目次
  1. 1. はじめに:アプリ開発業界におけるM&Aの背景
  2. 2. アプリ開発業界のM&Aを促進する要因
  3. 3. 海外大型M&Aの話題と背景
    1. 3.1 VisaによるPlaid買収
    2. 3.2 AppleによるXnor.ai買収
    3. 3.3 GoogleによるPointy買収
    4. 3.4 VMwareによるPivotal/Carbon Black/Veriflow買収
  4. 4. 日本国内のアプリ開発関連M&A事例(企業別)
    1. 4.1 電通イージス・ネットワークによるLesmobilizers買収
    2. 4.2 旅工房によるハワイ子会社Aloha 7の譲渡(譲受先:令和トラベル)
    3. 4.3 日本エンタープライズによるアルゴの子会社化
    4. 4.4 東海ソフトによるAJ・Flatの完全子会社化
    5. (再掲)4.5 VMwareによるPivotal等の買収
    6. 4.6 朝日放送グループHDによるトイジアムの子会社化
    7. 4.7 ユナイテッドによるトライフォートの子会社化
    8. 4.8 フィットワークスによるミップの子会社化
    9. 4.9 ヒューマンホールディングスによるウェブスマイルの子会社化
    10. 4.10 ビーグリーによるノベルバの子会社化
    11. 4.11 ミンカブ・ジ・インフォノイドによる「シンクロライフ」事業取得
    12. 4.12 トライアンフコーポレーションによるC2の子会社化
    13. 4.13 テクノロジーズによるOGIX株式の一部譲渡(経営陣への売却)
    14. 4.14 バルテスによるbeepnow systemsの受託開発事業取得
    15. 4.15 セレンディップ・ホールディングスによるアペックス子会社化
    16. 4.16 サン電子によるサンフューチャーの子会社化
    17. 4.17 セプテーニ・ホールディングスによるPharmarketのカケハシへの譲渡
    18. 4.18 シノケングループによるコンピュータシステムの子会社化
    19. 4.19 サーバーワークスによるトップゲートの子会社化
    20. 4.20 グリーによるマーズの子会社化
    21. 4.21 オルトプラスによるscopesの子会社化
    22. 4.22 エイベックス・グループHDによるETスクウェアの子会社化
    23. 4.23 アクロディアによるゲーム関連開発事業のpixydaへの譲渡
    24. 4.24 エルテスによるクロスオーバーソリューションズの子会社化
    25. 4.25 クラウドワークスによるソニックムーブの子会社化
    26. 4.26 アイリッジによるプラグインの子会社化
    27. 4.27 アイリッジによるキースミスワールドの吸収合併
    28. 4.28 グッドパッチによるスタジオディテイルズの子会社化
    29. 4.29 アクセルマークによるスパイラルセンスの子会社化
    30. 4.30 イグニスのMBO(米ベインキャピタルとの協業)
    31. 4.31 アイフリークモバイルによるリアルタイムアニバーサリーおよびフリーの子会社化
    32. 4.32 オークファンによる「Amacode」事業の取得
    33. 4.33 アキナジスタによるピージーオーの吸収合併
    34. 4.34 SHIFTによるリベロ・プロジェクトの子会社化
    35. 4.35 アイ・エム・ジェイによるモバイル&ゲームスタジオの株式譲渡
    36. 4.36 Orchestra Holdingsによるセレッテのシステム開発事業取得
    37. 4.37 SHIFTによるDeMiAの子会社化
    38. 4.38 fonfunによるノーコード業務アプリSaaS事業取得
    39. 4.39 カヤックによるベトナムD HEARTS VIETNAMの完全子会社化
    40. 4.40 RVHによるスカイリンクの子会社化
  5. 5. M&Aによるシナジーと競争優位性の確立
  6. 6. アプリ開発企業がM&Aを活用するメリットとリスク
    1. メリット
    2. リスク
  7. 7. 今後の見通しと展望:国内外のアプリ開発業界M&Aの行方
  8. 8. おわりに

