- 1. はじめに
- 2. 電気工事業界におけるM&Aの背景と特徴
- 3. 主なM&A事例と詳細分析
- 3-1. 綜合警備保障<2331>による日本ファシリオ子会社化
- 3-2. 南海辰村建設<1850>による京阪電気商会子会社化
- 3-3. 富士古河E&C<1775>による町田電機商会子会社化
- 3-4. 田中商事<7619>の八汐電気・カワツウ子会社化
- 3-5. 東テク<9960>による尾髙電工子会社化
- 3-6. 正興電機製作所<6653>による正興電気建設子会社化
- 3-7. 燦キャピタルマネージメント<2134>による高山エンジニアリング子会社化
- 3-8. 北陸電力<9505>による北陸電気工事<1930>のTOB子会社化
- 3-9. 東洋テック<9686>による明成子会社化
- 3-10. 北陸電気工事<1930>によるスカルト・日建・蒲原設備工業子会社化
- 3-11. 加賀電子<8154>による東京電電工業子会社化
- 3-12. 鴻池運輸<9025>によるエヌビーエス子会社化
- 3-13. 高島<8007>による新エネルギー流通システム子会社化
- 3-14. ミライト・ワン<1417>による国際航業子会社化
- 3-15. ミライト・ホールディングス<1417>による塚田電気工事子会社化、シンガポールYL Integrated子会社化
- 3-16. ラックランド<9612>の光電機産業スポンサー支援とニイクラ電工子会社化
- 3-17. トシン・グループ<2761>によるミライ電材・トシン電機沼津店の譲渡関連
- 3-18. フジ住宅<8860>による雄健建設グループ3社子会社化
- 3-19. マクセルHD<6810>による泉精器製作所子会社化
- 3-20. マイスターエンジニアリング<4695>による栄信電気工業子会社化
- 3-21. スズキ太陽技術<1432>による大香電工子会社化
- 3-22. セキュア<4264>によるジェイ・ティー・エヌ子会社化
- 3-23. ダイサン<4750>によるシンガポールMiradorグループ3社子会社化
- 3-24. スーパーツール<5990>による北田電工子会社化
- 3-25. ケーズホールディングス<8282>によるサワハタキャリーサービス株式交換子会社化
- 3-26. エコモット<3987>によるパワーでんきカンパニー事業取得
- 3-27. エムティジェネックス<9820>によるアイテック子会社化
- 3-28. オーテック<1736>によるフルノ電気工業子会社化
- 3-29. オーウイル<3143>によるメビウスの電気工事事業取得
- 3-30. アウトソーシング<2427>による米軍施設向け電気工事企業3件の子会社化
- 3-31. ETSホールディングス<1789>による岩井工業所・ユウキ産業子会社化
- 3-32. JESCOホールディングス<1434>による菅谷電気工事・阿久澤電機子会社化
- 4. 電気工事業界M&Aの成功要因と注意点
- 5. 今後の業界見通しと展望
- 6. おわりに
1. はじめに
近年、電気工事業界におけるM&A(企業の合併・買収)が活発化しているといわれています。社会インフラの多様化や再生可能エネルギーへのシフト、デジタル化・スマート化の進展など、電気工事に対するニーズが急速に拡大し、かつ多様化する中で、企業同士の統合や協業によるスケールメリット獲得は非常に重要な戦略となっています。
本記事では、電気工事業界を巡るM&A動向を多方面から解説し、実際に発表された事例を数多く取り上げながら、そこに見られる特徴や狙い、そして得られるシナジー効果について考察いたします。読者の皆様が電気工事業界のM&Aの実情を把握する一助になれば幸いです。
本記事の分量はかなり長くなりますが、電気工事業界をとりまく現状や主要プレイヤーの戦略的意図をできる限り理解していただくため、事例ごとに詳細な背景を盛り込みました。最後までお付き合いいただき、今後の業界や市場に対する理解を深めていただければと存じます。
2. 電気工事業界におけるM&Aの背景と特徴
2-1. インフラ需要の高まりと電気工事の役割
