目次
  1. はじめに
  2. 製菓業界M&Aの背景
    1. 1. 国内市場の成熟と海外展開の必要性
    2. 2. 原材料の高騰と安定調達への対応
    3. 3. 技術革新と新製品開発のスピードアップ
    4. 4. ブランド力強化と流通チャネルの拡大
  3. 事例紹介
    1. 不二製油<2607>によるM&A戦略
      1. 1. オーム乳業の子会社化(2012年3月23日)
      2. 2. ブラジルの業務用チョコレート最大手HARALDの買収(2015年3月13日)
    2. 日清オイリオグループ<2602>の大東カカオ子会社化(2009年2月5日)
    3. 明治製菓<2202>と明治乳業<2261>の経営統合(2008年9月11日発表)
    4. 森永製菓<2201>のM&A・事業譲渡事例
      1. 1. ゴルフ場運営会社の富津田倉ゴルフ譲渡(2017年4月25日)
      2. 2. インドネシア子会社PT. Morinaga Kino Indonesia(MKI)の譲渡(2018年10月10日)
      3. 3. 食品卸売会社サンライズの譲渡(2010年9月22日)
      4. 4. 給食・レストラン事業の森永フードサービスの譲渡(2011年5月18日)
      5. 5. アントステラの子会社化(2008年1月30日)
    5. 亀田製菓<2220>の海外進出と米粉関連事業の拡大
      1. 1. 米粉パン製造のタイナイを子会社化(2021年5月8日)
      2. 2. ベトナム合弁会社THIEN HA KAMEDAの子会社化(2021年5月13日)
      3. 3. タイの米菓メーカーSMTCを子会社化(2008年12月18日)
      4. 4. アルファ米の尾西食品を子会社化(2012年10月26日)
      5. 5. マイセンの子会社化(2019年2月18日)
    6. 岩塚製菓<2221>、かりん糖の老舗メーカー子会社化(2015年5月15日)
    7. 高島屋<8233>、食品子会社のフードアンドパートナーズ譲渡(2020年4月17日)
    8. 井村屋製菓<2209>、米国LA/I.C.の子会社化(2009年3月3日)
    9. ヨシムラ・フード・ホールディングス<2884>の中小食品メーカー買収(2018年2月2日)
    10. ホソカワミクロン<6277>、製菓関連子会社を譲渡(2015年10月1日)
    11. トーホー<8142>、昭和物産を子会社化(2018年7月10日)
    12. フジ日本精糖<2114>、タイ子会社DAY PLUSの経営権移譲(2022年10月31日)
    13. ダイドーグループホールディングス<2590>のマレーシア事業撤退(2020年10月15日)
    14. タイセイ<3359>、周陽商事の子会社化(2014年12月25日)
    15. ソントン食品工業<2898>のMBO(2012年8月3日)
    16. イフジ産業<2924>、オーガニック食品通販のHORIZON FARMSを子会社化(2024年7月12日)
    17. cotta<3359>の積極的なM&A展開
      1. 1. 理美容商材通販のワークスの子会社化(2024年11月14日)
      2. 2. 家庭用雑貨品卸のアスコットを子会社化(2023年8月14日)
      3. 3. SES事業やシステム開発のTERAZを子会社化(2024年9月26日)
  4. 今後の展望とまとめ

はじめに

製菓業界は伝統的なブランド力と多彩な商品開発力を背景に、国内外を問わず幅広いファンを獲得してまいりました。しかし人口減や消費者嗜好の変化、さらに国際的な原材料価格の高騰など、事業環境は年々厳しさを増しています。そのような環境下で、企業が継続的に成長を目指すためには、技術革新や生産性向上への取り組みが欠かせません。また、海外市場の需要取り込みや新規分野への展開、物流の効率化などに向けては、企業単独での取り組みに限界が生じるケースも見られます。

こうした状況の中で、M&A(合併・買収)やグループ統合などの再編が進んでいるのが製菓業界です。M&Aによって新たな技術や製品開発力を獲得し、ブランドの強化や海外展開など、さらなる成長を狙う動きが活発化しています。本記事では、製菓業界のM&Aに焦点を当て、具体的な事例をもとに背景や狙い、今後の展望などを解説します。