1. はじめに:アプリ開発業界におけるM&Aの背景

スマートフォンやタブレットが広く普及した昨今、アプリ市場は急激に成長してきました。SNSやゲームといった消費者向けアプリはもちろん、ビジネス用途の業務アプリケーション、さらにIoTや組み込み系のアプリに至るまで、多種多様な領域でアプリ開発が盛んに行われています。

このようなアプリ開発の盛り上がりは、企業間の競争を激化させると同時に、既存の経営資源だけではスピード感を持った開発や技術革新に追随しづらいという課題も生み出しました。そこで、スピードアップや技術獲得、販路拡大を目的として、M&Aによる他社との統合・買収・子会社化が重要な選択肢として注目を集めています。

また、アプリは短期間でヒットを狙える一方、ユーザー獲得競争の激しさやOSやデバイスのアップデートへの対応など、常にリスクも抱えています。そこで大手企業は、積極的に新興アプリ開発企業を取り込む動きを強め、これまでリーチできなかったユーザーベースや技術を獲得しようとする流れが一層顕著になりました。


2. アプリ開発業界のM&Aを促進する要因

アプリ開発業界でのM&Aが活性化している要因を大きく分けると、以下の4点が挙げられます。

  1. 技術獲得の容易化
    AIやAR/VR、ブロックチェーン、Web3といった先端技術の実装には高い専門性と投資が必要です。大手企業がこれらの技術を持ったスタートアップや開発会社を買収することで、開発期間を短縮し、高度な技術を自社のビジネスに取り込む動きが見られます。
  2. 既存顧客基盤との掛け合わせ
    大企業が小規模だが優れたアプリを開発する会社を取り込むと、大企業側の広い顧客基盤やリソースを活用して、アプリの利用者を短期間で急拡大させやすいというメリットがあります。
  3. シナジー創出による新市場の開拓
    単純に既存のビジネスを強化するだけでなく、新たなサービス・プロダクトを共同開発することで、これまで参入しにくかった市場に挑戦するケースが増加しています。これは特に、広告事業やメディア事業、IoTやクラウドサービスなど、多角的に事業を展開する企業間のM&Aで顕著です。
  4. 人材不足への対策
    アプリ開発の現場では、優秀なエンジニアやデザイナーの獲得競争が熾烈です。M&Aを通じて企業ごと人材を獲得することは、時間をかけて個別に採用するよりもスピーディーで確実と考えられています。

こうした要因が、国内外問わずアプリ開発企業のM&Aを後押ししているのです。


3. 海外大型M&Aの話題と背景

ここからは、アプリ開発領域やテクノロジーセクターで注目を集めた海外M&A事例をピックアップして紹介します。米国の事例が多いですが、グローバルでの業界の流れを知る上でとても参考になります。

3.1 VisaによるPlaid買収

買収額:53億ドル(約5,300億円)
Visaが買収を発表したPlaidは、金融アプリ開発者にとって欠かせない銀行口座接続APIを提供していました。アプリから銀行口座への連携や入出金処理、利用者の残高照会などを簡易化するプラットフォームとして注目され、FinTech領域で大きく伸びていた企業です。

Visaは決済ネットワークを世界的に展開しており、Plaidを取り込むことでアプリ経由の個人間送金や電子決済サービスにおける存在感を一気に高める狙いがありました。
(※のちに米国当局からの独占禁止訴訟の動きもあったため、最終的には買収中止に至りましたが、アプリ開発に携わる企業にとっては、ソリューション企業買収がどれほど大きなインパクトを持つかを示す事例といえます。)

3.2 AppleによるXnor.ai買収

買収額:約2億ドル(約200億円)
Appleが2020年1月に買収したXnor.aiは、エッジAI(クラウドを介さず端末側でAI処理を行う技術)を提供するスタートアップでした。Xnor.aiの技術は組み込みAIと呼ばれ、スマートフォンなどのデバイス上で高精度なAI分析が可能となります。

