- 1. ゲーム開発業界におけるM&Aの背景
- 2. 国内での主要なM&A事例
- 3. 海外での主要なM&A事例
- 4. M&Aにおけるシナジーの具体例
- 5. 買収される企業の狙いとメリット
- 6. 買収を行う企業の狙いとメリット
- 7. M&Aの課題とリスク
- 8. 日本市場特有の背景と事例考察
- 9. 海外企業による日本企業の買収事例とその影響
- 10. 大手パブリッシャー・プラットフォーマーによる買収の動向
- 11. VR/AR/クラウドゲーム/eスポーツなど次世代領域への注力
- 12. モバイルゲーム市場の成熟とM&A
- 13. 企業規模や資本力の違いによる買収戦略のバリエーション
- 14. M&A後の組織統合と開発体制強化
- 15. 株式交換やTOB(株式公開買付け)の手法について
- 16. 近年の業績低迷企業の再建型M&A事例
- 17. 今後の展望:ゲーム開発業界とM&Aの可能性
- 18. 結び
1. ゲーム開発業界におけるM&Aの背景
ゲーム産業は、ハードウェアの進化とともに歩んできた歴史があります。ファミリーコンピュータから始まり、プレイステーション、Xbox、そして携帯ゲーム機やスマートフォンへとプラットフォームが多様化したことで、コンテンツ開発にも広がりが生まれました。加えてオンライン化が進んだことで、ゲームは“もの”を売るビジネスから、“サービス”を提供し続けるビジネスへと変化しつつあります。
こうした変化に対応するためには、大規模な開発投資や運営体制、グローバルなマーケティング力が重要になりました。これを単独で実現することが難しい企業は、資本提携や他社の買収によって開発力や運営ノウハウを取り込む動きが加速し、さらにゲームに強いIP(人気キャラクターや世界観)を持つ企業を買収することで、短期間でビジネスを拡大させようとする意図が見られるのです。またモバイルゲーム市場の世界的な成熟に伴い、一定の人気タイトルを抱える企業や、ゲーム開発の優秀な人材を保有する企業を獲得する意義は高まっています。
2. 国内での主要なM&A事例
2-1. 任天堂グループの子会社化事例
任天堂が国内外の開発会社を取り込む動きは、ここ数年においても散見されます。とくにShiver EntertainmentやNext Level Gamesといった海外スタジオの買収は、任天堂の海外市場における開発パートナー確保、技術獲得を目的として実施されました。
また、国内でも卸事業を担う企業(ジェスネットなど)の子会社化を進め、流通網や開発体制を一体化させてきました。任天堂は一貫して自社IPを軸に進めてきた企業ではありますが、近年では他社IPとのコラボレーションやモバイル分野での強化を行うために、開発会社の買収や子会社化も活発に行われています。
2-2. ガンホー・オンライン・エンターテイメントによるグラスホッパー・マニファクチュア買収(のちに再譲渡)
ガンホーは「パズル&ドラゴンズ」で世界的に成功した企業ですが、その後さまざまな開発スタジオ買収を進めてきました。2013年2月には須田剛一氏率いるグラスホッパー・マニファクチュアを買収し話題を集めましたが、2021年5月に同社をNetEase(中国系)の関連会社に譲渡するなど、必要に応じて事業再編を行っています。
買収時にはガンホーの支援のもと、「LET IT DIE」などの新作タイトル開発が進められました。しかし、ゲーム市場のトレンドやガンホーの経営方針の変化により、グラスホッパーは別資本のもとでさらに自由な開発体制を整えたいと判断し、結果的に売却となりました。
2-3. KLabのゲーム関連子会社買収・譲渡
KLabはモバイルオンラインゲーム開発で知られる企業で、自社開発タイトルのほかにも海外配信や子会社化を繰り返し事業を拡大させてきました。たとえばメディアインクルーズやグローバルギアなどの買収を行い、スマホ向けカジュアルゲームやミドルコアゲームの強化を図っています。一方で、経営資源を集中させるために、買収した子会社の一部事業をマイネットやほかの企業に譲渡するケースもあり、適宜ポートフォリオを再編しています。
2-4. カプコンによる開発スタジオ買収
カプコンは「モンスターハンター」シリーズや「バイオハザード」シリーズなど、強力なIPを多数保有する企業です。近年は海外市場での更なる存在感を高めるため、**Minimum Studios(台湾)**や国内の3D CG関連企業など、外部スタジオとの連携を深める動きがあります。多くは開発力強化と最先端技術の獲得が目的であり、人気IPを活かしたタイトルを安定して供給するために、社内外の体制強化が急務となっているからです。
