- 1. はじめに:給食・食堂業界の概要
- 2. 給食・食堂業界のM&A増加の背景
- 3. M&Aの目的と主なシナジー効果
- 4. 給食・食堂業界特有の経営課題とM&Aによる対応
- 5. 近年の主なM&A事例と背景・狙いの考察
- 5.1 中西製作所による厨房機器製造会社の買収(2022年11月)
- 5.2 日清医療食品による日京クリエイトの給食事業買収(2010年4月)
- 5.3 日清医療食品のTOB(非公開化)事例(2010年10月)
- 5.4 松屋による不採算事業譲渡と構造改革(2012年8月・2020年12月)
- 5.5 森永製菓による森永フードサービスの譲渡(2011年5月)
- 5.6 京進によるリッチの子会社化(2019年4月)
- 5.7 御園座による老人ホーム事業の売却(2013年5月)
- 5.8 三井物産によるエームサービスの完全子会社化(2023年2月)
- 5.9 ヤマタネによるショクカイの子会社化(2023年8月)
- 5.10 トーホーによる業務用食品卸会社の買収・子会社化事例
- 5.11 トータル・メディカルサービスによるケイエム(医薬品卸と病院内給食)事業(2011年12月)
- 5.12 マルイチ産商によるナガレイの子会社化(2010年5月)
- 5.13 シップヘルスケアHDによるキングラン買収と給食事業(2022年4月)
- 5.14 セントラルフォレストグループによる三給の子会社化(2021年4月)
- 5.15 ツナググループHDによるユメックスグループ買収と給食求人(2019年5月)
- 5.16 日本ハウズイングによるMESファシリティーズ買収(2021年12月)
- 5.17 シダックスをめぐるオイシックスとのTOB・MBO関連事例(2022~2023年)
- 5.18 松屋・アターブルグリーンレストラン売却事例(2012年8月)
- 5.19 コロワイドによる病院・介護給食企業の買収例(2024年2月)
- 5.20 ウェルディッシュによるグランドルーフ買収事例(2024年11月)
- 5.21 アスモ(旧シンワオックス含む)の給食・介護事業関連の事例
- 5.22 オーシャンシステムによるフーディー買収など弁当給食事例
- 5.23 ジェイコムHDによるジャパンコントラクトフード買収と売却
- 5.24 LEOCの介護サービス撤退とMBO(2008年)
- 5.25 AFC‐HDアムスライフサイエンスの海外ケータリング企業買収(2022年12月)
- 5.26 CSSホールディングスによるヤマト食品買収と譲渡
- 5.27 総合メディカルによる病院内売店・食堂企業の買収
- 5.28 東京急行電鉄のスキー場事業(食堂運営含む)譲渡
- 5.29 佐渡汽船による小木観光・佐渡汽船商事の子会社化
- 5.30 ロイヤルHDによるSA・PA施設フード事業買収(2019年11月)
- 5.31 丸栄による国際フードサービスの売却
- 5.32 ホンダによるホンダ開発の完全子会社化(2021年5月)
- 5.33 ホシザキによる中国厨房機器施工会社買収(2022年7月)
- 5.34 フジオフードシステムの飲食店買収事例(「どん」「グレートイースタン」「土山人」など)
- 5.35 いなげやによる三浦屋買収と譲渡(学校給食食材卸を含む)
- 5.36 その他関連事例(シダックスアイの売却など)
- 6. 今後の展望と課題
- 7. まとめ
1. はじめに:給食・食堂業界の概要
給食・食堂業界は、企業や工場、学校、病院、介護施設などの幅広い施設に対し、食事を提供する事業を主としています。この分野では社員食堂運営や、入院患者向けの病院給食、高齢者向けの介護施設給食、小中学校の給食など、多岐にわたるサービスが存在します。近年は労働力不足や食材費の高騰、衛生管理やアレルギー対応など課題が増加しており、業界には大手企業による運営受託や外資・投資ファンドの参入も目立ちます。
