- はじめに:ガソリンスタンド業界を取り巻く環境
- 第1章:ガソリンスタンドとITサービスの融合
- 第2章:業界再編と石油元売会社の子会社化
- 第3章:タクシー・ハイヤー事業との連携とM&A
- 第4章:自動車販売・整備企業による業務拡大とM&A
- 第5章:海外事業・不動産開発との接点をめぐるM&A
- 第6章:コンビニ業界との融合とグローバル化
- 第7章:周辺事業への進出・撤退事例
- 第8章:サンオータス<7623>の売却と買収戦略
- 第9章:外部資本や異業種との連携の必要性
- 第10章:ガソリンスタンドが関わる意外なM&A事例
- 第11章:ガソリンスタンド業界再編のこれから
- 第12章:同業他社によるTOBと業界再編の波
- 第13章:他事例にみるブランド力の活用
- 第14章:ホームセンター業界との連携とガソリンスタンド
- 第15章:ガソリンスタンド業界M&Aの総括と展望
- おわりに
はじめに:ガソリンスタンド業界を取り巻く環境
日本におけるガソリンスタンド事業は、長らく地域密着型のサービスとして親しまれ、車社会を支えるインフラの一端を担ってきました。しかし近年、自動車社会の構造変化や電気自動車(EV)・ハイブリッド車などの普及、さらには人口減少・若者のクルマ離れなど、さまざまな要因によりガソリン需要そのものが縮小傾向にあります。
経済産業省の資料によると、ピーク時に6万軒以上あった国内のガソリンスタンド数は、近年では3万軒を下回る水準にまで減少したといわれています。業界再編が進むなか、石油元売会社同士の経営統合やガソリンスタンド同士の合併・買収(M&A)も活発化してきました。
こうした中、事業の継続や事業領域の拡大を目指す企業にとっては、M&Aを通じたスケールメリットの追求や、多角化によるリスク分散が大きな経営課題として浮上してきています。特にガソリンスタンド単体では収益確保が難しくなっていることもあり、コンビニや自動車販売、カーシェア、レンタカーなどとの協業・融合が進んできました。
本記事では、ガソリンスタンド業界における近年の主なM&A事例を取り上げながら、その背景や意義、シナジー効果、今後の展望などを詳述してまいります。
第1章:ガソリンスタンドとITサービスの融合
ガソリンスタンド業界では、自社システムの開発や電子決済の導入など、ITサービスとの親和性が徐々に高まってきています。既存の収益モデルだけに固執するのではなく、情報システムを駆使することで売上や集客を最大化する流れが見られます。その一例として、IT関連企業によるガソリンスタンド向けサービス会社の買収があります。
1-1. 電算システム<3630>、ガーデンネットワークの子会社化(2014年7月)
M&Aの概要
2014年7月23日、電算システムは、ガソリンスタンド向けシステム開発を手がけるガーデンネットワークを子会社化すると発表しました。ガーデンネットワークの売上高は約9億1700万円。取得価額は非公表ながら、9月1日付で全株式を取得しています。
狙い・背景
ガーデンネットワークは全国約2000カ所のガソリンスタンドに勘定系や情報系システムを提供していました。キヤノンマーケティングジャパンの傘下にあったものの、エネルギー業界全体が多様化・再編を進める中、強固なIT基盤を持つ電算システムの下でさらなる成長を図ることが期待されました。
シナジー効果
電算システムは電子決済サービスなどを主力事業としており、ガソリンスタンドの決済フローにおける効率化や新たなサービス開発が見込まれます。ガーデンネットワークの顧客基盤と電算システムの技術力を組み合わせることで、ガソリンスタンド現場の業務改善や新規ビジネスモデルの構築が可能になりました。
第2章:業界再編と石油元売会社の子会社化
ガソリンスタンド業界では、石油元売会社による販売子会社の統廃合や、地域ディーラーの再編がかねてから進められてきました。エネルギー需要の先行き不透明感や原油価格の変動が激しい中、効率的な運営や市場シェア拡大を目的としたM&Aが多く見受けられます。
