はじめに
青果物業界におけるM&A(企業の合併・買収)は、近年ますます注目を集めています。従来は産地や市場との強い関係性をベースにした流通形態が中心でしたが、消費者ニーズの多様化や流通コストの上昇、さらには国際的な取引の拡大などにより、企業間の提携や再編が加速する傾向にあります。特に、日本国内では人口減少や高齢化による市場の先細りが懸念される一方、海外では需要が拡大しており、輸出入ビジネスも盛り上がりを見せています。そのような中、青果卸売事業や小売事業におけるM&Aは、企業が生き残りと成長を目指すうえで重要な経営戦略になっています。
本記事では、青果物業界におけるM&Aの背景や特徴を整理しつつ、実際に近年取り上げられた事例を参考に、業界再編の動向や各社の狙い、今後の課題や展望について詳しく解説いたします。海外展開や多角化、ドラッグストアとの連携など、さまざまな形で進むM&Aを俯瞰することで、青果物業界のこれからの姿を読み解いていきたいと思います。
青果物業界におけるM&Aの背景と特徴
1.消費者ニーズの多様化と流通網の再編
青果物業界においては、食生活の変化や健康志向の高まりなどを背景に、消費者が求める商品内容が大きく変わってきました。以前は安定した主食の一部としての野菜や果物が中心でしたが、近年は「機能性野菜」「有機野菜」や「海外産の希少な果物」など、多様な品目が注目されています。このように、より付加価値の高い青果物が求められるようになると同時に、スーパーやドラッグストア、ネット通販など販売チャネルも増え、流通のあり方が大きく変わりつつあります。
一方で、人口減少や購買力の地域的な偏在など、国内市場の規模が拡大しにくい構造的な問題もあります。こうした状況の中、青果卸売企業や小売企業が単独で販路拡大や事業領域の拡張を行うには大きな負担が伴います。そのため、他社と手を組んでシナジー(相乗効果)を得るためのM&Aが有力な選択肢となっているのです。
2.海外展開と業務領域の多角化
グローバル化が進む中、日本国内だけでなく、海外市場へ進出する企業も増えています。アジアや欧米の消費市場は大きく、特に新興国では中間所得層の拡大に伴って野菜・果物の消費量が急増しています。一方、日本国内の卸売市場は縮小傾向にあり、新たな収益源を求めて海外展開に乗り出すケースが目立ちます。
また、青果物業界に属する企業といっても、近年はその業務領域が必ずしも青果の卸売だけにとどまらなくなっています。水産品や畜産品、加工食品の取り扱いのほか、飲食店向けのミールキット事業やインターネット通販、青果を活用したデリカ商品の製造・販売など、多角化が進んでいます。こうした事業領域拡大を効率的に実現する手法として、既存の強みを持つ他企業の買収や事業譲受が活発化しているのです。
3.人件費や物流費の高騰への対応
経営環境が厳しくなる要因として見逃せないのが、物流コストや人件費の上昇です。青果物は鮮度が重要であるため、急ぎの輸送や温度管理が必須になります。こうした条件を満たすためには物流設備への投資が不可欠ですが、企業の規模が小さいほど負担が重くなります。効率化を追求するために、より大きな物流網や倉庫設備を持つ企業との提携や合併を進める傾向が強まっています。
また、青果物の選別や加工など、多くの場面で労働力が必要です。特に近年は労働人口の減少と賃金上昇により、人材不足とコスト増が顕著になっています。こうした課題を解決するには、自動化の推進や管理体制の効率化が必要ですが、設備投資には資金力が求められます。そのため、投資余力のある企業が他社を傘下に収め、規模の経済を享受しようとする動きもM&Aの活発化につながっています。
主要企業のM&A事例と動向
1.海外市場を狙った戦略的M&A
(1)住友商事<8053>のアイルランド青果物卸Fyffes買収(2016年12月)
住友商事は、アイルランドの大手青果卸Fyffesを約857億円で買収することで合意しました。Fyffesは欧州首位のバナナ取扱量を誇り、欧米・カナダ・中南米・アジアなどの広範囲で事業を展開しています。住友商事は1960年代からバナナの輸入に携わり、日本の輸入量の約30%を取り扱うなど、すでに強みを持っていましたが、今回の買収により、海外の調達網と販売網を大幅に拡充しました。日本国内市場が飽和する中、グローバルに青果物を供給する体制を確立することが大きな狙いといえます。
(2)西本Wismettacホールディングス<9260>のシンガポールBan Choon Marketing買収(2021年11月)
