目次
  1. 1. はじめに
  2. 2. 通信機器業界の概況とM&Aの意義
  3. 3. M&Aにおける主な狙いと背景
    1. 3.1 事業領域の拡大と多角化
    2. 3.2 技術力・製品ラインアップ強化
    3. 3.3 顧客基盤や販路の獲得
    4. 3.4 グローバル市場での競争力確保
    5. 3.5 事業承継・グループ内再編の必要性
  4. 4. 主要事例から読み解く通信機器業界のM&A動向
    1. 4.1 国内企業同士のM&Aとグループ再編
    2. 4.2 海外企業との資本提携・子会社化
    3. 4.3 ファンド・投資会社の参入・買収
  5. 5. 実例紹介:通信機器・電子部品関連M&A一覧
    1. 5.1 日本ガイシと新日鉄住金エレクトロデバイス
    2. 5.2 日清紡ホールディングスと日立国際電気
    3. 5.3 売れるネット広告社とJCNT International
    4. 5.4 日清紡ホールディングスと南部化成
    5. 5.5 電響社とサンノート
    6. 5.6 売れるネット広告社とJCNT
    7. 5.7 大井電気とメルコテクノレックスの光伝送機器事業
    8. 5.8 日本電波工業によるNDK SAW devicesの譲渡
    9. 5.9 精工技研と不二電子工業
    10. 5.10 日東工業とサンテレホン
    11. 5.11 神田通信機と日本電話工業
    12. 5.12 川金ホールディングスと東京理化工業所
    13. 5.13 日本電計とエイリイ・エンジニアリング
    14. 5.14 東名とレカムジャパン岐阜支店
    15. 5.15 京セラと三洋電機の携帯電話事業
    16. 5.16 レカムによるアスモの情報通信機器製造事業の譲渡
    17. 5.17 岩崎通信機と岩通マレーシア
    18. 5.18 丸紅とNECモバイリング(TOB)
    19. 5.19 ベリサーブとGIOT
    20. 5.20 レカムホールディングスによる投資会社への子会社化
    21. 5.21 レカムホールディングスとアスモのモバイル事業譲渡
    22. 5.22 レカムホールディングス、テレウェイヴリンクスの情報通信機器販売事業取得
    23. 5.23 レカムとコムズの譲渡
    24. 5.24 レカムによるコスモ情報機器の子会社化
    25. 5.25 レカムによるR・SとG・Sコミュニケーションズの子会社化
    26. 5.26 ワイエイシイとミユキエレックス
    27. 5.27 ネプロジャパンによるモバイル・テクニカの譲渡
    28. 5.28 ネットインデックスとコスモネットへのモバイル機器販売事業譲渡
    29. 5.29 パイオンとアドバンスサポート
    30. 5.30 ネクストジェンとneix
    31. 5.31 フリードによるフラディオコレクト・フリードVCの売却
    32. 5.32 フリードによるトーネット.のMBOでの譲渡
    33. 5.33 ベルパークとパナソニックテレコムの携帯電話販売代理店事業取得
    34. 5.34 トランスジェニックとルーペックスジャパン
    35. 5.35 マクニカホールディングスとグローセル(TOB)
    36. 5.36 マクニカ・富士エレホールディングスによる台湾Answer Technology買収
    37. 5.37 ノジマによるマレーシアThunder Match Technology子会社化
    38. 5.38 ビックカメラとじゃんぱら
    39. 5.39 パシフィックネットとケンネット
    40. 5.40 テレウェイヴによるアントレプレナーの譲渡
    41. 5.41 サクサホールディングスとソアー
    42. 5.42 ソフトバンクとイー・アクセスの株式譲渡
    43. 5.43 コーユーレンティアとGBSグループ3社
    44. 5.44 ソニーによるソニー・エリクソン完全子会社化
    45. 5.45 エフティコミュニケーションズによるアレクソン
    46. 5.46 エフティコミュニケーションズとグロースブレイブジャパン
    47. 5.47 エフティグループによるエフティコミュニケーションズのMBO譲渡
    48. 5.48 エフティグループによるレカム広島支店の通信機器販売事業取得
    49. 5.49 アルコニックスと大川電機製作所
    50. 5.50 フジクラと米Nistica
    51. 5.51 フォーバルとフリード
    52. 5.52 オムニ・プラス・システム・リミテッドと台湾・丞翔國際
    53. 5.53 アイ・ティー・シー・ネットワークと日立モバイル
    54. 5.54 イーター電機工業と博多通信
    55. 5.55 TCBテクノロジーズとフリーポート
    56. 5.56 JFEホールディングスと川崎マイクロエレクトロニクス
    57. 5.57 アークと樫山金型工業
  6. 6. これらの事例に見る成功要因・課題
    1. 6.1 成功要因
    2. 6.2 課題
  7. 7. 通信機器業界の今後の展望
  8. 8. まとめ

1. はじめに

近年、通信機器業界はスマートフォンやタブレット端末といったモバイル製品のみならず、5Gや6Gなど次世代移動通信規格の普及、IoT機器の増加、クラウド・AIの活用など、さまざまなイノベーションの波に直面しています。市場ニーズが急激に拡大し、高性能かつ省エネルギーな機器の製造体制を整える必要が高まる一方で、競争の激化や部材調達・販売チャンネルの確保といった課題も顕在化しています。