2-5. セガサミーホールディングスの動向
セガサミーはゲームセンター事業や家庭用ゲーム、スマホゲームなど多角的に展開していますが、海外では**Two Point Studios(イギリス)**を買収するなど、独創的なシミュレーションゲームの開発力を取り込みました。一方で、リゾート事業(シーガイアなど)の売却や、アミューズメント事業で不採算となった部分の事業整理など、収益性を高める施策を進めています。
2-6. スクウェア・エニックス・ホールディングスの海外スタジオ売却
「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」「キングダムハーツ」など有力IPを多数擁するスクウェア・エニックスは北米の開発スタジオ(クリスタル・ダイナミクス、Eidosなど)を買収していた過去がありますが、2022年にはそれらを**Embracer Group(スウェーデン)**に売却し、大きなニュースとなりました。背景にはブロックチェーンゲームやNFTなど新規事業への投資資金確保があるとみられます。
2-7. DeNAのモバイルゲームスタジオ買収例
DeNAはソーシャルゲームのプラットフォーム「Mobage(モバゲー)」で大きく成長しました。その過程でngmocoやGameview Studios、さらにフィンランドのSupercellへの出資(のちにソフトバンクグループと共同で買収)など、グローバル展開を見据えた動きを活発化させました。Supercellは「Clash of Clans」などの大ヒット作を生み出し、世界中で大きな収益を上げましたが、最終的にはソフトバンクグループが持ち株をTencentに売却する形でEXITしています。DeNAとしては、それまでに得たノウハウをほかの事業に活かすという選択が見られます。
2-8. ガーラの海外子会社買収・譲渡
オンラインRPG(MMORPG)の「ラグナロクオンライン」運営で知られるガンホーに先駆け、ガーラも海外子会社を多く保有してきました。しかしながら業績悪化に伴い、米国Gala-Netや韓国子会社などを売却。さらに別領域への進出やスマホアプリ事業への集中などを進めています。こうした事例は、ゲーム開発企業が経営状況に合わせて海外拠点や子会社を最適化する一つの例といえるでしょう。
3. 海外での主要なM&A事例
3-1. Microsoftによる大規模買収(アクティビジョン・ブリザードなど)
海外ではMicrosoftがアクティビジョン・ブリザードを約7兆円超という巨額で買収を発表しました(承認問題などを経て完了見込み)。アクティビジョンは「コール オブ デューティ」シリーズ、ブリザードは「ディアブロ」「ウォークラフト」「オーバーウォッチ」などの強力なIPを保有しており、Microsoftはこれらの人気タイトルを自社プラットフォームで優位に展開する狙いがあります。またBethesdaを7,500百万ドルで買収したことも大きな話題を呼びました。いずれもクラウドゲームサービス「Xbox Game Pass」を強化し、サブスクリプション型ビジネスの拡充が狙いです。
3-2. ソニー・インタラクティブエンタテインメントによる買収
ソニーはPlayStationという強力なプラットフォームを持ちつつ、欧米の有力スタジオを次々に取り込む動きを強化しています。Insomniac Games(「スパイダーマン」「ラチェット&クランク」などで有名)を約3,600百万ドルで買収したのち、さらに2022年にはBungie(「ヘイロー」「デスティニー」シリーズなど)を36億ドルで子会社化し、ライブサービス型タイトルのノウハウを吸収する姿勢を示しました。Microsoftとの競争が激化していることも背景にあります。
3-3. TencentやNetEaseによる積極的投資
中国のTencentやNetEaseは、世界トップクラスの資金力を武器に、有力なゲーム開発会社を買収・出資しています。Tencentは日本のMarvelousへの出資や、米国のRiot Games(「League of Legends」)の株式取得、スウェーデンのEmbracer Groupへの投資など、グローバル規模で幅広く動いています。NetEaseもグラスホッパー・マニファクチュア買収だけでなく、欧米のスタジオ買収を推進しています。狙いはコンシューマーゲームからモバイル、クラウドゲームなど多岐に渡り、中国国内の規制強化もあって海外展開を急いでいる事情があります。
