目次
  1. 1. 段ボール業界の背景
    1. 1-1. 国内需要の動向
    2. 1-2. グローバル市場への対応
    3. 1-3. M&Aの背景と目的
  2. 2. 主要なM&A事例とその狙い
    1. 2-1. 特種東海製紙と日本製紙によるクラフト紙事業の統合(2015年10月発表)
      1. 事例概要
      2. 分析
    2. 2-2. 特殊東海製紙(特種東海製紙)子会社・大一コンテナーをトーモクへ譲渡(2012年2月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    3. 2-3. 大王製紙<3880>、吉沢工業を子会社化(2022年4月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    4. 2-4. 日本製紙<3863>、豪州の包装資材大手オローラから段ボール事業を1243億円で買収(2019年10月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    5. 2-5. 日本紙パルプ商事<8032>、トキワから製紙事業を取得(2008年11月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    6. 2-6. レンゴー<3941>、容器事業の日本マタイを子会社化(2009年5月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    7. 2-7. レンゴー<3941>、凸版傘下のトッパンコンテナーを子会社化(2018年3月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    8. 2-8. レンゴー<3941>、中国段ボール原紙製造会社2社を取得・そして売却(2011年取得、2013年売却)
      1. 2-8-1. 取得(2011年2月)
      2. 2-8-2. 売却(2013年7月)
      3. 分析
    9. 2-9. 丸紅<8002>、ベトナム段ボール原紙製造子会社KOAを譲渡(2024年11月発表)
      1. 事例概要
      2. 分析
    10. 2-10. 高速<7504>、常磐パッケージを子会社化(2008年8月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    11. 2-11. 王子ホールディングス<3861>、森羽紙業を子会社化(2023年12月発表)
      1. 事例概要
      2. 分析
    12. 2-12. 王子ホールディングス<3861>、ニュージーランドのCHHPPを買収(2014年4月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    13. 2-13. トーモク<3946>、大一コンテナーを子会社化(2012年3月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    14. 2-14. トーモク<3946>、玉善から戸建て住宅分譲事業を取得(2020年12月発表)
      1. 事例概要
      2. 分析
    15. 2-15. マルハニチロホールディングス<1334>、大興製凾をレンゴー<3941>に譲渡(2008年2月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    16. 2-16. ニッコンホールディングス<9072>、エムピーを子会社化(2023年11月発表)
      1. 事例概要
      2. 分析
    17. 2-17. ダイナパック<3947>、TKT Vietnam Plastic Packagingの子会社化(2023年12月発表)
      1. 事例概要
      2. 分析
    18. 2-18. ダイナパック<3947>による段ボールメーカーの買収事例
      1. 2-18-1. 旭段ボールの子会社化(2018年6月)
      2. 2-18-2. 小倉紙器の子会社化(2019年12月)
      3. 2-18-3. マレーシアGRAND FORTUNEの子会社化(2018年10月)
      4. 分析
    19. 2-19. アイカ工業<4206>によるマレーシアAdtekの子会社化(2021年2月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    20. 2-20. カンダホールディングス<9059>、堀切運輸を子会社化(2022年2月)
      1. 事例概要
      2. 分析
    21. 2-21. KPPグループホールディングス<9274>による欧州スペイン・ポルトガルのパッケージ関連企業買収
      1. 2-21-1. スペインPlanchas Aislamientos y Embalajes S.L.(2024年11月)
      2. 2-21-2. ポルトガル100 Metros(2024年1月)
      3. 2-21-3. スペインEmbalajes Gosuma S.L.の産業用パッケージ販売事業取得(2023年4月)
      4. 分析
    22. 2-22. サトーホールディングス<6287>、英国DataLaseを子会社化(2016年12月)
      1. 事例概要
      2. 分析
  3. 3. 総合的な考察:段ボール業界M&Aの特徴と今後の展望
    1. 3-1. 地域拠点の強化と全国ネットワークの構築
    2. 3-2. グローバル展開への積極姿勢
    3. 3-3. サプライチェーンの垂直統合
    4. 3-4. 周辺事業の整理・集中
    5. 3-5. 新技術の獲得
  4. 4. 今後の課題と展望
    1. 4-1. 脱炭素や循環型社会への取り組み
    2. 4-2. EC拡大への対応
    3. 4-3. 人手不足と業務効率化
    4. 4-4. 海外生産拠点の再編と地政学リスク
  5. 5. まとめ

