目次
  1. 1. はじめに
  2. 2. 家具業界におけるM&Aの背景と動向
    1. 2-1. 家具業界を取り巻く国内市場の変化
    2. 2-2. 海外市場の影響とグローバル戦略
    3. 2-3. 家具業界のM&Aの特徴
  3. 3. 主要M&A事例の紹介:全体像と背景・目的の整理
    1. 3-1. 東急ハンズ譲渡(東急不動産HD→カインズ)
    2. 3-2. 日創プロニティによるシキファニチア買収
    3. 3-3. 陽光都市開発の香港柏雅買収と上海柏雅投資管理譲渡
    4. 3-4. 凸版印刷による独インタープリント買収
    5. 3-5. 日立物流によるオリエント・ロジ買収
    6. 3-6. 綿半HDによる家具・インテリア販売企業の連続買収(リグナ、藤越、大洋など)
    7. 3-7. 中山福によるグリーンパル買収
    8. 3-8. アイリスオーヤマによるホウトクTOB
    9. 3-9. 大塚家具によるサァラ麻布の家具販売事業取得
    10. 3-10. 東京衡機による無錫三和塑料製品の譲渡
    11. 3-11. 松屋によるストッケジャパン譲渡
    12. 3-12. 北興化学工業による村田長買収
    13. 3-13. 丸八HDによるG L BOWRON譲渡
    14. 3-14. 高島によるファミール買収
    15. 3-15. レカムによる邦英のオフィス家具販売事業取得
    16. 3-16. ヤマダ電機による大塚家具買収
    17. 3-17. ヤマダ電機のその他関連買収(パーソナル少額短期保険、レオハウスなど)
    18. 3-18. 三井松島産業による建機材事業の譲渡
    19. 3-19. ユニマットライフによるカッシーナ・イクスシーTOB
    20. 3-20. パラマウントベッドHDによるCorona Medical譲渡
    21. 3-21. ビューティガレージによる足立製作所買収
    22. 3-22. ハードオフによるエコプラス株式交換
    23. 3-23. ノダによるインドネシアSIWI子会社化
    24. 3-24. ノジマによるシンガポールCourts Asia買収とマレーシアTMT買収
    25. 3-25. はせがわによる「現代仏壇」ブランド取得
    26. 3-26. ニトリとDCMによる島忠争奪戦
    27. 3-27. ノジマによるパソコン・携帯販売TMT買収
    28. 3-28. ビックアイ(経営陣)によるパブリックMBO
    29. 3-29. ニッセンHDによる暮らしのデザイン買収
    30. 3-30. サザビーリーグMBO
    31. 3-31. ティーライフによるLifeit買収
    32. 3-32. スターティアHDによる丸正事務器のOA機器事業買収
    33. 3-33. スターシーズによるMF6買収
    34. 3-34. さが美のホームファッション事業撤退
    35. 3-35. コクヨによる店舗用什器事業譲渡および海外企業買収事例
    36. 3-36. コーユーレンティアによるジービーエスグループ買収
    37. 3-37. コマニーMBO
    38. 3-38. シャノンによる後藤ブランドの譲渡
    39. 3-39. オカムラによるシンガポールDB&B子会社化
    40. 3-40. クルーズ・ジャパンによるWeb販売事業譲渡
    41. 3-41. ケイティケイによる青雲クラウン株式交換・エス・アンド・エス買収
    42. 3-42. キングジムによるぼん家具買収
    43. 3-43. エーアンドエーマテリアルによる大昭和ユニボード買収
    44. 3-44. バルスMBO
    45. 3-45. イトーキによるダルトンTOBとソーア買収
    46. 3-46. アサヒ衛陶(ASAHI EITO HD)によるチャミ・コーポレーション買収と再譲渡
    47. 3-47. J.フロントリテイリングによるフォーレスト買収
    48. 3-48. カッシーナ・イクスシーによるコンランショップ・ジャパン譲渡
    49. 3-49. DCMによる島忠TOB延長
    50. 3-50. イオンフィナンシャルサービスによるベトナムPTF買収
    51. 3-51. フォーシーズHDによる日本リビング「アロマブルーム」事業取得
    52. 3-52. 21LADYによるイルムスジャパン株式取得
    53. 3-53. ASAHI EITO HDによるチャミ株式譲渡
    54. 3-54. アダストリアによるウェルカムの雑貨事業取得
    55. 3-55. オリバーMBO(インテグラルと共同TOB)
    56. 3-56. アイカ工業によるベトナムCHIグループ買収
    57. 3-57. エスクリによる渋谷買収
    58. 3-58. その他にも見られる関連M&Aの概況
  4. 4. 家具業界M&Aの目的とシナジー効果
    1. 4-1. ブランド力・販売チャネルの獲得
    2. 4-2. 技術・ノウハウの補完
    3. 4-3. グローバル展開と海外拠点確保
    4. 4-4. サプライチェーン強化とコスト削減
  5. 5. M&Aの成功要因とリスク・課題
    1. 5-1. 統合プロセスの明確化とPMI
    2. 5-2. 企業文化の統合
    3. 5-3. 人材確保と育成
    4. 5-4. 買収価格と投資回収のバランス
  6. 6. 今後の家具業界が直面する課題と展望
    1. 6-1. DX(デジタルトランスフォーメーション)とECの拡大
    2. 6-2. サステナビリティ・SDGsへの対応
    3. 6-3. 高齢化社会と新たな市場機会
    4. 6-4. ASEANや新興国への進出
    5. 6-5. 中古品・リユース市場の活性化
  7. 7. まとめ