3-4. Zyngaの買収事例
モバイルゲーム最大手のZyngaは積極的にゲーム開発会社を買収し、カジュアルゲーム分野を拡大してきました。たとえばRollic(モバイルカジュアルゲームで知られるトルコのデベロッパー)やPeak Gamesなどの獲得で、パズルゲームやカジュアルゲーム市場を強化。さらにZynga自身も2022年、テイクツー・インタラクティブに127億ドルで買収され、大きな話題を呼びました。これはコンソールゲームに強いテイクツー・インタラクティブがモバイル領域を一気に取り込む動きといえます。
4. M&Aにおけるシナジーの具体例
- IPの拡充
買収企業は人気ゲームシリーズや有名キャラクターの知的財産権を得ることで、続編や派生作品を開発しやすくなります。これにより追加投資を抑えつつ大きな収益が見込めます。 - 技術力の獲得
特定のゲームエンジンやAI技術、オンライン対戦システムなどに強みを持つ企業を買収することで、自社の技術力を底上げし、開発コストや期間の削減につなげられます。 - 海外展開の加速
グローバル販売網やローカライズ能力を持つ企業を手に入れることで、自社タイトルを効率よく海外へ展開することが可能になります。 - ユーザーベースの拡大
M&Aにより複数の人気タイトルをまとめて扱えるようになれば、複数のゲームの相互送客やクロスプロモーションが可能になり、ユーザーベースの拡張が期待できます。 - 大規模開発への対応
スマートフォンアプリを含むゲーム開発は大規模化が進み、ヒットタイトルでは数百名規模の開発体制を要することがあります。開発ラインを迅速に増強するためにM&Aが活用されるケースも多いです。
5. 買収される企業の狙いとメリット
- 経営基盤の安定化
資金力のある企業の傘下に入ることで、研究開発投資や広告費を十分に確保できるようになります。 - グローバル販売網へのアクセス
親会社が持つ海外拠点や販売パートナーシップを活用し、自社開発タイトルを世界規模で展開できるチャンスが広がります。 - 人材獲得や開発環境の整備
大手グループに入ることで、人材育成プログラムや大規模なプロジェクトノウハウを取り込み、開発体制を強化できます。 - 財務リスクの軽減
自社IPがヒットしなかった場合でも、グループ全体の安定した収益に支えられるため、リスクを抑えながら新規開発に挑戦できます。
6. 買収を行う企業の狙いとメリット
- 時間の買収
すでに実績ある企業や人気タイトルを保有する企業を買収することで、市場参入や技術獲得の時間を一気に短縮できます。 - 開発コストの削減
外注よりも子会社としてグループ内で開発を進めるほうが、長期的にはコストが安定しやすい場合があります。 - ブランド力・IP強化
買収によって自社のブランドやIPラインナップを補完し、ユーザー層を広げられます。 - クロスセル戦略
他分野の企業がゲーム市場に参入する場合、買収したゲーム会社の顧客基盤を活用して、自社のほかのサービスとの融合を狙うことができます。
7. M&Aの課題とリスク
- 文化・組織統合の難しさ
ゲーム開発会社は独自のクリエイティブ文化を持つことが多く、大企業に買収されることで組織文化が衝突し、モチベーションやイノベーションが損なわれるリスクがあります。 - 期待したシナジーが得られない可能性
開発体制の統合やコスト削減などのシナジーを期待していても、互いの開発プロセスや企画思想が噛み合わなければ、想定ほどの成果が出ないこともあり得ます。 - 人材流出
買収後、株式譲渡で利益を得た創業メンバーや主要なクリエイターが離脱してしまうケースもあり、これにより企業価値が大きく毀損する場合があります。 - IPやライセンス契約の問題
M&AによってIPの帰属やライセンスの扱いが複雑化し、一部タイトルの権利関係がクリアでなくなるリスクがあります。 - 海外規制・市場環境の変化
中国企業による海外買収などは、国や地域によっては反発や規制の対象となる場合があります。加えて世界経済が変動するとゲーム需要や投資判断にも影響が及びやすいです。
8. 日本市場特有の背景と事例考察
日本では家庭用ゲーム機の強力な歴史と、スマホゲームの爆発的普及の両方が存在しています。市場全体が成熟し、競合が激化しているため、開発費の高騰とヒットタイトルの二極化が起こっています。加えてIPビジネスがキャラクターグッズやアニメ、マンガなど他メディアにも拡大しやすい環境があるため、ゲーム開発会社が自社のみでIPを開発するにはリスクが高い一方、大手パブリッシャーに買収されるメリットが大きいです。
