目次
  1. 1. はじめに
  2. 2. 電子部品業界におけるM&Aの背景
    1. 2-1. グローバル競争の激化と業界再編
    2. 2-2. 技術革新とニーズの多様化
    3. 2-3. 新規参入・撤退の活発化
  3. 3. 電子部品業界の主なM&Aの特徴
    1. 3-1. 事業ポートフォリオ最適化を目的とした売却
    2. 3-2. 海外企業との合弁・買収による市場拡大
    3. 3-3. 車載・産業用分野への集約と脱コモディティ化
    4. 3-4. エンジニアリング力・開発力強化を狙う買収
  4. 4. 国内主要メーカー・事業会社によるM&A事例
    1. 4-1. 日立グループ関連事例
    2. 4-2. 富士通関連事例
    3. 4-3. 三洋電機・パナソニックグループ関連事例
    4. 4-4. 日本電産グループ関連事例
    5. 4-5. 住友重機械工業・住友系などの事例
    6. 4-6. その他の上場企業・電子部品専門商社の事例
  5. 5. 海外企業・投資ファンドとの提携・買収事例
    1. 5-1. 米国大手電子部品商社による日本企業買収
    2. 5-2. 台湾・中国企業とのM&A
    3. 5-3. 投資ファンドによるTOBや子会社化
  6. 6. 事例から見る戦略的M&Aのポイント
    1. 6-1. 相乗効果(シナジー)と技術共有
    2. 6-2. 生産拠点の統廃合とサプライチェーン最適化
    3. 6-3. 経営スピードの向上とリスク管理
  7. 7. 今後の展望と課題
    1. 7-1. EV・自動車電装化・CASE分野の拡大
    2. 7-2. 5G・データセンター向け需要への対応
    3. 7-3. サステナビリティと環境規制への備え
    4. 7-4. IT・ソフトウェア領域への進出と垂直統合
  8. 8. まとめ

1. はじめに

電子部品業界は、常に技術革新や市場ニーズの変化にさらされ、その動向は世界経済や産業構造の流れを色濃く反映してきました。今日では、スマートフォンやPCにとどまらず、自動車の電動化やIoT(モノのインターネット)、産業機械の高度化など、多岐にわたる製品分野で電子部品が活用されており、その重要性は増すばかりです。一方、価格競争や生産コストの上昇といった課題も大きく、各企業は生き残りをかけてM&Aを積極的に活用するようになりました。

本記事では、電子部品業界におけるM&Aの背景や動向、そして実際の事例を詳しくみていきます。各社がどのような狙いでM&Aを実施したのか、またその後どういった相乗効果を得ようとしているのかを知ることで、業界の今後の方向性や課題を読み解く材料となるでしょう。


2. 電子部品業界におけるM&Aの背景

2-1. グローバル競争の激化と業界再編

世界市場を相手にする電子部品業界では、欧米やアジア各国の大手メーカーが次々に事業再編を進め、規模拡大によるコスト競争力強化や研究開発費の捻出を図っています。日本企業にとっても、グローバル企業との競合は激しく、特に中国や台湾など東アジア圏の企業台頭によって国内シェアや競争力が揺らぐケースが増加してきました。

このような環境下で、各社は中核事業の選別・集中を進める一方、事業ポートフォリオ全体で効率を高めるために、M&Aによって不採算事業を売却し、成長領域の買収や事業拡張を図っています。

2-2. 技術革新とニーズの多様化

スマートフォンやPCはもちろん、自動車の電子化・電動化(EV、HEVなど)、そして次世代通信(5G・6G)やIoT化など、新たな需要が活発化しています。これらの先端分野では高付加価値の電子部品が求められ、従来の汎用品とは異なる技術力や開発投資が必要です。そのため、小規模で独自の技術を持つ企業を買収し、技術や特許を自社に取り込む動きが加速しています。

2-3. 新規参入・撤退の活発化

電子部品はコモディティ化しやすい製品群の代表例でもあります。技術や製造ノウハウが普及すると単価下落が大きく、利益率が低迷しがちです。そのため、企業が「既存事業からの撤退」を決めるケースがしばしば見られます。一方で、例えば車載部品や医療機器など新たな応用分野へ参入する場合は、買収を活用してすばやく顧客基盤や技術を取り込むことが増えています。