1. 段ボール業界の背景

1-1. 国内需要の動向

段ボールは工業製品や食品など幅広い分野で使われる包装資材です。特に食品・日用品・宅配用途が高い割合を占める傾向にあります。近年ではEC(電子商取引)の拡大が需要増の大きな要因の一つとなっています。一方で、少子高齢化や国内市場の成熟、ペーパーレス化などによる紙需要全体の減少も見られ、業界全体の需給バランスは決して単純な右肩上がりではありません。

製紙会社にとっては、段ボール原紙の安定的な需要がある一方で、原材料価格の変動や環境負荷低減への取り組みといった課題にも直面しています。また、国内に複数の大手製紙企業が存在するため、コスト競争力や設備投資の効率化などが重要視されています。

1-2. グローバル市場への対応

近年、多くの製紙企業が国内にとどまらず、海外市場へ進出したり拠点を拡充したりしてグローバル展開を加速させています。オセアニアや東南アジア地域は人口増加と経済成長の両面で段ボール需要の伸びが期待され、そこに向けた合弁や買収が盛んに行われているのが特徴です。

さらに、中国市場は世界最大規模の紙・板紙市場であるものの、設備過剰や環境規制強化など複雑な要因が絡むため、参入企業は事業環境を見極めながら戦略を立てる必要があります。日本勢が現地企業に出資して子会社化を図るケースもあれば、事業継続の難しさから撤退・売却へ踏み切るケースも少なくありません。

1-3. M&Aの背景と目的

段ボール業界でのM&Aは、以下のような目的を持って行われることが多いです。

  1. 生産・販売体制の効率化
    複数の企業・工場を統合し、設備投資や物流コストを削減することで、収益性の向上を狙います。
  2. 地域網の拡充
    国内外で自社拠点のない地域の有力企業を買収し、顧客基盤や市場シェアを一気に拡大します。
  3. サプライチェーンの一貫化
    古紙回収から原紙製造、段ボールケースの生産・販売までを一体化させることで、原材料調達と販売の両面で競争優位性を確立します。
  4. 事業ポートフォリオの最適化
    主要事業へ資源を集中し、非中核事業の売却やグループ会社間再編によりバランスを保ちます。あるいは新規事業拡大のために、周辺領域の企業を取得するケースもあります。
  5. 技術力の強化
    資材加工技術や印刷技術、接着剤技術など、自社にはない独自のテクノロジーを取り込み、新製品開発や付加価値向上を実現します。

これらの戦略的な狙いがある一方で、環境対応・SDGsの観点や地政学的リスクへの備えなど、時代の要請も背景にあるといえます。


2. 主要なM&A事例とその狙い

ここでは、具体的に公表されている事例を年代順や企業グループごとに整理し、どのような戦略や背景があったかを分析していきます。


2-1. 特種東海製紙と日本製紙によるクラフト紙事業の統合(2015年10月発表)

事例概要

  • 内容:段ボール原紙・クラフト紙事業の販売機能を統合し、新会社を設立。日本製紙が新会社の株式を50%超(66.6%以下)保有し連結子会社化。特種東海製紙の島田工場を分社化した新製造会社は特種東海製紙が50%超(66.6%以下)保有。
  • 狙い:国内需要の低迷と原材料高騰の中、販売機能を集約して経営効率化と競争力強化を図る。
  • 売上高:日本製紙が約744億円、特種東海製紙が約355億円。
  • 統合予定:2016年10月完了。
  • 追記事項(2016年8月3日発表):新販売会社の社名は「日本東海インダストリアルペーパーサプライ」。新製造会社の社名は「新東海製紙」。

分析

この統合は、段ボール原紙とクラフト紙のシナジーに着目したものといえます。両社とも製紙事業の大手であり、特に段ボールやクラフト紙市場では需要が限られる中で設備過剰が指摘されていました。そこで、販売機能を一体化し、相乗効果を狙うことが主要な目的となります。工場の分社化によって生産を効率化すると同時に、両社の強みを活かしてコストメリットを生み出す戦略と推察されます。


2-2. 特殊東海製紙(特種東海製紙)子会社・大一コンテナーをトーモクへ譲渡(2012年2月)

