目次
  1. はじめに
  2. 事務機器・OA機器業界の特徴と環境変化
      1. 1. デジタル化の進展とペーパーレス化
      2. 2. オフィス環境の多様化・リモートワークの拡大
      3. 3. グローバル化と競争の激化
      4. 4. 新技術との融合
  3. 事務機器・OA機器業界のM&A動向
      1. 1. 規模拡大とグローバル展開の加速
      2. 2. 技術力やノウハウの補完
      3. 3. 事業構造の再編と選択と集中
      4. 4. グループ経営と統合シナジーの追求
  4. 主要なM&A事例
      1. 【事例1】富士ゼロックスの社名変更と米ゼロックスとの合弁解消
      2. 【事例2】日立電線によるOA機器用ゴムローラーメーカー創生の子会社化(2008年)
      3. 【事例3】川金ホールディングスによる東京理化工業所の子会社化(2016年)
      4. 【事例4】京セラによるドイツTA Triumph-AdlerのTOBでの子会社化(2008~2009年)
      5. 【事例5】リコーと東芝テックのオフィス向け複合機事業統合(2023~2024年)
      6. 【事例6】プレナスのMBOによる株式非公開化(2022年)
      7. 【事例7】テクノ・セブンによるネットワークインフラ会社ウィンテックの子会社化(2010年)
      8. 【事例8】タカギセイコーによる中井製作所の黒田化学への譲渡(2021年)
      9. 【事例9】セコニックホールディングスによるセコニック技研のムトーアイテックスへの譲渡(2019年)
      10. 【事例10】コクヨによる米国Fellowes製品の国内独占販売権取得(2023年)
      11. 【事例11】チエルによる事務機器販売のオキジム子会社化(2024年)
      12. 【事例12】オフィスバスターズによる新日東の子会社化(2024年)
      13. 【事例13】KPPグループHDによる米国ゼロックスの東欧などでのオフィス用紙事業取得(2024年)
      14. 【事例14】JFEホールディングスによる川崎マイクロエレクトロニクスのメガチップスへの譲渡(2012年)
  5. M&Aにより得られるシナジーとリスク
      1. 【シナジー】
      2. 【リスク】
  6. 今後の展望とまとめ

はじめに

事務機器・OA機器業界は、コピー機やプリンター、FAX、複合機などをはじめとしたオフィスに欠かせない製品・サービスを提供してきました。近年では、デジタル技術の進化やリモートワークの普及により、事務機器の需要構造や利用形態が大きく変容しています。このような変化のなかで事業拡大や競争力強化、技術革新への対応などを目的に、企業同士のM&A(合併・買収)や資本・業務提携が積極的に行われてきました。

本記事では、事務機器・OA機器業界で近年行われたM&Aの具体事例を挙げながら、その背景や狙い、シナジー効果、今後の展望について解説いたします。事務機器は企業の経営活動に深く関わり、オフィスの効率化や働き方改革、サステナビリティなど多様な価値を提供できる分野です。M&Aは単に企業規模の拡大のみならず、技術力の補完、人材・ノウハウの取得、新たな顧客基盤の確保など戦略的な面でも大きな意味合いを持ちます。

本稿が、事務機器・OA機器業界のM&A動向を理解し、今後の市場における戦略立案や投資判断などに役立つ一助となれば幸いです。

事務機器・OA機器業界の特徴と環境変化

事務機器・OA機器業界には、複合機やプリンター、シュレッダー、プロジェクター、ラミネーターなど、オフィス空間で日常的に活用される製品・サービスが含まれます。これらの製品は長らくビジネスの根幹を支える存在でしたが、以下のような環境変化により需要の構造や製品のあり方が変わりつつあります。

1. デジタル化の進展とペーパーレス化

インターネットやクラウドサービスの普及に伴い、オフィスで取り扱われる文書の電子化が急速に進行しています。紙の使用量を削減するペーパーレス化や、ドキュメント管理ソリューションの活用が進み、従来型のコピー機やプリンターの需要は長期的にみると漸減傾向にあります。一方で、クラウド連携機能を持つ複合機やセキュリティ機能の強化など、新たな付加価値を提供する事務機器への需要は増しています。

2. オフィス環境の多様化・リモートワークの拡大

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に広まったリモートワークや在宅勤務の潮流は、オフィス空間そのものの在り方にも影響を与えています。オフィスに通わない働き方が定着してきた結果、従来のオフィス向け事務機器の需要は縮小傾向にあります。しかし、在宅勤務向けの小型プリンターやモバイル対応の機器、クラウド型のソリューションの活用ニーズは増しており、オフィス関連の製品やサービスも多角化が求められるようになりました。