電気工事業界は、電力・通信インフラの建設や保守を担う、社会基盤にとって欠かせない存在です。日本国内だけを見ても、老朽化したインフラ施設の更新需要や、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)設備の普及、5Gや光ファイバーなど通信インフラの拡充といった大規模な事業が次々に見込まれています。こうした背景から電気工事の需要は堅調に推移しており、新規参入を含めた競争環境が活性化しているといえるでしょう。
2-2. 業界再編と技術者不足の問題
一方で、業界には深刻な課題も存在します。とりわけ人手不足や技術者の高齢化が問題視されています。高度な技術力や現場経験を有する人材の確保は容易ではなく、慢性的な人材不足が今後ますます顕在化する懸念があります。
このような中で、M&Aによる技術者の確保や施工能力の拡充、あるいは地域に根差した営業ネットワークや顧客基盤の獲得が、企業成長の主要戦略として注目を集めています。つまり、単なる売上拡大だけではなく、経営資源の確保という観点でM&Aが活発になっているのです。
2-3. ゼネコン・設備投資関連企業の参入と「ワンストップサービス」志向
電気工事業は、建設・設備投資の一部門として扱われることが多く、近年ではゼネコンやハウスメーカー、機械設備工事会社などが電気工事領域に参入し、施工範囲を広げる傾向があります。その際、ゼネコンや大手メーカーにとっては電気工事会社の買収や資本業務提携を行うことで、グループ内で設備工事一式を「ワンストップ」で提供できる体制を整えたいというニーズが高まっています。
一方、設備工事会社や電気工事会社の側も、大手資本のグループ入りによって経営基盤を安定化させるとともに、新技術の導入や営業網の拡大を図るメリットがあります。このように、需要の増加に伴い、施工からメンテナンスまで一貫して取り扱える体制づくりに向けたM&Aが相次いでいるのです。
2-4. 再生可能エネルギーやスマートシティ・デジタル化への対応
再生可能エネルギーやスマートシティなど、新しいビジネスチャンスが多様化しています。太陽光発電設備の普及に伴う電気工事、IT化・IoT化に対応した通信設備・防犯設備工事など、電気工事会社が従来の枠を超えて活躍する領域が急拡大しているのです。このような時流をうまく取り込みつつ、自社で対応しきれない部分はM&Aで外部リソースを獲得する動きが促進されています。
以上のような要因が重なり合い、電気工事業界は大小さまざまなM&Aが続々と行われています。次章では、実際に行われた具体的な事例を取り上げ、それぞれの背景や狙い、シナジー効果などを考察してまいります。
3. 主なM&A事例と詳細分析
ここでは、電気工事業界において近年報道・発表された多数のM&A事例を見ていきます。各企業によって目的や意図が異なり、それぞれに特徴的な要素があります。実際に以下に挙げる事例の多くは、人材や施工技術の確保、営業基盤の拡大、再生可能エネルギーやデジタル化への対応などが背景にあり、業界全体として非常に興味深い動きとなっています。
3-1. 綜合警備保障<2331>による日本ファシリオ子会社化
- 概要
綜合警備保障(ALSOK)が、電気工事など設備工事を中心に手がける日本ファシリオを子会社化し、株式88.82%を取得しました。取得価額は63億円とされています(2010年12月発表)。もともとセキュリティ関連の大手である綜合警備保障は、セキュリティ事業との相乗効果を期待して設備工事分野へ進出し、グループの収益力を強化する狙いでした。 - 狙いと特徴
セキュリティシステムの設置工事において、電気工事のノウハウは不可欠です。警備保障企業が自前の設備工事部門を強化することで、ソリューション提供の一貫性を高めたいという意図が明確に表れています。また、日本ファシリオの売上高約170億円という規模もあり、ある程度の施工力と実績を有する企業を取り込むことで一気に事業拡大を図ることが期待できます。
3-2. 南海辰村建設<1850>による京阪電気商会子会社化
- 概要
南海電鉄グループの建設会社である南海辰村建設が、総合電機設備分野で多数の施工実績を持つ京都の京阪電気商会を87.8%の株式取得により子会社化しました(2013年9月発表)。京阪電気商会の売上高は約8億8700万円。 - 狙いと特徴
