目次
  1. 太陽光発電業界におけるM&Aの背景と重要性
  2. 太陽光発電業界の概況
    1. 固定価格買取制度(FIT)の影響
    2. 脱炭素化や再生可能エネルギーの位置づけ
  3. M&Aにみる太陽光発電事業の多様化
    1. 事業会社によるエネルギー分野への参入と安定収益の確保
    2. 発電事業の継続保有か、売却か
  4. 主なM&A事例の解説
    1. 大盛工業による東京テレコムエンジニアリングの子会社化
    2. 東京ガスの海外大型太陽光発電事業取得
    3. 相鉄ホールディングスとチェンジホールディングスのGX事業譲渡
    4. 東急不動産HDによるリニューアブル・ジャパンのTOB
    5. 日清紡ホールディングスと日本無線のTOB
    6. 電源開発(Jパワー)の海外再生エネ企業買収
  5. M&A戦略とそのメリット
    1. 技術力・ノウハウの獲得
    2. 資本力・信用力の強化
    3. サプライチェーンの統合
  6. 事例から見る各社のM&A目的
    1. 低迷する本業からの脱却・経営多角化
    2. 事業リスクの分散と収益安定
    3. 新技術・新サービスの獲得
  7. M&Aの手法と注意点
    1. TOB(株式公開買い付け)とスキーム・オブ・アレンジメント
    2. 事業譲渡と株式譲渡
    3. アーンアウト条項と価格調整
  8. M&A後の統合とシナジー創出
    1. 組織文化の統合
    2. 統合後のプロセス管理
  9. 今後の太陽光発電M&Aの展望
    1. 新規参入の減速とFIT後の市場変化
    2. 蓄電池・PPAモデルへのシフト
    3. 海外展開と国際競争
  10. まとめ:太陽光発電M&Aのポイントと今後の可能性
  11. おわりに

太陽光発電業界におけるM&Aの背景と重要性

近年、地球温暖化対策や持続可能な社会の実現を目指す動きが加速する中で、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電の重要性が大きくクローズアップされています。日本では2012年に固定価格買取制度(FIT)が創設されたことを契機として、太陽光発電への参入が一気に拡大し、住宅用から大規模なメガソーラー(太陽光発電所)まで、さまざまなプロジェクトが全国で展開されてきました。しかし、FITによる優遇価格も段階的に下がり、市場競争が激化するにつれて、従来のビジネスモデルだけでは安定した収益を確保することが難しくなっています。

こうした状況の中、太陽光発電業界では経営基盤の強化や新技術の獲得、事業領域の拡大を求める企業同士のM&A(合併・買収)が盛んに行われるようになりました。M&Aは会社や事業を統合することで、技術力やノウハウの相互補完、資金力の増強、顧客基盤の拡大など、多くのシナジー効果を期待できるため、業界再編の重要な一手段となっています。本記事では、実際のM&A事例を交えながら、太陽光発電業界におけるM&Aの意義やポイント、今後の動向について詳しくご紹介します。

太陽光発電業界の概況

固定価格買取制度(FIT)の影響

日本の太陽光発電市場は、2012年7月に導入された固定価格買取制度(FIT)によって大きく成長しました。FITは再生可能エネルギーによる電力を一定期間、国が定める価格で買い取る制度で、これにより大規模なメガソーラー事業が全国各地で展開され、多くの企業や投資家が参入しました。特にFIT初期の買い取り価格は比較的高水準だったため、投資回収の見通しが良く、新規参入に拍車がかかったのです。

しかしながら、制度開始から数年が経過するにつれ、買い取り価格は段階的に引き下げられました。この引き下げにより採算性が低下し、加えて土地確保の難しさや送電制約の問題が顕在化したことで、太陽光発電事業を単独で維持・拡大することが難しい局面に直面する企業も増えてきました。そうした背景から、経営資源の集中や事業売却を通じたスリム化に動く企業、あるいは他社の買収を通じて規模拡大を図る企業が相次ぎ、M&Aが活発化しています。