さらに新型コロナウイルス感染拡大など、社会的・経済的環境の大きな変化が、給食事業の受託先である学校・企業・病院などに影響を与え、一時的なサービス停止や事業縮小を余儀なくされた事業者も少なくありません。そのため、M&Aによって経営の安定化を図りたい、あるいは拠点・業態の拡大で収益源を増やしたいといった動きが加速している傾向にあります。
2. 給食・食堂業界のM&A増加の背景
給食・食堂業界ではこれまでも徐々に企業再編が進んでいましたが、近年のM&A増加には以下のような背景があると考えられます。
- 経営環境の変化
- 少子高齢化や労働人口の減少により、学校給食や社員食堂などの利用者数が伸び悩む可能性。
- 外食産業やコンビニエンスストアとの競合が激化し、食事スタイルが多様化。
- コスト上昇への対応
- グローバルな食材相場の高騰、国内の物流コスト・人件費の上昇が避けられなくなっている。
- 規模の経済を追求し、仕入れコストを抑えながら効率的に運営する必要がある。
- 人材確保の難しさ
- 給食・食堂事業は調理スタッフや管理栄養士など人手が必要不可欠だが、人材不足により採用コストが上昇。
- 大企業グループ傘下になることで雇用環境が安定し、人材を確保しやすくなるメリット。
- サービスの高度化と多様化
- 高齢者や食事制限が必要な方への配慮として嚥下食・介護食の開発が進む一方、企業・学校からは健康経営の一環として「健康食」「ウェルネス」へのニーズが増大。
- 栄養管理、メニュー開発、衛生管理などの専門性向上には投資が必要であり、M&Aで他社ノウハウを取り込む動きが活発化。
- 他事業領域とのシナジー
- 病院・福祉分野ではリネンサプライなど総合サービスが求められ、給食だけでなく調剤薬局運営や福祉用具レンタルなどと組み合わせる動きも見られる。
- 外食企業が店舗で培った調理や商品開発力を、給食部門にも生かそうとする事例も増加。
これらの要因が複雑に絡み合い、給食・食堂業界では企業同士の統合や外部企業への事業譲渡を通じて、今後の生き残りをかけた再編が進むものと考えられます。
3. M&Aの目的と主なシナジー効果
給食・食堂業界のM&Aには、以下のような狙いやシナジーが期待されるケースが典型的です。
- 事業規模拡大によるコスト削減
- 食材仕入れのスケールメリットにより、原価率を低減できる。
- 給食施設に対応する物流網を広げることで、輸送コストの効率化が期待できる。
- 受託先・業態の多様化
- 病院給食や学校給食、社員食堂、福祉施設など、複数の分野で受注先を広げることでリスク分散。
- コロナ禍などで特定顧客の利用が激減しても、別の市場で売り上げを補完することができる。
- 専門性・ノウハウの相互補完
- 介護食や医療食のノウハウを持つ企業と、調理技術・外食展開に強みを持つ企業が組むと、双方の品質向上につながる。
- 大手総合商社や物流会社による買収は、サプライチェーン全体の効率化を通じて、給食事業の安定経営を後押しする。
- 人材確保と教育システム強化
- 大手企業のブランド力や給与水準、教育体制を利用できることで、現場スタッフの採用がしやすくなる。
- 衛生管理・栄養管理などの専門人材の育成・確保にもメリット。
- 資本力強化による長期投資
- 大規模投資(厨房設備の刷新、工場の新設、IT導入など)を行いやすくなる。
- 既存事業のテコ入れや新規施設の開設も積極的に行える。
このように、給食・食堂事業者はM&Aを通じて規模や専門性を高め、市場環境の変化に対応しようとしています。また外部業種からの参入も、安定した需要が見込める給食市場を取り込みたい意図や、事業領域の拡張によるリスク分散が狙いとなっています。
