目次
  1. 第1章:化学品業界のM&Aを取り巻く背景
    1. 1-1. 国内需要の伸び悩みとグローバル化
    2. 1-2. 事業ポートフォリオの再構築と選択と集中
    3. 1-3. SDGsやカーボンニュートラル対応による構造変化
    4. 1-4. 安定供給体制の強化
  2. 第2章:化学品業界M&Aの狙いとメリット
    1. 2-1. シナジー効果の追求
    2. 2-2. 新規事業領域への進出
    3. 2-3. 事業撤退や不採算部門の整理
    4. 2-4. 海外市場への進出と展開の加速
  3. 第3章:各社のM&A事例
    1. 3-1. 日本曹達<4041>、ゾエティス・ジャパンから森林防疫薬剤・農業用薬剤の販売事業を取得(2017年11月30日発表)
    2. 3-2. 日清紡ホールディングス<3105>、日立国際電気を子会社化(2023年5月31日発表)
    3. 3-3. 日立物流<9086>、DIC<4631>傘下DICロジテックを子会社化(2010年10月21日発表)
    4. 3-4. 日本化学工業<4092>、ケミカルフィルター製造子会社の日本ピュアテックをミラプロに譲渡(2021年8月11日発表)
    5. 3-5. 多木化学<4025>、菌体微生物培養などの洛東化成工業を子会社化(2024年12月2日発表)
    6. 3-6. 日産化学工業<4021>、米ダウアグロサイエンスから殺菌剤「チフルザミド」事業を買収(2010年1月18日発表)
    7. 3-7. 東洋紡<3101>、武生工場などを柳井化学工業へ譲渡(2012年10月15日発表)
    8. 3-8. 蝶理<8014>、化学品専門商社のピイ・ティ・アイ・ジャパンを買収(2013年1月25日発表)
    9. 3-9. 蝶理<8014>、化学製品販売の小桜商会を買収(2018年1月26日発表)
    10. 3-10. 日本触媒<4114>、JSR傘下イーテックを子会社化(2024年11月12日発表)
    11. 3-11. 日本ペイントホールディングス<4612>、米化学品企業AOCを子会社化(2024年10月28日発表)
    12. 3-12. 日本ペイントホールディングス<4612>、カザフスタンAlina Groupを子会社化(2023年11月13日発表)
    13. 3-13. 三井化学<4183>、本州化学工業<4115>をTOBで子会社化(2020年11月11日発表)
    14. 3-14. 江守商事<9963>、米SIEFLORの化学品卸売販売事業を取得(2011年10月11日発表)
    15. 3-15. 三谷商事<8066>、シンガポールの食品卸MJIを子会社化(2019年11月28日発表)
    16. 3-16. 広栄化学工業<4367>、ペンタエリスリトール事業をスウェーデン企業に譲渡(2015年7月2日発表)
    17. 3-17. 月島機械<6332>、高速撹拌機メーカーのプライミクスを子会社化(2020年3月26日発表)
    18. 3-18. 群栄化学工業<4229>、三井化学<4183>傘下の東北ユーロイド工業を子会社化(2014年3月24日発表)
    19. 3-19. 三洋貿易<3176>、化学品専門商社のアズロを子会社化(2017年10月12日発表)
    20. 3-20. 三洋化成工業<4471>、中国高吸水性樹脂事業からの撤退・子会社譲渡(2024年3月25日発表)
    21. 3-21. 稲畑産業<8098>、化学系専門商社の丸石化学品を子会社化(2023年3月13日発表)
    22. 3-22. 丸紅系投資会社が昭和電工<4004>傘下の昭光通商<8090>をTOBで子会社化(2021年3月4日発表)
    23. 3-23. 三井物産<8031>、米セラニーズ傘下の機能性食品素材企業「ニュートリノバ」を買収(2023年6月23日発表)
    24. 3-24. 三井物産<8031>、機能性食品素材メーカーの物産フードサイエンスをポラリス・キャピタルに譲渡(2025年1月15日発表)
    25. 3-25. 三井物産<8031>、医薬・化学品事業のエムビーエスを子会社化(2011年4月25日発表)
    26. 3-26. 伊藤忠商事<8001>、化学品メーカーのタキロンシーアイ<4215>をTOBで完全子会社化(2024年8月5日発表)
    27. 3-27. マナック・ケミカル・パートナーズ<4360>、化学品製造販売の八幸通商を渡辺化学工業に譲渡(2024年2月29日発表)
    28. 3-28. マナック<4364>、化学品製造事業の八幸通商を子会社化(2008年~2009年の動き)
    29. 3-29. マナック<4364>、ファインケミカル品製造の中国子会社を現地社に譲渡(2018年9月28日発表)
    30. 3-30. バルカー<7995>、フッ素樹脂加工製品製造の中国子会社を現地社に譲渡(2022年6月29日発表)
    31. 3-31. ハリマ化成グループ<4410>、独Henkelからはんだ付け材料事業を取得(2021年12月16日発表)
    32. 3-32. テリロジー<3356>、ITソリューション事業のクレシードを子会社化(2021年3月25日発表)
    33. 3-33. パーカーコーポレーション<9845>、医療・食品用乾燥剤メーカー東海化学工業所を子会社化(2021年2月15日発表)
    34. 3-34. ソーダニッカ<8158>、化学品や合成樹脂輸出入のモリスを子会社化(2015年3月26日発表)
    35. 3-35. ダイソー<4046>、無機化学薬品メーカーの岡山化成を子会社化(2012年3月7日発表)
    36. 3-36. ダイソー<4046>、ガラス繊維輸入販売のインペックスを子会社化(2012年9月3日発表)
    37. 3-37. アルコニックス<3036>、米Univerticalグループを子会社化(2012年11月29日発表)
    38. 3-38. イチネンホールディングス<9616>、機械工具類卸売の前田機工を子会社化(2012年6月20日発表)
    39. 3-39. アイカ工業<4206>、無水マレイン酸メーカーの中国・南京鐘騰化工を子会社化(2019年8月9日発表)
    40. 3-40. JXTGホールディングス<5020>、バイオ医薬2社を富士フイルムに譲渡(2018年3月29日発表)
    41. 3-41. UBE<4208>、ドイツ化学品メーカーのランクセスからウレタン関連事業を取得(2024年10月3日発表)
    42. 3-42. ADEKA<4401>、日本農薬<4997>をTOB等で子会社化(2018年8月21日発表)
  4. 第4章:M&A後に直面する課題と今後の展望
    1. 4-1. PM(ポスト・マージャー)統合における課題
    2. 4-2. グローバル競争激化と選択と集中
    3. 4-3. M&Aとイノベーション創出
    4. 4-4. 地域戦略と現地化
  5. 結論