脱炭素化や再生可能エネルギーの位置づけ

世界的に見ても脱炭素化の流れが加速しており、今後さらに再生可能エネルギーへのシフトが進むと考えられています。特に、太陽光発電は風力や水力と比較して設備導入の柔軟性に優れ、個人住宅からメガソーラーに至るまでさまざまな規模で導入できることが特徴です。蓄電技術やパワーコンディショナなど周辺技術の進歩により、さらに高効率化や低コスト化が進むことも期待されています。

エネルギーの地産地消や防災、レジリエンス(強靭性)の観点から見ても、太陽光発電は地域密着型の新ビジネスや、企業の脱炭素経営への対応に役立つため、今後も需要が続いていくと見込まれます。その中で、単独企業のみでの対応が難しい要素(資金、技術、人材など)を補う手段として、M&Aが一層注目されているのです。

M&Aにみる太陽光発電事業の多様化

事業会社によるエネルギー分野への参入と安定収益の確保

太陽光発電事業は長期的な固定収益が見込める一方で、設備投資額の大きさや開発リスクも抱えるため、他分野から参入する企業にとっては慎重な判断が求められます。しかし、既存事業の先行きが不透明な場合、再生可能エネルギーという社会的意義のある事業へ投資し、長期安定収益を得たいという思惑が働くことは少なくありません。こうした需要と供給のバランスの中で、太陽光発電事業を展開している企業のM&Aが増加しています。

たとえば、今回参照している事例の中では、もともと別業種を主力としていた企業が、太陽光発電を含む再生可能エネルギー事業を多角化の一環として積極的に買収・統合するケースが多々見られます。これは、企業側が再生エネの将来性や社会的意義に着目し、株主や市場からの評価を高めるためでもあります。

発電事業の継続保有か、売却か

太陽光発電事業を運営している企業が、一定期間経過後に発電所を売却するケースも存在します。これは、メガソーラー事業において、最初の数年で投資回収のめどが立つ場合や、他の成長分野に経営資源を集中させたい場合など、多種多様な理由が考えられます。企業にとっては、売却によるキャッシュの確保や財務体質の改善が可能となり、新規プロジェクトへの投資原資が生まれるメリットがあります。

一方で、買い手側にとっては、すでに稼働している発電所を取得することで安定した売電収入を得られ、開発リスクも抑えられるというメリットがあります。こうした売り手と買い手の利害が一致することで、発電所の売買や太陽光関連事業の譲渡が実現しているのです。

主なM&A事例の解説

ここからは、参考事例として挙げられている複数のM&A・事業譲渡案件を基に、太陽光発電業界特有のポイントを解説していきます。実際には、企業ごとに戦略や背景が大きく異なりますが、複数の事例を比較することで全体像を把握しやすくなります。

大盛工業による東京テレコムエンジニアリングの子会社化

大盛工業は上下水道工事を主力としながら、近年は太陽光発電事業にも進出していました。その大盛工業が電気通信所内設備運用の東京テレコムエンジニアリングを子会社化した背景には、事業の安定収益源を確保したい意図があったと考えられます。太陽光発電事業単独では、制度変更などのリスクも伴いますが、既存の顧客基盤を持つNTTグループ関連の設備運用会社を傘下に収めることで、収益源の分散と安定化を狙ったとみられます。取得価額は2億1000万円で、事業の補完関係は明確でした。

東京ガスの海外大型太陽光発電事業取得

東京ガスはガス事業をメインとするエネルギー大手ですが、国内外で再生エネルギー案件を積極的に獲得しています。米国の再生エネルギー事業者ヘカテエナジーから大規模太陽光発電事業を取得した案件は、同社にとって初の海外太陽光発電参入であり、グローバルな成長戦略の一環です。取得価額は非公表ながら、テキサス州の電力市場(ERCOT)に電力を販売できるというスキームは、海外電力自由化市場でのビジネスモデル確立に大きく寄与すると考えられます。

