- 1. 内装工事業界の概要と市場動向
- 2. 内装工事業界におけるM&Aの特徴
- 3. 各事例の紹介と考察
- 3.1. 日本創発グループによるササオジーエスの子会社化(2019年2月15日)
- 3.2. 日商インターライフによるディーナネットワークの完全子会社化(2010年4月1日)
- 3.3. 東宝によるシコーの子会社化(2021年11月1日)
- 3.4. 加賀電子グループによる東京電電工業の子会社化(2009年6月8日)
- 3.5. レカムによる邦英のオフィス家具販売事業の取得(2016年1月4日)
- 3.6. ホットランドによるファンインターナショナルの子会社化(2020年8月7日予定)
- 3.7. メディアファイブによる匠工房の経営陣への譲渡(2024年12月2日予定)
- 3.8. ヒューリックによる千秋オフィスサービスの子会社化(2011年7月1日予定)
- 3.9. ヒビノによる日東紡音響エンジニアリングの子会社化(2015年3月31日)
- 3.10. テンポスホールディングスによるヤマトの子会社化(2023年9月11日予定)
- 3.11. テンポスバスターズによるハマケンのMBO譲渡(2011年3月1日)
- 3.12. シェアリングテクノロジーによる「アーキクライド」事業の取得(2018年3月22日)
- 3.13. コマニーによるMBO(株式の非公開化) (2022年5月10日発表)
- 3.14. タマホームによる中国子会社「玉之家(天津)環境技術」の譲渡(2019年3月27日)
- 3.15. オカムラによるシンガポールDB&B Holdingsの子会社化(2021年10月初旬予定)
- 3.16. エー・ディー・ワークスによる澄川工務店の子会社化(2019年4月25日)
- 3.17. イトーキによるシンガポールTarkus Interiorの子会社化(2016年12月上旬)
- 3.18. ジオリーブグループによる丸西の子会社化(2024年10月1日予定)
- 3.19. インターライフホールディングスによるアーク・フロントの子会社化(2011年4月1日)
- 3.20. エムティジェネックスによるチヨダMEサービスの子会社化(2020年10月1日)
- 3.21. エムティジェネックスによるアイテックの子会社化(2024年1月16日予定)
- 3.22. インターライフホールディングスによるシステムエンジニアリングの買収(2013年6月3日)
- 3.23. インターライフホールディングスによるサンケンシステムの子会社化(2023年11月30日予定)
- 3.24. アンビションDXホールディングスによるフレンドワークスの子会社化(取得日非公表)
- 3.25. ウィルによる子会社「遊」のアートリフォームへの譲渡(2021年1月18日)
- 3.26. エスクリによる渋谷(建築・内装事業)の子会社化(2013年5月15日)
- 3.27. サンゲツによるシンガポールD’Perceptionの子会社化(取得予定日非公表)
- 3.28. OCHIホールディングスによるアイエムテックの子会社化(2020年7月9日)
- 4. 内装工事業界M&Aの背景にある要因とシナジー
- 5. M&A後の課題・リスクとその対策
- 6. 今後の展望とまとめ
1. 内装工事業界の概要と市場動向
内装工事業界は、建物の内部空間に関わる工事を総合的に行う業種です。建設業の中でも「内装仕上工事業」に分類され、主に商業施設やオフィス、住宅などの壁や天井、床、間仕切り、設備設置、リフォーム・リノベーション工事などを請け負います。近年では空間デザインやレイアウト設計、電気・空調設備との統合工事、ITインフラの設計・導入など、業務領域が拡張する傾向があります。
市場動向
- 景気との連動
内装工事需要は、経済の景気動向や建設投資額、新設・改装物件数に左右されやすい特徴があります。好況期にはオフィス・店舗などの新設工事やリノベーション需要が増加する一方、不況期には投資が減少し、工事需要も落ち込みやすいといえます。 - リノベーション・リフォーム市場の拡大
