目次
  1. はじめに
  2. 保育業界M&Aが進む背景
    1. 1. 待機児童問題や多様化する保育ニーズ
    2. 2. 経営の効率化と事業の選択と集中
    3. 3. 多角化・新規参入による成長戦略
  3. 保育業界M&Aのメリットとリスク
    1. 1. メリット
    2. 2. リスク
  4. 保育業界におけるM&A・事業譲渡の主な事例
    1. 明光ネットワークジャパンとSimple
    2. 相鉄ホールディングスとアメニティライフの譲渡
    3. 夢真ホールディングスによる我喜大笑と岩本組の売却
    4. 揚工舎によるアカネケアコンサルトの一部事業取得
    5. 桧家ホールディングスとPURE SOLUTIONS
    6. 前田工繊による犀工房の子会社化
    7. 京進とビーフェア
    8. ライクによるライクキッズのTOB
    9. マネックスグループとViling
    10. 城南進学研究社による複数の保育関連企業の買収
    11. メドレーとTenxia
    12. ヒューリックとリソー教育
    13. ヒューマンホールディングスとみつば
    14. ニチイ学館のMBO(米ベインキャピタル)
    15. リビングプラットフォームとID・アーマン
    16. ニチイ学館の中国市場進出
    17. パートナーエージェントとグローバルグループ
    18. ミダックホールディングスとLOVE THY NEIGHBOR
    19. テノ.ホールディングスによる大型買収事例
    20. ピーエイによるココカラ高津の譲渡
    21. ヒノキヤグループの介護事業譲渡
    22. ミアヘルサの保育事業拡大
    23. ソラストの保育事業拡大
    24. さくらさくプラスの積極買収
    25. テクノホライゾンとCYBER DREAM
    26. センコーグループHDによるSERIOホールディングスのTOB
    27. グローバルキッズCOMPANYの事業再編
    28. クイックとワークプロジェクト
    29. うるるとOur Photo
    30. エクサウィザーズによるVisionWizの譲渡
    31. じげんとPCHホールディングス
    32. アクリートとテクノミックス
    33. キムラタンの企業主導型保育事業譲渡
    34. アジャイルメディア・ネットワークとグローリー
    35. SHIFTとインフィニック
    36. RIZAPグループ傘下サンケイリビング新聞社の事業譲渡
    37. ジェイコムホールディングスのアパレル人材紹介事業買収
    38. ジェイコムHDとサクセスホールディングス
    39. QLSホールディングスの介護・保育事業拡大
    40. global bridge HOLDINGSと東京ライフケア
    41. AIAIグループの保育施設拡大
    42. JPホールディングスとエムケイグループ
    43. JPホールディングスとワンズウィル
    44. JPNホールディングスとキンダーナーサリーコーポレーション
    45. SOLIZEとアフタースクール寺子屋
    46. SDエンターテイメントとTAISETSU
    47. アウトソーシングとわらべうた
  5. M&A成功のポイントと今後の展望
    1. 1. 保育士・職員の確保と定着
    2. 2. 企業文化・保育理念の融合
    3. 3. 行政対応や補助金手続きの円滑化
    4. 4. 多角化と専門特化のバランス
    5. 5. テクノロジー導入による効率化
  6. まとめ

はじめに

近年、保育業界においては少子化の影響や人材不足、行政による待機児童対策の推進など、多岐にわたる課題や変化が存在しています。さらに、保育サービスに対するニーズは多様化しており、企業主導型保育や企業内託児所、英語教育や特殊なカリキュラムを組み込んだ保育施設など、保育サービスの形態も拡大しています。これらの状況を背景に、保育事業者同士が力を合わせ、事業を拡大・強化する手段としてM&A(合併・買収)や事業譲渡が非常に活発になっています。

本記事では、保育業界におけるM&Aの主な背景や目的、メリット・デメリット、そして実例として多岐にわたる各企業のM&A・事業譲渡事例をご紹介します。これらの事例から読み解ける市場動向や特徴を踏まえながら、今後の保育業界がどのように発展していくのかを考察していきます。