その後も東京ガスは米国Clean Capital Partnersが進める蓄電池事業を取得しており、太陽光・風力など再エネの不確定出力を補う系統用蓄電池への需要拡大にも対応しています。こうした案件を積み重ねることで、海外における再エネ事業ポートフォリオを拡大し、脱炭素社会に向けた総合エネルギー企業への転換を目指しているのです。

相鉄ホールディングスとチェンジホールディングスのGX事業譲渡

相鉄ホールディングスが、チェンジホールディングス傘下のトラストバンクからGX(グリーントランスフォーメーション)事業を取得した事例も注目を集めました。相鉄沿線の自社保有施設を活用した太陽光発電など再生可能エネルギー事業強化が狙いとされており、地方創生や地域密着型エネルギービジネスを得意とするトラストバンクのノウハウが有効活用されると考えられます。

当初の取得予定日は2024年9月30日でしたが、追加発表により10月1日に変更されています。M&Aや事業譲渡では、許認可や契約条件、準備状況などに応じて、日程が変更されることはよくある事例といえます。太陽光発電を含む再エネ事業は複数の行政手続きが必要になる場合が多く、スケジュール管理がM&A成功のカギとなります。

東急不動産HDによるリニューアブル・ジャパンのTOB

リニューアブル・ジャパンは2012年に太陽光発電事業を目的に設立され、東証グロース市場にも上場している再生エネルギー事業者です。東急不動産ホールディングスは段階的に同社へ出資しており、この度TOBと経営陣によるMBOを組み合わせる形で完全子会社化を進めています。買収総額は320億円程度、TOB価格は1株1250円で、前日の終値に対し134.96%という高いプレミアムがつけられました。

リニューアブル・ジャパン側はFITの優遇措置終了など、太陽光発電を取り巻く事業環境の変化に備えるため、大手不動産会社のグループに入り、安定した資金調達とプロジェクト推進の体制を構築する狙いがあります。一方、東急不動産HDにとっては、太陽光をはじめとする再生エネ事業の拡大によってグループ全体の事業領域を強化できるメリットがあります。大型M&Aの成功例として、今後同様の手法をとる案件も増えると予想されます。

日清紡ホールディングスと日本無線のTOB

日清紡ホールディングスは日本無線をTOBにより子会社化することで、太陽電池製造装置や蓄電装置事業などエネルギー分野での協業体制を強化しました。買付価格は1株当たり300円で、前日の終値183円に対して63.93%のプレミアムが加えられました。当時(2010年)の再生可能エネルギー分野は、現在ほど大規模ではありませんでしたが、製造装置や周辺技術を持つ企業との連携強化は、現在に至る太陽光発電市場の拡大を見据えた先見性といえます。

電源開発(Jパワー)の海外再生エネ企業買収

電源開発(Jパワー)はオーストラリアのジェネックス・パワーを子会社化することで、揚水発電や風力発電などを含む再エネ開発プロジェクト「クリーン・エネルギー・ハブ」に深く関わる体制を構築しました。オーストラリアは風力や太陽光などの導入目標が高く、連邦政府が2050年の実質ゼロを宣言していることもあり、今後も大規模な需要が見込まれます。ジェネックス株をスキーム・オブ・アレンジメント(SOA)と呼ばれる手法で100%取得し、当初の取得価額は346億円とされていましたが、実際には376億円に上方修正されました。こうした価格変動や手続きの複雑さは、海外M&Aにおいてもよくある事例です。

M&A戦略とそのメリット

技術力・ノウハウの獲得

太陽光発電の開発・建設・運営には、高度な技術力や専門知識が欠かせません。特にメガソーラークラスになると、土木工事やグリッド接続、系統用蓄電池の導入など幅広い領域に精通する必要があります。こうした技術・ノウハウを自前でゼロから構築するには時間とコストがかかるため、すでに実績を有する企業を買収することでスピーディに拡充できるメリットがあります。

一方、買収される側の企業は、大手グループの資金力やブランド力、人的リソースを得ることで、より大規模な案件や新市場への参入が可能になります。こうした相乗効果を期待してのM&Aは、業界内でも一般的な手法です。