4. 給食・食堂業界特有の経営課題とM&Aによる対応
給食・食堂業界は、外食に比べると公共性や継続的な受託が確保されやすい分野ではありますが、次のような課題も存在します。
- 利益率の低さ
- 公共性やコスト抑制意識の高い受託先が多いため、受託価格が厳格に決められ、利益率が外食より低くなりがちです。
- そのため原価管理や人件費のコントロールが非常に重要になります。M&Aにより効率化を図るケースが多く見受けられます。
- 人手不足とサービス水準の維持
- 調理スタッフ不足や、管理栄養士や給食運営全般をマネジメントできる人材の確保が難しい。
- M&Aでグループ全体の人事・採用システムを一本化し、現場人材の流動性を高めたり、採用力を高める狙いがある。
- 衛生管理・品質管理の厳格化
- HACCP対応やアレルギー対策など、食品衛生面の厳しい基準や関連投資が求められる。
- 大手グループ傘下に入ることで、設備投資や衛生管理システムの導入を促進できる。
- 契約更新のリスク
- 多くの給食契約は数年ごとの入札や更新で決まる。競合他社が参入するリスクがあり、事業の安定性を損なう可能性がある。
- 受託先分散や複数業態を抱える企業をM&Aで取り込むことで、契約更新リスクを平準化できる。
以上のような課題に対して、M&Aは単なる事業規模拡大にとどまらず、それぞれの分野でノウハウの集積や人材強化、設備投資力の向上など多角的な効果が期待されます。
5. 近年の主なM&A事例と背景・狙いの考察
ここでは、給食・食堂業界に関連して公表されている具体的なM&A事例を、いくつか取り上げます。各社の事例を細かく見ることで、この業界での再編がどのように進んでいるか、その背景や狙いがより明確になります。
5.1 中西製作所による厨房機器製造会社の買収(2022年11月)
- 概要: 業務用厨房機器メーカーの中西製作所が、板金製品製造の三協機設を買収し子会社化。
- 背景・狙い: 厨房機器事業の基盤強化。厨房設備一体での受注体制を強化して学校給食や外食向けの受注を安定化させたい考え。
- ポイント: 学校や医療機関など公共性の高い給食業界では、耐久性や衛生管理に対する要望が強い。製造ノウハウを共有して効率化を図り、差別化を進めるとみられる。
5.2 日清医療食品による日京クリエイトの給食事業買収(2010年4月)
- 概要: 医療機関や福祉施設向けの給食受託を主力とする日清医療食品が、事業所向け給食を手掛ける日京クリエイトの給食事業を取得。
- 背景・狙い: 病院・福祉施設だけでなく、企業や学校の事業所給食部門にも事業領域を拡大し、総合的な給食受託企業へ成長する戦略。
- ポイント: 訪問先・施設ごとに異なる食事要求(アレルギー配慮、病院食、学校給食など)を一括で請け負える体制を整えることが競争力に直結。
5.3 日清医療食品のTOB(非公開化)事例(2010年10月)
- 概要: 親会社ワタキューセイモアによるTOBにより、日清医療食品が株式非公開化。
- 背景・狙い: 病院・福祉施設向け給食業界は仕入れコストや人件費の変動が激しく、短期的な利益よりも中長期的な投資や体制整備が重要。非公開化で迅速な対応と長期成長を目指す。
- ポイント: 病院関連企業のワタキューセイモアと連携しやすい体制を作ることで、医療領域全体にわたるサービス展開が可能になる。
5.4 松屋による不採算事業譲渡と構造改革(2012年8月・2020年12月)
- 概要: 百貨店の松屋が、ゴルフ場レストラン受託を行うアターブルグリーンレストランを魚国総本社に譲渡。後に子会社4社の希望退職募集。
- 背景・狙い: 中期経営計画の中で、不採算・低収益事業の整理と収益事業への集中を図った。婚礼宴会やレストラン受託はコロナ禍で深刻な打撃を受けたが、根本的に低収益だったという判断もあり事業譲渡を選択。