保育業界M&Aが進む背景

1. 待機児童問題や多様化する保育ニーズ

社会問題として待機児童の解消が叫ばれて久しく、行政主導で認可保育施設の新設や整備が進められています。しかし、保育所を増やすだけでは需要を完全に満たすことが難しく、保育士の確保や施設の運営体制強化など課題は山積しています。さらに、女性の社会進出や働き方改革の影響もあり、フルタイム勤務の家庭だけでなく、時短勤務や在宅ワーク、夜間保育などニーズが細分化していることも背景として挙げられます。

2. 経営の効率化と事業の選択と集中

保育事業を運営するためには、保育施設の確保や整備、人材育成、行政対応など多大なコストと専門的ノウハウが必要です。特に認可保育所を運営する場合は、行政の基準を満たすための一定の投資が必須となります。これらの負担に加え、少子化による園児数減少リスクや施設運営の競争激化などもあり、経営基盤が脆弱なままでは安定した保育サービス提供が難しくなっています。そのため、資本力やノウハウのある企業グループの傘下に入ることで生き残りを図るケース、あるいはコア事業ではない保育関連事業を売却して本業に集中するケースが増加しています。

3. 多角化・新規参入による成長戦略

一方、介護・教育・不動産・人材派遣などの企業が保育分野へ新たに参入したり、既に保育関連事業を行っている企業が他の教育領域・人材領域に多角化する動きも見られます。少子化の中でも待機児童が存在するという構造的な問題や、行政による補助金、安定した顧客需要などが魅力となり、保育事業を新たな収益の柱として取り込む企業も増えています。こうした事業拡張の過程で、既存の保育施設を運営している事業者とのM&Aが積極的に行われるようになっています。

保育業界M&Aのメリットとリスク

1. メリット

  • 規模拡大による安定経営: 保育施設の数が増えるほど固定費の分散やスケールメリットが見込まれ、経営の安定化につながります。
  • 人材確保と育成の効率化: 複数の施設を運営しているグループ傘下に入ることで、保育士や栄養士などの採用・配置をグループ全体で検討でき、人材育成ノウハウを共有できるメリットがあります。
  • 資金調達力・ブランド力の強化: 大手企業グループによる子会社化などの場合、資金調達力やブランド力が大幅に向上し、地域や保護者への信頼度も増します。
  • ノウハウやシナジー効果の創出: 介護事業や教育事業、不動産事業など、他分野とのシナジーを追求しやすくなり、保育事業をより発展させる下地が整いやすくなります。

2. リスク

  • 企業文化の違い: 子育て支援・教育といった公共性の強い事業であるため、M&A後の理念や保育方針のすり合わせが不十分だとトラブルや離職につながる可能性があります。
  • 保育士の確保・定着の難しさ: M&Aによって事業規模が拡大しても、保育士不足問題が解消するわけではありません。経営母体が変わることで離職や採用難が深刻化するリスクもあります。
  • 行政手続きや規制対応: 認可保育所の場合、行政の許認可や補助金の対象となるため、名義変更や許認可更新などの手続きが必須であり、これが円滑に進まないと経営に支障をきたす可能性があります。

保育業界におけるM&A・事業譲渡の主な事例

ここからは、実際に公表されたさまざまな保育業界のM&A・事業譲渡例を取り上げます。事業の選択と集中、新規参入、海外展開など、その目的や背景は多種多様です。ぜひ具体的な事例を通して、保育業界M&Aの実情をご理解いただければと思います。

明光ネットワークジャパンとSimple

明光ネットワークジャパン<4668>は、個別指導塾「明光義塾」を展開する大手教育企業として知られていますが、新規事業として人材事業を強化する方針のもと、保育業界を中心に有料職業紹介を手掛けるSimple(売上高2億500万円)の全株式を取得し子会社化しました。保育士・幼稚園教諭向けの転職支援サービス「しんぷる保育」などを運営するSimpleとの提携により、教育と保育の境界を超えた総合的な人材支援が可能になります。保育士不足は喫緊の課題であり、今後もこのようなマッチングサービスは重宝されるでしょう。