このような背景の中、企業は単独で課題解決に取り組むよりも、M&Aを通じて相互の強みを組み合わせ、経営資源を効率的に活用する動きが加速しています。本記事では、具体的なM&Aの事例を振り返りつつ、買収・譲渡の理由や背景、企業が目指すシナジー効果などを整理しながら、通信機器業界の再編の流れを探ってまいります。


2. 通信機器業界の概況とM&Aの意義

通信機器業界は、高度な技術力と巨大な資本が要求されるため、プレイヤーの数自体は比較的限られています。しかし、IT・ICT化が進展する中で、周辺産業との境界が曖昧になり、商流は複雑化しています。さらに、各国の通信政策や規制、スマートフォンをはじめとするモバイル市場のトレンド変化などが、業界構造を大きく揺さぶっています。

こうした動向を背景に、M&Aが重要な成長戦略手段として位置づけられています。大企業が周辺領域や高度な技術を持つ中小企業を買収するケース、同業界内の競合企業同士が事業統合するケース、海外の企業やファンドが国内企業を買収するケースなど、さまざまな形態がみられます。企業にとっては、M&Aにより事業ポートフォリオを最適化したり、新市場への参入、R&D(研究開発)投資効率の向上などを図ったりできるメリットがあります。


3. M&Aにおける主な狙いと背景

3.1 事業領域の拡大と多角化

通信機器業界では、コアとなる通信インフラ・機器の製造に加え、ソフトウェア開発や自動車部品などの周辺分野への展開が急務とされています。5Gでは車載通信やセンサー技術との連携が重要であり、IoT分野の通信モジュールビジネスはさらに伸びる見込みがあるからです。こうした領域では、既存の研究開発や販路だけでなく、他社の持つ特許技術や販売チャネルの取り込みが成功の鍵となります。

3.2 技術力・製品ラインアップ強化

通信機器の性能向上や小型化、省電力化のためには先端技術の獲得が欠かせません。また、アンテナ関連や光伝送など専門性の高い領域では、中小規模でも高い技術を持つ企業が多く存在します。M&Aによって技術力を直接獲得することで、開発コストや期間を大幅に短縮できるメリットがあります。

3.3 顧客基盤や販路の獲得

企業が新たな地域やセグメントに参入するとき、既にそこで実績や取引先を確立している企業を買収するのは非常に有効です。通信機器の場合は、キャリア(通信事業者)との取引実績や、大手家電量販店との取引枠確保などが重要になります。自動車部品や軍事・防衛関連など、参入ハードルが高い分野では特に、既存顧客や販路を持つ企業との統合が効果的です。

3.4 グローバル市場での競争力確保

通信機器や電子部品分野は、グローバル化が進む代表的な産業です。アジア諸国や欧米に拠点を持つことが、部材調達や新市場開拓のために不可欠になっています。そのため、海外企業の買収や海外拠点の設立を通じて、現地での開発・生産体制を構築する動きが活発化しています。

3.5 事業承継・グループ内再編の必要性

日本国内では、中小企業が少子高齢化や後継者不足の課題を抱えており、事業承継問題に直面しています。通信機器業界でも同様に、高い技術力を持つ中小企業で後継者が見つからずに大手のグループ傘下入りを選択する例が散見されます。また、大企業グループ全体で事業の選択と集中が進む中、赤字事業の切り離しや同業他社との統合でさらなる効率化を狙うケースも増えています。


4. 主要事例から読み解く通信機器業界のM&A動向

ここでは、通信機器や電子部品に関連するM&Aの代表的な動きを大きく三つの視点から捉えます。

4.1 国内企業同士のM&Aとグループ再編

国内では、親会社が非中核事業を切り離したり、中堅・中小企業が大手系列に入ることで販路と開発資源を確保する動きが活発です。たとえば、日本ガイシが新日鉄住金(現・日本製鉄)傘下企業を買収した事例や、日清紡ホールディングスによる日立国際電気の子会社化などは、双方にとって技術力や販売チャネルの補完関係を狙ったものといえます。

4.2 海外企業との資本提携・子会社化

中国や欧米のファンド・メーカーが日本企業を買収・出資するケースも増えています。日本電波工業がSAWフィルター事業子会社を中国の投資会社へ譲渡した事例は、中国市場での需要拡大を取り込みたいという動機が大きいといえます。また、ソニーがスウェーデンのエリクソンとの合弁会社を完全子会社化した事例のように、グローバル市場での競争力を高めるために海外合弁を整理・再編する動きも目立ちます。

4.3 ファンド・投資会社の参入・買収

投資ファンドが通信機器関連企業に出資したり、買収後に事業再生を図るケースも少なくありません。レカムホールディングスが投資ファンドに傘下入りした例や、JFEホールディングスがLSIメーカーをファンドを経由して売却するといった例が該当します。ファンドはシナジーよりも、企業価値向上や再生の道筋を明確にしたうえでの数年後の売却を見据えていることが多いです。


5. 実例紹介:通信機器・電子部品関連M&A一覧

本節では、各社が公表した資料を参考に、通信機器業界における多様なM&A事例を概要とともに時系列・テーマ別にご紹介いたします。社名・数値データなどは発表当時のものです。