南海辰村建設はゼネコンとしてのポジションを強化するため、電気設備分野におけるノウハウや人材を獲得することを目指しました。京阪電気商会の電気設備に特有の積算監理ノウハウや既存営業基盤の活用により、原価削減や受注能力の向上が狙いとされています。
3-3. 富士古河E&C<1775>による町田電機商会子会社化
- 概要
富士古河E&Cが、長野県の電気工事会社である町田電機商会を完全子会社化(2019年7月)しました。町田電機商会は1952年設立、売上高約4億1900万円を誇り、長野県内を中心に営業基盤を持っています。 - 狙いと特徴
電気工事業の地域企業を取り込むことで、富士古河E&Cの施工体制を強化し、地方での受注機会を増やす狙いがあります。大手グループとしての資金力やブランドを活かし、地方の電気工事企業の安定成長をサポートすると同時に、自社の事業範囲も広げる典型的な地方攻略の手法といえます。
3-4. 田中商事<7619>の八汐電気・カワツウ子会社化
- 概要
電気工事材料と電気器具の総合卸売商社である田中商事は、栃木県の八汐電気を全株式取得(2009年3月)、さらに弱電・防災設備工事を手がけるカワツウも株式89%取得(2020年8月)により子会社化しました。 - 狙いと特徴
田中商事はこれまで電気工事材料の卸売が中心でしたが、実際の施工部門をグループ内に取り込むことで、工事受注やメンテナンス分野への展開を強化できるメリットがあります。八汐電気の売上高は約4億9000万円、カワツウの売上高は約6億6600万円と、いずれもそこそこの規模感を持つ会社であり、地域密着の強みを活かして田中商事グループ全体の営業網を拡充したい意図がうかがえます。
3-5. 東テク<9960>による尾髙電工子会社化
- 概要
空調機器の販売やメンテナンスを手掛ける東テクが、電気工事会社の尾髙電工を全株式取得して子会社化(2008年2月)しました。取得価額は約6億2000万円と公表されています。 - 狙いと特徴
空調機器の取り扱いに加え、電気工事やメンテナンスを含む総合的なサービスを提供できる体制の構築が狙いでした。尾髙電工は1973年設立で千葉市内に基盤を持ち、売上高約6億8800万円の堅実な企業です。首都圏での施工・サービス体制拡充を目指す一環としてのM&Aと言えます。
3-6. 正興電機製作所<6653>による正興電気建設子会社化
- 概要
正興電機製作所は、福岡市の電気工事・機械器具設置工事を手がける正興電気建設(売上高5億7800万円)を完全子会社化(2016年12月)しました。もともと正興電機製作所が20%を保有していましたが、株式を80%追加取得して100%保有としました。 - 狙いと特徴
グループ内での工事施工能力を強化し、メンテナンスサービスを拡充する目的が大きいと考えられます。電気装置の製造販売だけでなく、設置から保守までを手がける体制づくりは、電気工事業界においてもトレンドの一つです。
3-7. 燦キャピタルマネージメント<2134>による高山エンジニアリング子会社化
- 概要
太陽光発電設備工事などを手がける高山エンジニアリングを、燦キャピタルマネージメントが51%取得して子会社化(2023年6月)しました。後に同社は「サンテック」に社名変更されています。 - 狙いと特徴
再生可能エネルギーを取り巻く事業領域に注力する一環として、特定建設業許可を持つ高山エンジニアリングを傘下に収め、早急に事業拡大を図った事例です。案件発生時に工事が受注できる許認可を獲得することは、太陽光や風力といった領域では必須条件となるため、こうした買収は今後も増えることが予想されます。
3-8. 北陸電力<9505>による北陸電気工事<1930>のTOB子会社化
- 概要
北陸電力は持ち分法適用会社であった北陸電気工事にTOB(株式公開買付)を実施(2015年1月)し、所有比率を30.36%から50.1%以上に引き上げ、子会社化を図りました。総額約39億1800万円を投じ、買付価格を1株あたり850円として実施。 - 狙いと特徴