新築の着工件数が長期的に伸び悩む中、既存物件のリノベーションやリフォーム需要が高まっています。住宅市場だけでなく、商業施設やオフィスでも既存スペースを有効活用したり、時代のニーズに合わせて改装するケースが増加しています。 - 人材不足と技術革新
建設業界全般の課題として、人手不足・技能者不足が顕著化しています。一方で、3D設計・BIM(Building Information Modeling)など、設計・施工分野で新しい技術の導入が進んでいます。内装工事業界でも、より高度な設計・施工管理を行うためにITを活用し、効率化を図る動きが加速しています。 - グローバル化への対応
国内だけでなく、アジアをはじめとする海外市場をターゲットとした工事ニーズも存在します。特にシンガポールや中国、ASEAN諸国でのオフィス・商業施設開発案件に対応するため、海外に拠点を設ける企業も増えてきました。
以上のような市場背景の中で、内装工事業界の企業は新規顧客開拓やサービス領域の拡大、人材確保などの課題に直面しています。その解決策のひとつとしてM&Aが活発化しているといえます。
2. 内装工事業界におけるM&Aの特徴
- サービスのワンストップ化
近年のM&A事例では、内装工事のみならず、設計・デザイン、設備工事、電気・通信インフラの構築などを一体的に提供できる体制を目指す企業が多く見られます。ワンストップサービスを整えることで、顧客への提案力や工事受注の幅を広げ、収益拡大を狙う動きです。 - 事業領域の拡大・新規参入
既存事業の強化にとどまらず、異業種から内装工事分野に参入するケースもあります。例えば、IT関連企業がネットワーク設備工事の延長線上で内装工事を包括的に取り込むなど、相互補完によるシナジーを追求する動きがあります。 - 海外進出や技術獲得
シンガポールやASEAN諸国への進出を視野に入れる企業が、現地の内装工事・設計会社を買収して迅速な足がかりを確立する動きがあります。また、特殊技術やデザイン力を持つ企業を取り込むことで、自社の施工範囲を拡大し付加価値を高める狙いも見られます。 - 人材確保や許認可の取得
内装工事は許認可が必要なケースも多く、人材不足が深刻化しています。そこで、必要な許認可や技能者を擁する企業をM&Aすることで、自社だけでは不足していた部分を補強し、新たな受注や事業展開を可能にする動きも少なくありません。 - 事業の選択と集中
一方で、本業とシナジーを見出せなかった内装工事事業を売却し、経営資源を他のコア事業に集中させるという動きも散見されます。景気変動が激しい建設・内装分野において、持ち続けるよりも譲渡したほうがリスクヘッジとなる場合もあります。
以上の特徴を踏まえ、次の章では具体的なM&A事例を一つひとつご紹介し、それぞれの企業が狙った効果や背景を探ってまいります。
3. 各事例の紹介と考察
ここからは、実際に行われた内装工事関連企業のM&Aや事業譲渡の事例を、時系列や特徴ごとに紹介してまいります。併せて、各社がM&Aに踏み切った背景や意図、得られるシナジーについて考察いたします。
3.1. 日本創発グループによるササオジーエスの子会社化(2019年2月15日)
- 概要
日本創発グループは、印刷やノベルティ関連事業を展開していますが、内装工事の設計・施工を手がけるササオジーエスを子会社化しました。大判加工から施工までを一貫して提供できる体制を整え、サインディスプレーなどの需要拡大に対応する狙いです。 - 背景と狙い
従来の印刷ビジネスだけではなく、大型のサインディスプレーや広告物の設置工事までをグループ内で完結することで、ワンストップサービスの充実を図っています。ササオジーエスの内装施工力を取り込むことで、顧客への提案力や受注の幅を広げることを目指しています。
3.2. 日商インターライフによるディーナネットワークの完全子会社化(2010年4月1日)
- 概要
内装工事を主力とする日商インターライフ(現・インターライフホールディングス)が、パチンコホール向けの人材派遣業ディーナネットワークを買収しました。パチンコ店のスタッフ派遣に強みを持つ企業の取得により、顧客店舗へのトータルサポート体制を強化しています。 - 背景と狙い