5.1 日本ガイシと新日鉄住金エレクトロデバイス

  • 概要: 日本ガイシが新日鉄住金(当時)の完全子会社である日鉄住金エレクトロデバイス(セラミックパッケージ等の電子工業用セラミックス)を子会社化
  • 狙い: 情報通信機器の高性能化および自動車のエレクトロニクス化に伴う電子部品需要の拡大
  • 特徴: セラミックス分野での技術補完と販路拡大

通信機器分野だけでなく、自動車や産業機械にも用いられるセラミック部品の需要拡大は、長期的な成長要因とみられています。日本ガイシはこの買収で電子部品事業を強化し、従来の主力事業との相乗効果も期待していました。

5.2 日清紡ホールディングスと日立国際電気

  • 概要: 日清紡ホールディングスが無線機器・映像機器を製造する日立国際電気の株式80%を取得し、子会社化
  • 狙い: 日清紡の子会社・日本無線との技術・販売面での補完による無線・通信事業強化、DX需要の取り込み
  • 特徴: 日立国際電気が保有してきた官公庁向け事業とのシナジー、DX化に向けた無線事業拡大

当初の取得予定は2023年7月31日でしたが、実務準備の影響で延期が発表され、その後12月27日に取得完了が発表されました。日清紡は今後も戦略的事業領域として無線・通信、マイクロデバイス、ケミカルなどを掲げており、官公庁・自治体需要を強く取り込む方向性を示しています。

5.3 売れるネット広告社とJCNT International

  • 概要: 売れるネット広告社が、米国で通信回線・端末の仕入れを行うJCNT Internationalを子会社化
  • 狙い: 海外キャリアとの直接購買体制を整え、情報通信サービス事業の海外展開基盤を構築
  • 特徴: コロナ禍で休眠状態にあったJCNT Internationalを1円で買収し、再稼働を狙う

売れるネット広告社は健康食品・化粧品の通販支援を主力としてきましたが、新たに通信機器レンタル・通信回線事業へ参入し、海外市場を含む事業拡大を図っています。

5.4 日清紡ホールディングスと南部化成

  • 概要: 日清紡ホールディングス子会社の日清紡メカトロニクスと日清紡シンガポールを通じて、プラスチック製品メーカーの南部化成を子会社化
  • 狙い: 自動車用ワイヤハーネスやヘッドランプ周りのプラスチック製品、さらには医療・情報通信分野にも強みを持つ南部化成との事業シナジー
  • 特徴: 車載分野や医療・通信分野への展開強化、海外拠点の活用

南部化成は車載製品のみならず、通信機器向けのプラスチック部品開発・製造技術も有しています。日清紡は同社を取り込み、既存事業と組み合わせて新規事業の創出や海外展開時のコスト削減を狙いました。

5.5 電響社とサンノート

  • 概要: 電響社が文房具メーカーのサンノートを子会社化
  • 狙い: 電響社の通信機器・電子部品などの卸事業に、サンノートの文房具や衛生用品を組み合わせることで品ぞろえを拡充
  • 特徴: 直接的には通信機器とは離れていますが、消費者ニーズの取り込み・海外仕入れ物流コスト削減の見込み

周辺事業への多角化は、通信機器・家電卸商社などが安定的に収益を確保する上で重要な戦略といえます。

5.6 売れるネット広告社とJCNT

  • 概要: 売れるネット広告社がWi-Fiルーターなどモバイル通信機器レンタルのJCNT(東京)を子会社化
  • 狙い: DtoC事業者向け通販支援以外の新領域として、通信機器サービスを展開
  • 特徴: 海外主要国に専用回線を持ち、世界150カ国で利用可能なモバイルWi-Fiサービスを企業向けに提供

取得後の2024年8月に買収を完了し、さらに翌月には米国子会社のJCNT Internationalの買収も行うなど、通信事業への本格参入が進みました。

5.7 大井電気とメルコテクノレックスの光伝送機器事業

  • 概要: 大井電気が三菱電機傘下のメルコテクノレックスから光伝送機器の製造販売事業を取得
  • 狙い: 電力・鉄道などインフラ向け通信機器を製造する大井電気が光伝送事業を加えることで関連領域を拡大
  • 特徴: 取得価額は非公表。2018年4月1日に事業譲受

光伝送技術は5G・FTTHなどのブロードバンド通信に欠かせない分野であり、大井電気にとってはさらなる市場拡大の足掛かりとなりました。

5.8 日本電波工業によるNDK SAW devicesの譲渡

  • 概要: 日本電波工業がSAWフィルター事業子会社NDK SAW devicesの株式51%を中国投資会社へ譲渡
  • 狙い: 中国市場での携帯端末需要拡大に対応するため、新パートナーを得ることで事業展開を強化
  • 特徴: 2020年8月と12月の2回に分けて株式を譲渡し、日本電波の持株比率は最終的に25%に

通信機器用に不可欠なSAWフィルターは、中国をはじめとする新興国でのスマートフォン普及に伴い需要が拡大しています。現地パートナーとの合弁はスピード感ある生産と流通を可能にします。

5.9 精工技研と不二電子工業

  • 概要: 精工技研が自動車部品・電気電子部品製造の不二電子工業の株式99.7%を取得
  • 狙い: 精工技研は精密金型事業から成形品供給ビジネスへ転換を図り、不二電子工業のノウハウを活用
  • 特徴: 不二電子工業は通信機器やAV機器向けの精密成形品を供給