電力の小売全面自由化に対応し、総合エネルギー事業を強化する目的です。電力会社が関連工事会社をしっかり子会社化することで、再編のスピードや制御を高め、競争力を確保しようとする動きが背景にあります。上場は維持する方針となりましたが、資本関係を強化することで、工事分野における連携をさらに深める狙いがあったのです。
3-9. 東洋テック<9686>による明成子会社化
- 概要
東洋テックは、消防用設備・監視カメラなどの電気工事や清掃事業を手がける明成を全株式取得(2020年10月)し、子会社化しました。明成は売上高3億7800万円、営業利益2500万円、純資産1億1400万円と、安定した収益を上げていた企業です。 - 狙いと特徴
警備事業やビル管理事業を展開する東洋テックにとって、電気工事・設備工事会社を取り込むことで、ビルメンテナンスや警備システムの施工面でも一体化を図り、相乗効果を期待しています。すでに保有している顧客基盤に、明成の施工ノウハウを付加することで、「サービスの一括提供」という強みをより強固にする動きといえます。
3-10. 北陸電気工事<1930>によるスカルト・日建・蒲原設備工業子会社化
- 概要
先述の北陸電力の子会社化に関連する北陸電気工事も、積極的なM&Aを行っています。福井県のスカルト(売上高12億4000万円)、横浜市の日建(売上高62億5000万円)、新潟県の蒲原設備工業(売上高4億2100万円)などを立て続けに買収し、子会社化しました(2022年~2023年にかけて)。 - 狙いと特徴
北陸地域での商圏拡大、関東圏への進出、新潟エリアへの進出など、地域戦略を明確化しています。日建や蒲原設備工業はいずれも管工事に強みを持ち、電気工事に加えて上下水道や空調設備など幅広く取り扱う施工能力を有しています。北陸電気工事はこうした複数分野の工事案件を一括で請け負う体制を整備することで、受注拡大と経営基盤の強化を同時に狙っていると考えられます。
3-11. 加賀電子<8154>による東京電電工業子会社化
- 概要
加賀電子の連結子会社である加賀ソルネットが、電気・通信設備工事を手がける東京電電工業(2009年6月)を買収しました。東京電電工業は1953年設立の老舗で、電気設備工事や内装工事などを主力にしてきた会社です。 - 狙いと特徴
IT機器販売やネットワーク構築を展開する加賀ソルネットにとって、電気工事や内装工事まで対応できる体制を内部に持つことで、ネットワークソリューションを含む「ワンストップサービス」を提供できるメリットが大きいとされています。許認可が必要となる電気工事をグループ内でまかなえるようになった点も注目に値します。
3-12. 鴻池運輸<9025>によるエヌビーエス子会社化
- 概要
物流・倉庫事業を主力とする鴻池運輸は、発電所やエネルギー関連プラントでの電気工事を手がけるエヌビーエス(福岡市)を全株式取得(2018年5月)し、子会社化しました。 - 狙いと特徴
鴻池運輸はプラント機器や設備の据え付け工事などの実績を持っていますが、電気工事や計装技術にまでは十分なリソースを持っていませんでした。そこでエヌビーエスを傘下に取り込むことで、一貫したプラントエンジニアリングサービスを提供可能とし、付加価値を高める狙いがあります。
3-13. 高島<8007>による新エネルギー流通システム子会社化
- 概要
商社機能を持つ高島は、太陽光発電システムやオール電化システムの電気工事に強みを持つ新エネルギー流通システム(福岡県)を全株式取得(2022年12月)しました。売上高20億8000万円の企業です。 - 狙いと特徴
国のグリーン戦略の中でも、家庭用電力として電気自動車のバッテリーを活用するV2H技術などが重要視されている状況で、電気工事を実際に行える施工能力は今後さらに評価されます。高島はエネルギーソリューション分野に注力するため、九州から東北まで支店を展開する同社の電気工事機能を獲得し、カーボンニュートラル関連事業を強化しています。
3-14. ミライト・ワン<1417>による国際航業子会社化
- 概要
ミライト・ワンは米投資ファンド・カーライルグループ傘下にあった航空測量大手の国際航業を全株式取得(約455億円)して、2023年12月に子会社化予定と発表しました。国際航業は空間情報技術や企画提案・設計能力を有し、ミライト・ワンの通信・電気工事ノウハウとの融合が狙いです。 - 狙いと特徴