製菓業界M&Aの背景

製菓業界におけるM&Aの活発化には、主に以下のような要因が考えられます。

1. 国内市場の成熟と海外展開の必要性

日本国内は少子高齢化の影響により市場規模の拡大が期待しにくい状況にあります。一方、世界的に見るとアジアや南米などを中心に菓子市場が拡大を続けています。このため、国内企業が新たな成長を見込むには、海外市場の開拓が欠かせません。海外に生産拠点や販売網を持つ企業を買収・統合することで、スムーズに市場参入するケースが増えてきています。

2. 原材料の高騰と安定調達への対応

チョコレートや小麦粉、乳製品など、製菓に欠かせない原材料の価格は国際市場の動向や為替レートの影響を受けやすい特徴があります。M&Aによって原材料メーカーを取り込み垂直統合を図ったり、海外で生産拠点を確保することで安定調達を実現するなど、コスト競争力強化のための戦略的M&Aが注目を集めています。

3. 技術革新と新製品開発のスピードアップ

消費者の嗜好は多様化しており、高品質・高付加価値の商品開発が求められています。製菓業界では、油脂の改良技術やアレルギー対応、健康機能性など、先端技術を駆使した製品が次々に登場しています。M&Aによって得意技術を有する企業とのシナジーを発揮し、新製品開発スピードを高めることが一つのカギとなっています。

4. ブランド力強化と流通チャネルの拡大

有名ブランドを傘下に収めることで、自社のブランドポートフォリオを拡充し、新規顧客を獲得するケースがあります。また、買収先企業の既存流通ルートを取り込み、自社商品の販路を拡大する目的でのM&Aも多く見られます。

事例紹介

ここからは実際に行われたM&Aの事例を挙げながら、具体的な動きや狙いをご紹介します。どの事例においても、ブランド力や技術力の獲得、海外展開をにらんだ戦略など、さまざまな要素が見受けられます。

不二製油<2607>によるM&A戦略

1. オーム乳業の子会社化(2012年3月23日)

不二製油は油脂、製菓・製パン素材、大豆たん白など幅広い領域でグローバル展開を進めている企業です。同社は2012年3月に、乳製品・生クリームの製造販売を手がけるオーム乳業を子会社化すると発表しました。オーム乳業は洋菓子向けの高品質な生クリームで高級洋菓子店などに根強いリピーターを有しており、強いブランド力と開発力を持っていました。

不二製油としては、オーム乳業の乳製品技術を取り込み、自社の製菓素材分野をさらに強化し、新製品開発や海外展開でも相乗効果を狙うというのが主な狙いでした。取得価額は公表されていませんが、2012年4月5日付で子会社化を完了しています。

2. ブラジルの業務用チョコレート最大手HARALDの買収(2015年3月13日)

不二製油は2015年3月、ブラジルで業務用チョコレートを主力とするHARALD INDÚSTRIA E COMÉRCIO DE ALIMENTOS LTDA.の株式83.3%を取得し、子会社化することを決議しました。HARALDはベーカリーショップや大手製菓・製パンメーカー、ホテル・レストランなど多様な顧客基盤を保有しており、売上高は約160億円にのぼります。

急成長する中南米での拠点を確保する狙いから、この買収を機に不二製油の高度な油脂技術を導入し、高機能チョコレート製品の開発につなげる方針が明らかにされました。取得価額は約240億円で、2015年4月中に買収を完了しています。

日清オイリオグループ<2602>の大東カカオ子会社化(2009年2月5日)

日清オイリオグループは、チョコレート原料や製菓・製パン原料の製造・販売を手がける大東カカオに第三者割当増資を引き受ける形で出資し、持株比率を一気に58.07%まで高めました。取得価額は30億円で、2009年3月6日に子会社化を完了しています。