AppleがXnor.aiを取り込むことで、iPhoneやApple Watchなどの端末がオフラインでも高度なAI処理をこなせる可能性が高まり、プライバシー保護や省電力化が期待されます。アプリ開発とハードウェアが密接に絡むAppleにとっては、ユーザー体験向上と差別化に繋がる大きな買収でした。

3.3 GoogleによるPointy買収

買収額は公表されていませんが、報道によれば数千万ドル規模とみられています。
Pointyは小売店向け在庫情報をネットに自動で掲載し、近隣のユーザーにリアルタイムで商品情報を発信する仕組みを持つスタートアップでした。Googleの買収によって、Googleマップや検索結果で店舗の在庫状況が即座に反映されやすくなり、ローカルビジネスへのテック支援強化が狙われています。

3.4 VMwareによるPivotal/Carbon Black/Veriflow買収

VMwareはクラウドネイティブアプリの開発基盤PaaSを提供するPivotal(約27億ドルで買収)や、エンドポイントセキュリティのCarbon Black(約21億ドルで買収)、ネットワーク障害防止技術のVeriflow(買収額非公表)といった有力企業を立て続けに買収し、包括的なクラウドソリューションセキュリティソリューションを整備しました。

これらはクラウド時代のアプリ開発におけるインフラ・セキュリティ面の総合力を高める動きといえます。単なるアプリ本体の開発技術だけでなく、基盤構築や保守、セキュリティまでをワンストップで提供する企業が増えていることを示す事例です。


4. 日本国内のアプリ開発関連M&A事例(企業別)

ここからは、国内で公表されたアプリ開発企業やアプリ関連事業のM&A事例をまとめてご紹介します。日本市場においても、事業の拡張、スピード強化、人材獲得といった目的で多様な買収・売却が行われています。

4.1 電通イージス・ネットワークによるLesmobilizers買収

  • 買収元:電通(海外本社の電通イージス・ネットワークを通じて)
  • 買収先:フランスのモバイル関連広告会社Lesmobilizers SAS(2014年3月発表)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:Lesmobilizersは2010年設立で、モバイルアプリ開発や動画ストリーミング、モバイル端末を使ったECなど急成長分野を手がけていた。電通イージス・ネットワークは欧州でのモバイル広告関連ビジネスを強化する目的で本買収を決定。

4.2 旅工房によるハワイ子会社Aloha 7の譲渡(譲受先:令和トラベル)

  • 譲渡元:旅工房
  • 譲受先:海外旅行予約アプリ開発・運営の令和トラベル
  • 譲渡対象:Aloha 7(ハワイのランドオペレーター)
  • 譲渡価額:当初2400万円を基準に確定予定 → 859万6000円で確定(2024/01/31発表)
  • 概要:旅工房は経営資源の選択と集中の方針で、子会社Aloha 7を譲渡。令和トラベルは海外旅行向け予約アプリ開発企業で、ハワイ旅行の取り扱い強化が見込まれる。

4.3 日本エンタープライズによるアルゴの子会社化

  • 買収元:日本エンタープライズ(傘下のダイブを通じて)
  • 買収先:アルゴ(サーバー構築・アプリ開発を主力)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:アルゴはコンサルから企画・開発・運用までワンストップで提供。日本エンタープライズグループの広告事業とシナジーが期待される。

4.4 東海ソフトによるAJ・Flatの完全子会社化

  • 買収元:東海ソフト
  • 買収先:AJ・Flat(売上高18億8000万円)
  • 取得価額:18億7000万円
  • 概要:Windowsアプリ開発、Webアプリ開発、組込み開発など幅広く手がけるAJ・Flatを東海ソフトが買収。開発体制強化と人材拡充が狙い。

(再掲)4.5 VMwareによるPivotal等の買収

前述の通り米国本社による買収だが、日本国内のクラウドベンダーやIT企業にとっても大きなインパクトがあったため、国内M&A動向と合わせて注目された事例。Pivotalのクラウドアプリ開発基盤やCarbon Blackのセキュリティソリューションなど、国内システムインテグレーターが利用するケースが増えている。