ミライトグループは通信インフラ工事の大手ですが、インフラ老朽化対策や防災、地理空間情報サービスとの融合に着目しており、大規模な買収に踏み切った格好です。国際航業は過去に上場廃止を経てさまざまな資本移動がありましたが、今回ミライト・ワンの傘下に入ることで、インフラ系ビジネスの多角化・高度化に拍車がかかると見られています。
3-15. ミライト・ホールディングス<1417>による塚田電気工事子会社化、シンガポールYL Integrated子会社化
- 塚田電気工事
仙台市のTTK(東北特殊電気株式会社)を通じて、宮城県を中心に事業を展開する塚田電気工事を株式交換により完全子会社化(2018年12月)しました。塚田電気工事は売上高11億9000万円、東北6県と東京近郊で電気工事を手がけています。TTKと連携し、東北地区での電気工事案件の拡大を狙いました。 - シンガポールYL Integrated
ミライトHDは2020年4月、シンガポール子会社のLantrovisionを通じて、電気工事会社YL Integrated(売上高約20億6000万円)を85%取得し子会社化しました。東南アジア地域での電気工事需要に対応し、Lantrovisionが主力とするLAN配線工事との相乗効果を追求する事例です。
3-16. ラックランド<9612>の光電機産業スポンサー支援とニイクラ電工子会社化
- 光電機産業スポンサー支援
ラックランドは2014年、民事再生手続き中の光電機産業を支援し、同社に出資することでスポンサーとなりました。電気工事に強みを持つ光電機産業を傘下に取り込み、飲食店の店舗制作だけでなく電気工事分野の技術力を確保しました。最終的には5000万円の増資を引き受けています。 - ニイクラ電工子会社化
2013年にはニイクラ電工(神奈川県綾瀬市、売上高約1億8700万円)を全株式取得しており、電気工事の受注増に対応する狙いがあります。飲食店舗などの空調・冷凍設備や電気設備工事を内製化することで、付加価値の高いサービスを提供する形を模索しています。
3-17. トシン・グループ<2761>によるミライ電材・トシン電機沼津店の譲渡関連
- ミライ電材羽村店の譲渡
電気工事材料の卸売を手がけるミライ電材羽村店(売上高8960万円)の株式75%を、代表者に譲渡(2009年12月)しました。経営者の高齢化や後継者問題を背景としたMBO(経営陣による買収)の一種です。 - トシン電機沼津店の譲渡
トシン電機沼津店(売上高3億6500万円)の株式60%を、代表取締役の横田氏に譲渡(2011年2月)しました。こちらも独立を促す形で、トシン・グループが保有していた株式を譲渡した格好です。
これらは「M&A=買収」だけでなく、グループが保有する企業を外部に譲渡するケースもある点が業界再編の一環として興味深いところです。
3-18. フジ住宅<8860>による雄健建設グループ3社子会社化
- 概要
フジ住宅は2020年1月、大阪を拠点とする雄健建設(売上高29億7000万円)をはじめ、関西電設工業(売上高8億4800万円)、日建設備工業(売上高8700万円)の3社を子会社化しました。 - 狙いと特徴
フジ住宅は主に住宅分野で実績を持ちますが、雄健建設グループを取り込むことで、鉄骨造やRC造などの大型建築物にも対応できる体制づくりを目指しています。電気工事や空調・給排水設備工事の施工力をグループ内に取り込むことで、より幅広い顧客ニーズに応えることができます。
3-19. マクセルHD<6810>による泉精器製作所子会社化
- 概要
マクセルHDは、日本政策投資銀行との共同出資による特別目的会社を通じて、家電・電設工具を手がける泉精器製作所(長野県松本市)を事実上買収(2018年10月)。泉精器は電気工事に使われる電設工具、理美容機器や調理家電などを取り扱う老舗企業で、売上高142億円と規模も大きいです。 - 狙いと特徴
マクセルHDは電設工具分野への参入によって、同社の電池技術(リチウムイオン電池など)や充電器との連携を図り、住生活・インフラ市場での事業拡大を狙っています。電設工具市場がIoT化していく流れの中、バッテリー製品の組み合わせなどシナジーが期待されています。