3. 電子部品業界の主なM&Aの特徴

3-1. 事業ポートフォリオ最適化を目的とした売却

本業とシナジーの低い事業や、競争力が低下した部門・子会社を思い切って売却し、財務基盤や事業資源を強化する流れが顕著です。これには後述する日立化成のコンデンサー事業譲渡や日立ハイテクノロジーズのチップマウンター事業の譲渡など、日立グループが集中的に取り組んでいる例が代表的です。

3-2. 海外企業との合弁・買収による市場拡大

中国や台湾、米国、ヨーロッパのメーカーとの資本提携・合弁を通じて、グローバル市場での販路拡大や技術交流を狙うケースが増えています。例えば、日本アンテナと台湾のアンテナメーカーとの資本関係強化、台湾Walsinグループによる双信電機のTOBなどは、海外企業による日本メーカー取り込みの典型事例です。

3-3. 車載・産業用分野への集約と脱コモディティ化

スマートフォンやPC向けなど汎用品市場の価格競争が厳しくなり、収益性が落ち込みやすいなか、より付加価値の高い車載用や産業機械用、医療用などへ集中投資を行う動きがみられます。電子部品では、エレクトロニクス技術の高い日本企業が強みを持つ一方、生産拠点や開発費の負担が大きいため、M&Aにより規模を拡大して体力を確保する必要があります。

3-4. エンジニアリング力・開発力強化を狙う買収

電子部品ビジネスは、商社や卸売が開発段階から顧客メーカーへサポートを行う「技術商社」的機能を重視することも多いです。そこで、開発会社や受託製造(EMS)企業を取り込む買収を通じて、ワンストップサービス体制を強化する事例が散見されます。加賀電子による富士通エレクトロニクス子会社化マクニカ・富士エレHDによる海外企業買収はその代表格といえるでしょう。


4. 国内主要メーカー・事業会社によるM&A事例

ここではご提示いただいた事例を中心に、日立、富士通、三洋電機など大手グループや、日本電産、住友重機械工業をはじめとする機械・電子部品メーカーが実施したM&Aの経緯や狙いを解説いたします。

4-1. 日立グループ関連事例

  • 日立化成<4217>、コンデンサー事業などを中国・南通江海电容器に譲渡(2020年1月)
    日立化成は本体および子会社の日立エーアイシーで扱うコンデンサー事業を中国企業へ譲渡しました。汎用品化が進む産業機器用コンデンサーの分野で競争が激化し、収益性を維持するのが困難と判断したのが背景です。結果的に、コア事業への選択と集中を鮮明にすると同時に、中国市場での需要拡大に対応する南通江海电容器にとっても規模拡大の好機となりました。
  • 日立ハイテクノロジーズ<8036>、チップマウンター事業をヤマハ発動機<7272>へ譲渡(2014年9月)
    PCやデジタル家電市場の低迷で先行きが不透明となったチップマウンター事業から撤退し、ヤマハ発動機へ譲渡したケースです。ヤマハ発動機は電子部品実装機分野に強みを持つため、事業をシナジーさせて拡大できると判断しました。

なお日立グループは、ここ数年で日立金属や日立建機など複数の子会社売却を通じてポートフォリオ再編を加速しており、電子部品領域でも再編が広く進められています。

4-2. 富士通関連事例

  • 富士通<6702>、電子部品製造のFDK<6995>を子会社化(2009年3月)
    パワーや高周波分野を強みとするFDKの事業構造改革を支援するとともに、富士通グループ全体として電子部品事業の強化を図る狙いがありました。FDKは乾電池のほか、パワーインダクター・高周波部品などを手がけています。持ち分比率を64.41%に高めて経営を主導し、債務超過状態の解消と両社の企業価値向上を目指しました。
  • 萩原電気<7467>、新興電気からルネサスエレクトロニクスの特約店事業を取得(2010年11月)
    ルネサスエレクトロニクスの前身であるNECエレクトロニクスやルネサステクノロジが統合したことに伴い、特約店事業を萩原電気側に集約。半導体販売チャネルを一本化して効率化を実現しつつ、売上拡大を図る例です。