2-1. 伊藤忠エネクス<8133>、港南の石油販売事業を取得(2008年4月)
M&Aの概要
伊藤忠エネクスは2008年4月24日、港南(堺市)から石油販売事業を譲り受け、同社の子会社コーナンフリートの追加株式を取得して完全子会社化すると発表しました。当時コーナンフリートの売上高は1660億円。全国139カ所のガソリンスタンド運営を行っていました。
狙い・背景
伊藤忠エネクスグループで運営するガソリンスタンドは、一般消費者向けが中心でした。一方、コーナンフリートは運送業者や貨物用車両向けの軽油販売が強みであり、顧客ポートフォリオの拡大を狙ったものと考えられます。
シナジー効果
コーナンフリートが持つ物流・運送向けビジネスのノウハウを伊藤忠エネクスが取り込むことで、安定した取引先を得るとともに、既存のネットワークをさらに拡充できます。また、物流分野の燃料需要は一般の乗用車向けよりも堅調であることが多く、業績の下支え効果が期待されました。
2-2. 高見澤<5283>、上燃を子会社化(2017年2月)
M&Aの概要
2017年2月6日、高見澤は昭和シェル石油(当時)の100%子会社である上燃(長野県上田市)を子会社化すると発表しました。株式の66.6%を昭和シェル石油から取得し、取得価額は10億4000万円(最終決定額)。4月3日付で取得を完了しています。
狙い・背景
高見澤は長野県を中心に燃料販売事業や建材事業などを営む企業で、県北地域に強みを持ちます。一方の上燃は東信地域を中心にガソリンスタンドを運営。両社の営業基盤が重複しておらず、ネットワーク拡大によるシェア向上が期待されました。
シナジー効果
高見澤と上燃は同じ県内で事業領域が近接しているものの、主に活動地域が異なるため補完関係が生まれやすいとみられていました。また、自動車買取・販売を手がける上燃のノウハウは、高見澤にとっても新たな事業領域拡大の機会となります。
第3章:タクシー・ハイヤー事業との連携とM&A
ガソリンスタンドの運営会社が注目する一つの方向性として、自社が確保しているモータリゼーション分野の強みを活かし、関連するモビリティサービス、すなわちタクシー・ハイヤーなどの交通事業に進出・連携する事例があります。
3-1. 大和自動車交通<9082>、宮園砿油を子会社化(2022年5月)
M&Aの概要
大和自動車交通は2022年5月13日、宮園自動車グループ傘下でガソリンスタンド運営の宮園砿油(東京都中野区)を株式交換により子会社化すると発表しました。宮園砿油は主要顧客として同グループを持ち、売上高は1億5500万円。株式交換予定日は同年7月1日で、大和自動車交通1:宮園砿油3.1726という比率が設定されました。
狙い・背景
大和自動車交通は都内でタクシー・ハイヤー大手4社の一角を占めています。グループ内でガソリンスタンドを運営しているものの、今回さらに宮園砿油を取り込むことで燃料調達をグループ内に取り込み、コスト面・利便性の向上を狙ったと推察されます。
シナジー効果
タクシーやハイヤー事業は車両維持が必須であり、燃料費は経営上の大きなコスト要因です。グループとしてガソリン取扱量を増やせば、石油元売りや卸との価格交渉力が向上する可能性があります。また、スタンド網を活かしたタクシー車両の管理などのオペレーション効率化も期待できます。
第4章:自動車販売・整備企業による業務拡大とM&A
ガソリンスタンド業界は自動車関連事業者との親和性が強いという特徴があります。整備・車検・中古車販売など、多岐にわたる自動車関連サービスを一箇所で提供できれば、顧客の利便性向上につながります。ここでは整備や販売に強みを持つ企業がガソリンスタンドを取り込む事例を見ていきましょう。
4-1. 宇佐美鉱油によるグッドスピード<7676>のTOB(2024年3月~)
M&Aの概要
