- はじめに
- 広告代理店業界におけるM&Aの背景
- M&Aがもたらすメリットとリスク
- 国内外の主要事例とその狙い
- 事業譲渡や組織再編による動き
- 広告代理店M&Aの成功要因と今後の展望
- まとめ
はじめに
広告代理店業界におけるM&A(企業の合併・買収)は、グローバル化やデジタルマーケティングの拡大、さらには顧客ニーズの多様化を背景に、近年ますます活発化しています。企業が自前で広告戦略を完結させる「インハウス化」の動きや、ITを活用した新しい広告手法の台頭など、広告ビジネスの形態は絶え間なく変化しています。その一方で、伝統的な広告代理店を含む業界各社が総合的なサービスを提供することの重要性も再認識されつつあります。
本記事では、広告代理店業界において注目されるM&Aの意義や狙い、具体的な事例について深掘りしながら解説いたします。特に国内企業が行うM&Aだけでなく、海外企業の買収事例やファンドによる買収事例など、多角的にその動向をまとめました。デジタル化による競争の激化が進む今、広告代理店が生き残るためにどのような戦略をとっているのか、そのヒントを事例から探ってみたいと思います。
広告代理店業界におけるM&Aの背景
グローバル化と競争激化
インターネット技術の発展やSNSの普及などにより、広告市場は国境を越えたグローバルな競争にさらされています。海外の広告会社が日本に進出するだけでなく、日本の企業も欧米やアジア各国における広告代理店を取り込み、現地でのビジネス基盤を確保しようとします。こうした国際競争の高まりが、M&Aを活発化させる一因となっています。
デジタルマーケティングの拡大
近年は、テレビ・新聞・ラジオといったマスメディア向け広告だけでなく、Web広告・SNS広告・動画広告など、デジタル領域が広告業界の主要な成長ドライバーになっています。既存の広告代理店が単独で最新技術を取り入れるのは容易ではなく、専門性の高いデジタルマーケティング会社やIT企業を買収してノウハウを獲得するケースが増えています。
経営資源の選択と集中
広告代理店のビジネスモデルは、クライアント企業の課題に合わせて広告やプロモーションの企画を立案し、各種メディアの手配や効果測定までをワンストップで行うことにあります。近年は、広告代理店内部で抱える事業領域も多岐にわたり、経営戦略として非中核事業の切り離しや、成長ポテンシャルの高い事業への集中を進める動きが顕著です。そのため、不要な部署や関連子会社を売却する一方で、成長性のある企業や部門を買収する事例が増えています。
インハウス化への対応
クライアント企業が自社内で広告・マーケティング機能を内製化するインハウス化は世界的な潮流であり、この動きにより広告代理店の役割は変化を迫られています。単に広告枠を仕入れて販売するビジネスモデルだけではなく、クリエイティブやデータ分析、プロモーション戦略など高度な専門サービスを提供できるかどうかが広告代理店の競争力を左右するようになっています。これに対し、広告代理店各社は高い専門性をもつ企業の買収により、付加価値の高いサービスを提供する体制を整えようとしています。
M&Aがもたらすメリットとリスク
メリット:サービス領域の拡大とシナジー効果
広告代理店がM&Aを行う最大のメリットは、サービス領域の拡大によるシナジー効果です。たとえば、ネット広告やSNSの運用に特化した企業を買収すると、従来のマスメディア広告に加えて、デジタルマーケティングを取り込んだ総合提案が可能になります。また、海外企業の買収によって現地での事業基盤を一気に整備し、グローバルなネットワークを広げる効果も期待できます。
メリット:ノウハウ・人材の獲得
M&Aによって獲得できる新たなノウハウや人材は、広告代理店が抱える課題を一気に解決する糸口となります。データサイエンティストやクリエイターなど、専門性の高い人材がまとまって移籍してくるのは大きな魅力です。特に急成長を遂げてきたデジタル専業企業が持つ最新技術は、既存企業との統合によってさらに大きな価値を生み出す可能性があります。
リスク:統合後の組織文化の摩擦
M&Aが成功するかどうかは、買収後の統合プロセスによって大きく左右されます。特に広告代理店のように創造的なサービスを扱う企業では、組織文化やビジネス慣習の違いが深刻な摩擦を引き起こす場合があります。新旧双方の企業がもつブランドイメージや働き方の違いを丁寧に調整し、組織の融合を進める必要があるでしょう。