1. はじめに

近年、家具業界ではM&A(合併・買収)事例が目立っております。企業規模の大小を問わず、国内市場の成熟化や少子高齢化、さらに新型コロナウイルス感染拡大による消費行動の変化など、さまざまな経営環境の変化に対応するため、M&Aを積極的に活用する企業が増えているのです。

家具は私たちの日常生活には欠かせない製品です。ベッド、テーブル、椅子、収納家具などはもちろんのこと、DIY用品やインテリア雑貨までも含めると、その関連領域は非常に広範囲に及びます。それだけにメーカーや販売企業の再編には、業界内のみならず流通業界全体の勢力図を塗り替える可能性があります。とりわけコロナ禍以降は「おうち時間」の拡大、テレワーク需要の高まり、あるいは非接触型のEC(ネット通販)活用の急激な拡大などが重なり、従来の対面中心の販売スタイルに変化が迫られました。

さらに、家具は商業施設やホテル・オフィスなど法人分野向けにも大きなマーケットを持っており、店舗やオフィスのリニューアル工事、内装デザイン・施工との一体提案など、建装材・建材業界とも深い関係を築いています。そのため、業務用家具や建材を扱う企業がM&Aを通じて販路拡大や業容の多角化を図るケースも後を絶ちません。近年では海外需要の取り込みを目指し、海外企業との資本提携や買収も増加しています。

本記事では、家具業界が直面している市場環境の変化やM&A活況の背景を解説するとともに、多数の事例を俯瞰しながらM&Aの目的やその後のシナジー効果、課題などについて整理していきます。今後の家具業界を占ううえでも、企業再編や業態転換の方向性を探ることは大変重要です。ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。

2. 家具業界におけるM&Aの背景と動向

2-1. 家具業界を取り巻く国内市場の変化

日本国内の家具市場は、長らく個人消費の停滞に苦しんできました。特にバブル崩壊後から続く経済低迷、さらには景気の変動などの影響により、大手から中小まで多くの家具メーカーが経営基盤の強化や生き残りのための戦略を模索してきました。昨今ではネット通販やホームセンターの台頭によって、家電量販店や百貨店に依存しない新しい販売チャネルが普及した反面、競合も激しくなっております。

また、消費者ニーズの多様化が一段と進んだことも見逃せません。リビング空間のグローバルスタイル化や、安価かつデザイン性の高い商品への需要、収納家具やシンプル家具への関心など、国内市場は細分化・高度化しています。加えて近年の新築着工戸数は横ばいないしやや減少の傾向にあり、一戸建てやマンションの供給ペースが落ちる中で「買い替え需要」「リフォーム・リノベーション需要」を狙ったビジネスが重要性を増しております。

こうした中で、体力のある企業はさらなる業容拡大や新たな領域への参入を目的に積極的に買収を行い、一方で厳しい経営環境に晒されてきた企業は事業売却やグループ入りを通じて生き残りを図るケースが増えています。

2-2. 海外市場の影響とグローバル戦略

近年の家具業界再編には、海外展開の需要が大きく関わっています。とりわけ東南アジア(ASEAN)をはじめとする新興国市場は、人口増と経済成長を背景に家具需要が拡大しており、日本企業も積極的に現地生産拠点の設立や現地企業とのパートナーシップ締結を進めています。M&Aによって生産拠点や販売チャネルを一気に取得できるメリットは大きく、優れた技術や品質を持つ日本メーカーが現地企業を買収して製造や輸出を強化する事例がいくつか見られます。

一方で、外国企業が日本の家具メーカーやブランドを買収するケースも考えられます。日本の高品質・高付加価値商材を求める動きは海外投資家からも注目されており、合弁事業の形をとる例もあれば、完全子会社化する例もあります。

2-3. 家具業界のM&Aの特徴

家具業界のM&Aには以下のような特徴が挙げられます。

  1. 多角化・事業領域拡大の狙い
    家具単体だけでなく、建具、日用品、DIY用品、インテリア雑貨など周辺事業を取り込むことで、ライフスタイル全般を網羅した提案を可能にする狙いがあります。
  2. ブランド力やデザイン性の重視
    家具は嗜好性が強く、ブランドやデザインコンセプトが重要です。他社ブランドを買収することで差別化を狙うケースも目立ちます。
  3. 販路・販売チャネルの獲得
    店舗網やECサイトなどの販売チャネルを買収によりまとめて獲得し、売上拡大を図ることも大きな目的となります。特に大型ホームセンターやインテリアショップを運営する企業のM&Aが注目されます。
  4. 国際展開・サプライチェーンの確保
    海外拠点を取得し、現地生産や原材料調達、輸出入の効率化を狙うグローバル展開は家具業界でも進んでいます。

