックスなど、体力のある企業が相次いで有力な健康食品・化粧品企業を傘下に収める事例が増えています。これにより、研究開発や海外展開などが加速し、グローバル市場での競争力を高める動きが期待されます。
  • 中小企業の活路としてのM&A
    資金・人材不足や後継者問題で悩む中小の健康食品企業にとって、大手のグループ入りは事業継続と発展を可能にする大きなチャンスでもあります。また、業績低迷に苦しむ企業の経営再建を助ける形でのM&Aも今後ますます増えるでしょう。
  • イノベーション創出の加速
    バイオテクノロジーやAIを駆使した新たな健康食品開発が進み、大学や研究機関、スタートアップとの連携も盛んです。そのような研究開発型企業やベンチャーを大手が買収することで、短期間で市場投入するモデルが増え、業界全体のイノベーションが活性化する見込みです。
  • 法規制や消費者保護とのバランス
    一方、健康食品は消費者トラブルや誇大広告などが社会問題となりやすいため、行政当局は法令の整備・監視を強化しています。M&Aにあたっては、買収先企業の広告手法や安全管理の実態を丁寧に調査・統合し、消費者保護に十分配慮する必要があります。

今後も健康食品市場の拡大は続き、国内外でさらなるM&Aが活発化すると考えられます。その中で、企業が健全かつ持続的に成長するためには、短期的なシェア拡大だけでなく、長期的なブランド力や研究開発基盤、SDGs・ESG対応の視点も欠かせません。M&Aは一つの手段に過ぎませんが、上手に活用することで新たな価値を生み出し、市場をリードしていくことができるでしょう。

企業オーナーや投資家、事業会社の経営層にとっては、今回の事例が示すように、健康食品業界におけるM&Aの実例を多角的に研究することが重要です。成功パターンや失敗事例を学び、ポストM&A統合(PMI)の具体的な戦略をしっかりと見据えたうえで、適切な交渉・実行を行うことが鍵となります。

時代のニーズに後押しされる健康食品業界は、今後も消費者にとって欠かせない存在であり続けるでしょう。その成長と変革の大きな原動力になるのがM&Aであり、新しい技術や新しい消費者体験をもたらす大きなチャンスでもあるのです。引き続き、健康食品業界を取り巻くM&Aの動向から目が離せません。