事例概要

  • 譲渡企業:大一コンテナー(静岡県島田市、売上高34億2000万円、営業利益1500万円)。
  • 譲受企業:トーモク(純資産403億円)。
  • 背景:1996年から段ボール製造を主力としてきたが、金融危機以降の事業環境悪化を受け、主要ユーザーであるトーモクへの株式一部譲渡を決断。
  • 譲渡価額:非公表。
  • 譲渡予定日:2012年3月19日。

分析

特種東海製紙にとっては、段ボール事業を維持するよりも主要ユーザーであるトーモクとの関係強化を図ることが得策と判断した事例です。売却によって資本関係を整理し、トーモクの経営資源を活かして新たな市場開拓や経営再構築を進める狙いがありました。一方、トーモクにとっては大一コンテナーを子会社化することで生産性・顧客対応力を高めるメリットがあると考えられます。


2-3. 大王製紙<3880>、吉沢工業を子会社化(2022年4月)

事例概要

  • 取得企業:大王製紙の子会社・大王パッケージ。
  • 被取得企業:吉沢工業(新潟県出雲崎町、売上高15億9000万円、純資産7億2200万円)。
  • 背景:大王グループとして北陸地区に段ボール製品の生産拠点がなく空白エリアを埋めるため。
  • 取得価額:非公表。
  • 取得予定日:2022年5月10日。

分析

段ボール製品の地域的拠点を広げる戦略の一環です。大王製紙グループは全国に工場を持つものの、北陸地区に生産拠点がなかったため、既存の地元メーカーを買収することで物流コスト削減や顧客対応力の向上、販路拡大を狙います。吉沢工業が築いてきた米菓・食品向けの顧客基盤と大王パッケージのスケールメリットを掛け合わせることで、事業シナジーが期待できます。


2-4. 日本製紙<3863>、豪州の包装資材大手オローラから段ボール事業を1243億円で買収(2019年10月)

事例概要

  • 買収金額:17億2000万豪ドル(約1243億円)。
  • 事業:オセアニア地域(豪州・NZ)での板紙パッケージ(段ボール)部門。
  • 狙い:古紙回収から段ボール原紙、段ボール箱まで一貫体制による段ボール事業への進出。
  • 完了予定日:2020年1月31日。
  • 被取得部門の業績:2019年6月期・売上高約1031億円、営業利益約66億円。

分析

日本国内で需要が伸び悩む中、成長が見込まれるオセアニア地域へ投資する動きです。日本製紙は以前に豪州の大手製紙会社AP(オーストラリアン・ペーパー)を子会社化しており、その延長線上としてオローラの段ボール事業を取得することで、古紙回収から製造、加工・販売までを一貫する体制を構築しました。段ボールビジネスは資源循環と結びつきやすい面があるため、安定収益を狙いやすいと判断しての拡大策といえます。


2-5. 日本紙パルプ商事<8032>、トキワから製紙事業を取得(2008年11月)

事例概要

  • 内容:日本紙パルプ商事が新設子会社「エコペーパーJP」を通じてトキワの製紙事業(愛知県尾張旭市工場)を譲り受け。
  • 対象:印刷用紙は月産3100トン、段ボール原紙は同8600トン。
  • 狙い:トキワが製紙事業売却を表明したため、安定供給を図る目的。
  • 取得価額:非公表。
  • 取得予定:2009年4月1日。

分析

商社である日本紙パルプ商事が製紙事業を直接取得する点が特徴的です。商社は物流や取引ネットワークに強みを持ちますが、製造機能を持つことで収益基盤を強化し、顧客への安定供給を確保しやすくなります。特に段ボール原紙の安定調達は包装資材ビジネス全体の競争力にも関わるため、このような事業取得が行われました。


2-6. レンゴー<3941>、容器事業の日本マタイを子会社化(2009年5月)

事例概要

  • 取得企業:レンゴー
  • 被取得企業:日本マタイ(売上高372億円、営業利益△1億9100万円、純資産80億800万円)。
  • 取得価額:35億6000万円。
  • 背景:日本マタイは樹脂加工品・合成樹脂袋などの容器事業を手掛ける。レンゴーは板紙、段ボール、紙器・軟包装を柱とし、中国・東南アジアへも進出。
  • 狙い:日本マタイが持つ営業力や生産技術とのシナジーとレンゴーのネットワークを組み合わせ、容器事業を強化。