得意先(パチンコ店)の内装工事を請け負うだけでなく、人材供給まで含めた総合的なソリューションを提供し、安定した売上と利益を狙う目的がうかがえます。内装工事と人材派遣という異なる分野のシナジーを追求しようとする戦略が評価されます。
3.3. 東宝によるシコーの子会社化(2021年11月1日)
- 概要
映画・演劇の大手である東宝が、商業施設向けの内装工事を手がけるシコーを買収しました。建設事業の業容拡大や技術力・営業力の強化が目的とされています。 - 背景と狙い
東宝は映画館や商業施設の開発・運営にも関与しており、内装工事のノウハウをグループ内に取り込むことで、自社関連施設を含めた工事領域の拡大を図る意図があります。非公表ですが、買収金額よりも事業の補完性や将来性を重視したと推察されます。
3.4. 加賀電子グループによる東京電電工業の子会社化(2009年6月8日)
- 概要
加賀電子の子会社、加賀ソルネットが電気・通信設備工事の東京電電工業を買収しました。東京電電工業は電気設備や内装工事などを長く手がけてきた会社で、加賀ソルネットの事業領域拡大を狙うM&Aとなります。 - 背景と狙い
ネットワークソリューション分野でのワンストップサービス提供を目指しており、電気工事や内装工事の許認可を持つ企業を取り込むことで受注範囲を拡大。IT機器販売と設備施工を合わせて提案することで、付加価値の高いサービスを提供する狙いです。
3.5. レカムによる邦英のオフィス家具販売事業の取得(2016年1月4日)
- 概要
レカムはOA機器の販売やオフィスのレイアウト企画、内装工事を手がける邦英の「オフィス家具販売事業」を取得しました。事業譲渡によりオフィス設備事業に本格参入し、ノウハウを吸収する方針を示しています。 - 背景と狙い
レカムは同様の事業を展開しており、既存の顧客基盤・ノウハウを強化する目的が考えられます。フランチャイズ店への展開など規模拡大も見据えています。
3.6. ホットランドによるファンインターナショナルの子会社化(2020年8月7日予定)
- 概要
「築地銀だこ」などを展開するホットランドが、飲食店舗の設計・デザインを手がけるファンインターナショナルを子会社化しました。出店にかかる内装工事をグループ内でまかなえるようにし、コスト削減や出店の迅速化を図ります。 - 背景と狙い
飲食店経営においては、新規出店の内装コストや工期が利益率に大きく影響します。内製化によって時間短縮や費用削減を行い、さらに外部への施工受注も目指すことで収益源を多角化できるメリットがあります。
3.7. メディアファイブによる匠工房の経営陣への譲渡(2024年12月2日予定)
- 概要
メディアファイブは、内装工事子会社として保有していた匠工房の全株式を同社社長に譲渡することを決定しました。事業の選択と集中の一環で、グループ外に切り離す判断を下しています。 - 背景と狙い
2011年に子会社化したものの、中長期的な戦略の中でシナジーが限定的と判断したと推察されます。一定期間は取引関係を維持しつつ、経営資源を自社のコアビジネスに集中させる意図が見えます。
3.8. ヒューリックによる千秋オフィスサービスの子会社化(2011年7月1日予定)
- 概要
ヒューリックは不動産賃貸を主体とする企業ですが、オフィス内装工事や不動産管理を手がける千秋オフィスサービスを追加株式取得し完全子会社化しました。大成建設や安田不動産などが保有していた株式を買い取りました。 - 背景と狙い
ヒューリックグループの不動産事業と千秋オフィスサービスの内装工事・管理事業の間にシナジーを期待しています。コスト競争力を強化し、事業規模拡大と収益基盤の強化を目指す戦略です。
3.9. ヒビノによる日東紡音響エンジニアリングの子会社化(2015年3月31日)
- 概要
プロ用音響機器の販売やPA(音響設備)事業に強みを持つヒビノが、音響内装工事の大手である日東紡音響エンジニアリングを取得しました。放送局やレコーディングスタジオなどの音響内装を手がける企業です。 - 背景と狙い
ヒビノの音響機器販売との相乗効果が期待されます。工事から機器販売、システム設計までグループで完結できる体制を整え、受注機会や販路拡大を狙う戦略が明確です。