第1章:化学品業界のM&Aを取り巻く背景

1-1. 国内需要の伸び悩みとグローバル化

日本の化学品市場は、石油化学や基礎化学品から高機能化学品・ファインケミカルまで幅広い分野を網羅しています。一方で、国内市場は人口減少や高齢化などの構造的要因によって、かつてほどの成長は見込みにくい状況にあります。企業にとっては、国内だけで需要を確保するのが難しくなっていることから、海外市場への展開が必須になっています。海外企業の買収や海外の販売網を有する企業の取得を通じて、グローバル化を加速させる動きが強まっているのです。

1-2. 事業ポートフォリオの再構築と選択と集中

化学品業界では、製品の付加価値の高さや新たな用途開発による持続的な成長を求められています。近年は、汎用化学品だけでなく、機能性化学品やバイオ関連、環境対応型製品の分野への投資が急速に進んでいます。大手化学企業がグループ内で競合や重複する事業を整理し、より収益性の高い事業に集中する例も増えています。この動きに合わせ、非中核事業の売却や、他社の有力事業の買収が積極的に行われるようになりました。

1-3. SDGsやカーボンニュートラル対応による構造変化

脱炭素化や環境負荷軽減など、ESG(環境・社会・ガバナンス)要請の高まりがグローバル規模で顕著です。これにあわせ、企業は環境規制対応やグリーン化学品への投資などを強化し、新たな製造プロセス・技術革新に取り組んでいます。化学業界は自動車産業や電子産業と同様に、環境対応技術への投資ニーズが高く、こうした動きは企業買収を通じた技術獲得や、生産拠点再編の形で具体化するケースが見られます。

1-4. 安定供給体制の強化

化学品は幅広い産業の根幹を担う素材です。設備投資や品質保証などが大規模に必要となる一方、国際的な地政学リスクや原材料価格の変動リスクも抱えやすいという特性があります。コスト削減やサプライチェーンの最適化を図るために、海外の製造拠点を取り込む買収、あるいは他社へ製造拠点を譲渡することで供給体制を柔軟に調整するなど、M&Aによってサプライチェーンを再構築する動きも盛んになっています。


第2章:化学品業界M&Aの狙いとメリット

2-1. シナジー効果の追求

M&Aの大きな目的の一つに、シナジー効果(相乗効果)の実現があります。化学業界では、研究開発や生産技術、販売チャネルなど多方面でシナジーを狙うことが可能です。たとえば以下のような場面が想定されます。

  • 技術シナジー
    新製品開発や製造プロセスの高度化、コスト削減につながる技術を相互に活用。
  • 販売シナジー
    買収企業が持つ既存の顧客ネットワークや海外拠点を活用し、新たな市場を開拓。
  • 調達シナジー
    原材料や副資材を大量調達することでコスト削減を図る。
  • 経営資源の最適化
    開発リソースを高付加価値な事業に集中させ、既存事業と合わせて効率的な体制を構築。

2-2. 新規事業領域への進出

既存事業との関連性が低くとも、将来的に成長が見込まれる分野の企業を買収することで、新規事業の柱を育てる戦略があります。バイオ関連や医薬品向け原料、化粧品・食品添加物、あるいは環境対応技術など、多角化を図るための足がかりとしてM&Aが行われます。化学メーカーにとって、従来の汎用品化学品から脱却し、高機能素材やバイオテクノロジー製品へ事業領域を広げることは、競争力強化の重要な一手になります。

2-3. 事業撤退や不採算部門の整理

M&Aは買収に限らず、事業売却や子会社の譲渡といった形で行われます。企業が経営資源をより有望な分野に集中するために、不採算事業から撤退したり、グループ内でシナジーが低い事業を外部に譲渡する事例も多く見られます。化学品事業は投資額が大きくなるうえ、環境規制や安全対策費用などの負担も大きいため、戦略的なリストラや収益性改善のための売却は合理的な判断とされます。

2-4. 海外市場への進出と展開の加速

既にグローバルに展開している大手化学メーカーでも、海外の生産拠点や流通拠点を買収・売却することで、地域ごとの需要動向に合わせた柔軟な体制を構築しようとしています。現地企業の買収や、グループ会社の再編によって、海外マーケットにおけるプレゼンスを強化する動きは今後も続くと考えられます。


第3章:各社のM&A事例

ここからは、提示いただいた具体的なM&A事例を取り上げながら、その背景や目的、期待される成果などを詳しく見ていきます。これらの事例は企業ごとに動機や戦略が異なりますが、共通して見られるのは「経営資源の有効活用」「成長性の高い事業分野への投資」「事業環境の変化への対応」という大きなテーマです。


3-1. 日本曹達<4041>、ゾエティス・ジャパンから森林防疫薬剤・農業用薬剤の販売事業を取得(2017年11月30日発表)

概略
日本曹達が動物用医薬品大手のゾエティス・ジャパンから、森林防疫薬剤・農業用薬剤の販売事業を取得しました。これにより、日本曹達は松枯れ防除薬剤事業で国内トップシェアを獲得し、さらに農業化学品事業のポートフォリオを拡充しました。

背景・目的

  • ゾエティス・ジャパンの事業再編:ゾエティスはファイザーのアニマルヘルス部門が独立して設立された企業で、動物用医薬品を主力としています。その中で、森林防疫薬剤・農業用薬剤の販売事業は主軸から外れると判断されたと考えられます。
  • 日本曹達の成長領域拡大:農薬や森林防疫分野は、国内外で安定需要が見込まれ、既存の日本曹達の製品ともシナジーが期待できる領域でした。この取得により、松枯れ防除薬剤においてトップシェアを確立し、業界ポジションを強化しました。

狙い

  • 既存製品との統合によるシナジー創出
  • 松枯れ防除薬剤の国内シェア拡大
  • 新規分野への進出ではなく、周辺領域を深耕しポートフォリオ強化

3-2. 日清紡ホールディングス<3105>、日立国際電気を子会社化(2023年5月31日発表)

概略
日清紡が無線機器・映像機器で実績を持つ日立国際電気の株式80%を取得し、子会社化しました。日立国際電気は投資ファンド日本産業パートナーズ(JIP)の傘下企業を通じて非公開化していた経緯があり、さらに株式の20%を日立製作所が保有し続ける形です。