分析

レンゴーにとっては自社の紙・段ボール中心のパッケージング事業と、日本マタイが得意とする樹脂加工系包装を組み合わせることで、総合的なパッケージソリューションを顧客に提供できる点が利点です。また、単なる買収にとどまらず、レンゴーの海外拠点やノウハウを活用して日本マタイの生産・販売効率を高め、収益改善を狙ったものと考えられます。


2-7. レンゴー<3941>、凸版傘下のトッパンコンテナーを子会社化(2018年3月)

事例概要

  • 内容:凸版印刷の100%子会社・トッパンコンテナー(段ボール製造)株式60%を約50億円で取得。
  • 背景:トッパンコンテナーは埼玉、栃木、宮城に工場を持ち、貼合生産実績が月間約1140万平方メートル。関東地区での需要対応力を高めるため。
  • 狙い:段ボール需要が著しい関東地区における供給能力拡充。設備投資などを検討。
  • 取得予定:2018年7月上旬。

分析

段ボール需要が高い関東地域への供給体制強化を急務とした事例です。レンゴーは国内外で段ボール事業を大きく展開しており、東京近郊・首都圏がECや流通の中心地であることから、安定した納期・供給体制を構築する意義が大きいといえます。凸版印刷としても、グループ全体でのポートフォリオ調整の一環と考えられ、両社にメリットがあるM&Aと位置付けられます。


2-8. レンゴー<3941>、中国段ボール原紙製造会社2社を取得・そして売却(2011年取得、2013年売却)

2-8-1. 取得(2011年2月)

  • 対象企業:中山聯合鴻興造紙有限公司(広東省)、中山聯興造紙有限公司(広東省)。
  • 出資比率引き上げ:35%→62.8%(約29億1000万円投資)。
  • 狙い:中国での製紙事業基盤強化のため、環境設備や省エネ設備投資を共同で実施。

2-8-2. 売却(2013年7月)

  • 売却先:中山永発紙業(広東省)。
  • 譲渡価額:2社合計で約12億6000万円。
  • 背景:市況軟化により2008年以降赤字が続き、設備投資などの取り組みも実を結ばず。

分析

海外進出に伴うリスクとリターンが如実に表れた事例です。レンゴーは中国市場の潜在的成長を見込み、積極的に出資比率を高めたものの、市況悪化や競争激化、環境規制強化などにより赤字が続き、最終的に撤退を決断しました。海外でのM&Aは将来的な成長が期待できる一方、政治・経済・法規制など多面的なリスク評価が欠かせないことを示す好例といえます。


2-9. 丸紅<8002>、ベトナム段ボール原紙製造子会社KOAを譲渡(2024年11月発表)

事例概要

  • 譲渡企業:Kraft of Asia Paperboard & Packaging Co., Ltd.(KOA)。
  • 売上高:145億円、当期純利益△227億円、純資産△134億円。
  • 背景:包装資材事業のポートフォリオ見直しの一環。増資で債務超過を解消した後、投資会社Meico Management Co., Ltd.に全持ち分を譲渡。
  • 譲渡価額:非公表。
  • 譲渡予定日:2025年2月10日。

分析

丸紅は総合商社として多角的に事業を展開していますが、近年の資源価格変動やアジア各国の事業環境を鑑みて、採算性に課題がある事業は整理する方針を取っています。ベトナム市場は成長が見込まれるものの、投資や操業上の問題によって想定以上の赤字が続く場合には、撤退判断を下すことも選択肢となります。M&Aは買収だけでなく、ポートフォリオ調整のための売却・撤退も重要な戦略要素です。


2-10. 高速<7504>、常磐パッケージを子会社化(2008年8月)

事例概要

  • 被取得企業:常磐パッケージ(福島県いわき市、売上高56億1000万円、営業利益1億5500万円)。
  • 子会社化に伴い取得:常磐パッケージの子会社3社(いわき紙器、常磐プラスチック工業、ジェイ・アイ・ピー)。
  • 背景:福島県・茨城県などの東北・関東北部地域を営業基盤に持つ。
  • 狙い:高速の既存事業との相乗効果で事業拡大。

分析

常磐パッケージの地盤は東北・北関東地域に密着しています。高速は同地域でのシェア拡大や顧客サービス向上を重視し、段ボールや紙袋などを多角的に扱う常磐パッケージを手中に収めることで事業領域を拡大できると判断したものと考えられます。