自動車だけでなく携帯電話や音響機器など、高い精度の部品を必要とする通信機器分野での技術力が買収の決め手となりました。

5.10 日東工業とサンテレホン

  • 概要: 日東工業が情報通信機器の卸販売を手がけるサンテレホンを子会社化
  • 狙い: ネットワークインフラ構築に必要な通信部材・機器を扱うサンテレホンの商流を取り込み、相互の商材・顧客を補完
  • 特徴: アドバイザリー費用込みで約86億7000万円を投じて取得

配電盤などで実績のある日東工業が、通信分野を強化する一環として行ったM&Aです。

5.11 神田通信機と日本電話工業

  • 概要: 神田通信機が九州エリアを地盤とする日本電話工業を子会社化
  • 狙い: 九州地域での制御照明事業や情報通信ネットワークの企画・設計・構築を強化
  • 特徴: 取得価額は600万円と小規模ながら、地域顧客基盤の確保が大きな目的

地方拠点をテコ入れしつつ、自社の通信インフラ事業を拡大した事例です。

5.12 川金ホールディングスと東京理化工業所

  • 概要: 川金HDがアルミダイカスト製品を手がける東京理化工業所(東理HD傘下)を株式95%取得
  • 狙い: 自動車・通信機器・事務機器などに広く使われるダイカスト製品を取り込み、製品ラインナップ拡充
  • 特徴: 取得価額は1億1600万円。残り5%は代表取締役が取得

通信機器にも使用されるアルミダイカスト部品製造を加えたことで、新規顧客や開発案件の幅が広がる狙いです。

5.13 日本電計とエイリイ・エンジニアリング

  • 概要: 日本電計が航空機や船舶用の通信機器・計測機器を製造するエイリイ・エンジニアリングを子会社化
  • 狙い: 高い技術力と修理校正能力を有するエイリイ社を取り込み、防衛・航空分野での整備や特注計測機器製造を強化
  • 特徴: 戦闘機の計測装置など高精度が求められる領域が特徴

軍事・防衛分野は参入障壁が高く、技術信用が重視されるため、M&Aによる事業拡大が有効です。

5.14 東名とレカムジャパン岐阜支店

  • 概要: 東名が情報通信機器販売を行うレカムジャパンの岐阜支店事業を2億円で取得
  • 狙い: 中部地域での営業基盤・サービス顧客数を拡大
  • 特徴: 東名は「オフィス光119」など中小企業向け光回線を提供しており、地域密着拠点の強化が狙い

支店単位で事業を譲渡するケースは珍しくありません。レカムは拠点整理を図り、東名は地域顧客基盤を取り込むウィンウィンの関係です。

5.15 京セラと三洋電機の携帯電話事業

  • 概要: 京セラが三洋電機の携帯電話事業を会社分割により取得
  • 狙い: 北米を含む三洋電機の顧客基盤を取り込み、携帯電話市場での競争力強化
  • 特徴: 三洋電機の開発力や設計技術を活かし、京セラは通信機器関連事業を主力事業の1つに

2008年当時、三洋電機は携帯電話市場の苦戦もあり再建途上でしたが、京セラとの統合で携帯端末事業を再編しました。

5.16 レカムによるアスモの情報通信機器製造事業の譲渡

  • 概要: レカム子会社のアスモが手掛けていた情報通信機器製造事業を三洋化成製作所に譲渡
  • 狙い: 事業規模縮小により不採算化していた製造事業から撤退し、グループとしてソリューション事業に集中
  • 特徴: 従業員は継続雇用される見通し

投資効率が低くなった事業を切り離し、中核事業への集中を図る好例といえます。

5.17 岩崎通信機と岩通マレーシア

  • 概要: 岩崎通信機がマレーシア子会社を台湾Silitech Technologyに譲渡し、国内福島工場へ生産集約
  • 狙い: マレーシア工場における電話システム関連の生産を手放し、固定費圧縮と国内集中生産を優先
  • 特徴: 岩通マレーシアは1990年設立。譲渡価額は非公表

グローバル生産拠点を再編してコスト削減を図る一方、台湾企業に譲渡することで、事業継続や雇用維持が実現しました。

5.18 丸紅とNECモバイリング(TOB)

  • 概要: 丸紅がNECモバイリングをTOBで取得し、子会社化(完全子会社化を目指す)
  • 狙い: 移動無線機器や通信機器メーカーのNECモバイリングを取り込み、携帯電話販売事業との相乗効果を期待
  • 特徴: 買付額は約800億円。上場を維持する予定とされましたが、最終的な買付数で非上場化の可能性あり

商社の丸紅はモバイル領域での販路拡大や企画力の強化を狙い、NECが進めるグループ再編にも応じた形となります。

5.19 ベリサーブとGIOT

  • 概要: ベリサーブが情報通信機器やアプリケーションの検証サービスを手がけるGIOTの株式を追加取得し、子会社化
  • 狙い: 受託検証業務を拡大するため、GIOTの人材調達力と検証能力を確保
  • 特徴: もともとベリサーブからの検証業務受託が多くを占め、子会社化で安定的に運用できる

ソフトウェアや通信機器の品質保証や検証需要は高まっており、同業務に特化した企業を子会社化するのは理にかなっています。

5.20 レカムホールディングスによる投資会社への子会社化

  • 概要: NISバリューアップ・ファンド1号投資事業組合がレカムホールディングスの第三者割当増資を引き受けて株式55.66%を取得
  • 狙い: 世界的金融危機による需要落ち込みに対応し、資本増強と事業再生を目指す
  • 特徴: ファンドによる経営支援で、通信機器事業を含むレカムグループ全体の再建を図る