次章では、実際に公表されたM&A事例のうち主要なものを概観し、その背景や取得・譲渡理由、金額(公表されている場合)などを整理していきます。

3. 主要M&A事例の紹介:全体像と背景・目的の整理

ここでは、提供されているさまざまなM&A(合併・買収、事業譲渡など)を、家具やインテリア、DIY・ホームセンターなどの領域を扱う企業を中心に取り上げ、それぞれの背景や狙いについて簡潔にまとめます。膨大な事例がありますので、ポイントをかいつまんで解説いたします。

3-1. 東急ハンズ譲渡(東急不動産HD→カインズ)

  • 譲渡時期・背景
    2021年末、東急不動産ホールディングスがDIYを中心に家具、日用品、生活雑貨などを扱う東急ハンズをホームセンター最大手のカインズに売却すると発表しました。コロナ禍の影響で業績が大幅に悪化し、グループ内での再建に限界を感じたため、よりホームセンター領域での経験値が高いカインズに譲ることで再生を図った事例です。
  • 狙い
    カインズはオリジナル商品の開発やデジタル基盤の活用で相乗効果を期待し、東急ハンズは全国86店舗(FC含む)を活かしブランド価値の再生を目指しました。

3-2. 日創プロニティによるシキファニチア買収

  • 背景
    2024年3月、日創プロニティは洋家具の製造・販売を手がけるシキファニチアを子会社化。自社グループのECサイト運営会社やリフォーム部材を扱う他社との連携で商品拡販を狙う事例です。
  • 意義
    「SIKI」ブランドの家具を得ることでEC強化と販路拡大につなげ、グループシナジーを創出することが大きな目標です。

3-3. 陽光都市開発の香港柏雅買収と上海柏雅投資管理譲渡

  • 買収(2014年1月)
    中国の賃貸マンション管理会社を傘下に持つ香港柏雅の株式を取得し、中国不動産関連事業へ進出しました。
  • 譲渡(2014年5月)
    その後、上海柏雅投資管理を中国不動産管理会社に譲渡。老朽化による改修など、所有者側と合意が得られず事業継続を断念した一連の事例です。
  • まとめ
    中国進出を目指す企業にとって、投資管理会社やサービスアパートメント運営企業の買収・売却が事業戦略上頻繁に行われることを示す一例です。

3-4. 凸版印刷による独インタープリント買収

  • 概要
    凸版印刷が2019年にドイツの大手建装用化粧シートメーカーを買収。家具や建具、床などの表面化粧材事業を世界規模で拡大する狙いでした。
  • 狙い
    建装材を「印刷技術」で手掛けてきた凸版印刷が、海外の大手建装材メーカーを取り込み、生産・販売網を大幅に拡充した事例です。海外展開の加速が目的となります。

3-5. 日立物流によるオリエント・ロジ買収

  • ポイント
    オリエント・ロジはオフィス家具大手の内田洋行の東日本エリア物流子会社。2009年、日立物流が株式86%を取得することで物流業務を一括受託し、事業の効率化を狙いました。
  • まとめ
    家具販売に付随する物流は大きなコスト要因であり、効率化が利益改善に大きく寄与します。本件は家具メーカー(内田洋行)による物流子会社の売却で、選択と集中を象徴する動きといえます。

3-6. 綿半HDによる家具・インテリア販売企業の連続買収(リグナ、藤越、大洋など)

  • リグナ買収(2020年10月)
    ECを活用し、オンラインショップ「Rigna」やインテリアショップ「リグナテラス東京」を運営するリグナを綿半HDが子会社化。非公表。
  • 藤越買収(2021年11月)
    「藤越 FUGGICOSI」を運営する藤越を傘下に。
  • 大洋買収(2021年3月)
    「Shelfit」ブランドの組立家具メーカー大洋を子会社化。
  • 背景
    綿半HDはもともとホームセンターやスーパーマーケット事業、建設資材等の事業も展開し、M&Aを通じて家具・インテリア領域を強化する動きを続けています。ECや通販の拡張、自社PB(プライベートブランド)展開の強化が狙いです。

3-7. 中山福によるグリーンパル買収

  • 概要
    2018年、園芸用品や家具・建具を製造販売するグリーンパルを8億7100万円で子会社化。自社オリジナル商品の強化が目的です。
  • ポイント
    中山福はキッチン用品や生活雑貨を扱う商社であり、グリーンパルを傘下に取り込むことで自社商品のラインナップ拡充を図りました。

3-8. アイリスオーヤマによるホウトクTOB

  • 経緯
    2010年、アイリスオーヤマが学校用家具などを手がけるホウトクにTOBを実施。
  • 狙い
    家具生産体制を強化し、業績悪化が続いていたホウトクを再建。子会社化後、商品開発や資材調達、生産・販売まで一体運営で立て直しを図りました。