ガソリンスタンド運営大手の宇佐美鉱油(愛知県津島市)は、東証グロース上場のグッドスピードを子会社化する目的でTOB(株式公開買い付け)を実施すると2024年3月1日に発表しました。グッドスピードはSUV中心の新車・中古車販売を手がける企業で、将来的に燃料需要が落ち込むことが予想される中、ガソリンスタンド業界の収益構造を多角化する狙いがあるとされています。
TOBの詳細
第1回TOB:2024年4月上旬~5月下旬(途中で買付期間の延長あり)
買付価格は1株当たり722円で、締め切り前営業日の終値831円を13.12%下回る水準でした。下限を加藤久統社長の保有する23.98%(約91万1308株)に設定。応募株式数が下限以上となり、2024年5月24日に成立。宇佐美鉱油の所有割合は47.65%に。
第2回TOB:2024年6月26日~7月24日
買付価格は1株850円で、今度は前営業日の終値831円に2.29%のプレミアムを付けて募集。買付代金は最大16億8800万円で、買付後の所有割合は52.35%に達すると見込まれました。
さらにグッドスピードは同日付で宇佐美鉱油を引受先とする第三者割当増資を実施し、約15億円を調達すると発表。TOBと併せた買収総額は約44億9600万円にも及ぶ大型案件となっています。
狙い・背景
宇佐美鉱油は国内有数のガソリンスタンド運営企業として知られますが、ガソリン需要の先細りを見据え、車両販売やメンテナンスといった収益源を確保したい思惑があります。一方でグッドスピードは資本力のある企業との提携で店舗拡大やサービスの強化を図る狙いがあり、両社の利益が合致した結果といえます。
シナジー効果
グッドスピードが保有する顧客基盤と整備ノウハウが、宇佐美鉱油のスタンド網を通じて相互送客やサービスのクロスセルにつながる可能性があります。例えば、新車・中古車販売を利用した顧客に対して、日常の給油やメンテナンス、レンタカーなどをワンストップで提供できるようになれば、収益性の向上が期待されます。
4-2. 市光工業<7244>、PIAAを宇佐美鉱油に譲渡(2024年3月)
M&Aの概要
2024年3月27日、市光工業は自動車・オートバイ部品を販売するPIAA(東京都文京区)の全株式を宇佐美鉱油に譲渡すると発表しました。PIAAの売上高は97億5000万円、営業利益3億5700万円、純資産22億1200万円。譲渡価額は35億円、譲渡予定日は2024年8月30日です。
狙い・背景
市光工業は自動車用ランプやミラーなどの電装品製造で知られていますが、さらなる事業の選択と集中を進める上で、部品販売会社であるPIAAを売却することを決定しました。一方の宇佐美鉱油はカー用品販売も手がけており、PIAAのブランド力や流通網を取り込むことでガソリンスタンドビジネス以外の収益柱を強化できます。
シナジー効果
PIAAブランドのカー用品は汎用性が高く、宇佐美鉱油のスタンドでの販売・取り扱いを一体化することで、顧客接点を拡大できます。また、PIAAの物流ネットワークを活かし、宇佐美鉱油が運営するその他のサービスとも連携が見込まれます。
第5章:海外事業・不動産開発との接点をめぐるM&A
ガソリンスタンド事業を取り巻くM&Aは国内に限りません。むしろ、海外のガソリンスタンド事業を買収することで成長を狙う企業もあれば、逆に財務改善を目的に海外子会社をガソリンスタンド事業者へ売却する例など、さまざまなパターンが存在します。
5-1. レオパレス21<8848>、ベトナムの不動産子会社を中和石油に譲渡(2021年1月)
M&Aの概要
レオパレス21は2021年1月18日、不動産事業を展開するベトナム子会社「LEOPALACE21 VIETNAM CO.,LTD.」を、中和石油(札幌市)に譲渡すると発表しました。譲渡価額は非公表ながら、同年4月1日に手続きが完了しています。
狙い・背景
レオパレス21は、賃貸アパートの施工不良問題による業績悪化を受け、非中核事業からの撤退や資産売却を進めていました。一方、中和石油はガソリンスタンドやレンタカー事業を主力としながら、海外投資にも関心を持っていたとみられます。
シナジー効果