4-3. 三洋電機・パナソニックグループ関連事例

  • 三洋電機<6764>、三洋半導体を米オン・セミコンダクターへ売却(2010年7月)
    パナソニックグループ入り後、三洋電機の事業整理の一環として半導体部門を売却しました。買収額は約330億円で、オン・セミコンダクターにとっては日本のメーカーの技術や顧客基盤を取り込む好機となりました。パナソニックは事業再編を進める中で、汎用半導体事業からの撤退に舵を切ったのです。
  • 日清紡ホールディングス<3105>、FDK<6955>から電子部品事業の一部を取得(2019年4月)
    こちらは三洋電機とは直接関係しないものの、パナソニックグループに近しいFDKが関係するケースです。フェライト・コイルデバイスなど4製品を日清紡傘下の長野日本無線が取得し、自動車向けなどの市場で両社の製品・市場を補完。電子部品強化を狙う日清紡と、資金確保を図るFDK双方の利害が一致した形といえます。

4-4. 日本電産グループ関連事例

  • 日本電産<6594>、米ロボテックの株式を90%取得(2019年12月)
    無人搬送車向けの電子部品開発に強みを持つ米ロボテックを取り込み、サーボモーターや精密ギアボックスだけでなく、モーター制御システム全般を提供できる体制構築を目指しています。無人搬送機(AGV)は物流自動化の要であり、将来的な需要拡大を見込んだ戦略的買収です。
  • 日本電産<6594>、ポテンショメーターなど電子部品製造の緑測器を子会社化(2023年3月)
    グループ子会社・日本電産コパル電子が緑測器を取得する形。ポテンショメーターやエンコーダー分野で重複しないラインナップを互いに統合し、車載・産業分野への展開を強化しようとしています。
  • 日本電産サンキョー<7757>、韓国OPTISに携帯カメラ用オートフォーカス事業を譲渡(2012年2月)
    一方で需要拡大が見込まれていたはずの携帯カメラモジュール事業も、汎用品化に伴う採算悪化により早期に譲渡した例です。日本電産はM&Aだけでなくリストラも積極的に行い、素早い意思決定で事業ポートフォリオを最適化しています。

4-5. 住友重機械工業・住友系などの事例

  • 住友重機械工業<6302>、半導体製造用真空ロボットメーカーの米パーシモン・テクノロジーズを子会社化(2017年2月)
    半導体・電子部品製造装置メーカー向けに真空ロボットを製造するベンチャー企業を買収し、住友重機械がもつ変減速機やプラスチック機械等の事業と相互補完を狙いました。半導体分野での高度化が続くなか、技術力と販売網を組み合わせることでシナジーを期待した例です。
  • 日清紡HDによる長野日本無線との連携(先述)
    住友グループとは直接関連しないものの、日本重化学工業の伝統をもつ企業グループにおいても、電子部品領域を強化する動きが顕著です。

4-6. その他の上場企業・電子部品専門商社の事例

  • 石原ケミカル<4462>、装飾めっき用薬品のキザイを子会社化(2019年9月)
    電子部品用表面処理剤との相互補完関係を強化し、表面処理剤事業を拡大。微細化や多機能化が進む電子部品では、高度なめっき技術が欠かせないため、この分野でのM&Aはしばしば行われます。
  • 電響社<8144>、文房具メーカーのサンノートを子会社化(2018年10月)
    一見すると電子部品とは関連が薄いように思われますが、卸商社としての販路強化や、家庭用品・文房具市場への多角化により、消費者ニーズを取り込む狙いがありました。サンノートが扱う紙製品のノウハウと、電響社の流通網を合わせることで新商品開発や物流コスト削減を図る事例です。
  • 森六ホールディングス<4249>、車載電装部品の森六プレシジョンを国分プレス工業へ譲渡(2022年12月)
    電動化など自動車部品の環境変化が急速に進むなか、部品製造の最適化や継続的競争力強化を目的に、合うパートナーへの売却を行った例です。車載分野での技術継承やコスト競争力確保に向けて、より規模やノウハウのある企業グループに譲渡する流れが広がっています。