3.10. テンポスホールディングスによるヤマトの子会社化(2023年9月11日予定)
- 概要
厨房機器や飲食店開業支援で知られるテンポスホールディングスが、回転ずしや海鮮居酒屋を展開するヤマトを買収しました。飲食店を直営で運営し、コンサルティング業務へのノウハウ還元を狙っています。 - 背景と狙い
テンポスは厨房機器販売や内装工事、店舗デザインのワンストップサービスを提供しており、飲食店の実際の運営ノウハウを蓄積することで顧客へのコンサルティングの質を高められます。飲食事業自体の拡大も視野に入れていると推測されます。
3.11. テンポスバスターズによるハマケンのMBO譲渡(2011年3月1日)
- 概要
テンポスバスターズ(現・テンポスホールディングス)は、子会社ハマケン(内装工事業)の保有株式を、ハマケン社長が実施するMBO(経営陣による買収)により譲渡しました。あわせてハマケン保有のテンポハンズ株式を買い戻す取引も行われました。 - 背景と狙い
2006年に買収したものの、思うようなシナジーを得られなかったこと、景気低迷の影響もあり、経営資源の集中を優先した形です。内装工事と飲食店向け機器販売との融合が十分に機能しなかった事例といえます。
3.12. シェアリングテクノロジーによる「アーキクライド」事業の取得(2018年3月22日)
- 概要
シェアリングテクノロジーは、Web集客を強みとするIT企業で、アーキバンクが運営する内装工事見積もりサイト「アーキクライド」を事業譲受しました。サイトの集客力強化と新たな収益源確立を目的としています。 - 背景と狙い
内装工事の発注マッチングサイトは需要が高く、シェアリングテクノロジーの既存Web事業との親和性が高いと考えられます。オンラインプラットフォームを通じて内装工事市場を取り込む狙いです。
3.13. コマニーによるMBO(株式の非公開化) (2022年5月10日発表)
- 概要
間仕切り(パーティション)の大手であるコマニーが、創業家の資産管理会社によるTOB(株式公開買い付け)に同意し、上場廃止の方向に進むことを決定しました。買付代金は最大172億円規模と発表されています。 - 背景と狙い
オフィス家具や建材メーカーとの競合が激化する中、短期的な業績や株価を意識しすぎず、事業構造改革や成長戦略に集中できる体制を整えるためとされています。MBOによる非公開化は、経営の自由度を高め、長期的な視点での投資や事業再編を実行しやすくする利点があります。
3.14. タマホームによる中国子会社「玉之家(天津)環境技術」の譲渡(2019年3月27日)
- 概要
タマホームは中国で内装工事を手がけていた子会社を譲渡しました。併せて関連する香港子会社や他の海外子会社も清算し、事業の選択と集中を図っています。 - 背景と狙い
中国や海外での内装事業を継続しても十分な収益性が期待できず、経営資源を国内事業に集中させることを決定したと考えられます。海外進出がすべて成功するわけではなく、適切なタイミングで撤退・譲渡する判断も重要です。
3.15. オカムラによるシンガポールDB&B Holdingsの子会社化(2021年10月初旬予定)
- 概要
オフィス家具大手のオカムラは、シンガポールを拠点とするオフィスの設計・内装工事を手がけるDB&B Holdingsを買収しました。株式70%を取得することでアジア事業を強化します。 - 背景と狙い
中国・ASEANを重点市場と位置付けるオカムラにとって、現地での顧客ニーズの把握や製品開発力向上が大きな課題でした。DB&Bのローカルネットワークや施工実績を活用し、アジアでのプレゼンス拡大を目指すものと考えられます。
3.16. エー・ディー・ワークスによる澄川工務店の子会社化(2019年4月25日)
- 概要
不動産投資事業を中心とするエー・ディー・ワークスが、内装工事の澄川工務店を全株式取得しました。買収金額は非公表です。 - 背景と狙い
自社の不動産事業と内装工事を組み合わせることで、投資物件の付加価値向上や改修工事の内製化によるコスト削減が狙えます。米津副社長が社長に就任し、グループ間の連携を強化する姿勢が明確です。