3-20. マイスターエンジニアリング<4695>による栄信電気工業子会社化
- 概要
マイスターエンジニアリングが電気工事請負業の栄信電気工業(さいたま市)を全株取得して子会社化(2012年1月)。売上高約4億7600万円。 - 狙いと特徴
ファシリティ関連事業や太陽光・環境関連ビジネスを強化する目的で、電気工事企業を取り込んだケースです。電気設備工事の請負ノウハウを自社グループに取り込み、建物・設備のトータルメンテナンス事業を拡充する動きが確認できます。
3-21. スズキ太陽技術<1432>による大香電工子会社化
- 概要
スズキ太陽技術は電気設備工事を手がける大香電工(愛知県西尾市、売上高9900万円)を全株式取得(2016年2月)。電気工事に関するノウハウ共有を通じ、エネルギー分野の事業領域拡大を目指すとしています。 - 狙いと特徴
比較的小規模な買収ながら、エネルギー分野で電気工事の内製化や専門人材の確保が狙いです。資本関係を通じて地方の工事会社と協働し、地場での強みを生かした展開を加速させる形といえます。
3-22. セキュア<4264>によるジェイ・ティー・エヌ子会社化
- 概要
セキュアは、電気通信・電気工事のジェイ・ティー・エヌ(横浜市、売上高4億8700万円)を全株取得(2024年1月予定)し、子会社化すると発表しました。取得価額は約7億9500万円。 - 狙いと特徴
セキュアは入退室管理や監視カメラシステム構築などを手がけており、電気・通信工事の施工人員不足リスクを軽減することが主要な狙いです。電気通信設備の設置から保守まで一括対応できる体制を整え、事業拡大を図ります。
3-23. ダイサン<4750>によるシンガポールMiradorグループ3社子会社化
- 概要
ダイサンは2019年5月、シンガポールのMirador Building Contractor(MBC)をはじめとする3社を最大17億4000万円で完全子会社化すると発表しました。Miradorグループはプラントメンテナンスでの足場工事や電気工事などを手がけています。 - 狙いと特徴
足場のトップメーカーであるダイサンが、海外でのインフラメンテナンス市場開拓を狙う事例です。電気工事や熱絶縁工事など、複数の分野をまとめて受注できるグループを取り込むことで、東南アジアでの事業基盤確立につなげています。
3-24. スーパーツール<5990>による北田電工子会社化
- 概要
工具メーカーのスーパーツールは2015年3月、子会社を通じて電気工事業の北田電工(堺市)を全株式取得し、「スーパーツールECO」に商号変更しました。 - 狙いと特徴
太陽光発電設備などの工事受注において、工具メーカーであるスーパーツールが工事部門を持つことで、ワンストップ対応が可能になります。関連部材や工具、さらに設置工事まで含めた総合サービスの提供を図る戦略が読み取れます。
3-25. ケーズホールディングス<8282>によるサワハタキャリーサービス株式交換子会社化
- 概要
家電量販店大手のケーズHDは、運送・電気工事などを行うサワハタキャリーサービスを株式交換で子会社化(2022年3月2日予定)しました。同社はケーズHDグループの配送や工事業務を長年請け負っており、売上高17億3000万円。 - 狙いと特徴
家電製品の配送設置・工事を安定的に行う人材リソースを確保する意図があります。家電量販店において、配送や設置・初期設定の品質は顧客満足度を左右する重要要素であるため、外部委託よりも子会社化して統制を強化する選択をしたと考えられます。
3-26. エコモット<3987>によるパワーでんきカンパニー事業取得
- 概要
エコモットは2022年12月、パワーでんきカンパニー(群馬県高崎市)が手がける太陽光設備造成・電気工事事業を取得しました。売上高8億6500万円規模の事業です。 - 狙いと特徴
蓄電池や太陽光関連ビジネスへの取り組みを一層強化する狙いです。エコモットはIoTソリューションなどを展開しており、再生可能エネルギーの発電管理や蓄電池システムとのシナジーを狙っています。
3-27. エムティジェネックス<9820>によるアイテック子会社化
- 概要