3. グローバル化と競争の激化

事務機器・OA機器は海外展開が盛んな分野でもあり、企業は先進国市場のみならず、新興国市場にも積極的に進出を図っています。市場のグローバル化が進む中で、国際的な価格競争や技術競争が激化し、企業規模の拡大や研究開発力の強化が喫緊の課題となっています。

4. 新技術との融合

AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、5Gなどの先端技術が進化しており、事務機器にも組み込みや連携が期待されています。大量のデータを処理・分析する高度な複合機能や、ワークフローの自動化など、高付加価値型のサービスが注目を集めています。一方で、開発コストや技術獲得のハードルが高まっているため、企業間の提携やM&Aによるノウハウ共有がより一層重要となっています。

事務機器・OA機器業界のM&A動向

上記のような業界環境の変化に対応するため、事務機器・OA機器業界ではM&Aが活発化しています。大きく分けると、以下のような狙いが考えられます。

1. 規模拡大とグローバル展開の加速

製造コスト削減やブランド力向上を目的に、海外企業を買収したり現地の流通ネットワークを取り込むケースが多くみられます。欧米や新興国での販路を拡充することで、企業収益の安定化と規模拡大を同時に狙います。

2. 技術力やノウハウの補完

ペーパーレス化やクラウド対応、AIやIoT技術など、新分野に参入するための技術やソフトウエア開発力を獲得することを目的に、関連企業を買収するパターンがあります。また、部品・素材レベルでの技術や生産拠点を取り込むM&Aも存在します。

3. 事業構造の再編と選択と集中

主力事業への経営資源集中のために、周辺事業を売却・譲渡する場合や、収益の伸び悩む部門を他社に譲り渡すケースもあります。一方で自社が弱い領域を他社から買収することでポートフォリオを補完するなど、柔軟な戦略が見られます。

4. グループ経営と統合シナジーの追求

親会社が子会社を完全子会社化し、経営の一体化や意思決定の迅速化を図るケースがあります。統合後は研究開発や生産体制を集約することでコスト削減や製品競争力の強化につなげられます。

主要なM&A事例

ここからは、実際に近年事務機器・OA機器業界で行われたM&Aの事例を紹介し、それぞれの背景と意義、今後の展望などについて解説いたします。

【事例1】富士ゼロックスの社名変更と米ゼロックスとの合弁解消

富士ゼロックスは米ゼロックスとの合弁関係を2019年11月に解消し、富士フイルムホールディングスの完全子会社となりました。そして2021年4月1日には、社名を「富士フイルムビジネスイノベーション」に変更しています。

従来、富士ゼロックスはアジア太平洋地域、米ゼロックスは米欧地域でそれぞれ独自ブランドの複写機やプリンターなどを販売してきました。しかし合弁解消後は地域にとらわれず独自ブランドをグローバルに展開できるようになります。

富士フイルムHDは2018年に米ゼロックスの買収を一度試みましたが、その後合意が破棄され、長期にわたる法廷闘争に発展しました。最終的には買収を断念し合弁関係を解消することで決着に至った形です。これにより富士フイルムHDは新たな事業体制へ移行し、多様なデジタルサービスやソリューション領域への進出を加速させる狙いがあります。

富士フイルムビジネスイノベーションとしては、印刷周りだけでなく情報管理やドキュメントソリューションなど、より広範なビジネス領域でイノベーションを追求していく方針です。従来の複合機・プリンター技術を軸にしつつ、AIやクラウド連携サービスとの融合を強めることで、今後も事務機器市場で存在感を発揮することが期待されています。

【事例2】日立電線によるOA機器用ゴムローラーメーカー創生の子会社化(2008年)

日立電線は2008年4月に、OA機器用ゴムローラーメーカーである創生の全株式を取得し、子会社化しました。創生はプリンタ向け現像系ゴムローラーで高いシェアを持ち、日立電線にとっては現像系ローラーを新たな柱として取り込む狙いがありました。

日立電線はATMやプリンタなどに使われる給紙・分離ローラーを中心事業としていましたが、この買収により「現像系ローラー」という新分野を獲得し、OA機器関連の製品ラインナップを強化できるようになりました。結果として関連製品の年間売上高は約30億円から約60億円へ倍増すると発表されています。事業構造の補完によるシナジーと、競争力向上を同時に図った好例といえます。

【事例3】川金ホールディングスによる東京理化工業所の子会社化(2016年)