相鉄ホールディングスとアメニティライフの譲渡

相鉄ホールディングス<9003>は、完全子会社の相鉄アメニティライフ(売上高5億7000万円)をJPホールディングス<2749>へ譲渡しました。保育士不足が深刻化する中、相鉄は保育サービスについて専門事業者に委ね、グループとしては関連施設の開発に注力するとしています。鉄道・不動産大手である相鉄ホールディングスにとって、保育事業は必ずしもコアビジネスではなかったため、事業再編の一環と言えます。

夢真ホールディングスによる我喜大笑と岩本組の売却

夢真ホールディングス<2362>は、保育所やデイサービス施設を運営する我喜大笑(売上高6億7400万円)と注文住宅施工を手掛ける岩本組の全株式を売却しました。中核事業である技術者派遣や建設業界向けのサービスに経営資源を集中させる目的で、保育やデイサービス事業は外部へ譲渡する選択を行った事例です。

揚工舎によるアカネケアコンサルトの一部事業取得

揚工舎<6576>は、アカネケアコンサルト(有料老人ホーム、保育所運営)の有料老人ホーム花こがねいの運営事業を取得。東京近郊での拠点拡充を狙いとして、保育事業も擁する企業から老人ホーム事業を切り出して取得するというケースで、保育事業と介護事業が同一企業内に存在することが珍しくない現状を示しています。

桧家ホールディングスとPURE SOLUTIONS

桧家ホールディングス<1413>傘下のライフサポートが、英語教育認可外保育園を運営するPURE SOLUTIONS(売上高8110万円)を子会社化しました。既存の保育施設は行政の補助金収入に依存することが多い中で、認可外保育園の英語教育による新たな収益モデルの確立を目指す動きです。

前田工繊による犀工房の子会社化

前田工繊<7821>は幼稚園・保育園向け遊具メーカーの犀工房(売上高12億1000万円)を子会社化し、遊具を通じて幼児教育施設向けの販売ルートを確保しました。保育・幼稚園施設は遊具や備品などの需要が安定しており、販路拡大や公園分野への進出を狙いとしてM&Aを行うケースも存在します。

京進とビーフェア

京進<4735>は、保育所運営のビーフェア(売上高3億4300万円)の全株式を取得。学習塾事業の成熟化に伴い、新たな成長領域として保育事業を強化する方針です。低年齢層から一貫したサービス提供を行うことで、塾とのシナジーも期待できます。

ライクによるライクキッズのTOB

ライク<2462>は子会社のライクキッズ<6065>をTOB(株式公開買い付け)によって完全子会社化しました。保育士の確保や新規開設など保育施設の拡大に向けて、グループとしての資源を効率的に配分する狙いがあります。保育サービスの品質向上や財務支援を強化するために、上場子会社を非公開化するケースも少なくありません。

マネックスグループとViling

マネックスグループ<8698>は、STEAM教育を手がけるVilingの全株式を取得し、本格的な教育事業へ参入。STEAM教育の一部として保育領域にも展開する可能性があり、金融企業による教育・保育分野への進出という珍しい事例です。

城南進学研究社による複数の保育関連企業の買収

学習塾大手の城南進学研究社<4720>は、保育サービスや英語学童を手がける企業を積極的に買収しています。たとえば以下の事例があります。

  • フェアリィー(売上高3億6100万円)の子会社化
  • JBSナーサリー(小規模保育事業を運営)の子会社化
  • Cheer plus(認可外保育園「サニーキッズインターナショナルアカデミー」運営)の買収
  • 英語学童保育のTrester(売上高1億7100万円)の買収