投資ファンドの参入は、成長余地がある一方で財務体質が厳しい企業にとって有力な選択肢となります。

5.21 レカムホールディングスとアスモのモバイル事業譲渡

  • 概要: レカムホールディングス子会社アスモのモバイル事業を、通信機器開発・販売のネットインデックスへ譲渡
  • 狙い: モバイル端末市場の縮小に対応し、事業の選択と集中
  • 特徴: レカムホールディングスはビジネスホンやモバイル端末の製造開発を統合して展開していましたが、市場縮小によりモバイル事業を切り離す判断

このように、中小規模の端末メーカーは大手や専業メーカーに事業を委託・譲渡する流れがあります。

5.22 レカムホールディングス、テレウェイヴリンクスの情報通信機器販売事業取得

  • 概要: レカムホールディングスが子会社を通じて、テレウェイヴリンクスのオフィス機器・情報通信機器販売事業を取得
  • 狙い: テレウェイヴリンクスはITパッケージ販売・経営支援に集中するため通信機器販売部門を手放す
  • 特徴: レカムは2万5000社の保守メンテナンスやアフターフォローを取り込み、自社商材を提案できるメリット

テレウェイヴ側は不要な事業を切り離し、レカム側は顧客基盤を獲得する典型的なウィンウィン例です。

5.23 レカムとコムズの譲渡

  • 概要: レカムは中古ビジネスフォンなど通信機器をネット販売するコムズを、レカムの販売加盟店である東名に株式80%を譲渡
  • 狙い: ウェブ事業推進力のあるコムズを、より専門性のある東名のもとで成長させる
  • 特徴: レカムは製販一体を志向してきましたが、コムズ単独での競争力強化には新体制が望ましいと判断

経営資源の適切な配置を目的とする譲渡です。

5.24 レカムによるコスモ情報機器の子会社化

  • 概要: レカムが情報通信機器販売・保守のコスモ情報機器を子会社化
  • 狙い: 静岡県を地盤とするコスモ情報機器の技術・顧客基盤を取り込み、レカムの経営ノウハウを浸透させる
  • 特徴: 事業承継問題を抱えていたコスモ情報機器に対し、レカムグループの支援がマッチ

地域密着企業を買収し、全国ネットワークへ組み込むケースです。

5.25 レカムによるR・SとG・Sコミュニケーションズの子会社化

  • 概要: 関西でデジタル複合機や通信機器販売を手がける2社を同時買収
  • 狙い: 関西エリアでの通信・OA機器販売やインターネット回線取り次ぎ事業を拡大
  • 特徴: 2社合わせて5億6000万円。電力小売り事業にも乗り出しており、幅広いソリューションを提供

地理的・業態的補完を狙うM&Aです。

5.26 ワイエイシイとミユキエレックス

  • 概要: ワイエイシイが東洋紡傘下のミユキエレックスを子会社化
  • 狙い: 医療用機器や通信機器、監視システムなどを製造するミユキエレックスを取り込み、新たな市場へ参入
  • 特徴: 人工透析装置など医療分野にも強みを持つ

通信と医療機器の技術融合は今後も成長が見込まれる領域です。

5.27 ネプロジャパンによるモバイル・テクニカの譲渡

  • 概要: ネプロジャパンが51.8%を保有する通信機器メーカーのモバイル・テクニカ株式をYCSに譲渡
  • 狙い: ネプロジャパンにとってVoIPゲートウェイなどの提供比率が低下しており、シナジーが見込めなくなった
  • 特徴: 事業再編の一環として、モバイル端末開発メーカーを手放す

企業としては自社内の事業ポートフォリオを見直し、不採算・非中核事業から撤退しています。

5.28 ネットインデックスとコスモネットへのモバイル機器販売事業譲渡

  • 概要: ネットインデックスが携帯電話やモバイル通信機器の店舗販売事業をコスモネットに譲渡
  • 狙い: 店舗販売よりもデバイス事業への集中投資
  • 特徴: 直営店8店舗、2次代理店6店舗を一括譲渡

通信機器メーカーが小売部門を切り離し、専門の販売代理店に集約するパターンです。

5.29 パイオンとアドバンスサポート

  • 概要: パイオンがアドバンスサポート株式を追加取得し、子会社化
  • 狙い: 法人向け通信機器販売や携帯電話販売での営業力強化
  • 特徴: 市場競争の激化に伴い、同業シナジーを狙う

携帯ショップ運営などでも、経営統合でコスト削減と販売力強化が図られます。

5.30 ネクストジェンとneix

  • 概要: ネクストジェンがneixの全事業を新設子会社のNextGenビジネスソリューションズに承継
  • 狙い: レガシー技術を強みとするneixを傘下に収め、次世代ネットワークや音声認識分野を強化
  • 特徴: アナログ・デジタル技術は一定の需要が続く見込み

通信インフラがIP化へ移行する中で、レガシー資産を保守できる企業は重宝されます。

5.31 フリードによるフラディオコレクト・フリードVCの売却

  • 概要: フリードが情報通信機器販売のフラディオコレクトと加盟店開発のフリードVCを売却
  • 狙い: 収益体質強化の一環として、グループ外へ譲渡
  • 特徴: いずれも売上規模は大きくないが、負担となる管理業務の整理を目的