資本力・信用力の強化

太陽光発電所の建設には多額の設備投資が必要です。加えて、長期安定収益を狙う一方、初期投資回収には数年単位でのスパンがかかるため、金融機関や投資家からの資金調達を円滑に行うには信用力が求められます。大手企業や資本力のある企業と提携・統合することで、プロジェクトファイナンスを組成しやすくなり、事業をスピーディに拡大できます。

また、海外案件を取り込む際は、現地での信用力や規制対応のノウハウが必要になりますが、これもM&Aを通じて既に事業基盤を築いた企業を取得すれば、比較的スムーズに事業を進められます。

サプライチェーンの統合

太陽光発電事業は、太陽光パネルやパワーコンディショナなどの主要機器をはじめ、架台の設置、工事、保守点検、運営、売電など複数の要素が連携して成り立っています。サプライチェーンが長いだけに、調達コストをいかに抑えて工期を短縮するかが収益性に直結します。M&Aにより製造会社や施工会社を傘下に収めると、部品調達や工事手配を一体で進められるため、コスト削減と供給安定を実現しやすくなります。

また、メンテナンス専門会社を取得してアフターサービスを強化すれば、長期稼働を前提とする太陽光発電所の運営リスクを低減し、発電所の稼働率を高めることで売電収益を最大化できるでしょう。

事例から見る各社のM&A目的

低迷する本業からの脱却・経営多角化

本記事の事例には、もともと建設業やインフラ事業を主力としていた企業が、太陽光発電事業を取り込んで収益源を多角化する例が多数含まれています。例えば、大盛工業は上下水道工事の分野で実績があるものの、震災復興需要の一巡や公共投資の先細り懸念などにより、新たな収益の柱が必要でした。そこで、安定した収益が期待される太陽光発電事業や関連保守会社を買収して、グループとしての事業ポートフォリオを強化したのです。

同様に、藤田エンジニアリングや日成ビルドなど建設関連会社が太陽光発電の施工会社を子会社化するケースが見受けられます。これは、既存の土木・建設ノウハウを活かしながら、再生エネ分野を一貫してカバーできる体制を構築する狙いがあると推察されます。

事業リスクの分散と収益安定

事例を見ると、燃料価格や需給状況の影響を受けにくい太陽光発電事業に目を付け、長期にわたる売電収入を得たいという企業姿勢が浮かび上がります。特に国内の電力会社やガス会社などが、太陽光発電を含む再生可能エネルギーに積極的に取り組む例が増えています。東京ガスや電源開発、豊田通商、ENEOSなどエネルギー大手による大型買収は、その象徴的な動きといえます。

こうした企業は既に国内外でのエネルギー開発やネットワークを持っており、そこに太陽光を組み込むことでポートフォリオを拡充し、リスク分散と収益拡大を同時に狙っています。

新技術・新サービスの獲得

太陽光発電は、単なるパネルの設置・売電にとどまりません。蓄電池やパワーコンディショナ、バイオマスとのハイブリッド発電、PPA(電力販売契約)モデルなど、関連分野の技術革新が絶えず進んでいます。M&Aによって、こうした技術やサービスを得意とする企業を傘下に収めることで、新たなビジネスモデルを展開できるのが大きな利点です。

例えば、東京ガスがヘカテエナジーやClean Capital Partnersから太陽光発電・蓄電池事業を相次いで取得したことは、自社の顧客基盤やエネルギー供給網に新技術を取り込み、商機を創出する狙いがうかがえます。また、Abalanceが太陽光パネル製造を手がけるベトナムや米国企業を子会社化している例なども、サプライチェーンを内製化しつつ、先端技術を獲得する好例といえます。

M&Aの手法と注意点

TOB(株式公開買い付け)とスキーム・オブ・アレンジメント

上場企業や大規模案件では、株式公開買い付け(TOB)を通じて大量の株式取得を狙うケースが一般的です。TOBには買付期間や買付株数、価格の開示義務があり、透明性が確保されます。一方、オーストラリアなど海外市場では、スキーム・オブ・アレンジメント(SOA)という手法がよく用いられ、これは裁判所の承認を得たうえで対象会社の株式をすべて取得できる仕組みです。

