目次
  1. 1. はじめに
  2. 2. 土木工事業界の概要
    1. 2-1. 土木工事の範囲
    2. 2-2. 業界構造とプレイヤー
    3. 2-3. 市場環境と課題
  3. 3. 土木工事業界におけるM&Aが注目される背景
    1. 3-1. 受注競争の激化
    2. 3-2. 専門技術の獲得・補強
    3. 3-3. 老朽化インフラ対応への期待
    4. 3-4. 地方企業の後継者問題
    5. 3-5. 国際事業展開の加速
  4. 4. M&Aの基本的な手続きと進め方
    1. 4-1. 戦略策定
    2. 4-2. ターゲット企業の選定
    3. 4-3. 秘密保持契約(NDA)の締結
    4. 4-4. デューデリジェンス(DD)の実施
    5. 4-5. 価格交渉・最終契約
    6. 4-6. クロージングとPMI(統合)
  5. 5. 土木工事業界特有のM&Aの特徴
    1. 5-1. 建設業許可の継承問題
    2. 5-2. 入札参加資格(経審)の扱い
    3. 5-3. 下請企業や地域との関係性
    4. 5-4. 大型機械・設備などの評価
  6. 6. M&Aにおけるメリット・デメリット
    1. 6-1. メリット
    2. 6-2. デメリット・リスク
  7. 7. 提示事例の総覧と解説
    1. 7-1. 南海辰村建設による日本ケーモー工事の子会社化(2010年)
    2. 7-2. 大盛工業による井口建設の子会社化(2018年)
    3. 7-3. 大盛工業による港シビルの子会社化(2021年)
    4. 7-4. 日本コンクリート工業によるフリー工業の子会社化(2018年)
    5. 7-5. 青木マリーンによるテクノマリックスの完全子会社化(2008年)
    6. 7-6. 青木あすなろ建設によるみらい建設工業・みらいジオテックの完全子会社化(2008年)
    7. 7-7. 大林組によるカナダのKenaidan Group Ltd.買収(2011年)
    8. 7-8. 大末建設による神島組の子会社化(2023年)
    9. 7-9. 日成ビルド工業による相鉄建設の子会社化(2012年)
    10. 7-10. 西尾レントオールによる山崎マシーナリーの買収(2009年)
    11. 7-11. 日本乾溜工業によるニチボーの子会社化(2020年)
    12. 7-12. 日特建設による麻生フオームクリートをTOBで子会社化(2024年発表)
    13. 7-13. ビーイングのMBO(経営陣による買収)(2021年)
    14. 7-14. 北陸電気工事による蒲原設備工業の子会社化(2022年)
    15. 7-15. 北川鉄工所によるユニットハウス事業の大木建設への譲渡(2008年)
    16. 7-16. 佐藤渡辺によるあすなろ道路の子会社化(2023年)
    17. 7-17. 塩見ホールディングスによるKワークスの譲渡(2008年)
    18. 7-18. ヤマウによる大栄開発の子会社化(2015年)
    19. 7-19. メイホーホールディングスによる三川土建の子会社化(2022年)
    20. 7-20. ビーイングによるプラスバイプラスドットコムの子会社化(2008年)
    21. 7-21. ナカノフドー建設によるトライネットホールディングスの子会社化(2023年)
    22. 7-22. マーチャント・バンカーズによるヴィラ北軽井沢の譲渡(2012年)
    23. 7-23. クワザワによるサツイチの子会社化協議(2011年)
    24. 7-24. ダイサンによるシステムイン国際の子会社化(2021年)
    25. 7-25. コムシスホールディングスによる東京鋪装工業・川中島建設の株式交換(2016年・2014年)
    26. 7-26. ダイキアクシスによるDADの譲渡と岸本設計工務の子会社化(2020年・2017年)
    27. 7-27. コニシによる山昇建設の子会社化(2020年)
    28. 7-28. サーラコーポレーションによる鈴木組の子会社化(2011年)
    29. 7-29. アジアゲートホールディングスによる南野建設の譲渡(2020年)
    30. 7-30. オメガプロジェクトHDによる伊豆スカイラインカントリーの譲渡(2010年)
    31. 7-31. TOKAIホールディングスによる日産工業の子会社化(2019年)
    32. 7-32. OCHIホールディングスによる芳賀屋建設の子会社化(2022年)
    33. 7-33. カナモトによる東洋工業の子会社化(2008年)
  8. 8. 事例から見るM&Aの狙いと共通点
  9. 9. 土木工事業界でのM&Aリスクと留意点
  10. 10. 土木工事業界M&Aの今後の展望
    1. 10-1. 老朽化インフラ需要のさらなる増加
    2. 10-2. 災害対策・防災工事の拡大
    3. 10-3. デジタル化と施工の省人化
    4. 10-4. 海外案件への積極参入
    5. 10-5. 地方企業の再編
  11. 11. まとめ