中和石油は本来、エネルギー関連を中心とする企業ですが、将来的に不動産事業や海外事業への多角化をにらみ、今回のベトナム子会社買収に至った可能性があります。ベトナムは経済成長が著しく、外国投資家にとっても魅力的な市場です。
第6章:コンビニ業界との融合とグローバル化
ガソリンスタンドとコンビニエンスストアの併設は今や当たり前の光景となりつつあります。特に北米ではガソリンスタンド併設型のコンビニが主流であり、日本企業もそこにビジネスチャンスを見出しています。なかでもセブン&アイ・ホールディングスの大型買収は近年の象徴的な動きです。
6-1. セブン&アイ・ホールディングス<3382>、米企業2社からガソリン卸売・小売事業を取得(2015年11月)
M&Aの概要
2015年11月10日、セブン&アイ・ホールディングスは米子会社7-Eleven, Inc.を通じて、Biscayne Petroleum, LLCとEverglades Petroleum, LLCからガソリン卸売・小売事業を取得したと発表しました。取得価額は非公表。ガソリンスタンド併設のコンビニ展開を強化する一手となりました。
狙い・背景
北米におけるコンビニ事業拡大の一貫であり、ガソリンスタンドも含めたワンストップサービスを提供することで、地域住民の集客をさらに強化する戦略です。ガソリン販売と小売をセットにすることは北米のコンビニの基本的なビジネスモデルと言えます。
6-2. セブン&アイ・ホールディングス<3382>、米の「スピードウェイ」を約2兆2000億円で買収(2020年8月)
M&Aの概要
2020年8月3日、セブン&アイ・ホールディングスは米国第3位のガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ」(オハイオ州)を約2兆2176億円で買収する契約を締結。売り手は石油精製大手マラソン・ペトロリアムです。最終的に買収は2021年5月14日に完了し、取得価額は約2兆3232億円に上方修正されています。
狙い・背景
セブン-イレブンは米国で約9800店舗を展開しており、業界トップシェアですが依然として市場全体の6%程度。全米3位のスピードウェイ(約3900店)を傘下に収めることでシェア拡大とスケールメリットを追求し、米国のコンビニ市場で明確なリーダーシップを確立する狙いです。
シナジー効果
スピードウェイの店舗はすべてガソリンスタンド併設型であり、燃料販売とコンビニが一体となった北米ならではのビジネスモデルを効率的に取り込めます。セブン-イレブンのブランド力と商品開発力をスピードウェイに展開することで、一気に市場シェア拡大と収益性の向上が見込まれます。
6-3. セブン&アイ・ホールディングス<3382>、米スノコから204店舗を取得(2024年1月)
M&Aの概要
2024年1月11日、セブン&アイは米国子会社を通じて、同国スノコ(テキサス州)からコンビニ・ガソリンスタンド204店舗を取得すると発表しました。取得額は約1370億円。当初発表ではクロージング条件を満たし次第取得する方針でしたが、最終的に4月16日付で手続きを完了し、約1457億円に買収額が修正されています。
狙い・背景
2018年にもセブン&アイはスノコから1030店舗を取得しており、今回が2度目の大規模取得となります。北米コンビニ市場での拡大をさらに加速させる方針が一貫しており、加えて「スピードウェイ」買収後の店舗網強化を続行する意思が明確に示されています。
6-4. セブン&アイ・ホールディングス<3382>、豪州「セブンイレブン」展開企業を買収(2023年11月)
M&Aの概要
2023年11月30日、セブン&アイはオーストラリアで「セブンイレブン」を展開するコンビニエンス・グループ・ホールディングスを約1672億円で買収すると発表しました。2024年4~6月の買収完了を見込み、最終的には4月1日付で手続きを完了し、総額約1686億円に決定しました。
狙い・背景
