目次
  1. 1. 解体工事業界を取り巻く背景と現状
  2. 2. 解体工事業界におけるM&Aの意義
  3. 3. 主なM&A事例の概説
    1. 3-1. 大栄環境<9336>による栄和リサイクルの子会社化(2024年1月24日公表)
    2. 3-2. 大栄環境<9336>による海成の子会社化(2024年12月6日公表)
    3. 3-3. 燦キャピタルマネージメント<2134>による高山エンジニアリング(サンテック)の子会社化(2023年6月16日公表)
    4. 3-4. 新東京グループ<6066>による子会社・新東京トレーディングの譲渡(2019年5月16日公表)
    5. 3-5. ベステラ<1433>によるヒロ・エンジニアリングの子会社化(2018年3月16日公表)
    6. 3-6. ベステラ<1433>によるインターアクションの3次元スキャン・モデリング事業取得(2019年12月10日公表)
    7. 3-7. ベステラ<1433>による矢澤の子会社化(2021年10月29日公表)
    8. 3-8. オカダアイヨン<6294>による米国TT&Eグループ事業の取得(2022年12月12日公表)
    9. 3-9. コンセック<9895>による丸金建設の子会社化(2023年8月31日公表)
    10. 3-10. フジコー<2405>のMBOによる非公開化(2019年11月1日公表)
  4. 4. 解体工事業界のM&Aが注目される背景
    1. 4-1. 建設業界全体の人手不足と技術継承
    2. 4-2. 廃棄物処理・リサイクル事業とのシナジー
    3. 4-3. 法改正や環境規制の強化
    4. 4-4. 地域拡大・エリア戦略
    5. 4-5. 建設DXと新技術(3Dスキャンなど)の取り込み
  5. 5. M&Aによるシナジー効果とリスク
    1. 5-1. シナジー効果(売上拡大、効率化、技術力向上など)
    2. 5-2. 組織統合リスクとカルチャーの不一致
    3. 5-3. 許認可・免許要件に関するリスク
    4. 5-4. 経営資源の集中とノンコア事業切り離し
  6. 6. 解体工事企業がM&Aを活用するメリット
    1. 6-1. 事業領域の拡張と垂直統合
    2. 6-2. 工事受注やアセット(重機・設備等)の共有化
    3. 6-3. 人材獲得と熟練技術者確保
    4. 6-4. 資本力強化と経営の安定化
  7. 7. 今後の展望:解体工事業界M&Aの方向性
    1. 7-1. 環境ビジネスとのさらなる融合
    2. 7-2. 建築・土木以外の新規分野への参入
    3. 7-3. 海外展開と国際的な事業機会
    4. 7-4. 中小企業の事業承継の加速
  8. 8. まとめ

1. 解体工事業界を取り巻く背景と現状

解体工事は、建築物やインフラの老朽化、都市開発に伴う建て替え・再開発、災害復興など、多岐にわたる需要を持つ分野です。建物やプラントなどの大型構造物においては、解体工事に専門的な技術が求められると同時に、産業廃棄物や有害物質(アスベストやダイオキシンなど)の適正処理が非常に重要です。

日本国内では高度成長期に建設された建物や道路・橋梁といったインフラが老朽化し、今後数十年にわたって更新需要が高まると見込まれています。そのため、解体工事の需要自体は堅調に推移する見通しです。一方、建設業界全体に共通する課題である人材不足や後継者不足が解体工事業界にも波及しており、企業規模を拡大して生き残りを図る動きが活発化しています。

また、建築リサイクル法や廃棄物処理法などの法規制が強化される中で、解体後に発生する廃棄物処理やリサイクルにも専門的な設備とノウハウが必要とされるようになりました。そのため、解体工事と廃棄物処理・リサイクル事業を一貫して行える体制が競争力の源泉となり、結果的に業者間の再編や提携、M&Aが促進されているのが現状です。