川金ホールディングスは2016年、東理ホールディングス傘下の東京理化工業所を株式95%取得という形で子会社化しました。東京理化工業所はアルミダイカスト技術を持ち、自動車や通信機器、事務機器などに幅広く対応しています。

川金ホールディングスとしては、東京理化工業所のアルミダイカスト技術を取り込むことで、自社が手がける素材・部品のバリエーションを拡充し、顧客ニーズに応えやすくなるメリットを狙いました。これにより顧客が求める材質や形状の選択肢を広げ、製品提案力を高めるという戦略的な位置づけです。取得価額は約1億1600万円と公表されています。

【事例4】京セラによるドイツTA Triumph-AdlerのTOBでの子会社化(2008~2009年)

京セラはドイツの情報機器販売会社TA Triumph-Adler(トライアンフアドラー)をTOBで子会社化しました。当初は株式の所有割合を29.99%から60~75%に引き上げることを目指しましたが、追加TOBにより最終的に約93.84%を保有するに至りました。

トライアンフアドラーはプリンターや複合機など事務機器の販売・サービスを行う老舗企業で、特にドイツ国内60カ所に及ぶ直販拠点が強みです。京セラはトライアンフアドラーが築く直販組織を欧州や中近東・アフリカ地域にも横展開し、ソリューション提案型販売やアフターサービスの強化を行うことで、地域的な事業拡張を狙いました。グローバル戦略の一環として地域特性に強い企業を取り込む好例です。

【事例5】リコーと東芝テックのオフィス向け複合機事業統合(2023~2024年)

2023年5月に発表された事例として、リコーと東芝テックがオフィス向け複合機や関連機器の生産・開発に関する事業を統合すると発表しました。具体的にはリコーテクノロジーズを合弁母体とし、リコー側が85%、東芝テックが15%の出資比率で共同出資する形です。

背景としては、デジタル化や在宅勤務の広がりによる印刷需要の減少などが挙げられます。業界全体が縮小傾向にある中、両社の事業を統合して開発・生産の効率を高めることで、競争力強化を図る狙いがあります。統合完了は2024年の4~6月を見込むと発表され、7月1日付で合弁新会社「エトリア」が正式に稼働を開始しました。リコーの連結子会社、東芝テックの持ち分法適用関連会社となり、開発力や販売ネットワークの相互補完を進めています。

【事例6】プレナスのMBOによる株式非公開化(2022年)

一見、事務機器と直接的には関係が薄いように見えるものの、プレナスはもともと1960年に事務機器の販売を目的に「太陽事務機」として創業しています。その後、持ち帰り弁当「ほっかほっか亭」や「ほっともっと」、定食店「やよい軒」などの事業で成長してきました。

2022年10月に、プレナスは創業家資産管理会社である塩井興産を主体とするMBOで株式を非公開化すると発表。コロナ禍や外食産業の競争激化といった外部環境の変化に迅速に対応するため、中長期的な視点から経営判断を行いやすくするのが狙いとされています。事務機器のルーツを持つ企業が業態転換を続けながら、最終的にMBOで再び非公開化する事例として注目されました。

【事例7】テクノ・セブンによるネットワークインフラ会社ウィンテックの子会社化(2010年)

テクノ・セブンは2010年4月に、ネットワークサーバー系のインフラ構築開発会社であるウィンテックを子会社化しました。テクノ・セブンはソフトウエア関連事業と事務機器事業を強化する方針を打ち出しており、その一環としてインフラ構築ノウハウを持つウィンテックを取り込むことで、ソフトウエアとハードウエアを含むトータルソリューション提供を目指したと考えられます。取得価額は9100万円でした。

事務機器とITインフラの連携が求められるなかで、単なるハード製品の提供に留まらず、ネットワーク構築や運用管理までをワンストップで行う体制は競争優位につながります。このように、M&Aによって業務領域を拡張し、顧客への提案力を高める動きは今後も続くと予想されます。

【事例8】タカギセイコーによる中井製作所の黒田化学への譲渡(2021年)

タカギセイコーは2021年3月、精密プラスチック射出成形金型を製造する子会社の中井製作所を黒田化学に譲渡しました。タカギセイコーとしては生産品目の選択と集中を進めるため、プラスチック成形用金型部門を譲渡し、コア事業に注力する戦略といえます。

中井製作所は携帯機器や事務機器、二輪・四輪車、農機など幅広い分野で金型技術を提供してきましたが、黒田化学グループに入ることで新たなシナジー創出が期待されています。一方、タカギセイコーは事業ポートフォリオを見直し、より高付加価値領域への集中を図る意図が明確です。