オーストラリアのセブンイレブンはライセンス契約に基づき展開されていたため、セブン&アイ本体による直接買収により、海外事業の統制力を高める狙いがあります。同社は日本および北米以外でも出店を加速し、グローバルにブランドを定着させようとしており、特に人口増が見込まれるオーストラリア市場は重要なポテンシャルを持っています。
シナジー効果
ガソリンスタンド併設型の運営モデルがオーストラリア国内にも存在するため、北米で培ったノウハウを活かし、さらなる事業拡大が期待されます。コンビニ事業とガソリン販売の融合は収益安定につながりやすく、チェーン全体の経営効率を高める効果があります。
第7章:周辺事業への進出・撤退事例
ガソリンスタンド事業そのものを拡大するだけでなく、外部環境の変化や事業の選択と集中に伴い、スタンド事業を手放すケースもあります。また、ガソリンスタンドを手がける企業が別業種の買収や売却を行う動きもみられます。
7-1. ジョイフル本田<3191>、セルフガソリンスタンド事業を出光興産<5019>に譲渡(2020年2月)
M&Aの概要
ホームセンター大手のジョイフル本田は2020年2月3日、セルフガソリンスタンド7店舗と灯油スタンド15店舗を出光興産に譲渡すると発表しました。譲渡価額は非公表で、4月1日~6月20日までの間に順次移管が行われたとみられます。
狙い・背景
ホームセンター業界でも車社会との親和性からガソリンスタンドを併設する店舗がありましたが、ガソリン需要の縮小が見通される中、ジョイフル本田としては本業(ホームセンター事業)への集中を選択した形です。
シナジー効果
出光興産に譲渡することで、スタンド運営のプロが運営することになり、事業効率が高まる可能性があります。ジョイフル本田側は資本回収や経営リソースの再分配が可能になり、出光興産側は地域での店舗網拡大に繋がります。
7-2. テーオーホールディングス<9812>、スポーツクラブ事業をオカモトに譲渡(2021年10月)
M&Aの概要
テーオーホールディングスは2021年10月15日、子会社が運営するスポーツクラブ事業をガソリンスタンド経営などを行うオカモト(北海道帯広市)に譲渡すると発表しました。譲渡価額は当初未定でしたが、最終的に700万円で決定し、2022年1月1日に譲渡が実施されました。
狙い・背景
テーオーホールディングスは木材・建材関連から住宅事業まで幅広い事業を展開していましたが、地域人口の減少やコロナ禍での経営悪化により不採算部門の整理を進めていました。オカモトはガソリンスタンドのみならず、リサイクルショップやスポーツクラブなど多角経営を進めており、シナジーを期待して譲受に踏み切ったとみられます。
7-3. ウェルビングループ<7136>、綿仁を子会社化(2022年9月)
M&Aの概要
2022年9月16日、ウェルビングループは静岡県沼津市を拠点とするガソリンスタンド事業者の綿仁を全株式取得し、同年11月16日付で子会社化しました。取得価額は2億1140万円です。
狙い・背景
ウェルビングループは北関東(埼玉・茨城)を中心に自動車販売や整備、ガソリンスタンド経営を展開しており、さらなるエリア拡大を図っています。綿仁は静岡県東部地区に11店舗のスタンドを持ち、地元では一定のブランド力を有しています。
シナジー効果
地域が異なることで競合するリスクは少なく、むしろウェルビングループの既存システムや仕入ルートの共有によりコスト削減が可能となります。また、整備やレンタカーなど付随サービスの展開により売上増を狙えます。
第8章:サンオータス<7623>の売却と買収戦略
神奈川県を中心にガソリンスタンドを運営しながら、輸入車販売も行うサンオータスは、近年積極的に事業整理と拡大を繰り返しています。輸入車ディーラー事業の売却を進める一方、ガソリンスタンドの買収も行うなど、経営資源の再配置に注目が集まります。
8-1. 輸入車販売子会社の売却(2020年2月)
モトレーン東洋をエー・エル・シーに譲渡
2020年2月13日、サンオータスは輸入車販売子会社のモトレーン東洋(横浜市)をエー・エル・シー(静岡県沼津市)に譲渡すると発表しました。売上高57億5000万円、営業利益マイナス1億700万円と収益面の課題があった模様です。譲渡価額は非公表、2020年2月28日付で実施。