1. はじめに

土木工事業界は、道路・橋梁・トンネル・河川・ダム・港湾など、多様な社会インフラの整備や維持管理を担う重要な産業領域です。日本経済の成長を支えてきた歴史があり、公共事業を中心に豊富な案件を取り扱ってきました。

しかしながら、少子高齢化の加速や公共投資の不透明感、さらにはインフラの老朽化や災害対策など、土木工事業界をめぐる環境は変化を続けています。このように変革期を迎えるなか、企業の生き残りや技術革新の推進、地域社会への貢献などを実現する手段としてM&A(合併・買収)が大きな注目を集めています。

本稿では、提示された具体的な事例を参考にしつつ、土木工事業界のM&Aについて解説いたします。M&Aの基本的な流れや特徴を押さえながら、事例を通して見えてくるポイントを整理し、さらに業界の将来像を考えてみたいと思います。文章量が大変多くなりますが、読みやすさを意識して小見出しを多めに入れておりますので、ぜひ最後までお付き合いください。


2. 土木工事業界の概要

2-1. 土木工事の範囲

土木工事業界は建設業界の一部門であり、公共土木(道路・下水道・トンネル・橋梁・河川工事・港湾工事など)を中心に、民間の造成工事や土壌改良、環境整備、さらには災害復旧工事まで、幅広い領域をカバーします。橋梁やトンネルの修繕など、老朽化したインフラのメンテナンス領域も近年は大きな需要源となっています。

2-2. 業界構造とプレイヤー

一般的に、「大手ゼネコン」と呼ばれる企業群(例:大林組・鹿島建設・清水建設・大成建設・竹中工務店など)は売上高が数千億円~1兆円規模であり、国内外の大型工事案件を中心に受注を獲得しています。一方、中堅クラスや地域密着型の中小企業も多数存在し、地方公共団体や地域住民との関係を築きながらインフラの補修や地元の建設需要を請け負っています。

土木工事業界は元請企業の指揮のもと、複数の下請企業が施工を担う階層的な構造をとるのが特徴です。そのため、下請企業は特定分野の技術やノウハウに強みを持つことが多く、大手や中堅ゼネコンからの発注がメインとなるケースも珍しくありません。

2-3. 市場環境と課題

高度経済成長期に集中的に整備したインフラ設備は、老朽化の時期を迎えており、大規模なメンテナンスが全国的に必要とされています。さらに近年は、台風や豪雨などによる自然災害が増えており、防災・減災のためのインフラ補強工事や災害復旧工事が重要性を増しています。

ただし、公共投資の総額は国や自治体の財政状況に左右されます。将来的には人口減少・高齢化の影響や、社会保障費の増大といった要因で公共事業の予算が大幅に増えるとは限らず、受注競争の激化も懸念されます。このような状況下で、企業の経営基盤を強化し、技術力や営業力を拡充する手段としてM&Aが脚光を浴びているのです。


3. 土木工事業界におけるM&Aが注目される背景

3-1. 受注競争の激化

国内の公共事業市場は、事業規模の伸びが限定的となる可能性が高いため、土木工事企業間での受注競争が激しさを増すと考えられています。これまでは地場企業が主体となっていた分野にも、大手・中堅のゼネコンが参入してくることや、地元の企業同士が合併して経営規模を拡大することが増えています。

3-2. 専門技術の獲得・補強

土木工事の分野は非常に広範です。トンネル工事、橋梁工事、河川工事、下水道、上下水道管路の推進工事、地盤改良工事、海洋土木工事など、工事内容が多岐にわたります。各企業がそれぞれの専門技術を持っており、M&Aによってそのノウハウや特許工法を獲得し、より広い工事領域に対応できるようになるメリットがあります。

3-3. 老朽化インフラ対応への期待

橋梁や道路、港湾施設などの老朽化が進む中、その改修・補修工事の需要は高まっています。メンテナンス分野で独自工法や実績を持つ企業を買収すれば、買い手企業は老朽化インフラ需要を取り込むことが容易になります。

3-4. 地方企業の後継者問題

多くの地方企業で経営者の高齢化が進み、後継者不在の問題が深刻化しています。土木工事業界も同様で、長年地域に根差してきた会社でも後継者が見つからず廃業の危機に瀕する例がみられます。こうした企業をM&Aで救済し、企業価値を引き継ぐケースが増えています。

3-5. 国際事業展開の加速

大手ゼネコンのみならず、中堅企業もASEANや北米など海外の大規模インフラ整備に参入する流れがみられます。海外で長年事業を続けてきた現地企業や、特殊工法に強みを持つ海外の土木工事企業を買収して拠点や実績を得ることで、グローバル展開を一気に進められます。