背景・目的

  • 日清紡が「無線・通信」「マイクロデバイス」「ケミカル」といった3事業を戦略領域と定める中、今回の買収はDX(デジタルトランスフォーメーション)で需要拡大が見込まれる無線・通信事業をより強化する狙いがあります。
  • 日立国際電気の防災システムや監視制御システムなどの官庁向け強みを取り込み、日本無線との補完関係を作ることでシナジーが期待されます。

狙い

  • 無線・通信分野の事業基盤拡大
  • 官需・公共インフラ分野でのシェア拡大
  • 既存事業(日本無線)との技術・販売連携

※日清紡はこれまで繊維や化学品を中心に事業を展開してきましたが、事業ポートフォリオを変革し、収益性の高い無線・通信分野に注力し始めています。


3-3. 日立物流<9086>、DIC<4631>傘下DICロジテックを子会社化(2010年10月21日発表)

概略
物流大手の日立物流が、化学品の輸送・保管・配送を行うDICロジテックを子会社化し、DICの国内物流業務を一括受託する形になりました。DICロジテックは「日立物流ファインネクスト」に社名変更予定です。

背景・目的

  • 日立物流は「3PL(サードパーティロジスティクス)」事業を強化する戦略を掲げており、化学業界への進出を計画していました。
  • DICロジテックは化学品輸送に強みを持ち、日立物流が得意とする大手企業への一括物流受託ノウハウとの融合により、サービス拡充と安定的な受注が見込まれました。

狙い

  • 新規の化学分野物流への進出
  • DIC関連の国内物流全般を一括管理することで効率化とコスト削減の実現
  • 物流ソリューションの高度化

3-4. 日本化学工業<4092>、ケミカルフィルター製造子会社の日本ピュアテックをミラプロに譲渡(2021年8月11日発表)

概略
日本化学工業は、子会社の日本ピュアテック(ケミカルフィルター・空調設備機器製造)とその子会社のロックゲートを、半導体関連装置メーカーのミラプロに譲渡しました。

背景・目的

  • 日本化学工業は、主力とする化学品製造とのシナジーが低い事業を整理し、経営資源を化学品のコア事業に集中したい狙いがありました。
  • 日本ピュアテックはフィルター関連技術を持ちますが、ミラプロが手がける半導体製造装置分野へのシナジーを高く評価され、譲渡先となったとみられます。

狙い

  • コア事業への選択と集中
  • 事業再編により収益力強化
  • ミラプロ側は半導体領域の製品ラインナップ拡充

3-5. 多木化学<4025>、菌体微生物培養などの洛東化成工業を子会社化(2024年12月2日発表)

概略
多木化学が、菌体微生物の培養や各種酵素剤の製造を手がける洛東化成工業の株式56.3%を取得し、子会社化しました。

背景・目的

  • 多木化学は肥料などを中心としたアグリ事業だけでなく、化学品事業においても事業領域拡大を図っています。
  • バイオスティミュラントや水処理薬剤など、生物関連分野の開発に微生物・酵素技術が必要とされ、洛東化成工業の培養技術が活用できると判断したとみられます。

狙い

  • アグリ事業の高付加価値化(バイオスティミュラントの開発)
  • 化学品事業の拡充(酵素を利用した新製品開発)
  • 微生物培養技術の獲得

3-6. 日産化学工業<4021>、米ダウアグロサイエンスから殺菌剤「チフルザミド」事業を買収(2010年1月18日発表)

概略
日産化学工業が米ダウアグロサイエンス社の殺菌剤「チフルザミド」事業を取得しました。チフルザミドは主に芝や稲などの病害防除に使用される幅広い用途をもつ殺菌剤です。

背景・目的

  • 日産化学は農業化学品を主要事業としており、グローバル展開を加速させる計画を持っていました。
  • ダウアグロサイエンス側は、事業ポートフォリオの見直しなどから特定の農薬事業を売却する意向があったと考えられます。

狙い

  • 国内外で殺菌剤分野を強化し、市場シェアを拡大
  • 農薬領域のグローバル化を推進
  • 豊富な農薬ポートフォリオへの「チフルザミド」追加によるブランド力強化

3-7. 東洋紡<3101>、武生工場などを柳井化学工業へ譲渡(2012年10月15日発表)

概略
東洋紡は、医薬中間体・農薬中間体などを扱うファインケミカル事業の再編の一環として、武生工場の資産を柳井化学工業へ会社分割(吸収分割)の形で譲渡しました。

背景・目的

  • 東洋紡は2010年以降の大型医薬品特許切れに伴い収益性が低下したファインケミカル事業を再編し、高砂工場への集約を進めていました。
  • 柳井化学工業は合成化学品中間体の製造受託拡大を目指しており、生産設備増強先を探していました。

狙い

  • 不採算事業(医薬中間体)の大規模設備維持負担を軽減
  • 柳井化学工業の増産計画への対応
  • ファインケミカル事業の拠点集約による効率化

3-8. 蝶理<8014>、化学品専門商社のピイ・ティ・アイ・ジャパンを買収(2013年1月25日発表)

概略
蝶理がエポキシ関連商材や特殊化学品を開発・販売するピイ・ティ・アイ・ジャパンを買収しました。蝶理は有機化学関連商材を扱う総合商社として、同社の技術・商材を取り込むことで取り扱い領域を拡充しました。

背景・目的

  • 蝶理は機械・化学品事業を柱としており、化学品領域でのラインナップ拡充が課題でした。
  • ピイ・ティ・アイ・ジャパンはエポキシ関連の特殊化学品に強みを持ち、それを取り込むことで顧客への提案力が強化できると判断されたと考えられます。

狙い

  • 化学品の品ぞろえ充実
  • 既存顧客へのクロスセル、ワンストップ・ソリューション提供
  • 新規商材を活用した市場拡大

3-9. 蝶理<8014>、化学製品販売の小桜商会を買収(2018年1月26日発表)

概略
蝶理は潤滑油添加剤や燃料油添加剤など各種化学製品を取り扱う小桜商会を子会社化しました。小桜商会は潤滑油添加剤の国内市場に強固な基盤を持つ老舗企業です。

背景・目的

  • 蝶理の有機化学品関連事業の強化、さらなる業容拡大を目指した買収とみられます。
  • 潤滑油添加剤分野は自動車関連や機械分野など幅広く需要があり、安定した取引先を確保する利点がありました。