2-11. 王子ホールディングス<3861>、森羽紙業を子会社化(2023年12月発表)

事例概要

  • 取得形態:株式交換による子会社化。
  • 交換比率:王子1:森羽紙業1803。
  • 狙い:段ボール事業の拡大・強化。
  • 被取得企業:森羽紙業(青森県五所川原市、売上高20億1000万円、営業利益1億400万円、純資産11億1000万円)。
  • 取得予定日:2024年2月1日。

分析

王子ホールディングスは全国各地に生産拠点を持ち、段ボール事業でも大手としての存在感を示しています。東北地方に強みを持つ森羽紙業を傘下に収めることで地域密着の顧客基盤を取り込み、生産・配送ネットワークをより最適化する狙いと考えられます。王子HDは他にも海外拠点拡充を進めており、国内での基盤強化と海外展開の二軸で成長を図っています。


2-12. 王子ホールディングス<3861>、ニュージーランドのCHHPPを買収(2014年4月)

事例概要

  • 買収先:Rank Group Limited傘下のCarter Holt Harvey Pulp & Paper Limited(CHHPP)。
  • 取得価額:約923億円。
  • 事業内容:化学パルプ・段ボール原紙・段ボール加工。
  • 背景:ニュージーランドの豊富な針葉樹資源を生かして製紙・パルプ事業を拡大。
  • 買収主体:王子HD60%出資、産業革新機構40%出資の共同会社。

分析

オセアニア地域は段ボール原紙の主要供給地にもなり得る重要な地域です。王子HDは国内で築いた段ボール事業に加え、海外でも原材料生産から加工までを垂直統合することで、世界規模でのコスト競争力と安定供給を実現しようとしています。ニュージーランドは植林事業やサステナビリティへの取り組みが進んでおり、長期的な視野での資源確保という点でも意義が大きい買収となりました。


2-13. トーモク<3946>、大一コンテナーを子会社化(2012年3月)

事例概要

  • 取得企業:トーモク
  • 被取得企業:大一コンテナー(特殊東海製紙の完全子会社、売上高34億2000万円)。
  • 株式取得割合:70%。
  • 背景:大一コンテナーは段ボール原紙メーカーとの相乗効果を活かしていたが、トーモクの強い段ボール生産・販売力とのシナジーを得る。
  • 狙い:生産性向上と営業力強化。
  • 取得価額:非公表。

分析

先述の通り、特殊東海製紙は大一コンテナーを譲渡し、段ボール事業の再編を進める一方で、トーモクは自社の全国展開の足がかりとして地方の有力段ボール会社を取り込みました。大一コンテナーは静岡県を地盤としており、この地域の物流・製造拠点強化に繋がったと考えられます。


2-14. トーモク<3946>、玉善から戸建て住宅分譲事業を取得(2020年12月発表)

事例概要

  • 内容:玉善が分割した戸建て住宅分譲事業を新設会社「タマゼン」として設立し、その全株式を取得。
  • 背景:トーモクは段ボール・紙器事業のほか住宅、運輸倉庫事業を展開。
  • 狙い:愛知県の戸建て住宅分譲事業のノウハウ取得と事業多角化。
  • 取得価額:非公表。
  • 取得予定日:2021年3月1日。

分析

こちらは段ボールのM&Aとはやや趣旨が異なりますが、トーモクが単なる包装メーカーではなく、住宅事業にも力を入れていることを示す事例です。自社のコア事業である紙器・段ボールに加え、木材や建材とのシナジーを見込んで住宅関連事業を拡大していると考えられます。


2-15. マルハニチロホールディングス<1334>、大興製凾をレンゴー<3941>に譲渡(2008年2月)

事例概要

  • 譲渡企業:大興製凾(山口県下関市、売上高16億9800万円、段ボール・紙器の製造販売)。
  • 譲受企業:レンゴー。
  • 背景:マルハニチロHDがコア事業へ資源集中する一環で周辺事業を譲渡。
  • 譲渡価額:非公表。
  • 譲渡予定:2008年3月末まで。

分析

マルハニチロは水産・食品関連事業を中心に展開しており、段ボール製造は周辺事業と位置付けていました。一方、レンゴーは段ボール事業においてシェア拡大を目指しており、地方の有力企業を取り込むことで生産ネットワークを強化しました。こうした周辺事業の整理・集中は多角経営企業のM&A戦略としてよく見られます。