4. M&Aの基本的な手続きと進め方

4-1. 戦略策定

最初のステップは「なぜM&Aをするのか」という経営戦略の明確化です。単なる規模拡大を狙うのか、特定工法の技術取得をめざすのか、地域の地盤を補強したいのか、あるいは海外拠点を確保したいのか――目標を定めることが重要です。

4-2. ターゲット企業の選定

企業価値評価を行いながら、相手企業の事業内容・売上規模・収益性・技術力・顧客基盤などをチェックして候補を絞ります。土木工事会社の場合は、保有する建設業許可や資格保有者の人数、過去の工事実績なども大きなポイントとなります。

4-3. 秘密保持契約(NDA)の締結

M&A交渉ではお互いに機密情報を共有する必要があるため、まずは秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement)を結び、情報漏洩リスクを避けます。

4-4. デューデリジェンス(DD)の実施

財務・税務・法務・事業・人事・環境など多面的なデューデリジェンス(精密調査)を行います。土木工事業界特有の視点としては、過去の工事での欠陥や大きなクレームがなかったか、保証・補償の責任範囲、公共工事の入札参加資格がどうなっているか、といった点を入念に調べます。

4-5. 価格交渉・最終契約

DDの結果を踏まえ、買収価格や支払い条件、譲渡する資産の範囲、表明保証条項などを詰めて最終契約を締結します。上場企業の場合は、契約締結後に開示手続き(プレスリリースなど)を行い、投資家への説明責任を果たします。

4-6. クロージングとPMI(統合)

最終契約が結ばれ、株式譲渡や合併などの法的手続きを完了すると「クロージング」と呼ばれる状態になります。クロージング後はPMI(Post Merger Integration)といい、組織や経営体制を実際に統合・調整するフェーズが待ち受けています。土木工事会社同士では、現場監督の配置転換やブランド・社名の扱いなど実務面での課題が多く、PMIの成否がM&A成功の鍵を握ります。


5. 土木工事業界特有のM&Aの特徴

5-1. 建設業許可の継承問題

土木工事業を営むには、国土交通省や都道府県の建設業許可が必要です。会社形態が変わった場合、この許可をスムーズに引き継げるかどうかが重要です。許可の種類(特定建設業・一般建設業)や許可の業種区分が案件受注に大きく影響するため、M&A時には慎重な手続きが求められます。

5-2. 入札参加資格(経審)の扱い

公共工事を請け負う際には「経営事項審査(経審)」という仕組みがあり、工事の規模や実績に応じて審査点数が与えられます。会社の合併や事業譲渡を行うと、その点数がどのように移行されるかで、入札に参画できる工事規模が変化します。M&A時には、この経審の取扱いに注意を払う必要があります。

5-3. 下請企業や地域との関係性

地方の土木工事会社は地元の自治体や下請企業、地域住民との結びつきが強いことが多いです。M&Aによって外部資本が入ってくると、こうした関係性に微妙な変化が生じることがあり、地域からの信頼を維持できるかは大きな課題です。

5-4. 大型機械・設備などの評価

土木工事ではトンネル掘削機や大型重機、アスファルトプラントなど、資産価値の大きい機械設備を保有している場合があります。それらをどう評価するかは企業価値算定のうえで重要です。さらに、稼働率やメンテナンスコストを考慮した査定が行われることが多く、一般的な企業買収の評価よりも留意点が多いです。


6. M&Aにおけるメリット・デメリット

6-1. メリット

  • 事業領域拡大
    施工範囲や技術力が広がり、様々な案件を受注できるようになります。
  • 経営規模の拡大による安定受注
    大規模プロジェクトへ参入しやすくなり、公共工事の入札でも優位に立ちやすくなります。
  • 専門技術やノウハウの取り込み
    特許工法や特殊な機材の扱い、地域限定の受注ルートなど、買い手にとっては魅力的な資産となります。
  • 後継者問題の解消
    売り手側企業は経営者が高齢化していても、M&Aで後継者不在の課題を解消できます。
  • 海外展開の加速
    海外企業を買収することで、その国の人脈や販路、ライセンスを一度に獲得できます。

6-2. デメリット・リスク

  • 買収コストや統合コストの負担
    買収価格が過大だった場合、のれんの減損リスクがあります。PMIのための組織再編コストも発生します。
  • 過去工事に関する保証・クレームリスク
    引き渡し後に過去の工事の欠陥が発覚すると、買い手が賠償責任を負う可能性があります。デューデリジェンスが重要です。
  • 企業文化の不一致
    M&A後、社員のモチベーション低下や退職リスクが高まることがあります。特に地場企業の場合、地域独特の企業文化との相性が課題です。
  • 公共工事の入札資格リセット
    合併・分割の形態によっては、経審の点数が引き継がれず入札が難しくなる場合もありえます。