【事例9】セコニックホールディングスによるセコニック技研のムトーアイテックスへの譲渡(2019年)

セコニックホールディングスは2019年、ソフトウエア開発子会社セコニック技研をムトーアイテックスへ譲渡しました。セコニックは光学関連機器や事務機器の製造を主力とする企業で、ソフトウエア開発事業については負担が大きいことから事業再編の一環として譲渡を決定したようです。

事務機器分野においてもソフトウェアの重要性は高まっていますが、自社で開発リソースを抱えるよりは、専門企業に任せたほうがリスク分散や経営資源の集中が可能になります。結果として、セコニックホールディングスは主力事業に注力し、ムトーアイテックスは開発機能を強化できるというウィンウィンの関係が成立しました。

【事例10】コクヨによる米国Fellowes製品の国内独占販売権取得(2023年)

コクヨは米国大手オフィス製品メーカーFellowes(フェローズ)の日本子会社であるフェローズジャパンから、一部事業を取得することを決定しました。具体的にはFellowes製品に関する日本での独占販売権を得ることで、シュレッダーやラミネーターなどのビジネス向け事務機器を国内市場で展開する戦略です。

コクヨは文具やオフィス家具を主力としてきましたが、オフィス環境全体をトータルでサポートする提案を強化したい意図があります。Fellowesはグローバルで認知度の高いメーカーであり、近年はモニターアームや空気清浄機など新領域にも進出しています。コクヨの流通力やブランド力とFellowesの製品力が結びつくことで、国内のオフィス機器ラインナップを拡充し、競合他社との差別化を図る狙いがあります。

【事例11】チエルによる事務機器販売のオキジム子会社化(2024年)

チエルは主に教育ICTソリューションを展開する企業ですが、2024年10月に事務機器販売のオキジムを子会社化に向けた協議を開始しました。オキジムは沖縄県内で官公庁や大手企業、学校など約5000社に顧客基盤を持つほか、学校向けソフトや電子黒板などの販売でも県内有数のシェアを誇ります。

チエルがオキジムを取り込むことで、教育ICT製品の販売網を大幅に拡充できるだけでなく、医療介護施設向けのeラーニングシステム展開にも乗り出せる可能性があります。さらに2024年12月23日の発表によると、取得割合は51.6%、取得価額は13億4300万円で、12月27日に株式取得を完了する予定となりました。地域密着型の販売力を獲得することで、自社ソリューションとの相乗効果が期待されます。

【事例12】オフィスバスターズによる新日東の子会社化(2024年)

オフィス用品や中古オフィス家具を取り扱うオフィスバスターズは、北関東エリアで事務用品・事務機器の販売を行う新日東を2024年11月に子会社化すると発表しました。新日東は1967年設立と歴史があり、地域企業や官公庁への営業基盤を持ちます。

オフィスバスターズが新日東を買収することで、北関東の事業基盤を強化し、より広範な地域でオフィス用品や機器の販売、アフターサービスを展開できます。地域に根ざした企業との連携は、オンライン通販だけでは得られない対面営業の強みを活かしつつ、顧客ニーズに迅速に対応するうえで大きなメリットとなるでしょう。

【事例13】KPPグループHDによる米国ゼロックスの東欧などでのオフィス用紙事業取得(2024年)

KPPグループホールディングスはフランス子会社Antalis S.A.S.を通じて、米国ゼロックスの東欧やバルカン半島、中東、インド、アフリカでのオフィス用紙事業を取得することを決めました。これにより、欧州、中東、アフリカの主要国でXeroxブランド紙の唯一の販売代理店となります。

紙市場はデジタル化の影響で縮小傾向ではあるものの、地域によってはまだ成長が続いているエリアもあり、グローバル規模での事業最適化が進む中での戦略的買収といえます。KPPグループHDの強みである紙流通事業とXeroxブランド力の組み合わせにより、新興国市場での需要拡大を狙っている点が特徴です。

【事例14】JFEホールディングスによる川崎マイクロエレクトロニクスのメガチップスへの譲渡(2012年)

JFEホールディングスはLSI(大規模集積回路)製造を手がける川崎マイクロエレクトロニクスをメガチップスに譲渡しました。川崎マイクロは液晶パネルや通信機器、事務機器向けにASICの製造を行っており、メガチップスも同様にASIC事業を手がける企業です。