2-16. ニッコンホールディングス<9072>、エムピーを子会社化(2023年11月発表)

事例概要

  • 取得企業:ニッコンホールディングス。
  • 被取得企業:エムピー(長野県千曲市)。
  • 事業内容:段ボール製品の加工・販売。
  • 狙い:梱包関連事業の拡大。
  • 取得価額:非公表。
  • 取得予定日:2023年11月30日。

分析

ニッコンHDは物流業を中心とする企業グループであり、梱包資材・包装関連サービスの強化を狙ってエムピーを子会社化しました。段ボールは物流工程と密接であるため、自社で梱包資材の加工・販売機能を持つことで、一貫体制のソリューションを提供しやすくなります。こうした垂直統合的な動きは物流企業でも近年増加傾向にあります。


2-17. ダイナパック<3947>、TKT Vietnam Plastic Packagingの子会社化(2023年12月発表)

事例概要

  • 取得企業:ダイナパック。
  • 被取得企業:TKT Vietnam Plastic Packaging Joint Stock Company(ベトナム、ビンズオン省)。
  • 事業内容:軟包装材の製造。
  • 売上高:30億8000万円、営業利益2億4200万円、純資産5億9200万円。
  • 狙い:軟包装分野への進出強化。
  • 取得予定:2024年1月下旬。
  • 取得価額:非公表。

分析

ダイナパックは国内外で段ボールの製造販売を行っていますが、近年は軟包装材などの周辺領域の拡大にも注力しています。ベトナムは軟包装需要が高まりつつある成長市場であり、段ボールに加えて軟包装の製造ラインを確保することで、多角的な包装ソリューションを提供できるようになります。今後ASEAN地域全体でさらなる成長が期待されます。


2-18. ダイナパック<3947>による段ボールメーカーの買収事例

2-18-1. 旭段ボールの子会社化(2018年6月)

  • 売上高:26億7000万円。
  • 拠点:さいたま市、神奈川県海老名市。
  • 狙い:関東地区生産連携のシナジー創出。

2-18-2. 小倉紙器の子会社化(2019年12月)

  • 売上高:7億4600万円。
  • 所在地:静岡市。
  • 狙い:静岡エリアの顧客基盤獲得と中京圏~関東圏の事業強化。

2-18-3. マレーシアGRAND FORTUNEの子会社化(2018年10月)

  • 売上高:17億4500万円。
  • 狙い:東南アジアでの段ボール生産機能獲得。ダイナパックのグローバル体制強化。

分析

ダイナパックは連続して段ボール企業や包装材企業を買収し、自社の事業領域を拡大してきました。国内では関東や静岡など主要消費地近隣の企業を取り込み、拠点網の隙間を埋める戦略が見られます。海外ではマレーシアやベトナムなどアセアン各国での需要拡大に対応し、現地生産・販売体制を整えています。


2-19. アイカ工業<4206>によるマレーシアAdtekの子会社化(2021年2月)

事例概要

  • 被取得企業:Adtek Consolidated Sdn. Bhd.(売上高約29億2000万円、営業利益約2億3000万円、純資産約14億8000万円)。
  • 事業内容:ホットメルト接着剤の製造販売(衛生材・DIY用・産業用など)。
  • 狙い:機能材料事業の拡大・海外展開促進。
  • 取得価額:約30億9000万円(最終調整あり)。
  • 完了:2021年4月1日。

分析

段ボールへの接着用途として、ホットメルト接着剤は多用されています。アイカ工業は自動車や木材・建材向けにも接着剤を製造しており、Adtekのグローバルな販路を活用することで東南アジアやアフリカ、欧米市場へ展開できるメリットがあります。段ボール業界には直接的な製紙や加工の買収ではありませんが、包装資材の一部を担う技術企業の買収例として注目されます。


2-20. カンダホールディングス<9059>、堀切運輸を子会社化(2022年2月)

事例概要

  • 取得企業:カンダホールディングス。
  • 被取得企業:堀切運輸(埼玉県八潮市、売上高12億4000万円)。
  • 事業内容:重量物(段ボール用巻取原紙など)の配送。
  • 狙い:運送網拡充、新規顧客獲得。
  • 取得価額:非公表。