保有子会社を整理することで、本体の経営リソースを集中化したケースです。

5.32 フリードによるトーネット.のMBOでの譲渡

  • 概要: フリードが情報通信機器取付工事のトーネット.を経営陣に売却(MBO)
  • 狙い: グループ外との受託案件拡大にともない、フリードとの関係が希薄化
  • 特徴: MBOにより意思決定スピードを高め、両社の業務負担を軽減

MBOは経営陣が主体的に事業成長を図るための手段として用いられます。

5.33 ベルパークとパナソニックテレコムの携帯電話販売代理店事業取得

  • 概要: ベルパークがパナソニックテレコムのソフトバンク携帯販売代理店事業(直営22店舗+FC30店舗など)を取得
  • 狙い: 携帯市場の成長鈍化に対応して、店舗網を拡大しシェアを高める
  • 特徴: 年間販売台数の確保によってメーカーやキャリアとの交渉力を強化

携帯販売代理店も飽和が指摘されますが、大手キャリアとの取引枠増加が重要となります。

5.34 トランスジェニックとルーペックスジャパン

  • 概要: トランスジェニックが情報通信機器関連の開発・販売を行うルーペックスジャパンを子会社化
  • 狙い: セキュリティー関連の製品を主力とする同社を取り込み、安定収益を確保
  • 特徴: 監視カメラや指紋認証などの領域でシェア拡大を狙う

バイオ系事業のイメージが強いトランスジェニックが、通信機器・セキュリティー分野に進出する多角化の事例です。

5.35 マクニカホールディングスとグローセル(TOB)

  • 概要: マクニカホールディングスが半導体商社のグローセルにTOBを実施、最大190億円を投じて全株取得を目指す
  • 狙い: 電動化進む車載市場への対応強化、半導体流通におけるスケールアップ
  • 特徴: グローセルもTOBに賛同。買付価格は当初645円から750円に引き上げられた

半導体・電子部品商社の統合は近年よくみられ、車載・産業機器向けの供給体制を拡充する動きが顕著です。

5.36 マクニカ・富士エレホールディングスによる台湾Answer Technology買収

  • 概要: 台湾子会社を通じて電子部品商社Answer Technology(安馳科技)にTOBを実施し、発行済株式の35~50%を取得
  • 狙い: 半導体製品や産業用PC等の取り扱いを強化し、アジア展開を加速
  • 特徴: 買付価格は1株41台湾ドルで、総額33億9000万~48億4000万円

台湾市場はIT・電子部品の一大拠点であり、販路・開発拠点を直接的に獲得できる点がメリットです。

5.37 ノジマによるマレーシアThunder Match Technology子会社化

  • 概要: ノジマがシンガポール子会社を介し、マレーシアでPCや携帯など情報通信機器を販売するTMTを買収
  • 狙い: 成長市場であるマレーシアでの店舗展開を拡大し、家電・IT製品・通信端末の販路を広げる
  • 特徴: ノジマは2019年にシンガポールのCourts Asiaを買収しており、その延長でマレーシアでも攻勢

海外進出の一環で、現地小売企業を取り込む典型的パターンです。

5.38 ビックカメラとじゃんぱら

  • 概要: ビックカメラがスマホ・PCなどデジタル家電を買い取り・販売する「じゃんぱら」を子会社化
  • 狙い: リユース(中古)市場の拡大を見据え、デジタル家電の買い取り・販売シェアを伸ばす
  • 特徴: リユース市場は安定的需要があるため、中古品の仕入・販路拡充に向く

新品販売大手と中古専門業者の協業により、販売チャネルを広げる例です。

5.39 パシフィックネットとケンネット

  • 概要: パシフィックネットがガイド用無線レシーバー「イヤホンガイド」を製造・販売・レンタルするケンネットを買収
  • 狙い: テクニカルセンターなど自社設備を活かし、コスト削減や保守サービスを共同開発
  • 特徴: 観光業や国際会議需要の取り込み

通信機器の一部門ともいえるガイド用レシーバーは、海外旅行・インバウンド復活に伴い需要が見込まれます。

5.40 テレウェイヴによるアントレプレナーの譲渡

  • 概要: テレウェイヴがBtoBサイト運営のアントレプレナーを譲渡
  • 狙い: 情報通信機器の販売会社・工事会社向けのプラットフォーム事業を手放し、ソリューション事業に集中
  • 特徴: 事業戦略上の優先度が下がったため切り離したケース

プラットフォーム運営企業を売却することで、グループ事業の再編を進めました。

5.41 サクサホールディングスとソアー

  • 概要: サクサHDが有機ELディスプレー製造のソアーを買収し、子会社化
  • 狙い: グループ主力工場サクサテクノとの敷地隣接を活かし、生産性向上や設備共有
  • 特徴: ソアーは東北パイオニアから分社した会社で、有機ELやODM/EMSなど多彩な技術を有する

有機ELはディスプレーだけでなく、照明・自動車向けなど用途が広がる分野です。

5.42 ソフトバンクとイー・アクセスの株式譲渡

  • 概要: ソフトバンクが完全子会社化したイー・アクセスの議決権66.71%をグループ外11社に譲渡
  • 狙い: イー・アクセスに一定の独立性を持たせ、MVNO事業や独自ブランドの継続を可能にする
  • 特徴: アルカテル・ルーセントやエリクソン、リース会社などに株式を分散