事務機器や通信機器など幅広い分野でASIC技術は重要ですが、技術革新が激しい領域でもあります。こうした環境下で、技術的にも市場的にも補完関係にある両社が経営統合することで、開発リソースの結集やスケールメリットを得る狙いがあります。JFEホールディングスとしては事業ポートフォリオの再編の一環として川崎マイクロを譲渡し、メガチップスは先端LSI技術と取引先を取り込むことで事業領域を拡大できる好事例となりました。

M&Aにより得られるシナジーとリスク

ここまで紹介した事例を総合すると、事務機器・OA機器業界のM&Aには以下のようなシナジーとリスクが見受けられます。

【シナジー】

1. **事業領域・顧客基盤の拡大**  地域や取引先の拡大、新技術・新製品の取り込みなどにより、売上成長の機会が広がります。

開発力・技術力の向上
不足する技術やノウハウを補完し、研究開発を協力して行うことで製品力やサービスの競争力を強化できます。

生産・サプライチェーンの効率化
生産拠点や販売拠点を統合することで、コスト削減やリードタイム短縮など効率化を実現できます。

ブランド力・営業力の強化
有力ブランドや直販ネットワークを取り込むことで、競合優位性を高めることが可能です。

【リスク】

1. **統合コストの負担**  組織統合やシステム統合のプロセスで発生する追加コストや、一時的な業務停滞リスクがあります。

企業文化の衝突
M&Aにより異なる文化・組織風土が交わるため、人材の定着や意思決定のスピードが低下する可能性があります。

想定通りのシナジーが得られない
計画した売上拡大やコスト削減効果が期待よりも少なく、投資回収が遅れるリスクがあります。

市場環境の急激な変化
ペーパーレスやリモートワークの普及など、想定以上に環境変化が速い場合、投資の方向性が陳腐化するリスクがあります。

今後の展望とまとめ

事務機器・OA機器業界は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やリモートワークの普及が進むなかで、大きな転換点を迎えています。従来の紙中心の業務フローから、クラウドやモバイル端末を活用したワークフローへ移行が急速に進み、企業が提供する価値もハードウェア単体からソリューション全体へシフトしています。

このような流れの中で、各企業はより幅広い技術力と提案力を求められ、またグローバル展開においても地域に根ざした販売力やサービス網が不可欠となっています。M&Aはこうしたニーズを効率的に獲得できる手段であり、今後も業界の再編は続いていくでしょう。特に下記のような方向性が示唆されます。

ソフトウェア・クラウドサービスとの融合
事務機器とシステムインテグレーション、クラウドサービスを一括で提供する企業が増加し、ソフトウェア開発企業とのM&Aや資本提携が増える見込みです。

新興国市場の獲得
欧米や日本市場が成熟するなか、アジアやアフリカなど成長余地のある地域へ積極展開する動きが進むでしょう。現地企業の買収や合弁設立がM&Aの大きなテーマとなる可能性があります。

サステナビリティ・環境対応の重視
環境負荷低減を求める声が高まる中、資源を効率的に活用する技術やリユース・リサイクル事業との連携が注目されます。事務機器リース企業やリユース企業との統合により、新たなビジネスモデルを創出する動きが今後活発化するでしょう。

経営効率化と収益性の追求
業界全体の需要が微減傾向にある中、利益率を高めるために選択と集中を進める企業が増え、非中核事業の売却や周辺企業との統合が進むと考えられます。

以上、事務機器・OA機器業界における主要なM&A事例を通じて、背景や狙い、シナジー、リスクについて考察してきました。事務機器はビジネスの根幹を支えてきた分野ですが、デジタル技術の進化によって提供価値は「モノ」から「ソリューション」へ変わり始めています。この変革期においては、単なる事業規模の拡大だけでなく、技術提携や販路拡充、組織・文化の融合といった多角的な視点でM&Aが行われることが重要です。

今後も市場環境の変化は続きますが、企業同士の統合や協業によって新たなビジネス機会を創出し、オフィスの生産性向上や働き方改革の推進に寄与するサービスを提供していくことが期待されています。競合他社との激しいレースの中で、どのようなM&A戦略を取るかが、企業の成長や存続を左右する大きな要素となるでしょう。

事務機器・OA機器業界は、人々の働く環境やビジネスプロセスをアップデートする重要な役割を担っています。新興技術や市場動向に迅速に対応しつつ、統合のメリットを最大限に生かすことで、より多様で利便性の高いソリューションを提供できるかどうかが今後の鍵となります。本記事が、事務機器・OA機器業界のM&A動向を把握する際の参考になりましたら幸いです。