3-9. 大塚家具によるサァラ麻布の家具販売事業取得

  • 概要
    2020年に大塚家具は高級輸入家具店のサァラ麻布の家具販売事業を取得。コロナ禍以前から業績が傾いていた大塚家具にとって、高級商材のテコ入れが狙いとされました。
  • ポイント
    その後、大塚家具はヤマダ電機(後述)に買収されますが、一時的に高級路線との融合を試みた事例となります。

3-10. 東京衡機による無錫三和塑料製品の譲渡

  • 背景
    オフィス家具部品などプラスチック成形品を製造する無錫三和塑料製品を2022年2月、前社長が支配権を握るFPKナカタケに売却しました。
  • まとめ
    業績低迷により事業再建の指揮をとっていた人物が譲り受ける形となり、本体の東京衡機は事業選択と集中を図ったという事例です。

3-11. 松屋によるストッケジャパン譲渡

  • 概要
    北欧家具輸入卸売事業のストッケジャパンをノルウェー本社が日本法人を新設したことで、事業譲渡を決定。対象事業は年商約7億3600万円、譲渡価額約3億円。
  • ポイント
    百貨店運営の松屋は子会社の事業を整理し、ノルウェー側は日本市場に直接進出する道を選んだ例です。

3-12. 北興化学工業による村田長買収

  • 概要
    2019年、産業用・衣料用繊維資材販売の老舗・村田長を子会社化。自動車や家具、アパレル、防災・介護分野にも強みがある企業との連携で商品開発力を高める狙いです。

3-13. 丸八HDによるG L BOWRON譲渡

  • 概要
    1989年にニュージーランドの毛皮製品メーカーを買収しましたが、中国や東南アジアに生産シフトしたことで主力取引先はIKEAだったものの、契約リスクを理由に第三者へ譲渡。
  • ポイント
    自社とシナジーを生み出しづらくなった海外子会社を整理する事例です。

3-14. 高島によるファミール買収

  • 概要
    2023年、オーダーメイド家具を製造するファミール(静岡県)を傘下企業のレストを通じて子会社化。取得価額500万円と比較的少額での買収です。
  • ポイント
    オーダーメイド分野と既存のトイレブース製作・施工の相乗効果を見込み、事業領域を拡張します。

3-15. レカムによる邦英のオフィス家具販売事業取得

  • 概要
    2015年末に決定、2016年1月に譲受。大阪市内でオフィスのレイアウトやOA機器販売、内装工事などを手がける邦英からオフィス家具販売事業を取得。
  • ポイント
    レカムは通信インフラ整備やIT機器の販売などを強みとし、オフィスソリューションの幅を広げる狙いで買収。

3-16. ヤマダ電機による大塚家具買収

  • 概要
    2019年末、ヤマダ電機(現:ヤマダHD)が第三者割当増資を引き受け、大塚家具を子会社化。43億7400万円を投じて51.74%を取得し、新株予約権としても21億8700万円を追加引き受け。
  • ポイント
    家電量販店から住まいのトータルサービスへの事業拡大を図るヤマダと、経営不振が続く大塚家具の再建策が合致しました。大塚家具は高級家具のイメージが強い一方、ヤマダはリフォームや家具雑貨との協業を目指しており、両社のシナジーが注目されました。

3-17. ヤマダ電機のその他関連買収(パーソナル少額短期保険、レオハウスなど)

  • 概要
    ヤマダ電機は家電以外にも住宅メーカー(エス・バイ・エル→ヤマダホームズ)、キッチン・バスメーカー(ハウステック)、リフォーム会社、中古マンション再生会社などの買収・資本提携を積極化。さらにレオハウス(注文住宅)も2020年に買収。
  • 狙い
    「暮らしまるごと」ビジネスを目指し、家電と住宅、保険、家具を一体で提供する総合力を築いています。

3-18. 三井松島産業による建機材事業の譲渡

  • ポイント
    三井松島産業がキッチンカウンターや木製建具などを扱う建機材事業を、2014年に建築資材販売のコンフォートに1円で譲渡。
  • まとめ
    コア事業以外を思い切って整理し、経営資源の集中を狙う例です。

3-19. ユニマットライフによるカッシーナ・イクスシーTOB

  • 概要
    2023年、ユニマットライフは49.57%(間接保有含め55.03%)保有のカッシーナ・イクスシーを完全子会社化のためTOBを実施。カッシーナ・イクスシーが賛同し、非公開化。
  • 狙い
    高級家具ブランドの運営をグループのサービスと掛け合わせ、富裕層向け相互サービスを強化する目的です。

3-20. パラマウントベッドHDによるCorona Medical譲渡

  • 概要
    2016年、経営悪化のフランス医療福祉用ベッドメーカーCorona Medicalを譲渡。買収後に赤字が続き、欧州市場でのシェア拡大が進まず損失処理した例です。