国内通信キャリアの再編の一環として、イー・アクセスを取り込みながらも、多様なステークホルダーの意向を考慮しました。

5.43 コーユーレンティアとGBSグループ3社

  • 概要: コーユーレンティアが情報通信機器販売・リースのジービーエスなどGBSグループ3社を子会社化
  • 狙い: コーユーグループが強みを持つFF&E(家具・什器・備品)レンタルと情報機器レンタルを組み合わせて総合サービスを展開
  • 特徴: 顧客基盤の相互活用により売上拡大と継続的収益を狙う

リース・レンタル事業者は相互のクライアントを取り込みやすく、クロスセルによる収益増を期待できます。

5.44 ソニーによるソニー・エリクソン完全子会社化

  • 概要: ソニーがスウェーデン・エリクソンとの合弁携帯電話メーカー、ソニー・エリクソンを完全子会社化し「ソニーモバイルコミュニケーションズ」に改称
  • 狙い: スマートフォン事業の開発サイクルを高速化し、ソニー製品群(テレビ・PC・タブレット等)との連携を強化
  • 特徴: 買収額約1100億円

スマホを中核としたマルチデバイス連携を目指す動きの先駆けでした。

5.45 エフティコミュニケーションズによるアレクソン

  • 概要: エフティコミュニケーションズ子会社が有線放送機器やTA機器を製造販売するアレクソンを90.1%取得
  • 狙い: エフティグループの販売チャネル×アレクソンの開発・製造力の組み合わせ
  • 特徴: 中小企業向け機器の需要拡大を見据え、製品ライナップ増強

販売チャンネルを持つ企業がメーカーを取り込む典型的パターンです。

5.46 エフティコミュニケーションズとグロースブレイブジャパン

  • 概要: エフティコミュニケーションズが持分法適用関連会社グロースブレイブジャパンを完全子会社化
  • 狙い: NTT通信機器販売と各種回線サービスを中四国地域で強化
  • 特徴: 地域密着型企業の完全統合で迅速な経営判断を可能に

地域戦略の一環で、事業シナジーを引き上げた事例です。

5.47 エフティグループによるエフティコミュニケーションズのMBO譲渡

  • 概要: エフティグループが100%子会社エフティコミュニケーションズの全株式を、代表取締役の飯沼敬氏設立のICコーポレーションに譲渡
  • 狙い: エフティグループは光回線・節水装置・小売電力などネットワークインフラ事業に軸足を移し、OA機器販売子会社を手放す
  • 特徴: 株式売却後も商品卸売など取引は継続

グループの方向性が変わる中で、子会社経営陣が自社買収するMBOとして整理された好例です。

5.48 エフティグループによるレカム広島支店の通信機器販売事業取得

  • 概要: エフティグループがレカムの広島支店を事業譲受
  • 狙い: 既存事業のマーケットシェア拡大。レカムは売上低迷で支店閉鎖を検討していた
  • 特徴: 共存関係にあった2社が互いのメリットを追求して支店事業を譲渡

地方拠点の整理・活用は、中小企業向け通信機器ビジネスでよくみられる動きです。

5.49 アルコニックスと大川電機製作所

  • 概要: アルコニックスが金属精密加工の大川電機製作所(設立1951年)を子会社化
  • 狙い: 非鉄金属専門商社のアルコニックスが製造業に本格参入し、材料供給から加工まで一貫体制を構築
  • 特徴: 取得価額は45億7000万円と大規模。通信機器や半導体・宇宙航空機器向け精密加工技術が魅力

商社の川下展開を示す事例です。

5.50 フジクラと米Nistica

  • 概要: フジクラが米光通信機器部品メーカーNisticaを買収し、子会社化
  • 狙い: ネットワーク運用技術ROADMの主要部品である波長選択スイッチの開発・販売体制を一体化
  • 特徴: 2007年から戦略的パートナーシップを結んでおり、その延長での完全子会社化

光通信技術の高まりを見越した事業強化です。

5.51 フォーバルとフリード

  • 概要: フォーバルが情報通信機器販売のフリードを第三者割当増資引き受けにより子会社化
  • 狙い: ビリングサービス「フラディオ・コレクト」とのシナジー、回線取次などの営業拡大
  • 特徴: 持株比率を56.68%へ引き上げ

中小企業向けコンサルティング・回線取次が主力のフォーバルにとって、フリードの顧客基盤は魅力的でした。

5.52 オムニ・プラス・システム・リミテッドと台湾・丞翔國際

  • 概要: オムニ・プラス・システム・リミテッドが台湾のプラスチック原材料販売会社・丞翔國際を約17億円で完全子会社化
  • 狙い: IT・通信機器・家電向けプラスチック原材料を取り扱う丞翔國際の取引先ブランドに自社の製品を供給し、売上拡大を狙う
  • 特徴: 台湾への生産シフトが進む中、原材料ビジネスでポジションを高める

樹脂やプラスチックは通信機器筐体にも需要が高く、サプライチェーン強化として意義があります。

5.53 アイ・ティー・シー・ネットワークと日立モバイル

  • 概要: アイ・ティー・シー・ネットワークが新設子会社ITCモバイルを通じ、日立モバイルから携帯販売事業を会社分割により取得
  • 狙い: ドコモショップ・auショップなど80店舗網を取得し、携帯販売事業を拡大
  • 特徴: 年間販売台数200万台以上、法人顧客2000社を保有