西本Wismettacホールディングスは、シンガポールの青果卸大手Ban Choon Marketingを約20億9000万円で買収しました。同社は東南アジア諸国を中心に農産品や水産品、加工食品を扱い、日本食などのアジア食品の輸出入を長年手がけています。Ban Choon Marketingは現地の大手小売やEC業者、レストラン、ホテルなど幅広い顧客基盤を持ち、シンガポールを代表する青果卸の一つです。今回の買収により、西本Wismettacは東南アジアでの青果物流通網を強化し、海外事業のさらなる拡大を目指しています。
(3)トーホー<8142>によるシンガポール企業のM&A(2018年~2019年)
トーホーは日本国内の外食産業向け食品・青果卸で大きな存在感を持ち、近年は海外への進出にも力を入れています。2018年にはシンガポールの青果卸売会社Fresh Direct、および青果加工会社Kitchenomicsを子会社化し、39億8000万円と4900万円をそれぞれ投じて取得しました。また、2019年にはシンガポールの業務用水産品卸売会社Golden Ocean Seafood (S) Pte Ltd(GOS)を取得しており、青果だけでなく水産品にも対応できる体制を整えています。これにより、シンガポールのホテルやレストランを中心とした外食市場への供給力を強化しています。
2.国内市場再編の代表的な事例
(1)栗林商船<9171>による北千生氣の子会社化(2021年7月)
栗林商船は海陸一貫輸送を展開する企業でありながら、青果物の流通においてもその輸送網を活かした事業拡大を図っています。北海道中富良野町に本社を置き、タマネギを中心とする青果物卸売りを手がける北千生氣を約8億円で子会社化しました。全国各地の中央・地方卸売市場や青果物卸売業者と取引する北千生氣を傘下に置くことで、物流と仕入れ・販売ネットワークを掛け合わせたシナジーを狙っています。
(2)サンリン<7486>による一実屋の子会社化(2012年4月)
サンリンは燃料会社としてのイメージが強いですが、東日本大震災以降のエネルギー事業の先行き不安を背景に、食品事業を新たな柱と位置づけていました。その一環として、きのこ・青果卸売を手がける一実屋(長野市)を子会社化しています。一見すると異業種のM&Aに見えますが、「食」の領域に進出することでリスク分散と新規収益源の確保を目指しています。
(3)エア・ウォーター<4088>による青果物関連事業の拡大
エア・ウォーターはガス事業で知られる総合化学企業ですが、農業・食品事業を新たな成長の柱として掲げています。2012年には北海道旭川市の青果物卸売、加工会社であるトミイチを子会社化し、同社の幅広い取引先と全国的な物流インフラを活用できる体制を築きました。また、2015年には青果物小売りを展開する九州屋(東京都八王子市)を追加取得し、株式所有割合を55%に引き上げ、全国の百貨店や駅ビルでの青果専門店を取り込むことに成功しています。エア・ウォーターは農園事業も持っており、生産から加工、小売りまでを一貫して手がける垂直統合のビジネスモデルを拡大しています。
(4)カンダホールディングス<9059>とハーバー・マネジメント(2012年11月)
カンダホールディングスは主に物流事業を展開しており、その子会社であるカンダコーポレーションと共同で、青果物のトータル輸入業務やコールドチェーンに強みを持つハーバー・マネジメント(東京都品川区)を子会社化しました。これにより、輸出入や国内デリバリーの一体運営を図り、コスト削減と品質維持を両立することを目指しています。青果物流通の要である温度管理のノウハウや国際物流の知見を取り込んだ事例といえます。
3.スーパーマーケットや小売事業との統合
(1)東北新社<2329>によるナシヨナル物産スーパー事業の譲渡(2023年6月)
東北新社は映像制作や広告代理などで広く知られていますが、傘下のナシヨナル物産が都内でスーパーマーケットを3店舗(麻布店、田園店、広尾店)運営していました。しかし、事業の選択と集中の方針により、スーパーマーケット事業を切り離し、中島董商店に譲渡することを決めました。このように、企業によっては青果に代表される食品小売事業を拡大する一方、別の企業は事業再編の中で売却を選択するなど、それぞれが独自の戦略を描いています。
(2)亀田製菓<2220>によるタイナイ子会社化(2021年5月)