5. 海外企業・投資ファンドとの提携・買収事例

5-1. 米国大手電子部品商社による日本企業買収

  • 米アローグループ、チップワンストップ<3343>をTOBで完全子会社化(2011年8月)
    アローは世界最大級の電子部品商社で、日本でも市場開拓を図っていました。チップワンストップは専門EC販売や在庫管理サービスに強みがあり、両社の補完関係が狙われました。
  • 米アヴネット、ユニダックス<9897>をTOBで子会社化(2010年5月)・インターニックス<2657>をTOBで買収(2012年7月)
    アヴネットも世界有数の電子部品・コンピュータ関連機器の大手商社で、日本市場においてはディストリビューターの買収を加速しています。ユニダックスやインターニックスとの統合によって、国内顧客と仕入れ先の基盤を拡充し、効率的に日本市場へ参入しました。

5-2. 台湾・中国企業とのM&A

  • 台湾Walsin(華新科技股份有限公司)傘下の釜屋電機、双信電機<6938>をTOBで子会社化(2020年11月・2024年3月)
    コンデンサーや電子部品メーカーの双信電機に対し、過半数を取得したのち、最終的に完全子会社化を目指す動きがありました。台湾企業による日本企業買収の典型的パターンで、過去にはエルナーなど他社との取引も注目されました。
  • 日本アンテナ<6930>、台湾系中国企業の蘇州華広電通を子会社化(2020年5月)
    中国の通信需要拡大に対応する狙いで、台湾のアンテナメーカーが保有する中国子会社を買収し、自社のグローバル展開の足がかりを築いた事例です。中国現地法人を通じた買収で、競合が多いアンテナ市場でもコスト競争力と販売網を獲得しています。
  • 台湾ライトンテクノロジー、子会社の日本ライトン<2703>をTOBで非公開化(2019年6月)
    スマートフォンやPC向け電子部品を供給する日本ライトンが、国内市場の停滞を受けて事業の抜本的見直しを行うために非公開化を選択。海外親会社によるTOBは、競争が厳しく利益率の低い国内市場に対応するため、スピード感ある改革を進める手段となります。

5-3. 投資ファンドによるTOBや子会社化

  • 台湾Walsinの例(先述の双信電機)
    台湾大手電子部品グループが投資ファンド的な戦略を展開する例です。
  • MBKパートナーズ、黒田電気<7517>をTOBで子会社化(2017年10月)
    電子部品専門商社の黒田電気が業績悪化や競合激化に対応すべく非公開化を選択し、投資ファンドのMBKパートナーズと組みました。ファンド主導で事業改革を進め、企業価値向上を狙っています。
  • CITICキャピタル・ホールディングス(中国系ファンド)、ショットモリテックス<7714>をTOBで子会社化(2014年12月)
    光学関連やマシンビジョンシステムで強みを持つショットモリテックスを買収し、事業の再構築とアジア市場での展開を後押しする動きです。中国ファンドの資本力とグローバル販売網を背景に、研究開発費やマーケティングへの投資を拡大できるメリットがあります。

6. 事例から見る戦略的M&Aのポイント

ここまでご紹介した各社のM&A事例から、電子部品業界特有の戦略的ポイントを整理いたします。

6-1. 相乗効果(シナジー)と技術共有

  • 技術補完の視点
    ポテンショメーターやエンコーダーなど、似たような製品でも微妙に異なる技術領域を統合し、総合力を高めるケースがみられます。先端分野ほど研究開発コストが高騰するため、M&Aにより既存企業の技術を得るのは効果的です。
  • 販売チャネルの補完
    海外販路を強化したい日本企業と、日本のサプライチェーンに参入したい海外企業のニーズが合致し、互いの強みを活かせるM&Aが成立しています。

6-2. 生産拠点の統廃合とサプライチェーン最適化

  • 工場集約や生産の海外移管
    中国・東南アジアなど新興国への生産シフトが進むなか、不採算事業を売却し、生産拠点を再編する事例が多数ありました。譲渡先企業は、生産能力拡大やコスト競争力強化を狙い、譲渡元企業はコア事業へリソースを振り向けるというWin-Win関係になりやすいです。
  • 部材・原材料調達の効率化
    半導体やプリント基板など、安定調達が利益に直結する分野では、EMS企業や特約店のM&Aにより調達ネットワークを確保する動きがあります。マクニカ、加賀電子、レスターホールディングスなどの商社事例が該当します。