7. 提示事例の総覧と解説

ここからは具体的な事例を順に追いながら、各社のM&A動向や狙いを簡潔にまとめたいと思います。なお、各事例とも取得価額や売上高、施工分野などが提示されており、それらを踏まえて解説を加えます。


7-1. 南海辰村建設による日本ケーモー工事の子会社化(2010年)

  • 買い手: 南海辰村建設<1850>
  • 売り手: 日本ケーモー工事(東京都千代田区)
  • 売上高: 約6億8400万円
  • ポイント: 鉄道や道路の立体交差(アンダーパス)の施工技術を持つ
  • 目的: アンダーパス施工を内製化し、特許や施工技術を有効活用する
  • 取得価額: 1億4000万円
  • 特徴: 親会社オリエンタル白石の再生過程でスポンサーを探していた。南海辰村建設にとってはアンダーパス分野のノウハウ獲得が大きい。

7-2. 大盛工業による井口建設の子会社化(2018年)

  • 買い手: 大盛工業<1844>
  • 売り手: 井口建設(山梨県上野原市)
  • 売上高: 約9億4400万円
  • 施工分野: 道路改良・河川・下水道
  • 取得価額: 2億5600万円
  • 目的: 大盛工業は下水道など土木を主力とし、井口建設の地盤である山梨県の公共工事を取り込む狙い。
  • 特徴: 地方公共工事をもつ企業の買収で事業基盤の拡充を目指す好例。

7-3. 大盛工業による港シビルの子会社化(2021年)

  • 買い手: 大盛工業<1844>
  • 売り手: 港シビル(東京都港区)
  • 売上高: 約11億3000万円
  • 施工分野: 港湾・河川土木工事
  • 取得価額: 1億4100万円
  • 目的: 建設事業の基盤強化。下水道・地中工事が得意な大盛工業が、港湾工事の強みを得る。
  • 特徴: 同じ「土木」分野でも専門領域が違う企業を取り込んで総合力を高める戦略。

7-4. 日本コンクリート工業によるフリー工業の子会社化(2018年)

  • 買い手: 日本コンクリート工業<5269>
  • 売り手: フリー工業(東京都台東区)
  • 売上高: 約20億6000万円
  • 施工分野: 法面・擁壁・道路拡幅など
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: コンクリート製品(ポール、パイル等)を製造する日本コンクリート工業が、土木施工の技術と実績を取り込み相乗効果を狙う。
  • 特徴: 材料メーカーと施工会社の統合で、エンドユーザーに包括的サービスを提供しやすくなる。

7-5. 青木マリーンによるテクノマリックスの完全子会社化(2008年)

  • 買い手: 青木マリーン<1875>
  • 売り手: テクノマリックス(東京都江東区)
  • 売上高: 約27億円
  • 施工分野: 海上土木工事
  • 取得価額: 1億8000万円(第三者割当増資による)
  • 目的: 民事再生法適用中のテクノマリックスを救済し、海上土木技術を自社グループに取り込む。
  • 特徴: 景気後退期に受注環境の変化についていけず再生手続きをしていた企業を支援し、自社の海上事業を強化する形。

7-6. 青木あすなろ建設によるみらい建設工業・みらいジオテックの完全子会社化(2008年)

  • 買い手: 青木あすなろ建設<1865>
  • 売り手: みらい建設工業(売上高659億円)、みらいジオテック(売上高18億6000万円)
  • 特徴: 民事再生法適用中の企業を支援し、再生させる。みらいジオテックは地盤工事に特化。
  • 目的: 財務状況の改善、信用面の補完。大手ゼネコングループ内の再編事例。
  • 取得価額: 合計26億円程度(第三者割当増資)

7-7. 大林組によるカナダのKenaidan Group Ltd.買収(2011年)

  • 買い手: 大林組<1802>(子会社を通じて)
  • 売り手: Kenaidan Group Ltd.(カナダ・オンタリオ州)
  • 売上高: 約170億円
  • 施工分野: 水処理施設などの土木工事
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 北米地域を重要拠点と位置づけ、カナダでのPPP(官民連携)市場へ参入。
  • 特徴: 海外展開を目的としたM&A。国内需要の減少を補う戦略。

7-8. 大末建設による神島組の子会社化(2023年)

  • 買い手: 大末建設<1814>
  • 売り手: 神島組(兵庫県西宮市)
  • 売上高: 約9億4400万円
  • 施工分野: 「割岩(かつがん)」工法が得意
  • 取得価額: 48億円
  • 目的: 土木事業に再参入し、高収益の特殊土木を自社領域に取り込む。
  • 特徴: ダムやトンネル工事で発生する巨岩を破砕する技術を保有している神島組のノウハウを吸収。