狙い

  • 有機化学品事業のポートフォリオ多角化
  • 小桜商会の顧客基盤を取り込み、営業力・供給力を高める
  • 添加剤分野での技術やノウハウを共有し、蝶理グループ全体の収益向上

3-10. 日本触媒<4114>、JSR傘下イーテックを子会社化(2024年11月12日発表)

概略
日本触媒が半導体材料大手JSRの子会社で建築・土木用の防水材などを製造するイーテックを、エマルジョン事業のみを対象に全株式取得しました。ファイン事業はJSRに切り離されたうえで、イーテックはエマルジョン製品事業に特化した形です。

背景・目的

  • 日本触媒は触媒技術を基盤に多様な化学製品を展開しており、建築・土木市場向け化学素材の強化を狙っています。
  • イーテックはエマルジョン事業で確立した重合技術やコンパウンド技術を持ち、建築資材分野でのシェア拡大が期待できます。

狙い

  • 建築・土木分野の製品ラインナップ強化
  • エマルジョン技術による高機能化学品展開
  • 市場拡大に伴うさらなる海外展開の可能性

3-11. 日本ペイントホールディングス<4612>、米化学品企業AOCを子会社化(2024年10月28日発表)

概略
日本ペイントHDが米投資ファンドのローンスターから米化学品企業AOC, LLCなどを傘下に置く持ち株会社を約3340億円で買収し、コーティング剤・接着剤などの周辺製品分野を強化しました。

背景・目的

  • 日本ペイントは塗料事業が主力ですが、それを取り巻く接着剤や色材など周辺化学品への展開を進めています。
  • AOCは建築・インフラ・輸送機器などの分野で不飽和ポリエステルやビニルエステルなどを手がける大手であり、米国や欧州市場での拡販が期待されます。

狙い

  • EPS(一株当たり純利益)向上と株主価値最大化
  • 塗料分野との相乗効果による製品ライン拡大
  • 世界規模での事業プラットフォーム強化

3-12. 日本ペイントホールディングス<4612>、カザフスタンAlina Groupを子会社化(2023年11月13日発表)

概略
日本ペイントHDがモルタル材や塗料を製造するAlina Groupの株式75%を取得し、建設化学品領域への展開を強化しました。カザフスタンを中心に中央アジア4カ国でシェアを持ち、特にドライミックスモルタル材で高いシェアを誇ります。

背景・目的

  • 中長期戦略として、建設化学品(塗料の周辺分野)への拡張を目指している日本ペイントにとって、急成長地域である中央アジアへの足がかりとなります。
  • 現地企業の買収により市場シェアを素早く獲得し、のちの海外事業拡充の拠点とする狙いがあります。

狙い

  • 中央アジアでの事業基盤の早期確立
  • ドライミックスモルタル材や塗料の併売によるクロスセル
  • 建設化学品分野の売上拡大とノウハウ蓄積

3-13. 三井化学<4183>、本州化学工業<4115>をTOBで子会社化(2020年11月11日発表)

概略
三井化学と三井物産は共同で本州化学工業にTOBを実施し、最終的に三井化学51%、三井物産49%とする計画です。本州化学は液晶ポリマーや特殊エポキシ樹脂など高機能樹脂原料を製造します。

背景・目的

  • 三井化学は本州化学を持ち分法適用会社としてきたが、連結子会社化することで研究開発や生産技術など経営資源を投入し、中長期的成長を促進したい考えがあります。
  • 本州化学としても、三井グループの豊富なリソースやグローバルネットワークを活用できるメリットがあります。

狙い

  • 高機能樹脂分野の強化
  • グループ内シナジーで開発スピード向上
  • 対外的な信用力・資本力の強化

3-14. 江守商事<9963>、米SIEFLORの化学品卸売販売事業を取得(2011年10月11日発表)

概略
江守商事が米国子会社を通じて、SIEFLOR CORPORATIONの化学品卸売販売事業を取得しました。江守商事は元々アジア圏が中心でしたが、北米・EUでの販路拡大を図るためのM&Aです。

背景・目的

  • 江守商事は非鉄金属・化学品などを取り扱う専門商社として成長しており、北米市場における拡販が課題でした。
  • 米国での販売ルートを既に持つSIEFLORの事業を取り込むことで、市場参入をスピーディに実現できると考えられます。

狙い

  • 北米市場での存在感拡大
  • アジア圏以外の売上比率増加
  • グローバル調達・販売ネットワークの最適化

3-15. 三谷商事<8066>、シンガポールの食品卸MJIを子会社化(2019年11月28日発表)

概略
三谷商事がシンガポールMJI UNIVERSAL PTE. LTD.の株式70%を取得し、子会社化しました。MJIは畜産用配合飼料の原料輸入や食品卸売を中心に事業を展開しています。

背景・目的

  • 三谷商事は化学品、情報システム、建設資材など多角経営を行っており、新たな成長事業として食品関連にも目を向けています。
  • シンガポールを拠点にアジア諸国にビジネスネットワークを持つMJIの買収により、海外への業容拡大を加速します。

狙い

  • 食品・飼料原料分野での海外事業基盤確立
  • 多角的ポートフォリオの構築
  • 化学品・建設資材との複合的展開(ロジスティクス面など)

3-16. 広栄化学工業<4367>、ペンタエリスリトール事業をスウェーデン企業に譲渡(2015年7月2日発表)

概略
広栄化学工業は、ペンタエリスリトール関連事業をスウェーデンの化学品メーカーPERSTORP ABに譲渡しました。譲渡後、広栄化学はパーストープ日本法人との代理店契約を結び、安定供給をサポートする形を維持します。

背景・目的

  • ペンタエリスリトールのような汎用性化学品の競争はグローバル化が進み、大規模投資が必要になりがちです。広栄化学は収益性や投資負担を考慮し、譲渡を選択しました。
  • パーストープはポリオール分野で世界的に強く、スケールメリットを活かして事業を伸ばせる利点があります。

狙い

  • 主力事業への資源集中
  • グローバル競争への対応(生産集約化)
  • お互いの強みを活かすウィンウィンの関係(代理店契約)

3-17. 月島機械<6332>、高速撹拌機メーカーのプライミクスを子会社化(2020年3月26日発表)

概略
月島機械はプライミクスホールディングスの全株式を取得し、子会社としました。プライミクスは医薬品・化学品・化粧品・食品・電池などの分野に高速撹拌機を提供しています。