4.6 朝日放送グループHDによるトイジアムの子会社化

  • 買収元:朝日放送グループホールディングス(傘下のABCアニメーションを通じて)
  • 買収先:トイジアム(ゲーム・アプリ開発)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:アニメ事業の強化とグローバル展開の加速が目的。豪華客船脱出パズルアクション「Gift」やカジュアルアクションゲーム「スマッシュパーティ」などを開発。朝日放送グループは既にアニメ制作会社SILVER LINK.、キャラクター雑貨企画のゼロジーアクト、CGCGスタジオなどを子会社化しており、アニメ事業の一層の拡大を図っている。

4.7 ユナイテッドによるトライフォートの子会社化

  • 買収元:ユナイテッド
  • 買収先:トライフォート(スマホアプリ開発・運営、売上高16億円)
  • 取得価額:36億2000万円
  • 概要:トライフォートは多数のヒット作品を持つ開発会社。ユナイテッドのゲームアプリ事業とのシナジーやアドテクノロジーへの応用が期待される。

4.8 フィットワークスによるミップの子会社化

  • 買収元:フィットワークス
  • 買収先:ミップ(製薬・物流向けシステム中心に上流工程から開発)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:ネットワークやサーバーのインフラ構築の領域を越えて、デジタルマーケティングやコンテンツ制作、アプリ開発に注力しているフィットワークスが、ミップの技術力を取り込むことで上流工程への進出を加速。

4.9 ヒューマンホールディングスによるウェブスマイルの子会社化

  • 買収元:ヒューマンホールディングス
  • 買収先:ウェブスマイル(Webサイト制作・アプリ開発、売上高5億6700万円)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:IT課題の提案からアプリ開発、システム運用保守、デジタルマーケティングを提供する企業。ヒューマングループが抱える人材・教育領域にITプラットフォームやアプリ開発ノウハウを取り込むことが目的。

4.10 ビーグリーによるノベルバの子会社化

  • 買収元:ビーグリー(コミック配信「まんが王国」運営)
  • 買収先:ノベルバ(小説投稿サイト「ノベルバ」運営)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:「まんが王国」とノベルバの連携により新たなIP創出やアプリ開発でのシナジーを期待。電子書籍全般に事業領域を拡大。

4.11 ミンカブ・ジ・インフォノイドによる「シンクロライフ」事業取得

  • 買収元:ミンカブ・ジ・インフォノイド(ネットメディアサービス子会社のライブドアを通じて)
  • 買収先:GINKAN(Web3グルメアプリ「シンクロライフ」)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:「Eat to Earn(食べて稼ぐ)」型プラットフォームのグルメアプリを取得し、グルメ分野への事業拡大を狙う。Web3技術を活用した先進的な事例。

4.12 トライアンフコーポレーションによるC2の子会社化

  • 買収元:トライアンフコーポレーション
  • 買収先:C2(WEBコンテンツ制作・スマホアプリ開発、売上高5億6600万円)
  • 取得価額:6億9000万円
  • 概要:C2は携帯電話会社のプラットフォームを通じた一般消費者向けアプリの配信事業が売上の7割以上を占める。トライアンフが吸収することでモバイルコンテンツの収益強化を図る。

4.13 テクノロジーズによるOGIX株式の一部譲渡(経営陣への売却)

  • 譲渡元:テクノロジーズ
  • 譲渡先:OGIX社長の小木曾氏(MBOのような形)
  • 譲渡対象:OGIX株式49.9%
  • 譲渡価額:1円
  • 概要:当初は株式49.9%を1円で取得して子会社化していたが、経営資源の選択と集中のため再度譲渡。協業関係は続く。

4.14 バルテスによるbeepnow systemsの受託開発事業取得

  • 取得元:バルテス(傘下企業)
  • 売却元:beepnow systems
  • 取得事業:デリバリー・人事関連Webサービス事業に伴う受託開発事業
  • 取得価額:非公表
  • 概要:バルテスグループが、Web・モバイルアプリ開発サービスの収益性と競争力を高める一環で事業を取得。