7-9. 日成ビルド工業による相鉄建設の子会社化(2012年)

  • 買い手: 日成ビルド工業<1916>
  • 売り手: 相鉄建設(横浜市)
  • 売上高: 約127億円
  • 施工分野: 鉄道工事や商業施設、マンションリニューアルなど
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 首都圏での受注拡大、立体駐車場製品との連携。
  • 特徴: 鉄道関連工事に実績のある相鉄建設を取り込み、日成ビルド工業のシステム建築とのシナジー創出。

7-10. 西尾レントオールによる山崎マシーナリーの買収(2009年)

  • 買い手: 西尾レントオール<9699>
  • 売り手: 山崎マシーナリー(静岡県磐田市)
  • 売上高: 約11億5000万円
  • 施工分野: トンネル工事用機械の整備・製造・販売
  • 取得価額: 6810万円
  • 目的: トンネル工事用機械の整備ノウハウを取り込み、海外工事展開の際のサポート体制強化。
  • 特徴: レンタル会社と機械メーカーの協業で、サービス一体型ビジネスを狙う。

7-11. 日本乾溜工業によるニチボーの子会社化(2020年)

  • 買い手: 日本乾溜工業<1771>
  • 売り手: ニチボー(福岡市)
  • 売上高: 21億3000万円
  • 施工分野: 地盤改良、法面保護工事、地滑り対策
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 九州地区での受注機会拡大。法面工事に強みを持つ同社を取り込む。
  • 特徴: 全国展開を狙う企業が、九州地方の老舗企業をM&Aで傘下に収める事例。

7-12. 日特建設による麻生フオームクリートをTOBで子会社化(2024年発表)

  • 買い手: 日特建設<1929>
  • 売り手: 麻生フオームクリート<1730>
  • 施工分野: 気泡コンクリート工事大手
  • 取得価額: 約19億4000万円
  • 目的: 同じ麻生グループ内での再編。最終的に上場廃止して完全子会社化。
  • 特徴: グループ再編の一環としてTOB(株式公開買い付け)を実施。土木工事の特殊分野でシナジーを追求。

7-13. ビーイングのMBO(経営陣による買収)(2021年)

  • 対象企業: ビーイング<4734>
  • 施工分野: 土木工事積算システムを中心とするソフト開発
  • 買付代金: 約44億9300万円
  • 目的: 建設業のICT化を背景に、機動的な経営判断を可能にするため上場廃止。
  • 特徴: M&AというよりMBO(自己買収)。事業多角化への意欲や資本市場から離れる狙いがうかがえる。

7-14. 北陸電気工事による蒲原設備工業の子会社化(2022年)

  • 買い手: 北陸電気工事<1930>
  • 売り手: 蒲原設備工業(新潟県燕市)
  • 売上高: 4億2100万円
  • 施工分野: 管工事、土木工事、消防施設工事など
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 新潟地域への進出と総合的な施工力の強化。
  • 特徴: 電気工事と管工事を組み合わせることで、建築や土木全般に対応できる体制を構築。

7-15. 北川鉄工所によるユニットハウス事業の大木建設への譲渡(2008年)

  • 売り手: 北川鉄工所<6317>
  • 買い手: 大木建設(広島県福山市)
  • 事業内容: 建設現場向けの組立式ユニットハウス(ユニロック)
  • 目的: 北川鉄工所が主力事業に経営資源を集中するため事業譲渡。
  • 特徴: 土木工事企業がユニットハウス事業を取得し、自社の現場管理やレンタル事業との連動を図る可能性。

7-16. 佐藤渡辺によるあすなろ道路の子会社化(2023年)

  • 買い手: 佐藤渡辺<1807>
  • 売り手: あすなろ道路(札幌市)
  • 売上高: 約18億3000万円
  • 施工分野: 道路建設工事・舗装工事
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 北海道方面への商圏拡大。アスファルト合材販売も含めたシナジー期待。
  • 特徴: 地域密着の道路工事企業を取り込み、舗装や土木の実績を伸ばす。

7-17. 塩見ホールディングスによるKワークスの譲渡(2008年)

  • 売り手: 塩見ホールディングス<2414>
  • 譲渡先: 非公表
  • 対象企業: Kワークス(広島県呉市)
  • 売上高: 38億4000万円
  • 施工分野: 建築・土木工事
  • 譲渡価額: 860円(象徴的な低価格)
  • 目的: 赤字事業からの撤退。グループ経営の効率化。
  • 特徴: 極端に低い譲渡額が示すように、不採算事業を切り離すための手段だったと考えられます。