メトロポリタンモーターズをダイワグループに譲渡
同じく2020年2月13日、輸入車ディーラーのメトロポリタンモーターズ(横浜市)も売却すると発表。売上高89億9000万円、営業利益マイナス7000万円と、こちらも業績面で課題がありました。譲渡先はダイワグループ(東京都調布市)で、2月28日付で譲渡完了。
背景と狙い
サンオータスはBMWブランドなどを取り扱っていましたが、激化する輸入車ディーラー競争と景気変動の影響を受け、赤字が続いていました。ガソリンスタンドなど安定性の高い事業へ集中させることで、グループ全体の収益基盤を強化しようとしたものと考えられます。
8-2. 横浜市内でガソリンスタンドを運営する若葉石油の子会社化(2024年2月)
M&Aの概要
2024年2月29日、サンオータスは若葉石油(横浜市)を全株式取得し子会社化しました。若葉石油は売上高10億円、営業利益マイナス1300万円、純資産6100万円で、横浜市内に2軒のガソリンスタンドを運営しています。取得価額は8500万円。
狙い・背景
サンオータスは神奈川県でガソリンスタンド事業を展開しており、同一エリアでのスタンド網拡大により地域シェアを高めることが可能です。また、若葉石油の運営する店舗にはレンタカーカウンターや飲食店が併設されており、収益多角化にも寄与するとみられます。
シナジー効果
同じエリアに強みを持つスタンドを傘下におさめることで、仕入れの集約やコスト削減、設備投資の効率化などが期待されます。さらに、サンオータスが展開する他のサービス(洗車、車検、カーリースなど)との連動も図ることで、利用者の拡大が見込まれます。
第9章:外部資本や異業種との連携の必要性
ガソリンスタンド業界のM&Aでは、必ずしも同業同士が統合するとは限りません。むしろ、ガソリンスタンドの収益性が低下する中で、異業種が参入・連携するケースが増えています。たとえば、コンビニや自動車販売会社、駐車場運営会社などがスタンド網を活用し、新規顧客を取り込もうとする事例が散見されます。
9-1. パーク24<4666>、ITS事業企画の株式を51%取得(2008年11月)
M&Aの概要
駐車場「タイムズ」を全国展開するパーク24は、三菱商事からITS事業企画の株式51%を取得し子会社化しました。ITS事業企画はETC車載器を活用した決済サービスをフェリーやガソリンスタンド、駐車場などに提供する会社です。
狙い・背景
パーク24は時間貸し駐車場においてETC決済を導入しており、そのノウハウをさらに広げるためにはガソリンスタンドなど他の交通インフラとの連携が不可欠と判断しました。
シナジー効果
パーク24が持つ駐車場網とITS事業企画のETC決済サービスを組み合わせることで、ユーザーの利便性が格段に高まります。ガソリンスタンドでのETC決済やポイント連携など、新たな付加価値サービス創出の可能性が期待されました。
第10章:ガソリンスタンドが関わる意外なM&A事例
ガソリンスタンド事業を営む企業が、自動車関連以外の幅広い事業を手がけるケースも珍しくありません。歴史的に見れば、石油会社が関連子会社を多数保有し、リゾートや不動産などへ進出していた経緯もあります。また、ホームセンターやスポーツクラブなど一見関連の薄い業種とのM&Aも存在しますが、これは各社が多角化戦略をとる中で生まれる機会だといえます。
たとえば、三井E&Sホールディングス傘下のMESファシリティーズ(ガソリンスタンド事業も手がける)が日本ハウズイングに買収された例や、テーオーホールディングスがスポーツクラブをオカモトに譲渡した例など、ガソリンスタンドは“一事業”として扱われることが多いのです。
第11章:ガソリンスタンド業界再編のこれから