4.15 セレンディップ・ホールディングスによるアペックス子会社化

  • 買収元:セレンディップ・ホールディングス
  • 買収先:アペックス(試作品製作、機械加工、デザイン、アプリ開発まで一貫対応)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:中堅・中小製造業に特化しているセレンディップが、既存投資先の自動車部品メーカー2社との相乗効果を見込みアペックスを傘下に。

4.16 サン電子によるサンフューチャーの子会社化

  • 買収元:サン電子
  • 買収先:サンフューチャー(モバイルアプリ開発ノウハウを持つ)
  • 取得価額:5500万円
  • 概要:サンフューチャーは米Kony Solutionsの日本販売代理店及びグローバルパートナーでもあり、モバイルアプリ開発基盤(MEAP)提供のノウハウをサン電子グループへ取り込む。

4.17 セプテーニ・ホールディングスによるPharmarketのカケハシへの譲渡

  • 譲渡元:セプテーニ・ホールディングス
  • 譲渡先:カケハシ(調剤薬局向け業務システム開発)
  • 対象:Pharmarket(医療用医薬品の二次流通事業、患者-薬局間アプリ開発)
  • 譲渡価額:非公表
  • 概要:セプテーニはデジタルマーケティング事業への集中のため、Pharmarketを譲渡。カケハシは薬局向け業務の効率化を図る。

4.18 シノケングループによるコンピュータシステムの子会社化

  • 買収元:シノケングループ
  • 買収先:コンピュータシステム(ソフトウェア開発)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:シノケングループはDX関連開発プロジェクトを加速する目的で、コンピュータシステムの84名のエンジニアリソースを取り込む。

4.19 サーバーワークスによるトップゲートの子会社化

  • 買収元:サーバーワークス
  • 買収先:トップゲート(Google Cloud活用のシステム・アプリ開発、売上高20億6000万円)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:サーバーワークスはAWS(Amazon Web Services)を強みとするが、トップゲートの買収でGoogle Cloud領域にも本格参入。これによりマルチクラウド展開が強化される。

4.20 グリーによるマーズの子会社化

  • 買収元:グリー
  • 買収先:マーズ(スマートフォンアプリ開発、累計80.7万DLの「ゆるふわ育成ゲーム MEGU」など)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:グリーはソーシャルゲーム市場でのさらなる拡大を狙う。スマホアプリ開発力を取り込むことで、新規タイトルの開発速度を上げると同時に、ヒット作を生み出す体制づくりを目指す。

4.21 オルトプラスによるscopesの子会社化

  • 買収元:オルトプラス
  • 買収先:scopes(スマホ向けゲーム・アプリ・Webサービス開発、売上高2億5300万円)
  • 取得方法:株式交換(scopes1株に対してオルトプラス株138株)
  • 概要:協業関係を築いてきた両社が一体となることで、スマホゲームの開発力や運営ノウハウをさらに強化。協業会社の設立も経て、よりシームレスな連携へ。

4.22 エイベックス・グループHDによるETスクウェアの子会社化

  • 買収元:エイベックス・グループ・ホールディングス(子会社を通じて)
  • 買収先:ETスクウェア(自動車向けアプリ開発・販売、売上高1億9300万円)
  • 取得価額:4000万円
  • 概要:エイベックスはデジタル戦略推進のため、システム開発とデータ整備のノウハウを獲得。車載関連のエンタメ・アプリ提供など新たなビジネス領域を模索。

4.23 アクロディアによるゲーム関連開発事業のpixydaへの譲渡

  • 譲渡元:アクロディア
  • 譲受先:pixyda(ゲームアプリ開発)
  • 譲渡価額:8300万円
  • 概要:アクロディアが新規案件不発や大型契約遅延で収益悪化していたゲーム関連開発事業をpixydaへ売却。事業整理と選択集中が狙い。

4.24 エルテスによるクロスオーバーソリューションズの子会社化

  • 買収元:エルテス(傘下JAPANDXを通じて)
  • 買収先:クロスオーバーソリューションズ(放送局向けアプリ開発「ReTSTA」提供)
  • 取得価額:4億500万円
  • 概要:音声読み上げ生成AI開発を行うJAPANDXとの技術連携、顧客基盤の共有による業容拡大を目指す。放送局へのサービスが広がる可能性が高い。