7-18. ヤマウによる大栄開発の子会社化(2015年)

  • 買い手: ヤマウ<5284>
  • 売り手: 大栄開発(長崎県佐世保市)
  • 売上高: 17億2000万円
  • 施工分野: 土木工事や地質調査
  • 取得価額: 12億8000万円
  • 目的: コンクリート製品製造と土木施工の一体化。
  • 特徴: メーカーと施工会社の融合事例。製品提供から施工までワンストップで対応できる。

7-19. メイホーホールディングスによる三川土建の子会社化(2022年)

  • 買い手: メイホーホールディングス<7369>
  • 売り手: 三川土建(新潟県阿賀町)
  • 売上高: 2億5300万円
  • 取得価額: 4億400万円
  • 施工分野: 土木工事
  • 目的: 建設事業の基盤安定化と人材・技術交流。
  • 特徴: 経営基盤強化だけでなく、PMI後の人材融通や技術共有を重視。

7-20. ビーイングによるプラスバイプラスドットコムの子会社化(2008年)

  • 買い手: ビーイング<4734>
  • 売り手: プラスバイプラスドットコム(大阪市)
  • 売上高: 10億6000万円
  • 施工分野: 建設設備業向けCADソフトの販売
  • 取得価額: 2億6000万円
  • 目的: 土木工事積算ソフトで知られるビーイングが、建設設備向けCADにも進出。
  • 特徴: 建設現場のIT化が進むなか、ソフトウェア開発企業を傘下に入れる動き。

7-21. ナカノフドー建設によるトライネットホールディングスの子会社化(2023年)

  • 買い手: ナカノフドー建設<1827>
  • 売り手: トライネットHD(長野県飯田市)
  • 施工分野: 土木工事会社や不動産会社など5社を束ねる
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 土木事業の拡大と地域基盤の強化。
  • 特徴: 地方の持株会社ごと買収し、グループ全体のシナジーを狙う。

7-22. マーチャント・バンカーズによるヴィラ北軽井沢の譲渡(2012年)

  • 売り手: マーチャント・バンカーズ<3121>
  • 買い手: 北軽井沢ホールディング(新星住建の子会社)
  • 対象企業: ヴィラ北軽井沢(リゾートホテル運営)
  • ポイント: 新星住建は建築工事や土木工事も手がけ、不動産開発ノウハウを活用。
  • 特徴: ホテル運営事業を手放して、不採算部門から撤退する事例。建設会社が不動産価値を見出して買収。

7-23. クワザワによるサツイチの子会社化協議(2011年)

  • 買い手: クワザワ<8104>
  • 売り手: サツイチ(札幌市)
  • 売上高: 16億円
  • 施工分野: クレーンリース、土木工事
  • 目的: 資材運送事業の拡大と建設工事事業との相乗効果。
  • 特徴: 協議段階で発表した例。物流機能を取り込むことで建設資材の流通にもメリットがある。

7-24. ダイサンによるシステムイン国際の子会社化(2021年)

  • 買い手: ダイサン<4750>
  • 売り手: システムイン国際(広島県三原市)
  • 施工分野: 土木工事積算システム「土木マスター」など
  • 目的: 建設現場のデジタル化推進(DX)への取り組み強化。
  • 特徴: 仮設機材メーカーがソフトウェア企業を買収し、施工管理DXを狙う事例。

7-25. コムシスホールディングスによる東京鋪装工業・川中島建設の株式交換(2016年・2014年)

  • 買い手: コムシスホールディングス<1721>
  • 売り手: 東京鋪装工業(売上高131億円)、川中島建設(売上高20億2000万円)
  • 施工分野: 舗装工事、法面工事、土壌汚染浄化など
  • 目的: 通信工事大手が土木工事領域を強化し、公共投資拡大に対応。
  • 特徴: 株式交換を利用した完全子会社化。通信系の企業が建設系を取り込み、インフラ全般をカバーする動き。

7-26. ダイキアクシスによるDADの譲渡と岸本設計工務の子会社化(2020年・2017年)

  1. DAD(松山市)譲渡
    • 売り手: ダイキアクシス<4245>
    • 譲渡先: ミツワ都市開発
    • 施工分野: 土木工事
    • 目的: 海外展開に経営資源を集中するため土木子会社を手放す。
  2. 岸本設計工務(松山市)買収
    • 買い手: ダイキアクシス<4245>
    • 売上高: 11億3000万円
    • 施工分野: 土木工事
    • 目的: 中長期的な収益拡大へ向けた施工力強化。
  • 特徴: ダイキアクシスは環境設備や浄化槽などの分野を得意とする中、収益性や戦略に合わない子会社を手放し、新たな土木会社を取り込む「選択と集中」の事例。