2. 解体工事業界におけるM&Aの意義

解体工事業界でのM&Aは、大きく以下のような意義を持っています。

  1. 事業領域の拡大
    解体に限らず、廃棄物の収集運搬や中間処理、さらには再資源化まで一貫して手がける企業が増えています。こうした垂直統合によって、解体で発生する廃棄物をグループ内で処理することでコスト削減や手続きの簡略化を図る動きが強まっています。
  2. 地域拡大・販路の確保
    解体工事は地域密着型の工事案件が多い反面、大規模再開発や公共工事などでは首都圏や特定エリアに需要が集中する傾向があります。新たなエリアへの進出を目的に、地元に根ざした会社を買収・子会社化するケースが少なくありません。
  3. 技術・人材の補完
    アスベスト除去のような専門工事や、大規模プラントの解体に伴う特殊技術など、個々の企業が持つ技能や工事実績を取り込むことで、総合力のある解体工事会社を目指す動きが活発化しています。人材不足の解消や後継者問題の解決も大きな目的の一つです。
  4. 建設DXや3Dスキャン技術の内製化
    解体工事の効率化と安全性向上に欠かせないのが、3Dスキャンやモデリングによる精密な事前調査・シミュレーションです。ベステラ<1433>の事例のように、関連技術やノウハウを持つ企業や事業を買収し、自社の付加価値向上を狙うケースも増えています。
  5. 事業承継・オーナーのExit
    中小の解体工事会社では、経営者の高齢化や後継者不足が深刻な問題となっています。大手・中堅企業がそれらを買収し、ノウハウと人材を受け継ぐことでウィンウィンの関係を築く、いわゆる“事業承継型M&A”も活発化しています。

3. 主なM&A事例の概説

本節では、公表されている代表的なM&A・事業譲渡・資本業務提携事例を取り上げ、その背景と狙いを整理します。

3-1. 大栄環境<9336>による栄和リサイクルの子会社化(2024年1月24日公表)

大栄環境は、近畿圏を地盤に廃棄物処理を中心とした環境関連事業を展開してきた企業です。2020年には埼玉県の共同土木を傘下に収め、関東エリアでも中間処理事業を強化していました。今回、建設現場で発生する産業廃棄物の収集運搬業務や総合解体工事を行う栄和リサイクル(東京都新宿区)の全株式を取得し、2024年4月1日付で子会社化を決定しました。

売上高33億1000万円、営業利益4億2800万円、純資産14億6000万円と、産廃収集運搬業としても一定の規模を持つ栄和リサイクルを傘下にすることで、首都圏の収集運搬能力を飛躍的に高める狙いがあります。大栄環境は既に首都圏の中間処理施設を持つ共同土木との連携を加速しており、栄和リサイクルの解体工事機能を組み合わせることで、さらなる業務効率化と取扱いシェア拡大を見込んでいます。

3-2. 大栄環境<9336>による海成の子会社化(2024年12月6日公表)

同じく大栄環境は2024年12月、建物解体業を営む海成(千葉市)の全株式取得を決定しました。売上高11億8000万円、営業利益600万円、純資産3億5900万円という規模の海成を傘下に取り込むことで、関東エリアにおける廃棄物処理事業をさらに強化する狙いです。

解体工事機能をグループ内に取り込むことで、解体で発生する廃棄物をそのまま大栄環境グループの中間処理施設に送ることが可能となり、廃棄物受け入れ量の増加や、工事から廃棄物処理までの一気通貫サービスの提供が期待されます。近畿圏が主力であった大栄環境にとって、今後の人口集積や再開発案件が多い関東エリアでの体制づくりは急務であり、2020年の共同土木買収を皮切りに相次いでM&Aを実施している点が特徴です。

3-3. 燦キャピタルマネージメント<2134>による高山エンジニアリング(サンテック)の子会社化(2023年6月16日公表)

燦キャピタルマネージメントは、太陽光発電などクリーンエネルギー関連の投資や開発事業などを行ってきた企業です。同社は太陽光発電の設備工事分野に進出を狙う中で、高山エンジニアリング(東京都町田市)の株式51%を取得し子会社化しました。太陽光設備工事の需要が見込めるなか、特定建設業許可を早急に取得する必要があったことも背景として挙げられています。