- ポイント: 給食事業は非常に安定的と見られがちだが、経営母体の方針によっては撤退も行われる。魚国総本社が買収することで給食事業の規模が拡大し、双方にメリットがあったと考えられる。
5.5 森永製菓による森永フードサービスの譲渡(2011年5月)
- 概要: 森永製菓が、給食・レストラン運営の森永フードサービスを西洋フード・コンパスグループに売却。
- 背景・狙い: 森永製菓はお菓子・食品事業に資源を集中させる「選択と集中」の一環として給食・レストラン事業を切り離す。
- ポイント: 大手外食や給食受託専門企業が食品メーカーの外食・給食部門を取り込む事例として典型的。ノウハウ継承と顧客基盤拡充につながる。
5.6 京進によるリッチの子会社化(2019年4月)
- 概要: 学習塾大手の京進が、給食事業(リッチ)を子会社化。
- 背景・狙い: 介護食を含む配食サービス事業でシナジーを図り、フードサービス分野を拡大。
- ポイント: 教育企業が介護・給食領域へ進出し、学習塾以外の安定収益源を確保する動き。高齢化社会のニーズと親和性がある。
5.7 御園座による老人ホーム事業の売却(2013年5月)
- 概要: 御園座が有料老人ホーム事業を、医療コンサル・給食・配食事業を手がけるのぞみに売却。
- 背景・狙い: 劇場事業再開発の期間中に大胆な合理化を進めるための一環。介護・医療分野で専門性を持つのぞみに売却することを選択。
- ポイント: 老人ホーム内の給食は利用者数の安定需要が見込まれる一方、介護や医療ノウハウが不可欠。専門事業者へ譲渡して持続的に事業を存続させる意図。
5.8 三井物産によるエームサービスの完全子会社化(2023年2月)
- 概要: 三井物産がアラマーク(米国)との合弁だった給食大手エームサービスを完全子会社化。
- 背景・狙い: 三井物産は食・健康分野を重視しており、国内給食最大手クラスのエームサービスを100%子会社化することで、ウェルネス分野の事業拡大を図る。
- ポイント: エームサービスは病院、社員食堂、スポーツ施設など多様な受託先を持ち、1日約130万食を提供。商社の総合力でさらなる拡大を狙う。
5.9 ヤマタネによるショクカイの子会社化(2023年8月)
- 概要: 物流・食品事業を展開するヤマタネが、弁当・給食向け業務用食品卸のショクカイを子会社化。
- 背景・狙い: 外食産業向け玄米販売などの事業からさらに業務用食品卸を強化し、経営の第二の柱として食品事業の拡大を目指す。
- ポイント: 弁当・給食向けのノウハウを取り込むことで多角化が進み、食品事業の付加価値を高められる。
5.10 トーホーによる業務用食品卸会社の買収・子会社化事例
- 概要: トーホーが河原食品や関東食品などを相次いで買収し、持分法適用会社化から子会社化へ移行。
- 背景・狙い: 群馬県・埼玉県の学校給食や病院給食に強い関東食品を取り込むなど、地域の給食分野でシェア拡大を図る。
- ポイント: 給食事業者向けの卸売のネットワークを広げ、仕入れ・物流の効率化と地域密着を強化。
5.11 トータル・メディカルサービスによるケイエム(医薬品卸と病院内給食)事業(2011年12月)
- 概要: 医薬品卸売事業を行う子会社(ケイエム)を傘下に持つメディックスジャパンHDを買収。ケイエムは病院内給食事業も手がける。
- 背景・狙い: 調剤薬局中心の同社が、多角化を図るために病院向けの給食やリネンサプライ等へのサービス拡充を狙った。
- ポイント: 病院内でのサービス拡充により医療機関との取引を強化。ワンストップの医療支援体制を構築する動き。
5.12 マルイチ産商によるナガレイの子会社化(2010年5月)