4.25 クラウドワークスによるソニックムーブの子会社化

  • 買収元:クラウドワークス
  • 買収先:ソニックムーブ(Web・アプリ開発、売上高9億5900万円)
  • 取得価額:4億4100万円+アーンアウト最大6億円
  • 概要:エンジニア・デザイナー領域で付加価値の高い提案が可能に。UI/UXや要件定義、開発支援の強化を見込む。

4.26 アイリッジによるプラグインの子会社化

  • 買収元:アイリッジ
  • 買収先:プラグイン(業務システム・アプリ開発、売上高1億2300万円)
  • 取得価額:1億7000万円
  • 概要:OMO領域の成長促進と札幌でのエンジニア採用を強化。地方採用による開発体制拡大を見込む。

4.27 アイリッジによるキースミスワールドの吸収合併

  • 合併元:アイリッジ
  • 合併先:キースミスワールド(サーバープログラム構築、スマホアプリ開発)
  • 合併方法:キースミスワールド1株に対しアイリッジ111株割当
  • 概要:緊密な取引関係を背景に開発体制を一本化。保守や運用業務を強化し、ワンストップサービスを充実させる狙い。

4.28 グッドパッチによるスタジオディテイルズの子会社化

  • 買収元:グッドパッチ
  • 買収先:スタジオディテイルズ(Webシステム・アプリ開発、売上高5億6700万円)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:UI/UXデザインを強みとするグッドパッチが、実装フェーズの強化を狙いスタジオディテイルズを取得。総合的なWeb制作力の向上が目的。

4.29 アクセルマークによるスパイラルセンスの子会社化

  • 買収元:アクセルマーク
  • 買収先:スパイラルセンス(ゲーム・アプリ開発、売上高1億8600万円)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:トレカ事業でのEC開発連携やエンジニア領域の人材サービス強化を見込む。ゲームだけでなくEC分野への展開も期待される。

4.30 イグニスのMBO(米ベインキャピタルとの協業)

  • 買収元:米ベインキャピタル+経営陣(銭錕社長・鈴木CTO)
  • 対象:イグニス株式をTOBにより買付
  • 買付価格:1株3000円(約67.88%のプレミアム)
  • 概要:スマホアプリ開発を中心に展開するイグニス。変化の激しい業界で機動的・柔軟な意思決定をするため株式非公開化を実施。上場廃止へ。

4.31 アイフリークモバイルによるリアルタイムアニバーサリーおよびフリーの子会社化

  • 買収元:アイフリークモバイル
  • 買収先1:リアルタイムアニバーサリー(IT人材の客先常駐型サービス)
  • 買収先2:フリー(知育アプリ開発「赤ちゃんタッチ」「かずのトライ」など)
  • 取得価額:2370万円(リアルタイムアニバーサリー)、5100万円(フリー)
  • 概要:人材確保とファミリーコンテンツ強化を目的とした子会社化。アプリ開発力とリソースを同時に獲得。

4.32 オークファンによる「Amacode」事業の取得

  • 買収元:オークファン
  • 買収先:トラストエフォート(EC・アプリ開発)
  • 取得事業:Amazonセラー専用アプリ「Amacode」
  • 取得価額:非公表
  • 概要:「Amacode」はバーコードを読み取るだけでAmazonでの販売価格帯や売れ行きを分析可能。30万人以上が利用。EC領域を拡大するオークファンと相性が良い。

4.33 アキナジスタによるピージーオーの吸収合併

  • 合併元:アキナジスタ
  • 合併先:ピージーオー(ソーシャルアプリ開発・運用)
  • 合併比率:アキナジスタ1:ピージーオー8
  • 概要:mixiやモバゲーなどソーシャルゲームが成長した時期の案件。ピージーオーの開発ノウハウを取り込み、新規事業としてSNS向けアプリ開発へ一気に乗り出す狙い。