3-21. ビューティガレージによる足立製作所買収

  • 背景
    美容サロン向け機器・用品を取り扱うビューティガレージが、金属製家具・用品を製造する足立製作所を2017年に子会社化。自社オリジナル商品の開発力強化が狙いとされます。

3-22. ハードオフによるエコプラス株式交換

  • 概要
    エコプラスはFC加盟でリユースショップを60店舗(ハードオフ、オフハウス、ガレージオフ、ホビーオフ)展開。ハードオフが株式交換で完全子会社化。
  • ポイント
    東北・北海道の拠点強化を狙い、フランチャイジーとの一体経営でリユース事業を拡大した例です。

3-23. ノダによるインドネシアSIWI子会社化

  • 概要
    2018年、合弁パートナーから株式を追加取得し、インドネシアの住宅用内装建材工場を完全子会社化。
  • 狙い
    木材資源を活用し、日本向けのドアや造作材などを安定生産できる体制の確立が狙いです。

3-24. ノジマによるシンガポールCourts Asia買収とマレーシアTMT買収

  • 概要
    ノジマが2019年に家電・家具小売り大手シンガポールCourts AsiaをTOBで買収。その後、2023年にマレーシアのパソコン・携帯販売TMTを買収し、東南アジアでの家電・家具販売網を拡張。
  • 狙い
    東南アジア新興市場への進出を加速。家電量販店としてのノウハウと現地企業のチャネルを組み合わせることでシェア拡大を図っています。

3-25. はせがわによる「現代仏壇」ブランド取得

  • 概要
    2024年、八木研が展開する「現代仏壇」事業を会社分割で新設した子会社をはせがわが買収。モダン仏壇市場を取り込み、既存の仏壇・仏具販売に付加価値を加える狙いです。

3-26. ニトリとDCMによる島忠争奪戦

  • 経緯
    2020年10月、ホームセンター大手のDCMが島忠の完全子会社化を目指してTOBを開始。しかし、ニトリがこれに対抗して1株5500円というDCMの4200円を上回る買収提案を行い、島忠も最終的にニトリ側を支持。
  • ポイント
    ホームセンター+家具のシナジーを狙う争奪戦として注目を浴びた事例であり、最終的にはニトリが優位に立ったものの、DCMも買付期間を延長するなど、一時的に業界再編の注目を集めました。

3-27. ノジマによるパソコン・携帯販売TMT買収

  • 概要
    上述のCourts Asia買収に続き、2023年にマレーシアで49店舗を展開するTMTも買収し東南アジア市場を強化。家具というよりも家電・IT比率が高い案件ですが、総合小売としての利点を生かそうとしています。

3-28. ビックアイ(経営陣)によるパブリックMBO

  • 概要
    2009年、オフィス家具メーカーのパブリックが経営陣によるMBOを実施。株式を非公開化し、業績不振からの再建を目指しました。

3-29. ニッセンHDによる暮らしのデザイン買収

  • 概要
    2008年、エディオン子会社の暮らしのデザイン(家具・インテリア通販)をニッセンHDが買収。
  • ポイント
    家具やインテリア商品の通販カタログ、ECを得ることでニッセンは既存の通販インフラと統合し、顧客基盤拡大を図る戦略です。

3-30. サザビーリーグMBO

  • 概要
    2010年末、バッグや「アフタヌーンティー」など生活雑貨・飲食店を手掛けるサザビーリーグが経営陣によるMBOで株式を非公開化。創業来の事業改革を進めやすくするための施策でした。
  • ポイント
    家具というより雑貨・アパレル寄りですが、ライフスタイル全般を扱う事業領域で行われたMBOです。

3-31. ティーライフによるLifeit買収

  • 概要
    2018年8月、ベビー用品やキッチン用品、姫系家具などを扱うEC企業Lifeitをティーライフが買収。
  • 狙い
    健康食品通販を軸とするティーライフが雑貨・インテリアECのノウハウを取り込み、新規顧客を獲得する事例です。

3-32. スターティアHDによる丸正事務器のOA機器事業買収

  • 概要
    2023年10月、スターティアHDは名古屋市の丸正事務器からOA機器販売事業を取得。中部地域での顧客開拓とクロスセル拡大を狙っています。

3-33. スターシーズによるMF6買収

  • 概要
    2025年1月、スターシーズが欧州アンティーク家具のライブコマース販売会社MF6に出資し、子会社化。ライブコマースのノウハウ獲得が目的です。

3-34. さが美のホームファッション事業撤退

  • 概要
    帽子ブランド店、和雑貨店、キッチン雑貨店など計17店舗を複数の企業に譲渡し撤退。業績改善が見込めない事業の整理に踏み切った例です。

3-35. コクヨによる店舗用什器事業譲渡および海外企業買収事例

  • 店舗用什器事業譲渡(2017-2018頃)
    店舗用什器の製造・販売事業を三協立山へ約17億円で譲渡。
  • 香港のオフィス家具メーカー買収(2022年)
    HNI Hong Kong Limited(HNI HK)を約94億円で買収。中国市場での販売網強化を図りました。
  • 国内の家具製造企業買収(2023年)
    ソファやダイニング製造のオリジン、エステイツクをまとめて子会社化し、アメニティー家具の充実を進めています。