乳幼児から社会人までの一貫教育サービスを提供することを目指す城南進学研究社は、保育業界を成長分野と位置づけており、積極的にM&Aを活用しています。

メドレーとTenxia

メドレー<4480>は、匿名コミュニティー「シゴトーク」を運営するTenxia(看護師・介護職・保育士・薬剤師向け)を子会社化。保育士など医療・ヘルスケア領域の求人プラットフォーム「ジョブメドレー」と組み合わせ、情報サービスを一体化させることでユーザーの利便性向上を図っています。

ヒューリックとリソー教育

不動産業を主力とするヒューリック<3003>は、個別指導塾「TOMAS」などを運営するリソー教育<4714>をTOBと第三者割当増資の組み合わせによって子会社化し、出資比率を51%に高める方針を示しました。リソー教育は幼児からの学習支援も手がけており、保育・教育施設を集約した複合ビル「こどもでぱーと」の展開につなげる構想です。

ヒューマンホールディングスとみつば

ヒューマンホールディングス<2415>は、保育園「スターチャイルド」を運営するみつば(売上高5億9500万円)を子会社化。保育士の資格取得講座など教育分野を展開するヒューマンアカデミーの保育士育成機能との連動により、雇用と教育のシナジーを生み出す狙いがあります。

ニチイ学館のMBO(米ベインキャピタル)

介護や医療事務受託で業界トップのニチイ学館<9792>は、米投資ファンドのベインキャピタルによるTOBを通じてMBOを実施。保育事業も手がける同社は、人材確保や成長分野の強化に向け、非公開化による経営改革を推し進めています。

リビングプラットフォームとID・アーマン

リビングプラットフォーム<7091>は、千葉県内で保育事業所2施設を運営するID・アーマンの全株式を取得。介護との両軸で経営を進める同社にとって、保育事業は柱の一つであり、取得により地域の保育ニーズに応えながら事業を拡大しています。

ニチイ学館の中国市場進出

ニチイ学館<9792>は香港子会社を通じて、中国の産後ケアサービス会社を子会社化したり、看護助手・家事代行サービス会社を買収するなど、中国市場での事業拡大を図っています。保育事業や家事・介護サービスといった日本で培ったノウハウを海外に展開する事例は、今後も増える可能性があります。

パートナーエージェントとグローバルグループ

パートナーエージェント<6181>は、企業主導型保育事業を手がけていたものの、保育園事業をグローバルグループ<6189>の子会社・グローバルキッズに譲渡。主力の婚活支援事業に経営資源を集中させるための事業再編です。

ミダックホールディングスとLOVE THY NEIGHBOR

廃棄物処理事業を主力とするミダックホールディングス<6564>は、英語教育保育園を運営するLOVE THY NEIGHBORを子会社化。多角化戦略の一環で、保育分野に進出する例です。

テノ.ホールディングスによる大型買収事例

テノ.ホールディングス<7037>は保育事業を主力としつつ、以下のように積極的なM&Aを展開しています。

  • ホームメイドクッキングの買収: 料理教室を全国展開する企業の株式を取得し、保育やベビーシッターサービスと融合した新事業を模索。
  • オフィス・パレット: 名古屋市を中心に認可保育所を運営する企業を傘下に迎え、中部エリアへの進出を本格化。
  • トップランの介護事業取得: 新規事業として介護分野に参入し、保育と介護の両輪で運営を拡大。
  • 岡山県の翠明からサービス付き高齢者住宅事業取得: 介護事業を拡充し、ウェルネス事業の幅を広げています。

ピーエイによるココカラ高津の譲渡

ピーエイ<4766>は保育事業子会社が運営する認可保育所「ココカラ高津」をソラスト<6197>に譲渡。小規模保育施設との相乗効果が発揮できなかったため事業を切り離す判断です。

ヒノキヤグループの介護事業譲渡

ヒノキヤグループ<1413>は保育・介護を展開する子会社ライフサポートの介護事業をソラスト<6197>に譲渡。特定施設の新規開設が難しい介護事業を手放し、保育事業に集中する方向へ転換しました。