背景・目的

  • 月島機械は水処理関連技術や食品・医薬分野の装置を手がけており、撹拌機技術の獲得でプロセス技術を高度化したい狙いがあります。
  • 電池用材料など成長分野への参入を加速し、高性能撹拌機が果たす役割は大きいと考えられます。

狙い

  • 化学的分離技術とのシナジー
  • 医薬品・化粧品・二次電池分野の新規案件獲得
  • 既存事業との相互補完による拡販

3-18. 群栄化学工業<4229>、三井化学<4183>傘下の東北ユーロイド工業を子会社化(2014年3月24日発表)

概略
群栄化学工業が、三井化学の100%子会社だった東北ユーロイド工業(ホルマリンや合成樹脂などを製造)を子会社化しました。

背景・目的

  • 群栄化学工業はホルマリン・尿素樹脂などを生産しており、東北ユーロイドとの統合で生産規模を拡大し、事業基盤を強化する狙いがあります。
  • 三井化学は選択と集中を進める中で、ホルマリン等を扱う子会社を手放す決断をしたと考えられます。

狙い

  • ホルマリン系ビジネスのシェア拡大
  • 相互の製造・販売チャネルを活用してコスト削減
  • 研究開発面での相乗効果

3-19. 三洋貿易<3176>、化学品専門商社のアズロを子会社化(2017年10月12日発表)

概略
三洋貿易が医農薬品中間体や電子材料を中心とする化学品専門商社アズロを子会社化しました。アズロはインドでのネットワーク構築に強みを持ちます。

背景・目的

  • 三洋貿易は化学品事業部があり、海外ネットワーク拡充が課題でした。インド市場の成長性に注目し、アズロのネットワークを取り込む狙いがあります。
  • アズロ側も大手商社グループ傘下に入ることで資金力や営業力を活用できます。

狙い

  • インド市場での事業強化
  • 医農薬品・電子材料など高付加価値分野の拡大
  • グループ内の国際物流・販売チャネル連携

3-20. 三洋化成工業<4471>、中国高吸水性樹脂事業からの撤退・子会社譲渡(2024年3月25日発表)

概略
三洋化成工業は、高吸水性樹脂を製造・販売する中国子会社(三大雅精細化学品)を現地企業に譲渡することを決定しました。あわせて関連会社(SDPグローバルなど)については解散の方針です。

背景・目的

  • 中国における化学品事業環境の変化やコスト増加などを踏まえ、高吸水性樹脂事業の採算性が低下していたと考えられます。
  • カーボンニュートラルやQOL向上に貢献できる新規成長事業へリソースを集中するため、事業撤退を決断しました。

狙い

  • コア事業の再定義と資源集中
  • 中国における収益性低下リスクの軽減
  • 新分野(環境技術・ヘルスケア等)への転換

3-21. 稲畑産業<8098>、化学系専門商社の丸石化学品を子会社化(2023年3月13日発表)

概略
稲畑産業は丸石化学品の株式を追加取得し、持ち株比率を63.58%に引き上げて連結子会社化しました。丸石化学品は化学製品・機械器具の販売や建設・塗装工事などを手がける老舗です。

背景・目的

  • 稲畑産業のコーティング材料、樹脂コンパウンド、無機材料などの事業強化において、丸石化学品の情報収集力や顧客基盤を取り込むことで商社機能を強化できると判断。
  • 関西ペイントなど他株主から株式を買い取ったことで経営関与を深め、グループシナジー最大化を図ります。

狙い

  • 化学品商社としての顧客カバー力向上
  • 建設・塗装など周辺分野への横展開
  • コーティング材料や機能性材料などの販売チャネル拡大

3-22. 丸紅系投資会社が昭和電工<4004>傘下の昭光通商<8090>をTOBで子会社化(2021年3月4日発表)

概略
丸紅系の投資会社アイ・シグマ・キャピタルが昭光通商にTOBを実施し、株式の85.1%を取得しました。昭光通商は昭和電工グループの中核商社として化学品や肥料の国内販売、輸出入を行ってきましたが、親子上場解消の一環です。

背景・目的

  • 親子上場問題の解消と昭光通商の成長機会拡大が主な理由とされています。昭光通商は総合商社グループである丸紅のリソースを活用し、商社機能をフルに発揮する狙いです。
  • 昭和電工は14.9%の株式を残し、一部関与を継続することで化学品供給などの関係を維持します。

狙い

  • コーポレートガバナンスの改善
  • 総合商社丸紅のネットワークを利用した事業拡大
  • 昭和電工側は親子上場解消でグループ経営の透明性向上

3-23. 三井物産<8031>、米セラニーズ傘下の機能性食品素材企業「ニュートリノバ」を買収(2023年6月23日発表)

概略
三井物産は米化学大手セラニーズの子会社であるニュートリノバ・ネザーランズ(機能性甘味料、保存料メーカー)の株式70%を約660億円で取得します。三井物産のフードサイエンス事業強化の一環です。

背景・目的

  • 三井物産は原料や食糧ビジネスで世界的なネットワークを持ち、付加価値の高い食品素材分野への拡張に注力しています。
  • ニュートリノバが手がけるアセスルファムカリウムやソルビン酸などは低カロリー甘味料・保存料として需要が拡大しており、健康志向やフードロス削減の流れに合致すると期待されます。

狙い

  • 機能性食品素材市場でのプレゼンス向上
  • 北米・欧州における販売網確保
  • 三井物産グループによる食関連シナジー創出

3-24. 三井物産<8031>、機能性食品素材メーカーの物産フードサイエンスをポラリス・キャピタルに譲渡(2025年1月15日発表)

概略
三井物産は、糖アルコールなどを製造する子会社・物産フードサイエンスを国内投資ファンドであるポラリス・キャピタル・グループ傘下のPTCJ-7ホールディングスに譲渡する計画です。

背景・目的

  • 三井物産は事業ポートフォリオ再構築を進める中で、機能性食品素材を扱う物産フードサイエンスの位置づけを再評価した可能性があります。一方で、同社の技術や顧客基盤は、投資ファンドを中心に魅力的とされました。
  • 三井物産は他方でニュートリノバ買収など、別の形で機能性食品分野に投資を行っており、優先度を選別した結果とも考えられます。

狙い

  • 不要資産やポートフォリオの整理
  • ファンド傘下での経営改善と成長期待
  • 主力事業とする他分野への集中

3-25. 三井物産<8031>、医薬・化学品事業のエムビーエスを子会社化(2011年4月25日発表)