高山エンジニアリングは2022年9月設立ながら、土木一式工事や電気工事、鋼構造物工事、解体工事などに関する特定建設業許可をすでに保有しており、新興企業ながら重要な許認可を揃えていた点が大きな価値となりました。取得価額は2040万円と公表されており、2023年6月30日に取得を完了。その後7月7日付で社名を「サンテック」に変更し、燦キャピタル側が業務提携を強化していることが明らかになっています。

解体工事そのものというよりも、再生可能エネルギー系の工事分野と解体・土木領域を融合させる動きが見られる事例といえます。クリーンエネルギーの普及を後押しする国策のもとで、建設業許可をめぐるM&Aが今後も増えていく可能性が示唆されます。

3-4. 新東京グループ<6066>による子会社・新東京トレーディングの譲渡(2019年5月16日公表)

新東京グループは再生金属資源の売買事業に注力していましたが、そのグループ会社である新東京トレーディング(東京都江東区。売上高8億3800万円、営業利益△2900万円、純資産1億2600万円)の全株式を譲渡することを決定しました。譲渡先は東京都内で解体工事などを営む会社とされています。

新東京トレーディングは中間処理業の許可を持ち、千葉県白井市に金属類の再生プラントを設置していました。しかし、雑品スクラップの市況低迷を受け、グループ内でのシナジーが見込みにくいことが理由とされています。一方で譲渡先である解体工事会社にとっては、中間処理業の許可と再生プラントを取得することにより、解体現場から出る金属スクラップの処理工程を自社で完結し、収益性を高める効果が期待されます。

3-5. ベステラ<1433>によるヒロ・エンジニアリングの子会社化(2018年3月16日公表)

ベステラ<1433>は各種プラントの解体工事を主力とする上場企業で、工事受注の増加が続く一方で慢性的な技術労働者不足に直面していました。そこで労働者派遣や人材サービスを手がけるヒロ・エンジニアリング(東京都新宿区)の第三者割当増資を引き受け、議決権ベースで90%の株式を取得しました。

ヒロ・エンジニアリングは航空宇宙用機器や産業機械などの設計請負も行っており、高い技術力を持つ人材を確保している点が魅力でした。ベステラにとっては、技術労働者不足の解消とプラント解体事業の安定的受注を支える人材確保手段として機能すると考えられます。取得価額は4500万円で、2018年3月30日に株式取得が完了しました。

3-6. ベステラ<1433>によるインターアクションの3次元スキャン・モデリング事業取得(2019年12月10日公表)

ベステラは大規模プラント設備の解体工事に強みを持ち、作業の安全性や効率化向上のために3次元スキャン技術の活用に積極的です。今回の事例では、光源装置・画像検査装置メーカーであるインターアクション(横浜市)から3Dスキャン・3Dモデリング事業、プラント設計事業を取得することを決定しました。

ベステラは、この3Dスキャン技術を新設の子会社「3Dビジュアル(千葉市)」に移管し、解体工事計画の高度化・効率化を図るとされています。プラントや施設の解体を安全に行うためには、事前の調査やモデリングが不可欠であるため、自社グループ内に3Dスキャン技術を取り込む意義は大きいと考えられます。

3-7. ベステラ<1433>による矢澤の子会社化(2021年10月29日公表)

アスベストやダイオキシン対策工事で実績のある矢澤(東京都渋谷区。売上高5億2000万円、営業利益1800万円、純資産8700万円)の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。大規模プラントの解体にも有害物質の除去が伴うケースが増加しており、特殊工事のノウハウを内製化することでベステラの解体工事サービス全体の価値を高める狙いがあります。

アスベストやダイオキシンといった有害物質の処理は、法規制が厳しく、専門的な知識と資格、実績が必要です。大手ゼネコンと継続的に取引してきた矢澤を取り込むことで、ベステラはより幅広い解体工事案件に対応可能な総合解体工事企業へと進化しようとしています。

3-8. オカダアイヨン<6294>による米国TT&Eグループ事業の取得(2022年12月12日公表)

オカダアイヨンは、解体工事で使用される建機アタッチメント(破砕機、鉄骨切断機、つかみ機など)の製造・販売を手がける企業です。海外展開にも注力しており、米国に子会社Okada America, Inc.(オレゴン州)を設立して販売活動を行ってきました。