3-36. コーユーレンティアによるジービーエスグループ買収

  • 概要
    情報通信機器のリース・メンテナンスを行うジービーエスグループを2022年に子会社化し、家具や什器レンタルと合わせて企業向けサービスを強化。総合ソリューションを提供する事例です。

3-37. コマニーMBO

  • 概要
    間仕切りメーカー大手のコマニーが2022年、創業家資産管理会社コマツコーサンによるTOBで非公開化を表明。
  • 狙い
    業績不透明な間仕切り事業において大幅な事業改革を進めるため、短期株価に左右されない体制を整えるという方針でした。

3-38. シャノンによる後藤ブランドの譲渡

  • 概要
    イベントマーケティングなどを行うシャノンが広告代理店業の後藤ブランドを、2024年10月、染谷家具店に譲渡。事業選択と集中の事例です。

3-39. オカムラによるシンガポールDB&B子会社化

  • 概要
    2021年、オフィス設計・内装工事でシェアをもつシンガポールDB&Bを買収。中国やフィリピン展開も含めたアジア事業拡充が狙いです。
  • ポイント
    オカムラはオフィス家具の大手。家具メーカーが内装工事企業を取り込むことで、一括提案型のソリューション力を強化した好例です。

3-40. クルーズ・ジャパンによるWeb販売事業譲渡

  • 概要
    2008年、家具インテリアの製造企画と卸販売に集中するためWeb販売事業をスタイルプロポーザに譲渡。
  • 狙い
    選択と集中により海外展開も視野に入れた一例となります。

3-41. ケイティケイによる青雲クラウン株式交換・エス・アンド・エス買収

  • 青雲クラウン(2012年)
    OA・文具事務用品等の通販事業を手がける青雲クラウンと株式交換し子会社化。
  • エス・アンド・エス買収(2020年)
    OA機器やPC、ネットワーク機器の販売・サポートを手がける企業を取得し、中小企業へのITサポートを拡張。

3-42. キングジムによるぼん家具買収

  • 概要
    2013年、和歌山県のインターネット家具通販「ぼん家具」を約21億円で買収。
  • 狙い
    文具メーカーであるキングジムが通販ノウハウを獲得し、他分野への事業展開を図った事例です。

3-43. エーアンドエーマテリアルによる大昭和ユニボード買収

  • 概要
    2024年、低圧メラミン化粧板メーカー大昭和ユニボードを子会社化。住宅や家具材の重要な材料として注目が高い化粧板の技術・ブランドを取り込む動きです。

3-44. バルスMBO

  • 概要
    インテリアショップFrancfrancを展開するバルスが2011年にMBOを決定。創業者が経営主体となり、高額商品の企画・ブランド力強化を株主への配慮なく進めるための非公開化でした。

3-45. イトーキによるダルトンTOBとソーア買収

  • ダルトンTOB(2016年)
    研究施設向け設備・機械装置メーカーを完全子会社化し、大型研究施設や教育施設への提案力を高める。
  • ソーア買収(2024年)
    オフィス家具の搬送・施工企業ソーアを子会社化し、物流や施工プロセスの強化を図る例です。

3-46. アサヒ衛陶(ASAHI EITO HD)によるチャミ・コーポレーション買収と再譲渡

  • 買収(2022年)
    輸入家具やオフィス家具、日用品卸販売を手掛けるチャミ・コーポレーションの株式50.82%を取得。
  • 再譲渡(2024年)
    経営戦略上の判断で、同社の社長に株式を譲渡し、グループから切り離す決定。目的に合わなくなった事業の整理を進める動きです。

3-47. J.フロントリテイリングによるフォーレスト買収

  • 概要
    2013年、オフィス向け消耗品通販を手がけるフォーレストを株式70.52%取得し子会社化。
  • 狙い
    大丸松坂屋百貨店グループとしての通販インフラとフォーレストの一括受注システムを組み合わせ、企業需要を開拓する戦略でした。

3-48. カッシーナ・イクスシーによるコンランショップ・ジャパン譲渡

  • 概要
    2021年末、高級家具販売のカッシーナ・イクスシーが生活雑貨「ザ・コンランショップ」を展開する子会社をMSD企業投資に譲渡。
  • 背景
    ブランド再生や収益改善が一定進んだため、新オーナーのもとで再スタートさせる狙いです。

3-49. DCMによる島忠TOB延長

  • 概要
    ニトリの対抗TOBが公表されたため、DCMは買付期間を10営業日延長しましたが、買付価格の上方修正はなく、最終的に島忠側はニトリを選択。
  • まとめ
    ホームセンター業界再編を象徴する買収合戦でした。