概略
三井物産は、メルシャンの医薬・化学品事業を継承したエムビーエス(後の日本マイクロバイオファーマ)の全株式を取得し、バイオ関連事業への進出を図りました。

背景・目的

  • 三井物産は化学品・医薬品の製造支援事業に注目しており、エムビーエスの独自技術(発酵技術×バイオテクノロジー)を活用することで、中長期的な製品開発を進めたい思惑がありました。
  • 中国市場へのアプローチ(深圳萬楽薬業有限公司など)も視野に入れており、グローバル展開の足掛かりです。

狙い

  • 医薬品製造支援技術の獲得
  • 中国市場への進出
  • 化学品事業との相互補完

3-26. 伊藤忠商事<8001>、化学品メーカーのタキロンシーアイ<4215>をTOBで完全子会社化(2024年8月5日発表)

概略
伊藤忠商事は化学品メーカーのタキロンシーアイを完全子会社化するためにTOBを実施しました。買付代金は最大376億1200万円を見込みます。タキロンシーアイは建築資材や農業資材などを幅広く取り扱います。

背景・目的

  • タキロンシーアイは元々伊藤忠が55.69%保有する子会社でしたが、経営を一体化し、事業環境の変化に迅速に対応する狙いがあります。
  • 脱プラスチックや海外調達戦略の再構築など、総合商社の支援により新たな成長戦略を加速させたい背景があると考えられます。

狙い

  • 事業領域の拡大と意思決定の迅速化
  • グローバル展開の推進(伊藤忠の海外ネットワーク活用)
  • 化学品分野へのさらなる投資機会創出

3-27. マナック・ケミカル・パートナーズ<4360>、化学品製造販売の八幸通商を渡辺化学工業に譲渡(2024年2月29日発表)

概略
マナック・ケミカル・パートナーズは子会社マナックを通じて保有していた八幸通商の株式90%を譲渡しました。八幸通商は中国拠点をかつて持っていましたが、2018年に売却してから事業の相乗効果が見込めなくなっていました。

背景・目的

  • マナックグループはファインケミカル品などに注力してきましたが、中国における事業再編後、八幸通商とのシナジーが薄れたため、売却による整理を決断したとみられます。
  • 渡辺化学工業は化学品分野での事業拡充や拠点強化を狙って買収した可能性があります。

狙い

  • グループ内で役割の薄れた事業の切り離し
  • キャッシュの獲得と主力事業への再投資
  • 買収企業による新たな発展余地

3-28. マナック<4364>、化学品製造事業の八幸通商を子会社化(2008年~2009年の動き)

概略
マナックは2009年に八幸通商を子会社化し、中国子会社を活用して化学品・医薬品事業の拡充を目指しました。しかし、その後の環境変化などを受け、最終的に2024年に譲渡に至りました。

背景・目的(当時)

  • 八幸通商が中国子会社を通じて別分野の化学品を取り扱っており、マナックとは補完関係があると判断しての子会社化でした。
  • 中国市場への進出や医薬中間体などの相互開発が期待されました。

最終的な経緯

  • 中国における化学品製造環境の激変や競争激化により、継続が難しくなり、子会社売却(2018年)→さらに八幸通商本体の譲渡(2024年)へとつながりました。

3-29. マナック<4364>、ファインケミカル品製造の中国子会社を現地社に譲渡(2018年9月28日発表)

概略
マナックは南京八幸薬業科技有限公司の全株式を中国企業に譲渡。中国での化学品製造環境の変化を踏まえ、拠点整理を進めた事例です。

背景・目的

  • 中国での環境規制や人件費上昇など、事業コストが増大。特に化学プラントに対する規制が強化された影響が大きいと見られます。
  • マナックは上海の貿易子会社(曼奈科(上海)貿易)を中心に事業を続ける一方、製造拠点は撤退を選択しました。

狙い

  • 収益性改善とリスク回避
  • 中国内での製造よりも輸入販売や代理店ビジネスにシフト
  • グループ全体の生産拠点再編

3-30. バルカー<7995>、フッ素樹脂加工製品製造の中国子会社を現地社に譲渡(2022年6月29日発表)

概略
バルカーはフッ素樹脂加工製品を製造する上海子会社の持ち分51%を、中国の深圳市沃特新材料に譲渡しました。残り49%は引き続き保持します。

背景・目的

  • 中国市場でのさらなる事業拡大には、現地資本との協業が不可欠と判断し、株式の過半を譲渡。
  • 中国企業との共同経営体制を構築することで、規制対応や販路拡大を柔軟に行えるというメリットがあります。

狙い

  • 中国内の事業運営上のリスク分散とスピード化
  • 共同での研究開発や投資を可能にし、成長に備える
  • バルカーとしては完全撤退ではなく、支配権を放棄しつつも連携は維持

3-31. ハリマ化成グループ<4410>、独Henkelからはんだ付け材料事業を取得(2021年12月16日発表)

概略
ハリマ化成ははんだ事業の拡大を目的に、ドイツ・Henkelから欧米・アジアのはんだ付け材料事業を取得しました。Henkelは世界的な化学品メーカーで、洗剤・化粧品・接着剤など多角的に展開しています。

背景・目的

  • ハリマ化成の電子材料事業であるソルダーペーストなどはロジン(松脂)を原料としており、グローバル展開を強化したい意向がありました。
  • Henkel側は事業の整理・集約の一環で一部事業を切り離し、よりコア領域に集中する戦略を進めています。

狙い

  • はんだ事業の生産規模拡大と効率化
  • 新たな顧客層(欧米地域)へのアクセス
  • 事業ラインアップ拡充による電子材料分野の競争力強化

3-32. テリロジー<3356>、ITソリューション事業のクレシードを子会社化(2021年3月25日発表)

概略
テリロジーは、ITサービスを手がけるクレシードの株式90%を取得。クレシードは油・化学品の専門商社カネダの情報システム部門が分社化した企業です。

背景・目的

  • テリロジーはセキュリティソリューションやネットワーク関連事業を中心としており、中小企業向けのITサービスまで取り込むことで顧客層拡大を狙っています。
  • 化学品専門商社が母体のクレシードは、化学業界の業務知識を活かしたITソリューションに強みがあり、テリロジーとしては業種特化型ビジネスにも応用可能です。

狙い

  • 顧客基盤の相互乗り入れ
  • ソリューションポートフォリオ拡張
  • 中小企業向けITサポート分野の強化

3-33. パーカーコーポレーション<9845>、医療・食品用乾燥剤メーカー東海化学工業所を子会社化(2021年2月15日発表)