3.17. イトーキによるシンガポールTarkus Interiorの子会社化(2016年12月上旬)
- 概要
オフィス家具大手のイトーキは、シンガポールで内装工事を行うTarkus Interiorの株式80%を取得し子会社化しました。現地での大型案件を受注可能なライセンスも魅力とされています。 - 背景と狙い
イトーキは既にシンガポールに拠点を持ち、オフィスソリューションを提供していました。そこに内装工事企業を加えることで、家具のみならず設計施工までを包括的に提案しやすくなり、ASEAN各国へのビジネス展開も促進されると考えられます。
3.18. ジオリーブグループによる丸西の子会社化(2024年10月1日予定)
- 概要
住宅関連事業を手がけるジオリーブグループが、商業施設や公共施設の内装工事で実績のある丸西(仙台市)の株式90%を取得します。高齢化による住宅市場縮小を見据え、非住宅分野での基盤強化を狙います。 - 背景と狙い
丸西は長年の実績を持ち、売上や利益も安定しています。ジオリーブグループは内装分野をさらに充実させることで、総合的な建設サービスを提供できる体制を整える意図がうかがえます。
3.19. インターライフホールディングスによるアーク・フロントの子会社化(2011年4月1日)
- 概要
インターライフホールディングスはパチンコ店関連の広告宣伝を行うアーク・フロントを完全子会社化しました。パチンコ店運営大手であるピーアークホールディングスから株式を譲り受けています。 - 背景と狙い
内装工事・メンテナンスに加え、広告宣伝サービスまで提供することで顧客企業への総合的なサポートを実現する狙いがあります。広告分野を取り込むことでサービス領域を広げ、収益源を多様化する意図です。
3.20. エムティジェネックスによるチヨダMEサービスの子会社化(2020年10月1日)
- 概要
エムティジェネックスは、オフィスビルの保全管理業務や内装工事を手がける企業ですが、電気設備システムの保守・保全を行うチヨダMEサービスを買収しました。新規事業への進出とエリア拡大が目的とされています。 - 背景と狙い
オフィスビルにおいては、内装だけでなく電気設備や通信インフラの保守管理も不可欠です。チヨダMEサービスを取り込むことで、ビル管理全般をカバーできる体制を整える狙いがうかがえます。
3.21. エムティジェネックスによるアイテックの子会社化(2024年1月16日予定)
- 概要
同じくエムティジェネックスが、関西を中心に電気工事業を行うアイテックを買収します。商業施設や病院、物流倉庫などの電気配線・通信工事を担う企業です。 - 背景と狙い
エムティジェネックスの既存事業であるオフィスビル向け内装工事との親和性が高いと考えられます。西日本エリアへの事業拡大および新規顧客開拓が期待されます。
3.22. インターライフホールディングスによるシステムエンジニアリングの買収(2013年6月3日)
- 概要
インターライフホールディングスは、劇場や公共施設の特殊音響・映像設備などを手がけるシステムエンジニアリングの株式を取得しました。親会社のマネジメントリサーチの買収という形をとっています。 - 背景と狙い
内装工事事業と音響・照明・映像設備の一括受注を目指し、グループのサービスメニューを拡充する狙いです。大手ゼネコンからの受注にも対応できる技術力を取り込むことが可能になります。
3.23. インターライフホールディングスによるサンケンシステムの子会社化(2023年11月30日予定)
- 概要
AV機器設備のシステム構築に強みを持つサンケンシステムを、インターライフホールディングスが子会社化します。内装工事や音響設備工事とのシナジーを高めるのが狙いとされています。 - 背景と狙い
サンケンシステムは長い業歴を持ち、専門性の高い案件を受注しています。インターライフHDはこれにより音響・映像分野まで網羅したトータルサービスを強化し、他社との差別化を図ります。
3.24. アンビションDXホールディングスによるフレンドワークスの子会社化(取得日非公表)
- 概要