チョコレート原料や加工油脂事業における研究開発や、国内外での事業拡大に向けたシナジーの獲得が目的でした。日清オイリオグループは自社が得意とする食用油脂の技術を大東カカオのチョコレート事業と組み合わせ、新商品・新技術の開発速度を高める狙いが見えます。

明治製菓<2202>と明治乳業<2261>の経営統合(2008年9月11日発表)

2009年4月に経営統合して誕生した明治ホールディングスは、明治製菓と明治乳業の共同持株会社として設立されました。株式移転による統合により、「明治」というブランド価値をさらに高めつつ、原材料調達や物流などでの効率化を目指しています。

さらに、少子高齢化による国内市場の縮小だけでなく、世界的な原材料高騰に対応するためにも、資源を集約してグローバル競争力を強化する動きとして注目されました。両社は上場廃止のうえ、統合新会社を東京証券取引所に新規上場する形での再編を進めています。

森永製菓<2201>のM&A・事業譲渡事例

1. ゴルフ場運営会社の富津田倉ゴルフ譲渡(2017年4月25日)

森永製菓はグループ会社を通じて保有していたゴルフ場運営会社の富津田倉ゴルフを平和に売却しました。菓子事業とは異なる分野の整理を進めることで、経営資源の集中を図った事例といえます。譲渡価格は公表されていませんが、平和はゴルフ事業の強化に積極的な買収戦略を展開しており、2017年7月3日付で株式取得が完了しています。

2. インドネシア子会社PT. Morinaga Kino Indonesia(MKI)の譲渡(2018年10月10日)

森永製菓はインドネシアで粉飲料の製造・販売を手がける子会社MKIの保有株式51%を、合弁相手であるPT. Kino Indonesia Tbkに譲渡しました。インドネシア市場の需要開拓とハラル商品の生産拠点確保を目的に2013年に合弁設立された会社でしたが、主力商品である粉飲料の市場が急速に縮小し、当初計画から売上・利益が乖離していました。

譲渡後は合弁契約を解消し、森永製菓はインドネシア事業を再構築する動きを見せています。譲渡価額は非公開で、譲渡予定日は2019年1月14日とされています。

3. 食品卸売会社サンライズの譲渡(2010年9月22日)

森永製菓は冷菓・冷凍食品卸売業のサンライズの全株式を、酒類・食品卸売業の国分に譲渡しました。これにより、同社は卸売事業から撤退し、経営資源を菓子事業などコア領域に集中することを目指しています。譲渡価額は非公表で、2010年11月1日に譲渡が完了しました。

4. 給食・レストラン事業の森永フードサービスの譲渡(2011年5月18日)

森永製菓は100%子会社として運営していた森永フードサービスを、西洋フード・コンパスグループに譲渡しました。会社給食やレストラン運営など、製菓とは異なる事業からの撤退を進めることで、選択と集中を実行した事例です。譲渡予定日は2011年5月31日で、譲渡額は非公表です。

5. アントステラの子会社化(2008年1月30日)

一方で、森永製菓は「ステラおばさんのクッキー」で知られるアントステラ(およびその持株会社)を子会社化し、菓子分野のブランド力を強化する動きを見せました。アントステラは有名百貨店や駅構内で62店舗を展開しており、高い知名度と直販チャネルを持っています。森永製菓にとっては、新たなブランドの取り込みと直販事業への本格進出が期待される案件でした。取得価額は非公開ですが、2008年1月30日付で株式取得を完了しています。

亀田製菓<2220>の海外進出と米粉関連事業の拡大

1. 米粉パン製造のタイナイを子会社化(2021年5月8日)

亀田製菓は米粉パンを製造・販売するタイナイ(新潟市)の全株式を取得し、子会社化することを決めました。亀田製菓はアレルギー対応商品など多角的に食品事業を展開しており、米粉パン市場の拡大に備えるための体制整備が背景にあります。取得価額は非公表ながら、2021年7月1日に買収を完了しました。

タイナイは青果物卸売業から参入して米粉パンの製造を始め、28品目アレルギー不使用のパン生産で注目を集めていました。株式取得にあたっては、青果物卸売業を分割して切り離したうえで、米粉パン事業に集中した会社を亀田製菓が取得しています。