3-50. イオンフィナンシャルサービスによるベトナムPTF買収

  • 概要
    ベトナムで個人ローンを取り扱うPTFを全持ち分取得し、家具や家電の割賦販売と合わせて金融サービスを拡張。イオンモールでのリテール事業との連動が期待されます。

3-51. フォーシーズHDによる日本リビング「アロマブルーム」事業取得

  • 概要
    2021年、フォーシーズHDが香り・リラクゼーション雑貨の「アロマブルーム」事業を8,800万円で買収。
  • 狙い
    化粧品・健康食品の通信販売ノウハウを活かし、グループのヘルスケア関連ラインナップを拡大。

3-52. 21LADYによるイルムスジャパン株式取得

  • 概要
    2010年、伊藤忠商事が保有する北欧インテリア雑貨ブランド「イルムスジャパン」の株式85%を21LADYが取得。
  • ポイント
    家具やインテリアを中心に事業を広げるライフスタイル企業としての企業価値向上を図る例です。

3-53. ASAHI EITO HDによるチャミ株式譲渡

  • 概要
    上述した通り、2022年に買収したが2024年8月、同社社長へ譲渡。事業構想との不整合が生じたことが理由とされています。

3-54. アダストリアによるウェルカムの雑貨事業取得

  • 概要
    2024年、ライフスタイル事業のウェルカム(DEAN & DELUCAなどを運営)から「TODAY’S SPECIAL」「GEORGE’S」ブランドを承継。
  • 狙い
    既存の「niko and …」「studio CLIP」に加え、アパレルと雑貨の領域を拡張して家具含むライフスタイル市場での存在感を高める動きです。

3-55. オリバーMBO(インテグラルと共同TOB)

  • 概要
    2021年、業務用家具・インテリアのオリバーが投資ファンドのインテグラルと組んでMBOを実施。買付代金最大385億円で上場廃止予定。
  • 背景
    業務用家具の市場縮小を見据え、中長期的な事業構造改革を進めるための非公開化と説明されています。

3-56. アイカ工業によるベトナムCHIグループ買収

  • 概要
    2020年にベトナムのメラミン化粧板販売会社CHIグループ8社の事業を取得し、ベトナム国内の建装材販売網を一気に強化。

3-57. エスクリによる渋谷買収

  • 概要
    ブライダル企業のエスクリが内外装工事やインテリア販売を行う渋谷を2013年に買収。今後の自社式場開発・修繕や内装工事コストを抑える目的が大きいといわれています。

3-58. その他にも見られる関連M&Aの概況

上記に挙げた以外にも、家具・建装材・インテリア雑貨などを扱う企業間のM&Aは数多く公表されています。ホームセンター企業や家電量販店、建設関連企業まで含むと業種の垣根を超えた再編が活発に行われている点が特徴です。

4. 家具業界M&Aの目的とシナジー効果

上記の事例を大まかに整理すると、家具業界のM&Aには以下の主な目的があると考えられます。

4-1. ブランド力・販売チャネルの獲得

家具は「ブランドイメージ」や「デザイン」の優位性が直接売上に繋がります。そのため、有名ブランドを傘下に収めたり、自社の販売網に乗せるだけでも大きな市場効果が期待できます。東急ハンズを買収したカインズや、島忠を取り込もうとしたニトリ・DCMは典型例です。

4-2. 技術・ノウハウの補完

家具製造には特化した技術が必要であり、ソファや椅子など得意分野が企業ごとに異なります。自社に不足する技術を持つメーカーを買収することで製品ラインナップを強化し、付加価値を高めることができます。コクヨによるオリジン・エステイツク買収、ビューティガレージによる足立製作所買収などが挙げられます。

4-3. グローバル展開と海外拠点確保

インドネシアやベトナムなどの新興市場で生産拠点・販売網を獲得する例が増加しています。ノダやアイカ工業、ノジマなどが該当します。生産コスト圧縮や、ASEAN市場の取り込みを一挙に進められるメリットがあります。

4-4. サプライチェーン強化とコスト削減

自社グループ内に物流や施工、内装工事を取り込むことで、コスト削減やサービス付加価値の向上を図る動きも顕著です。日立物流によるオリエント・ロジ買収やイトーキによるソーア買収などは、流通・施工面を統合した例です。

5. M&Aの成功要因とリスク・課題

家具業界に限らず、M&A後の統合プロセス(PMI)や方向性を誤ると、期待したシナジーを発揮できずに終わる可能性があります。特に家具業界はブランドやデザイン、店舗運営などの要素が絡み合うため、買収側がしっかり方針を示し、被買収企業をどのように活用していくかを明確にする必要があります。

5-1. 統合プロセスの明確化とPMI

M&A成立後、ブランド統合やシステム統合、物流・倉庫の最適化などにすぐに着手し、最初の1~2年で大きな方向性を固めることが重要です。特に商品企画や販売戦略が異なる企業同士が統合すると、社内調整に時間がかかる場合があります。