不動産会社のアンビションDXホールディングスが、内装・原状回復工事のフレンドワークスを子会社化しました。リフォームやリノベーション事業を強化する目的です。 - 背景と狙い
賃貸管理を含む不動産のライフサイクル全体をグループ内で完結できるようにし、サービスの幅を広げるとともに、フレンドワークスの技術力を取り入れて新たな商品開発も可能にすると考えられます。
3.25. ウィルによる子会社「遊」のアートリフォームへの譲渡(2021年1月18日)
- 概要
ウィルは、富裕層向けリフォームを手がける子会社「遊」を、内装工事を行うアートリフォームに譲渡しました。売却金額は1億5000万円と公表されています。 - 背景と狙い
ウィルは不動産仲介やリフォーム事業を展開していますが、高価格帯リフォームと自社の事業方針が合わなくなってきた、あるいは成長のための資本投下が難しかった可能性があります。アートリフォーム側には高付加価値リフォームのノウハウ取り込みのメリットがあるでしょう。
3.26. エスクリによる渋谷(建築・内装事業)の子会社化(2013年5月15日)
- 概要
ブライダル事業を手がけるエスクリは、飲食店や小売店の内外装工事を請け負う渋谷を買収しました。新規出店の内装をグループで管理できるようになります。 - 背景と狙い
結婚式場やホテルなどを運営する際、内装工事やメンテナンスは重要なコスト要因です。子会社化により効率的な運営が可能となり、またグループ外の受注を取り込み収益多角化も図れると考えられます。
3.27. サンゲツによるシンガポールD’Perceptionの子会社化(取得予定日非公表)
- 概要
壁紙・床材などインテリア商品の大手サンゲツが、シンガポールで空間デザインや内装工事を行うD’Perceptionを買収しました。株式70%を取得し、海外事業を強化する方針です。 - 背景と狙い
サンゲツは国内インテリア市場が成熟する中、アジアでの成長機会を求めています。D’Perceptionは東南アジア全域をカバーできるネットワークがあり、サンゲツの製品と合わせてトータルソリューションを提供できる体制を整えようとしています。
3.28. OCHIホールディングスによるアイエムテックの子会社化(2020年7月9日)
- 概要
住宅資材を扱うOCHIホールディングスが、マンションやオフィスビルなどの内装工事を得意とするアイエムテックを買収しました。買収金額は12〜13億円と報じられています。 - 背景と狙い
OCHIホールディングスは住宅中心の事業に加え、非住宅分野(オフィス・商業施設)の強化を目指しています。アイエムテックは内装工事で高い実績があり、そのノウハウを取り込むことで受注領域を拡大する戦略が明確です。
4. 内装工事業界M&Aの背景にある要因とシナジー
以上の事例から、内装工事業界や関連業界のM&Aに共通する背景や目的が見えてきます。
- ワンストップサービスの追求
設計・デザイン、施工、設備・ICTインフラ、家具・機器販売、さらには人材派遣・管理など、幅広い領域を一手に担うことで競争力を高める事例が多く見られます。顧客企業にとって発注窓口を一本化できる利点が大きいため、受注拡大を狙う企業はM&Aで必要な機能を取り込もうとしています。 - コア事業との相乗効果
本業が不動産賃貸や飲食店経営、IT機器・音響機器販売など、異なる業種であっても「空間に関わる工事」部分を内製化することでコスト削減やサービス拡充を図る例が少なくありません。グループ内で補完関係を築き、顧客に対して新たな価値を提供しようとする動きが顕著です。 - 競合激化と海外展開
国内市場では少子高齢化や人口減少が進んでおり、建設投資の伸び悩みが懸念されます。一方で、東南アジアや中国など海外市場にはまだ成長機会があります。現地企業を買収し、ライセンスやノウハウ、人材を獲得することでスピーディな海外事業展開を可能にする戦略がみられます。 - 経営資源の最適化・事業撤退
一方、期待していたシナジーが得られない場合や、事業の将来性に疑問が生じた場合には、早期に売却や撤退を決断する事例もあります。建設・内装工事は受注産業であり、景気や業界動向に大きく左右されます。そのため、投資に見合わないと判断されれば撤退するケースも少なくありません。