リスク:期待していたシナジーの不発
「広告と広告を掛け合わせれば大きな相乗効果が見込める」という期待でM&Aを進めたとしても、実際には技術面や顧客属性の違い、経営戦略の不一致などでシナジーが生まれないことがあります。また、買収コストを回収するだけの利益成長が得られず、むしろ負担増となってしまうリスクもあるため、投資判断には慎重さが求められます。
国内外の主要事例とその狙い
ここからは、実際に行われた広告代理店M&Aの事例を取り上げながら、その背景や狙いについてご紹介します。大手広告代理店グループや専門性の高いデジタル企業、投資ファンドなど、多彩なプレーヤーが関わっている点が特徴的です。
電通グループによる国内外でのM&A戦略
ドイツRCKTの子会社化(2023年8月発表)
電通グループは、ドイツのWeb広告代理店であるRCKT GmbHを子会社化しました。ドイツ市場でのクリエイティブ領域を強化する狙いであり、RCKTが持つデジタルマーケティングやWeb制作のノウハウを取り込むことで、欧州における競争力を高めようとしています。RCKTは2015年に設立され、従業員数は約80名。取得価額や日程は非公表ですが、ドイツ市場のデジタル・クリエイティブ分野での地盤固めとして注目されています。
ディグ・イントゥの子会社化(2022年5月)
電通デジタルとの連携を背景に、札幌市のWeb広告代理店ディグ・イントゥの追加株式を取得し、完全子会社化しました。当初15%の持ち株比率を一気に100%に引き上げることで、地方発のデジタル広告ノウハウをグループ全体に展開しようとする意図がうかがえます。取得価額は非公表で、ローカルエリアの強みと大手広告代理店の資本力を掛け合わせるケースといえます。
MLロジャースの買収(2012年1月)
電通は米国市場の独立系広告代理店MLロジャースを買収し、グループ傘下の電通アメリカが吸収合併する形を取りました。目的は米国での競争力強化と収益基盤の拡大です。米国の広告市場は巨大であり、ローカルエージェンシーの買収を通じて事業規模を拡大する戦略がかねてから進められてきました。
Filterの子会社化(2019年1月)
米デジタルマーケティング会社Filter.LLCを買収。ユーザーエクスペリエンス(UX)とデジタルマーケティングに強みがあり、従来の代理店モデルとは異なるオンサイトデリバリーモデル(顧客企業に社員が常駐する形でサービスを提供)を展開している点が特徴です。米国で進むインハウス化の中、電通グループは新しいサービスモデルを取り込み、自らの提供価値を高めようとしています。
日宣による広告代理店アスティの子会社化(2024年12月)
日宣は広告・ブランディング分野の業容拡大を目的に、設立間もないアスティを子会社化する計画を発表しました。アスティは大手不動産開発企業の指定代理店として都心の高級マンション広告に強みを持つというユニークなポジションです。不動産マーケット特有の広告ニーズに応えられる代理店を取り込むことで、日宣の広告領域拡大につなげようとしています。
投資ファンドによる買収事例:ベインキャピタルとアサツー ディ・ケイ(2017年)
投資ファンドのベインキャピタルは、アサツー ディ・ケイ(ADK)をTOB(株式公開買い付け)で子会社化しました。買付価格は1株あたり3660円で、最終的に上場廃止に至っています。同時に、ADKは英広告大手のWPPグループとの提携を解消し、多様なパートナーとの連携へ舵を切ると表明しました。投資ファンドによる広告代理店買収は国内でも例が少なく、その後の動向が注目されました。
地域展開や新拠点強化の事例
中広によるエルアドの完全子会社化(2013年)
フリーマガジンを発行する中広は、関東エリアの広告事業強化を図るため、埼玉県越谷市の広告代理店エルアドを完全子会社化しました。関東圏への進出とフリーマガジンの全国展開を加速する狙いが背景にあります。
松竹の広告代理店事業売却(2011年)
松竹は映画館向け広告代理店事業を、サンライズ社に譲渡しました。映画や演劇など、エンタテインメント領域に強みを持つ企業ですが、グループ全体での経営資源の再配分を進める一環として広告事業を分離し、コア事業の強化を図る動きといえます。
デジタル関連サービスの強化や新規参入