4.34 SHIFTによるリベロ・プロジェクトの子会社化

  • 買収元:SHIFT
  • 買収先:リベロ・プロジェクト(モバイルアプリ開発支援、売上高7億2100万円)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:SHIFTは主にソフトウェアテスト事業で成長してきたが、開発や保守領域もカバーするためにM&Aを活用。製品リリース後の保守運用まで担うサービスポートフォリオを拡充。

4.35 アイ・エム・ジェイによるモバイル&ゲームスタジオの株式譲渡

  • 譲渡元:アイ・エム・ジェイ
  • 譲受先:シーエー・モバイル
  • 対象:モバイル&ゲームスタジオ(MGS、売上高3億3800万円)
  • 譲渡価額:8400万円(1株14万円×600株)
  • 概要:アプリ開発の低価格化を受けてコンテンツ制作へシフトしていたMGSを譲渡。シーエー・モバイルは無料エンタテイメントコンテンツを手がける企業で事業シナジーを見込む。

4.36 Orchestra Holdingsによるセレッテのシステム開発事業取得

  • 買収元:Orchestra Holdings(子会社を通じて)
  • 買収先:セレッテ(スマホアプリ開発、ゲームやツール系アプリ)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:開発チームの取り込みによってマーケティングオートメーション分野などの新成長領域へ進出。技術力を買収する形。

4.37 SHIFTによるDeMiAの子会社化

  • 買収元:SHIFT
  • 買収先:DeMiA(Webアプリ・スマホアプリ開発、京都大学在学の学生エンジニアなどを擁する20名ほどの集団)
  • 取得価額:非公表
  • 概要:若いエンジニア集団の育成プログラムにも定評があるDeMiAを取り込み、SHIFTの開発・テスト事業を一段と強化。

4.38 fonfunによるノーコード業務アプリSaaS事業取得

  • 買収元:fonfun
  • 買収先:ゼロワン(ノーコード業務アプリSaaS事業)
  • 取得価額:4100万円
  • 概要:DX推進の文脈でノーコードツールが注目されるなか、SaaS型ソリューションを自社に取り込むことで業務課題解決型のサービスを拡大。

4.39 カヤックによるベトナムD HEARTS VIETNAMの完全子会社化

  • 買収元:カヤック
  • 買収先:D HEARTS VIETNAM(ベトナム、スマホアプリ開発)
  • 取得価額:2500万円
  • 概要:カヤックは日本の文化や表現技術を理解できるベトナム人クリエイターを積極採用しており、今回の買収でベトナム拠点の強化と人材交流を進める。

4.40 RVHによるスカイリンクの子会社化

  • 買収元:RVH
  • 買収先:スカイリンク(ソーシャルゲーム制作、売上高17億4000万円)
  • 買収方法:株式交換(スカイリンク1株に対しRVH株4350株)
  • 概要:ゲームアプリ市場への参入を加速し、海外拠点(台湾スタジオ)も活かして事業展開を推進。広告・コンサル事業との連携も図る。

5. M&Aによるシナジーと競争優位性の確立

上記のように、多数の企業がアプリ開発企業や関連事業をM&Aで取得・譲渡しています。そこに共通する要素としては、以下のシナジーと競争優位性の確立が挙げられます。

  1. 技術シナジー
    • AI、クラウド、セキュリティ、AR/VR、Web3など先端技術の獲得・統合
    • ゲーム開発やSNS、ソーシャルゲームの運営ノウハウの取り込み
  2. 市場シナジー
    • 既存顧客層へのクロスセルやアップセル
    • 海外拠点や海外ユーザーへのアクセス向上
  3. 人材シナジー
    • エンジニアやデザイナーなど、即戦力となる人材の一括確保
    • 新しいカルチャーやアイデアの注入によるイノベーション促進
  4. スピードシナジー
    • 自社開発では時間がかかる領域でも、買収を通じて短期間で完成度の高い開発体制を構築
    • とくにスタートアップのリリース速度と柔軟性を取り込む
  5. 事業ポートフォリオの拡張
    • 広告、メディア、ゲームなどアプリを軸に多方面へ事業領域を広げる
    • DX支援やコンサル、開発運用保守までをワンストップで行う体制づくり