エムティジェネックスは、電気工事業のアイテック(京都市、売上高6億2200万円)を全株式取得(2024年1月予定)し、子会社化すると発表しました。アイテックは西日本各地で商業施設や病院などの電気・情報通信工事を行っています。 - 狙いと特徴
エムティジェネックスはオフィスビル内装工事や駐車場管理など多角経営を進めており、電気工事業を追加することで事業領域の拡大と新規顧客の獲得を目指します。既存事業と電気工事のシナジーを創出し、案件拡大に繋げる戦略です。
3-28. オーテック<1736>によるフルノ電気工業子会社化
- 概要
オーテックは北海道留萌市のフルノ電気工業(売上高約2億400万円)を全株式取得(2016年8月)しました。官公庁案件にも強く、道北地域での施工実績が豊富です。 - 狙いと特徴
北海道の広い地域で安定した受注が見込まれる公共工事分野において、地域密着企業のフルノ電気工業を取り込むことで地盤を固める狙いがあります。また、技術者不足への対策としても有効です。
3-29. オーウイル<3143>によるメビウスの電気工事事業取得
- 概要
食品や雑貨などを扱う商社機能を持つオーウイルは子会社を通じ、メビウス(東京都狛江市)の電気工事事業を取得(2020年12月)。業務用大型シーリングファンの販売拡大のため、設置作業機能の内製化が必要と判断したとのことです。 - 狙いと特徴
大型ファンや空調設備の分野で工事案件が増加する中、外注に頼るよりも自前の工事部隊を持った方が融通が利き、コスト面・品質面でメリットがあると考えられます。
3-30. アウトソーシング<2427>による米軍施設向け電気工事企業3件の子会社化
- 概要
アウトソーシングは、米国内やグアムで米軍基地向けの電気通信工事や空調工事を手がける企業を次々と買収しています。
- 2016年8月:アメリカンエンジニアコーポレイション(AEC)を日本国内の米軍基地案件を中心に、空調・電気工事分野での実績を確保するため買収。
- 2021年4月:グアムのCalifornia Pacific Technical Services(CalPac)を取得。
- 2021年7月:Integrity Networksを子会社化。米本土の米軍施設案件に強み。
- 狙いと特徴
米軍施設向け事業は為替リスクなどはあるものの、景気変動の影響を受けにくい安定市場とみなされています。アウトソーシングは人材派遣や請負事業の多角化の一環として、特殊な工事案件を獲得する狙いがあります。
3-31. ETSホールディングス<1789>による岩井工業所・ユウキ産業子会社化
- 概要
ETSホールディングスは、送電線・地中線工事で実績を持つ岩井工業所(岡山、売上高3億3800万円)を取得(2021年9月)、さらに空調工事・水処理工事のユウキ産業(大阪、売上高5億800万円)も子会社化(2021年12月)しました。 - 狙いと特徴
電気工事と各種設備工事の一括受注体制を構築することで競争力を高めたい意図があります。岩井工業所は中国電力向け送電線工事の実績豊富で、ユウキ産業は空調・水処理に強みを持ちます。ETSホールディングスとしては、電力インフラやビルメンテナンス分野での総合力を底上げする買収です。
3-32. JESCOホールディングス<1434>による菅谷電気工事・阿久澤電機子会社化
- 概要
JESCOホールディングスは2017年から北関東でのM&Aを積極化しています。菅谷電気工事(前橋市、売上高10億9000万円)を2017年10月に73.4%取得し、2018年9月に100%としました。さらに2022年9月には阿久澤電機(高崎市、売上高4億7700万円)を子会社化し、群馬県全域と近隣県での営業展開を強化しています。 - 狙いと特徴
電気・電気通信工事に強みを持つ地域企業の買収により、地元の公共工事や企業案件を効率的に取り込みたいという狙いが鮮明です。群馬県は首都圏にも近く、関東全域への拡張の拠点として重要な位置づけといえます。
4. 電気工事業界M&Aの成功要因と注意点
ここまで多岐にわたる事例を見てきましたが、電気工事業界におけるM&Aで成功するためには、以下のようなポイントが重要と考えられます。
- 技術者・技能者の確保と定着