ロックオンによるEVERRISEのアドレポ事業取得(2018年)
ロックオンは広告効果測定ツール「AD EBiS」を提供する企業として知られています。運用型広告レポート自動作成ツール「アドレポ」を手がけるEVERRISEの事業を取得することで、広告効果測定からレポート作成まで一気通貫のサービスを構築し、広告代理店からのニーズに幅広く対応しようとしています。
フーバーブレインによるアド・トップの子会社化(2022年)
ミロク情報サービス傘下で採用コンサルティングを行うアド・トップをフーバーブレインが子会社化することで、IT人材採用の強化を図りました。求人広告代理店を祖業とするアド・トップの買収は、広告ビジネスと人材マーケットを結びつける戦略の一環と考えられます。
フィスコによるシヤンテイの子会社化(2014年)
企業キャンペーンなどで活用されるノベルティの企画・製作を手がけるシヤンテイを買収した事例です。大手ビール会社や大手広告代理店との取引実績をもつシヤンテイを取り込み、広告の企画から販促物製作までのワンストップ提案が可能になります。
映像・イベント領域との統合強化
フュートレックによるメディアジャパンの子会社化(2017年)
映像制作や広告代理店事業を行うメディアジャパングループを取り込むことで、映像事業の強化・拡大を目指したケースです。映像制作は広告と相性がよく、インバウンド向けプロモーションや翻訳などとの組み合わせによって新たなサービスを生み出せる可能性があります。
ヒビノによる米TLSの子会社化(2019年)
ヒビノは映像・音響の専門会社であり、米TLS PRODUCTIONSの買収によって、照明・音響システムのレンタルやオペレーションサービスまでカバーするグローバルな体制を整えました。米国の広告代理店業界では映像や照明を含めた「ターンキー契約」が主流となっているため、ワンストップでサービス提供できるメリットが大きいとされています。
海外展開の加速事例
フリークアウトHDによるシンガポールのThe Studio by CtrlShift子会社化(2018年)
日本のインターネット広告企業であるフリークアウトHDが、東南アジアの有力広告代理店を買収した事例です。台湾やアジア諸国で広告事業を拡大してきた同社は、シンガポールを拠点としたネットワークを取り込み、グローバル展開を加速しています。
ピーエイによるトラバースの子会社化(2015年)
岩手県や秋田県、青森県など北東北で求人広告代理事業を展開するトラバースを取り込むケース。地元に根差した企業をグループに加えることで、地域密着の求人広告サービスを強化する狙いです。広告代理店の地域戦略を拡張する動きとしても注目されました。
マクロミルによる東京サーベイ・リサーチの子会社化(2018年)
マーケティングリサーチ大手のマクロミルは、博報堂の子会社である東京サーベイ・リサーチを傘下に収めました。広告代理店とリサーチ会社の連携強化により、広告出稿効果の定量評価や消費者インサイトの分析を高度化し、クライアントへの提供価値を高める狙いがあります。
プロモーション特化型・イベント企画会社の買収
トライアンフコーポレーションによるパルスの子会社化(2018年)
自動車メーカー向けイベント企画を手がけるパルスを買収し、新規事業進出を狙った事例です。広告代理店がイベント運営機能を獲得することで、オンライン広告だけでなくオフラインイベントまで総合的なプロモーションを展開できるようになります。
ソーシャルワイヤーによるFind Modelの子会社化(2018年)
インスタグラムなどSNSのインフルエンサーを多数抱えるFind Modelを取り込むことで、企業の広報・PR活動とインフルエンサーマーケティングをワンストップで提供する戦略を打ち出しました。SNSの影響力が高まる中、インフルエンサー活用は広告代理店業務との親和性が高い領域です。
地方・地域戦略の強化事例
セーラー広告によるメディア・エーシー子会社化(2024年)
中国・四国地方を中心に展開するセーラー広告が、高知市の広告代理店メディア・エーシーを取り込み、高知エリアのシェア拡大を図る動きです。地方都市では大手広告代理店の進出が相対的に少ない一方、地域密着型代理店のブランド力は高いため、買収を通じて効率よくシェアを伸ばす戦略がとられています。
シャノンによる後藤ブランドの買収と譲渡(2022年~2024年)