これらのシナジーを狙うことで、大手企業は競争環境が激しいアプリ市場で優位を保ち、スタートアップや中小企業はM&Aによる資本支援やリソース確保でさらなるスケールアップを期待できるのです。


6. アプリ開発企業がM&Aを活用するメリットとリスク

メリット

  1. 開発リソースの確保
    スタートアップ企業を買収することで、優れたエンジニア・デザイナー組織を一度に獲得し、スピード感のある開発が可能となる。
  2. ノウハウ・特許・ブランドの獲得
    買収先企業が持つ独自ノウハウや特許技術、あるいはユーザーコミュニティのブランド力を継承できる。
  3. マーケットシェア拡大
    ユーザー基盤や市場シェアを一気に取り込める。とくにBtoCアプリの場合、ユーザーベースの規模が競争力に直結する。
  4. スケールメリットの獲得
    販売チャネル・PR・広告宣伝など、グループ全体で効率化を進められ、コストを抑えつつ収益を拡大可能。

リスク

  1. カルチャーの統合問題
    スタートアップの自由闊達な社風と大企業の組織文化は必ずしも相容れない場合がある。M&A後のPMI(Post Merger Integration)での失敗例も少なくない。
  2. 買収価格の高騰
    アプリ開発やIT企業は将来性を高く評価されやすく、買収金額が過熱しがち。投資回収が難しくなるリスクがある。
  3. 顧客離脱や人材流出
    買収後の運営方針転換や統合に伴って、買収先企業の顧客や主要人材が離脱することもある。
  4. 技術進化の早さ
    IT技術の変化が早いため、買収時に有効だった技術が数年後には陳腐化するケースもあり得る。

7. 今後の見通しと展望:国内外のアプリ開発業界M&Aの行方

アプリ開発市場は今後も拡大を続ける見込みですが、OSプラットフォームやクラウド技術、Web3やAIの進展により、開発環境はさらに高度化・複雑化していくと考えられます。加えて、5G/6G時代のモバイル通信インフラの整備やXR(AR/VR/MR)の普及など、新たなアプリ活用分野が次々に登場しています。

こうした急速な変化に対応し、競合他社よりも早く市場をリードするために、大企業や上場企業がアプリ開発の専門性を持つ企業を買収・子会社化する動きは続くでしょう。さらに、ユーザーにより個別化された体験やAIを活用したサービスが求められるため、特定技術に強いスタートアップが再びM&Aターゲットとして脚光を浴びる可能性があります。

また、地方創生グローバル人材の登用など、さまざまな視点から人材確保を目指す企業が増えており、オフショア開発拠点や地方拠点を築く企業の買収も進むとみられます。

一方で、米国など海外では独占禁止法や寡占化を防ぐ規制当局のチェックが厳しくなっており、M&Aの成立にはより高度な法務リスクマネジメントが必要とされます。企業としては、それら規制や社会的影響を考慮しつつも、成長分野への投資や再編は避けられないため、M&Aの選択肢は引き続き有力です。


8. おわりに

アプリ開発業界のM&A事例を見てみると、企業ごとに買収・譲渡の目的は多種多様ですが、やはり技術獲得、顧客基盤拡大、人材確保、事業ポートフォリオの拡充というキーワードが共通して浮かび上がります。IT・デジタル領域は変化のスピードが特に速いため、一つの市場で覇権を握っていても、次のトレンドで一気に遅れを取るリスクがあります。そのため、外部リソースを積極的に取り込むM&Aは、企業の継続的な成長戦略において必須の選択肢になりつつあるのです。

一方で、M&Aには企業文化の統合問題、買収コスト、技術革新の陳腐化リスクといった課題も存在します。これらを見誤ると、巨額投資が無駄になりかねません。買収後のPMIをいかにスムーズに行い、買収先企業が持つ強みを余すことなく引き出し、シナジーを最大化できるかが鍵となります。