今回の事例では、1969年設立のTT&Eグループが持つ解体用建機の販売・修理・リース事業を17億5000万円で取得し、Okada Americaが新会社を設立して事業を承継する形となりました。北米市場はインフラ再整備や解体需要が安定的に見込まれるため、アタッチメントビジネスとのシナジーが期待されるものと考えられます。日本国内だけでなく、海外市場を視野に入れた解体関連のM&A事例として注目されます。

3-9. コンセック<9895>による丸金建設の子会社化(2023年8月31日公表)

コンセックはダイヤモンド工具などの切削機具事業、建設資材・生活関連品事業、特殊工事事業(耐震・解体関連)を営む企業です。今回、岡山県倉敷市の土木建設会社・丸金建設(売上高1億6100万円、営業利益103万円、純資産4920万円)を買収し、2023年10月2日に子会社化することを決定しました。

丸金建設は土木や舗装、解体工事などで実績を積んできた企業であり、コンセックにとっては特殊工事事業の基盤拡大につながります。また、地域的に需要が安定している中国地方での受注案件確保と、解体工事以外の分野(舗装や土木)への広がりも期待できるでしょう。

3-10. フジコー<2405>のMBOによる非公開化(2019年11月1日公表)

フジコーは建設廃棄物の中間処理を主力とする企業で、東証2部に上場していました。2019年11月1日にMBO(経営陣による買収)を受け入れ、非公開化することを発表しました。小林直人社長が設立したHOP(千葉県白井市)がTOBを実施し、経営陣・親族が保有する不応募株式を除くすべての株式を買い付ける形で完全子会社化する方針が示されました。

フジコーは1972年の設立以来、家屋害虫の駆除工事からスタートし、家屋解体工事を経て建設系廃棄物処理へ進出してきました。食品系廃棄物やバイオマス発電など新規事業にも取り組んでおり、中長期的な視点での設備投資が必要となる中、短期的な株価や利益動向を気にせず柔軟な経営ができるメリットを考慮し、非公開化に踏み切ったとされています。解体と廃棄物処理を一体で行う企業が、経営戦略に自由度を持たせるために上場を取りやめる動きが見られる点は興味深いです。


4. 解体工事業界のM&Aが注目される背景

上記事例を俯瞰すると、解体工事業界においてM&Aが積極的に行われる理由として、以下の要因が挙げられます。

4-1. 建設業界全体の人手不足と技術継承

日本の建設業界は慢性的な人手不足に悩まされています。特に現場作業を担う若年労働者の減少は深刻です。さらに解体工事は、重機のオペレーションやアスベスト除去といった特殊技能を伴うため、熟練の職人が少ないことが課題です。M&Aによって、人材・技能を集約し、労働力や技術を確保することが急務となっています。

4-2. 廃棄物処理・リサイクル事業とのシナジー

解体工事と廃棄物処理は切っても切り離せない関係です。解体の過程で出てくる廃棄物を自社グループ内で処理できれば、コスト削減のみならず工程管理がしやすくなり、行政への許認可・書類手続き等の負担も軽減されます。そのため廃棄物処理業者が解体企業を取り込む、あるいは解体企業が廃棄物処理・リサイクル業者を買収して垂直統合を強化する動きが進んでいます。

4-3. 法改正や環境規制の強化

建設リサイクル法や大気汚染防止法など、有害物質除去や建設系廃棄物処理に関する規制が近年ますます強化されており、順守すべき基準も厳しくなる傾向にあります。小規模事業者にとっては対応コストが増大するため、認可や技術、設備を持つ大手や中堅事業者に吸収される例が増えています。M&Aを通じて法令順守体制を一体で整え、企業規模を拡大するメリットは大きいといえます。

4-4. 地域拡大・エリア戦略

近畿圏や首都圏など都市部では、再開発案件が次々と計画されており、解体工事の需要が集中しています。一方、地方でも老朽化した公共インフラの解体・撤去工事、災害復興工事などのニーズがあります。大手解体企業や廃棄物処理企業がエリアをまたいでM&Aを行い、拠点を増やして広域展開を図ることは、安定的な受注確保と収益多様化に寄与します。