海外M&Aの場合、現地の法制度や税務ルール、外資規制などさまざまなハードルがあり、慎重な専門家対応が求められます。電源開発のジェネックス買収や、ENEOSによるJREの買収などは、こうした国際的な手続きをクリアする必要があり、実務的な時間とコストも大きいとされています。

事業譲渡と株式譲渡

太陽光発電所や特定事業のみを切り出して譲渡する場合、事業譲渡の形を取ることがあります。たとえば、一部事例では合同会社や匿名組合で発電所を保有し、それを別企業へ譲渡する形が見られます。また、売却対象が子会社の場合は株式譲渡という形を取り、よりスムーズな移管を可能にします。

事業譲渡には税務面や債権者保護手続きなどの考慮が必要で、株式譲渡は対象会社の権利義務を包括的に移転できる利点があります。いずれの手法を選ぶかは、企業の財務状況や譲渡範囲、法的リスクなどを総合的に検討することが肝要です。

アーンアウト条項と価格調整

M&A契約では、後々の業績に応じて譲渡対価を加減するアーンアウト条項が設定される場合があります。特に太陽光発電所の発電量や売電価格、天候リスクなどは予測が難しい面もあるため、買い手と売り手が将来的な収益変動に対して協議し、リスクを分担する仕組みをつくることがよくあります。また、海外M&Aでは為替リスクを考慮して、締結からクロージングまでの間に為替が変動した場合の価格調整が行われることも珍しくありません。

M&A後の統合とシナジー創出

組織文化の統合

企業統合後に重要となるのが、組織文化の融合です。特に異業種企業とのM&Aや、海外企業の買収などの場合、事業に対する考え方や意思決定プロセス、リスクマネジメントの方法などが大きく異なるため、統合後のシナジーを最大化するには互いの文化を理解し尊重する努力が欠かせません。太陽光発電は長期プロジェクトの色合いが強く、計画から運用までに時間がかかるため、短期的な成果だけでなく長期目線での連携が重要です。

統合後のプロセス管理

太陽光発電事業の場合、開発段階の環境アセスメントや行政許認可、建設工事、グリッド接続、稼働開始後の保守点検など、多段階のプロセスが存在します。M&Aにより事業規模が拡大すると、プロジェクト管理やリスクモニタリングを一元化するシステムが必要となります。とくに大規模企業の傘下に入ると、コンプライアンス強化や内部統制ルールの適用が進み、従来の中小企業的なやり方とのギャップが生じる可能性があります。

また、売却後の現地スタッフや既存の施工パートナーとの関係調整も重要となります。M&Aが事業拡大やコスト削減につながるのか、それとも歪みを生むのかは、統合後の管理体制に大きく左右されます。

今後の太陽光発電M&Aの展望

新規参入の減速とFIT後の市場変化

固定価格買取制度(FIT)の価格引き下げや、新規認定プロセスの厳格化により、メガソーラー新設の勢いは当初に比べて落ち着いてきています。今後は事業撤退や集約が進む可能性が高く、すでに稼働中の発電所を運営する企業の売却案件や、O&M(運営・保守)専門会社の買収などが増えると予想されます。

また、2022年頃からは太陽光パネルのリサイクル問題や、出力制御による発電停止リスクなども顕在化しており、これらのリスクを見越して大手企業に統合されたい中小事業者が増える可能性も考えられます。

蓄電池・PPAモデルへのシフト

今後は太陽光発電と蓄電池の併用や、第三者所有型PPAモデルが主流になっていくことが予想されます。PPAモデルとは、発電事業者が需要家の施設(屋根や敷地など)に太陽光発電設備を設置し、需要家は設備投資不要で再生可能エネルギーを使用し、その対価として電気料金を支払う仕組みです。蓄電池が普及すれば、時間帯による発電量の変動を緩和し、効率的にエネルギーを使えるメリットがあります。