亀田製菓は米菓で有名ですが、アレルギー対応食品として米粉パンの製造・販売にも着目し、米粉パンを製造するタイナイを子会社化しました。タイナイはもともと青果物卸売業を中心としていましたが、近年のアレルギー対応食品市場の拡大を見据えて米粉パン事業に進出。今回のM&Aにより、タイナイの青果物卸売事業は別会社に移し、亀田製菓グループでは米粉パンに特化した事業を継続することになりました。事業切り離しという形でもM&Aが活用されている好例です。
(3)バローホールディングス<9956>のフタバヤ子会社化(2018年8月)
東海地方を中心にスーパー事業を展開するバローホールディングスは、滋賀県で3店舗を持つフタバヤを子会社化しました。フタバヤは青果や惣菜の販売力が強みであり、バローはこのノウハウをグループに取り込むことで地域競争力の向上を狙っています。規模拡大というよりは、地場で根強い人気を持つ企業との連携を通じて収益の底上げを図るM&Aと言えます。
(4)アオキスーパー<9977>のMBOによる非公開化(2024年1月)
愛知県を中心に51店舗を展開するアオキスーパーは、創業家が主体となる資産管理会社「青木商店」によるTOB(公開買い付け)で株式を非公開化する方針を発表しました。背景には、国内スーパーマーケット業界の競争激化やコスト上昇があり、短期的な株価変動に影響されず、中長期的な成長戦略を推進する目的があります。青果小売りからスタートし、地域密着型スーパーとしての地位を確立したアオキスーパーがMBOを選択したのは、青果物ビジネスにおいても長期視点の経営が不可欠であることを示唆しています。
4.ドラッグストア事業との融合:クスリのアオキホールディングスの積極的M&A
近年、ドラッグストアが食品販売を強化する動きが顕著になっています。医薬品や日用品だけではなく、生鮮食品を取り扱うことで集客力を高め、日常の買い物需要に応える狙いがあります。中でもクスリのアオキホールディングスは、生鮮3品(青果・鮮魚・精肉)まで取り扱う大型店舗を増やし、積極的に食品スーパー事業者を買収しています。以下に主な事例を挙げます。
(1)サン・フラワー・マリヤマの吸収合併(2021年5月)
石川県を地盤とするクスリのアオキは、能登地区で2店舗を展開する食品スーパーのサン・フラワー・マリヤマを吸収合併しました。能登地区というローカルな市場においても、ドラッグストアと食品スーパーの一体化を図ることで、地域密着の「ワンストップショッピング」環境を提供しています。
(2)木村屋の子会社化と吸収合併(2024年7月)
千葉県市原市を中心に4店舗の食品スーパー「スーパーガッツ」を運営する木村屋を子会社化し、のちにクスリのアオキが吸収合併する形を取りました。これにより、同社は関東圏へのさらなる店舗網拡充と食品販売の強化を進めています。
(3)中尾の1店舗取得(2023年11月予定)
石川県能美市で食品スーパーを2店舗持つ中尾から大浜町店を取得することを決定しました。これも、ドラッグストアにおける食品コーナーの充実が狙いであり、既存地域でのドミナント戦略にも寄与するとみられます。
(4)ホーマス・キリンヤおよび関連会社の吸収合併(2022年3月)
岩手県・宮城県で食品スーパーを運営するホーマス・キリンヤ(6店舗)、衣料品店(2店舗)を吸収合併し、東北地域でも食品とドラッグストアの融合を推進しています。店内に生鮮食品を導入することで買い物客の利便性が向上し、日常利用の需要を囲い込む構造を強化しています。
(5)ハッピーテラダ子会社化(2024年12月)
滋賀県や京都府に9店舗を持つハッピーテラダを子会社化したケースです。クスリのアオキは関西地域でも店舗数を急拡大しており、ハッピーテラダの生鮮部門のノウハウや仕入れルートを活かすことで、鮮魚・精肉・青果を含む総合的な食品販売力を強化する狙いがあります。
(6)スーパーヨシムラとハッスルの子会社化(2025年2月予定)
奈良県や和歌山県に合計5店舗を持つスーパーヨシムラと、奈良県に2店舗を運営するハッスルを同時に子会社化し、その後吸収合併を行う計画を明らかにしました。和歌山県初進出という地理的な意味合いに加え、近畿圏における店舗網をさらに拡充する狙いです。いずれの店舗も青果を含む生鮮3品を取り扱っており、ドラッグストアと食品スーパーとのハイブリッド化をさらに進めることで、地域での存在感を高めようとしています。
(7)三崎ストアーのスーパーマーケット事業取得(2022年12月)
金沢市に食品スーパー3店舗を展開する三崎ストアーの事業を取得した事例です。クスリのアオキは石川県発祥であり、金沢市内を中心に出店を続けていますが、食品スーパーの買収・統合によって一層の地盤固めを進めています。
(8)ムーミーから7店舗を取得(2024年9月予定)