- 概要: 食品卸売のマルイチ産商が、業務用食品卸売のナガレイを買収。小売・外食・事業所給食向けのフードサービス拡大が狙い。
- ポイント: 業務用マーケットへの販売事業を拡大する方針に基づき、県内トップクラスの取扱高を持つナガレイを取り込むことで一気にシェアを高める。
5.13 シップヘルスケアHDによるキングラン買収と給食事業(2022年4月)
- 概要: シップヘルスケアHDが医療・介護施設向けカーテンリースのキングランを子会社化。キングランは什器・備品、清掃、リフォーム、福祉車両販売、給食など幅広く展開。
- ポイント: 医療周辺領域のサービスを強化し、病院・介護施設に包括的なソリューションを提供できる体制を作る。給食事業も含めたワンストップサービスが重要。
5.14 セントラルフォレストグループによる三給の子会社化(2021年4月)
- 概要: 食品卸のトーカン(同グループ)が給食向け食品卸の三給を買収。
- 背景・狙い: 三給が強みとする給食市場への新規参入と中食・総菜向けの売上拡大。
- ポイント: 給食業態は単価は低いが継続的な需要が大きく、安定収益が期待できる。卸売企業にとっては魅力的な市場拡大先となる。
5.15 ツナググループHDによるユメックスグループ買収と給食求人(2019年5月)
- 概要: ツナググループHDが、シニア・主婦層向け求人広告を強みとするユメックスグループを子会社化。ユメックスは給食・清掃・介護分野の求人が主要顧客。
- ポイント: 給食事業者が人材確保に課題を抱える中、シニア・主婦層の求人を効率的にマッチングできる仕組みが重要。M&Aで人材サービスを強化する動き。
5.16 日本ハウズイングによるMESファシリティーズ買収(2021年12月)
- 概要: マンション管理大手の日本ハウズイングが、三井E&Sホールディングス傘下で給食・レストラン、ガソリンスタンドなど多角事業のMESファシリティーズを買収。
- ポイント: 給食事業だけでなく、ファシリティマネジメント全般を一括運営するニーズが高まっている。マンション管理業のノウハウと合わせて総合的なサービス提供を目指す。
5.17 シダックスをめぐるオイシックスとのTOB・MBO関連事例(2022~2023年)
- 概要: 給食大手シダックスに対し、食材宅配大手オイシックス・ラ・大地がTOBを実施。はじめは取締役会が反対し、一時は敵対的TOBの様相を呈したが、最終的にユニゾン・キャピタルの株式売却が合意されてTOBが成立。
- さらに2023年11月には、創業家主導のMBO後にオイシックスが66%出資する形でシダックスを子会社化する方針を発表。シダックスは非公開化へ。
- 背景・狙い: シダックスは給食事業の立て直しのため、中長期的な投資や経営判断を迅速化する必要があり、オイシックスとの連携により食材開発や人材不足への対応などを強化したい。
- ポイント: 給食事業は原材料費や人手不足のリスクが大きく、業態の刷新には投資が必要。外部からの資本とノウハウが加わることで、経営体質を改善しようとする動き。
5.18 松屋・アターブルグリーンレストラン売却事例(2012年8月)
- 先述の通り、ゴルフ場レストラン受託など低収益事業の整理として実施。魚国総本社に譲渡された。
5.19 コロワイドによる病院・介護給食企業の買収例(2024年2月)
- 概要: コロワイドが子会社を通じ、病院や介護施設向け給食受託事業を展開するニフスを買収すると発表。
- 背景・狙い: コロワイドは外食大手だが、近年はミールキット製造やフードサービス事業に力を入れている。病院・介護分野に参入し、安定需要を取り込みたい考え。
- ポイント: 病院や介護施設の嚥下食など特殊技術が求められる領域を獲得することで、新たな商品開発にも生かす。
5.20 ウェルディッシュによるグランドルーフ買収事例(2024年11月)