ガソリンスタンド事業は今後も縮小傾向が続くとみられていますが、だからといって業界全体が消滅するわけではありません。むしろ、ガソリンや軽油の需要が完全にゼロになるにはまだ時間がかかり、ハイブリッド車・PHV(プラグインハイブリッド車)・燃料電池車(FCV)なども含め、エネルギー供給の拠点としてのガソリンスタンドは一定の機能を果たし続けるでしょう。
ただし、経営体力のない中小スタンドにとっては単独での生き残りが難しくなっており、大手との統合や業態転換が進むと予想されます。以下に今後の展望と課題を挙げます。
11-1. 電気自動車への対応
ガソリンスタンドがEVの充電設備を整備し、複合的なエネルギーステーションへ転換する動きは既に始まっています。今後は高速充電器の普及とともに、EVユーザーを取り込むためのサービス拡充が鍵となるでしょう。
11-2. 水素ステーションのインフラ化
燃料電池車(FCV)の普及に合わせ、水素ステーションの設置も期待されています。ガソリンスタンド運営企業が水素供給インフラに乗り出すには設備投資などのハードルが高いですが、自治体や国の補助金を活用して先行投資する事例も増えています。
11-3. 店舗の複合化・多角化
コンビニ併設やカーシェアリング拠点、レンタカー、コイン洗車、カフェ、コインランドリーなど、ガソリンだけに依存しないビジネスモデルへの転換が加速します。これをきっかけに異業種との連携やM&Aが増える可能性があります。
11-4. 地域密着型サービスの強化
過疎地などで唯一の燃料供給拠点であるスタンドには、社会的インフラとしての役割も期待されます。国や自治体が補助金や規制緩和で支援しつつ、事業者が地域コミュニティと協力して運営するモデルも出てきています。
第12章:同業他社によるTOBと業界再編の波
先述した宇佐美鉱油によるグッドスピードへのTOBや、高見澤による上燃買収など、同業他社が地域や事業領域を広げるために買収を仕掛ける例は今後さらに増加するとみられます。石油元売会社による下流部門の整理統合も含め、業界構造が大きく変わる局面が訪れる可能性があります。
一方で、ガソリンスタンドからの撤退を決断する企業も多く、自社にとってガソリンスタンド事業が本当に必要なのか再検証する動きが続いています。M&Aにより早期に撤退し、得られた資金を新事業に再投資する例も今後増えていくでしょう。
第13章:他事例にみるブランド力の活用
ガソリンスタンドは、ブランド力やロイヤルティによっても大きく差別化が図られます。石油元売会社の統合や名称変更が進むなか、ブランド力のあるスタンド網を引き継ぐ買収案件には一定のプレミアムが付くこともあります。
たとえば、昭和シェル石油系スタンドと出光興産系スタンドが経営統合した事例などは、ブランド戦略が再検討されるきっかけとなりました。このように、単にハード面の集約にとどまらず、ブランドの継承・再編もM&Aにおける重要なファクターとなります。
第14章:ホームセンター業界との連携とガソリンスタンド
ホームセンター大手DCMホールディングスが同業ケーヨーをTOBで子会社化するニュース(2023年9月29日発表)は、直接「ガソリンスタンド業界のM&A」ではありませんが、ケーヨーが当初はガソリンスタンド事業からスタートした企業であった点が注目されます。
ケーヨーは1952年に京葉産業として発足し、ガソリンスタンド事業に進出。その後、ホームセンター事業を1974年に開始し社名をケーヨーと改めました。
ホームセンターとガソリンスタンドの親和性は低いように見えますが、DIY用品やカー用品、灯油販売などで重なる部分はあり、一定の相乗効果を期待する動きもあります。
DCMによるケーヨー子会社化自体はホームセンター業界再編の流れですが、ケーヨーの源流がガソリンスタンド事業であったという点は、業界横断的な再編が起こりうることを示唆しています。
第15章:ガソリンスタンド業界M&Aの総括と展望
ガソリンスタンド業界は過去数十年にわたり、需要減少と競争激化により事業者数が大幅に減少してきました。しかし、M&Aという観点から見ると、以下のような多様なケースが存在することがわかります。
IT企業など異業種の買収・統合