2. ベトナム合弁会社THIEN HA KAMEDAの子会社化(2021年5月13日)

亀田製菓はベトナムで菓子製造を行うTHIEN HA KAMEDA JOINT STOCK COMPANYの株式を追加取得し、持株比率を51%に引き上げて子会社化しました。現地の合弁相手はTHIEN HA CORPORATIONで、ローカルの流通ネットワークを生かして製造した米菓「ICHI」をベトナム市場に広く普及させています。

ベトナムは1億人に迫る人口を抱え、労働力や原料米の確保にも恵まれているため、将来的にも生産拠点としての価値が高いと評価されています。亀田製菓は2021年10月12日付で取得を完了したと公表し、取得価額は9億5100万円でした。

3. タイの米菓メーカーSMTCを子会社化(2008年12月18日)

亀田製菓はタイで米菓製造を手がけるSMTC Co., Ltd.の株式を追加取得し、子会社化することを決定しました。タイは米菓の重要な原料となる米の供給拠点としても注目されており、亀田製菓はSMTCを押さえることで安全・高品質な米菓を世界各地に供給しやすい体制を築こうとしています。最終的な取得価額は1億7000万円となり、2009年2月中旬に手続きを完了しました。

4. アルファ米の尾西食品を子会社化(2012年10月26日)

亀田製菓は非常食や宇宙食にも採用されているアルファ米のトップメーカーである尾西食品(東京都港区)を全株式取得し、子会社化しました。取得総額は39億8000万円(アドバイザリー費用含む)で、2013年1月1日に完了しています。

尾西食品は長年の研究開発で培った保存技術を強みとし、宇宙ステーション向けなど専門性の高い商品も扱っていました。亀田製菓は自社の食品領域拡大と、互いの販売チャネル・開発リソースを組み合わせることで、新たな商品ラインナップやマーケットへのアプローチを強化しています。

5. マイセンの子会社化(2019年2月18日)

亀田製菓は農産物の生産・加工販売を手がけるマイセン(福井県鯖江市)の株式90%を取得し、子会社化しました。マイセンは玄米パンやベジタリアンミートなどグルテンフリー食品の分野で成長しており、健康志向やアレルギー対応を意識する消費者層に支持されています。亀田製菓は同社を取り込むことで、さらなる製品開発や販路拡大を狙っています。

岩塚製菓<2221>、かりん糖の老舗メーカー子会社化(2015年5月15日)

岩塚製菓は「たなべのかりん糖」で知られる田辺菓子舗(新潟県加茂市)の全株式を取得しました。売上規模はそれほど大きくありませんが、地元では根強いファンを持つ老舗ブランドです。事業承継の課題に直面していた田辺菓子舗にとっては、岩塚製菓のグループ傘下に入ることで経営基盤の安定と事業拡大を図る狙いがありました。取得価額は非公表ながら、2015年7月1日に子会社化が実施されています。

高島屋<8233>、食品子会社のフードアンドパートナーズ譲渡(2020年4月17日)

百貨店大手の高島屋は、食品や食関連商品の製造・販売子会社であったフードアンドパートナーズの株式66.3%を、共同出資相手の貝印に譲渡しました。フードアンドパートナーズは発酵惣菜やおせち、中元・歳暮商材などを手掛けていましたが、小売事業の不調により赤字が続いていました。譲渡価額は4000万円と比較的低い金額でしたが、今後の事業を立て直すうえで、共同出資先の貝印が経営を主導する形に転換された事例です。

井村屋製菓<2209>、米国LA/I.C.の子会社化(2009年3月3日)

井村屋製菓は、アイスクリーム製造を行う米国LA/I.C., INC.を買収し、株式83.3%を取得しました。社名をIMURAYA USA, INC.と変更し、あずきを中心とした和食材の生産技術や品質管理を米国市場に広げる狙いがあります。取得価額は約3億8900万円で、海外市場への本格的な進出を加速させました。

ヨシムラ・フード・ホールディングス<2884>の中小食品メーカー買収(2018年2月2日)