香川県の食品スーパー「ムーミー」から7店舗を取得することで、四国地方への進出も本格化しました。ドラッグストアの新たな設置エリア確保と、青果物を含む生鮮食品販売の拡大戦略が、ここでもうかがえます。今後も四国や西日本エリアでの店舗数増加が期待されます。
5.外食・中食向け青果卸会社のM&A
(1)トーホー<8142>による国内青果卸の子会社化
トーホーは外食産業向けの食品供給に強みを持っていますが、青果卸売業者を積極的に傘下に取り込むことで、供給体制の安定化や商品ラインナップの強化を図っています。2012年の藤代商店(横浜市)子会社化はその代表例で、地場野菜や近郊野菜の仕入れルート確保に成功しました。また、海外のみならず国内の青果物の取り扱いも強化する方針を継続しており、多彩な顧客ニーズに応えられるようになっています。
(2)デリカフーズホールディングス<3392>の事例
デリカフーズホールディングスは、外食産業や中食産業向けにカット野菜などを提供してきた企業で、青果関連事業の強化を図るためにM&Aを積極的に活用しています。2022年には野菜・果物のネット通販を手がける青果日和研究所を完全子会社化し、新たにミールキット事業を担う楽彩との連携を強化しました。2019年には札幌市の大藤大久保商店を子会社化し、北海道地区での販路を拡大するなど、地域密着型のパートナーシップを積み上げています。
(3)ピックルスコーポレーション<2925>の県西中央青果買収と売却
漬物・総菜大手のピックルスコーポレーションは、2015年に茨城県の青果市場運営会社・県西中央青果を子会社化して国産野菜の安定調達を図りました。しかし、事業環境の変化もあって2017年には同社を個人に譲渡する決断を下しています。買収時点では国内生産者との直接的な取引強化が期待されましたが、事業採算や運営リソースとの兼ね合いにより、結果的には撤退の道を選んだ例と言えます。青果物の流通業界では、参入・退出が激しく、M&Aを経て状況を柔軟に変化させる企業も増えています。
M&Aにより得られる主なメリット
1.仕入れ・販売ネットワークの拡大と安定
青果物は鮮度維持が重要であり、生産地や市場との結びつきがビジネスの根幹を成します。M&Aを通じて生産者ネットワークを共有できるようになれば、より多様な品目を安定的に確保しやすくなります。また、子会社化した企業の取引先を自社の販売チャンネルに統合することで、販路を急速に拡大できる利点があります。青果日和研究所のようにEC事業を手がける企業を取り込む場合、新規顧客層を開拓できる可能性が高まります。
2.物流・在庫管理などの効率化
流通や加工の最適化は青果ビジネスの収益性を左右する重要な要素です。大手物流会社や海運会社(栗林商船など)とのシナジーは、輸送コスト削減や温度管理の高度化に直結します。広範囲なネットワークを持つ企業と統合すれば、空きスペースの有効活用や配送の集約などが可能となり、在庫ロスやリードタイムの短縮にもつながります。
3.ブランド力と商品力の向上
フルーツゼリーで有名な「たらみ」を買収したダイドードリンコのように、加工食品企業が青果関連の著名ブランドを取り込むと、既存商品のラインナップ強化や新商品開発において優位に立てます。原材料の安定供給や品質管理が強化されれば、ブランド価値全体を高めることも期待できます。逆に、九州屋を取り込んだエア・ウォーターのように専門店のノウハウを吸収するケースもあります。青果専門店としての高品質イメージを自社グループに組み込むことで、新たな顧客層を獲得しやすくなるのです。
4.多角化によるリスク分散
特定の領域にのみ依存する形態では、市場変動や天候不順などのリスクを受けやすくなります。燃料企業のサンリンや化学企業のエア・ウォーターが青果事業に進出している例は、まさに多角化によるリスクヘッジの一環です。青果物市場にも季節的変動はありますが、食という基本需要が存在するため、長期的には安定した収益源になり得ます。
M&Aのデメリットや課題
1.文化・組織の統合にかかる時間とコスト
M&A後に最も懸念されるのは、企業文化の違いや経営方針の相違による混乱です。特に青果物取扱企業は、仕入先や取引先との信頼関係が業績を左右します。買収元と被買収先のコミュニケーションが十分でないと、取引先との関係が悪化したり、人材が流出したりするリスクがあります。企業統合のプロセスには十分な準備と時間が必要です。
2.事業の再編やリストラがもたらす影響