- フォーサイドやアクロディアなどが行う小規模M&A
ゲーム関連事業へ参入、あるいは撤退するためのM&Aがたびたび行われています。事業自体を新設会社に分割してその株式を売買する方法(会社分割)や、事業譲渡など、多彩な手法が見られます。 - IPを軸とした強化
オルトプラスやマイネットなどは、既存のタイトルを買い取り運営する“ゲームサービス事業”を展開しており、これらも日本ならではの特色といえます。
9. 海外企業による日本企業の買収事例とその影響
中国のTencentやNetEase、韓国の大手企業(Nexonなど)による日本企業の買収や出資は、近年話題を集めています。日中韓は地理的にも近く、ゲームへの嗜好も似通っている面があるため、技術力やIPを相互に取り込む動きは加速しています。
一方で、海外企業による買収に対しては、日本国内での開発・運営拠点の存続や、自社の強みである「和風テイスト」「日本向けIP」の扱いなどに懸念が生まれることもあります。
10. 大手パブリッシャー・プラットフォーマーによる買収の動向
- Microsoft(Xbox)
アクティビジョン・ブリザードやBethesdaの買収によって、Xbox Game Passの充実を図り、PlayStation陣営に対抗する動きが加速しています。 - ソニー・インタラクティブエンタテインメント(PlayStation)
Insomniac GamesやBungieなどを傘下に収め、ファーストパーティタイトルの競争力を一段と強化しようとしています。 - Nintendo(Switch)
大型の他社買収というよりは、特定の開発会社を子会社化したり、一部業務を取り込む形で地道に自社IPを強固にしています。
11. VR/AR/クラウドゲーム/eスポーツなど次世代領域への注力
M&Aは単に既存ゲームビジネスの拡大だけでなく、VR/AR、クラウドゲーム、ブロックチェーンゲーム、eスポーツなど、次世代の市場を見据えた技術力やIP、顧客基盤を得る手段としても活発化しています。特にクラウドゲームの領域はGoogleのStadiaが撤退した一方で、MicrosoftやNVIDIAなどが積極的にサービスを拡大し、注目を集めています。
このような将来性のある分野での先行投資としてのM&Aは、ハイリスク・ハイリターンの面がありますが、成功すれば市場をリードできる可能性が高いです。
12. モバイルゲーム市場の成熟とM&A
日本国内のスマホゲーム市場は、ある程度の成熟期に入りました。広告費用の高騰、ユーザーの目が厳しくなったことなどから、新規参入者がヒットを生み出すのは難しくなっています。その結果、
- 新規IPの開発コストを抑えるために他社と提携
- 人気タイトルの運営を代行する企業への売却
- 海外展開力のある企業の買収
といった事例が増えています。マイネットによる買い取り運営モデル、グリーの海外スタジオ買収、KLabの海外展開支援体制強化などは、典型的な動きといえるでしょう。
13. 企業規模や資本力の違いによる買収戦略のバリエーション
- 大手企業(任天堂、ソニー、スクウェア・エニックスなど)
世界規模で人気IPを展開しているため、必要な技術やスタジオをピンポイントで買収することが多いです。 - 中堅企業(グリー、KLab、ガンホーなど)
主力タイトルの次を求めて、海外スタジオや技術力のあるベンチャー企業を買収・出資し、ポートフォリオを広げる傾向が見られます。 - コンテンツ産業外からの参入例(広告代理店やファンド、IT他業界)
新たな収益源確保や成長分野参入のためにゲーム企業を買収し、グループ全体でのシナジー創出を狙うパターンもあります。
14. M&A後の組織統合と開発体制強化
ゲーム開発会社はクリエイティブや技術が経営資源のコアであり、人材流出を回避しながら組織統合することは容易ではありません。M&A後のPMI(Post Merger Integration)においては、下記の点が重視されます。
- クリエイターのモチベーション維持
過度な管理体制にならないよう配慮する必要があります。 - 開発プロセスの統合
自社と被買収企業のツールやエンジン、タスク管理などをどこまで統合するか決定し、共通の開発フローを整備する。 - IPの管理と運用
複数のIPを抱える場合、その優先度や予算配分に合意を得る必要があります。
15. 株式交換やTOB(株式公開買付け)の手法について