分析

堀切運輸は段ボール用巻取り原紙の輸送に特化する強みを持ちます。カンダHDは物流グループとしての規模拡大を図り、段ボールに必要な原紙や製品の運送を包括的に担うことができるようになります。製紙~加工~物流が垂直に繋がることで、需給調整やコスト削減、サービス品質向上に繋がる可能性があります。


2-21. KPPグループホールディングス<9274>による欧州スペイン・ポルトガルのパッケージ関連企業買収

2-21-1. スペインPlanchas Aislamientos y Embalajes S.L.(2024年11月)

  • 事業内容:フォーム、硬質プラスチック、木材、段ボールなどのパッケージ製品加工・販売。
  • 狙い:欧州南西端イベリア半島でのパッケージ事業基盤強化。

2-21-2. ポルトガル100 Metros(2024年1月)

  • 事業内容:包装用紙、段ボール、ストレッチフィルム等の仕入れ販売。ECでの販売に注力。
  • 狙い:イベリア地域での事業拡大と多様な顧客基盤獲得。

2-21-3. スペインEmbalajes Gosuma S.L.の産業用パッケージ販売事業取得(2023年4月)

  • 対象事業:段ボール箱、プラスチック容器の販売。
  • 地盤:スペイン東部(フランス国境付近)。
  • 狙い:自動車、食品、医薬品向けなどの拡大。

分析

KPP(旧・日本紙パルプ商事グループ)が欧州パッケージ事業の強化に乗り出している一例です。イベリア半島はスペイン・ポルトガル両国を含む広域で輸出入が盛んであり、自動車産業や食品関連の需要も大きい地域。KPPは連続的な企業買収を通じて現地の販売網を獲得し、欧州ビジネスを拡充する戦略を着実に進めています。段ボールを含めた包装資材のニーズはグローバルに高まり続けており、それに合わせた国際的な再編が進行中です。


2-22. サトーホールディングス<6287>、英国DataLaseを子会社化(2016年12月)

事例概要

  • 追加取得:元々33.3%を出資していたが、残り66.7%を取得し完全子会社化。
  • DataLaseの技術:「インライン・デジタル・プリンティング」…塗布面を感熱素材化し、段ボールやフィルムに直接高速印刷が可能。
  • 狙い:従来のラベル貼付やオフセット印刷に代わる新しいマーキング・印刷技術の実用化。
  • 売上高:約2億8000万円(当時)。
  • 目標:5年後に250億円の売上を目指す。

分析

サトーホールディングスはバーコードやRFIDなど、自動認識・マーキング分野に強みを持つ企業です。DataLaseの技術を自社ソリューションに取り込むことで、段ボールなどの包装資材への直接印字を実用化し、ラベルレス化や高速印刷を推進できます。環境負荷の軽減やコスト削減にも繋がり、物流・包装市場全体にインパクトがある技術革新と言えるでしょう。


3. 総合的な考察:段ボール業界M&Aの特徴と今後の展望

前述の数々の事例を通じて見えてくる段ボール業界特有のM&Aの特徴やトレンドを、以下に整理いたします。

3-1. 地域拠点の強化と全国ネットワークの構築

段ボールは比較的かさばる製品であり、輸送コストの最適化が収益に大きく響きます。そのため、地域密着型の企業を買収することで販売網や顧客基盤を取得しつつ、全国ネットワークを整備する動きが強いのが特徴です。大王製紙の北陸進出やレンゴー、ダイナパックの地域企業買収などが典型例です。

3-2. グローバル展開への積極姿勢

日本製紙や王子HD、ダイナパック、KPPグループなど、大手は海外拠点の確保を進めています。成長著しいアジア地域だけでなく、オセアニアや欧州でも段ボール需要の取り込みや資源確保のために買収や合弁が盛んです。しかし、中国など競争の激しい市場では撤退(レンゴーの事例)もあり、状況を柔軟に見極めながら事業ポートフォリオを調整する重要性が伺えます。

3-3. サプライチェーンの垂直統合

商社系の日本紙パルプ商事による製紙事業取得、物流企業(カンダHD、ニッコンHD)による包装関連会社買収など、サプライチェーンの一部を取り込むM&Aが増えています。段ボール原紙の製造から配送、さらには顧客へのマーケティング支援まで一気通貫で提供できるようになるため、コスト削減とサービス付加価値向上を同時に狙えます。