7-27. コニシによる山昇建設の子会社化(2020年)

  • 買い手: コニシ<4956>(接着剤大手)
  • 売り手: 山昇建設(名古屋市)
  • 売上高: 12億1000万円
  • 施工分野: 土木工事
  • 目的: 補修・改修・耐震補強工事用の材料・工法と施工を一体化し、事業領域拡大。
  • 特徴: 接着剤メーカーが施工実務を取り込むことで、補強・補修のトータルソリューションを提供可能にする。

7-28. サーラコーポレーションによる鈴木組の子会社化(2011年)

  • 買い手: サーラコーポレーション<2734>(子会社を通じて)
  • 売り手: 鈴木組(静岡県浜松市)
  • 売上高: 47億5000万円
  • 施工分野: 総合建設業
  • 目的: 経営悪化した老舗企業の再建。地域に根付く企業のブランド活用。
  • 特徴: 不要資産・負債を切り離した新会社方式での支援。サーラ側は土木・舗装工事事業の拡大を期待。

7-29. アジアゲートホールディングスによる南野建設の譲渡(2020年)

  • 売り手: アジアゲートホールディングス<1783>
  • 買い手: 吉田組(兵庫県姫路市)
  • 対象企業: 南野建設(大阪府枚方市)
  • 売上高: 17億8000万円
  • 施工分野: 推進工法(非開削トンネル工事)
  • 目的: 建設事業からの撤退または縮小。不動産事業やゴルフ・リゾート事業に集中。
  • 特徴: 特殊工法を持つ子会社を、同業の地場企業に譲渡して事業ポートフォリオを整理するケース。

7-30. オメガプロジェクトHDによる伊豆スカイラインカントリーの譲渡(2010年)

  • 売り手: オメガプロジェクトHD<6819>
  • 買い手: 白石都市開発(東京都千代田区)
  • 対象企業: 伊豆スカイラインカントリー(ゴルフ場運営)
  • 譲渡価額: 2億300万円
  • ポイント: 白石都市開発は土木工事の設計・施工も手がける。不動産価値を重視した買収。
  • 特徴: ゴルフ場は不況期に赤字化が多い。オメガプロジェクトHDが事業整理の一環で譲渡。

7-31. TOKAIホールディングスによる日産工業の子会社化(2019年)

  • 買い手: TOKAIホールディングス<3167>(傘下のTOKAI)
  • 売り手: 日産工業(岐阜県下呂市)
  • 売上高: 20億4000万円
  • 施工分野: 公共土木工事が主力
  • 目的: 中京圏の拡大と民間建築案件の受注拡大。LPガス事業とのシナジー。
  • 特徴: インフラ事業(LPガスなど)と土木工事事業を両立させ、地域密着型の総合サービスを目指す。

7-32. OCHIホールディングスによる芳賀屋建設の子会社化(2022年)

  • 買い手: OCHIホールディングス<3166>
  • 売り手: 芳賀屋建設(宇都宮市)
  • 売上高: 16億7000万円
  • 施工分野: 建築・土木工事
  • 取得価額: 非公表
  • 目的: 関東地区でのエンジニアリング事業拡大。
  • 特徴: 1931年創業の老舗を買収し、地域でのブランド力と実績を取り込む。

7-33. カナモトによる東洋工業の子会社化(2008年)

  • 買い手: カナモト<9678>
  • 売り手: 東洋工業(東京都台東区)
  • 施工分野: シールド工法関連機器のレンタル・販売
  • 目的: シールド工法のノウハウと顧客基盤を取り込み、地盤改良工事分野でも強みを発揮。
  • 特徴: 建機レンタル大手のカナモトが専門機器のリース企業を手中に収め、関連する大手ゼネコンとの取引拡大を狙う。

8. 事例から見るM&Aの狙いと共通点

これらの事例を総合的に見ると、土木工事業界のM&Aには下記のような狙い・共通点があると考えられます。

  1. 専門技術・工法の補完
    • 割岩、アンダーパス、推進工法、海上土木、地盤改良など、特定の技術力を高く評価して買収するケースが目立ちます。
  2. 地域基盤や入札資格の獲得
    • 山梨県や新潟県、九州エリアなど、地場に強い企業を買収して公共工事を取り込みたい企業が多いです。
  3. 経営再建や後継者問題への対応
    • 民事再生中の企業、後継者不在の老舗企業を買収することで、買い手は技術・ブランドを取り込み、売り手は事業継続を果たすWin-Winの形が多々見られます。
  4. 海外進出・海外企業の買収
    • 大林組のカナダ企業買収のように、北米やASEANでのインフラ需要を見越した動きがあります。
  5. IT・ソフトウェア企業との連携
    • 建設業界のICT化やDXを背景に、積算ソフトや工事管理ソフトを手がける企業の買収事例が増えています。