ゲーム開発業界でも、上場企業同士の取引やファンドを絡めたものなど、多彩なM&A手法が用いられます。
- 株式交換
買収側が自社の株式を交付して相手株主から株式を取得する方式。キャッシュを抑えながら買収でき、上場企業や大手企業が使うことが多いです。 - TOB(株式公開買付け)
上場企業を買収する際に、市場で直接株式を買い集めるのではなく、買付価格や期間を公表して株主に公開買付を行います。上場廃止を目指すTOBと、引き続き上場を維持する目的でのTOBがあります。 - 事業譲渡・会社分割
特定のゲームタイトルやソーシャルゲーム部門だけを新設会社に切り出し、その株式を売却するケースも多いです。これは買収する側にとってもリスクをコントロールしやすいメリットがあります。
16. 近年の業績低迷企業の再建型M&A事例
ゲーム業界はヒットタイトルが出ないと収益が激減するビジネスでもあります。結果的に財務が悪化し、他社に身売りせざるを得ない企業も散見されます。
- ランシステム(複合カフェ自遊空間など)
エンターテインメント事業の不振やコロナ禍の影響で経営厳しく、事業売却や他社との提携などを繰り返していました。最終的にAOKIホールディングスの傘下に入る決定もあり、店舗運営体制を再編しています。 - ガーラ子会社のGala-Netなど海外拠点の売却
PC向けオンラインゲーム市場が頭打ちになった際、収益が悪化した海外拠点を売却することで経営を立て直そうとする事例です。
こうした事例では、買収側は低価格で優秀な人材やIPを獲得できる可能性がある一方、ターンアラウンド(事業再生)に成功するかどうかはリスクを伴います。
17. 今後の展望:ゲーム開発業界とM&Aの可能性
- クラウド化の進展
サブスクリプション型のゲームプラットフォームが普及すれば、タイトル数やラインナップが競争の決め手となります。そのため大量のIPや開発スタジオを抱える企業が市場を席巻する可能性があり、さらなるM&Aが進むでしょう。 - eスポーツ市場の拡大
プロリーグ化や大会のビジネス化に伴い、eスポーツ関連企業の買収が増える見通しです。スポンサー企業やイベント企画会社がチームを保有したり、ゲームタイトル自体を持つ企業を取り込む動きも考えられます。 - ブロックチェーンゲームの成長
ブロックチェーン技術を用いたゲームは、NFT要素や経済圏形成のポテンシャルを持っています。しかし規制や投機リスクもあるため、本格的に大手が参入するにはまだ時間がかかるとみられます。ただし先行して技術を培う企業を買収する動きが発生する可能性があります。 - 日本国内の市場再編
国内は依然として競合が激しく、ヒット作の乱立が難しい状況です。ユーザーの嗜好が多様化し、広告費も高騰しているため、より大きな資本力をもつ企業による集約が進むでしょう。
18. 結び
本稿では、数多くの事例を通して、ゲーム開発業界におけるM&Aの現状と背景について考察してまいりました。スマートフォンの普及によるゲームのサービス化、クラウド技術やサブスクリプションの普及、グローバル競争激化など、多くの変化が業界構造を大きく変えています。そして、その変化を乗り越え、あるいは新たな機会を生み出すために、M&Aは重要な戦略オプションの一つとして位置付けられるようになりました。
また、ゲーム企業同士の買収だけでなく、異業種からの参入、IT大手による買収、海外資本の流入など、今後も幅広い形態のM&Aが見込まれます。特に、優秀な人材や強力なIPを保有する会社は、短期間で大規模な資金調達や提携を果たすことが可能であり、それが業界成長のエンジンともなっています。
他方で、M&A後の組織文化の統合や、想定ほどのシナジーが得られないリスク、人材流出などの課題も少なくありません。成功裏に企業価値を高めるには、経営陣の明確なビジョンと統合計画、そしてクリエイターが自由に力を発揮できる環境づくりが不可欠です。
いずれにせよ、国内外の事例が示すように、ゲームは世界中のユーザーに愛されるコンテンツ産業であり、引き続き市場規模を拡大していくことが期待されます。その成長を支える一つの大きな要因として、M&Aは今後も止まることなく進んでいくでしょう。ゲーム開発企業は資本と技術とIPを求め、買い手企業は新市場進出やポートフォリオ拡大を狙う。それぞれの思惑が交錯しつつ、ゲームというデジタルエンターテインメントはさらなるイノベーションと進化を遂げていくはずです。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。