6-3. 経営スピードの向上とリスク管理

  • 非公開化による経営改革
    株式市場の短期的な株価変動や投資家の目を気にせず、大胆なリストラや研究投資を行いやすくするために、投資ファンドが買収して上場廃止とするケースが増えています。黒田電気やフーマイスターエレクトロニクスなどが例です。
  • 撤退基準の明確化
    コモディティ化しやすい領域では、ある程度のシェアを維持できなくなると早期に撤退を決断し、新領域へ資源を集中するのが電子部品業界のセオリー化しつつあります。

7. 今後の展望と課題

7-1. EV・自動車電装化・CASE分野の拡大

自動車の電動化やコネクテッド化(CASE)は、電子部品メーカーにとって大きな追い風です。特にEVやハイブリッド車向けのパワー半導体やインバータ、各種センサーなど高性能部品の需要が急増する見込みです。この分野で技術や生産設備を強化するために、外部から企業や技術を買収する動きは一層活発化するでしょう。

7-2. 5G・データセンター向け需要への対応

高速通信インフラが普及すると、基地局やデータセンター向けの部品需要が拡大します。高周波・高速度に対応するコンポーネント開発には、独自の設計ノウハウや製造技術が必要です。こうした分野を狙う企業は、要素技術を持つ中小企業・ベンチャーへの投資・買収を通じて市場参入を加速させる可能性があります。

7-3. サステナビリティと環境規制への備え

EUをはじめ、世界的に環境規制が強まるなか、素材や生産工程、廃棄物管理まで含めたサプライチェーン全体の見直しが迫られています。特に金属材料や化学処理を伴う電子部品製造は、環境対応が重要課題となっており、そこに強みを持つ企業を買収することで「グリーン対応」「SDGs」へ迅速に対応する動きも想定されます。

7-4. IT・ソフトウェア領域への進出と垂直統合

ハードウェアのみならず、ソフトウェアやクラウド技術と組み合わせてシステム全体を提供する、いわゆる「ハード×ソフトの統合」が加速しています。ルネサスエレクトロニクスの英国アナログ半導体メーカーやソフトウェア企業の買収例など、半導体・電子部品のみにとどまらない領域拡大が活発化するでしょう。


8. まとめ

電子部品業界のM&Aは、企業の生き残り戦略や事業再編にとって極めて重要な手段です。世界的な価格競争や技術革新のスピード、そして新興国市場の台頭など、変化が激しい業界であるため、常に自社の強みを活かせる事業領域に注力し、不採算分野からは撤退する動きが繰り返されています。

本記事で取り上げたように、日立や富士通、パナソニックなど国内大手グループによる事業の切り離し、あるいは日本電産のような積極的な買収路線を敷く企業、さらには海外企業や投資ファンドとのM&Aにより上場廃止に踏み切る事例も多く見られます。どのケースにおいても、狙いは「競争力の強化」と「事業ポートフォリオの最適化」です。

特に車載分野や5G/IoT分野など、今後成長が期待される領域で技術と顧客基盤を素早く確保するため、電子部品企業のM&Aは今後も盛んに行われるでしょう。一方で、環境規制への対応やサステナブル経営がグローバルに重要視される時代背景もあり、買収によるガバナンス強化やESG(環境・社会・ガバナンス)要件への対応など、従来にはない観点でのM&A成功要因が問われるようになっています。

今後、EVや自動運転、ロボティクス分野における次世代半導体・電子部品の需要はさらに拡大していきます。そこに参入するには、大きな投資を必要とするため、単独での成長が厳しい企業が他社と組むM&Aが増えることはほぼ確実といえます。また、海外ファンドや多国籍企業からみた日本企業の技術力・ブランド力はなお魅力的な資産であり、対日投資・買収も引き続き活発になるでしょう。

激変の波にさらされる電子部品業界だからこそ、M&Aは企業にとって不可欠の手段となっています。事例からもわかるように、一連のM&Aは単なる規模拡大・縮小ではなく、いかに付加価値の高い製品や領域へ集中し、時代に即したビジネスモデルを確立するかが鍵です。そのため、今後もさまざまな企業間の再編が継続的に行われると考えられます。