- 概要: ウェルディッシュが介護用品卸・給食受託サービスのグランドルーフを買収。
- 背景・狙い: 健康食品や介護サービス分野の事業強化。給食事業においても、高齢者施設や医療施設向けに特化したノウハウの取り込みを目指す。
5.21 アスモ(旧シンワオックス含む)の給食・介護事業関連の事例
- 概要: シンワオックス(現アスモ)は外食やホテル、給食、介護事業など多角化を進めたが、経営不振でホテル事業(堂島ホテル)などは投資会社に譲渡。
- その後: 介護サービス事業と給食事業に絞り、少額短期保険会社の譲渡や信託事業の開始など事業再編を実施。
- ポイント: 給食や介護は需要安定が見込める一方、経営には専門性が求められる。不要不急の事業を切り離し、本業に集中する動きは多くの企業が採用。
5.22 オーシャンシステムによるフーディー買収など弁当給食事例
- 概要: オーシャンシステムは山形県の弁当給食会社フーディーを買収。さらに「フレッシュランチ39」というFC加盟店との連携で事業拡大。
- ポイント: 日配弁当や社員食堂向け給食などの領域を広げ、地域に根差して安定稼働を図る。
5.23 ジェイコムHDによるジャパンコントラクトフード買収と売却
- 概要: 介護施設運営のサンライズ・ヴィラなどと同時に食堂・給食運営のジャパンコントラクトフードを買収したが、後に売却。
- 背景・狙い: 新規参入による人材確保・ノウハウ構築を目指したが、経営方針の変更により撤退。
- ポイント: 給食事業は専門的かつ薄利多売の側面が強いため、経営が難しくなる場合もある。M&Aの結果として事業整理が発生するケース。
5.24 LEOCの介護サービス撤退とMBO(2008年)
- 概要: 有料老人ホーム運営会社ライフコミューンの株式を売却し、介護から撤退。その後、代表取締役社長によるMBOでLEOCは非公開化。
- 背景・狙い: 給食受託事業に経営資源を集中させ、財務体質を改善するために介護事業を手放した。加えて、非公開化によって経営判断の自由度とスピードを確保。
- ポイント: 給食受託会社が介護分野に進出する一方で、選択と集中のために撤退するケースもある。事業環境や企業戦略次第。
5.25 AFC‐HDアムスライフサイエンスの海外ケータリング企業買収(2022年12月)
- 概要: ベトナムのケータリング企業「5SPRO」を子会社化。
- 背景・狙い: 健康食品などの製造販売を行うAFC‐HDが海外展開を加速し、新興国の給食需要を取り込む考え。
- ポイント: 給食事業は国内需要だけでなく、海外でも事業チャンスがあると判断。特にアジア諸国は経済成長に伴い、社員食堂や学校給食が拡大している。
5.26 CSSホールディングスによるヤマト食品買収と譲渡
- 概要: CSSホールディングスはヤマト食品など給食事業をまとめて買収したが、大型受注の取りこぼしなどで赤字が続き、最終的に投資会社に譲渡。
- ポイント: M&Aで急拡大した事業は、受注構造が不安定だと採算確保が難しい。再度の売却で事業再編を図る例。
5.27 総合メディカルによる病院内売店・食堂企業の買収
- 概要: 病院経営支援を行う総合メディカルが、文教を買収。文教は病院内の売店やレストラン、テレビレンタルなどを運営。
- ポイント: 病院給食と直接連動しない場合でも、病院関連施設の運営ノウハウやネットワークが重要な資産となる。医療機関向け総合サポートを進める事例。
5.28 東京急行電鉄のスキー場事業(食堂運営含む)譲渡
- 概要: 白馬観光開発(スキー場運営・食堂など)の株式を日本スキー場開発へ譲渡。
- 背景・狙い: 鉄道会社が観光事業から撤退して事業効率を図る動き。食堂運営部分も含めて一体的にスキー場事業を手放すことで集客・売上向上に貢献。