ミアヘルサの保育事業拡大

ミアヘルサ<7688>は、認可保育園を運営する東昇商事やヒノキヤグループ傘下のライフサポートなどを相次いで買収し、保育園数を増やす一方、調剤薬局や介護事業との連携を深めています。地域医療・介護・保育の総合サービスを目指す動きとも言えます。

ソラストの保育事業拡大

ソラスト<6197>は、こころケアプラン(売上高30億3000万円)やなないろ、はぐはぐキッズなど、都内を中心に保育事業を展開する企業を次々と子会社化。保育所の運営数を大幅に増やし、一気に事業規模を拡大しています。

さくらさくプラスの積極買収

認可保育所運営を行うさくらさくプラス<7097>は、保育のデザイン研究所(研修サービス事業)、中学受験向け学習塾VAMOS、フェムケア・フェムテック事業の買収など、多様な分野と連携する動きを進めています。保育園から学習塾へスムーズにつなぐ教育体制を構築しつつ、女性のライフステージを支援する取り組みも始めています。

テクノホライゾンとCYBER DREAM

ICT機器の開発で知られるテクノホライゾン<6629>は、幼児向けICT英語教材を開発・販売するCYBER DREAMを子会社化。保育・幼児教育におけるITサービスの需要拡大を見込み、未開拓だった幼稚園・保育園市場への参入を図っています。

センコーグループHDによるSERIOホールディングスのTOB

センコーグループホールディングス<9069>は、保育園や学童保育を運営するSERIOホールディングス<6567>にTOBを実施し、完全子会社化を目指すと発表。2段階に分けて株式を買い付け、子会社化後は全国規模での保育・学童事業拡大を狙っています。

グローバルキッズCOMPANYの事業再編

グローバルキッズCOMPANY<6189>は、保育園の新設や事業の整理統合を繰り返しています。企業向け保育サービス事業をtenに譲渡したり、大阪市内・横浜市などの一部施設を別の法人に譲渡したりすることで、首都圏の特定エリアに経営資源を集中させる戦略を進めています。また、東京建物傘下の東京建物キッズを子会社化するなど、特定地域における保育サービス強化に注力しているのが特徴です。

クイックとワークプロジェクト

クイック<4318>は、保育士を中心とした人材派遣を手がけるワークプロジェクト(売上高3億9100万円)を子会社化し、保育分野における人材ビジネスを強化。企業の保育士確保に向けた支援は今後さらに重要度が増していくと考えられます。

うるるとOur Photo

うるる<3979>は、幼稚園や保育園向け写真販売システム「えんフォト」を提供しており、出張撮影マッチングサービス「Our Photo」を子会社化。保育の現場とフォトサービスの連携を深め、保護者への付加価値提供を強化しています。

エクサウィザーズによるVisionWizの譲渡

AI関連事業を主力とするエクサウィザーズ<4259>は、幼稚園・保育園向け撮影アプリ「とりんく」を運営するVisionWizを保育ICTサービスのコドモンに譲渡。事業構造改革の一環で、より専門性の高い企業へバトンタッチする動きです。

じげんとPCHホールディングス

じげん<3679>は介護・保育の人材サービスを手がけるPCHホールディングスを子会社化。「スマイルサポート介護」「スマイルサポート保育」など豊富な顧客基盤を活かして、人材領域での事業拡大を目指しています。

アクリートとテクノミックス

SMS配信サービスを主力とするアクリート<4395>は、緊急連絡サービス「学校安心メール」や「自治体安心メール」を展開するテクノミックスを子会社化。全国の幼稚園・保育園、公共機関への導入実績を取り込み、情報発信プラットフォームを拡大する狙いがあります。