ウェビナーなどのマーケティング支援を行うシャノンは、Web広告強化を目的に後藤ブランドを子会社化しましたが、その後、経営資源の集中を優先して譲渡する判断を下しました。広告代理店の中にはこうした再編・売却を短期間で行うケースもあり、デジタル化の進展に合わせた柔軟な対応が必要とされています。
事業譲渡や組織再編による動き
コネクトホールディングスのテナント事業取得(2011年)
広告代理店オゾンネットワークからSBYを取得後、さらにテナント事業を追加取得することで、SHIBUYA109における若年女性向けサービスの事業領域を確保しました。商業施設内でのプロモーション展開や商品販売へのアクセスを高める狙いがうかがえます。
セブンシーズ・テックワークスとピーアール・ライフ(2009年)
セブンシーズ・テックワークスは、親会社であるセブンシーズホールディングスの子会社で広告代理店事業を営むピーアール・ライフを子会社化。大規模プロジェクトマネジメントやソフトウエア開発を主力とするセブンシーズ・テックワークスが広告ビジネスのノウハウを取り込むことで、新たなビジネス展開を目指す狙いでした。
海外マーケットへの足がかり
ストライダーズによるインドネシアのCSK買収(2017年)
インドネシアの広告代理店PT.Citra Surya Komunikasiの第三者割当増資を引き受け、子会社化。インドネシアを中心にデジタル広告事業へ参入する動きで、経済成長が続く東南アジア市場を取り込む狙いといえます。
インテージHDによる協和企画の子会社化(2018年)
アサツー ディ・ケイ傘下だった協和企画を、インテージホールディングスがグループ会社を通じて買収した事例です。医学・医療分野に強みを持つ広告会社を獲得することで、ヘルスケア関連の領域を強化し、CRO(医薬品開発業務受託)やマーケティングリサーチとのシナジー創出を狙っています。
国内デジタル広告事業の再編
アイレップによるベトナムMOOREの子会社化(2014年)
アイレップはデジタルマーケティング分野で急成長しているベトナムの企業を取り込み、経済成長が著しいアジア市場での事業基盤を築きました。アフィリエイトサービスや自社メディア運営など、多角的なデジタル広告サービスを展開するMOOREのノウハウを活用できるのがポイントです。
ウィルグループによるクリエイティブバンク子会社化(2015年)
IT分野の広告を得意とするクリエイティブバンクを、ウィルグループが買収した事例です。人材派遣・紹介事業を主力とするウィルグループが広告宣伝領域を強化し、総合的な人材活用と広告マーケティング支援を提供する狙いがうかがえます。
エム・ピー・ホールディングスによるベストクリエイト子会社化(2011年)
携帯ショップなどの店舗を通じたアフィリエイトに強みを持つベストクリエイトの株式を取得し、業種別販売網の強化を図りました。携帯コンテンツやアプリ紹介といった急成長分野を取り込み、顧客基盤を拡大する戦略が背景にあります。
海外子会社の売却・撤退事例
オプトHDによる韓国子会社eMFORCEの譲渡(2019年)
オプトホールディングスは、かつて韓国で成長を見込んで買収したインターネット専業広告代理店eMFORCEを譲渡し、日本国内のマーケティング事業へ経営資源を集中させる判断を下しました。海外事業が期待どおりに伸びず、シナジーが生まれなかった場合、早期撤退が選択されることもあります。
オーエー・システム・プラザによるダイヤモンドエージェンシー売却(2009年)
同社はデジタルメディア・コンテンツ事業から撤退するため、総合広告代理店ダイヤモンドエージェンシーを他社に譲渡しました。IT・デジタルメディア・コンテンツ事業が思うように成果を上げられず、パソコン販売事業に集中するために選択と集中を図った事例です。
その他注目の大型買収
KYORITSUによる東京アドの子会社化(2024年)
広告代理店の東京アドを子会社化することで、DXプロモーションや電子書籍データ制作などの分野を拡大する動きが注目されます。通信販売広告を主力とする東京アドの顧客基盤と、KYORITSUが持つ情報デジタル事業を組み合わせ、新たな顧客体験を創出しようとしています。
GMOアドパートナーズによるサイバードのモバイル広告代理事業取得(2011年)