電気工事は有資格者や現場経験のある人材が不可欠であり、人材不足が深刻化する中で、買収先企業の技術者をいかにスムーズに自社グループに取り込み、モチベーションを維持させるかが成否の大きな要因となります。 - 営業エリアや顧客基盤の拡大
もともと大手企業が電気工事会社を取り込む場合、狙いとして地域に根差した顧客基盤を活かすことが大きいです。買収前後で顧客企業の信用不安が生じないよう、既存の商流を継続させながらシナジーを生む必要があります。 - 施工ノウハウや許認可の活用
電気工事や通信工事は、建設業許可や各種資格がなければ請け負えない案件があります。M&Aによりこれらの許認可をスムーズに手に入れ、同時に現場のノウハウを取り込むことができる反面、文化や管理体制の統合がスムーズでないと、ノウハウが共有されずに終わるリスクもあります。 - ワンストップソリューションの提供
電気工事だけでなく、空調や配管、防犯カメラ、セキュリティなどの複数分野を一括で提供する体制を構築できれば、顧客満足度が高まり、競合他社との差別化につながります。買収後の企業間連携を綿密に計画し、総合的な提供体制を整えることが重要です。 - 文化・組織統合における丁寧なマネジメント
M&Aによる組織・文化の統合は一筋縄ではいきません。特に地場の電気工事会社は地域密着の社風を持ち、人間関係などが経営の根幹を支えているケースも多いです。大手企業の資本力を活かしつつも、地域の特性に合った柔軟な施策を取ることで、従業員や取引先との関係を良好に保つことが重要です。
5. 今後の業界見通しと展望
電気工事業界では、今後も老朽化インフラの更新需要、高速通信インフラの普及、さらに環境配慮型エネルギー施設の整備など、大きな市場機会が期待できます。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展やスマートシティ構想が本格化すれば、電気工事・通信工事・設備工事を総合的に提供できる企業体の重要性はさらに高まるでしょう。
また、建設業全般に言えることですが、担い手不足・若年層の技術者育成といった課題が大きく、企業規模を拡大しながら効率的に人材教育・研修を行う必要があります。こうした課題解決の手段として、M&Aは今後も一層推進される可能性があります。特に、地方企業や専門的な技術に特化した中小規模の電気工事会社は、積極的に買い手が付きやすい市場環境にあると言えます。
一方、大手企業同士の統合についても、電力会社とグループ企業の一体化、通信大手と電気工事会社の資本提携などが加速する可能性があります。カーボンニュートラルや再生可能エネルギー分野でも、大手や新興企業が関連施工会社を取り込む動きが増えるでしょう。
今後の展望としては、
- 通信・IT分野との連携強化
- 環境エネルギー分野への参入・拡充
- 老朽インフラ更新市場の取り込み
- 海外展開やインバウンド需要対応
などがキーワードとして挙げられます。電気工事業界はこれまでの「地味な工事部門」から脱却し、最先端の技術と社会インフラを結びつける中核産業へと変容しつつあります。その中でM&Aを活用した事業拡張は避けて通れない手段となり得るのです。
6. おわりに
本稿では、電気工事業界における多数のM&A事例を概観しながら、業界背景やM&Aの特徴、成功要因や今後の展望について考察してまいりました。電気工事業界は、産業構造の変化や社会インフラ・環境配慮型エネルギーへの投資拡大を背景に、大きな成長ポテンシャルを秘めています。しかし同時に、技術者不足や経営者の高齢化、地域密着企業の後継者問題など、長年抱えている課題も浮き彫りになっています。
M&Aはこれらの課題を解決する有効な手段となる一方、買い手・売り手双方にとってメリットとリスクが存在します。企業文化の統合や技術ノウハウの共有、従業員のモチベーション維持など、成功のためには慎重で丁寧な取り組みが求められます。
今後も電気工事業界におけるM&Aはさらに多様化し、大手企業だけでなく中堅・中小企業間の統合や、海外企業との資本提携も含めて盛んに行われていくでしょう。本記事が、電気工事業界でのM&Aの姿を理解するうえでの一助となりましたら幸甚です。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。