キムラタンの企業主導型保育事業譲渡

子供服のキムラタン<8107>は企業主導型保育事業をパワフルケアに譲渡し、本業であるアパレル事業やITによる園児見守りサービスに集中。その一方で、保育事業は他社のノウハウを活かす選択を行いました。

アジャイルメディア・ネットワークとグローリー

アンバサダーマーケティング事業を展開するアジャイルメディア・ネットワーク<6573>は、幼児用教育材(絵本や玩具)を製作・販売するグローリーを子会社化。幼稚園・保育園向けの顧客基盤を取り込み、新たな市場開拓を狙います。

SHIFTとインフィニック

ソフトウェアテストなどを手がけるSHIFT<3697>は、企業主導型・認可保育園を運営するインフィニック(売上高3億4200万円)を子会社化。ITサービスとの融合で保育業界のDXを推進し、業務効率化を図る方針です。

RIZAPグループ傘下サンケイリビング新聞社の事業譲渡

RIZAPグループ<2928>は、フリーペーパー「あんふぁん」「ぎゅって」事業を小学館集英社プロダクションに譲渡。幼稚園・保育園児の保護者向け媒体として長い歴史を持つ両紙でしたが、事業構造改革の一環でメディア事業を手放し、RIZAP本体の事業成長戦略に集中するとしています。

ジェイコムホールディングスのアパレル人材紹介事業買収

ジェイコムホールディングス<2462>は、住金物産<9938>の子会社でアパレル人材紹介業を営むアイ・エフ・シーを買収。もともと保育やアパレル領域での人材サービスに注力しており、さらなる強化を図った事例です。

ジェイコムHDとサクセスホールディングス

ジェイコムHDは保育施設運営受託を手がけるサクセスホールディングス<6065>をTOBにより子会社化。保育士不足への対応など課題を解決するため、グループ連携を強化し、人材採用や運営ノウハウを共有する狙いがあります。

QLSホールディングスの介護・保育事業拡大

QLSホールディングス<7075>は保育を主力としつつ、介護福祉事業へも積極的に進出しています。有料老人ホームの「和み」やデイサービス・訪問介護の「ふれあいタウン」を相次いで買収し、エリアやサービスの幅を広げています。また、VISIONARYから千葉県市川市の認可保育所3施設を取得するなど、保育でも事業エリアを拡大中です。

global bridge HOLDINGSと東京ライフケア

global bridge HOLDINGS<6557>は、認可保育園と介護施設を運営する東京ライフケアを子会社化。保育・介護・ICTという複合的な事業展開が特徴であり、保育に加えて高齢者施設運営を強化することで相乗効果を狙っています。

AIAIグループの保育施設拡大

AIAIグループ<6557>は、横浜市内で認可保育園を運営するBerryの買収やNTT東日本傘下のテルウェル東日本から保育園事業を取得するなど、保育所の運営拠点を着実に増やしています。千葉県、東京都、神奈川県、大阪府を中心に認可保育所を展開することで、保育事業のさらなる拡大を図っています。

JPホールディングスとエムケイグループ

大手保育事業者のJPホールディングス<2749>は、経営難となったエムケイグループの保育所を引き継ぎ、運営を継続した事例があります。自治体からも要請があったことで、待機児童対策の一環として保護者の支援を行い、業界大手として社会的責任も果たしています。

JPホールディングスとワンズウィル

また、JPホールディングス<2749>は、人材紹介・派遣や外国人労働者就労支援を行うワンズウィルの全株式を取得し子会社化。保育業界においては人材不足の対応が大きな課題であり、専門人材確保や海外からの保育士導入など多様なアプローチが検討されています。

JPNホールディングスとキンダーナーサリーコーポレーション

JPNホールディングス<8718>は、待機児童が多い1都4県で27園を運営するキンダーナーサリーコーポレーションを子会社化。子育て支援サービスの拡大やアカデミー教室など、保育ニーズの多様化に対応するためのM&Aとして位置づけられました。