電算システムがガーデンネットワークを買収し、システム構築や電子決済などIT面を強化するケース。
パーク24がITS事業企画を子会社化し、ETC決済サービスを拡充するケース。
同業他社・石油元売系列の子会社化
高見澤による上燃の買収、伊藤忠エネクスによる港南・コーナンフリート買収など、地域のスタンド網再編。
多角化・リスク分散のための買収
宇佐美鉱油によるグッドスピードやPIAAの買収。燃料以外の分野で安定収益を確保しようとする戦略。
本業への集中によるスタンド事業の売却
ジョイフル本田が出光興産にスタンド事業を譲渡するなど、経営資源の選択と集中。
レオパレス21がベトナム不動産子会社を中和石油へ売却するケース(逆のパターンですが、スタンド企業が海外事業を取り込む)。
コンビニとの一体化による巨大M&A
セブン&アイの「スピードウェイ」買収(約2兆2000億円)やスノコ店舗買収など、北米でのガソリンスタンド併設型コンビニ拡充。
ガソリンスタンド業界が今後さらなる再編に直面する可能性は高いです。特にEV普及やカーボンニュートラル化の政策が進む中で、ガソリン依存度は徐々に低下し、スタンド運営だけでは収益確保が難しくなると予想されます。一方で、地域インフラとしての重要性も根強く残るため、M&Aによる集約・効率化が生き残りの鍵となるでしょう。
大手企業によるM&Aが増えれば、資本力に勝る企業が一気にシェアを拡大するシナリオが考えられます。また、異業種との連携やIT化による新サービスの展開は必須となるでしょう。さらには、地方自治体や地元企業との協力による公共インフラとしての機能強化も注目されます。
結論として、ガソリンスタンド業界におけるM&Aは「縮小する市場をどう再編し、多角化しながら維持・発展していくか」をめぐる戦略的な取り組みです。業界外からの買収案件や、ガソリンスタンド事業を手放す企業、積極的に買い進める企業など、その動きは多岐にわたります。これらの動向を把握することは、エネルギー業界の変遷や地域社会のインフラ変革を読み解くうえでも重要です。
今後は、EV充電・水素ステーション・コンビニ・外食・カーメンテナンス・レンタカーなどがさらに複合化していく「次世代型サービスステーション」の確立に向け、M&Aはますます活発化していくものと思われます。
おわりに
ガソリンスタンド業界のM&Aは、単なる店舗数の集約ではなく、経営資源の最適配分や新たなビジネスモデルの模索という側面が非常に強いと言えます。本記事で取り上げた事例は、その多様性を示す一端にすぎません。大手企業によるグローバル展開から、中小企業同士の地域再編まで、その形はさまざまです。
また、コンビニとの融合や自動車販売・整備とのシナジー構築など、ガソリンスタンドはほかの業態と組み合わせることで新しい価値を生み出す可能性があります。とりわけ、セブン&アイ・ホールディングスのように巨額の投資で北米や豪州のスタンド事業を手中に収める例は、世界市場における日本企業の存在感を示すものとして注目に値します。
一方で、需要減少と経営環境の厳しさから、事業売却に踏み切る企業も後を絶ちません。こうした「選択と集中」の動きは今後ますます加速するでしょう。事業者にとっては、どのタイミングでどのようなパートナーと組むかが、事業継続や競争力確保の死活問題となっています。
最後に、ガソリンスタンド事業は地域の暮らしやモータリゼーションの一端を支える重要なインフラでもあります。たとえ需要が漸減していったとしても、地方や過疎地では「なくてはならない存在」として残るスタンドも多いでしょう。そのようなスタンドを支援し、持続可能な形で残していくためにも、M&Aを含む再編や業態転換は避けては通れない道といえます。
本記事が、ガソリンスタンド業界におけるM&Aの実態や将来について理解を深める一助となれば幸いです。業界の変化は激しく、最新動向のウォッチが欠かせませんが、ぜひ今後のニュースにも注目してみてください。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。