5. M&A後の課題・リスクとその対策
M&Aによって事業規模の拡大やサービス範囲の強化が期待できますが、一方で以下のような課題やリスクも存在します。
- 組織・文化の統合
買収先の企業文化や人材マネジメントの手法が自社とは異なる場合、統合には時間と労力がかかります。とくに職人気質が強い内装工事分野では、現場主義の風土が根強く、管理体制の再構築には丁寧なコミュニケーションが必要です。 - システム・業務フローの統合
設計や見積もり、施工管理に使用するシステムが異なると、業務が重複したり混乱が生じる恐れがあります。基幹システムやBIMなどを導入する際には、段階的に統合・標準化を進めることが重要です。 - 許認可や法規制の遵守
内装仕上工事業は、建設業許可のほか電気工事士や施工管理技士など資格要件が絡むことも多いです。買収に伴い、許認可を円滑に継承できるのか、資格保有者をどのように配置するのかといった論点があります。 - 人材定着と技術の継承
内装工事業界は人材不足が深刻で、熟練技術者の高齢化も進んでいます。M&Aにより優秀な人材を確保しても、統合過程で離職を招かないよう配慮が必要です。また技術継承の仕組みづくりを早急に整備することも大切です。 - 顧客との関係維持
買収によって社名変更や組織編成が行われると、取引先が不安を感じる場合もあります。スムーズに顧客との関係を引き継ぎ、より良いサービスを提供できるようにコミュニケーションを図ることが求められます。
これらの課題に対しては、事前のデューデリジェンス(詳細調査)を徹底し、統合計画(PMI: Post Merger Integration)をしっかりと策定・実行することが重要です。
6. 今後の展望とまとめ
内装工事業界のM&Aは、今後も続くと考えられます。以下に今後の展望をまとめます。
- 海外事業のさらなる拡大
国内市場が成熟化する中、アジアをはじめとする海外への展開は引き続き主要な成長戦略となるでしょう。特に現地で認知度の高い企業や、政府系プロジェクトなどの実績がある企業を買収することで、参入障壁を下げる動きが活発化すると思われます。 - IT化・DXの加速
建設業界全般において、デジタルトランスフォーメーション(DX)が課題となっています。内装工事の世界でも、BIMやクラウド型施工管理ツール、オンラインマッチングプラットフォームなどが普及し始めています。こうしたIT企業とのM&Aや業務提携を通じて、新たな付加価値を提供する動きが進むでしょう。 - 大手企業による統合とベンチャー企業の成長
建設・不動産・インテリアなど関連分野で大手が主導的に内装工事会社を取り込み、サービスを総合化していく動きが加速する一方、ベンチャー企業が特定の分野(例えば店舗デザイン、音響内装、ITを活用した施工管理など)で急成長して買収の対象となる可能性もあります。 - 事業承継の観点からのM&A
職人や技能者の高齢化により、後継者不足に悩む内装工事会社は少なくありません。こうした企業が大手企業や資本力のある企業に買収されることで事業を継続していくケースが今後も増えると考えられます。
まとめ
本記事では、内装工事業界における数多くのM&A事例を取り上げ、その背景や狙い、シナジー効果、課題について詳しく解説しました。内装工事業界は経済や建設投資と密接に関わるため、不況期には業績が落ち込みやすい半面、リノベーション需要などで安定した需要が期待できる分野でもあります。
さらに、オフィスや商業施設の大型改修、海外建設プロジェクト、IT・音響設備などの複合的なサービスニーズが高まっており、ワンストップサービス体制を構築する動きが顕著です。こうした背景を受けてM&Aが増加しているとともに、事業の選択と集中による売却・撤退も行われています。
今後の展望としては、国内外問わず多様化する施工ニーズに対応し、人材不足や技術革新への適応を進める企業が生き残っていくでしょう。その中で自社に不足しているリソースをM&Aによって補完することは、競争優位性を確立する手段の一つとして有効な選択肢となり続けるはずです。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。