SOLIZEとアフタースクール寺子屋

SOLIZE<5871>は民間学童保育を運営するアフタースクール寺子屋を子会社化。少子化でも学童保育の需要は底堅いと考えられ、女性の社会進出が進む中で学童保育事業への新規参入を図る事例です。

SDエンターテイメントとTAISETSU

RIZAPグループの傘下にあったSDエンターテイメント<4650>は、かつてエンターテイメント事業を大規模に展開していましたが、事業構造の転換を図り、保育・介護などウェルネス領域をコアとする方向にシフト。その一環で、保育コンサルの子会社がTAISETSU(認可保育園運営)を買収するなど、保育領域の強化に踏み切っています。

アウトソーシングとわらべうた

人材サービス大手のアウトソーシング<2427>は、ベビーシッティングなど保育領域のサービスを提供していたわらべうたを長谷川興産に売却。自社のコア事業である生産アウトソーシングへの集中を優先したためです。

M&A成功のポイントと今後の展望

1. 保育士・職員の確保と定着

保育所や学童施設を拡大しても、保育士不足が続く限り質の高いサービスを維持することは難しいため、人材戦略は最重要課題となります。M&Aを通じて新たな人材流入経路を確保することや、買収先企業の人事制度や研修制度を統合する際の配慮が欠かせません。

2. 企業文化・保育理念の融合

保育事業は公共性が強く、運営理念や方針が保育士や保護者にとって大変重要です。M&A後に保育の質が低下すると信頼を損ない、離職やクレームにつながる可能性があります。理念の共有や組織風土の調整を徹底して行うことが求められます。

3. 行政対応や補助金手続きの円滑化

保育所は自治体の補助金や規制のもとで運営されるケースが大半です。取得や譲渡の際には、行政との協議や許認可手続きが必須となるため、スムーズに進められるよう専門知識を持ったスタッフを配置する必要があります。

4. 多角化と専門特化のバランス

大手企業の中には、保育を含む子育て支援サービスから介護、そして教育事業まで幅広く手掛けるケースも増えています。一方で、保育専門企業があえて他分野を切り離し、保育に特化する例も見られます。自社の強みや将来の市場予測に基づき、戦略的に選択と集中を行う必要があるでしょう。

5. テクノロジー導入による効率化

保育管理システムやICT教材など、デジタル技術を活用する動きが活発化しています。人材不足の時代において、事務作業の自動化や効率化は経営安定の要となるでしょう。M&AによるIT企業との連携や、エドテック企業の買収といった形で、さらなるDXが促進される可能性があります。

まとめ

保育業界のM&Aは、待機児童問題や働く女性の増加、保育士不足といった複雑な社会的要請や経営課題が交錯する中で進んでいます。企業側としては、経営規模を拡大したり、ノウハウや人材を補完したり、あるいは本業に集中するために事業を切り離したりと、その目的は多様です。

また、保育事業は行政の制度や補助金による影響を大きく受ける一方で、安定的な需要が見込める魅力的な分野でもあります。このため、異業種からの新規参入が相次ぎ、多角化と専門特化の双方で再編が加速しているのが現状です。今回取り上げた事例は一部に過ぎませんが、その多彩さは今後の保育業界が大きく変容していくポテンシャルを示しています。

今後は保育と介護の連携、英語教育やICT教育との統合、女性活躍支援や職場環境整備を軸とした新しい保育ビジネスモデルの創出など、さらに多様な形態が期待されるでしょう。保育施設の運営企業や教育・人材サービス企業、不動産企業など幅広いプレイヤーが互いに協力し合い、時にはM&Aを活用しながら、子どもたちと保護者にとって安心・安全で質の高い保育環境を整備していくことが求められています。

保育業界のM&Aは、単なる企業買収ではなく、社会全体の課題解決や次世代を担う子どもたちの成長を支える重要な役割も担っています。今後も保育士や保護者、そして行政と手を携えながら、より良い保育サービスを提供していくための再編・協業が続いていくことでしょう。