5-2. 企業文化の統合

家具・インテリア業界では独自のブランドや職人的ノウハウを重視する社風が多く、新オーナーとの文化的摩擦が生じやすい側面があります。MBOによる非公開化や創業家による売却などの場合、従業員のモチベーション維持と理念共有が不可欠です。

5-3. 人材確保と育成

家具製造の技術者やデザイナーの確保は重要です。買収後、キーマンの流出を防ぐためのインセンティブ設計や新卒採用の強化などが課題となります。また海外拠点を展開する際には、現地スタッフとの連携や管理も課題です。

5-4. 買収価格と投資回収のバランス

高いプレミアムを支払って買収したものの、事業が期待通りに成長せず投資回収期間が長期化するケースもあります。島忠争奪戦で示されたように、対抗TOBとなると買収コストがさらに膨らみ、シナジーが得られなかった場合には企業全体の財務負担が重くのしかかる懸念があります。

6. 今後の家具業界が直面する課題と展望

家具業界は、国内人口の減少や消費者行動の変化による先行き不透明感だけでなく、テレワーク需要の継続やSDGs(持続可能な開発目標)対応など、新たなチャンスも見出せる局面です。ここでは、M&Aを含めた業界再編の今後の方向性を幾つかの観点から解説いたします。

6-1. DX(デジタルトランスフォーメーション)とECの拡大

コロナ禍で非接触・オンライン販売の需要が急増したことで、ECで家具を購入する習慣が広まりました。大手家具メーカーやホームセンターのみならず、中小企業やベンチャーもネット通販に力を入れています。オンライン接客やバーチャルショールームなど新しい取り組みも台頭しており、これらを取り込めるかどうかが成長の鍵となります。

6-2. サステナビリティ・SDGsへの対応

木材資源の持続可能な利用や、環境に配慮した製造工程、廃棄物削減などに注力する企業ほど評価が高まり、国内外での競争力につながります。今後はM&Aでサプライチェーン全体を掌握することで、環境対応のレベルを向上させる動きも出てくるでしょう。

6-3. 高齢化社会と新たな市場機会

医療・介護現場向け家具やリハビリ器具、段差のない住空間をサポートする家具など、高齢化に伴う新たなニーズが拡大しています。医療用ベッドや介護用品を扱う企業のM&Aは今後も期待されます。

6-4. ASEANや新興国への進出

国内市場が成熟化している中で、海外展開の加速は必須となっています。東南アジアやインドなど、人口増と所得水準の向上が期待される地域での工場設立・小売店舗展開に向けて、M&Aが一層活発化するとみられます。

6-5. 中古品・リユース市場の活性化

家具は大きく耐久年数が長いものも多く、中古市場やリユースショップが成長しやすい業態です。サステナブルな循環型社会を重視する流れを受けて、リユースビジネスに参入する大手企業や関連M&Aが今後増える可能性があります。

7. まとめ

本記事では、家具業界におけるM&Aの事例を可能な限り幅広く取り上げ、その背景・目的・狙いを整理してまいりました。企業再編によって事業の強化や生き残りを図る動きは、家具やインテリアにとどまらず、内装・DIY・建装材・物流・ECなど多岐にわたります。大手チェーン同士の買収合戦(島忠を巡るニトリVS DCM)や、経営不振に陥った企業の再生(大塚家具など)、グローバル展開の強化(凸版印刷による独社買収やノジマによる東南アジア戦略)など、多様な形で活発に進行中です。

また、近年では株式を市場から引き上げるMBO(経営陣による買収)や、ファンドとの協業による非公開化の動きが目立ちます。市場環境や消費者需要が変動しやすい家具業界においては、中長期的な投資や抜本的な事業改革を柔軟に行うために、「上場廃止」という選択肢を選ぶ企業が増えているといえるでしょう。

一方で、M&Aは決して万能策ではなく、買収後のPMI(統合プロセス)が上手くいかなければ期待したシナジーは発揮されません。とりわけ家具やインテリアは、企業ごとのデザインコンセプトやブランドイメージが価値の源泉であり、買収企業が安易にブランド性を損なえば顧客離れにつながるリスクもあるのです。さらに、人材の確保や技術継承、世界的な木材・原材料価格の高騰、EC対応など、乗り越えるべき課題も多く存在します。

今後の日本の家具業界は、国内外を舞台にさらなるM&Aが進むと見込まれます。少子高齢化に伴う国内需要の伸び悩みを補うべく、東南アジアやその他の海外市場に活路を見出したり、中古市場・サブスクリプション型サービスなど新業態への挑戦で差別化を図る動きが顕著になるでしょう。加えて、異業種からの参入や投資ファンドの介入により、さらに大きな再編の波が訪れる可能性も十分に考えられます。

こうした家具業界全体の構造変化を俯瞰すると、M&Aは単に企業同士が統合するだけではなく、「新たなビジネスモデルを生み出す手段」や「海外進出の足がかり」、「テクノロジーや人材の獲得ルート」としての意味合いがますます強くなっていると言えるでしょう。今後も各社がどのような戦略を打ち出し、どのような買収・提携を行うのか、引き続き注目が集まります。