店舗網の拡充によるスケールメリットを確立する好例です。

5.54 イーター電機工業と博多通信

  • 概要: イーター電機工業が通信機器製造・販売および工事を行う博多通信を子会社化
  • 狙い: 九州エリアにおける通信・放送事業の拡充
  • 特徴: 取得価額は非公表。NTTグループ等を主要顧客とする地域企業

地域別事業強化のための買収です。

5.55 TCBテクノロジーズとフリーポート

  • 概要: ネットワーク・通信機器事業を主力とするTCBテクノロジーズが、採用コンサルのフリーポートを子会社化
  • 狙い: 情報サービス分野の新規事業基盤を形成
  • 特徴: TCBが弱かった人材サービス・コンサル事業を取り込み

IT・通信企業が人材コンサルを取り込む例は珍しいですが、多角化の一端です。

5.56 JFEホールディングスと川崎マイクロエレクトロニクス

  • 概要: JFEがLSIメーカーの川崎マイクロエレクトロニクスをメガチップスへ譲渡
  • 狙い: 非鉄・非鉄合金領域への注力と、LSI事業の再編を促進
  • 特徴: 売却額85億円。川崎マイクロは液晶・通信機器向けASICを製造

製鉄大手が電子部品事業を完全に切り離す再編です。

5.57 アークと樫山金型工業

  • 概要: アークが金型製造の樫山金型工業の全株式(所有割合40%)を同社に譲渡
  • 狙い: 通信機器や自動車など幅広い用途のプラスチック成形金型事業を整理
  • 特徴: アークは国内外グループ再編の一環で譲渡

金型部門の売却によって収益改善を図るケースです。


6. これらの事例に見る成功要因・課題

6.1 成功要因

  1. 補完関係の明確化: 買い手企業が不足している技術や販路を明確にし、売り手企業の強みとマッチさせることで、シナジーが得やすくなります。
  2. 経営リソースの集中: グループ全体で選択と集中を行い、中核事業や成長領域へ資金や人材を集め、不要事業は早期に売却する戦略が奏功します。
  3. 経営者同士のコミュニケーション: 買収後のPMI(Post Merger Integration)で、現地拠点や社員の雇用維持、企業文化の調整がスムーズに進むと、早期に成果が出ます。

6.2 課題

  1. 急激な環境変化: 通信機器業界は技術革新が速く、買収時点での評価が短期間で陳腐化するリスクがあります。
  2. リスク管理とガバナンス: 海外ファンドとの合弁や海外子会社化では、法務・財務リスクやコンプライアンス体制の整備が不可欠です。
  3. 文化摩擦・組織統合: 社風や意思決定プロセスの違いで、M&A後に想定していたシナジーが得られないケースもありえます。

7. 通信機器業界の今後の展望

5G・6Gといった次世代通信規格はもちろん、自動車のコネクテッド化やスマートホーム、クラウド利用の拡大などによって、通信機器の役割は今後も広がりを見せます。大容量・超高速通信が当たり前となる中、通信インフラや基地局関連設備、周辺機器などの需要は一段と拡大するでしょう。

一方で、国内の少子高齢化や販売台数の頭打ち、キャリアの料金競争激化など、厳しい競争環境が続くのも事実です。また、米中技術覇権争いなど地政学的リスクにより、半導体・電子部品のサプライチェーンが不安定化する可能性も指摘されています。こうした複雑な外部環境の中、各企業はM&Aを上手く活用しながら、必要な技術・資本・販路を獲得し、グローバルに競争していくことが求められるでしょう。


8. まとめ

本記事では、通信機器業界のM&Aについて、2000年代後半から2020年代半ばにかけて公表された多数の事例を総覧的に振り返りました。スマートフォンなどのモバイル端末や通信インフラの急速な普及、IoTや自動車のエレクトロニクス化といったトレンドによって、業界は常に変革を迫られてきました。その過程で、国内外の企業による買収・譲渡が活発に行われ、大小さまざまなシナジーや課題が生まれています。

一連の事例から見えてくるのは、**「技術力・開発力」「販路・顧客基盤」「コスト削減・事業再編」**の3点が、多くのM&A案件に共通するキーワードであるということです。大企業は新技術を持つ中小企業を取り込んだり、赤字部門を切り離したりする一方、中小企業側も大手傘下に入ることで安定的な資金援助や販路拡大が可能となります。

また、投資ファンドの活用や海外企業との合弁・提携も、外部環境がめまぐるしく変化する通信機器・電子部品分野で注目されています。特に中国や米国の大手資本が入る事例は、巨大市場への素早いアクセスを可能にする反面、ガバナンスや経営上のリスクを伴う点にも留意しなければなりません。

今後も通信機器業界では、5G/6Gやクラウド、AI、車載通信、IoTなど、技術領域の革新や応用範囲の拡大が続く見込みです。これらの変化は新たなビジネスチャンスである一方、企業単独での研究開発・営業活動では対応が難しく、さらなる資本提携やM&Aによるアライアンスが不可欠です。M&Aを契機に事業をスケールアップする成功例が増える一方で、投資判断やPMIに失敗し、多額の損失を出す恐れもゼロではありません。企業は的確な戦略立案とリスクマネジメントのもと、柔軟に事業を再構築していく必要があります。