5.29 佐渡汽船による小木観光・佐渡汽船商事の子会社化
- 概要: 佐渡汽船が、食堂や売店運営を行う関連会社を子会社化し、旅客サービスを一体的に強化。
- ポイント: 観光や運輸と食堂・売店運営が密接に結びつく例。給食的性格の強い社員食堂とは異なるが、旅客の食事需要を押さえる形態として参考になる。
5.30 ロイヤルHDによるSA・PA施設フード事業買収(2019年11月)
- 概要: 西洋フード・コンパスグループが運営するSA・PAの食堂・売店事業を段階的に取得。
- ポイント: サービスエリアやパーキングエリアの事業は、高速道路利用客という一定の需要が見込まれる。給食的な契約形態とは異なるが、受託運営という点で共通性がある。
5.31 丸栄による国際フードサービスの売却
- 概要: 社員食堂や学生食堂を運営する国際フードサービスの株式を、同業のハーベストに譲渡。
- 背景・狙い: 丸栄の小売事業の再編に伴う売却。ハーベストは給食・レストラン運営を拡充できる。
- ポイント: 給食領域で独自の強みを持つ企業への譲渡は、効率的に事業を引き継いでもらう上でも有効。
5.32 ホンダによるホンダ開発の完全子会社化(2021年5月)
- 概要: ホンダ開発はホンダグループ向けの福利厚生サポート(社員食堂運営など)を担う会社。株式交換でホンダが100%子会社化。
- 背景・狙い: グループ全体のコーポレート機能を強化し、社員の健康管理や福利厚生を充実させる。
- ポイント: 大企業グループ内の給食・食堂は「社内向け受託」の典型。近年は委託・外部化されるケースも増えているが、ここでは逆に内製化を強化する方向。
5.33 ホシザキによる中国厨房機器施工会社買収(2022年7月)
- 概要: 中国の業務用厨房設計・施工企業を買収して子会社化。ホシザキ製品の販売に加え、厨房設備事業をトータルで手がける意図。
- ポイント: 中国の大都市圏では社員食堂や工場給食も大規模化しており、厨房機器メーカーが施工まで一括して請け負うニーズが高まっている。
5.34 フジオフードシステムの飲食店買収事例(「どん」「グレートイースタン」「土山人」など)
- 概要: 「まいどおおきに食堂」など多数の外食ブランドを運営するフジオフードシステムが、海鮮丼専門店「ザ・どん」や沖縄のステーキレストラン「SAM’S」、そば店「土山人」などを相次ぎ買収。
- 背景・狙い: 多業態展開でリスク分散を図る。食堂業態と高単価業態の両立を目指す。
- ポイント: 給食企業ではないが、「食堂」ブランドを持つ企業としてメニュー・運営ノウハウが給食事業にも応用可能。低収益ブランドは譲渡するなど取捨選択も進む。
5.35 いなげやによる三浦屋買収と譲渡(学校給食食材卸を含む)
- 概要: いなげやが高級スーパー「三浦屋」を子会社化(2012年)したが、2021年に三菱商事傘下の丸の内キャピタルに譲渡。学校給食用食材卸も手がける三浦屋の外販事業は、いなげやとのシナジーを模索したが、別のファンドに売却することでより成長を狙う方向。
5.36 その他関連事例(シダックスアイの売却など)
- 概要: シダックスの子会社「シダックスアイ」は病院内売店を運営していたが、アインホールディングスが買収(2020年)。
- ポイント: 調剤薬局大手のアインHDとの連携で、病院内でのサービス拡充を狙う。さらにシダックスは給食事業に経営資源を集中させる。
6. 今後の展望と課題
給食・食堂業界のM&A動向は、以下のような方向性が続くと予想されます。
- 大手のさらなる寡占化と地域企業の統合
- 企業規模が大きくなるほど仕入れコストやIT投資で優位に立てるため、大手による買収や中堅企業同士の統合が進む。
- 一方で地域密着型の中小企業は大手傘下に入るか、地域同士で合併して生き残りを図るケースが増える。