9. 土木工事業界でのM&Aリスクと留意点

  1. 公共工事受注への影響
    • 合併や分割で経審の点数が変わり、入札参加資格が下がる可能性があります。制度設計を理解したうえで慎重に進める必要があります。
  2. 過去工事の瑕疵担保
    • 過去に施工した工事で問題が発覚した場合、買い手が賠償責任を引き継ぐリスクがあります。DD時に法務・技術面をしっかり確認することが大切です。
  3. 重機や機材の評価
    • 大型重機やプラントの現状稼働率、メンテナンス履歴、残存耐用年数などを誤って評価すると買収後に余計なコストがかかる恐れがあります。
  4. 人材の流出・モチベーション低下
    • 合併後に資格保有者が退職してしまうと、企業の強みが一気に失われるリスクがあります。PMI時の人事ケアが不可欠です。
  5. 地域コミュニティとの関係
    • 地方企業を買収した場合、地元との繋がりが失われると受注機会が減る可能性があります。従来の社名や拠点維持など、慎重な調整が必要です。

10. 土木工事業界M&Aの今後の展望

10-1. 老朽化インフラ需要のさらなる増加

今後20年以上にわたって、全国的にインフラの老朽化対策が必要とされると予測されています。橋梁や道路、上下水道の更新・補修に関する公共投資が一定規模維持される見通しです。これに対応するため、補修・改修技術を持つ企業が高く評価されるでしょう。

10-2. 災害対策・防災工事の拡大

気候変動に伴う大雨や台風などの被害が深刻化しているため、防災・減災関連の土木工事(河川改修、砂防、堤防強化など)が増加傾向にあります。こちらも特殊工法や設備を持つ企業の需要が高まり、M&A案件が活発化する可能性があります。

10-3. デジタル化と施工の省人化

建設業界では「i-Construction」が進められ、ICTやAI、ドローン、BIM/CIMなどのデジタル技術が施工現場に導入されています。積算ソフトから現場管理ツールまで、ITベンダーとの協業が増えるとみられ、IT企業の買収によって技術力を高める動きが続くでしょう。

10-4. 海外案件への積極参入

国内の公共事業がやや飽和気味になるなか、大手ゼネコンだけでなく中堅・専門企業もASEANや北米、中東などでのインフラ整備を狙っています。現地企業とのM&Aやジョイントベンチャーの結成で、海外市場を開拓する例が増えると予想されます。

10-5. 地方企業の再編

経営者の高齢化で後継者がいない地方の土木工事会社は今後さらに増える見込みです。廃業が多発すると地域インフラの維持に支障が出るため、地元の中堅ゼネコンや他地域の大手建設企業がM&Aで支援・吸収する動きが高まると考えられます。


11. まとめ

土木工事業界は、公共事業を中心とした需要構造と、専門的な技術・設備への依存度が高いことから、他の業界と比べてもM&Aの効果が分かりやすい面があります。特定の工法を持つ企業を取り込むことで、新しい案件に参入しやすくなることも大きなメリットです。

提示された事例の多くは、中小企業や経営不振に陥った会社を中堅〜大手が子会社化しているパターンでした。そこには経営再建や事業拡大、後継者不在問題の解消など、さまざまな背景と狙いがあり、M&Aが双方のニーズを満たしていることがうかがえます。また、IT・ソフトウェア関連企業の買収により、積算や施工管理のDXを一気に進めようとする動きも特徴的です。

今後はインフラ老朽化対策、防災工事、海外事業の拡大など、多方面から土木工事の需要が喚起される一方、人口減少・労働力不足や公共予算の限界などの懸念材料も残ります。各社は限られた市場をめぐって生き残り競争にさらされるため、M&Aを有効に活用して経営力や技術力を高める流れは止まらないでしょう。

また、M&A自体がゴールではなく、実際に統合後の経営をスムーズに進め、シナジーを最大化するPMI(Post Merger Integration)がますます重要になってきます。専門工法を持つ人材や地域コミュニティとの関係性をどのように活かしていくか、しっかりとプランを練る必要があります。

以上、土木工事業界のM&Aについて、事例とともに広く解説してまいりました。文字数が非常に多くなりましたが、1つ1つの事例や背景を理解することで、土木工事業界特有のM&Aの意義や今後の可能性がお分かりいただけたのではないでしょうか。今後、ますます進行していく社会インフラの再整備やデジタルトランスフォーメーションへの対応において、M&Aがどのように活用されるのか注目していきたいと思います。

本稿が、土木工事業界におけるM&Aの動向や手法、リスク、そしてメリットを俯瞰する一助になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。