こうした新モデルの普及に対応するためには、技術的知見や顧客開拓力が不可欠であり、大手エネルギー企業が関連ベンチャーを買収したり、蓄電池技術を持つ企業との資本提携を進めたりする動きが加速するでしょう。

海外展開と国際競争

国内の太陽光発電市場が飽和気味になるにつれ、成長機会を海外に求める動きが活発化しています。特にアジア新興国や米国、オーストラリア、欧州では再生可能エネルギーの拡大が見込まれており、日本企業が現地企業を買収して参入基盤を築くケースも増加傾向です。東京ガスや電源開発、豊田通商などの海外買収はその代表例です。

一方、欧米や中国など海外企業が日本市場に参入する際も、既存のローカル企業を買収することで行政許認可手続きをスムーズに進める例が見られます。今後、国際的な競争と協業がさらに進むことで、太陽光発電業界全体のダイナミックな再編が一段と進展する可能性があります。

まとめ:太陽光発電M&Aのポイントと今後の可能性

太陽光発電業界におけるM&Aは、急成長期を経て、次のフェーズに入った現在においてさらに重要性を増しています。制度的支援が縮小し、競合が増える中で、単独企業では大規模な設備投資や技術開発を行うのが難しい場合が多く、M&Aを通じて経営基盤を強化し、市場シェアを拡大する動きが活発化しています。

本記事で取り上げた事例から見ても、太陽光発電関連のM&Aには以下のような特徴があるといえます。

  • 国際的な展開を狙ったエネルギー企業による大型買収
  • 事業の多角化を目指す企業の中小型M&Aや発電所の売買
  • 技術力やノウハウ、顧客基盤の獲得を目的とする買収
  • 安定したキャッシュフローを求め、稼働中発電所を取得する動き
  • FITや規制動向、環境負荷への対応など政策面の影響

再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電は、SDGsや脱炭素といったグローバルな潮流の中で今後も重要な役割を担うと予想されます。資金力やノウハウが集まるM&Aによって、より大規模かつ効率的な事業運営が可能となり、業界全体のレベルアップが図られることが期待されます。

一方で、太陽光発電は自然環境や地域との共生が欠かせない事業でもあります。大規模開発に伴う地域住民との関係構築や、事業終了後のパネル廃棄・リサイクル問題など、社会的課題にも向き合わなければなりません。M&Aによって企業規模が拡大すれば、その分だけ社会的責任も大きくなります。持続的なビジネスと社会貢献を両立させるためには、統合後のガバナンス強化やESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮がますます求められるでしょう。

おわりに

太陽光発電業界のM&Aは、これまでFITによる急拡大期に多くの企業が参入し、その後の制度や市場変化を受けて再編が進むプロセスを映し出しています。大手エネルギー企業が海外案件を積極的に買収する一方で、中堅・中小企業が独自の技術や地域基盤を武器に大手と提携・統合する例も少なくありません。さらに、蓄電池やPPAモデルなど新しいビジネススキームへの対応が急務となり、業界としての構造変化は今後も続くでしょう。

M&Aは単なる企業買収にとどまらず、再生可能エネルギーという社会的に不可欠なインフラを持続可能に展開していくための重要な手段です。双方の企業が求める目的を明確にし、統合後のシナジーを高める戦略が必要となります。また、買収価格や契約条件、法規制、地域との共生など、慎重な検討事項が多いことから、専門家の助言を得つつ綿密な計画を立てることが成功へのカギとなります。

本記事では、さまざまな視点から太陽光発電業界のM&A事例を総合的に取り上げました。各事例が持つ背景や狙いは企業によって異なりますが、市場全体としては持続可能エネルギーを軸とした大きな潮流の中にある点は共通しています。これから太陽光発電事業に参入する企業、あるいは既に参入してさらなる拡大を図る企業にとって、M&Aという選択肢はますます重要な戦略ツールになると考えられます。社会と企業の双方にメリットをもたらすM&Aが増え、太陽光発電業界の発展と地球環境の保全が同時に進むことが期待されます。