- 外食企業や総合商社・投資ファンドの参入
- 外食企業はコロナ禍で既存店の売上が落ちるリスクを痛感し、安定需要がある給食領域への参入意欲が強い。
- 総合商社や投資ファンドは、医療・介護市場の成長性を評価し、給食サービスを含む総合ケアビジネスへの投資を拡大する。
- IT・DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性
- 食材発注の自動化や、栄養管理システム、顔認証決済などの先端技術を導入して労働力不足を補う動きが加速する。
- M&A後のシステム統合などが課題となるが、大手グループの支援があれば大規模投資が可能になる。
- 海外市場の可能性
- アジアを中心に新興国での給食需要が高まる。日本企業は現地でのノウハウやネットワークを買収して参入するケースが増える。
- ハラルやベジタリアン対応など、多国籍な食文化への対応力も付加価値となる。
- 健康経営とウェルネス分野への注力
- 企業が健康経営を推進し、社員食堂をより健康志向に変える動きが強まる。
- 病院や介護施設だけでなく、企業や学校、スポーツ施設での健康管理食に新たな需要が生まれる。
こうした展望の中で、M&Aは引き続き給食・食堂業界の主要な成長戦略として活用される見込みです。特に、厨房設備・機器や衛生管理、ITシステムなど周辺領域の専門企業を取り込む動きが増えることが予想されます。
7. まとめ
給食・食堂業界は、外食や中食など他の食ビジネス領域と比べて堅調な需要がある一方、原材料費や人件費の上昇、さらにはコロナ禍以降の営業制限・人材不足など、多面的な課題に直面しています。こうした状況を打開するために、多くの企業がM&Aを通じて事業領域の拡充やコスト効率化、人材・ノウハウ・設備投資の強化を図っているのが現状です。
また、学校や病院、介護施設といった公共性の高い業態は、衛生管理や栄養管理の厳しい基準を満たすために専門性がより求められています。そのため、投資負担を分散しつつ高度なサービスを提供できる企業体制を構築するには、規模の拡大や他社のノウハウ取り込みが不可欠といえます。大手外食企業や総合商社、投資ファンドなどが給食・食堂事業者を買収・傘下化する事例も増え、業界全体が変革の渦中にあるといっても過言ではありません。
一方で、M&Aによるスケールメリットや統合効果を十分に享受するには、契約更新リスクや地域密着性、スタッフのモチベーション維持など、きめ細かい経営管理が必要です。薄利多売の面もある給食事業では、統合後のシステム・組織の整合性が不十分だと利点が発揮できないリスクも伴います。したがって、M&Aを成功に導くには、買収後のPMI(Post Merger Integration)の計画と実行が重要となります。
今後、日本国内の人口減少や労働力不足が一段と進み、さらに原材料費やエネルギーコストも高止まりすることが予想されます。その中で、給食・食堂業界は、健康経営・ウェルネスなどの新潮流や海外市場の拡大、IT化・省人化などの新技術に適応しつつ、競争力を高める必要があります。そして、そのための方策として、M&Aを含むさまざまな戦略的提携が引き続き活発に行われることでしょう。
給食・食堂事業は日々の食事を担う社会インフラとして、利用者や従業員にとって欠かせない存在です。したがって、M&Aによる効率化や再編が進むなかでも、食の安全・安心を確保し、栄養・健康面に配慮した多様な選択肢を提供し続けることが重要です。今後も企業同士の連携や投資によってサービスレベルが向上し、結果として利用者や社会全体にとってより良い給食環境が実現されることが期待されます。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。