概略
パーカーコーポレーションは機械事業や化成品事業などを展開していますが、医療用・食品用乾燥剤の製造元である東海化学工業所を子会社化し、新たな事業ドメインを強化します。

背景・目的

  • パーカーコーポレーションは広範な事業を持ちますが、医療・食品分野は安定需要が見込まれます。乾燥剤の分野は医薬・食品の品質保持に直結する重要な素材です。
  • 東海化学工業所はニッチながら高い技術力を持ち、マーケットで安定的に需要を獲得しているため、グループとして収益源拡大が期待できます。

狙い

  • 医療・食品分野への展開によるポートフォリオ多様化
  • 化学品事業との連携による販路拡大
  • 乾燥剤技術を応用した新規分野開拓

3-34. ソーダニッカ<8158>、化学品や合成樹脂輸出入のモリスを子会社化(2015年3月26日発表)

概略
ソーダニッカはモリスの全株式を取得し、東南アジア市場を中心に展開している化学品・合成樹脂の輸出入ビジネスを強化します。モリスはベトナムとの結びつきが強い企業です。

背景・目的

  • ソーダニッカは中国・インドネシアでの事業実績がありますが、さらなるASEAN地域の需要を取り込みたい意向がありました。
  • モリスのベトナムネットワークを活用することで、ASEAN各国での商流拡大を期待できます。

狙い

  • ASEANでの市場シェア拡大
  • 現地の企業や顧客への素早いアプローチ
  • 化学品分野の事業領域のさらなる拡充

3-35. ダイソー<4046>、無機化学薬品メーカーの岡山化成を子会社化(2012年3月7日発表)

概略
ダイソーは旭化成ケミカルズとの合弁会社であった岡山化成を完全子会社化しました。岡山化成は無機化学薬品の製造販売を手がけます。

背景・目的

  • ダイソーは基礎化学品(エピクロルヒドリン、アリルアルコールなど)を主力とするメーカーであり、岡山化成の無機化学薬品分野を取り込むことで基礎化学品事業の拡充を狙います。
  • 合弁体制からダイソー単独子会社となることで、意思決定や投資方針を一貫させ、スピード感ある経営が可能となります。

狙い

  • 基礎化学品のラインアップ拡大
  • 経営効率化とスピードアップ
  • 将来的に新技術開発や投資を円滑化

3-36. ダイソー<4046>、ガラス繊維輸入販売のインペックスを子会社化(2012年9月3日発表)

概略
ダイソーが中国ガラス繊維メーカーなどの代理店として輸入販売を行うインペックスを子会社化し、海外有力メーカーとの関係を活用して機能化学品事業を強化します。

背景・目的

  • ダイソーの機能化学品(エラストマー、樹脂等)との補完関係を期待。ガラス繊維など複合材料との相乗効果で新しいアプリケーション展開を図ります。
  • インペックスは海外サプライヤーとの関係が強く、ダイソーのグローバル調達力アップにも寄与すると考えられます。

狙い

  • 機能材料ビジネスの拡充
  • グローバル調達ネットワークの獲得
  • 新規顧客層への提案拡大

3-37. アルコニックス<3036>、米Univerticalグループを子会社化(2012年11月29日発表)

概略
非鉄金属専門商社のアルコニックスが米Univerticalグループを買収し、銅製品やめっき用化学品などの生産拠点を米国・中国に持つ体制を確保しました。

背景・目的

  • アルコニックスは非鉄金属の販売・輸出入を行っており、米国や中国市場での製造拠点を手に入れることでサプライチェーンを強固にできます。
  • Univerticalは自動車・エレクトロニクス等幅広い顧客を持ち、海外売上拡大を狙うアルコニックスにとって魅力的な存在でした。

狙い

  • グローバル展開の加速(北米・中国への販路強化)
  • 非鉄金属や表面処理用化学品などの製品ライン拡充
  • スケールメリットによるコスト削減

3-38. イチネンホールディングス<9616>、機械工具類卸売の前田機工を子会社化(2012年6月20日発表)

概略
イチネンホールディングスは自動車リースや化学品など複数事業を展開しており、機械工具類卸の前田機工を子会社化することで相互の販売チャネルを活用します。

背景・目的

  • イチネンの取引先である自動車整備工場やディーラー、前田機工の顧客である多様な工場へのクロスセルが可能です。
  • 化学品(潤滑油など)との併売による相乗効果が期待されます。

狙い

  • 互いの顧客基盤を活かした販売拡大
  • 建機・自動車関連領域でのクロスセル戦略
  • グループ事業の総合力強化

3-39. アイカ工業<4206>、無水マレイン酸メーカーの中国・南京鐘騰化工を子会社化(2019年8月9日発表)

概略
アイカ工業の中国子会社が無水マレイン酸(MA)の製造設備を持つ南京鐘騰化工を買収しました。建築用・産業用接着剤や樹脂製品の需要増に対応するためです。

背景・目的

  • アイカ工業はダイネア南京社として、接着剤・樹脂の中国生産を行っていますが、需要拡大に対して生産能力が追いつかない問題がありました。
  • 隣接する南京鐘騰化工を買収することで、大規模設備を獲得し素早い生産体制増強が可能となりました。

狙い

  • 建築接着剤・樹脂分野の中国国内シェア拡大
  • 原料供給の安定化と生産効率向上
  • 今後のアジア市場へのさらなる進出

3-40. JXTGホールディングス<5020>、バイオ医薬2社を富士フイルムに譲渡(2018年3月29日発表)

概略
石油精製・化学大手のJXTGホールディングスは、バイオ医薬品を扱う米アーバイン・サイエンティフィックとアイエスジャパンを富士フイルムに約852億円で譲渡しました。

背景・目的

  • JXTG(現ENEOS)は石油精製・化学品がコアであり、バイオ医薬は関連が薄い事業領域と考えられます。事業ポートフォリオ整理の一貫とみられます。
  • 富士フイルムは再生医療やバイオ医薬に積極投資しており、培地製造などの新分野強化につなげたい思惑があります。

狙い

  • 石油・化学事業へのリソース集中
  • 買収先企業(富士フイルム)による医薬品事業の拡充
  • 双方にとっての経営資源最適化

3-41. UBE<4208>、ドイツ化学品メーカーのランクセスからウレタン関連事業を取得(2024年10月3日発表)

概略
UBEは独ランクセスのウレタン関連製品事業(米国、ブラジル、英国、中国などの9社)を約736億円で買収します。UBEにとっては熱硬化性ウレタンエラストマー用プレポリマーなど高機能ウレタン樹脂の強化が狙いです。