3-4. 周辺事業の整理・集中

大興製凾をマルハニチロが譲渡、KOAを丸紅が譲渡、特殊東海製紙が大一コンテナーを売却…など、製紙や食品など複数分野を扱う企業が本業以外の包装製造部門を手放すケースが増えています。一方で、その事業を買う側としては段ボール・包装に特化したノウハウを自社グループに統合することでシナジーを見込みやすいメリットがあります。

3-5. 新技術の獲得

サトーホールディングスがDataLaseを買収した例が示すように、単なる生産設備や販売拠点の統合だけでなく、付加価値を生む技術を取り込むM&Aも増えています。今後はIoTやAIを活用したスマート包装、環境負荷低減を実現する次世代原紙や接着剤などの分野で技術革新が起きる可能性が高く、同様の事例が増えると考えられます。


4. 今後の課題と展望

4-1. 脱炭素や循環型社会への取り組み

段ボールは古紙リサイクルが比較的進んでいる素材ですが、さらにCO₂排出削減や環境負荷軽減が求められています。大手企業を中心に製紙工程の省エネルギー化や再生原紙の開発が進められる一方、原料となる木材資源の安定調達、化石燃料依存からの脱却など、課題は山積みです。M&Aを通じて森林資源やリサイクル拠点を確保する動きも今後は増えるでしょう。

4-2. EC拡大への対応

EC市場の拡大に伴い、段ボールケースの需要は依然として底堅い伸びを見せています。加えて、消費者のライフスタイル変化に伴う小口配送ニーズ増大、あるいはネットスーパー・食品デリバリー分野の普及など、新たな包装形態の開発も求められています。M&Aを通じてパッケージング開発力を高める企業が出てきても不思議ではありません。

4-3. 人手不足と業務効率化

国内の生産工場や物流現場では人手不足が深刻化しており、業務自動化・デジタル化の推進が急務となっています。段ボール生産ラインのIoT化や無人搬送車(AGV)の導入、ロボットパレタイジングシステムの活用などが進むにつれ、技術力や投資余力を持つ大手企業への集約が進む可能性があります。M&Aはこうした設備投資を効率化し、大規模化を実現するための有力な手段となっています。

4-4. 海外生産拠点の再編と地政学リスク

中国や東南アジアへの進出は引き続き魅力的ですが、米中対立や各国の規制、為替変動リスクなどにより、将来的に再編を余儀なくされる可能性もあります。レンゴーの中国撤退事例や丸紅のベトナム事業譲渡のように、一度進出した後に撤退する選択肢も企業としては想定する必要があります。その一方で、新たなマーケットとしてはインドやアフリカ市場が注目され始めています。


5. まとめ

本記事では、段ボール業界における国内外のM&A事例を中心に、その背景や狙い、成果と課題について幅広く取り上げました。段ボール業界は製紙業界の一角を成し、再生資源の循環利用とも密接に結びついた重要な産業です。またEC需要や食品・医薬品など、社会インフラの一端を担う領域でもあるため、景気や消費動向との関連が非常に強い一方で、今後も安定してある程度の需要が見込める分野といえます。

一方、国内人口減少や海外市場との競合、原材料価格の変動、脱炭素社会への要請など、企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。そうした中で生き残り、さらには成長するためには、需要の高い地域や新興国への積極展開、サプライチェーンを活用した総合力の強化、環境負荷低減に寄与する先進技術の取り込みなどが鍵を握るでしょう。その手段としてM&Aは今後もなお重要性を増すものと思われます。

特に大手製紙メーカーや大手段ボール企業のみならず、物流や商社、化学メーカーなど異業種からの参入や周辺企業の買収も活性化しており、業界の垣根を越えた再編の動きが広がっています。今後は、さらにグローバル企業間の統合や、技術ベンチャーの買収など多様な形でM&Aが行われると考えられます。業界関係者にとっては、自社の強みと事業ポートフォリオを見極めながら、最適なパートナーシップや投資機会を探ることが大きな経営課題となるでしょう。

いずれにしても、段ボール業界は環境や社会の変化に合わせて形態を変えながらも、私たちの生活や産業活動に欠かせない存在であり続けます。その動向を左右するM&Aは、単なる企業買収のニュースにとどまらず、より大きな産業構造や社会の仕組みを映し出す鏡ともいえます。本稿でご紹介した事例や考察が、段ボール業界のM&A動向を読み解く一助となれば幸いです。