インターネット広告関連事業を手広く展開するGMOアドパートナーズが、モバイルコンテンツで実績のあるサイバードから広告代理事業を切り離して取得。スマートフォンが普及し始めた時期における、モバイル広告の需要拡大を見据えた動きといえます。
SHIFTによるクラッチのWebマーケティング事業買収(2020年)
ソフトウェアテスト支援などを行うSHIFTが、クラッチのWebマーケティング事業を新会社に承継させ、その全株式を取得しました。システム開発やテスト工程だけでなく、広告運用を含めたWebサイト制作やマーケティングを一体で担う戦略を強化し、クライアントへの総合サービス化を図っています。
KeyHolderによるallfuz子会社化(2019年)
広告企画・タレントキャスティング大手のallfuzを株式交換により子会社化し、名古屋を拠点とするアイドルグループ「SKE48」などのエンターテインメント事業と融合を図る動きです。アイドルやアーティストのコンテンツを活用するプロモーションと広告代理店機能のシナジーが期待されます。
RVHによるスカイリンク子会社化(2015年)
ソーシャルゲーム開発会社であるスカイリンクを株式交換により完全子会社化し、ゲームアプリ市場や海外展開を見据えた動きを取りました。大手広告代理店などとの取り扱い実績がある点が買収の決め手となったと考えられます。
広告代理店M&Aの成功要因と今後の展望
1. 明確な戦略目標と事業コンセプト
M&Aが成功するためには、統合後の事業戦略が明確であることが重要です。広告代理店として「どの顧客層を狙い、どんなサービスを提供していくのか」を定義づけ、それに合致する企業の買収や、事業売却を進める必要があります。
2. 組織文化の統合と人材活用
広告代理店のビジネスは、人材の創造力とコミュニケーション力が成功の鍵を握ります。買収先企業の社員が持つ独自のノウハウや企業文化を尊重しつつ、親会社のリソースやネットワークをうまく活用するには、丁寧なコミュニケーションと合理的な組織設計が欠かせません。
3. 技術的シナジーと顧客基盤の拡張
デジタルマーケティングやAIを活用した分析ツールなど、最先端技術を持つ企業の買収は広告代理店にとって大きな武器になります。また、海外拠点や特定業界に強い顧客基盤を獲得することは、既存ビジネスを加速させる上で不可欠です。
4. 適切なリスク管理とEXIT戦略
期待通りの成果が得られない場合や経営環境が変化した場合には、早期の撤退や事業譲渡がベストな判断となるケースもあります。M&Aを行う際には、買収だけでなく、必要に応じた売却・解散などを含むEXIT戦略をあらかじめ設計しておくことが望ましいでしょう。
まとめ
広告代理店業界におけるM&Aは、単なる企業規模の拡大だけでなく、デジタルシフトや海外展開、高度専門人材の確保など、さまざまな目的を伴って活発化しています。また投資ファンドが登場することで、経営効率や株主還元の観点からも広告代理店が再評価される機会が増えています。さらに、事業の選択と集中を繰り返しながら、短期間のうちに買収と売却を行う動きも見られるようになりました。
従来のマスメディア中心の広告に加えて、Web広告、SNS運用、AI分析、イベント企画など多彩な領域が求められる今、広告代理店は「総合力」と「専門性」の両面を高める必要があります。そのための有力な手段がM&Aです。今後も国内外でさらなる再編が進むと考えられ、業界の勢力地図は大きく変動していくでしょう。広告代理店にとって、M&Aをどう生かすかが生き残りの鍵となる時代がすでに訪れています。
本記事でご紹介した事例のように、買収先企業が持つ特化型サービスや先進技術を取り込むことで、企業価値の向上や事業拡大が可能になる一方、統合後のマネジメントに課題を抱えるケースも少なくありません。広告主のニーズは今後も多様化し続けるため、その変化に対応できる柔軟な組織と戦略の構築こそが、広告代理店M&Aの最大の成功要因といえるでしょう。

株式会社M&A Do 代表取締役
M&Aシニアエキスパート・相続診断士
東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後独立。これまで製造業・工事業を中心に友好的なM&Aを支援。また父親が精密板金加工業、祖父が蕎麦屋、叔父が歯科クリニックを経営し、現在は父親の精密板金加工業にも社外取締役として従事。