背景・目的

  • UBEはナイロン樹脂や合成ゴムなど幅広い化学製品を扱いますが、高機能ウレタン樹脂市場は需要が拡大しており、製品ポートフォリオを補完したい意向があります。
  • ランクセスは非コア事業を整理し、より収益性の高いスペシャリティケミカルへ注力する方針をとっています。

狙い

  • グローバル生産拠点獲得によるウレタン事業の拡大
  • 顧客・販路の相乗効果
  • 高機能製品ラインナップのさらなる充実

3-42. ADEKA<4401>、日本農薬<4997>をTOB等で子会社化(2018年8月21日発表)

概略
ADEKAは、日本農薬を持ち分法適用会社から連結子会社化するためにTOBと第三者割当増資の引き受けを行いました。TOB買付価格は1株900円、第三者割当増資は1株670円で、最終的に51%を取得します。

背景・目的

  • ADEKAは食品添加物や樹脂添加剤など多角事業を展開しており、ライフサイエンス分野を第4の柱とする方針を掲げています。日本農薬はかつて旭電化工業(ADEKAの前身)の農薬部門が独立した企業で、深いつながりがありました。
  • 農薬分野と化学品分野を組み合わせ、研究開発の相乗効果を最大化する狙いがあります。

狙い

  • 農薬の研究開発強化、グローバル展開の加速
  • グループ経営体制をより一体化し、スピード感ある意思決定
  • 食品・化学・医薬・農薬といったライフサイエンス関連事業のポートフォリオ拡充

第4章:M&A後に直面する課題と今後の展望

4-1. PM(ポスト・マージャー)統合における課題

化学品業界では、買収後の統合プロセス(PMI)が重要です。具体的には以下が課題となりやすいです。

  1. 技術面の融合
    製造手法や品質管理基準、環境規制の違いを統合する必要があります。
  2. 企業文化の相違
    海外企業との統合では、組織風土や経営慣行の違いが障壁となる場合があります。
  3. サプライチェーン連携
    在庫管理や原材料調達の最適化、販売網の共有など、業務フローを一本化するには時間とコストがかかります。

4-2. グローバル競争激化と選択と集中

世界経済の不透明感が高まる中、化学品市場の競争は一層激しくなっています。巨大な投資余力を持つ海外メジャーとの競合に勝ち抜くためには、低収益部門の売却と高付加価値部門への積極投資を同時に進める必要があります。環境規制の強化などに対応するため、新素材やグリーン化学領域へのシフトも継続して進められるでしょう。

4-3. M&Aとイノベーション創出

化学品業界においては、新技術の獲得や研究開発力の強化を目的としたM&Aが重要になっています。バイオテクノロジーやナノテクノロジー、環境対応製品など、急速に成長が見込まれる分野では企業の買収や共同研究を通じてスピード感を持ってイノベーションを起こすことが不可欠です。

4-4. 地域戦略と現地化

中国や東南アジアをはじめ、新興国市場は今後も大きな潜在需要が期待されます。ただし、現地での規制対応や人件費上昇などリスク要因も多く、製造拠点や販売拠点の配置には慎重な判断が求められます。現地企業やパートナーとのアライアンス、あるいは合弁という形でのM&Aがさらに増える可能性があります。


結論

化学品業界のM&Aは、国内需要の頭打ちを受けた海外展開の加速だけでなく、事業ポートフォリオの再構築や環境規制への対応、バイオ関連・機能性化学品への参入など、非常に多面的な要因で進められています。事例を見ても、非中核事業を切り離しコア事業に集中する動き、あるいは新市場・新技術への果敢なチャレンジが顕著に表れています。

これからの化学品業界は、従来の汎用品中心から付加価値の高い領域へとシフトする流れが一層強まると予想されます。さらにグローバルサプライチェーンの複雑化や環境・安全面での要求水準の高度化など、企業を取り巻く制約条件は増すばかりです。そうしたなか、M&Aを的確に活用し、経営資源を最適化していくことが、企業の存続と成長に欠かせない要素になっているといえます。

本記事で取り上げた事例は、数多くのM&Aのうちの一部にすぎませんが、化学品業界における特徴的な動機やプロセス、狙いが凝縮されています。国内市場の縮小や国際競争の激化といった逆風もある一方、バイオやグリーンケミストリーなどの新分野は拡大基調にあります。化学メーカーに限らず、商社や投資ファンドも積極的に動いており、業界全体がダイナミックに変化し続けている状況です。

日本企業が強みとする技術力や品質管理ノウハウは、海外市場でも高く評価されています。これを武器に、M&Aを通じてグローバルに事業領域を拡充していくことは、今後ますます重要になるでしょう。一方で、M&Aの成功には、買収後の統合プロセスをどこまでスムーズに進められるかがカギとなります。文化や経営手法の違いに加え、製造プロセスや品質標準の統一など技術面での統合課題も多岐にわたります。こうした課題をクリアするには、現地の法規制やビジネスマナーを熟知した人材の育成やマネジメント体制の整備が欠かせません。

また、環境意識の高まりやSDGsの普及によって、化学品産業は従来型の大量生産・大量消費モデルだけでは対応が難しくなっています。低炭素社会や循環型社会への移行に向けて、化学技術のイノベーションが求められ、企業は競争と協調を繰り返しながら生き残りをかける構図が続きます。こうした社会的要請への対応も、M&Aによって必要な技術や企業文化を素早く吸収できる手段となり得るわけです。

総括すると、化学品業界のM&Aは単なるスケール拡大や海外進出にとどまらず、「環境対応や新分野進出を見据えたポートフォリオ最適化」「技術革新やオープンイノベーションの加速」といった多層的な戦略要素を含んでいます。各企業は自社の強みをどこに見いだし、どの領域を買収や統合で伸ばすのか、あるいはどの事業を譲渡して集中するのか――その戦略判断が、今後の業界勢力図を大きく左右していくでしょう。

化学品産業は自動車や電子産業同様に、世界規模のサプライチェーンと技術革新サイクルの影響を強く受けます。国内での限られた需要に閉じこもるのではなく、M&Aを活用しながら海外市場でのポジションを築き、環境対応やデジタル化への対応を加速することが、企業の中長期的な成長に寄与するのは間違いありません。

本稿が、化学品業界で実際に行われているM&Aの全貌と、その背景にある企業の思惑・戦略の一端を知る参考となれば幸いです。