イーサポートリンクが示したように、業務の効率化や契約終了による人員整理が発生する場合があります。青果物の取り扱いでは迅速な現場対応が求められるため、人員削減が品質やサービスに直結する恐れもあります。そのため、リストラを伴うM&Aでは、事業のスムーズな継続と従業員のモチベーション維持を両立させることが難しい課題となります。
3.投資回収リスク
青果物の相場は天候不順や為替変動、輸入規制などに左右されやすく、短期間で業績が劇的に変わる可能性もあります。特に、大型買収の場合は投資回収に時間がかかり、場合によっては想定を大きく下回るケースもあります。ピックルスコーポレーションの県西中央青果譲渡事例のように、期待した収益を得られずに撤退を余儀なくされることもあるため、事前のデューデリジェンスやリスク分析が重要です。
M&A後の展望と成功要因
1.統合シナジーの最大化
物流費や仕入れコストを下げるためには、両社のネットワークを統合し、効率的な仕入れ・販売・配送体制を築く必要があります。また、営業担当者やバイヤーの人脈を共有し、顧客との連携を円滑に進めることも大切です。さらに、海外展開の場合には現地の食文化や規制への理解を深めることで、統合後の事業を軌道に乗せやすくなります。
2.ブランド戦略と差別化
青果物は商品の品質を見極める消費者も多く、価格競争だけでは限界があります。高付加価値商品を扱い、ブランドイメージを確立することが売り上げ拡大への近道です。たとえば、「こだわり野菜」や「産直フルーツ」など、他社との差別化ポイントを明確に打ち出すことで、消費者に支持されやすくなります。M&Aによって複数のブランドや産地を抱える企業は、包括的なブランド戦略を再構築する好機を得ます。
3.IT・デジタル化の推進
青果物ビジネスでも、在庫管理や需要予測、顧客管理などにおいてデジタル技術の導入が急務となっています。イーサポートリンクのようにシステム開発を手掛ける企業と連携することで、受発注や生産管理、流通の可視化が飛躍的に向上します。消費者との接点を広げるためにも、オンライン販売やアプリなどの活用が今後さらに重要になるでしょう。
4.人材育成と雇用の確保
M&A後の事業運営を安定させるには、現場オペレーションに精通した人材の確保と育成が欠かせません。生鮮品の取り扱いはノウハウが求められ、接客・販売・仕分け・加工など、多様なスキルを持つ人材を必要とします。人材定着のためには、待遇の改善や職場環境の整備も不可欠となります。
今後の青果物業界M&Aの展望
日本では市場縮小が続く一方で、海外需要は拡大し、企業の海外展開や外国企業との提携がさらに進むと考えられます。国内市場に限っても、ドラッグストアとの融合、小売と外食の垣根の低下などによる再編が引き続き活発となるでしょう。こうした動きは、青果物に限らず他の生鮮品や加工食品にも波及すると見られます。
一方で、M&Aが全て成功するわけではなく、買収や統合の過程で発生する問題の解決が一層重要になります。青果物は鮮度の維持や在庫リスクの問題など、他の業界と比べて特殊な課題を多く抱えています。物流インフラや販売チャンネルの効率化をはじめ、業界の特性に根ざした経営統合ノウハウが求められるでしょう。
まとめ
青果物業界におけるM&Aは、国内市場の縮小や消費者ニーズの高度化、海外市場への進出、物流・人件費の高騰など、多くの要因が重なって進んでいます。実際の事例を振り返ると、単なる買収による規模拡大だけでなく、ドラッグストアがスーパー事業を取り込む動きや、異業種から青果物ビジネスに参入するケース、あるいはブランド力を取り込む形など、さまざまなパターンが見受けられます。
今後の成功には、M&A実施後の統合施策が極めて重要となります。特に青果物を取り扱う企業は、産地や流通網との信頼関係をいかに維持・拡大するかが鍵です。また、デジタル技術の導入、人材確保、ブランド戦略の再構築など、現代的な経営アプローチも同時に求められます。日本国内では少子高齢化が進むため、市場としては厳しい面もありますが、そのぶん差別化を図った高付加価値路線や、海外展開を通じた成長機会も存在します。
青果物業界は「食」の根幹を支える重要なセクターであり、消費者の生活に直結しています。M&Aを活用して企業体質を強化し、新たな価値を生み出すことで、産地から食卓までのサプライチェーン全体の活性化が期待されています。事例が示すように、ビジネスモデルの多様化と広域展開を視野に入れた経営判断が、今後ますます増えていくことでしょう。青果物業界のM&A動向は、これからも業界内外の注目を集め続けると考えられます。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。