4-5. 建設DXと新技術(3Dスキャンなど)の取り込み

解体工事の生産性向上と安全性確保のため、3Dスキャンや建設DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集めています。しかし、自前でこれらを開発・導入するにはコストと時間がかかります。そこで既に特定技術を持つ企業をM&Aで獲得し、一足飛びに技術力を高める戦略が有効です。ベステラの事例に見られるように、解体企業が3Dスキャン事業を取得し、解体計画のシミュレーションや顧客提案の高度化を実現する動きは今後も広がる可能性があります。


5. M&Aによるシナジー効果とリスク

5-1. シナジー効果(売上拡大、効率化、技術力向上など)

解体企業が廃棄物処理会社を買収すれば、解体から処分まで一貫して受注できるため、付加価値が増すとともに工程管理も容易になります。また、営業基盤や顧客リストを統合し、相互に案件を融通することで売上拡大が見込めます。技術面でも、アスベスト除去などの特殊工事や3Dスキャン技術などをグループ内で共有し、工期短縮や安全性向上を図るといった効果が期待できます。

5-2. 組織統合リスクとカルチャーの不一致

一方でM&Aには、組織統合リスクが伴います。特に労働集約型の建設・解体業界では、人材確保が最重要課題であり、買収後に従業員が離職してしまうと当初想定していたシナジーが得られない事態になりかねません。企業文化や労働環境、給与体系が大きく異なるケースも多いため、慎重なPMI(Post Merger Integration、買収後統合)が必要です。

5-3. 許認可・免許要件に関するリスク

建設業許可や産業廃棄物処理業許可など、解体・廃棄物処理に不可欠な資格・認可は自治体や国土交通省によって交付・監督されています。M&Aによる事業譲渡や組織再編時に、許認可の再取得が必要となる場合や、名義変更の手続きが煩雑になり得ます。最悪のケースでは許認可が承認されず、事業に支障が出るリスクもあるため、専門家のサポートが重要です。

5-4. 経営資源の集中とノンコア事業切り離し

M&Aを通じて経営資源を主要事業に集中させ、ノンコア事業を切り離す例もあります。新東京グループの事例では、金属スクラップの再生事業がグループ全体としてシナジーを生むのが難しいと判断し、解体会社へ譲渡しました。企業全体の効率化を図る上で、事業譲渡も一つのM&A形態として見なされるという点がポイントです。


6. 解体工事企業がM&Aを活用するメリット

解体工事企業側から見たM&A(買い手になる場合)のメリットを整理します。

6-1. 事業領域の拡張と垂直統合

解体工事に関連する工程(廃棄物の収集・運搬・中間処理・リサイクルなど)を自社グループ内に取り込み、一気通貫でサービスを提供できるようになります。これにより、付随コストの削減や利益率の向上、さらには顧客満足度のアップが期待できます。

6-2. 工事受注やアセット(重機・設備等)の共有化

相手企業が保有する重機や中間処理施設などを共有することで、設備投資負担を下げられます。解体現場への移動距離が減り、環境負荷や輸送コストが削減されるケースもあります。大規模工事案件を受注しやすくなる点もメリットといえます。

6-3. 人材獲得と熟練技術者確保

熟練オペレーターや技術者の獲得は、解体工事会社にとって死活的に重要な課題です。M&Aによって、対象企業が持つ優秀な人材や資格保有者を含めて雇用を継承できれば、大きな戦力となります。離職リスクを低減するためにも、買収後の待遇や職場環境の整備が鍵となります。

6-4. 資本力強化と経営の安定化

比較的規模の小さい解体工事会社が、大手・中堅企業の傘下に入ることで信用力が高まり、大規模な工事案件にも参画できるようになるメリットがあります。信用力の向上は金融機関からの融資やリース契約でも有利に働き、経営の安定化につながります。