ヨシムラ・フードHDは、フリーズドライ技術を自社開発した「おむすびころりん本舗」(長野県安曇野市)を完全子会社化しました。おむすびころりん本舗は即席麺の具材や製菓原料、サプリメント素材など幅広く展開しており、ヨシムラ・フードHD傘下の他の食品企業との連携が期待されます。

同社は中小食品企業を次々に買収し、横断的なプラットフォームを構築することで、個社の強みを生かすビジネスモデルを確立しています。取得価額は2億円と加え、さらに第三者割当増資(約4億円)をおむすびころりん本舗が実施し、財務体質強化と設備投資を進めることになりました。

ホソカワミクロン<6277>、製菓関連子会社を譲渡(2015年10月1日)

粉体機器・システムの大手であるホソカワミクロンは、ドイツで製菓関連事業を行っていたホソカワビーペックスGmbHをスイス企業ビューラーA.G.に譲渡すると発表しました。主力事業である粉体システムとプラスチック薄膜関連事業に経営資源を集中させるため、製菓部門を手放した例です。譲渡価額は非公表で、2015年9月30日付で手続きが完了しています。

トーホー<8142>、昭和物産を子会社化(2018年7月10日)

業務用食品卸のトーホーは、首都圏で乳製品や製菓・製パン材料を中心に卸売事業を展開する昭和物産を買収し、全株式を取得しました。売上高60億円を誇る昭和物産をグループに加えることで、トーホーの業務用食材や調理機器の販路拡大や製菓・製パン市場への対応力強化を狙っています。取得価額は非公表で、2018年8月17日に子会社化が完了しました。

フジ日本精糖<2114>、タイ子会社DAY PLUSの経営権移譲(2022年10月31日)

フジ日本精糖は、タイにおける製菓・製パン事業のDAY PLUS(THAILAND) Co., Ltd.の株式2%を丸中製菓に譲渡することで、同社の持株比率は49%へ下がり、丸中製菓が51%を握ることになりました。もともとフジ日本精糖は2016年にDAY PLUSを子会社化していましたが、2021年に丸中製菓を新たな事業パートナーとして迎え、今後は丸中製菓の製菓ノウハウを活かす体制となります。譲渡価額は281万円で、2022年12月1日に譲渡予定です。

ダイドーグループホールディングス<2590>のマレーシア事業撤退(2020年10月15日)

ダイドーGHDは、マレーシア子会社DyDo DRINCO Malaysia(DDM)を、シンガポールのM&Aコンサル企業Lingua Franca Holdingsに譲渡しました。チルド飲料・清涼飲料販売で売上高12億3000万円ほどありましたが、新型コロナウイルスの影響により販売が低迷し、早期の業績改善が困難との判断に至りました。譲渡価額は約255円(10リンギット)と象徴的に低い金額で、2020年10月20日に譲渡されました。

タイセイ<3359>、周陽商事の子会社化(2014年12月25日)

製菓・製パン用食材のネット通販を得意とするタイセイは、山口県下松市に本拠を置く周陽商事を2015年1月5日に買収しました。周陽商事は地元の製菓・製パン業界への配送網に強みを持ち、これを活用することでタイセイの物流拠点としても機能することが期待されています。取得価額は非公表です。

ソントン食品工業<2898>のMBO(2012年8月3日)

ソントン食品工業は製菓や製パン向けのフィリング製造で知られていますが、原材料価格の高騰や低価格競争により業績が悪化していました。そこで経営陣が主体となるMBO(経営陣による買収)による非公開化を行い、柔軟かつ迅速な経営体制の構築を目指しました。

代表取締役社長が代表を務めるダイショー(東京都渋谷区)がTOBを実施し、全株式156億円規模で買い付けたのち、ソントン食品工業を吸収合併するスキームです。株式の公開買い付け価格は1株あたり1000円で、公表前営業日の終値700円に対して約42.9%のプレミアムが付与されました。

イフジ産業<2924>、オーガニック食品通販のHORIZON FARMSを子会社化(2024年7月12日)