7. 今後の展望:解体工事業界M&Aの方向性

日本の建設市場は新築需要のピークこそ過ぎましたが、リノベーションや再開発、老朽インフラの更新需要が長期的に続く見通しです。そのため、解体工事の需要は堅調に推移すると考えられています。今後、解体工事業界のM&Aは以下のような方向性が強まるのではないかと予想されます。

7-1. 環境ビジネスとのさらなる融合

SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルの流れを受け、産業廃棄物の減量化やリサイクル技術の高度化が急務となっています。廃棄物を資源へ転換するリサイクル事業やバイオマス発電など、環境ビジネスへの進出を目指す解体企業も増えています。こうした技術・設備を持つ事業者とのM&Aは、持続可能な解体ビジネスモデル構築に大きく寄与すると考えられます。

7-2. 建築・土木以外の新規分野への参入

解体工事は建築や土木に限らず、プラント解体や船舶解体、さらには太陽光パネルの解体・処分など、幅広いニーズに対応できます。今後は再生エネルギー関連設備の老朽化に伴う撤去需要も増加すると見られるため、特定工事許可を持つ企業やクリーンエネルギー企業をM&Aで取り込む戦略が加速する可能性があります。

7-3. 海外展開と国際的な事業機会

北米やアジア新興国など、解体需要は世界的に存在します。インフラ更新需要の大きい地域では、日本の解体工事技術や重機アタッチメントの需要があるとされています。オカダアイヨンの事例のように、海外企業を買収し現地ネットワークを獲得する動きが一層進むでしょう。

7-4. 中小企業の事業承継の加速

国内の解体工事会社の多くは中小企業であり、オーナー経営が一般的です。しかし、後継者不足や経営者高齢化によって廃業が増える懸念があります。M&Aは事業を存続させる有力な手段であり、大手・中堅事業者が事業承継ニーズを汲み取りながらM&Aを進めるケースがさらに増えると思われます。結果として、業界再編が加速し、より大型の解体グループが誕生する可能性が高いでしょう。


8. まとめ

解体工事業界は、建物やインフラの老朽化に伴う更新需要、都市再開発や震災復興など、安定的な需要が見込まれる分野です。一方で、建設業全体で顕在化している人材不足や高齢化、さらには各種法令に基づく許認可・安全管理など、課題も少なくありません。こうした背景を踏まえ、解体工事企業や関連事業者はM&Aを積極的に活用することで、事業領域の拡大や垂直統合、技術力や人材の獲得を図っています。

大栄環境<9336>のように廃棄物処理から解体工事へと領域を広げる例、ベステラ<1433>のように3Dスキャン技術やアスベスト除去など特殊領域の企業を買収してサービスの付加価値を高める例、燦キャピタルマネージメント<2134>のように再生エネルギー関連事業へ参入するために解体・土木許可を持つ企業を取り込む例など、様々なパターンのM&Aが確認できます。

さらに、オカダアイヨン<6294>の北米市場強化や、フジコー<2405>のMBO(非公開化)のように、上場企業ならではの資金調達メリットと、非公開化による経営の自由度の追求といった視点も絡んでおり、多様な戦略が展開されています。

今後は、建設DXや廃棄物のリサイクル技術といった高付加価値分野を取り込むM&A、地域拠点の強化を狙った広域展開型M&A、さらには後継者不在の中小解体企業を大手・中堅が吸収し業界再編が進むケースが増えると予想されます。老朽化インフラの更新と災害対策など、社会的にもインパクトの大きい解体需要は今後もなくなることはないため、解体工事業界の活況は一定程度持続すると見込まれます。

ただし、M&A後の組織統合や許認可の継承、企業文化の違いなどリスク管理が疎かになると、期待されたシナジーが得られない可能性もあります。適切なデューデリジェンスとPMIを実施し、獲得した事業や人材の活用に向けて戦略的な体制づくりが求められます。

解体工事業界は、単に古い建物を壊すだけではなく、再生資源や環境保全など幅広い要素が絡み合う複合的な産業へとシフトしつつあります。そうした変化に対応する一つの有効な手段として、M&Aはますます注目されることでしょう。各企業がどのように事業連携を深めながら成長を遂げるのか、今後の動向に注目が集まります。