卵割卵事業を主力とするイフジ産業は、オーガニック食品のEC販売を行うHORIZON FARMS(名古屋市)の全株式を取得し、子会社化すると発表しました。HORIZON FARMSは海外の小規模農場から厳選したオーガニック、無添加食品を輸入し、自社ECサイトで販売するビジネスモデルを確立しています。

アニマルウェルフェアやオーガニック食品への需要が高まる中、イフジ産業は新たな事業の柱として成長が見込まれる分野に踏み出す狙いです。取得価額は6億3300万円で、2024年7月31日以降に子会社化を完了する予定です。

cotta<3359>の積極的なM&A展開

1. 理美容商材通販のワークスの子会社化(2024年11月14日)

製菓・製パン用の包装資材や食材のEC事業を展開するcottaは、シャンプーやカラー剤など理美容向け商材通販の大手であるワークス(東京都千代田区)を含むグループ2社を傘下に収めることを決定しました。理美容業界は市場規模約2兆円とされますがEC化が遅れており、cottaはこれまで培ってきたECノウハウで事業成長を後押しするとしています。取得価額は非公表で、2024年11月15日に完了予定です。

2. 家庭用雑貨品卸のアスコットを子会社化(2023年8月14日)

cottaは関東~東海、関西エリアの生協を主な取引先とするアスコット(東京都台東区)を子会社化すると発表しました。家庭用雑貨品卸のヒラカワ(福岡市)をすでに傘下に収めていますが、アスコット買収により生協向け事業の地理的範囲をさらに広げる狙いがあります。取得日は2023年10月1日で、取得価額は非公表です。

3. SES事業やシステム開発のTERAZを子会社化(2024年9月26日)

cottaはSES事業やシステム受託開発を手がけるTERAZ(東京都渋谷区)の株式66.7%を取得し、子会社化すると決めました。cottaとしては自社ECサイトの機能強化や新サービスの開発を進めるにあたり、IT領域の内製化を含む強化策が急務と判断しています。取得価額は非公表、2024年10月1日に完了予定です。

今後の展望とまとめ

上述のように、製菓業界では多様なM&Aや事業譲渡が進んでいます。背景には国内市場の縮小リスクや原材料価格の変動、海外市場への進出ニーズなどが挙げられます。また、アレルギー対応食品や健康志向の商品開発など、高付加価値かつ専門性が求められる領域では、専門企業を取り込むケースが増加する傾向にあります。

一方、製菓業界は伝統あるブランドを保有する企業や地域密着型の中小メーカーも数多く存在し、事業承継問題が顕在化しやすい業種でもあります。大手が中小を取り込む形のM&Aでは、事業規模の拡大や販路拡大といったメリットが期待される反面、買収後の統合やブランド共存には丁寧な戦略が必要です。

グローバル展開の加速という意味では、海外企業の買収や、国内企業との連携による多国展開なども今後増えていくと見られます。特にアジア市場は経済成長が続いており、今後も菓子の需要拡大が見込まれます。原材料の調達や国際物流の体制構築なども含め、サプライチェーン全体を見据えたM&A戦略が重要になってくるでしょう。

さらに、近年ではECの活用が進み、メーカーが自社ブランドを消費者に直接販売するD2C(Direct to Consumer)の動きも注目されています。海外市場への展開がより身近になる中、IT企業やEC専業会社との協業・統合を通じて、製菓企業が新たな販路を獲得する例も増える可能性があります。

製菓業界のM&Aは、単なる規模拡大にとどまらず、「ブランド力の強化」「原材料・技術の獲得」「海外市場への進出」「新たな顧客チャネルの開拓」など、多面的な狙いを持つ傾向にあります。これからも企業の戦略的な再編が進むことで、業界全体として新しい価値を創出し続けることが期待されます。

本記事でご紹介した事例はその一端に過ぎません。今後も製菓業界を取り巻く環境変化が続く中、各社がどのようなM&A戦略を展開していくのか注目されます。消費者としても、新たな製品やサービスがどのように生まれ、どのようなブランドが育っていくのかを見守ることは、大きな楽しみの一つといえるでしょう。